運動に伴う左室重量と中心血圧の関係 - Arterial Stiffness

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第 13 回 臨床血圧脈波研究会 フィーチャリングセッション 2
運動に伴う左室重量と中心血圧の関係
小林正武(東京医科大学八王子医療センター循環器内科)
背景
求 め、 男 性 で LVH > 115 g/m2、 女 性 LVH > 95 g/m2 を
一般的な運動生理の現象として、運動に伴い 1 回拍出量
LVH 群とした。
や心拍数、血管抵抗が安静時と異なった変化をきたすこ
上 腕 収 縮 期 血 圧(brachial systolic blood pressure;
とが知られている。運動は非常に再現性の高いものであ
bSBP)、中心収縮期血圧(central SBP;cSBP)、脈拍数
るため、当科では運動負荷試験をかける症例に対し、安
(pulse rate;PR)、増大係数(augmentation index;AI)
、
静時と運動負荷後の上腕血圧と中心血圧を評価している。
PPA の測定はオムロンヘルスケア社の HEM-9000 AI を使
この評価を元に昨年度、われわれは運動に伴う中心血
用した。運動負荷前の坐位安静時では左上腕動脈、左橈
圧の値が高齢になるにつれて、高値を示すことを報告し
骨動脈を測定した。運動負荷後は recovery time を 10 秒
た。さらに高齢群では若年群より高い心負荷がかかって
間とし、再度、同じ場所に坐位にて 1 回のみ測定した。除
いる可能性について述べたが、この現象に関しては、PPA
外診断は、過去に陳旧性心筋梗塞や肥大型心筋症の診断
(pulse pressure amplification)が加齢とともに低下を示
があるもの、またエコーでその所見が認められたもの、運
すことから、この PPA の影響が重要な意味をもつと考えら
動負荷試験による陽性ST変化をきたしたものなどとした。
れる。また、高齢の女性など一部を除き、加齢とともに
反射圧波の影響が高くなることや、中心血圧、特に反射
結果
圧波の上昇による左室重量増加の関与も示唆されている。
患者背景では、control 群(94 症例)と LVH 群(45 症例)
そこで、本セッションでは左室肥大(左室重量)の程度
で年齢や性差に有意差は認められなかった。BMI は LVH
が運動時の上腕血圧と中心血圧に及ぼす影響や、左室肥
群が高値を認めており(p < 0 .05)
、運動負荷試験による不
大の状態が PPA に与える影響について検討した結果を報
整脈はcontrol群に多くみられた
(p<0.05)
。hypertension
告する。
は過去に診断を得ていたもの、現在降圧薬を服用中のも
方法
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hypertrophy;LVH)は Devereux and Reichek の式から
のを含め、本試験中も内服は継続した。服用薬は ARB/
ACE 阻害薬、β遮断薬、血管拡張薬、スタチンの内服が
対象は、2009 年 5 月〜 2013 年 5 月に当科にて循環器疾
LVH 群で有意に高くなっていた。心エコー図では EF が
患精査で運動負荷試験を施行した患者(男性 85 例、女性
control 群で特に有意差をもって高値を示し(p < 0 .05)
、
54例の全139症例)
。年齢は15〜80歳
(平均59±13歳)で、
E/A、E/e’ など、拡張障害を示唆するスケールでは有意差
運動負荷試験と安静時の心エコー図検査を 1 週間以内に測
は認められなかった。
定していることを条件に、リクルートメントした。運動
血圧については安静時と運動負荷後の bSBP と cSBP を
負荷試験はトレッドミル運動負荷試験の Bruce 法を用い、
図 1 に 示 し た が、 詳 細 を み る と 安 静 時 の bSBP、cSBP、
年齢別予測最大心拍数の 85% 以上に達していること、簡
PR に関しては両群に有意差がなく、運動負荷後の bSBP
易型ボルグスケールによる 3 段階評価で息切れと下肢疲労
と PR も有意差がなかった。一方、cSBP は LVH 群のほう
を運動終点としたケースを対象とした。運動負荷試験の
が高値を示していた(p < 0 .001)
。PPA の計測では control
陽性基準(0 .1 mV 以上の ST 上昇、0 .1 mV 以上の下降型・
群で高値であった(p < 0 .001)。
水平型ST低下、
0.15mV以上の上行型ST低下)
は除外した。
今 回 は 本 デ ー タ を 男 性 と 女 性 に 分 類 し、LVMI(left
心エコー図の計測項目は、左室拡張末期径、左室収縮末
ventricular mass index)を横軸に、PPA を縦軸で示すと、
期 径、 心 室 中 隔、 左 室 後 壁 厚、 左 室 駆 出 率(modified
男女とも負の相関を示していた(図 2、p < 0 .01)。多変量
simpson 法)
、左室早期拡張流入波 / 心房収縮波
(E/A)、左
解析では男性のみ年齢と BMI、ARB/ACE 阻害薬、高血圧、
室早期拡張流入波 / 僧帽弁輪移動速度(E/e’)
、左室重量、
EF、安静時の bSBP で調整した後も、LVMI が独立した
左 室 心 筋 重 量 係 数 と し た。 左 室 肥 大(left ventricular
PPA の規定因子であることが判明した(p < 0 .01)。一方、
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フィーチャリングセッション 2
図 1 ● 安静時と運動負荷後の bSBP と cSBP
安静時
運動負荷後
(mmHg)
180
180
160
160
140
140
120
p<0.001
(mmHg)
control 群
120
LVH 群
bSBP
control 群
LVH 群
cSBP
図 2 ● LVMI と PPA の相関
女性
2.5
2.5
2.0
2.0
1.5
1.5
PPA
PPA
男性
1.0
0.5
0.0
50
0.5
y=−0.0083x+2.3223
r= −0.45
p<0.01
150
100
1.0
0.0
50
200(g/m2)
y=−0.0052x+1.7868
r=−0.33
p<0.01
LVMI
150
100
200(g/m2)
LVMI
表 1 ● PPA の多変量解析
男性
標準偏差β
女性
p
標準偏差β
p
年齢
− 0.16
0.14
年齢
0.08
0.61
BMI
− 0.12
0.24
BMI
− 0.05
0.71
ARB/ACE 阻害薬
0.05
0.66
ARB/ACE 阻害薬
0.14
0.43
− 0.15
0.18
高血圧
− 0.33
0.09
0.18
0.09
EF
− 0.19
0.19
LVMI
− 0.37
< 0.01
LVMI
− 0.24
0.15
bSBP(安静時)
− 0.01
0.91
0.05
0.73
高血圧
EF
女性では男性のような有意差は認められなかった
(表 1)。
結語
今回は左室肥大(左室重量)の程度が運動時の上腕血圧
bSBP(安静時)
た。LVH 群では control 群と比較して年齢に有意差を認め
なかったが、運動後に同等の上腕血圧であってもより高
い中心血圧を示していた。また、運動負荷後では左室重
量が高いほど PPA の低下が認められた。
と中心血圧に及ぼす影響について検討した結果を報告し
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