障害者虐待防止における事業所のあり方 和歌山県福祉事業団 杉 谷 社会福祉法人の社会的役割 • 社会福祉法人は、社会福祉事業の主たる担い 手である。(社会福祉法第24条経営の原則) • 地域の福祉課題を解決し、必要とされる支援 サービスを想像するための地域のすべての人々 の財産・資源(社会の公器) • 人と社会の変革(非営利組織の経営) • 制度の谷間にある福祉課題を解決するために 必要なサービスの創造・支援モデルの発信とい う先駆的・開拓的役割 T施設における利用者に対する人権侵害 • 利用者:大半は重度知的障害。自分の手を噛ん で傷つける、他人をたたく、物を壊すなどの対応 の難しい強度行動障害の人も多い。 • 幹部職員の発言:「犬や猫でもトイレのしつけを すればできるようになる」「利用者は動物的な感 覚を持っていて、どの職員が思いのままになる かならないかわかる」 • 職員の対応:他の利用者や職員に乱暴したり指 示に従わなかったりした障害者を拳や平手でた たく他、けることもあった。(朝日新聞記事より) 監査結果:利用者処遇に関すること ・利用者の大腿骨頸部骨折事案及び虚偽報告 利用者がコーヒーカップをわざと割ったことから、職 員が怒り、逃げた利用者を職員が追いかけ、捕まえて 故意に押し倒した結果、大腿骨頸部を骨折させる。 ・利用者への殴打事案及虚偽報告 食堂でパニックを起こした利用者を制止するために、 施設長が利用者の頭を殴打した。 ・夜間、利用者が睡眠をとらず頻繁に部屋から出てく るため、部屋に施錠し、利用者を閉じ込めていた。 ・その他、職員からの事情聴取によって、職員にばら つきはあるものの日常的に利用者に対する体罰等が 行われていた。 監査結果:法人運営について *判明した事実 1、理事会は年数回程度、予算及び決算などの会計事 項を審議するのみで、施設の運営状況及び利用者支援 については何ら掌握しておらず、理事会は、内部牽制作 用を発揮するというその機能及び役割を果たしていない。 2、施設長理事は、理事会や各理事に対し、施設の運 営状況についての報告や情報提供を行っておらず、施 設の管理運営責任者としての理事の役割を果たしてい ない。また、発生した事故等についても、意図的に隠蔽 した形跡がうかがえる。 3、理事長及び各理事は、重大な人権侵害事案が発生 している状況下においても、再発防止策等の対応を怠っ ており、その責務を果たしていない。 4、業務運営及び理事の業務執行状況に関する監査は 全く行われておらず、監事による監査機能は十分には 発揮されていない。 監査結果:施設運営について 1.特に施設長は、施設運営にあたっての理念や方針を持っ て、適切な運営に努めなければならないが、むしろ施設長等 幹部職員は、力による制止や体罰等を誘導、容認する態度 をとってきており、自らも体罰等を行うなど、利用者への人権 侵害が組織的、日常的に行われる状況を主導的に招いてい た。 2.また、一般職員においても、利用者に対して適切な支援 を行うための専門的な知識や技術を習得する努力を怠って いた。また、施設運営にあたっての職員の役割分担や指揮 命令系統、責任の所在等が不明確であり、職員の連携や情 報の共有化も図られていないため、組織的な施設運営が行 われていなかった。 3.「利用者の権利擁護」に関する国の法令や通知等が職員 に周知徹底されていないため、法令等で規定されている記録 や書類が一部整備されていないため、適切な施設運営がな されているとは言い難い状況である。 人権侵害に至った背景 • 組織的容認 • 開設当時からの重度・対応困難な障害者の 受け入れ • 専門的知識・未熟な支援技術、人権意識の 希薄さ • 自浄機能の欠落 T苑におけるガバナンス、組織運営の課題 ・ガバナンスに関して *理念・使命・ビジョンの欠如 *長期的目標(運営方針)の欠如 *理事会・評議員会の形骸化、組織としての 牽引体制の欠如 ・コンプライアンスの欠如 *組織的な事業所運営の問題(役割分担や指揮命令系統、 責任の所在等が不明確・職員の連携や情報の共有化が なされていない) *苦情解決・説明責任の問題(特に家族に対する) *関係機関との連携(連絡調整・問題解決等)の欠如 T苑におけるガバナンス、組織運営の課題 ・利用者支援・人材育成に関して *組織的計画的な採用、育成がなされていない。 *特に自閉症についての障害特性、行動障害の理解 と支援についての専門性の欠如 *利用者支援におけるPDCAサイクルの欠如 *利用者支援についての組織的運営の欠如(職員間 の情報の共有化、連携、方針決定、役割分担等) *利用者に対する人権意識や支援技術の欠如 *スーパービジョンの欠如 *利用者支援における関係機関等との連携の欠如 改善に向けた取り組み • 責任の明確化と対応 • 障害福祉に携わる人間として基本に立ち返り、 利用者としての尊厳を大切にした支援を行う ための取り組みをする。 • 職員の意識の変化を促す。 法人の運営基本方針 冊子は何のためにあるのか 職員として 理解・認識しておかなければならない ①法人の根幹をなす事項 ②基本的な事項 をまとめたもの ※認識=物事を見分け、本質を理解し、正しく判断すること 可能性、はぐくむ 障害者スポーツの父(パラリンピックの生みの親)と言われる イギリス人医師「ルートヴィヒ・グットマン博士」の言葉から…。 「失われたものを数えるな、残されたものを 最大限に生かせ!」 この言葉は、イギリスの国立戦傷脊髄損傷者病院(ストーク・マンデビル病院)の院長 であったL.グットマン博士が、同病院の戦傷者の治療にスポーツを積極的に採用し、 このとき戦傷者達に与えた言葉である。障害のある人々をスポーツを通じて励ます言 葉として、現在も世界中で語り継がれている。 【パラリンピックの原点】 1948年7月28日(文献によってはロンドンオリンピック の開会式の日とあるため29日の開催だった可能性も ある)、グットマン博士はロンドンオリンピックにあわせ てストーク・マンデビル病院内でアーチェリー大会を開 催。これがパラリンピックの原点である。 支援の根拠 ~法令に基づき私たちは支援を行っている~ 1.日本国憲法 ↓ 2.国連=国際条約 ↓ 3.国=①法律、②政令・省令 等 ↓ 4.地方公共団体=①条例、②規則 等 沿革・歴史(国:法令・通知等) 昭和編 昭和21年 昭和22年 昭和24年 昭和26年 昭和35年 昭和38年 昭和41年 昭和45年 昭和46年 昭和54年 日本国憲法 第25条(生存権) 25条(生存権) すべて国民は、健康で文化的な最低限度の 日本国憲法 生活を営む権利を有する。 児童福祉法 身体障害者福祉法 社会福祉事業法(現社会福祉法) 精神薄弱者福祉法(現知的障害者福祉法) 老人福祉法 我が国最初のコロニーを建設(厚生省) 心身障害者対策基本法(現障害者基本法) 社会福祉事業団設立及び運営の基準(46通知) 養護学校義務化 平成編 平成元年 高齢者保健福祉推進10ヵ年戦略 (ゴールドプラン) 平成 2 年 福祉8法改正 平成 7 年 障害者プラン~ノーマライゼーション7ヵ年戦略~ 平成11年 社会福祉基礎構造改革 平成12年 介護保険法・児童虐待防止法 平成14年 46通知の取扱通知・新障害者プラン 平成15年 契約制度(自己選択・自己決定) 支援費制度(代理受領) ⇒利用者がお客様になった時(革命) 平成15年 地方自治法の改正 ⇒指定管理者制度の創設(革命) 平成16年 発達障害者支援法 平成18年 障害者自立支援法(現障害者総合支援法) 高齢者虐待防止法 指定管理者制度施行(和歌山県施行) ※管理委託事業者から指定管理事業者へ 平成23年 県立から事業団立へ(8施設移譲) 平成24年 障害者虐待防止法 『理 念(目 的)』 「普通(ノーマライゼーション)の社会づく り」を目指す。 = 「障害のある人も無い人も又、高齢者も子供も、共に地域で生 活し、そして共に地域活動に参加できる社会が普通の社会 である。」という社会福祉諸法の理念の実現 普通の暮らし 『支援の基本(テーマ)』 よい支援とは よい環境で よい知識・技術による よいサービスを提供することである よい支援とは まずは、 「安心・安全」の担保が第一!! そして、 利用者の方の信頼を得る よい環境とは 利用者の方にとって、施設は家庭 『うるおい』や『いやし』が必要 華のある生活は素敵♡ よい知識・技術とは 我々、職員が専門職として 持っておかなければならないもの 1.知識とは ①事業団の根幹 (理念(目的)・支援のテーマ・制度・歴史 等) ②障害特性 ③個別支援計画 2.技術とは ①知識の実践 ②実践の検証 虐待防止のための体制整備 • 明確な法人理念・ミッション・ビジョン・運営方針 が明確であること。 • 人的資源の管理・開発が組織的になされている こと。 • 利用者のニーズベースに基づいた個別支援計 画がなされていること。 • 職員倫理綱領の作成などの具体的な取り組み。 • 運営規程への定めと職員への周知 • 各種会議の運営。 虐待防止のための体制整備 • • • • • • 支援や援助マニュアルの作成 ヒヤリハット体験を活かす。 苦情解決委員の活用。 虐待防止責任者の設置と体制整備 倫理綱領・行動規範・掲示物の周知徹底 PDCAサイクルの活用 人権擁護の取り組み 倫理綱領の作成 業務の振り返りチェックシートの活用 「ヒヤリハット報告書」「事故報告書」の活用 それぞれの取り組みをPDCAサイクルで回す ことが重要。 • 基本は個別支援 • • • • 利用者からの声 ・どうして、勝手に私のことを決めるの? ・どうして、子供のように扱うの? ・どうして、名前を呼び捨てにするの? ・どうして、話をちゃんと聞いてくれないの? ・どうして、上から目線になるの? ・どうして、この仕事を選んだの? 僕たち、私たちは、職員がすること、思うことを見てどう するか考える。職員はちゃんとしてほしい、混乱するよ うなことはしないでほしい。 「私たちのことを私たち抜きで決めないで!」 不適切な支援を防ぐために チームワークの重要性 不適切な行為を指摘できない関係性 チームワークのレベル レベル3:創発的なコラボレーション 知的な相互刺激、情報の練り上げ、創造性 レベル2:役割を超えた活動 役割外行動、新規行動、柔軟性 レベル1:円滑な連携、協力 報連相、情報共有、人間関係
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