平成26年12月 LCC路線拡大で増えるタイ人訪日客 [PDF

LCC路線拡大で増えるタイ人訪日客
バンコク事務所
川越 信一郎
タイでは格安航空会社(LCC)の利用者が急速な勢いで拡大している。2014
年は福岡を皮切りに、成田、関西へ LCC 直行便が就航した。低価格が魅力の
LCC 就航は、タイ人の訪日旅行機運を後押しする結果となった。
一方、タイ人のニーズに的確に対応するためには、きめ細かなフォローも重
要である。タイでは福岡情報を現地目線で発信するフェイスブックページが大
人気であり、これらを活用することが効果的である。来年は、これまで以上に
多くのタイ人旅行客が福岡・九州を訪れることを期待している。
1.タイの格安航空会社(LCC)の現状
タイ航空業界の 2014 年は、日本直行便就航をはじめ、格安航空会社(LCC)
にかかるニュースをよく見かけた年であった。
バンコク近郊には2つの大きな国際空港が
ある。一つは、2006 年にオープンしたスワン
ナプーム空港で、旅客ターミナルビルの総床
面積(563,000 ㎡)は世界でもトップクラス
の広さを誇り、今や東南アジアを代表するハ
ブ空港として機能している。自国のフラッグ
キャリアであるタイ国際航空をはじめ、世界 2006 年に開港したスワンナプーム国際空港
各国の航空会社が就航し、日本からも日本航
空と全日空が乗り入れている。
もう一つは、かつて東南アジア有数の大空
港として栄えたドンムアン空港である。ドン
ムアン空港はスワンナプーム開港後も細々と
運用され続けていたが、2012 年にマレーシア
の LCC 大手「エア・アジアグループ」が同
空港を拠点に本格的な活動を始めると、急速
な路線拡大により LCC 拠点としての地位を
LCC 路線の拡大するドンムアン国際空港
高め、かつての賑わいを取り戻すまでに至っ
ている。
1
2014 年 10 月末現在、ドンムアン空港には 13 社のエアラインが乗り入れ、チ
ェンマイ、プーケットなど国内 16 か所、クアラルンプール、シンガポール、香
港など海外 26 か所と結ばれている。2014 年 9 月からは日本の成田、関西を結ぶ
直行便も就航。空港利用者数も増加を続け、タイ空港会社(AOT)によると、
2013 年 10 月~2014 年 9 月までの1年間で、前年比 24.33%増の 1,934 万人を記
録した。
スワンナプーム空港とドンムアン空港の利用者数推移
(万人)
6,000
5,000
4,000
4,791 5,236
4,278
5,090
スワンナプーム空港
3,000
1,556
2,000
1,000
4,649
299
342
1,934
ドンムアン空港
271
0
2010年度 2011年度 2012年度 2013年度 2014年度
出典:タイ空港会社(AOT)
※タイ年度は、2013 年 10 月~2014 年 9 月
タイにおける LCC 路線の拡大は、旅行好きなタイ人の航空機利用の機運を後
押しする一方で、週末ともなると出発便が集中する朝方を中心に空港が激しく
混雑する要因ともなっている。そのため、現在は第1ターミナルのみが運用さ
れているドンムアン空港であるが、利用者からは使っていない第2ターミナル
の再開が待ち望まれている。この第2ターミナルが仮にオープンすると、ドン
ムアン空港の旅客処理能力を、現在の 1,850 万人から一気に 3,000 万人にまで
大幅に増やすことができると言われている。
主要都市間の距離が短い東南アジアでは、早くから LCC が発達し、経済成長
とともに豊かになった中間層の力強い味方として発展を続けてきた。今日では、
人気タレントを起用した LCC のイメージ広告も頻繁に目にするようになり、
LCC は魅力ある旅の手段としてすっかり定着した感がある。
2.福岡路線の就航
今年6月、豪カンタス航空の子会社でシンガポールに本社を置く「ジェット
スター・アジア・エアウェイズ」は、シンガポール発バンコク経由の福岡便を
就航させた。毎日運航しており、座席数は 180 席(全てエコノミー席)。同社の
販売マネージャーであるケビン氏によると、就航当初からシンガポール人より
も圧倒的にタイ人の利用者が多く、週末ともなると、観光を目的とした多くの
タイ人で満席の状態が続くこともあるとのことである。同社では、日本路線、
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福岡路線を最重要路線として考えており、プロモーションにも力を入れている
という。
先般、同社が開催した旅行業者向けセ
ミナーには多くのツアー造成担当者が
集まり、熱心な質疑を繰り返していた。
その中で重視されていたのは、福岡の利
便性の高さであった。阿蘇や別府をはじ
めとする九州観光の玄関口であること
に加え、同じジェットスター便を乗り継
いで東京、大阪、名古屋へ行くこともで
きるという点を再三強調していた。
ジェットスター社の旅行業者向けセミナーの様子
タイでは近年、日本旅行ブームに沸
いており、2013 年夏に実施された短期ビザの免除は、訪日旅行者数の増加にさ
らなる拍車をかけた。福岡を訪れたいタイ人旅行者にとっては、従来のタイ国
際航空に加え、ジェットスターが就航したことにより、選択肢の幅が広がった
と言えるだろう。
3.さらに身近になる訪日旅行
2014 年 7 月、バンコク市内の大型商業
施設で開催された個人旅行者対象の訪日
観光フェアに当事務所は福岡の PR を行
うために出展した。今回は、就航したばか
りのジェットスターとブースが隣り合わ
せだったということもあり、終日、途絶え
ることなく多くの来場者が訪れた。
本県ブースには、福岡や九州の名前は知
訪日観光フェアの様子
っているものの、具体的に何があるのか知
りたいと尋ねてくるタイ人が多く訪れ、スタッフが一つ一つ丁寧に観光名所や
行き方などを説明した。また、インターネットで事前にモデルコース案を立て
てきて、自分の案について熱心に質問をする姿や、日本へ行くのが2回目、3
回目というリピーターも多く目に留まった。LCC 就航によって料金も従来と比
べて4~6割程度安くなり、日本旅行がますます身近になっていると感じた。
期間中に本県ブースを訪れた人数は 5,000 人に達し、当事務所始まって以来、
過去最高を記録した。また、主催者(JNTO)が後日発表した開催報告によると、
フェア中に実施された「訪日旅行商品購入者が利用する空港に関する調査」の
結果、福岡空港が成田空港に次いで2位となるなど、嬉しい話題が続いた。
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4.福岡のタイ語フェイスブックが大人気
2014 年春に、タイ語で福岡情報を発信す
る2つのフェイスブックページが立ち上が
った。一つは、福岡を知るタイ人からの投
稿 を 中 心 に 情 報 を 発 信 す る 「 I Like
Fukuoka」。もう一つは、タイ語で“福岡
の今日”という意味で、その日の旬な話題
を提供する「Fukuoka wannee(ワンニー)」
である。両ページとも、ジェットスターが
福岡便の就航を始めた今年6月以降、急速
な勢いでファンを増やし続けている。
ページの開設からわずか半年あまりであ
るが、11 月末現在、
「I Like Fukuoka」は
「Fukuoka wannee」のフェイスブックページ
8,641 人、「Fukuoka wannee」は 4,286
人のファンが登録し、2つのページを合わせると約 1.3 万人に達する。両ペー
ジとも毎日情報が更新され、ファンからの質問にも適切に回答していることか
ら、管理者の情熱と愛情がまざまざと伝わってくるものに仕上がっている。
当事務所としても、より多くの福岡ファンを獲得すべく、両ページとの連携
を図りながら、福岡や九州の魅力 PR に努めていきたい。
5.今後の展開
タイにおける訪日旅行ブーム拡大や LCC の就航効果、福岡や九州を紹介する
旅行ガイド本の充実などを通じて本県の認知度は高まっており、実際に、当事
務所へメール等で直接問い合わせてくるタイ人旅行者も増え続けている。昨年
は毎月数件程度だったが、現在では月間 80 件を超えるに至っている。
最近は、インターネットを利用して簡単に情報を得ることができるようにな
ったことから、行きたい旅先を並べて、自らの旅行プランを作ったうえで、荷
物を預ける場所や移動時間など細かい点を尋ねてくるケースが多い。しかも行
きたい旅先は、小道に入るようなマイナーな場所だったりするケースも増えて
きている。
このように多様化する個人ニーズに対応するには、より一層きめ細かなフォ
ローが必要となってくるため、前述のフェイスブックページを活用した情報発
信を充実させていくことが効果的であると考えている。
2015 年には、福岡や佐賀を舞台にしたドラマ「Kol Kimono~きもの秘伝~」
がタイで放映される予定であり、ますます福岡・九州への関心が高まることが
期待される。この勢いを維持し、さらに多くのタイ人旅行者に福岡・九州を訪
れていただきたい。
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