干し上げによるカビ臭抑制効果に関する研究

調査研究 1-4
干し上げによるカビ臭抑制効果に関する研究
Research on 2-MIB suppression effect by bed desiccation
研究第二部 主任研究員 梶
山 泰 弘
藤 源
研究第二部長 加 藤 宏 基
企画部 技術参与 齋
渡良瀬貯水池では、水道用水の水源として運用開始した平成 2 年にカビ臭による水質障害が発生している。
カビ臭の原因としては、藍藻類の Phormidium による 2-MIB(2- メチルイソボルネオール)が考えられている。
渡良瀬貯水池では、カビ臭抑制対策として干し上げ等の水質保全対策を実施してきた。本稿では、干し上げ
によるカビ臭抑制効果について、その検討状況を報告する。
キーワード:Phormidium,2-MIB,干し上げ
The Watarase reservoir has been suffering from water problems of musty odor in drinking water since its
commencement in 1990. It is caused by 2-MIB(2-methylisoborneol) produced by Phormidium in cyanophyceae and
some water improvement measures such as water level drawdown and bed desiccation have been being made on the
Watarase Reservoir. This paper reports 2-MIB suppression effect of bed desiccation.
Key words:Phormidium, 2-MIB, desiccation
Phormidiumが原因と考えられるカビ臭(2-MIB)によっ
1.はじめに
て下流の浄水場で異臭味障害が発生した。
湖沼・ダム貯水池の富栄養化等による水質の悪化に
そこで、貯水池の水質を改善するため、ヨシ原浄化
より、水道水の異臭味障害が発生し、社会的な問題と
施設や谷田川分離施設など様々な水質改善対策を実施
なっている。
している。
水道水における異臭味障害としては、2-メチルイ
さらに、渡良瀬貯水池ではカビ臭対策の一つとして
ソボルネオール(2-MIB)やジオスミンによるカビ臭
湖沼・ため池等の伝統的な水質改善対策である「干し
が報告されており、水道水質基準では 2-MIB、ジオ
上げ」の試行を平成 9 年から開始し、試行結果を踏ま
スミンともに 10ng/L以下という基準値が設定されて
えて平成 16 年から干し上げを実施しており、カビ臭
いる。2-MIBを発生させる生物としては、藍藻類の
の発生が抑制されている。干し上げは湖沼・ため池等
PhormidiumやOscillatoria、放線菌等が確認されている。
において貯水池内の水位を低下させ、湖底を太陽の光
国内のカビ臭等による異臭味被害人口は平成2年度
や空気に触れさせることによって水質改善を図る取り
のピーク時に 2,000 万人を超えた。近年は高度処理の
組みであるが、カビ臭抑制のメカニズムについては不
導入等によって改善傾向にあるものの、平成 22 年度
明な部分が多い。
以上のような背景を踏まえ、本稿は干し上げによる
においても異臭味被害人口は 218 万人にも上ってい
1)
藍藻類Phormidiumの増殖抑制とカビ臭物質 2-MIBの抑
渡良瀬貯水池(谷中湖)は、茨城県、栃木県、群馬
制効果についての検討を行ったものである。
る 。
なお、本稿では干し上げ時の水位低下操作のうち、
県、埼玉県の 4 県の県境にまたがる渡良瀬遊水地(面
2
2
特に貯水位を最低水位(Y.P.+8.5m)以下まで下げた
積約 33km )の中にある第一調節池の南側 4.5km を
3
掘削した総貯水容量 2,640 万m の多目的貯水池であ
ことを「干し上げ」とし、干し上げ面積の少ない「水
り、洪水調節、都市用水の供給、流水の正常な機能の
位低下」と区別している。
維持を目的として国土交通省が管理している。この
渡良瀬貯水池では、運用を開始した平成 2 年の夏期に
29
2.渡良瀬貯水池の干し上げの実施状況
䋱
䋲
3
䋴
16
15
渡良瀬貯水池の水位低下・干し上げは平成 9 年か
⾂᳓૏䋨Y.P.m䋩
14
ら平成 15 年までの試行期間を経て、平成 16 年以降
はY.P.+8.3mまで水位を低下させた運用を行ってい
る(表-1)
。現在は平成 19 年度に定められた「干し上
13
12
11
10
ᐔᚑ㪉㪈ᐕ
9
げ実施要領(案)」に基づいた水位運用が行われている。
ᐔᚑ㪉㪉ᐕ
ᐔᚑ㪉㪊ᐕ
8
干し上げの基本運用ルールは以下のとおりである。
7
干し上げ期間の水位運用図を図-1、干し上げ時の貯
ᐓ䈚਄䈕ㆇ↪⸘↹
1/1 1/15 1/29 2/12 2/26 3/11 3/25 4/8 4/22 5/6 5/20 6/3 6/17 7/1 7/15 7/29
図-1 干し上げ時の貯水池の水位運用
水池内の状況を写真-1、写真-2 に示す。
①水位低下期
1 月中旬(標準日:1 月 16 日)から、水位(通常は
常時満水位Y.P.+15.0 m)を低下させ、2 月上旬(標準
日:2 月 10 日)に最低水位Y.P.+8.5mに移行する。
②最低水位期
最低水位Y.P.+8.5mに到達した 2 月上旬(標準日:2
月 10 日)から、2 月下旬(標準日:2 月 24 日)まで最
低水位Y.P.+8.5mを維持する。
2 月下旬(標準日:2 月 25 日)から水位を低下させ、
3 月上旬(標準日:3 月 1 日)に干し上げ水位Y.P.+8.3m
に移行する。
写真-1 干し上げ状況(H18 年:Y.P.+8.3m 陸化率 80%)
③干し上げ期
3 月上旬(標準日:3 月 1 日)から 3 月下旬(標準日:
3 月 25 日)までは、干し上げ水位Y.P.+8.3mを維持し、
貯水池底泥を干し上げる。
④水位回復期
3 月 下 旬( 標 準 日:3 月 26 日 )か ら 水 位 を 回 復 さ
せ、5 月上旬(標準日:5 月 1 日)までに常時満水位
YP.+15.0mに移行する。
表-1 渡良瀬貯水池における水質改善対策実施状況
஻
ᐕ
ᐓߒ਄ߍታᣉ⁁ᴫ
ᦨૐ᳓૏
㧔Y.P.㨙㧕
⠨
⼱↰Ꮉ
ಽ㔌ᣉ⸳
࡛ࠪේᵺൻ㕙Ⓧ
㧔㨔㨍)
0
H9
ᐓߒ਄ߍ㧔Y.P.8.5mએਅ㧕
8.5
ή
H10
㧙
12.2
‫ޖ‬
0
H11
㧙
10.5
᦭
20
H12
᳓૏ૐਅ㧔Y.P.8.5m㨪9.0m㧕
9.0
‫ޖ‬
20
H13
᳓૏ૐਅ㧔Y.P.8.5m㨪9.0m㧕
9.0
‫ޖ‬
20
H14
᳓૏ૐਅ㧔Y.P.8.5m㨪9.0m㧕
9.0
‫ޖ‬
40
H15
᳓૏ૐਅ㧔Y.P.8.5m㨪9.0m㧕
9.0
‫ޖ‬
40
H16
ᐓߒ਄ߍ㧔Y.P.8.5mએਅ㧕
8.3
‫ޖ‬
40
H17
ᐓߒ਄ߍ㧔Y.P.8.5mએਅ㧕
8.3
‫ޖ‬
40
H18
ᐓߒ਄ߍ㧔Y.P.8.5mએਅ㧕
8.3
‫ޖ‬
40
H19
ᐓߒ਄ߍ㧔Y.P.8.5mએਅ㧕
8.3
‫ޖ‬
40
H20
ᐓߒ਄ߍ㧔Y.P.8.5mએਅ㧕
8.3
‫ޖ‬
40
H21
ᐓߒ਄ߍ㧔Y.P.8.5mએਅ㧕
8.3
‫ޖ‬
40
H22
ᐓߒ਄ߍ㧔Y.P.8.5mએਅ㧕
8.2
‫ޖ‬
40
H23
ᐓߒ਄ߍ㧔Y.P.8.5mએਅ㧕
8.2
‫ޖ‬
40
写真-2 干し上げ状況(H19 年:干し上げ 40 日目)
3.渡良瀬貯水池および周辺河川の水質
渡良瀬貯水池と周辺河川の渡良瀬川(河川B類型)
及び谷田川(河川C類型)の定期水質観測地点を図-2、
水質の経年変化を図-3、図-4 に示す。
なお、渡良瀬貯水池はデータ整理期間(平成 2 年か
ら平成 23 年)については環境基準の類型指定を受け
ていなかったが、平成 25 年に湖沼の環境基準の類型
指定(湖沼A類型、Ⅲ類型)を受けている。
̪*㨪*ߩᐓߒ਄ߍߪ⹜㛎ㆇ↪
30
T-P平均値(mg/L)
0.7
0.5
0.4
0.3
0.2
0.1
2-MIB(ng/L)
0
H2
H4
3180
800
700
600
500
400
300
200
100
0
H2
H6
H8
H4
H10
H12
H14
H16
H18
H20
H22 (年)
H12
H14
H16
H18
H20
H22 (年)
2100
1000
H6
H8
H10
Chl-a(μg/L)
600
図-2 渡良瀬貯水池及び周辺河川の定期水質観測地点
渡良瀬貯水池(南ブロック)
渡良瀬川(野渡橋)
谷田川
※谷田川の調査地点 H2~H14:下宮橋、H15~H23:谷田川橋
0.6
渡良瀬貯水池南ブロック 年平均
500
400
300
200
100
0
H2
BOD75%値をみると、
渡良瀬川は環境基準(3mg/L)
H4
H6
H8
H10
H12
H14
H16
H18
H20
H22 (年)
図-4 渡良瀬貯水池及び周辺河川の水質状況(2)
を概ね満たし、谷田川は環境基準(5mg/L)を超過し
ているが改善傾向である。貯水池のBOD値は両河川
4.渡良瀬貯水池の 2-MIB 発生状況
の中間程度であり、やや改善傾向である。河川の栄養
塩は、T-N、T-Pとも谷田川が高く、特にT-Pは 0.3 ~
平 成 9 年 か ら 平 成 23 年 ま で の 渡 良 瀬 貯 水 池 の
0.6mg/Lと高い値を示している。貯水池は、T-Nが平
2-MIB発生状況を図-5 に示す。同図から干し上げ・水
均 1.4mg/L、T-Pが平均 0.10mg/Lであり、ほぼ横ば
位低下未実施の場合は、3 月中旬頃から 2-MIB濃度の
い傾向である。貯水池のT-Pの値は、OECDの栄養等
上昇が確認されており、2-MIBの値も非常に高い。一
級では富栄養
(0.035 ~ 0.1mg/L)
に分類される。また、
方、干し上げ・水位低下操作を行った場合は 5 月~ 7
貯水池のクロロフィルaは年平均値が 32 ~ 104 μg/L
月頃に 2-MIB濃度が上昇しており、干し上げ・水位低
であり、OECDの栄養等級では富栄養(25 μg/L以上)
下を行った場合の方が 2-MIBの上昇時期に遅れが見ら
に分類される。
れる。また、水位低下よりも干し上げを行った場合の
方が 2-MIB濃度が低くなる傾向も見られる。
1000
ᷰ⦟ἑ⾂᳓ᳰ(ධ䍪䍼䍹䍍䍖㪀
ᷰ⦟ἑᎹ(㊁ᷰᯅ㪀
⼱↰Ꮉ
̪⼱↰Ꮉ䈱⺞ᩏ࿾ὐ H2䌾H14䋺ਅችᯅ䇮H15䌾H23䋺⼱↰Ꮉᯅ
12
10
6
4
2
0
H2
H4
H6
H8
H10
H12
H14
H16
H18
H20
BOD75%୯(mg/L)
᳓૏ૐਅᤨ
800
ᐓ䈚਄䈕䊶᳓૏ૐਅᧂታᣉ
600
500
400
300
H22 (ᐕ㪀
200
14
12
100
10
0
3᦬
8
6
4᦬
5᦬
6᦬
7᦬
8᦬
図-5 渡良瀬貯水池における 2-MIB発生状況(平成 9 ~ 23 年)
4
2
0
H2
T-Nᐔဋ୯(mg/L)
ᐓ䈚਄䈕ታᣉᤨ
900
700
8
2-MIB(ng/L)
COD75%୯(mg/L)
14
H4
H6
H8
H10
H12
H14
H16
H18
H20
図-6 は、Phormidium細胞数と 2-MIBの関係を干し上
H22 (ᐕ㪀
8
7
6
5
4
3
2
1
0
げ実施の有無および季節別に整理したものである。春
期(4 ~ 6 月)は両者の相関が比較的高いが、夏期(7
~ 8 月)は相関が低い傾向があった。このことについ
ては、水温等の条件による 2-MIB生成能の違いや出現
H2
H4
H6
H8
H10
H12
H14
H16
H18
H20
H22 (ᐕ㪀
するPhormidiumの種類が異なるためであることが指摘
されている 2)。
図-3 渡良瀬貯水池及び周辺河川の水質状況(1)
また、干し上げを行っていない期間(H10 ~ H15)
31
旬のPhormidium細胞数が大きく減少していた。
は 干 し 上 げ 実 施 期 間(H9、H16 ~ H23)よ り も、
Phormidium細胞数、2-MIBが高くなっており、干し上
1000000
䊐䉤䊦䊚䊂䉞䉡䊛⚦⢩ᢙ(cells/mL)
げ実施によってPhormidium細胞数を抑制できた結果、
2-MIBの上昇も抑制できたと考えられる。
10000
㪋㪄㪍᦬(H10-H15):ᐓ䈚਄䈕ᧂታᣉ
㪋㪄㪍᦬(H9,H16-H23):ᐓ䈚਄䈕ታᣉ
㪎㪄㪏᦬(H10-H15):ᐓ䈚਄䈕ᧂታᣉ
㪎㪄㪏᦬(H9,H16-H23):ᐓ䈚਄䈕ታᣉ
45855
41150
7966
10000
6825
1000
100
5040
210
4266
552
464
435
702
25
10
0
1
0
0
H9.4 H10.4 H11.4 H12.4 H13.4 H14.4 H15.4 H16.4 H17.4 H18.4 H19.4 H20.4 H21.4 H22.4 H23.4 H24.4
1000
2-MIB(ng/L)
ᐓ䈚਄䈕ታᣉ䈭䈚
121770
100000
図-7 干し上げによるPhormidium細胞数の減少
100
2)干し上げによる底泥中の藻類の減少
底泥の乾燥状況と泥中のPhormidium細胞数の関係を
10
調べるために、貯水池底泥を用いて室内で底泥の干し
上げ実験を実施した。
1
1
10
100
1,000
10,000
100,000
1,000,000
10,000,000
室内干し上げ実験による底泥の乾燥状況と底泥中の
䊐䉤䊦䊚䊂䉞䉡䊛⚦⢩ᢙ㩿⚦⢩ᢙ/mL)
藻類細胞数の関係を図-8 に示す。
図-6 渡良瀬貯水池におけるPhormidium細胞数と 2-MIBの関係
底 泥 中 に は、3 種 類 の 藍 藻 類(Phormidium spp.,
Lyngbya contorta, Lyngbya sp.)が確認され、優占種は
Lyngbya contortaで出現藍藻類の 90%以上を占めてい
5.干し上げ実施によるカビ臭抑制メカニズム
の検証
た。また、カビ臭原因藻類とされているPhormidium属
が存在することも確認された。底泥の乾燥状況につい
て見ると、実験開始当初の含水率は 60%であり、10
干し上げ実施によるカビ臭抑制効果としては、以下
日乾燥後には含水率 50%に減少し、その後も含水率
の仮説が考えられる。
は低下した。底泥中のPhormidium細胞数は、乾燥 10
日目までは 103 細胞数/cm2 オーダーで確認されたが、
仮説 1:底泥を乾燥させることによって、底泥上の
乾燥 20 日目以降は確認されず、乾燥によって死滅し
Phormidiumを減少させる。
たと考えられる。
仮説 2:底泥乾燥によるPhormidiumの減少および貯
水 池 か ら の 放 流 に 伴 うPhormidiumの 貯 水
なお、出現藍藻類で最も多く確認されたLyngbya
池外への排出によって、貯水位回復後の
contortaは、乾燥 60 日後にもわずかであるが確認され、
Phormidiumの増殖が遅れる。
Phormidiumよりも乾燥耐性があると考えられる。
藻類全体の細胞数は、乾燥が進むに従って 106 細胞
仮説 3:干し上げ実施によって底泥が酸化状態に
なり、底泥からのリンの溶出が抑制され、
数/cm2 オーダーから 104 細胞数/cm2 オーダーまで減
Phormidium の増殖も抑制される。
少した。乾燥 20 日後以降は種類も減少し、60 日後に
はLyngbya contorta 1 種類が確認されるのみとなり、乾
燥によって底泥中のほとんどの藻類が死滅することが
これらの仮説の検証結果を以下に示す。
示された。
(1)干し上げ実施によるPhormidium細胞数減少につ
いての検証
表-2 室内干し上げ実験の概要
1)干し上げ実施直後のPhormidium細胞数(水中)の減少
干 し 上 げ 実 施 に よ るPhormidium細 胞 数 の 変 化 を
ᐩᵆណข
H23.11䋨౰᳓ᤨ䋩䈮⷏ᯅઃㄭ䈪ណᵆ
᷷ᐲ᧦ઙ
12㷄㩿ᕡ᷷ᮏౝ䈪ᐓ䈚਄䈕ᤨ䈱ᵆ᷷䈫ห⒟ᐲ䈮଻䈧䋩
ታ㛎ᦼ㑆
0,10,20,30,40,60ᣣ䈱6᧦ઙ
䊶ᐩᵆ⁁ᴫ䈱ⷰኤ䋨౮⌀᠟ᓇ䋩
䊶฽᳓₸
䊶ᬀ‛䊒䊤䊮䉪䊃䊮ቯ㊂㩿ᐩᵆ)
確認するために、干し上げ実施直後(4 月上旬)の
᷹ቯ㗄⋡
Phormidium細胞数と、干し上げを実施していない年の
同時期の水中のPhormidium細胞数を比較した(図-7)。
その結果、干し上げを実施しているH9、H16 ~
H23 年は、干し上げを実施していない年よりも 4 月上
32
低くなる傾向が見られた。
70
60
含水率
含水率(%)
50
表-3 各年の実質の干し上げ日数
40
H16
30
㒠᳓㊂䊶⾂᳓૏䉕⠨ᘦ䈚䈢
䇸ታ⾰䈱ᐓ䈚਄䈕ᣣᢙ䇹(ᣣ)
2-MIBᦨᄢ୯(ng/L)
20
10
0
0日後
10日後
20日後
30日後
40日後
50日後
60日後
藍藻類 (フォルミディウム以外)
H18
H19
H21
H22
H23
22
24
28
16
14
13
368
39
30
49
44
88
110
98
珪藻類・緑藻類
1,000,000
400
H16
100,000
350
10,000
1,000
300
※50 日後は
測定して
いない
100
10
2-/+$
nIL)
2-MIB
ǴI/L)
細胞数(細胞数/g)
H20
17
2-MIB 2-MIB
ಠ଀: 㜞Ớᐲ ૐỚᐲ
10,000,000
藍藻類 (Phormidium spp.)
H17
18
1
0日
10日後
20日後
30日後
40日後
50日後
60日後
図-8 底泥含水率と泥中の藻類細胞数の関係(室内干し上げ実験)
3)干し上げ実施期間中の底泥の乾燥状況によるカビ
H16,H21㨪H23
*㨪*0
250
200
150
H22
100
H19 H20
H23
50
臭抑制効果
H21
H17
0
0
渡良瀬貯水池の干し上げは、2 月 10 日に貯水位を
最低水位であるY.P.+8.5mまで低下させ、更に 3 月 1
5
H18
10
15
20
ᐓߒ਄ߍᦼ㑆ᣣᢙ
ᣣ)
25
30
図-9 実質干し上げ日数と 2-MIB濃度の関係
日から 3 月 25 日までは貯水位Y.P.+8.3mで運用する
(2)干し上げ実施によるPhormidiumのピーク出現時
計画となっており、Y.P.+8.5mで陸化する部分につい
期の遅延についての検証
ては毎年 40 日以上の干し上げを行っていることにな
干し上げの効果として底泥乾燥によるPhormidiumの
る。
干し上げによる底泥の乾燥状況は、干し上げ実施期
減少および貯水池からの放流に伴うPhormidiumの貯水
間が同じであっても、干し上げ期間中の気象条件(降
池外への排出によって、貯水位回復後のPhormidiumの
雨、気温、風、日照条件等)の違いにより、年によっ
増殖が遅れることが考えられることから、Phormidium
て大きく異なる。特に乾燥中の底泥を湿潤化させる降
細胞数の最大値・最大値出現時期と干し上げの実施規
雨の影響が大きく、その後のカビ臭発生状況にも影響
模(干し上げ日数と陸化面積の積算値)を用いて仮説
すると考えられる。
の検証を行った。
そこで、毎年の干し上げによる底泥の乾燥状況とそ
図-10 は干し上げ規模(干し上げ日数×陸化面積の
の後のカビ臭の発生状況の関係を検討するために、干
積算値)と、貯水池内のPhormidium細胞数が干し上げ
し上げ期間中の降雨による貯水位上昇・底泥湿潤化の
後に 10 万細胞/mLまで増殖するのに要する日数との
期間を除外した
「実質の干し上げ期間」を設定した。
「実
関係を示したものである。同図より、干し上げ規模が
質の干し上げ期間」の設定条件は以下のとおりである。
大きいとPhormidiumの細胞数が所定の値まで増加する
のに要する日数が多くなる傾向が見られた。
条件 1:貯水位が連続してY.P.+8.5mを下回る期間
20 0
ᐓ䈚਄䈕
200
を干し上げ期間とし、降雨等によって貯水
᳓૏ૐਅ
0
8
9
10
11
ᐓ䈚਄䈕䊶᳓૏ૐਅ䈭䈚
12
13
H22
180
位がY.P.+8.5mを上回った場合は干し上げ
H17
H20
160
4᦬1ᣣ⿠▚䈱ᣣᢙ䋨ᣣ䋩
が中断されたと判断する。
条件 2:一定量の降雨(2 日間連続降雨 15mm以上)
があった場合は底泥が湿潤化し、干し上げ
が中断されたと判断する。
8᦬31ᣣ
140
120
H11
100
7᦬31ᣣ
H16
H15
6᦬30ᣣ
80
5᦬31ᣣ
60
H19
40
上記条件によって平成16年から平成23年までの「実
20
質の干し上げ期間」を整理すると表-3 のようになる。
0
H14 H12
4᦬30ᣣ
H10
0
「実質の干し上げ期間」とその年の 2-MIB最大値と
H18
H13 H9
H23
20
40
60
80
100
120
140
160
㒽ൻ㕙Ⓧ㬍ᣣᢙ䋨km2䍃ᣣ䋩
の関係を図-9に示す。同図から「実質の干し上げ期間」
図-10 干し上げ規模とPhormidiumが 10 万細胞に到達するまで
の日数の関係
が 20 日程度確保できれば、その年の 2-MIBが比較的
33
図-11 は干し上げ規模(干し上げ日数×陸化面積の
H19
ORP(mV)
積算値)と、春~夏期にかけてのPhormidium細胞数の
最大値との関係を示したものであり、干し上げ規模が
大きいとカビ臭が発生する春~夏期(4 ~ 7 月)の期
᳓૏ૐਅ
0
8
9
10
12
㪄㪏䌾㪄㪈0㪺m
200
ᐓ䈚਄䈕⚳ੌ
2/11
2/21
3/3
3/13
3/23
⷏ᯅ Y . P. 8 .5m
H22
0.㪌䌾㪈.㪌㪺m
500
2.㪌䌾㪊.㪌㪺m
9.㪌䌾㪈㪇.㪌㪺m
13
400
ORP(mV)
H14
800,000
⾂᳓૏Y.P.8.5m䉁䈪ૐਅ
300
ᐓ䈚਄䈕⚳ੌ
200
100
H10
0
600,000
2/1
H23
400,000
H12
200,000
H17
H15
H13
H9
H11
2/21
0.㪌䌾㪈.㪌㪺m
3/3
3/13
2.㪌䌾㪊.㪌㪺m
3/23
⷏ᯅ Y.P. 8.5m
9.㪌䌾㪈㪇.㪌㪺m
400
H16
H21
H19
H18
H20
H22
2/11
500
ORP(mV)
ᤐ䌾ᄐᦼ㩿4᦬䌾7᦬)䈱Phormidium
ᦨᄢ୯䋨⚦⢩ᢙ/m㪣䋩
-2䌾㪄㪋㪺㫄
300
2/1
ᐓ䈚਄䈕䊶᳓૏ૐਅ䈭䈚
11
⾂᳓૏Y.P.8.5m䉁䈪ૐਅ
0
20 0
ᐓ䈚਄䈕
-1䌾㪄㪉㪺m
400
100
間のPhormidiumの細胞数が低減する傾向が見られた。
1,000,000
500
⾂᳓૏Y.P.8.5m䉁䈪ૐਅ
300
ᐓ䈚਄䈕⚳ੌ
200
100
0
0
0
20
2/1
40
60
80 100 120 140 160
㒽ൻ㕙Ⓧ×ᣣᢙ䋨䌫䌭2 䊶ᣣ䋩 H24 H23
2/11
2/21
3/3
3/13
3/23
⷏ᯅ Y.P. 8.4m
図-12 干し上げ期間中の底泥のORPの変化
図-11 干し上げ規模と春~夏期のPhormidium細胞数最大値の関係
2)貯水池内のリン溶出量の変化
干し上げによる栄養塩溶出抑制の効果を検証するた
(3)干し上げ実施による底泥からの栄養塩溶出抑制
めに、貯水池内T-P現存量、取水負荷量、放流負荷量
についての検証
等をもとに貯水池内のT-Pの負荷量収支を計算し、夏
1)干し上げ期間中の底泥のORPの変化
季(6 ~ 7 月)のT-Pの溶出負荷量(巻き上げを含む)を
干し上げ実施によって底泥が酸化状態になり、底泥
推定した(図-13)。
からのリンの溶出が抑制されるという仮説を検証す
その結果、干し上げ運用後のH16 ~ 23 年の溶出負
るため、H19,H22,H23 年の干し上げ期間中に底泥の
荷量は 0.0 ~ 1.1t(平均 0.4t)であった。一方、干し
ORPの変化を測定した(図-12)。
上げ運用前のH11 ~ 15 年は、0.6 ~ 1.5t(平均 0.9t)
その結果、乾燥状態が良好であったH19 年の干し
上げ時のORP(底泥表層から-1 ~-2cm)は、干し
であり、干し上げ運用前と比較して干し上げ運用後の
上げ開始前が+105mVであったのに対し、干し上げ
溶出負荷量が減少する傾向があることが確認された。
終了時には+383mVまで上昇しており、底泥の酸化
が促進されていることが確認された。
一方、H22,23 年は調査開始時のORPが高いことも
あり、調査期間中のORPはほぼ横這いで推移してい
た。
ᵹ౉
XX ton 㸢
ḓ᳓ਛ
XX ton
᡼ᵹ
㸢 XX ton
ᐓ䈚਄䈕ታᣉH9,H16-H23
4.0
3.0
㸣
⼱↰Ꮉಽ㔌
T-P⽶⩄(ton)
㸡
Ꮞ਄䈕ṁ಴╬ ᴉố
XX XX
ton ton
2.0
1.0
0.0
-1.0
-2.0
ᵹ౉(+)
ᴉố(-)
᡼ᵹ(-)
-3.0
Ꮞ਄ߍṁ಴(+)
ḓౝᄌൻ(+-)
-4.0
H09
H10
H11
H12
H13
H14
H15
H16
図-13 渡良瀬貯水池のT-P負荷収支算定結果
34
H17
H18
H19
H20
H21
H22
H23
た、東京理科大学の柏谷元教授、埼玉大学の浅枝教授、
6.まとめ
中部大学の松尾教授、京都大学の田中教授、原生動物
応用研究センターの盛下主宰からは貴重な助言を頂い
これまでの検討により、渡良瀬貯水池における干し
ており、ここに深甚なる謝意を表します。
上げによるPhormidiumとカビ臭物質 2-MIBの抑制効果
について、以下の知見を得ることができた。
参考文献
1. 渡 良 瀬 貯 水 池 で はPhormidiumに よ る カ ビ 臭
1)平成 24 年度 全国水道関係担当者会議資料 厚生労働省
2)小川明宏,牛島健,森川一郎:渡良瀬貯水池におけるフォル
ミディウムに関する研究,平成 20 年度ダム水源地環境技術
研究所所報 (財)ダム水源地環境整備センター
3)佐藤宏明,天野正秋:浅い貯水池の水位低下・干し上げに
伴う 2-MIBへの影響-渡良瀬貯水池を例にして-,応用生
態工学 10(2),pp.141-154,2007.
(2-MIB)が発生しており、カビ臭は春期(4 ~ 6
月頃)に発生することが多い。
2. 干し上げを実施している年は、干し上げを実施し
していない年よりも 4 月上旬のPhormidium細胞数
が大きく減少していた。
3. 底泥の乾燥状況と泥中のPhormidium細胞数の関係
を調べるため実施した室内干し上げ実験では、底
泥中のPhormidium細胞数は、乾燥期間 20 日目以
降は確認されず、乾燥によって死滅したと考えら
れる。
4. 干し上げによる底泥の乾燥状況を判断する一つの
指標として、干し上げ期間中の降雨による貯水位
上昇・底泥湿潤化の期間を除外した「実質の干し
上げ期間」を設定した。この「実質の干し上げ期
間」が 20 日程度確保できれば、その年の 2-MIB
が比較的低くなる傾向があった。
5. 干し上げ規模
(干し上げ日数と陸化面積の積算値)
が大きいとPhormidiumの細胞数が所定の値まで増
加するのに要する日数が多くなる傾向があった。
6. 乾燥状態が良好であったH19 年の干し上げでは、
底泥のORPが上昇し、干し上げによって底泥の
酸化が促進されていた。
7. 干し上げによる栄養塩溶出抑制の効果を検証する
ために、貯水池内のT-Pの負荷量収支を試算した
結果、干し上げ実施時の溶出負荷量は 0.0 ~ 1.1t
(平均 0.4t)
、干し上げ未実施時は、0.6 ~ 1.5t(平
均 0.9t)であり、干し上げ実施によりT-Pの溶出
負荷量が減少する傾向があることが確認された。
7.おわりに
本検討により、渡良瀬貯水池における干し上げの効
果とPhormidiumの挙動を把握することができた。
しかし、Phormidiumの増殖と 2-MIB生成のメカニズ
ムについては不明な部分が多く、今後は、春期と夏期
のPhormidiumの種類の違いに着目した 2-MIBの発生条
件についての調査・検討が必要である。
本検討にあたり、国土交通省関東地方整備局利根川
上流河川事務所からは調査データ等をご提供頂き、ま
35