肝細胞癌の血流動態を理解する

監修
ビジュアル de 病態
近畿大学医学部消化器内科 主任教授
工藤 正俊
肝細胞癌は、原発性肝癌の 95%を占める悪性腫瘍である。本邦におけ
る肝細胞癌は主に B 型肝炎ウイルス(HBV)および C 型肝炎ウイルス
(HCV)の持続感染から発症しているが、近年、生活習慣病の増加に伴
い非アルコール性脂肪性肝疾患 (NAFLD) が増加し、その進行性の病
態である非アルコール性脂肪肝炎 (NASH) からの発癌も危険視されて
きている。
肝細胞癌
hepatocellular carcinoma
肝細胞癌の血流動態を理解する
ポイント
肝臓は、肝動脈と門脈の 2 重支配を受けており、正常の肝細胞は動脈から約 30%、門脈から約 70% の血流を受けている。一方、肝
❶ )は腫瘍の脱分化とともに次第に減少していき、ついには消失する(右図)。動脈血流( ❷ )は正常構造の
細胞癌では、門脈血流( 肝動脈が腫瘍の脱分化とともに減少し、やがて腫瘍血管が発達するとともに増加する。肝細胞癌の典型例では、腫瘍を取り囲む血管
から腫瘍内に多数の血管が流入する所見が見られる。
肝静脈
動脈血流
肝細胞癌
肝硬変
異常動脈
❷ 肝動脈
肝がん
肝動脈
門脈血流
門脈
❶ 門脈
肝細胞癌の進展(多段階発癌)と結節内血流の変化
門脈
動脈
良性(DN,RN)70 %
高分化 30 %
Type Ⅰ
結節内に分化度の低い
病巣が発生
Type Ⅱ
高分化 100 %
Type Ⅲ
高分化 80 %
中低分化 20 %
Type Ⅴ
高分化 70 %
高分化+中分化 30 %
Type Ⅳ
結節内の門脈血流はない
16
2014
No. 3
高分化 8 %
中低分化 92 %
結節内の動脈血流は増加
肝細胞癌は慢性肝疾患を反映して、段階を経て癌
化することが知られており(多段階発癌)、前癌病
変(異型結節[DN]や再生結節[RN]など)から境
界病変(良性・悪性境界領域病変)を経て高分化※
な肝癌へと進展していく。それに伴い、腫瘍内血
流も連続的に変化する(左図)。
■TypeⅠ∼Ⅱ
動脈血流および門脈血流の低下に伴い、良性結節
から高分化※型肝癌の占める割合が増加する。
■Type Ⅲ∼Ⅳ
動脈血流の増加、門脈血流の欠損に伴い、中分化※
および低分化※型肝癌の占める割合が増加する。
■TypeⅤ
腫瘍内により分化度の低い病巣が発生し、全体を
置換するタイプもみられる。
※正常形態像をよく保持している高分化型の癌腫は悪性度が低
く、未分化型の癌腫(中・低分化)は悪性度が高い。
DN:dysplastic nodule(異型結節)
RN:regenerative nodule(再生結節)