EY Advisory

EY Advisory
ビッグデータ
―企業競争力の新たな源泉
アドバイザリー事業部 公認会計士 公認情報システム監査人 長尾大輔
• Daisuke Nagao
1991年、当法人に入所。政府開発援助関連アドバイザリーで、組織・制度改革の専門家として活躍。特に、ポーランドで実施された国
有鉄道民営化計画調査では、その調査結果を高く評価され、ポーランド共和国運輸貢献者名誉賞を受賞。組織改革の分野での実績には定
評があり、現在はデータ分析や経営管理に関連した分野で、クライアントの活動を支援している。
Ⅰ はじめに
入、利用している企業の数は、まだ限られているもの
の、この技術に対する信頼度や認知度は上昇傾向にあ
データを有効に活用することが企業競争力の源泉と
ります。回答者にさまざまな観点から自社の対応能力
なる時代が来つつあります。現在、多くの企業では、
を評価してもらったところ、<図1>のとおり、ビッグ
各種情報を集約し、統計的な分析を実施し、将来予測
データ技術は「近く普及する技術」に分類されました。
を行っています。ビッグデータは、企業の競争や業務
多くの企業がビッグデータ関連技術を、業績改善や競
の在り方を根本から変えていくことが予想されます。
争優位性を生み出す機会として捉えているようです。
データに対して投資を行い、データから価値を引き出
せる企業が、さらなる競争力を手に入れることになる
Ⅱ ビッグデータがもたらすメリットとリスク
と考えられます。
EYによる「2013年 グローバル情報セキュリティ
サーベイ」の結果によれば、ビッグデータを実際に導
不正調査・検知に関するデータ分析手法として、
フォレンジック・データ・アナリティクス(FDA)と
呼ばれる技術があります。この技術は、増大するデー
▶図1 先進技術とトレンドの全体像
現行の技術
タ量や、複雑化するビジネスや規制環境への対応を迫
将来登場する最先端技術
近く普及する技術
(データポイントのサイズは回答者の重要度を表す)
られている企業にとって、強い味方となるはずです。
70
対
応 60
能
力
に 50
対
す
る 40
信
頼
度 30
︵
回
答
者 20
の
割
合 10
%
︶
0
ソフトウェアアプリケーション
現行の技術▶
スマートフォン
およびタブレット
オンラインアプリケーション
ソーシャルメディア
ビッグ
◀近く普及する技術
データ
個人使用のクラウドの活用
クラウドサービス仲介事業
画像認識技術
モノの
インターネット
電子マネー
サイバーヘイブン
10
30
40
や企業取引の停止、データの可視化などを統合した不
決定を迅速に行えるようになります。
ビッグデータ革命は、企業に多大なメリットをもた
らすと考えられますが、その利用には相応のリスクが
伴うことを忘れてはなりません。ビッグデータの活用
▲
将来登場する最先端技術
20
分析処理エンジンを使用すれば、不正が疑われる支出
正監視機能の導入が可能となり、ビジネス上で重要な
企業用アプリケーションストア
サプライチェーンマネジメント
一例を挙げると、FDA技術の一つであるリアルタイム
に当たっては<図2>に示すような、新技術や外部環
50
60
技術とトレンドに対する精通度(回答者の割合%)
出典:EY「2013 年 グローバル情報セキュリティサーベイ」
14 情報センサー Vol.98 November 2014
70
境の利用に伴う新たなリスクが伴います。
▶図2 ビッグデータ利用に伴う関連リスクのイメージ
(従来のデータの流れ)
マニュアル
入力
システム
センサーデータ
新技術
分析ツール
DWH*1
ユーザー
新技術・外部環境の
利用に伴うリスク
データ分析専門家
SNS*2
インターネット環境
クラウドDWH
外部
分析ツール
外部環境
*1 データウエアハウス
*2 ソーシャル・ネットワーキング・サービス
Ⅲ 七つの項目
ビッグデータに潜む可能性と危険性を理解・解決す
るために、幾つかの事例から得られた帰納的な帰結と
して、次に掲げる七つの重要な項目について、留意す
る必要があると考えられます。ビッグデータの本格活
用に取り組む際は、事前評価として次のチェック項目
を確認することをお勧めします。
1. ガバナンス
• データガバナンス体制は、データの所有者および
消費者の位置付けや定義の変化に対応したものと
なっているか
し、解釈することができる人材がいるか
• 従業員は、データに基づく意思決定という新たな
パラダイムに転換する準備ができているか
6. セキュリティ
けんろう
• セキュリティインフラは、堅牢性と、データ量の増
加に対処できる柔軟性の両方を備えているか
7. プライバシー
• ビッグデータ情報の所有者や、情報を使用すること
についての承諾の要否は明確になっているか
• ビッグデータの保存・利用方法によっては、重大
なプライバシーの問題が生じる可能性があること
を理解しているか
• データガバナンスは、データのライフサイクルの
各工程におけるリスクに対応しているか
2. マネジメント
• ビッグデータに関連した新しい技術や手法を扱う
ことができるスキルや内部機能があるか
• ビッグデータの特性である量、種類、速度などを
十分に管理できる体制が整っているか
3. クオリティー
• 採用している手法は、非構造化データに十分対応
できるものか
• ビッグデータの利用に関する目標を達成するため
には、どの程度のデータ品質が必要か検討できて
いるか
4. アーキテクチャー
• ITインフラは、ビッグデータに関連した戦略に対
Ⅳ おわりに
従来のシステムやアプローチでは迅速性や柔軟性に
欠けるため、複雑かつ圧倒的な量のビッグデータには
対応しきれません。これに対応するためには、前記
チェックリストを活用して課題を把握し、変革してい
くことが必要です。
企業の成功は、必要な情報を必要なタイミングで活
用できるかどうかにかかっています。ビッグデータの
活用により、企業は、より効果的な意思決定が可能に
なります。経営管理を中心とした業務の進め方や、市場
競争の在り方も、時代とともに変わっていくでしょう。
応できるものか
• ビッグデータを扱うために必要な処理能力や保存
能力を柔軟に変更できるか
5. 活用
• ビッグデータの分析結果を正しく扱い、モデル化
お問い合わせ先
アドバイザリー事業部
Tel:03 3503 3500
E-mail:[email protected]
情報センサー Vol.98 November 2014 15