解説・報告 小 動 物 臨 床 領 域 で 見 ら れ る 真 菌 感 染 症（Ⅲ） ─今後注目すべき真菌症，特に人獣共通真菌症を中心に─ 村田佳輝†（むらた動物病院院長・千葉県獣医師会感染症委員会） （4）ホルタエア感染症（Hortaea werneckii） 4 免疫低下による真菌感染症 （1） ス エ ヒ ロ タ ケ 感 染 症 人での感染も稀な，比較的温暖地域に生育する Hor- （Schizophyllum commune） taea werneckii の感染がモルモットの趾でみられた（図 25）． 桜の立ち枯れ木に自生するスエ ヒ ロ タ ケ Schizophyllum com- （5）コレトトリクム（植物炭疽病）感染症（Colleto- mune の感染により成立する．肺 炎，副鼻腔炎，鼻炎がみられる． torichum gloeosporioides） 植物炭疽病の病原菌である Colletotorichum gloeospo- 俗に鼻タケと呼ばれる．犬，猫， rioides の全身感染が FIV 感染猫でみられた（図 26）． 人で報告がある（図 22）． 本菌はミカン科植物葉に付着していることが多く，皮膚 （2）ケトミウム感染症（Chaetomium globosum） 感染が原発であることから，ミカン樹皮上の棘からの感 染が考えられた． 環境菌である Chaetomium globosum の皮膚への感染 報告がある（図 23）．同時に感染した子犬より飼い主へ 5 お わ り に の感染もみられた． 小動物診療において，細菌感染，ウィルス感染には注 （3） レ キ ソ フ ォ ー ラ 感 染 症（Lecythophora hoff- 意を払うが，真菌感染については，見落としがちである． 人同様，抗がん治療，免疫抑制治療，放射線療法の発達 mannii） 植物腐生菌の Lecythophora hof fmannii の感染で骨 により今後ますます，真菌感染の機会が増えてくると思 から全身へ播種が免疫力の低下した老齢犬でみられた われる．また広域抗菌薬の使用での菌交代症の結果，常 在真菌の感染も増加すると思われる．これに対しては， （図 24）． 抗菌薬無効の敗血症等の感染症では，真菌感染を疑い， 早期に，抗真菌薬を使用する考えが大切となってくる． 図 22 スエヒロタケ感染症（Shizophyllum commune） † 連絡責任者：村田佳輝（むらた動物病院） 〒 299-4114 茂原市本納 2016 ☎ 0475-34-2398 FAX 0475-30-5122 E-mail : [email protected] 日獣会誌 68 8 ∼ 11（2015） 8 PDA SDA 25℃，4 週間 A C B D 図 23 ケトミウム感染症（Chaetomium globosum） 発病 6 カ月目 図 24 レキソフォーラ感染症（Lecythophora hof fmannii） また，人獣共通真菌感染症での今後の課題は，疫学調 参 考 文 献 査が積極的に行われていないため，現状把握と対策が困 難なことである．人において新興真菌症が報告されてい ［ 1 ］ 村田佳輝，佐野文子，鎗田響子，荒島康友，西村和子， 亀井克彦：一般家庭で飼育されている犬，猫の口腔内真 菌叢，JVM，58，338-339（2005） ［ 2 ］ 村田佳輝：家庭内飼育動物が保有している病原真菌，小 児科臨床，62，799-807（2009） ［ 3 ］ 高橋一郎：皮膚科領域における人獣共通真菌症の動向， Jpn J Med Mycol，44，245-247（2003） ［ 4 ］ 西岡 清，比留間政太郎：白癬の臨床，潜在性皮膚真菌症 の病態および診断と治療，日本医師会インターネット生 る中，いまだ動物の真菌症研究は途上である．また，近 年の生活環境の変化は人と動物の関係も多様化させ，密 接な生活も進行し，今後，人獣共通真菌症は増加してい くものと考えられるため，医師及び獣医師が連携して対 応しなければ防除は困難であると考えられる．さらに易 感染者である高齢者，小児には特に注意を払い，感染の 防除に努めていくことを喚起したい［26］． 9 図 25 ホルタエア感染症（Hor taea werneckii） ＊写真提供：横浜市立大学 中嶋 弘先生 図 26 コレトトリクム感染症（Colletotorichum gloeosporioides） 涯教育協力講座（http://www.mar uho.co.jp/medical/ academic/syougaikyouiku/m03/m0301/06.html） ［ 5 ］ 山 田 英 世： 皮 膚 糸 状 菌 症 白 癬， 病 原 真 菌 と 真 菌 症， 184-187，南山堂，東京（1999） ［ 6 ］ Kawasaki M, Inoue T, Ohsawa T, Ishioka S, Mochizuki T, Ishizaki H : T wo Ar throderma benhamiae isolates showing mitochondrial DNA type of Trichophyton verrucosum, Jpn J Med Mycol, 43, 103-106 (2002) ［ 7 ］ 比留間政太郎，番場圭介，野口博光，大西善博，川田 暁，石橋 明：家畜飼育者に見られた Trichophyton verrucosum 感染症，皮膚病診療，17，739-742（1995） ［ 8 ］ 富中和夫，藤田幸夫，東 晃，金原武司：Trichophyton verrucosum に よ る tinea circinata， 皮 膚 病 診 療，8， 631-634（1986） ［ 9 ］ 高塩満男：皮膚糸状菌の性世代とそれを基とした Trichophyton mentagrophytes の 分 類， 西 日 皮 膚，38，703728（1976） ［10］ Nakamura Y, Kano R, Nakamura E, Saito K, Wata- 10 mission to man, Arch Dermatol, 118, 429-431 (1982) ［18］ Reed KD, Moore FM, Geiger GE, Stemper ME : Zoonotic transmission of sporotrichosis: case repor t and review, Clin Infect Dis, 16, 384-387 (1993) ［19］ Singer JI, Muncie JE : Sporotrichosis: etiologic considerations and repor t of additional cases from New York, NY State J Med, 52, 2147-2153 (1952) ［20］ Dunstan RW, Reimann KA, Langham RF : Feline sporotrichosis, J Am Vet Med Assoc, 189, 880-883 (1986) ［21］ Lappin MR : Feline zoonotic diseases, Vet Clin N Am Small Anim Pract, 23, 57-78 (1993) ［22］ Chang HJ, Miller HL, Watkins N, et al : An epidemic of Malassezia pachdermatis in an intensive care nurser y associated with colonization of health care wakers pet dogs, N Engl J Med, 338, 706-711 (1998) ［23］ Murata Y, Sano A, Ueda Y, et al : Molecular epidemiology of canine histoplasmosis in Japan, Med Mycol, 233-247 (2007) ［24］ 村田佳輝，佐野文子，高山明子ほか：ネコの難治性皮膚 炎より分離された Ar thrographis kalrae，真菌誌，47， 76（2006） ［25］ 佐野文子：めずらしい真菌症，JVM，60，305-310（2007） ［26］ 村田佳輝：小児科 1 PEDIATRICS OF JAPAN 特集 ペットからの感染症，皮膚真菌症，54，19-26（2013） nabe S, Hasegawa A : Case repor t. First repor t on human ringworm caused by Ar throderma benhamiae in Japan transmitted from a rabbit, Mycoses, 45, 129131 (2002) ［11］ 戸崎裕子，藤広満智子，望月 隆：ペットショップ店員 に生じた Ar throderma benhamiae による手及び顔面白 癬の 1 例，西日皮膚，63，542-545（2001） ［12］ Kawasaki M, Aso M, Inoue T, Ohsawa T, Ishioka S, Mochizuki T, Ishizaki H : T wo cases tinea corporis by infection from a rabbit with Ar throderma benhamiae, Jpn J Med Mycol, 41, 263-267 (2000) ［13］ 加納 塁：本邦での動物による皮膚真菌症の現状と今後 の課題，Med Mycol J，53，19-23（2012） ［14］ Yamaguchi A, Sano A, et al : Isolation of der matophytes and related species from domestic fowl (Gallus gallus domesticus), Mycopathologia, 178, 135143 (2014) ［15］ N a k a m u r a Y, S a t o H , Wa t a n a b e S , Ta k a h a s h i H , Koide K, Hasegawa A : Sporothrix schenckii isolated from a cat in Japan, Mycoses, 39, 125-128 (1996) ［16］ Kano R, Watanabe K, Murakami M, Yanai T, Hasegawa A : Molecular diagnosis of feline sporotrichosis, Vet Rec, 156, 484-485 (2005) ［17］ Read SI, Sperling LC : Feline sporotrichosis. Trans- 11
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