4–1 4.5 誘電体とコンデンサー 最初の授業で宣言したように、時間の限られたこの講義で は話を真空中の電磁気学に限り、具体的な物質の電磁気的性 質には立ち入らない方針である。しかし、今回の講義ではコ ンデンサーを取り上げたので、コンデンサーの容量を大きく 増すことができる物質としての側面のみに限定して誘電体を 取り扱う。 高校の教科書でも説明されていたように、絶縁体であってもミクロに見れば原子核と電子、 あるいは正イオンと負イオンといった正負の電荷で構成されている。通常はそれらの正負の電 荷は打ち消し合って中性になっているが、外部から電場が与えられると図のように正負の電荷 が逆方向に少しずれ、外部電場を打ち消す方向の電場を生じる。このため、誘電体を挿入した コンデンサー内の電場は、空間が真空である場合に比べて電場が弱くなるという効果がある。 ○ 真空コンデンサーと誘電体が挿入されたコンデンサー 先ずは、空間が真空中であるときの平行平板コンデンサーの復習から始めよう。電極の面積 を S 、電極間距離を D、電極にある電荷を ±Q とすると、電極間空間の電場はガウスの法則から E0 = [ Q ε0 S 真空という意味で、E0 と している。以下も同じ。 ] と求められる。このとき、電極間の電位差は QD V0 = E0 D = ε0 S ( ) Q S ∴ C0 = = ε0 V0 D となり、コンデンサーに蓄えられるエネルギーは 1 Q2 1 U0 = C0 V02 = 2 2 C0 である1 。 次に、このコンデンサーの電極間が誘電体で充填された場合を考える。誘電体の効果で電場 1 が 倍に弱くなったとし、ε = εr ε0 (∴ ε > ε0 ) と書くことにすれば、上記の諸量がそれぞれ εr E= 1 Q Q = , εr ε0 S εS V = QD , ε S C=ε S , D 1 1 Q2 U = CV 2 = 2 2 C となることが容易に導ける。真空の誘電率 ε0 を誘電体の通電率 ε に置き換えた形になっている。 Q2 < U0 であることに留 C 意しておこう。誘電体が入っている方が蓄えられているエネルギーが少ないので、誘電体を引 き抜くためには何らかのエネルギーをコンデンサーに与える必要がある、ということになる。 ここで、C > C0 であり、(電荷 Q の大きさが同じであると) U = 念のため導いておくと、電極上の電荷が ±q であるときに、さらに電荷 dq 移すのに必要な仕事が Z dW = D 1 E(q)dq D = qdq = qdq 、従って電荷が ±Q であるときに蓄えられているエネルギーは U0 = dW = ε0 S C0 Z Q 2 1 1 1Q = C0 V02 となる。誘電体が充填された状態では ε0 → ε とすればよい。 qdq = C0 0 2 C0 2 1 4–2 ○ 部分的に挿入された誘電体に働く力 図のように、端から距離 x まで誘電体が挿入されたコ ンデンサーを考える。空間が真空である b − x の部分と x の部分を別のコンデンサーであると考えると、電極間 [ ] ただし、全電荷 Q が一定でも V 電位差 V は共通なので は 、そ x の値に依存して変化する。 b a D x れぞれの容量とエネルギーは 真空部: C1 (x) = ε0 a (b − x) , D 1 U1 (x) = C1 V (x)2 2 x 1 , U2 (x) = C2 V (x)2 D 2 と与えられる。従って、それぞれの部分の電荷を Q1 、Q2 とすれば 誘電体部: C2 (x) = ε Q = Q1 (x) + Q2 (x) = C1 V (x) + C2 V (x) = a [ε0 b + (ε − ε0 )x] V (x) D であり、電位差が x の値に応じて V (x) = Q 1 D a ε0 b + (ε − ε0 )x と変化することが分かる。当然ながら x = 0、x = b では前項で得た値 (ただし S = ab) と一致 する。また、 1 1 D 1 1 U (x) = U1 + U2 = (C1 + C2 )V 2 = (Q1 + Q2 )V = Q2 2 2 2 a ε0 b + (ε − ε0 )x なので、誘電体に働く力が F (x) = − ∂U 1 D ε − ε0 = Q2 ∂x 2 a [ε0 b + (ε − ε0 )x]2 (> 0) であることが分かる2 。F > 0 なので、力は x の正の方向、すなわち誘電体が引き込まれる方向 の力である。前項で見たように、この力に反して引っ張らなければ (すなわちエネルギーを与 えなければ) 誘電体を引き抜けないということである。 2 この力と逆の力を与えて電荷を dx 動かすと、電荷に dU = ∂U dx の仕事を与えることになるからである。 ∂x
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