(A1-2) 公益財団法人山口大学後援財団 「教員・研究者による研究

(A1-2)
公益財団法人山口大学後援財団
「教員・研究者による研究プロジェクトに対する助成事業」 [成果報告書]
平成26年 5月29日
1.研究代表者
所属 教育学部 理科教室
職名 准教授
ふりがな しばた まさる
氏名 柴田 勝
2.研究課題名
植物の生体内エネルギーの流束制御
3.研究実施の成果(本財団の助成がもたらした効果についても記載してください。)
植物センサーである葉緑体の光合成電子伝達に関与する photoactive plastoquinone (PQ)のみを測定するこ
とで光反応に関与する PQ redox の正確な値を求め、クロロフィル蛍光との比較から、葉緑体の電子伝達状
態について調べることを目的に実験を行った。
PQ の最大酸化条件および最大還元条件での光照射条件を設定するために、照射光強度と光照射時間による
阻害剤処理 有・無での PQ redox を測定した。はじめに、最大酸化条件における PQredox を求めるために、
光合成電子伝達の主なフラックス 3 種(linear electron flow, cyclic electron flow, stromal flux)による PQ の還元
を停止させ、PQ を最大酸化させることで、葉緑体電子伝達鎖の各経路阻害による PQ redox について調べた。
その結果、最大 photoactive PQ 量を求めるために DCMU, TTP, MV 処理を行った葉に 50 秒の光照射を行うこ
とで達成できることが分かった。次に、最大還元量を求めるために、強光下において PQ の調整を行った。
得られたな最大酸化条件と最大還元条件において PQ 類の測定を行い、その差から photoactive PQ の定量を行
った。その結果、Kruk ら(2009)に報告された方法が、PQ 最大酸化が不十分であり、今回開発した方法がより
正確な photoactive PQ を求めることができることが分かった。
上記方法を用いて、photoactive PQ 量を測定し、qL の変化に対する photoactive PQ のみのレドックス状態と
の関係性を調べた。PQ redox とクロロフィル蛍光から求めることができるパラメータ(1-qL)を調べるため
に、Chl ケイ光測定を行い、上記の photoactive PQ 測定法による PQ redox を測定した。
光照射による Chl 蛍光パラメータ 1-qL は、
photoactive PQredox=0.2~0.8 において直線関係を示し、
その後、
飽和する曲線が得られた。反応中心のエネルギー移動を伴う Lake model により得られる蛍光パラメータ
(1-qL) (Miyake PCP 2009)は、光化学系 II の第一次電子受容体である QA の redox を示しており、光強度の
増加と共に 1-qL は飽和することが知られている。今回の研究により、PQ redox は光強度が 0 から 100(mol
photon/m2/sec)の範囲において増加し、100-200(mol photon/m2/sec)ではほとんど増加せず、200-300(mol
photon/m2/sec)では更に増加する曲線を示した。これは、電極を用いることで Robyn E. Cleland,(1998)による求
められた曲線と矛盾なかった。
現在まで、直接的に測定された PQ は non-photoactivePQ を含んでいたことから、より正確な値を得るため
に photoactive quinones と Chl 蛍光との関係を調べた。その結果、光強度とともに PQ は還元されていた。同様
に PSII の QA の割合を示す 1-qP および PQ の酸化還元を示す 1-qL も同様な曲線を示した。PQredox と 1-qP
では直線関係を示しており、これは、吉田らにより報告されている PQ redox vs 1-qP との Arabidopsis による
データと一致している。
しかし、
彼らは、
暗中での PQ を最大酸化 PQ だとしていることから、
実際の photoactive
qunone 量の過小評価であることが分かった。
4.研究課題の今後の展望
葉緑体呼吸と呼ばれている暗中での酸化還元の変化は、plastid terminal oxidase (PTOX)による酸素への電子還
元が関与していることが知られている。しかし、その生理的な機能については良くわかっていない。暗中での葉
緑体生理を調べるために、光のない状態における photoactive PQ redox と PTOX との関係について明らかにし、
葉緑体呼吸の生理的な意義の解明を行う。