新技術・新工法部門 No.6 関西国際空港における第 2 滑走路の航空灯火設置・舗装の一体施工について 関西国際空港株式会社 二期施設整備部 施設 G 竹林幸治 1 はじめに 関西国際空港は、現在大阪湾の沖合 5km に第1期人工島を埋め立て、長さ 3,500m の滑走 路1本により運用されている。今回、第2期人工島に 1 期滑走路と平行に長さ 4,000m の第 2 滑 走路建設工事を竣工し 2007 年 8 月 2 日のオープンを迎えるところである。 第2滑走路の舗装等空港施設の建設工事は、実質1年という短期間の大規模急速施工であっ たことから、大幅な工期短縮を目指し航空灯火基台と舗装の一体施工を考案した。 その結果、工期短縮はもちろんのこと経済性に優れ、環境にやさしい建設工事が実現した。 「航空灯火設置・舗装の一体施工」(以下、「一体施工」)に関して設計時に直面した懸案事項、 試験施工を通した改善アプローチ、並びに本工法導入の効果について報告する。 関西国際空港第2滑走路(写真左) 滑走路中心線灯 2 航空灯火下部基台・配管と舗装工事の一体施工 2.1 航空灯火施設 滑走路や誘導路に設置する航空灯火施設は、「灯光により航空機の航行を支援する」(航空法 施行規則第1条)ための航空保安施設であり、航空機の離着陸の安全に寄与する重要な施設で ある。関西国際空港の航空灯火施設は、高カテゴリー精密進入が可能な CATⅡ(カテゴリーⅡ 精密進入)施設であり、非常に高い信頼性・安全性が求められる。 カテゴリーⅡ精密進入と航空灯火施設 -1- 新技術・新工法部門 No.6 2.2 従来施工法の問題点 滑走路の舗装内に設置される滑走路中心線灯等の埋込型灯器の設置工事は、従来、上層路 盤施工後に、下部基台と電線用配管の埋設箇所をボーリングマシンおよび切削機で開削撤去し、 下部基台と配管を設置・固定し、その後、樹脂モルタルおよび流動性アスファルト混合物等で埋 め戻す方法が採用されてきた。 基台ボーリング 配管溝カッティング 溝内に配管布設 アスファルト合材充填 路盤切削及び下部基台と配管の設置は施工速度が極めて遅く、後工程の舗装作業に待ちが 生じる。また、一度舗設した上層路盤を開削撤去し、その後埋戻しを行うことから、コスト面だけ なく、切削による廃棄物が発生し環境面でも課題であった。 2.3 一体施工とその効果 一体施工法」は、上層路盤の施工前に灯火用基台・配管を 直に設置する工法である。まず、下層路盤層の路面に直接下 部基台と配管材を設置・固定し、その後に上層路盤工、表層工 を実施する。このように、従来工法に比べて基台ボーリングの ほか、配管溝切削工・樹脂工・配管溝復旧工等の工種が省略 されることから、工期短縮・コスト削減並びに建設廃材の排出抑 制等の利点がある。 一体施工状況(下部基台、配管設置) 2.4 懸案事項 航空灯火基台の設置は公差(精度)が「水平面で基準線に対し±15mm 以内」と厳しく定めら れており、後工程で行われるアスファルト舗設作業による影響(ズレ)が生じないよう基台や配管 を堅固に固定する必要がある。また、配管下へのアスファルト材の廻り込み不足による密度低下 の恐れがある。これら課題を検証・解消すべく、次章に示す試験施工を実施した。 ±15mm以内 配管材 基準線 ±15mm以内 充填不足予想部分 基台設置の交差(±15mm) 配管下のアスファルト回り込み -2- 新技術・新工法部門 No.6 3 試験施工 3.1 基台・配管の固定方法 アスファルトフィニッシャーのスクリードによる推力、ローラによる締固め作業時の押出力ある いはアスファルト混合物運搬車(ダンプトラック等)の通行等による基台・配管の設置「ズレ」への 対策として、固定材部への各種充填材による固定強度の比較を行った。 この結果、充填材を使用した何れの方法も無充填時に比べて大きな引抜抵抗値を示し、十分 な固定強度を確保すること確認され、施工が容易で安価な無収縮グラウト材が有効であると判断 した。 引抜抵抗力(N/mm2) 50 犬釘引き抜き試験 下部基台、配管布設状況 3.2 配管下の空隙対策 配管下の空隙対策として、アスファルトフィニッシャーの進 む方向(水平・垂直)により以下のとおり「転がし配管」あるい は「半埋め配管」を使い分ける工法を検討・検証した。 3.2.1 転がし配管(フィニッシャー方向と平行) ① 配管位置に継ぎ手金具(ネジ有りジョイント、ネジ無し ジョイント、ヴィクトリックジョイント等)で接続した管材 を布設する。 ② 管材の接続部付近にバンド型固定金具をセットし、固定 金具の孔にあわせドリルで削孔する。 ③ 従来工法に比べ、配管材を下部基台と接続し所定位置 に布設する。 ④ 削孔跡および継ぎ手箇所の凹部に無収縮グラウト材を充 填し、犬釘を挿入し管材を固定する。 40 無充填 ア クリル 系 セ メン ト系 丸 鋼 200 異 形 200 異 形 150 30 丸 鋼 150 20 1 .3 2 11.4 0 9 2 .9 4 3 .7 0 1 1 8 .71 1 8 .9 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 試 料 番 号 (N o) 犬釘引き抜き試験結果 ヴィクトリッ t クジョイント 配管 転がし管ジョイント部 犬釘 3.2.2 半埋め配管(フィニッシャー方向と垂直) ① 溝形成の前工程としてマーキングした位置に沿 って掻き解し機(ミニバックホウのバケットアタッチ メント)で下層路盤表面を薄層で掻き解す。 ② ヴィブロプレート80kg級の底面を凸状に改造した バックホウアタッチメント 溝成形機で掻き解した粗溝を成型し管材を布 設する。 ③ 管材布設後ヴィブロプレート(80kg級)の底面を 凹状に改造した締固め機で管周囲を十分に締 固める。 ④ 管材の接続部付近にバンド型固定金具をセットし、 半埋め配管布設 固定金具の孔に合わせてドリルで削孔する。 ⑤ 削孔跡に無収縮グラウト材を充填し犬釘を挿入し配管材を固定する。 -3- 無収縮G 接着 促進 配管固定用バンド 凸状底面による溝形成 凹状底面による締め固め 新技術・新工法部門 No.6 結果、配管ジョイント箇所、基台直近の配管材接続部、半埋め箇所等のいずれの箇所に も隙間は認められなかった。 半埋込み法 VJ継手部 基 層 表 層 100 99 98 97 96 95 基 台 1 基 ∼2 台 3 基 ∼ 台 4 5− 基 台 ① 5 基 −② 台 8 基 −① 台 8 基 −② 台 8− 配 ③ 管 材 配 E 管 材 配 管 F 材 配 G 管 材 H 締固め度(%) 上層路盤層 基台直近部 採取位置番号 配管廻りの隙間検証 締め固め度(配管まわり) また、配管下部において、密度規格値(98.0%)を満足する値が得られた。 3.3 試験施工結果 試験施工の結果、以下のとおり当初の懸案事項への有効な対応方法が実証された。 ・ 基台・配管固定は、犬釘を無収縮グラウト充填材にて固定することで十分な強度が確保で きる。 ・ 配管は、フィニッシャーの進む方向に応じて「転がし」あるいは「半埋め」の使い分けが有効 である。 滑走路中心線灯基台設置精度分布図 -2.5 -1.5 -0.5 0.5 1.5 2.5 35 度 数 (個 ) 4 本施工時の基台設置精度の確認 2期滑走路舗装工事の実際の施工において、 任意に抽出した164 基(全2000基)の基台に ついて、設置固定直後と上層路盤舗設後の「ズ レ」を比較した。この結果、上層路盤施工前で は最大値9.0mm程度と規格値(±15mm)を十 分に満足する結果であった。 また、上層路盤工の施工による影響(ズレ)は、 基台設置直後に比べ平均で0.8mm程度と微量 であることから堅固な設置固定ができたものと推 定される。 3.5 4.5 5.5 6.5 平均=3.9 平均=4.7 7.5 8.5 9.5 10.5 11.5 12.5 13.5 30 度数(基台設置後) 25 度数(AS安後) 20 X±σ(基台設置 後) X±σ(AS安後) 15 10 5 0 -2 -1 0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 誤差(mm) 基台設置の精度と施工時のズレ 5 一体施工の導入効果と今後の課題 一体施工法導入による効果は、従来工法に比べ、17 ヶ月あった計画工期を実施工程で 14 ヶ 月に短縮し、開削・埋戻しに用いられる大型特殊機械削減等で 10%以上のコスト縮減となった。 さらに、開削を伴う従来工法に比べ、開削殻となる約 600tの産業廃棄物の発生を抑制し、同時 に同量の新規埋戻し材が不要となり環境保全にも寄与している。 本施工が国内初の施工方法であることから、今後、路面性状等に注視していく必要がある。さ らに、今回施工で得た経験から、施工要領の充実を図ることで次回滑走路等の嵩上工事等にお けるコスト縮減・工期短縮が期待できる。 -4- 12 13
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