電力中央研究所報告 電 力 輸 送 送電線雷事故率の予測精度向上に関する研究 (その 2) -2 並列アークホーンの同時フラッシオーバ特性におけるギャップ長依存性- キーワード:同時フラッシオーバ,アークホーン,短波尾雷インパルス電圧, 送電線,雷 背 報告書番号:H13008 景 154 kV 以下の電圧階級の送電線への避雷装置の普及に伴い、正確な送電線雷事故率 の予測が望まれている。しかし、LORP(注 1)による予測計算結果と実際の雷事故率(注 2) に乖離があることがある。これは、多相事故の予測計算に超高圧以上の送電線と同じ計 算式用いていることが原因である。また、当該電圧階級のアークホーンはギャップ長が 短いため、各相が同時にフラッシオーバ(以下、F.O.)する可能性が大きいと考えられる が、現行の計算式では、その様相を正確に模擬出来ない。そこで前報 (注 3) では、ギャ ップ長 798 mm の 2 組のアークホーン(77 kV 送電線を想定)の同時 F.O.特性とその発 生条件を求めた。この発生条件を他の電圧階級や 3 相以上の F.O.現象に適用範囲を広げ るには、同時 F.O.現象のギャップ長依存性や同時 F.O.の過程を解明する必要がある。 目 的 雷事故率の予測計算精度向上のため、2 組のアークホーンに短波尾雷インパルス電圧(注 4) を印加した際の同時 F.O.現象のアークホーンのギャップ長依存性を明らかにする。 主な成果 当所塩原実験場の衝撃電圧発生装置を用いて、アークホーンのギャップ長が 502 mm, 798 mm, 1200 mm(注 5) の場合について、ギャップ長が同じ 2 組のアークホーン(図 1) に短波尾雷インパルス電圧を印加した際の同時 F.O.率(図 2)を取得した。また、イメ ージコンバータカメラによる放電進展様相の観測および雷観測用高速度ビデオによる 両方のギャップのリーダ(注 6)進展長測定を行った。この結果、以下のことがわかった。 1. 同時 F.O.特性のアークホーンのギャップ長依存性 過電圧率(V:電圧波高値, V50:50% F.O.電圧)V/V50=1.0 では同時 F.O.が発生せず、 V/V50=1.5 で同時 F.O.率が 80%となった。V/V50=1.0~1.5 では同時 F.O.率は V/V50 に概ね 比例する傾向がある。この同時 F.O.率と V/V50 の関係は、アークホーンのギャップ長と 極性に依らず同様となることを明らかにした。 2. リーダ進展様相とリーダ進展長差に基づく同時 F.O.条件 電圧印加と撮影タイミングの同期により、2 組のアークホーンのリーダ進展様相を観 測できる系を構築し、電圧・電流とリーダ進展の同時観測を行った(図 3)。この結果、 両ギャップのリーダ進展長差L とギャップ長 D の比で、同時 F.O.の発生と片側 F.O.の 発生を分類すると、その境界はL/D = 0.2~0.3 であることを明らかにした(図 4)。 以上により、77-154 kV 送電線の多相事故の予測計算に必要となる、各相のアーク ホーンのリーダ進展長差に基づく多相同時 F.O.条件が得られた。 注 1) Lightning Outage Rate Program(送電線雷事故率予測計算プログラム) 注 2) 相原 他, 電力中央研究所報告, T01006 (2001) 注 3) 田中 他, 電力中央研究所報告, H12012 (2013) 注 4) 鉄塔雷撃時のアークホーン間電圧波形は、塔脚からの電圧の負反射により短波尾雷インパルス電圧 波形となる。そのため、送電線雷事故率計算には短波尾雷インパルス電圧に対する放電特性が必要 となる。 注 5) 502 mm と 798 mm は 77 kV 送電系統の最短および最長アークホーン間隔に対応する。1200 mm は 154 kV 送電系統のアークホーン間隔に対応する。 注 6) 長ギャップ放電の前駆現象の一つ。ギャップ間がフラッシオーバする前にリーダが橋絡する。 1.0 高圧印加線 ( 鉄塔のアーム側 ) アークホーン 同時フラッシオーバ率 0.9 アークホーン ギャップ 1 798 mm ギャップ 2 798 mm ギャップ長・極性に依らず、V/V50 = 1.0 ∼ 1.5 では 同時フラッシオーバ率が過電圧率に比例する傾向 0.8 0.7 0.6 0.5 0.4 1200 mm(正極性) 1200 mm(負極性) 798 mm(正極性) 798 mm(負極性) 502 mm(正極性) 502 mm(負極性) 0.3 0.2 クレビス碍子 クレビス碍子 0.1 0.0 接地線 ( 鉄塔の電力線側 ) 1.0 1.1 1.3 1.4 1.5 1.6 1.7 1.8 過電圧率 V/V50 図 1 2 組のアークホーンの配置 (ギャップ長 798 mm の例) 図 2 同時 F.O.率 (1) 1.22 ∼ 1.32 µs ギャップがフラッシオーバ 1.2 ギャップ 1 (2) 1.32 ∼ 1.42 µs ギャップ 2 ギャップ 1 のリーダの先端位置 リーダ アークホーン先端からリーダが進展する (a) アークホーン間電圧 (3) 1.42 ∼ 1.52 µs (4) 1.52 ∼ 1.62 µs ギャップ 1 のリーダが先に橋絡する (b) 電流 ( フラッシオーバ時を拡大 ) リーダ進展長に差がある ギャップ 2 のリーダが遅れて橋絡する (c) イメージコンバータカメラの撮影結果 電流波形の点線で示された区間(1)~(4)は、それぞれ、イメージコンバータカメラの撮影タイミング(1)~(4)に対応する。 図 3 同時 F.O.時の放電進展様相(ギャップ長 798 mm、正極性、過電圧率 1.34) L1 : ギャップ 1 の リーダ進展長 L2 : ギャップ 2 の リーダ進展長 D : ギャップ長 ギャップ 2 ギャップ 1 ∆L = | L1 – L2 | : 両方のギャップのリーダ進展長差 ∆L / D : ギャップ長で規格化したリーダ進展長差 規格化した最大リーダ進展長差 ∆L/D 1 片側フラッシオーバ 同時フラッシオーバ 0.9 0.8 同時フラッシオーバと片側フラッシオーバの 境界は ∆L / D = 0.2 ∼ 0.3 0.7 0.6 0.5 0.4 0.3 0.2 0.1 0 1.0 1.1 1.2 1.3 1.4 1.5 1.6 1.7 過電圧率 V/V50 図 4 ギャップ長で規格化したリーダ進展長差(正負極性, 全ギャップ長の結果を合わせてプロット) 研究担当者 田中 問い合わせ先 電力中央研究所 電力技術研究所 研究管理担当スタッフ Tel. 046-856-2121(代) E-mail : [email protected] 大樹(電力技術研究所 雷・電磁環境領域) 報告書の本冊(PDF 版)は電中研ホームページ http://criepi.denken.or.jp/ よりダウンロード可能です。 [非売品・無断転載を禁じる] © 2014 CRIEPI 平成26年5月発行 13-015
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