室蘭工業大学 応用物理コース 応用光学 講義ノート 2015/0220 版 ------------------- 古典電磁気学による、光の性質と物質の光学的性質 ------------------目次 幾何光学---2 物質の光学的性質の概要---49 フェルマーの原理---2 電子振動子模型---52 レンズ---5 ドルーデ模型---55 ドルーデ模型の光学的性質---56 波の性質---7 プラズマ振動---58 ドルーデ模型の光学的性質 ( n, κ の周波数依存性の詳 波の干渉---8 ホイヘンスの原理 干渉および回折現象---9 細)---60 反射型回折格子---13 局所場補正:ローレンツ(Lorentz)の局所電場モデル---64 マクスウェル(Maxwell)方程式---15 クラウジウス-モソッティ(Clausius-Mossotti)の式---70 マクスウェル方程式の導出 ---16 電子振動子模型における、局所電場の効果---71 波動方程式---22 クラマース・クロニッヒの関係式---72 χ (ω ), ε (ω ) の総和則---77 位相速度---23 群速度---25 結晶中での電磁波の伝播 光学的異方性・複屈折---79 §数学的準備・複素数表示---27 索引 85 ポインティング(Poynting)ベクトル・電磁波のエネルギー ---28 物質中の電磁波の基本的性質 (i) 電気伝導度σ = 0 の場合---35 電磁波は横波---36 光の偏光特性---37 (ii) 電気伝導度σ ≠ 0 の場合---40 吸収係数---42 (iii) 境界面での反射率---45 講義では、局所場補正~クラマース・クロニッヒの関係式(p.64-77)は扱いません。興味のある学生は、自主 的に読んで理解してください。 注意:このファイルの著作権は、室蘭工業大学 矢野隆治にあります。ファイルの内容を紙に印刷した後、鉛筆・ ボールペンなどで書き込みしてもかまいません。しかし、著者の許諾なく、ファイルの内容そのものに対して 勝手に書き換え・改変する事は、しないでください。また、間違い・ミスプリントなどが見つかった場合は、 著者(矢野隆治)まで連絡をお願いします。 1 幾何光学 光の波長は、我々が目にする物体の大きさよりもはるかに小さいため、光の波としての性質を無視して、直 線的に進む光線として扱う。このような扱いをする分野を、幾何光学という。 フェルマーの原理 光線がある位置から別の位置へ伝播する時、光線はその時間が極値(極小値)をとるような道筋をたどる. これをフェルマーの原理という。この原理から、2 つの媒質の境界面での、反射、屈折の関係式を導く。 光の反射・屈折 x 軸を境界面として y > 0 の屈折率 n1 、 y < 0 の屈折率 n2 である、2 つの物質の境界面での、光の反射お よび屈折を考える。図のように入射角度θ 、反射角度θ ' 、屈折角度φ を決めた時、それぞれの角度の間に成 り立つ関係式を求める。その際の指針となるのが、 「時間を最短にするように光は伝播し、その結果として、反 射角度、屈折角度が決まる」事である。点 A から点 B へ到る最短経路、および。点 A から点 C へ到る最短経 路を求める。 屈折:屈折率 n j での光の速さを c j = c / n j とする。 A : (0, h1 ) から点 D : ( x,0) 、さらに点 B : ( a ,− h2 ) へ 進むのに掛かる時間 f (x ) は、長さを光の速さで割り、 h12 + x 2 h22 + ( a − x ) 2 + c1 c2 f1 ( x ) = A h1 h3 C θ’ θ n1 で与えられる。 f1 ( x ) を微分すると、 1 x 1 f1 ' ( x ) = − c1 h12 + x 2 c2 g1 ( x) = x h12 + x 2 D x h22 + (a − x ) 2 b φ は、 x の増加に伴い値が増加し、 g1 (0) = 0, g1 ( a ) > 0 である。一方 g 2 ( x) = g 2 (a ) = 0 である。よって、 f1 ' (0) = a 0 a−x a−x h + (a − x) 2 2 2 -h2 1 1 1 1 g1 (0) − g 2 (0) = 0 − g 2 (0) < 0, f1 ' (a ) = g1 (a ) − 0 > 0 、か c1 c2 g c2 c1 0 < x0 < a である点 x0 においてのみ、 f1 ' ( x0 ) = 0 となる。こ れから、0 < x < x0 で f 1 ' ( x ) < 0 であり、 f1 ' ( x0 ) = 0 、さらに x0 < x < a で f1 ' ( x ) > 0 なので、 f1 ( x ) は x = x0 で極小値を取 0 x0 a x f ' ( x) − − 0 + + 1 f1 ( x) 減少 極小値 増加 る。よって、その時、 x0 h +x 2 1 2 0 = sin θ 1 , c / n1 c2 a − x0 h + (a − x0 ) 2 2 B は x の増加に伴い値が減少し、 g 2 (0) > 0 、 つ f 1 ' ( x ) が連続関数である事を考慮すると、 f 1 ' ( x ) は、 1 c1 n2 2 = sin φ c / n2 とすれば、 f1 ' ( x0 ) = 0 の条件から、入射角θ と屈折角φ に関する、次の関係式を得る。 2 f1 ' ( x0 ) = 0 → n1 sin θ = n2 sin φ → sin θ n2 = sin φ n1 反射:点 C : (b, h3 ) とすれば、点 A から点 C へ光が伝播するのにかかる時間は、次の式で与えられる。 f 2 ( x) = h12 + x 2 c1 h32 + (b − x ) 2 + c1 先ほどと同様の考察で、 f 2 ( x ) が極小値を取る条件を求めると、 f 2 ' ( x) = → x 1 c1 h12 + x 2 x h +x 2 1 2 − = sin θ = b− x 1 c1 h32 + (b − x ) 2 b− x h + (b − x ) 2 2 3 =0→ x h12 + x 2 = b− x h32 + (b − x ) 2 = sin θ ' → θ = θ ' となる。すなわち、入射角θ と反射角θ ' は等しい。 反射、屈折角の別の導出方(幾何学的な考察) 反射 右図のように、点 C : (b, h3 ) を、x 軸に対して折り返す。点 C を折り返した点を、点 C ' : (b,− h3 ) をする。また、光線と x = 0 と A h3 θ'’ θ の交点を点 D とする。点 A → D → C と進む経路と、点 A → D → C ' と進む経路は、距離が等しく、かかる時間も同じ C n1 b D 0 である。 n1 さて、 A → D → C ' と進む経路の中で、最も距離が短い、従 って最も時間が短い経路は、3 つの点 A, D, C ' が直線上にある時 C’ -h3 である。この時、入射角θ と反射角θ ' は等しくなっている。 屈折 速さ c の光から見ると、点 A から点 D : ( x,0) まで進むには、縦に h1 、横に x 進む必要がある。一方点 D か ら点 B まで進むには、縦に h2 、横に a − x 進む必要がある。反射の場合と同様に考えて、光線が点 A, B 間を まっすぐに進む事を要求すればよいように見える。 しかしそうすると、 入射角と屈折角が同じになってしまう。 実はこの方法では、屈折率の違い( n1 ≠ n2 )による光学的な距離(屈折率と距離を掛けた値)の違いが全 く考慮されていない。 光が伝播する時間は、 前ページで見たように、 光学的距離を真空中での光の速度 c で割った値で与えられる。屈折 h1 A 率の違いを考慮するため、任意の 2 つの点の間の距離を光学的距離 θ で表わした場合、点 A から点 D : ( x,0) まで進むには、縦に n1h1 、 n1 横に n1 x 進むと考えると良いように思える。しかしその場合、原点 0 と点 D 間の水平方向の光学的な距離 0 D が、一方で n1 x 、他方で D 0 a x n2 x となるため、 n1 = n2 でなければ矛盾する事になる。 よって、この方法では、入射角と屈折角が一般に異なる事を説明 できない。 3 n2 -h2 φ B 乱反射 普通、物体の表面には。細かな凸凹があり、入射した光線は全てが同 じ方向に反射されるわけではない。それぞれの光線で入射光に対する反 射角度が決まり、反射角度がいろいろの値をとるため、反射光は、あら ゆる方向に反射される。このような反射を乱反射という。 逆進性 光がある点 P から点 Q へ進む時、光は、点 Q から点 P へ、P から Q に到達した際に通ったのと同じ光路を 逆向きに進む事も出来る。これを光の逆進性という。 見かけの深さ 水中の物体を空気中から見ると、実際の深さよりも浅く見える。これにつ θ’ 空気 1 Q O いて考察する。 右図のように、水中にある物体 P から出た光線が、水と空気との境界面と h’ 交差する点を Q とする。点 Q を通る光線が我々の眼に入る。しかし、光線は θ h 点 P' からやって来たと我々は考える。 P’ 物体 P を通る境界面に対する垂線が、境界面と交差する点を O とする。物 体 P から出た光線が水と空気の境界面に入射する角度をθ、空気中で屈折す 水 n P る角度をθ ' とする。空気の屈折率=1、水の屈折率= n とする。 図から、角度 ∠OPQ = θ , ∠OP ' Q = θ ' である。 OP = h, OP ' = h ' とし、 OQ の長さを x とする。 x x h' x / tan θ ' tan θ = tan θ , = tan θ ' → = = h h' h x / tan θ tan θ ' θ , θ ' が十分小さければ、 sin θ ~ tan θ , sin θ ' ~ tan θ ' が成り立つことを利用し、 sin θ 1 h' tan θ = ~ = , note : n sin θ = sin θ ' (p.2 の最後の式を見よ) h tan θ ' sin θ ' n を得る。 n ~ 1.3 では、 h' = h / n ~ h / 1.3 となり、水中の物体は実際よりも浅く見える。 4 レンズ 光軸:レンズの中心部を通り、レンズの面と垂直な線を光軸という。 凸レンズ:中央部が厚く、周辺にいくほど厚さが薄くなっているレンズ。 凹レンズ:中央部が薄く、周辺にいくほど厚さが厚くなっているレンズ。 凸レンズの性質 ① 凸レンズの軸に平行な光線は、レンズを通過後、軸上の一点(焦点)を通る。焦点はレンズの両側にあり、 レンズからの距離は同じである。レンズと焦点との距離を、焦点距離 f と言う。 ② 焦点を通過して凸レンズに当たる光線は、凸レンズを通過後、軸と平行に進む。 ③ 凸レンズの中心を通過する光線は、レンズ通過後も、その向きを変えない。 これらの性質を利用すると、凸レンズによる像の作図を行う事ができる。 f f ① 光軸 ③ ② 焦点 焦点 レンズの公式 1 1 1 + = a b f a b f f 物体がレンズから距離 a の場所にあると しよう。物体がレンズから距離 a の位置に あるとして、 a > f なら実像ができ、 a < f なら、虚像ができる。 像の作図 1)実像の場合 物体のレンズからの距離を a とする。凸レンズの焦点距離は f > 0 であり, a > 0 である.光線 ①,③で 作図すると,図において a > f であれば倒立像が得られる。 物体に対する像の大きさ・倍率は、以下のようにして求まる。図において、三角形 OAB と OA' B ' は相似で ある。よって、物体の大きさを h 、像の大きさを h' とすれば、 大きさの h ' / h 比は、 h' b = h a となる。これが、物体に対する a 物体 b f f A B’ 像 h O B h’ A’ 像の倍率である。 5 2)虚像の場合 0 < a < f であれば、正立像が得られる。レンズを覗き込むと像が見えるので、その像を虚像という。この 時 b の値は、レンズの公式 A’ 1 1 1 + = a b f より求まり、 b < 0 である。この場合、像(虚 像) はレンズをはさんで物体と同じ側に出来る。 h’ A P h 図で、右の焦点の位置を F 、レンズで点 A と 同じ高さの所を点 P などとする。図において三 f f 虚像 物体 B’ 角形 FA' B' と FPO は、相似にある。よって、 O F B a |b| 物体に対する像の大きさの比(倍率)は、 |b| h' | b | + f = =1+ >1 h f f で与えられる。これが、虫めがね(ルーペ)で物体が拡大される(像が大きく見える)理由である。 凹レンズの性質 ① 凹レンズに平行な光線が、凹レンズを通過した後の経路を逆向きに延長すると、軸上の一点(焦点)を通 る。焦点は、レンズの両側にあり、レンズからの距離は等しい。 ② 凹レンズの向こう側の焦点に向かって進む光線は、凹レンズを通過後、光軸に平行に進む。 ③ 凹レンズの中心を進む光線は、その向きを変えない。 f ② f ③ ① 像の作図 物体の位置が焦点距離よりも(a)短い時、(b)長い時の光線の結像を図に示す。像は焦点を結ばないので、 全て虚像である。(a)(b)共に像は正立であるが、像の大きさは物体よりも小さくなっている。 (a) f f (b) 物体 虚像 f 物体 6 虚像 f 波の性質 水や空気のように、波・振動を伝える物質を媒質という。媒質中のある場所(波源)に振動が生じると、そ の振動に少し送れて隣の場所が振動する。これが隣から隣へと、次々と振動が伝わる。この現象を、波・波動 という。連続して振動している波のうち、波形が正弦曲線(サイン関数)で表される波を正弦波という。正弦 波が伝わる時、媒質の各点は波源の振動と同じ振動をする。 一直線上を波が伝わる時、媒質の各点は、波源と同じ振動をする。媒質の振動の周期(1 回振動する時間) を波の周期 T (s) 、媒質が振動する速さ(1 秒間に何回振動するか)を振動数または周波数 f ( Hz ) = f (1/s) と いう。T = 1 / f の関係がある。角振動数または角周波数ω は、ω = 2πf で定義されている。また、媒質の振 動の大きさを、波の振幅 A( m) という。また、正弦波において、隣り合う山と山の頂点の間の距離 λ ( m ) を波 長という。なお、以下では、 f を周波数と呼ぶ事にする。ω は角周波数と呼ぶが、省略して周波数と頻繁に呼 ぶ。 f とω が記号で区別できるので OK。 波 の 高 さ 時間の経過と共に、波は移動する。波が 1 回振動 する間に、波は 1 波長だけ移動する。したがって正 弦波の進む速さ v ( m/s) は、 v( m/s) = fλ ( m/s) で 波長 λ 振幅 A 位置 ある。 波が x 軸を正の方向に伝播しているとする。波の速さが v ( m/s) なら、原点から距離 x ( m ) まで振動が伝わ るのに x / v (s) 時間が掛かるので、位置 x ( m ) における変位は、時刻 t − x / v (s) での原点の変位に等しい。 し たがって原点での波を y ( x = 0, t ) = A sin(ωt ) とすれば(3 角関数は、周期 2π で元の値に戻 波 る。周期 T の時間が経過すれば、元の値に戻る 高 必要あり) 、点 x まで波が伝わるまでに、時間 さ の 位置 x / v かかるので、点 x での波は、原点での波の 振動に対して、時間 x / v だけ遅れる。よって、 点 x での波は、 k = ω / v とおいて、 y ( x, t ) = A sin ω t − x ω = A sin ωt − x = A sin (ωt − kx ) v v となる。ここで、 k = ω / v = 2πf /( fλ ) = 2π / λ を波数と言う。また、3 角関数の中の項 x v ω t − , ωt − ω v x, ωt − kx を位置 x ( m) における位相という。位相が 2π 変わるごとに、振動の変位 y ( x, t ) が元の値に戻る。 7 波の干渉 2 つ以上の波を重ね合わせた時に、波が強めあったり、弱めあったりする現象を干渉という。今、振幅が同 じ 2 つの波 f1 (t ) = A sin(ω t ) 、 f 2 (t ) = A sin(ω t + φ ) の波の合成(干渉)を考える。「2 つの波による媒質 の変位は、それぞれの波による変位の合計に等しい」という、重ね合わせの原理が成り立つ。よって、観測点 における波の位相がそろっていれば(ω t = ω t + φ → φ = 0 )、合成された波 f (t ) = f1 (t ) + f 2 (t ) は、 f (t ) = A sin(ω t ) + A sin(ω t ) = 2 A sin(ω t ) (1) となり、波の振幅はさらに大きくなる。一方、位相差が180度異なれば(φ = π )、 f (t ) = A sin(ω t ) + A sin(ω t + π ) = 0 (2) となり、下の図のように振幅はゼロとなる。 位相が180度異なる波の合成 また、位相差φ が 0 、π 以外の場合は f (t ) = A sin (ω t ) + A sin (ω t + φ ) = A 2 + 2 cos φ sin (ω t + α ) (3) となり、振幅は位相 差φ に依存して、 A 2 + 2 cosφ となる。ただし、 sin φ 1 + cos φ α = tan −1 (4) である。[(3)(4)の計算: sin (ω t + φ ) を展開し、1 + cos φ = B cos α , sin φ = B sin α とおいてみよ。] f (t ) が光の波である場合、その周波数ω / 2π が非常に大きい(可視光で1013 Hz程度)ため、人間の目で感じる ことが出来るのは光の強度である。光強度 I は、 f (t ) の振幅の2乗に比例する。位相がそろっている2つの波が干 渉した場合、(1)式より、光強度は I ∝ 4A となり、光波が1つのときの4倍となり、位相が180度異なる波の干 2 渉では、光強度はゼロになる。それ以外の場合は(4)式より I ∝ (2 + 2 cos φ )A2 (5) となり、2光波の位相差φ に依存して光強度が変化する。なお、光を含む電磁波の強度が振幅の2乗に比例する事 は、ポインティングベクトルの項(p.30)で説明する。 8 ホイヘンスの原理 干渉および回折現象 ホイヘンス(Huygens)の原理 波動の伝播とは、何らかの振動(水面の振動、空気密度の振動、弦の振動、電磁場の振動など)が、媒質を次々 に伝わる現象である。振動する場所を波源という。波動の伝播をホイヘンスの原理に従って説明する。下の図 において,波面 Σ 1 , Σ 2 , Σ 3 は点線で示されている。 2次波の合成波面 2次波の合成 波面 Σ3 Σ2 Σ1 (a) (b) Σ Σ1 2 Σ3 ホイヘンスの原理による波の伝播 球面波 (a)球面波の場合,(b)平面波の場合 平面波 ある時刻に波面が波面 Σ 1 の所まで進んできたとすると、今度はその波面上の各点が点源となり無数の新し い球面波(2 次球面波)が放出される。この 2 次球面波は、互いに重なった点での振幅が同じ向きの場合に、 初めて波となる。したがって 2 次波の包絡面が新しい波面,波面 Σ 2 となる。すぐ近くの位相の等しい波の点 を結んだ時、できた等位相面が直線になっていれば、その波を平面波という。 この説明では, 点源から出る波の重ね合わせでできる波面が存在するため、 元に戻る波面も生じる事になる。 しかし実際は、元に戻る波面は存在しない。 (キルヒホッフ(Kirchhoff)は、後退する波動も考慮し、元に戻る 波面が存在しない事を示した。 この説明は、 例えば、 砂川重信 理論電磁気学 (紀伊国屋書店) 第 8 章 電磁波 §6 電磁波の回折、Huygens の原理にある。 ) 波源から十分に遠方の波動では、波面は狭い範囲内では平面とみな せる。したがって,十分遠方では広い範囲にわたり、近似的に平面波とみなせる。 (地球の表面も丸いが、私た ちの体の大きさからすれば、十分平面である。これと同じ。 ) ヤング(Young)の干渉実験 2 つ以上の波が同時にある点で重なり、山同志あるいは谷同志の波が重なると互いに強めあい、山と谷とが 重なると弱めあう。この現象を干渉という。隣り合う山同志あるいは谷同志の間隔が波長λである。 ヤング(Young)の干渉実験では、下の図にあるように、点光源 S が、光が少し透過するような小さな隙間(ス リット) S1 , S 2 (スリット同士の間隔 a )から等距離にある場合の、スクリーン上の点 P における光の強度を 考える。 波長 λ の単色の点光源 S により照射される 2 点 S1 , S 2 では、光 の振動は同位相であるとする。 S1 , S 2 からの球面波がスクリーン 上で重なりあう。距離 S1 P と S 2 P との差が光の波長の整数倍の とき、2 つの光は強く干渉し、スクリーン上で明るい部分になる。 P 点での時間平均した光強度 I (x) は、a << L および x << L を 満足すれば、 9 P(x) S S1 θ S2 L x 2πa I ( x ) ∝ 1 + cos x λL で与えられる。よって、スクリーン上での光強度の明暗の周期 ∆x は、次式で与えられる。 λL 2πa ∆x = 2π → ∆x = λL a 電場の可干渉性 2 つの光電波が互いに干渉するか否か(可干渉であるかどうか)は、以下の例で考えよう。Young の実験と 類似の光源などの配置を考える。2 つの点光源 S1 , S 2 から出伝播した光電場がスクリーン上で干渉するとしよ う。2 つの電場の振幅、 (角)周波数、波数が同じで、それぞれ E0 , ω , k = 2π / λ であるとし、 S1 , S 2 からスク リーン上のある点 P までの距離をそれぞれ x1 , x2 とする。その時、スクリーン上での光電場 E1 (t ), E2 (t ) がそ れぞれ次式で与えられるとする。 ( c.c. は、複素共役を意味する。x を実数として、exp(ix) = cos( x) + i sin( x) が成り立つ。 ) E1 (t ) = E0 exp[−i (ωt − kx1 − φ1 )] + c.c. E2 (t ) = E0 exp[−i (ωt − kx2 − φ2 )] + c.c. その時、この 2 つの電場の干渉によるスクリーン上の光電場の強度は、光強度が光電場の 2 乗で与えられる事 (p.30 を参照。ここでは、とりあえず認めよう。また、p.28 の結果(最後の式)を利用する)から、 E ( P( x), t ) = E1 (t ) + E2 (t ) → I (t ) ∝ E (t ) 2 I (t ) ∝ ( E1 (t ) + E2 (t ))2 ∝ ( E0 exp[−i (ωt − kx1 − φ1 )] + E0 exp[−i (ωt − kx2 − φ2 )] × ( E0 exp[i (ωt − kx1 − φ1 )] + E0 exp[i (ωt − kx2 − φ2 )]) = E02{2 + exp[−i (k ( x1 − x2 ) + φ1 − φ2 )] + E0 exp[i (k ( x1 − x2 ) + φ1 − φ2 )]} = 2 E02 [1 + cos(k ( x1 − x2 ) + φ1 − φ2 )] | さて、電場の位相の中の定数項φ1 , φ2 が時間的に安定なら、スクリーン上の光強度の明暗は、差 x1 − x2 が周 期 2π / k = λ で明暗となる干渉縞を示す事がわかる(図は、φ1 = φ2 の場合を示す。 ) 。つまり、Young の実験 において、異なる 2 つの光源 E1 (t ), E2 (t ) を用いた場合でも、同じ波長(周波数)の光源、かつφ1 − φ2 = 定数 であれば、スクリーン上にきれいな干渉縞(光強度の明暗)を観測する事が可能である。このように干渉縞が きれいに見える場合、2 つの光電場は、互いに可干渉である(コヒーレンスがある)という。しかし、φ1 , φ2 が 全く相関なくすばやく時間変動する場合、干渉縞の明暗の模様はスク リーン上で激しく移動するため、干渉縞が観測されない。このような 時、それらの光電場は、互いに干渉しない(コヒーレンスがない)と x1 S1 10 P E2 (t ) いう。 S2 E1 (t ) x2 単一スリットによる回折 波が障害物に当たったとき、波が障害物の裏側に回りこむ現象を回折という。 右図の A ように、小さな隙間AB(スリットという)を通過した光は障害物の裏側にも伝播し、ス B リットの端Aのそばを通った光と、Bのそばを通った光が干渉することで、P点の光の 強さは、干渉の条件(位相差)により変化する。 P 今、下の図のように、幅 a のスリットを通過して、十分遠方( L >> a )にあるス スリットによる回折 クリーンでの光強度の分布を考える。スクリーン上での点 P における光強度は、幅 a のスリット上の任意の点から点 P に来る全ての光の干渉の結果、与えられる。下の図 で、点 P 、スリットの中心、およびスクリーンの中心で作られる角度をθ とする。この時 x << L として、スク リーン上の点 P での光強度は、以下の式で与えられる。 I (x ) ∝ sin 2 πa x λL x2 P(x) a A x θ B -4λL a -2λL a 0 2λL a 4λL a L スクリーン上での光強度分布 単スリットでの回折 スリットによる光電場の干渉 計算 平面波である光電場が、スリットに垂直に入射する場合を考えよう。また、a / L << 1, x / L << 1 が成り立つ とする。パラメーターは、単一スリットのすぐ上の図と右図を参照のこと。 スリット AB 上での光電場は、場所によらず全て同 位相で、E (t ) = A sin(ωt ) の時間依存性を持つとしよ う。点 A, B の中点を原点 O とする。スリット AB 間 A の、原点 O から距離ξ 離れた点を Q(ξ ) とする。ξ < 0 P R は原点 O から点 A に向かう向きであり、ξ > 0 は原点 O から点 B に向かう向きである。この定義に従うと、 A = Q(ξ = −a / 2) 、 B = Q(ξ = a / 2) である。 原点 O = Q(ξ = 0) からスクリーン上の点 P までの 距離を R とすれば、任意の点 Q(ξ ) からスクリーンま での距離は、R + ξ sin θ で与えられる。よって、スリ ット上の任意の点 Q(ξ ) での光電場が E sin(ωt ) であ るなら、点 Q(ξ ) から点 P に到達する光電場は、スリ a θ O ξsinθ Q(ξ) L B 11 ット上の光電場より時間 ( R + ξ sin θ ) / c だけ遅れる。ここで c は光電場の速度である。 以上の事柄を考慮すると、スリットを通過後、スリットに垂直な方向からθ だけ傾いた方向に進む光電場は、 次の式で与えられる。(すぐ右上の、単一スリットの図を参照) E (θ ) = +∞ ∫ A sin ω t − −∞ R + ξ sin θ ρ (ξ )dξ c +∞ ω sin θ R = − ∫ A sin ξ − ω t − ρ (ξ )dξ c c −∞ (1) ここで、 ρ (ξ ) はスリットの分布関数であり、以下のようになる。 (i)単一スリット (スリット幅 a ) ( − a / 2 ≤ ξ ≤ a / 2) 1 (ξ < − a / 2, a / 2 < ξ ) 0 ρ (ξ ) = (2) (ii)二重スリット(スリット間隔 a 。スリット自体の幅は十分小さいとする。) ρ (ξ ) = δ (ξ − a / 2) + δ (ξ + a / 2) δ 関数の性質: ∫ +∞ −∞ δ (x) はDiracのδ 関数 (3) f ( x)δ ( x − x0 )dx = f ( x0 ) それぞれの場合について、 E (θ ) と光強度分布 I (x ) を求めよう。 (i)単―スリットの場合 微小な幅 dξ のスリットが、ξ = − a / 2 からξ = + a / 2 まで並んでいると考え、積分する。(2)式を(1)式に代 入して積分を計算する。 x / L << 1 として、 sin θ ≈ θ ≈ x L の近似、および λ = 2π c / ω を用いると、 a/2 ω sin θ ω sin θ Ac R R E (θ ) = − ∫ A sin ξ − ω t − ξ − ω t − ⋅1⋅ dξ = − − cos ω sin θ c c −a / 2 c c −a / 2 a/2 = Ac ω sin θ ω a sin θ ωa sin θ R R cos − ω t − − cos − − ω t − 2c c c 2c ここで、 cos(a − b) − cos(a + b) = (cos a cos b + sin a sin b) − (cos a cos b − sin a sin b) = 2 sin a sin b を用い、 E (θ ) = ωR 2cA ω a sin θ sin (4) sin ωt − c ω sin θ 2c となる。光強度は電場の2乗の1周期分の時間平均に比例するから、T = 2π / ω として、 2 T ωR 2c 2 ω a sin θ 1 2 sin ) dt = A ∫ sin ω t − dt c 2c T 0 ω sin θ π a sin 2 x 2 2 λ L Aa = − − − (5) 2 2 π a x λL T 1 I (θ ) ∝ ∫ E (θ T0 2 となる。 (5)式で、比例係数を省略すると(6)式が得られる。 12 π a sin 2 x λ L I (x ) ∝ x2 (6) (ii)二重スリットの場合 (i)と同様に(3)式を(1)式に代入して、積分を行う。 E (θ ) = +∞ ∫ A sin ω t − −∞ R + ξ sin θ [δ (ξ − a / 2) + δ (ξ + a / 2)]dξ c R + (a / 2) sin θ R − (a / 2) sin θ = A sin ω t − + A sin ω t − c c = A sin(ω t '+φ ) + A sin(ω t '−φ ) : t ' = t − R / c,φ = ω a sin θ /( 2c) ω a sin θ = 2 A sin(ω t ' ) cos φ = 2 A sin[ω (t − R / c)] cos 2c ω a sin θ = 2 A cos − − − (7) ⋅ sin[ω (t − R / c)] 2c 光強度分布は(7)式を2乗して時間平均をとれば得られる。 x / L << 1 として、 sin θ ≈ θ ≈ x L の近似、および λ = 2π c / ω を用いると、 πa 2πa I (x ) ∝ A2 cos 2 x ∝ 1 + cos x λL λL (8) となる。 反射型回折格子(Grating) 反射型回折格子は非常に幅の狭い多数の溝が刻まれた鏡である。光が回折格子に入射すると、回折格子に刻ま れた溝によって、光はさまざまな方向に回折される。しかし、ある条件を満足する方向に、特に強く回折される。 ある波長 λ の平面波の光が、格子間隔 d の回折格子に、入射角度θ in で入射し、出射角度θ out で回折格子から 出てくる場合を考えよう。 ② ① θout θ d θin θout ② ① 反射型回折格子の模式図 θin、θout と d の関係 13 光が回折格子に入射する時は、②の光線の光路が①の光線よりも d sin θ in(青い線分)だけ長い距離を移動する。 一方回折格子からの出射時は、①の光線は、②の光線よりも d sin θ out (赤い線分)だけ長い距離を移動する。 よって、入射・出射時の距離の差をとると、 d (sin θ out − sin θ in ) = m ⋅ λ (m は整数) (1) を満たす方向θ out には、異なる溝からの光が干渉して強め合い、強い回折光が観測される。逆に(1)を満たさな いような方向では干渉の結果弱め合い、特に右辺= ( m + 1 / 2)λ の時、光強度は非常に弱くなる。 m = 0 の時は 波長にかかわらずθ out = θ in であり、これは鏡面反射に等しい。分光において特に重要になるのは m = ±1 に相 当する回折光(1次の回折光とよばれる)である。いま m = +1 とすると、 d (sin θ out − sin θ in ) = λ (2) であり、 sin θ out − sin θ in を変化させることによって、異なる波長 λ を選択することができる。 この原理を利用したのが回折格子型分光器である。 下の図に分光器の構造を示す。入射スリットを通過した光 はコリメートミラーで平行光となり、回折格子に入射する。回折角は波長によって違うため、回折光は射出面で は異なる位置に集光される。射出面にスリットをおくことで一つの波長成分のみを取り出すことができる。 入射スリット コリメートミラー 回折格子 射出スリット 集光ミラー 回折格子型分光器の構造 14 マクスウェル(Maxwell)方程式 光は電磁波の一種である。以下で、電磁波のマクスウェル方程式の導出と説明を行う。マクスウェル方程式は、 次の(1)~(4)までの式をいう。(5)~(7)は、補助的な関係式。 ( D, E , H , B, P, i は 3 次元ベクトル) ∂B ∂t ∂D rot H − =i ∂t div D = ρ div B = 0 rot E = − (1) D = εE (5) D : 電束密度、E : 電場、H : 磁場、B : 磁束密度 ( 2 ) B = µH i = σE ( 3) (6) (7) ρ : 電荷密度、i : 電流密度 ε : 誘電率、µ : 透磁率、σ : 電気伝導度 (4) 真空中での値: ε 0 = 8.854 × 10 −12 (F/m), (C/V ⋅ m), µ0 = 4π × 10 −7 (H/m), (T ⋅ m/A) D = ε0E + P P :分極ベクトル 物質中に生じた単位体積あたりの電気双極子(微小な領域での平均をとろう) P ∝ E → P = ε 0 χE 、 ε = ε 0 (1 + χ ) 、 χ :電気感受率 (異なる定義もある。 ε 0 χ :電気感受率 χ :比誘電率) B = µ0 H + I I :磁化ベクトル 物質中に生じた単位体積あたりの磁気双極子 I ∝ H → I = µ0 χ m H 、 µ = µ0 (1 + χ m ) 、 χ m :磁気感受率、磁化率 (異なる定義。 µ 0 χ m :磁気感受率、磁化率 χ m :比磁化率) P , I の起源:外部から物質に電場 E 0 を加えると、それに応じる形で、原子内の原子核と電子の位置の平衡点 からのずれや、正イオンと負イオンとの位置の平衡点からのずれなどが生じる。このような正負のイオンや原 子核・電子の位置のずれを電気双極子といい、 p で表す。電荷 − q から電荷 + q へ向かう位置ベクトルが r の 時、 p = qr で与えられる。単位体積あたりの電気双極子 p を全て集めた量(ベクトル)を、分極 P で表す。 磁気双極子も同様に考える。外部から掛けられた磁場 B0 により誘起される単位体積あたりの磁気双極子を I で表わす。 補足:分極のとらえ方 単位体積[ m ]あたりの電気双極子[ c ⋅ m ]は、その単位で見ると、 c ⋅ m/m = c / m となる。つまり、分極 3 3 2 は、単位体積あたりの電気双極子ベクトルの和として定義もできるし、外部電場によって電気双極子が出来た 時の単位面積当たりの電荷の量としても定義もできる。 3次元ベクトルA( x , t ) = ( Ax ( x , t ), Ay ( x , t ), Az ( x , t )) に対して、div, rotは以下の演算 ∂Ax ( x, t ) ∂Ay ( x , t ) ∂Az ( x, t ) + + ∂x ∂y ∂z ∂ ∂ ∂ ∂ [rotA( x, t )]x = Az ( x, t ) − Ay ( x, t ), [rotA( x, t )] y = Ax ( x, t ) − Az ( x, t ) ∂y ∂z ∂z ∂x ∂ ∂ [rotA( x, t )]z = Ay ( x, t ) − Ax ( x, t ) ∂x ∂y divA( x, t ) = 15 マクスウェル方程式の導出 以下で、(1)~(4)のマクスウェル方程式の導出を、実験結果から行う。 ガウス(Gauss)の法則 真空中で、原点 O に電荷 q ( > 0) の点電荷がある。それから距離 r 離れた位置での電場の大きさ E は E= 1 q 4πε 0 r 2 であり、電場の向きは、原点から外向きである。この電場を、半径 r の球で囲む。球の面積は 4πr なので、 2 E ⋅ 4πr 2 = 1 q q ⋅ 4πr 2 = → ε 0 E ⋅ 4πr 2 = q 2 4πε 0 r ε0 電場 E の向きは常に外向きなので、半径 r の球の表面での、面に垂直な外向きの単位ベクトルを n とすれば、 その点の球の微小面積を dS として、 ∫ε 0 E ⋅ ndS = ∫ ε 0 S S 1 q 1 q r ⋅ ndS = ∫ ε 0 dS = q → ∫ ε 0 E ⋅ ndS = q 3 4πε 0 r 4πε 0 r 2 S S とかける。この結果を一般化すると、閉曲面 S で囲まれた領域V において、 n 電荷分布が ρ ( x ) で与えられる時、 ∫ E ( x ) ⋅ ndS = ∫ S V E x ρ ( x) dV ε0 O を得る。さて、閉局面 S で囲まれた領域V でガウスの定理: ∫ S A( x ) ⋅ n( x )dS = ∫ V divA( x )dV が成り立つ。 ここで、 A( x ) は任意のベクトルである。関係式 D( x ) = ε 0 E ( x ) を用いて電束密度 D( x ) の式に書き換え、 さらにV は任意に取れる事から、被積分関数同士が等しくなければならない。よって、次のガウスの法則の微 分形を得る。 ∫ε 0 E ( x ) ⋅ ndS = ∫ div[ε 0 E ( x )]dV = ∫ divD( x )dV = ∫ ρ ( x )dV → divD( x ) = ρ ( x ) S V V V 真空中で、原点 O に磁荷 qm (> 0) の点磁荷がある。それから距離 r 離れた位置での磁場 H の大きさ H は H= qm 4πµ0 r 2 1 であり、磁場 H の向きは、原点から外向きである。この磁場を、半径 r の球で囲む。球の面積は 4πr なので、 2 H ⋅ 4πr 2 = 1 qm q ⋅ 4πr 2 = m → µ0 H ⋅ 4πr 2 = qm 2 4πµ0 r µ0 磁場の向きは常に外向きなので、半径 r の球の表面での、面に垂直な外向きの単位ベクトルを n とすれば、そ の点の球の小面積を dS 、磁束密度 B ( x ) = µ0 H ( x ) の関係式を用いると、電荷の場合と同様の計算で、 ∫ µ H ( x ) ⋅ ndS = ∫ µ 0 S S 1 0 qm 1 qm r ⋅ ndS = ∫ dS = qm → ∫ µ0 H ( x ) ⋅ ndS = ∫ B ( x ) ⋅ ndS = qm 3 2 π 4πµ0 r 4 r S S S を得る。さて、単磁極のみ(N 極のみ、または S 極のみ)は見つかっていない。よって qm = 0 であり、 16 ∫ µ H ( x ) ⋅ ndS = ∫ B( x ) ⋅ ndS = 0 0 S S である。これは非常に単純な場合であるが、これがガウスの法則の積分形である。微分形は、次のとおり。 divB ( x ) = 0 まとめると、 divD( x ) = ρ ( x ), divB ( x ) = 0 以下では、電磁場に時間依存性を認め、 E ( x , t ) 、 B ( x , t ) 等と書いて議論する。 ファラデー(Faraday)の電磁誘導の法則 閉じた導線回路の近くにある磁石が動くと、回路内に電流が流れる。回路の抵抗 R 、電流の大きさ I 、起電 力をφ とし、閉回路で囲まれる任意の曲面 S を貫く磁束を N とした時、 n dN φ = RI = − dt B (1) C で与えられる。この式は、実験より得られた式である。磁束の変化のあ る空間に導線回路があれば、磁束の変化により誘起された電場により、 回路内に電流が流れる。 dr N 真空中の閉曲線 C によって囲まれる磁束の時間的変化により電場 E ( r , t ) が発生する。この電場 E ( r , t ) により、点電荷 e には、F = eE の力が作用する。r は、閉曲線 C 上の 点。この力の作用に抗って、点電荷 e が閉曲線 C を 1 周すれば、外部にする仕事の量は e ∫ E ( r , t ) ⋅ dr C である。ここで積分は閉回路を反時計回りに 1 回りする積分。起電力φ に電荷 e を掛けた値が、電場が電荷に する仕事量なので、次式が成り立つ。 φ = ∫ E ( r , t ) ⋅ dr (2) C 磁束 N は、磁束密度 B( x, t ) の、閉曲線 C で囲まれる任意の曲面 S 上の面積分で表される。 N = ∫ B ( x , t ) ⋅ ndS (3) S ここで、 x は曲面 S 上の点を表わす。 (1)が成り立つので、 ∂ ∫ E (r , t ) ⋅ dr = − ∂t ∫ B( x, t ) ⋅ ndS C (4) S となる。ストークス(Stokes)の定理: ∫ C A(r ) ⋅ dr = ∫ rotA( x ) ⋅ ndS を E ( x ) に対して用いると、 S d ∫ E (r , t ) ⋅ dr = ∫ rotE ( x, t ) ⋅ ndS = − dt ∫ B( x, t ) ⋅ ndS C S S 17 (5) が成り立つ。曲面 S を固定すると、積分領域は時間と共に変わる事はないので、右辺の時間変化は B( x, t ) の 中の t で与えられる。 (注意: x は単なる積分変数。時間に依存する変数ではない。 )よって、以下のように時 間微分を積分の中に入れる事ができる。 − d ∂B ( x , t ) B ( x , t ) ⋅ ndS = − ∫ ⋅ ndS ∫ dt S ∂t S (6) (5)~(6)から、 ∂B ( x , t ) ∂B ( x , t ) ⋅ ndS → ∫ rotE ( x , t ) + ⋅ ndS = 0 (7) ∂t ∂t S S ∫ rotE ( x, t ) ⋅ ndS = − ∫ S 積分領域 S は任意なので、この式が常に成り立つためには、被積分関数がゼロである事から、次式を得る。 rotE ( x, t ) + ∂B( x, t ) = 0 (8) ∂t アンペール(Ampere)の法則 定常電流のまわりの真空中に、静磁場が発生する。実験によると、電流 I とその 周りに出来る磁束密度 B との間には、 ∫ B ( r ) ⋅ dr = µ I 0 (1) drr C の関係式(定常電流なので、 B (r ) に時間依存性は無い。 )が成り立つ。ここで線積分は、電流の周りを一回り する任意の閉曲線 C 上の線積分であり、 r は径路 C 上の点である。 閉曲線 C で囲まれる任意の曲面 S での電流密度を i ( x ) とすると、 x を曲面 S 上の点として、 I = ∫ i ( x ) ⋅ ndS (2) i(x) S が成り立つ。 (1) (2)より、 ∫ B(r ) ⋅ dr = µ ∫ i ( x ) ⋅ ndS 0 C n(x) S (3) dr S となる。 この関係式にストークスの定理 B (r ) ⋅ dr = rotB ( x ) ⋅ ndS を適用し、 ∫ ∫ C S ∫ B(r ) ⋅ dr = ∫ rotB( x ) ⋅ ndS = µ ∫ i ( x ) ⋅ ndS → ∫ (rotB( x ) − µ i ( x )) ⋅ ndS = 0 (4) 0 C S 0 S S をえる。曲面 S の取り方は任意なので、この式が常に成り立つためには、被積分関数がゼロである事すなわち、 rotB( x ) = µ 0 i ( x ) (5) である。これが時間変化する電流 i ( x, t ) に対しても成立する事を要請すると、以下の式を得る。 rotB( x , t ) = µ 0 i ( x , t ) (6) 18 電荷の保存則 電荷の総量はいかなる物理的過程においても一定不変である。この事を式で表そう。空間内に閉曲面 S で囲 まれた領域 V を考える。閉曲面 S の外向きの法線方向の単位ベクトルを n( x ) とする。S を通って、外からこ の領域に流れ込む電荷の量は、電流密度を i ( x , t ) とすると、単位時間当たり、 − ∫ i ( x , t ) ⋅ n( x )dS (1) n S である。 n( x ) の方向を外向きにとったから、この領域に流れ 込む量には(マイナス)の符号をつける。 S x i 電荷の総量が不変であるという事は、V 内に流れ込んだ電気 がどこにも失われずに、そのまま V 内における電荷の量の単位時間当たりの増加量(あるいは、増加の割合) に等しくなる事を意味する。この関係は、次式のとおりである。 d ρ ( x , t )dV = − ∫ i ( x , t ) ⋅ n( x )dS dt V∫ S (2) 閉曲面を固定(時間的に変化しない閉曲面を仮定)すると、右辺の時間変化は ρ ( x , t ) の中の t で与えられる。 よって、時間微分を積分の中に入れる事ができるので、 ∂ρ ( x , t ) d ρ ( x, t )dV = ∫ dV ∫ dt V ∂t V となる。Gauss の定理 ∫ S (3) A( x ) ⋅ n( x )dS = ∫ V divA( x )dV を i ( x , t ) に対して用いると、 ∫ i ( x, t ) ⋅ n( x )dS = ∫ divi ( x, t )dV S (4) V となるので、 ∂ρ ( x , t ) + divi ( x , t ) dV = 0 (5) ∂t V ∫ をえる。領域 V は任意にとれるので、この式が常に成り立つためには、被積分関数がゼロである事すなわち、 ∂ρ ( x, t ) + divi ( x, t ) = 0 ∂t (6) これが、電荷の保存則である。 アンペール-マクスウェル(Ampere- Maxwell)の法則 ここで、アンペールの法則と電荷の保存則をひとつにまとめる。定常電流により静磁場が出来る時のアンペ ールの法則を、電流が時間依存性を持っている場合にも拡張し、我々は 1 µ0 rotB ( x, t ) = i ( x, t ) (7) を要請した。両辺の発散( div )をとると、 1 µ0 div[rotB ( x, t )] = divi ( x, t ) 19 となる。ベクトル解析の公式により、左辺は恒等的にゼロ(任意のベクトル A( x ) について、divrotA( x ) = 0 が成り立つ。次ページの補足参照)である。したがって、 divi ( x , t ) = 0 となるべきである。しかしこの結果は、先ほど導いた電荷の保存則と矛盾する。この困難は、マクスウェルに よりアンペールの法則を次のように拡張することで、解決された。 1 µ0 rotB( x, t ) = i ( x, t ) + ε 0 ∂E ( x, t ) ∂E ( x, t ) 、 (8) ε 0 :変位電流 ∂t ∂t (8)式の発散( div )をとると、 1 µ0 divrotB ( x , t ) = divi ( x , t ) + ε 0 = divi ( x , t ) + ∂ (divE ( x , t )) ∂ (ε 0divE ( x , t )) = divi ( x , t ) + ∂t ∂t ∂ρ ( x , t ) ∂t となるべきである。左辺は、任意のベクトル A( x ) で divrotA( x ) = 0 が成り立つ事から、ゼロになることが 分かる。右辺は、電荷の保存則そのものであり、ゼロである。このようにして、アンペールの法則の矛盾が解 消された。 さて、もし i ( x, t ) = 0 なら、 1 µ0 rotB ( x, t ) = i ( x, t ) + ε 0 ∂E ( x , t ) 1 ∂E ( x , t ) → rotB ( x, t ) = 0 + ε 0 µ0 ∂t ∂t となる。この式は、 i ( x , t ) = 0 の時、 「電場の時間変化に伴い、そのまわりの真空中に磁場を生じる」事を示 す。すなわち、ファラデーの電磁誘導の法則と逆の現象の存在を示している。変位電流 ε 0 ∂E ( x , t ) / ∂t は磁場 を生じさせる一種の電流である。それで、 “変位電流”の名前が付いた。 なお、マクスウェルの方程式の第 2 式(2) (p.15)は、 B ( x, t ) = µ0 H ( x , t ), D( x, t ) = ε 0 E ( x, t ) の関係式を用いると、次式に示すようにして得られる。 1 µ0 rotB ( x, t ) = i ( x, t ) + ε 0 ∂E ( x , t ) ∂D( x , t ) → rotH ( x, t ) = i ( x , t ) + ∂t ∂t 20 ( ) 補足: x = ( x, y, z ) とし、3 次元ベクトル A( x ) = Ax ( x ), Ay ( x ), Az ( x ) の時、 div(rotA( x )) = 0 の説明 ∂ ∂ ∂ Ax ( x ) + Ay ( x ) + Az ( x ) ∂x ∂y ∂z ∂ ∂ ∂ ∂ ∂ ∂ [rotA( x )] x = Az ( x ) − Ay ( x ), [rotA( x )] y = Ax ( x ) − Az ( x ), [rotA( x )]z = Ay ( x ) − Ax ( x ) ∂y ∂z ∂z ∂x ∂x ∂y よって divA( x ) = ∂ ∂ ∂ ∂ ∂2 ∂2 [rotA( x )]x = { Az ( x ) − Ay ( x )} = Az ( x ) − Ay ( x ) ∂x ∂x ∂y ∂z ∂x∂y ∂x∂z div[rotA( x )] = [ ∂2 ∂2 ∂2 ∂2 ∂2 ∂2 Az ( x ) − Ay ( x )] + [ Ax ( x ) − Az ( x )] + [ Ay ( x ) − Ax ( x )] ∂x∂y ∂x∂z ∂y∂z ∂y∂x ∂z∂x ∂z∂y ∂2 ∂2 ∂2 ∂2 ∂2 ∂2 Ax ( x ) + Ay ( x ) + Az ( x ) = 0 = − − − ∂y∂z ∂z∂y ∂z∂x ∂x∂z ∂x∂y ∂y∂x Maxwell 方程式のまとめ 電荷がある場合の電磁波の方程式 ∂B ( x , t ) = 0 ファラデーの法則 ∂t ∂D( x , t ) rotH ( x , t ) − = i ( x , t ) アンペール - マクスウェルの法則 ∂t divB ( x , t ) = 0 ガウスの法則 divD( x , t ) = ρ ( x , t ) rotE ( x , t ) + 真空中および空気中では、次の関係式を要請する。 B = µ0 H , D = ε 0 E 。 空間的に一様な媒質中では、次の関係が成り立つとする。 B = µH , D = εE 。 さらにガラスなどの非磁性材料では、 µ = µ 0 である。 注意 マクスウェル方程式は、積分形式と微分形式の、2 つの方法で記述される。当然ながら、2 つの記述方法は同 等である。しかし、これ以降のマクスウェル方程式の取り扱いで見るように、微分形式での扱いが、非常に便 利である。 21 波動方程式 1 次元で、 z 方向に伝播する波を表わす式(波動方程式)は、 ∂ 2U ( z, t ) 1 ∂ 2U ( z , t ) = 2 ∂z 2 u ∂t 2 で与えられる。この解は、 ( x を実数、 i = − 1 として、 exp(ix) = cos x + i sin x の関係がある。) U 0 cos(ωt − kz ), U 0 exp[−i (ωt − kz )] などで与えられる。ただし、ω = uk の関係がある。 (この関係は、波動方程式に解を代入して確認せよ。 ) この波が伝播する速さを求めるため、指数の中の因子(位相)が時間的に一定と仮定して時間微分をする。 dz dz ω ∂ (ωt − kz) =0→k =ω → = =u ∂t dt dt k (角)周波数という。ω は、単位時間当たりに波が振 この速さ u を位相速度という。 k , ω を、それぞれ波数、 動する回数、すなわち周波数 f とω = 2πf の関係にある。波の波長を λ とすれば、波が 1 回振動すると 1 波 長 λ だけ波は進む。波が 1 秒で f 回振動すると、 fλ だけ進む。よって波の速さ u は、u = fλ で与えられる。 また、波数 k と波長 λ には、ω / k = 2πf / k = u = fλ → λ = 2π / k の関係がある。 1 次元の波は、 U 0 cos(ωt − kz ), U 0 exp[−i (ωt − kz )] k などで与えられた。3 次元では x U 0 exp[−i (ωt − k ⋅ x )] と書く事が出来る。 k は波数ベクトル、ω は電磁波の角周波数である。 ここで、ωt − k ⋅ x = 定数の状況を考える。簡単のため、ωt − k ⋅ x = 0 とする。 ωt − k ⋅ x = 0 → k ⋅ x = ωt なので、 x ベクトルと k ベクトルの内積が一定の値 ωt をとる。これは、 x ベクトルの k ベクトルと平行な方 向の成分が、一定値 ωt を取る事を意味する。そのような x ベクトルの終点の集合は、 k ベクトルと垂直な平 面である。 補足: x ベクトルを、波数ベクトル k = kek // と平行および垂直な 成分に分ける。 ek // , ek ⊥ は、大きさ 1 の単位ベクトルである。 Z k x = xk // ek // + xk ⊥ ek ⊥ ek // ⋅ ek ⊥ = 0, | ek // |=| ek ⊥ |= 1 すると、 k ⋅ x = ωt → k ⋅ ( xk // ek // + xk ⊥ ek ⊥ ) = ωt → kxk // = ωt → xk // = ωt k となり、 x ベクトルの k ベクトルと平行な成分は一定の値をとる。 22 Y 位相速度 一様な空間(電磁波の伝播方向などによらず、ε 誘電率、 µ 透磁率が定数である空間)であり、かつ誘電体の ような真電荷のない空間( ρ ( x , t ) = 0 )を伝播する電磁波は、次の波動方程式を満足する。 ∂2 ∂2 ∂2 ∂2 ∂2 ∆ − εµ 2 E = 0, ラプラシアン∆ ≡ 2 + 2 + 2 ∆ − εµ 2 Ek (r , t ) = 0 ∂t ∂x ∂y ∂z ∂t ∂E § 波動方程式の導出:まず、 rotE + µ ∂H = 0 で rot をとり、 rotH − ε = 0 を代入する。 ∂t ∂t ∂H ∂ ∂ ∂E ∂2E 0 = rot rotE + µ = rotrot E + µε 2 = 0 = rotrot E + µ rotH = rotrot E + µ ε ∂t ∂t ∂t ∂t ∂t 恒等式: rotrotA = graddivA − ∆A 、および divE = 0 ← ρ ( x, t ) = 0 を用いると、波動方程式を得る。 graddivE − ∆E + µε § ∂2E ∂2 E ∂2 E = 0 = − ∆ E + µε = 0 → ∆ − εµ ∂t 2 ∂t 2 ∂t 2 rotrotA = graddivA − ∆A の確認 divA( x , t ) = ∂f ( x ) ∂f ( x ) ∂f ( x ) ∂Ax ( x , t ) ∂Ay ( x, t ) ∂Az ( x , t ) + + , gradf ( x ) = , , ∂x ∂y ∂z ∂y ∂z ∂x ∂ ∂ ∂ ∂ Az ( x , t ) − Ay ( x, t ), [rotA( x, t )] y = Ax ( x , t ) − Az ( x , t ), ∂y ∂z ∂z ∂x ∂ ∂ [rotA( x , t )]z = Ay ( x , t ) − Ax ( x , t ) ∂x ∂y ∂ ∂ ∂ ∂ ∂ ∂ Ax ( x , t )} − { Ax ( x, t ) − Az ( x , t )} [rotrotA( x , t )]x = { Ay ( x , t ) − ∂y ∂x ∂y ∂z ∂z ∂x [rotA( x , t )]x = = ∂2 ∂ ∂ ∂ ∂ ∂2 Ay ( x, t ) + Az ( x , t ) − 2 + 2 Ax ( x , t ) ∂y ∂x ∂z ∂x ∂z ∂y = ∂2 ∂ ∂ ∂ ∂2 Az ( x, t )} − 2 + 2 Ax ( x , t ) { Ay ( x , t ) + ∂x ∂y ∂z ∂z ∂y = ∂2 ∂ ∂ ∂ ∂ ∂2 ∂2 { Ax ( x , t ) + Ay ( x , t ) + Az ( x , t )} − 2 + 2 + 2 Ax ( x , t ) ∂x ∂x ∂y ∂z ∂y ∂z ∂x ∂ divA( x , t ) − ∆Ax ( x , t ) ∂x = {grad[divA( x , t )]}x − ∆Ax ( x , t ) = 他の成分も同様にして求める事ができ、 rot rotA = grad divA − ∆A が成り立つ事を示す事ができる。 そこで、一様な空間( ε , µ が一定の値である)で + z 方向に伝播する単一周波数ω の電磁波を考える。電磁 波は横波であるため、電場は x 成分 E x ( z , t ) を持つとする(電場の y, z 成分=ゼロ)。(一様な空間を伝播する 電磁波が横波である事は、p.35で示す。電磁場の振幅ベクトルは互いに直交するため、磁場は y 成分のみを持つ。) E x ( z , t ) = Ex 0 exp[−i (ωt − kz )] もし観測者が常に電場のある一定値のところを観測するなら、電場の位相が一定である(ωt − kz = 一定 )よう に電場は z 軸と平行に移動しているはずである。ωt − kz = 一定 を時間微分すると、電場は + z の向きに d (ωt − kz ) dz ω =0→c= = dt dt k 23 の速さ c で移動する事がわかる。ω / k をこの波の位相速度と呼ぶ。 (この時点では、k の値は確定していない。) また、波長 λ = 2π / k である。 波動方程式に電場 E x ( z , t ) の式を代入し、 k , ω , µ , ε に関する次の式を得る。 ∂2 ∆ − εµ 2 E = 0 → {(ik ) 2 − εµ ( −iω ) 2 }E x 0 exp[ −i (ωt − kz )] = 0 → k 2 − εµω 2 = 0 ∂t よって、 k として、次の値を得る。(ガラスなどの非磁性材料を想定しているので、透磁率 µ = k = ω εµ , c = ω k = 1 εµ = 1 (ε / ε 0 )ε 0 µ 0 = 1 ε 0 µ0 µ 0 である。) 1 c0 c = = 0 ε / ε0 ε / ε0 n ここで、 c0 は真空中( ε = ε 0 , µ = µ0 )での位相速度 c0 = 1 / ε 0 µ 0 = 2.998 × 108 (m/s) である。 n = ε / ε 0 は 物質の屈折率である。媒質中での位相速度 c は n を用いて c = c 0 / n となり、真空中での位相速度の1 / n になる。 一方、 − z 方向へ伝播する電場は Ex ( z , t ) = Ex 0 exp[−i (ωt + kz )] で与えられる。一般には、波は ± z 方向へ伝播する波の重ね合わせで書ける。 E x ( z, t ) = Ex+0 exp[−i (ωt − kz )] + Ex−0 exp[−i (ωt + kz )] 磁場の場合も、電場の場合と同様の計算で、一様な空間( ε , µ が定数)での波動方程式を得る。 rotH − ε ∂E ∂H を代入する。 = 0 で rot をとり、 rotE + µ = 0 ∂t ∂t ∂E ∂ ∂ ∂H ∂2H 0 = rot rotH − ε = rotrot H − rot E = rotrot H − ( − ) = rotrot H + =0 ε ε µ µε ∂t ∂t ∂t ∂t ∂t 2 ∂2H ∂2 → grad divH − ∆H + µε = 0 → ∆ − εµ 2 H = 0 2 ∂t ∂t 一様な空間で ± z 方向に伝播する電場の振幅が x 成分を持てば、磁場の振幅は、 y 成分のみゼロでない。(p.36 を見よ。)そこで電場と同じ周波数ω を持つ磁場の y 成分を H y ( z, t ) = H y 0 exp[−i (ωt − kz )] とおく。H y ( z , t ) を波動方程式に代入する事で、磁場も電場と同様、位相速度 c = ω / k = 1 / εµ で空間を伝播 する事が分かる。 次に、電場と磁場の振幅 E x 0 , H y 0 の間の関係式を求める。マクスウェル方程式の 1 つである次式において、 x 成分に注目すると( c = ω / k = 1 / εµ )、 rotH − ε ∂E εω ε = 0 → −∂H y / ∂z = +ε∂Ex / ∂t → −ikH y 0 = −iεωEx 0 → H y 0 = Ex0 = Ex 0 ∂t k µε となる。電場と磁場の振幅 E x 0 , H y 0 の間には、物質中のインピーダンス Z = H y0 = µ / ε とおけば、 ε 1 E Ex 0 = Ex 0 = x 0 Z µε µ /ε の関係がある。真空中では、 Z = Z 0 = µ0 / ε 0 = 377(Ω) となる。 Z 0 を、自由空間(真空)のインピーダ ンスという。 24 群速度 周波数および波数が近い 2 つの電場(平面波)の重ね合わせを考える。図では、赤色(破線)と青色(実線) の 2 つの波が該当する。 E = E0 exp(− i[(ω + ∆ω )t − ( k + ∆k ) ⋅ x ]) + E0 exp(− i[(ω − ∆ω )t − ( k − ∆k ) ⋅ x ]) これは、 E = E0 exp(− i[ωt − k ⋅ x ])[exp(− i[ ∆ωt − ∆k ⋅ x ]) + exp(+ i[ ∆ωt − ∆k ⋅ x ])] = 2 E0 cos(∆ωt − ∆k ⋅ x ) exp(− i[ωt − k ⋅ x ]) となる。2 つの波の重ね合わせ(緑色の波)は、包絡線(緑の曲線を囲む 2 つの黒色破線)を持つ波の伝播で ある。なお黒色の破線は関数 ± cos(∆ωt − ∆k ⋅ x ) を表わす) 。この包 絡線(黒色の破線)の移動する速度は、位相速度ω / k では進まない。 簡単のため、 ∆k が z 成分のみを持つとすれば、 cos の中の因子が時 間的に変化しない条件から、2 つの波の重ね合わせは、 d dz ∆ω ( ∆ωt − ∆k ⋅ z ) = 0 → = ug = dt dt ∆k で進む。 u g を群速度という。 電磁波の場合、真空での位相速度 c0 を用いて、ω = ug = c0 k から、 n dω d c0 c0 dn −1 c0 c0 k dn c0 k dn = + c0 k = − 2 = 1 − k = dk dk n n dk n n dk n n dk をえる。たいていの光学的物質(光が伝播するような物質)では、屈折率は、周波数の増加(波数の増加)に 伴い大きくなる。すなわち、 dn / dk > 0 。よって群速度 u g は位相速度 c = c 0 / n よりも遅い。光信号は、波 の塊(光パルスの組合せ)で送らなくてはならないので、信号は、位相速度よりも速く送ることはできない。 真空中を伝播する電磁波では、dn / dk = 0 である。また、空気中を伝播する可視光の電磁波では、空気中に 可視光の波長を吸収する物質がほとんど存在しないため、dn / dk ≈ 0 と見なせる。この時、電磁波の群速度と 位相速度は等しくなる。さらに、最初にパルス波形を保っていた電磁波の周波数ごとの位相関係が伝播中も保 たれるため、パルス波形の形状は物質中を伝播しても、壊れる事無くそのままである。可視領域における真空 中や空気中での屈折率 n = 1 である事から、光パルスの群速度は、 c0 = 2.998 × 10 (m/s) で与えられる。 8 一方 dn / dk ≠ 0 である物質では、電磁波の位相速度が周波数ごとに異なる。これが原因で、電磁波のパルス 波形を保つために必要な周波数ごとの位相関係が崩れるため、パルス幅が拡がる。よって、最初に十分短いパ ルス電磁波を用いても、 dn / dk ≠ 0 の物質中では、伝播に伴い、一般にパルス幅が拡がる。 25 群速度に関する、論理的な考察 z 方向に進む、中心周波数ω0 の平面波の波束を考える。波の周波数スペクトルは、ω0 − δω < ω < ω0 + δω に分布し、次のように書き表せるとする。 u ( z, t ) = ω 0 + δω ω + δω n 0 ωn ω ω ω − − = d A ( ) exp i ( t z ) dωA(ω ) exp − i ωt − z ) ∫ ∫ c c 0 0 ω 0 −δω ω 0 − δω ここで n = kc0 / ω は、波束が伝播している媒質の屈折率で、 k = 2π / λ は波数である。もし、 n(ω ) の ω 依 存性が小さいなら、次のような展開が可能である。 f (ω ) = n(ω )ω と置けば(テーラー展開の 1 次まで)、 df (ω ) ∂ df (ω ) d [n((ω ))ω ] = [n(ω )ω ], f (ω ) ~ f (ω0 ) + (ω − ω0 ) = n(ω0 )ω0 + (ω − ω0 ) dω ∂ω dω ω =ω0 dω ω =ω0 これより波束は、 ω 0 + δω ω + δω nω ωn 0 u ( z , t ) = ∫ dωA(ω ) exp − i ωt − z ) = ∫ dωA(ω ) exp(− iωt )exp + i c0 ω 0 −δω c0 ω 0 −δω z ω 0 + δω ~ = n(ω0 )ω0 1 d [ n(ω )ω ] z ( ) exp ( ) exp ( ) d A i t i t i [ − − − ] + + − ω ω ω ω ω ω ω 0 0 0 ∫ c c d ω = ω ω 0 0 0 ω 0 −δω ω 0 + δω 0 0 = ∫ dω A(ω ) exp− iω t + i ω δω − n(ω0 )ω0 c0 1 d [ n(ω )ω ] z exp − i (ω − ω0 )t + i (ω − ω0 ) z c0 dω ω =ω 0 ω 0 + δω n(ω0 ) z d [n(ω )ω ] d A ( ) exp − i t − z exp i ( ) t − − − ω ω ω ω ω 0 0 ∫ c d c ω = ω ω 0 0 0 ω 0 − δω n(ω0 ) z = u0 exp − iω0 t − c0 u0 = ω 0 + δω z d [ n(ω )ω ] ω ω ω ω d A ( ) exp i ( ) t − − − 0 ∫ c d ω ω =ω 0 0 ω 0 −δω u0 は、この波の包絡線を表す。この波が伝播する速さ u g は、 u0 の指数関数の中の位相項=一定とし、位相項 の時間微分を行う事で、得られる。 z d [n(ω )ω ] dz dz c0 ∂ = 0 → 1 = 1 d [n(ω )ω ] t− ⋅ → ≡ ug = d [n(ω )ω ] dω c0 dω dt ∂t c0 ω =ω0 ω =ω0 dt dω ω =ω0 → ug = dω n(ω )ω d c0 ω =ω0 = dω dk k (ω0 ) こうして、いわゆる群速度 u g が求まる。 注)ω = c0 nω k →k = n c0 26 §数学的準備:複素関数表示 電磁気学や光学では、正弦関数的に時間変化する電場や磁場を、 c.c. をその複素共役として、 E ( x , t ) = E 0 exp[ −i (ωt − k ⋅ x )] H ( x , t ) = H 0 exp[ −i (ωt − k ⋅ x )] または E ( x , t ) = E 0 exp[ −i (ωt − k ⋅ x )] + c.c. H ( x , t ) = H 0 exp[ −i (ωt − k ⋅ x )] + c.c. のように、指数関数を用いて書く事がある。その理由は、この記法だと、微積分の計算が簡単になるからである。 さて、この講義ノートでは、 E ( x , t ) = E 0 exp[ −i (ωt − k ⋅ x )], H ( x , t ) = H 0 exp[ −i (ωt − k ⋅ x )] と書き、その実数部分を考える、という立場で、さまざまな物理量の計算や議論を行っていく。このような取り 扱いをする際の注意点や、計算が便利になる結果について、以下で述べる。 例として次の関数を考える。 A0 , B0 > 0 、φa , φb を実数の定数として、 a(t ) = A0 cos(ωt + φa ), b(t ) = B0 cos(ωt + φb ) (1) とする。複素振幅 A = A0 exp(−iφa )、B = B0 exp(−iφb ) と定義すると、 a (t ) = Re[ A exp(−iωt )], b(t ) = Re[ B exp(−iωt )] (2) と書き直せる。 Re は、実数部分を示す。(1)の代わりに a(t ) = A exp(−iωt ), b(t ) = B exp(−iωt ) と書く場合もあるが、この実数部分を考えよ、という事を意味するものと考える。この講義ノートでも、この方 式で物理量を記述する。する。たいていの計算では、この置き換え(読み替え)は問題ない。例外は正弦関数の 積または冪が関与する場合である。 まず例外を見る。 a (t ), b(t ) は以下のように表わされる。 A Re[a(t )] = A0 cos(ωt + φa ) = 0 [exp{−i (ωt + φa )} + exp{+i (ωt + φa )}] 2 B Re[b(t )] = B0 cos(ωt + φb ) = 0 [exp{−i (ωt + φb )} + exp{+i (ωt + φb )}] 2 a (t ), b(t ) の実数表示 Re[a(t )], Re[b(t )] の積を計算すると、 cos(a ± b) = cos a cos b m sin a sin b を利用し、 Re[ a (t )] Re[b(t )] = A0 B0 [cos(2ωt + φa + φb ) + cos(φa − φb )] 2 となる。一方複素数表示から計算し、その後実数表示を取る( a (t )b(t ) → Re[ a (t )b(t )] )と、 a (t )b(t ) = AB exp( −2iωt ) = A0 B0 exp[ −i ( 2ωt + φa + φb )] → Re[ a (t )b(t )] = A0 B0 cos( 2ωt + φa + φb ) となる。 Re[ a(t )b(t )] の実数部分を見ると、時間依存の関数の係数が異なる以外に、 Re[ a (t )] Re[b(t )] の時間 によらない項 | AB | cos(φa − φb ) / 2 が脱落している事がわかる。つまり、a (t ), b(t ) が複素数表示の関数の時、 Re[a(t )] Re[b(t )] ≠ Re[a(t )b(t )] である。この講義ノートでは、「指数関数で表わした物理量 a (t ), b(t ) は、本当はその実数部分を扱うという約 束」なので、2つの物理量 a (t ), b(t ) の正しい積は、その実数部分同士の積を行わなければならない。 27 次に、複素表示が便利な例を示す。 微分の比較: d d Re[ a (t )] = [ A0 cos(ωt + φa )] dt dt = −ωA0 sin(ωt + φa ) 一方 d d a (t ) = [ A0 exp{−i (ωt + φa )}] = −iωA0 exp( −iφa ) exp( −iωt ) dt dt d → Re a (t ) = −iωA0 ⋅ (−i ) sin(ωt + φa ) dt = −ωA0 sin(ωt + φa ) このように、 a (t ) が複素数表示の場合でも、複素数表示のままで微分した結果の実数部分は、 a (t ) の実数部分 を微分した結果と等しい事が分かる: d d Re a (t ) = Re[ a (t )] dt dt さらに、以下のように、 aR (t ), aI (t ) を実数として、 a (t ) = aR (t ) + iaI (t ) と置いてみれば、 n 階の微分でも、 その関係は成り立つ事が分かる。 dn dn dn dn Re n (a R (t ) + ia I (t )) = Re n a R (t ) + i n a I (t ) = n a R (t ) dn dn dt dt dt dt → Re n a (t ) = n Re[ a (t )] dt dt dn dn Re[ a ( t ) + ia ( t )] = a (t ) R I n n R dt dt 別の有用な例:正弦関数の積の時間平均(大変便利) 周波数が等しい2つの正弦関数 a (t ) = A0 cos(ωt + φa ), b(t ) = B0 cos(ωt + φb ) の積:(ωT = 2π ) Re[ a (t )] Re[b(t )] = 1 T ∫ T 0 A0 cos(ωt + φa ) B0 cos(ωt + φb )dt = A0 B0 cos(φa − φb ) 2 ここで横棒は時間平均を意味する。 さて、 A = A0 exp(−iφa ), B = B0 exp(−iφb ) であるから( B * は B の複素共役) 、 AB* = A0 exp(−iφa ) B0 exp(+iφb ) = A0 B0 exp[−i (φb − φb )] → Re[ AB*] = A0 B0 cos(φa − φb ) よって、複素数表示された同じ時間依存性を持つ2つの関数 Re[ a (t )], Re[b(t )] の時間平均 Re[ a (t )] Re[b(t )] は、 複素振幅 A および B を用いて次のように表わされる: Re[ a (t )] Re[b(t )] = 1 Re[ AB*] 。 2 この関係式は、電磁波のエネルギーの計算などで頻繁に利用する。光の分野では、複素数表示の関数 a (t ), b(t ) な どを扱うことが多い。物理量は実数であるから、複素数表示の物理量は、その実数部分を取り扱うと解釈するの が一般である。複素数表示で記述した2つの物理量の積(内積、外積など)の時間平均では、上記関係を用いれ ば、計算時間が短縮される。この講義ノートでは、もっぱらこの関係式を用いる。 28 ポインティング (Poynting) ベクトル 電磁波のエネルギー 物質における Maxwell 方程式を出発点にとり、空間を伝播する電磁波のエネルギーに関する関係式を導く。 物質中電磁波のエネルギーの議論では、非磁性の物質( µ = µ0 )を想定し、電磁波のエネルギーを計算し、 真空中の電磁場のエネルギーとの関連を議論する。 Maxwell 方程式のうちの 2 つの式 rotH − ∂D ∂B = i , rotE + =0 ∂t ∂t において、 E と rotH とのスカラー積および H と rotE とのスカラー積(内積[⋅] )をとると、 rotH = ∂D ∂D ∂B ∂B 。 + i → E ⋅ rotH = E ⋅ + E ⋅ i , rotE = − → H ⋅ rotE = − H ⋅ ∂t ∂t ∂t ∂t E ⋅ rotH - H ⋅ rotE を公式 div( A × B) = B ⋅ rotA − A ⋅ rotB を用いて計算すると、上の式から、次式を得る。 - div( E × H ) = − H ⋅ rotE + E ⋅ rotH = E ⋅ ∂D ∂B + E ⋅i + H ⋅ ∂t ∂t ∂ ∂ ∂ ( Ay Bz − Az By ) + ( Az Bx − Ax Bz ) + ( Ax By − Ay Bx ) ∂z ∂x ∂y ∂A ∂A ∂A ∂A ∂A ∂A = ( Bz y − By z ) + ( Bx x − Bz x ) + ( By x − Bx y ) ∂x ∂x ∂y ∂y ∂z ∂z ∂B ∂B ∂B ∂B ∂B ∂B + ( Ay z − Az y ) + ( Az x − Ax z ) + ( Ax y − Ay x ) ∂x ∂x ∂y ∂y ∂y ∂y ∂B ∂B ∂A ∂A ∂A ∂A ∂A ∂A ∂B ∂B ∂B ∂B = Bx ( x − y ) + By ( x − z ) + Bz ( x − y ) − Ax ( z − y ) − Ay ( x − z ) − Az ( y − x ) ∂y ∂z ∂z ∂x ∂y ∂y ∂y ∂y ∂y ∂x ∂x ∂y = B ⋅ rotA − A ⋅ rotB div( A × B) = ここで特に物質中の電磁波である事を明確にするため、 D = εE , B = µH (物質中において、 D, E , B, H の 間に成り立つ関係式)を代入する(誘電率 ε と透磁率 µ を用いる)と、 - div ( E × H ) = ∂ ε 2 µ 2 E + H + E ⋅i ∂t 2 2 を得る。なおこの関係式を導くにあたり、次の定義および計算を行った。[⋅] は、ベクトルの内積を意味する。 D = εE E 2 ≡ E ⋅ E = ( E x , E y , E z ) ⋅ ( E x , E y , E z ) = → E⋅ 2 µ 2 2 j ∑ j=x, y ,z ε 2 E 2j = ∂ ε 2 E ∂t 2 ∂B ∂ µ 2 H を用いる。これを利用し、上の関係式を得る。 = ∂t ∂t 2 ここで、次の物理量 E2 + j=x, y ,z ∂E j ∂ ∂D ∂E = εE ⋅ = ε ∑ Ej = ∂t ∂t ∂t ∂t j=x, y ,z H 2 の項についても、同様の計算で、 H ⋅ ε ∑E H2 29 を、物質に蓄えられている電磁波のエネルギー密度(単位体積あたりの電磁波のエネルギー)という。係数を含 めて、この形が電磁波のエネルギーになる事は、以下に簡単に示す。 1個の荷電粒子の運動を考えよう(複数個の荷電粒子の場合でも、同じ結果になる)。質量 m 、電荷 q の荷電 粒子の速度を v とすれば、電場 E 、磁束密度 B における運動方程式は、 m dv = qE + qv × B dt で与えられる。右辺第2項は、荷電粒子に加わるローレンツ力である。 v との内積[⋅] を取り、 mv ⋅ dv d m = v ⋅ (qE + qv × B ) → v 2 = (qv ) ⋅ E + qv ⋅ (v × B ) dt dt 2 外積の定義から、 v , v × B は互いに直交するので、 v ⋅ (v × B ) = 0 となる。これを用いると、荷電粒子の電流を i = qv とおいて、 d m 2 v = ( qv ) ⋅ E + 0 = i ⋅ E dt 2 を得る(複数個の荷電粒子の場合は、k 番目の荷電粒子の質量を mk 、電流を ik = qk v k とおけばよい。 ) 。この式 を、既に導いた式に代入すると、 - div( E × H ) = ε ∂ ε 2 µ 2 ∂ ε 2 µ 2 d m 2 E + H + E ⋅ i → - div( E × H ) = E + H + v ∂t 2 2 ∂t 2 2 dt 2 µ となり、 E 2 + H 2 は、エネルギーの次元を持つ。また、電荷の運動エネルギーの形との比較から、その形(係 2 2 数)も、これでよい事が分かる。 大雑把な話になるが、例えば水道ホースを流れる水との対比で、電磁波のエネルギーとパワーを考えよう。こ の時、ホースの体積 δV にある密度 ρ の水の質量は、 ρ ⋅ δV で与えられる。よって、単位体積あたりの水の質 量は、 ρ ⋅ δV / δV = ρ で与えられる(正しくは、これが密度の定義である。)。この単位体積あたりの水の質 量に対応する量が、電磁波のエネルギー密度である。また、ホースの中から時間 ∆t 当たり出てくる水の質量は、 「流速 v の水が時間 ∆t でホースを移動する長さ v ⋅ ∆t 」と「ホースの断面積 ∆S 」の積で与えられる体積 v ⋅ ∆t × ∆S に、水の密度 ρ をかけたもので与えられる。よって、単位時間・単位断面積当たり、ホースから流 れ出る水の質量は、 ρ × v ⋅ ∆t × ∆S /(∆t ⋅ ∆S ) = ρv で与えられる。この量に対応するのが、単位面積あたりの 電磁波のパワーである。 さて、この式を3次元空間に渡って積分し、ガウスの定理 ∫ V divAdV = ∫ A ⋅ ndS を n S 適用する。ここに A は任意のベクトル、n はV を囲む表面 S の単位法線ベクトルである。 V 結果は、以下のとおり。 − ∫ ( E × H ) ⋅ ndS = ∫ S V ∂ ε 2 µ 2 E + H dV + ∫ E ⋅ idV ∂t 2 2 V ここで、左辺は、 S で囲まれた空間へ流入するエネルギーを意味する。 S = E × H をポインティングベクト ルという。右辺第 1 項の体積積分は、「物質に蓄えられる電磁波のエネルギーの、単位時間あたりの変化量」 を表す。第 2 項の体積積分は、「運動する電荷(電流)によって電磁場が失う単位時間あたりのエネルギー(ジ 30 ュール熱の発生)」である。外部から流入した電磁波のエネルギーは、体積V の空間に電磁波のエネルギーと して蓄えられる。また、運動する電子による熱の発生として消費される。 今度は、物質中にある分極(単位体積あたりの電気双極子) P の存在を明確にした計算を行う。先ほどと同様 の計算を D = ε 0 E + P , B = µ0 H の関係式を用いて行う。用いる式は、以下のとおり。 ∂D ∂ (ε 0 E + P ) rotH − =i rotH = +i ∂t ∂t → rotE + ∂B = 0 rotE = − ∂ ( µ 0 H ) ∂t ∂t E と rotH とのスカラー積(内積[⋅] )をとると、 rotH = ∂ (ε 0 E + P ) ∂E ∂P ∂ ε ∂P + i : E ⋅ rotH = E ⋅ ε 0 +E⋅ + E ⋅i = 0 E2 + E ⋅ + E ⋅i 。 ∂t ∂t ∂t ∂t 2 ∂t となる。同様に H と rotE とのスカラー積(内積)をとると rotE = − ∂(µ0 H ) ∂H ∂ µ : H ⋅ rotE = − H ⋅ µ 0 = − 0 H2。 ∂t ∂t ∂t 2 これから、ベクトル公式 div( A × B) = B ⋅ rotA − A ⋅ rotB (p.29)を利用して、 - div( E × H ) = ∂ ε 0 2 µ0 2 ∂P H + E⋅ + E ⋅i E + ∂t 2 2 ∂t を得る。同じ物質に対して、D, B の記述の仕方が異なるだけなので、先の計算と比較し、次の等式が成り立つ。 ∂ ε 2 µ 2 ∂ ε 0 2 µ0 2 ∂P H + E⋅ E + H = E + ∂t 2 2 2 ∂t ∂t 2 これは、単位体積あたりで考えた場合、「物質中に蓄えられる電磁場のエネルギーの単位時間当たりの変化量」 が、「(物質の部分を真空にしたとして)その真空の部分での電磁場のエネルギーの単位時間当たりの変化量」 と「単位時間当たり、電気双極子(分極)に吸収されるエネルギー」の和に等しい事を示す。 先ほどと同様にして、体積積分の計算をすると、 − ∫ ( E × H ) ⋅ ndS = ∫ S V ∂ ε 0 2 µ0 2 ∂P H dV + ∫ E ⋅ dV + ∫ E ⋅ idV E + ∂t 2 2 ∂t V V ( ) 「空間V (その空間の部分は真空と考える)に となる。右辺第1項 (∂ / ∂t ) ε 0 E / 2 + µ 0 H / 2 の体積積分は、 2 2 蓄えられる電磁場のエネルギーの、単位時間あたりの変化量」である。第2項 E ⋅ ∂P/∂t の体積積分は、「体積V の中の電気双極子(分極)の運動を電磁波が誘起する事で、電気双極子(分極)が吸収するエネルギーの単位時 間当たりの変化量」である。第3項 E ⋅ i の体積積分は、「運動する電荷によって電磁場が失う単位時間あたりの エネルギー(ジュール熱)」である。左辺の被積分関数中の n は体積V の境界面で外向きである単位長さの法線 ベクトルを示す。よってこの式は、V の外部から流入する電磁波のエネルギーが、それら3つのエネルギーに変 わる事を示す。 31 電磁波の単位面積当たりの平均パワー 一様平面電磁波により伝播方向に運ばれる単位面積当たりの平均パワーを求める。水道水をホースで流す場合 との比較で話しよう。ホースの中にある単位体積あたりの水の質量に対応するのが、電磁波のエネルギー密度で ある。そして、ホースの中から単位時間当たり出てくる水の質量に相当する量が、電磁波のパワーになる。単位 時間当たりに出てくる水の質量をホースの断面積で割った量に対応するのが、単位面積あたりの電磁波のパワー である。 次のような電磁場を考える。繰り返すが、以下の物理量(電場と磁場)の実数部分を考えよう。 E ( z , t ) = ( E x (t ), E y (t ), E z (t )) = E 0 exp[−i (ωt − kz )] = ( E x 0 ,0,0) exp[−i (ωt − kz ))] H ( z , t ) = ( H x (t ), H y (t ), H z (t )) = H 0 exp[−i (ωt − kz )] = (0, H y 0 ,0) exp[−i (ωt − kz )] 真空中での電磁波のエネルギーの流れ ここでは、まず真空中で考える。電場と磁場の振幅 E0 , H 0 の振幅の間に成り立つ関係式を求める。 Maxwell 方程式の中の 1 つの式(次式)に、上の電場および磁場の式を代入する。 rotE ( x, t ) + ∂B( x, t ) ∂H ( x, t ) = rotE ( x, t ) + µ 0 =0 ∂t ∂t ( c0 = 1 / その後、 y 成分の比較を行う事で、電場および磁場間の振幅の関係式を求める。 µ0ε 0 ) ∂H y (t ) ∂E x (t ) ∂E z (t ) − + µ0 = 0 → ikE x 0 exp[ −i (ωt − kz )] − 0 + µ0 ( −iω ) H y 0 exp[−i (ωt − kz )] = 0 ∂z ∂x ∂t k k 1 1 → ikE x 0 + µ0 ( −iω ) H y 0 = 0 → H y 0 = Ex0 = Ex0 = Ex0 = E 1/ 2 µ0ω µ0c0 k (µ0 / ε 0 )1 / 2 x 0 µ0 / (µ0ε 0 ) → H y0 = 1 1/ 2 E x 0 , Z 0 = (µ 0 / ε 0 ) , c0 = 1 / µ 0ε 0 , ω = c0 k Z0 Z 0 = 377(Ω) は、自由空間(真空)のインピーダンスである。この関係式を電磁波のエネルギーの式に代入 すると(時間平均を取るための計算) 、 ε0 2 E ⋅ E *+ µ0 2 H ⋅ H* = ε0 2 ( E0 ⋅ E0 ) + µ0 2 (H0 ⋅ H0 ) = ε0 2 E x20 + µ0 2 H y20 = ε0 2 E x20 + µ0 E x20 2( µ0 / ε 0 ) = ε 0 E x20 = ε 0 E 02 よってその時間平均は、 ( E (t ), H (t ) ∝ exp(−iωt ) の時間依存性がある場合、p.28 を見よ) ε0 2 E2 + µ0 2 H2 = 1 ε 0 µ ε Re E ⋅ E * + 0 H ⋅ H * = 0 E02 2 2 2 2 で与えられる。一様な平面電磁波により伝播方向に運ばれる単位面積当たりの平均パワーは、真空中では電磁 波の速さが c0 なので、以下の結果を得る。 c0 × ε0 2 E02 = ε 0c0 2 E02 今度は、ポインティング(Poynting)ベクトルから電磁波のエネルギーを計算しよう。 E ( z , t ) = E 0 exp[−i (ωt − kz )] = ( E x 0 ,0,0) exp[ −i (ωt − kz )] H ( z , t ) = H 0 exp[−i (ωt − kz )] = (0, H y 0 ,0) exp[−i (ωt − kz )] 32 ポインティングベクトルの z 成分を計算する(注意: x, y 成分=ゼロ) 。 S z = (E × H )z = 1 1 1 1 1 ε0 Re ( E ) x ( H ) y * = E x 0 H y 0 = E x20 = E x20 1/ 2 1/ 2 2 2 2 ( µ0 / ε 0 ) 2 ( µ 0ε 0 ) [ ] 1 1 = ε 0c0 E x20 = ε 0c0 E02 2 2 よって、真空中での単位時間、単位面積当たりの電磁波のエネルギーの流れ(電磁波のパワー)は、 1 ε 0c0 E02 2 で与えられる。なお、ポインティングベクトル S = E × H の x, y 成分は、計算すればわかるように、ゼロで ある。このように S = E × H は、電磁波のエネルギーの流れる方向と電磁波のパワー(単位断面積あたり単位 時間当たりの、電磁波のエネルギーの流れ)を表わす。 物質中での電磁波のエネルギーの流れ 電気伝導度σ = 0 の物質(誘電率 ε 、透磁率 µ0 とする)を考え、屈折率を実数 n とする。電場と磁場の振幅 との間には、次の関係がある。 (真空中での電場と磁場の振幅の間に成り立つ関係式を求めたのと同様の計算で、 導く事ができる。p.24、前ページの計算を見よ。 ) H= n n E= E , n = (ε / ε 0 )1 / 2 1/ 2 Z0 ( µ0 / ε 0 ) この関係式を電磁波のエネルギーの式に代入する(時間平均を取るため、前もって必要な計算(p.28 を見よ) ) 。 なお、 E * ( H * )は E ( H )の複素共役なベクトルである。物質は非磁性で µ = µ0 とする。 ε 2 E ⋅ E *+ µ 2 H ⋅ H* = ε 2 ( E0 ⋅ E0 ) + = εE = εE 2 x0 µ0 2 (H0 ⋅ H0 ) = ε 2 E x20 + µ0 µ ε / ε0 ε H y20 = E x20 + 0 E x20 2 2 2 (µ0 / ε 0 ) 2 0 電磁波のエネルギー密度の時間平均を取ると、 ε 2 E2 + µ 2 H2 = 1 ε µ ε Re E ⋅ E * + 0 H ⋅ H * = E02 2 2 2 2 となる。一様な平面電磁波により、物質内で伝播方向に運ばれる単位面積当たりの平均パワーは、電磁波の速 さ(位相速度)が c = c0 / n なので、 ( (ε / ε 0 ) 1/ 2 = n にも注意) ε εc εc c × Ex20 = 0 Ex20 = 0 E02 2 2n 2n εc0 1 1 1 1 = Ex20 = (εε 0 )1 / 2 c0 Ex20 = ε 0 (ε / ε 0 )1 / 2 c0 Ex20 = ε 0 nc0 Ex20 = ε 0 nc0 E02 1/ 2 2(ε / ε 0 ) 2 2 2 2 となる。よって、物質中での、単位時間、単位面積当たりの電磁波のエネルギーの流れ(単位面積あたりの電 磁波のパワー)は、以下の式で与えられる。 1 εc0 2 1 E0 , ε 0 nc0 E02 2 n 2 33 ポインティングベクトルを用いた電磁波のパワーの計算 今度は、ポインティングベクトルから電磁波のエネルギーを計算し、上と同じ結果を得よう。ポインティン グベクトルの z 成分(電磁波のエネルギーの流れる方向は、 z 方向)を計算する。 E = ( E x (t ),0,0) 、 H = (0, H y (t ),0) であたえられるので、 E × H は、 z 成分のみを持つ。 c0 = 1 / µ 0ε 0 、 n = ε / ε 0 の関 係式を用いると、 S z = (E × H )z = [ ] 1 1 1 1 Re ( E0 ) x ( H 0 ) y * = E x 0 H y 0 = E x20 2 2 2 ( µ0 / ε )1 / 2 ε0 1 1 1 1 1 1 1/ 2 2 2 2 2 2 2 ( µ ε /(εε ))1 / 2 E x 0 = 2 ( µ ε )1 / 2 (ε / ε )−1 / 2 E x 0 = 2 ε 0 (ε / ε 0 ) c0 E x 0 = 2 ε 0 nc0 E x 0 = 2 ε 0 nc0 E0 0 0 0 0 0 0 = 1 1 1 1 1 εc0 2 1 εc0 2 ε 1 E x20 = E x20 = E x20 = Ex0 = E0 1/ 2 2 1/ 2 1/ 2 2 ( µ0 / ε ) 2 ( µ0ε / ε ) 2 ( µ0ε 0 ⋅ (ε / ε 0 )) 2 n 2 n 物質中での単位時間、単位面積当たりの電磁波のエネルギーの流れ(単位面積あたりの電磁波のパワー)は、 次式で与えられる。 1 εc0 2 1 E0 , ε 0 nc0 E02 2 n 2 注意:一様な空間を伝播する電磁波では、平面波の伝播する方向(波数 k )とポインティングベクトル S の方 向は等しいが、空間的に一様でない物質(電場の感じる屈折率が、電場の振幅の向きによって異なる物質)中 では、一般に同じ方向ではない( S ∝ k が成り立たない。 ) 。 「結晶中での電磁波の伝播」を参照。 分極による電磁波エネルギーの損失 電磁波に運動が誘起されることで、電気双極子(分極)によって消費される、単位体積単位時間あたりのエ ネルギーは、p.31 の計算結果から、 E⋅ ∂P ∂t で与えられる。簡単のため、 E//P と仮定し、ベクトル表示をしないで、スカラー表示 E (t ), P (t ) にする。そ れらが複素表示で E (t ) = E0 exp(−iωt ), P(t ) = P0 exp(−iωt ) = ε 0 χE0 exp(−iωt ) で与えられているとする。ここで、 χ は電気感受率である。さらに χ R , χ I を実数として、電気感受率 χ = χ R + iχ I とおくと、 [ ∂P 1 1 1 = Re[E (t )(− iωP(t ) )*] = Re[E0 ⋅ (+i)ωε 0 χ * E0 *] = Re iωε 0 ( χ R + iχ I )* | E0 |2 ∂t 2 2 2 1 1 = Re iωε 0 ( χ R − iχ I ) | E0 |2 = Re ωε 0 (iχ R + χ I ) | E0 |2 2 2 1 = ωε 0 χ I | E0 |2 2 E⋅ [ ] [ ] となる。 χ I の値が大きいほど、電気双極子(分極)に電磁波が吸収されることが分かる。 34 ] 物質中の電磁波の基本的性質 ここでは、電磁波の伝播方向や偏光方向に関係なく、誘電率 ε および透磁率 µ が一定の値を持つ媒質(等方 性媒質)での電磁波の伝播の様子をみる。媒質の電気伝導度σ = 0 またはσ ≠ 0 であり、電荷密度 ρ ( x ) = 0 は 共通とする。電磁波は横波であり、電場、磁場と伝播方向は、互いに直交することを理解する。 (i) 電気伝導度σ = 0 の場合 電磁波の伝播方向や偏光方向に関係なく、パラメーター ε および µ が一定の値を持つ媒質(等方性媒質)での 電磁波の伝播を考えよう。また、電気伝導度σ = 0 かつ、真電荷は存在しない(自由電子がない誘電体などの場 合:電荷密度 ρ ( x ) = 0 )とする。すなわち、 ε と µ が定数、かつ電気伝導度σ = 0 ( i = σE = 0 )である等 方性の媒質中での電磁波の波動方程式を導き、電磁波の特性などを議論する。なお、光の周波数で振動する磁場 に対する物質の透磁率は,真空における値 µ 0 とほぼ等しい(例外は磁性体)。 マクスウェル方程式は、 ∂H =0 ∂t ∂E rotH − ε =0 ∂t divE ( x , t ) = 0 rotE + µ D = εE 注意: B = µH i = σE divB ( x , t ) = 0 まず、 rotE + µ 2 2 2 ∂E ∂H = 0 を代入する。ラプラシアン ∆ ≡ ∂ 2 + ∂ 2 + ∂ 2 = 0 で rot をとり、 rotH − ε ∂t ∂t ∂x ∂y ∂z ∂H 0 = rot rotE + µ ∂t ∂ ∂ ∂E ∂2 E = rotrot E + µ rot H = rotrot E + µ ε = rotrot E + µε =0 ∂t ∂t ∂t ∂t 2 恒等式: rotrotA = graddivA − ∆A (p.23を見よ)、および divE = 0 を用いると、上式は graddivE − ∆E + µε ∂2 E ∂2 E ∂2 E = 0 = − ∆ E + µε = 0 → ∆ − εµ ∂t 2 ∂t 2 ∂t 2 となり、電場 E の満たす方程式(波動方程式)が得られる。この式は、電場が等方性媒質中を伝播する事を示 す。同様にして、磁場 H においても、同様の計算で、波動方程式 ∂E ∂ ∂2H ∂2 0 = rot rotH − ε = rotrotH − ε rotE = rotrotE − ε (− µ 2 ) → ∆ − εµ 2 H = 0 ∂t ∂t ∂t ∂t が得られる。なお、これら電磁波の波動方程式において、変位電流 ∂D = ε ∂E の存在は重要である。もし、変位 ∂t ∂t 電流が存在しないなら、上の2つの式はラプラス方程式( ∆E = 0 、 ∆H = 0 )になってしまう。すなわち、電磁 波が発生しない(電磁波の時間依存性が無い)。 35 電磁波は横波である事 一様な空間を k 方向に伝播する、平面波の電磁波を考える。一定の周波数を持つ交流電磁波の場合は、電磁波 は横波である事を簡単に示す事ができる。電磁波をそれぞれ、 E ( x , t ) = E 0 exp[−i (ωt − k ⋅ x )] B ( x , t ) = B0 exp[ −i (ωt − k ⋅ x )] 、 E0 = ( E0 x , E0 y , E0 z ) B0 = ( B0 x , B0 y , B0 z ) :定ベクトル と書く。 k は波数ベクトル、ω は電磁波の角周波数である。真電荷なし(自由電子がない誘電体などの場合: ρ ( x ) = 0 )では、 divD( x, t ) = div[εE ( x, t )] = ρ ( x ) = 0 → divE ( x, t ) = 0 E ( x , t ) = ( E x ( x , t ), E y ( x, t ), E z ( x , t )) divE ( x , t ) = div{E0 exp[−i(ωt − k ⋅ x )]} ∂ ∂ ∂ E x ( x , t ) = {( E0 ) x exp[−i(ωt − k ⋅ x )]} = {E0 x exp[−i(ωt − k ⋅ x )]} = E0 x ⋅ ik x exp[−i(ωt − k ⋅ x )] ∂x ∂x ∂x ∂ ∂ ∂ divE ( x, t ) = E x ( x, t ) + E y ( x , t ) + E z ( x, t ) = i( E0 x ⋅ k x + E0 y ⋅ k y + E0 z ⋅ k z ) exp[−i(ωt − k ⋅ x )] ∂x ∂y ∂z = iE 0 ⋅ k exp[−i(ωt − k ⋅ x )] = 0 → E0 ⋅ k = 0 同様にして、 divB( x, t ) = 0 → B0 ⋅ k = 0 を得る。さらに、 rotE ( x , t ) + ∂B( x, t ) = 0 を利用して E 0 , B0 , k の間に成り立つ関係式を求める。それぞれ ∂t の項の計算をすると、以下のとおり。 rotE ( x , t ) = i (k × E0 ) exp[i (k ⋅ x − ωt )] ∂ ∂ Ez ( x, t ) − E y ( x, t ) ∂y ∂z = iE0 z ⋅ k y exp[ −i (ωt − k ⋅ x )] − iE0 y ⋅ k z exp[−i (ωt − k ⋅ x )] [rotE ( x , t )] x = = i ( E0 z ⋅ k y − E0 y ⋅ k z ) exp[−i (ωt − k ⋅ x )] = i[ k × E 0 ] x exp[ −i (ωt − k ⋅ x )] − ∂B( x, t ) ∂ = − B0 exp[−i (ωt − k ⋅ x )] = +iωB0 exp[−i(ωt − k ⋅ x )] ∂t ∂t よって、 ∂B ( x , t ) = 0 → i ( k × E 0 ) exp[−i (ωt − k ⋅ x )] = +iωB0 exp[ −i (ωt − k ⋅ x )] ∂t → k × E 0 = ωB0 rotE ( x , t ) + E0 ⋅ k = 0 → E 0 , B0 , k は互いに直交する B0 ⋅ k = 0 k × E = ωB 0 0 B0 = k×E0/ω k 電磁波の伝播方向は k なので、電場、磁場の向き E 0 , B0 は、伝播方向 k と 直交する、横波である。 36 E0 光の偏光特性 直線偏光、円偏光 自由空間や空間的に一様な媒質中を伝播する電磁波は、電磁波の振幅 E 0 , B0 が電磁波の伝播方向 k と直交 する横波である事を示した。ここでは、電磁波の偏光に関する定義や、波数や屈折率との関係について述べる。 直線偏光 電磁波を、 E ( x , t ) = E 0 exp[ −i (ωt − k ⋅ x )] B ( x , t ) = B0 exp[ −i (ωt − k ⋅ x )] 、 E0 , B0 : 一定 とし、 E 0 , B0 を実数のベクトルとすれば、この電磁波は直線偏光しているという。光学の分野では、電場の方 向(ベクトル E 0 の向き)を偏光方向とするのが、慣習になっている。 自然光(無偏光の光) 自然光は、E 0 , B0 が時間的に一定でない、ランダムな偏光を 持つ。なお、偏光方向や振幅に何らかの空間的時間的な規則性 直線偏光 があれば、自然光(無偏光)とは言わない。 直線偏光板:linear polarizer 自然光 直線偏光板は、右図のように、偏光がランダムな向きの光が ある場合、その光の、ある向きの直線偏光の光のみを通す。 直線偏光の光電場の偏光方向が、偏光板の向き(直線偏光の光を通す向き)に対して、図のように、角度θ をなすとする。偏光板の「直線偏光の光を通す向き」と同じ偏光方向のベクトルを e x (| e x |= 1 ) 、それと直交 する方向のベクトルを e y (| e y |= 1 )とすると、電場ベクトル E 0 は、次のように分解される: E 0 = e x (e x ⋅ E 0 ) + e y (e y ⋅ E 0 ) = E0 cos θe x + E0 sin θe y , E0 =| E 0 | 。 ey E0 2 光電場の強度 I は電場の振幅 E の 2 乗( E )に比例する(p.30 電磁波のパワー を参照) 。よって、偏光板を透過する光強度は、入射光強度を I 0 とすれば、 θ I ∝ ( E 0 cos θ ) 2 ∝ cos 2 θ → I = I 0 cos 2 θ ex となる。 ex 円偏光 z = 0 の場所で、 π/2,5π/2 E ( x , t ) = E0 cos(ωt − kz )e x + ( − E0 ) sin(ωt − kz )e y , E0 > 0 → E ( z = 0, t ) = E0 cos(ωt )e x − E0 sin(ωt )e y 3π/2 で与えられる電場を考えよう。この電場の向きが時間 t に対してどのよう ey π に変化するか、次の表を利用して調べる。 0 π /2 π 3π / 2 2π 5π / 2 3π cos(ωt ) 1 0 -1 0 1 0 -1 - sin(ωt ) 0 -1 0 +1 0 -1 0 ωt ωt=0、2π 37 すると、図に示すように、電場の向きは、その大きさを変えることなく回転する。図では、場所を固定した場 合を示したが、電場が伝播する場合、螺旋(らせん)回転しながら進む。 円偏光:右周りの円偏光と左周りの円偏光の定義 例えば、コマが回転しているとしよう。ある人は、それを見て、右回りに回転していると言うかも知れない。 でも、反対(裏)側から見ると、左回りに回転している。同じ回転でも、見る方向により、回転方向は違う。 よって回転方向の明確な定義が必要になる。我々は、空間伝播しなが ex らその電場ベクトルが回転する光電場がある事を、知った。その回転 方向の一般的な定義を見る。 ωt=0、2π π/2,5π/2 先ほど考察した電場を考えよう。 z = 0 の場所で、 E ( x , t ) = E0 cos(ωt − kz )e x + ( − E0 ) sin(ωt − kz )e y , E0 > 0 3π/2 → E ( z = 0, t ) = E0 cos(ωt )e x − E0 sin(ωt )e y ey π で与えられる電場を考えよう。この電場の向きは、先ほど調べたよう に、表を利用すると、簡単に分かる。 0 π /2 π 3π / 2 2π 5π / 2 3π cos(ωt ) 1 0 -1 0 1 0 -1 - sin(ωt ) 0 -1 0 +1 0 -1 0 ωt 電場の伝播方向は、位相項ωt − kz が一定になる事を要求すると、 d (ωt − kz ) dz ω =0→ = >0 dt dt k となり、 + z の方向に伝播する事がわかる。 z = −∞ から z = 0 の方向を見よう。すると、 z = 0 での電場ベ クトルの時間的な動きは、左回り(反時計周り)の回転になる。しかし、z = +∞ から z = 0 の方向を見ると、 z = 0 での電場ベクトルの時間的な動きは、右回り(時計周り)の回転になる。 一般的な定義では、位置を固定(例では、z = 0 の位置)して電場の伝播する向きと逆向き(例では z → +∞ から z = 0 の方向)から電場の時間発展を見る時、電場ベクトルが右回りの回転であれば、右回りの円偏光と いう。 円偏光の電場の様子を見る際、時間をある値に固定して、その位置依存性を見る方法もある。先ほどと同じ 電場で、簡単のため t = 0 の場合を見よう。 E ( x , t ) = E0 cos(ωt − kz )e x + ( − E0 ) sin(ωt − kz )e y , E0 > 0 → E ( z , t = 0) = E0 cos( kz )e x + E0 sin( kz )e y 先ほどと同様の表を kz に対して作ると、下のようになる。 0 π /2 π 3π / 2 2π 5π / 2 3π cos(kz ) 1 0 -1 0 1 0 -1 sin(kz ) 0 1 0 -1 0 1 0 kz この場合、電場の伝播方向に向かって(この例では z = −∞ → z = +∞ の方向に進む)電場ベクトルの回転方 向を見る(時間 t は一定とする)と、右回りで電場ベクトルが回転しながら進む。当然ながら、時間と位置の いずれを固定してその様子を見ようとも、同じ電場であるなら、同じ呼び方をされなければならない。よって、 38 時間を固定した場合、電場が伝播する方向に向かって電場ベクトルが 振幅ベクトルのz方向依存性 右回りに回転すれば、その電場は、右回りの円偏光という。右周りの 右回り円偏光 円偏光と逆向きの回転をする電場は左回りの円偏光という。右図は、 z x ある時間における、 + z 方向へ伝播する右回り偏の円光の振幅ベクト ルの変化する様子を示す。 y 伝播方向 (時間固定) 波数 k と周波数ω 以下では、次式で表わされる、周波数ω の単色光の平面波である電磁波を考える。物質(媒質)の誘電率は ε で透磁率は µ とする。電場および磁場を平面波で次のように記述する。なお、σ = 0 より、 i = σE = 0 。 E ( x , t ) = E 0 exp[ −i (ωt − k ⋅ x )], B ( x , t ) = B0 exp[ −i (ωt − k ⋅ x )] Maxwell 方程式から、 k , ω , ε , µ の間に成り立つ関係式を求める。 rotE + ∂B ∂E ∂E = 0 でさらに rot をとり、 rotH − ε = 0 → rotB − εµ = 0 を代入する。 ∂t ∂t ∂t ∂ ∂ ∂2E 0 = rot rotE + B = rotrotE + rotB = rotrotE + εµ 2 = 0 ∂t ∂t ∂t さて、 rotrotE ( x , t ) = −[k × (k × E0 )] exp[−i (ωt − k ⋅ x )] ∂ ∂ Ez ( x, t ) − E y ( x, t ) ∂y ∂z = iE0 z ⋅ k y exp[−i (ωt − k ⋅ x )] − iE0 y ⋅ k z exp[−i (ωt − k ⋅ x )] = i ( E0 z ⋅ k y − E0 y ⋅ k z ) exp[−i (ωt − k ⋅ x )] [rotE ( x , t )]x = = i[k × E 0 ]x exp[−i (ωt − k ⋅ x )] rotE ( x , t ) = i (k × E 0 ) exp[−i (ωt − k ⋅ x )] → rotrotE ( x , t ) = [ik × {i (k × E 0 )}] exp[−i (ωt − k ⋅ x )] = −[k × (k × E 0 )] exp[−i (ωt − k ⋅ x )] 一方、 εµ ∂2E = εµ (−iω ) 2 E0 exp[−i (ωt − k ⋅ x )] = − εµω 2 E0 exp[−i (ωt − k ⋅ x )]] ∂t 2 これより、 − [k × (k × E0 )] exp[−i (ωt − k ⋅ x )] + {− εµω 2 E0 exp[−i (ωt − k ⋅ x )]} = 0 → k × (k × E0 ) = − εµω 2 E0 が成り立つ。次にベクトルの外積の公式: A × ( B × C ) = B( A ⋅ C ) − C ( A ⋅ B) (説明は、次ページ)およ び divE ( x , t ) = 0 から得られる式 E0 ⋅ k = 0 を利用し、 k × ( k × E 0 ) を簡単にする。 ∂ ∂ ∂ Ex ( x, t ) + E y ( x, t ) + Ez ( x, t ) ∂x ∂y ∂z = iE 0 ⋅ k exp[ −i (ωt − k ⋅ x )] = 0 → E 0 ⋅ k = 0 divE ( x , t ) = div{E 0 exp[ −i (ωt − k ⋅ x )]} = すると、 39 k × (k × E 0 ) = − εµω 2 E 0 → k × (k ⋅ E 0 ) − E 0 (k ⋅ k ) = − εµω 2 E 0 → −(k ⋅ k ) E 0 = − εµω 2 E 0 → (k ⋅ k ) = εµω 2 この式で、右辺 εµω > 0 であるから、k ⋅ k は実数である。簡単のため、波数ベクトル k がある単位ベクトル 2 ek (| ek |= 1) を用いて k = kek と書けるとすれば、波数 k と周波数ω の間の関係を表わす、次の式が得られる。 k ⋅ k = k 2 = εµω 2 。 波数 k と屈折率 n 媒質が非磁性体であるとして、 µ = µ0 とする。真空での電磁波の速度 c0 = 1 / ε 0 µ0 を用いると、 k 2 = εµω 2 → k 2 = εµ0ω 2 → k 2 = ε 0 µ0 ε 2 1 ε 2 ε ω ω ε ω = 2 ω →k = ⋅ =n , n= ε0 ε 0 c0 ε0 c0 ε 0 c0 ここで定義した n = ε / ε 0 を、物質の屈折率という。電磁場は、p.24 で示したように、ω / k の(位相)速度 で伝播する。上の結果から、ω / k = c0 / n である。 A × ( B × C ) = B( A ⋅ C ) − C ( A ⋅ B) の説明 [ A × ( B × C )]x = Ay ( B × C ) z − Az ( B × C ) y = Ay ( BxC y − By C x ) − Az ( Bz C x − BxC z ) = Bx ( Ay C y + Az C z ) − C x ( Ay C y + Az Bz ) = Bx ( AxC x + Ay C y + Az C z ) − C x ( Ax Bx + Ay C y + Az Bz ) = [ B ( A ⋅ C ) − C ( A ⋅ B )]x 他の成分も、同様に成り立つことが示される。 (ii) 電気伝導度σ ≠ 0 の場合 σ ≠ 0 の場合、物質は電磁波を吸収する性質を持つ。ここでは、複素屈折率や吸収係数を説明する。 σ = 0 の場合と同様にして、電場が平面波: E = E0 exp[−i (ωt − k ⋅ x )] で σ ≠ 0 の場合、 i = σE 、 D = εE の関係から、 rotH ( x, t ) = ∂D σ ∂E ( x, t ) σ + i = (−iωε ) E + σE = −iω(ε + i ) E = −iωε ' E = ε ' , ε '≡ ε + i ∂t ∂t ω ω を得る。ε ' を、複素誘電率という。こうする事で、物質の電磁波に対する応答が ε ' に含まれた。この式を用い て、物質中の電磁波の伝播を考察する。注意:真電荷は存在しない( ρ ( x ) = 0 )とする。 ρ ( x ) = 0 の理由 電気伝導度σ 、誘電率 ε の物質中での電荷分布を考える。 電荷保存則 ∂ρ ( x, t ) + divi ( x, t ) = 0 に、 i = σE , D = εE , divD = ρ を代入すると、 ∂t ∂ρ ( x, t ) ∂ρ ( x , t ) ∂ρ ( x , t ) 1 ∂ρ ( x, t ) σ + divi ( x , t ) = + σdivE ( x, t ) = + σ ⋅ divD( x , t ) = + ρ ( x, t ) = 0 ε ε ∂t ∂t ∂t ∂t これから、 40 σ t ε ρ ( x, t ) = ρ ( x,0) exp − を得る。この式は、いかなる電荷分布があっても、ε / σ 程度の時間で、電荷が散逸してしまう事を意味する。 そして、何らかの方法で電荷を集めたり、電荷を注入したり(電流 i ( x , t ) ≠ 0 )しなければ、電荷は散逸した ままである。そこで、ここでは ρ ( x , t ) = 0 が常に成り立つものとし、 divD( x, t ) = divE ( x, t ) = 0 の扱いをする。そこで、Gauss の法則から得られる式は、 divB ( x , t ) = 0, divD ( x , t ) = 0 とする事にする。 この時マクスウェル方程式は以下のように、σ = 0 の場合とほぼ同じ式になる。物質の透磁率 µ = µ0 とした。 ∂B ∂B rotE + ∂t = 0 rotE + ∂t = 0 ∂E σ rotH ( x , t ) − ∂D = i = 0, ε ' = ε + i → rotB − ε ' µ 0 ∂t ∂t ω E E div = 0 div = 0 divB = 0 divB = 0 これから、σ = 0 の場合と同様の計算で、次の波動方程式を得る。 ∂2 ∂2 ∂2 ∂2 ∂2 ∆ − ε ' µ0 2 E = 0, ∆ − ε ' µ 0 2 B = 0, ラプラシアン ∆ ≡ 2 + 2 + 2 ∂t ∂t ∂x ∂y ∂z また、σ = 0 の場合と同様の計算をする事で、 k , E0 , B0 が互いに直行することがわかる。具体的には、次の3つ の式から、 k , E0 , B0 間の直交性が導かれる。 E0 ⋅ k = 0 ∂B divE = 0, divB = 0, rotE + = 0 → B0 ⋅ k = 0 : E 0 , B0 , k は互いに直交する ∂t k × E = ωB 0 0 よって、 ρ ( x ) = 0 である吸収媒質(σ ≠ 0 )では、電磁波は横波である。 波数 k = k' +ik" と周波数ω 以下では、次式のような、周波数ω の単色光の平面波である電磁波を考える。 E ( x , t ) = E0 exp[ −i (ωt − k ⋅ x )], B ( x , t ) = B0 exp[ −i (ωt − k ⋅ x )] Maxwell 方程式 rotE + ∂B ∂E = 0 でさらに rot をとり、 rotB − ε ' µ0 = 0 を代入する。 ∂t ∂t ∂ ∂ ∂2E 0 = rot rotE + B = rotrotE + rotB = rotrotE + ε ' µ0 2 = 0 ∂t ∂t ∂t ここで、σ = 0 の場合に行った計算と同様の計算をする。 ∂ ∂ Ez ( x, t ) − E y ( x, t ) = i[k × E0 ]x exp[−i (ωt − k ⋅ x )] ∂y ∂z rotE ( x, t ) = i (k × E0 ) exp[−i (ωt − k ⋅ x )] [rotE ( x, t )]x = rotrotE ( x, t ) = [ik × {i (k × E0 )}] exp[−i (ωt − k ⋅ x )] = −[k × (k × E0 )] exp[−i (ωt − k ⋅ x )] ε ' µ0 ∂2 E = ε ' µ0 (−iω ) 2 E0 exp[−i (ωt − k ⋅ x )] = − ε ' µ0ω 2 E0 exp[−i (ωt − k ⋅ x )] ∂t 2 41 これより、 − [k × (k × E0 )] exp[−i (ωt − k ⋅ x )] + {− ε ' µ0ω 2 E0 exp[−i (ωt − k ⋅ x )]} = 0 → k × (k × E0 ) = − ε ' µ0ω 2 E0 ベクトルの外積の公式: A × ( B × C ) = B( A ⋅ C ) − C ( A ⋅ B) (p.40 に説明)と divE ( x , t ) = 0 → E 0 ⋅ k = 0 を 用いると、 k × ( k × E 0 ) = − ε ' µ 0 ω 2 E 0 → k × ( k ⋅ E 0 ) − E 0 ( k ⋅ k ) = − ε ' µ 0ω 2 E 0 → − ( k ⋅ k ) E 0 = − ε ' µ 0 ω 2 E 0 すなわち、 k ⋅ k = ε ' µ 0ω 2 となる。右辺は複素数( ε ' = ε + iσ / ω )なので、左辺の k も複素数である。よって、実数のベクトル k ' , k " を用いて k = k' +ik" と表わすと、 E = E 0 exp[ −i (ωt − k' ⋅ x )] exp( − k" ⋅ x ) となる。 k" ≠ 0 の場合、電磁波は伝播に伴い、振幅が変化(減衰または増大)する。 ~ 波数 k と複素屈折率 n 吸収のない(σ = 0 )物質の場合に、実数の波数 k ベクトルを単位ベクトル ek (| ek |= 1 )を用いて k = kek と書いた。そして、誘電率 ε 、透磁率 µ0 の媒質を伝播する電磁波の波数(大きさ k )が、電磁波の周波数 ω と 次のような関係を持っている事を示した。ここで、 c0 = 1 / k ⋅ k = εµ0ω 2 → k 2 = ε 0 µ0 、屈折率 n = ε / ε 0 である。 ε ε ω2 ε ω ω (ε 0 µ0 )ω 2 = →k = ⋅ =n 2 ε0 c0 ε 0 c0 ε 0 c0 この関係式を k が複素数のベクトルの場合に拡張する。簡単のため k ' // k " とし、 k // e k , | e k |= 1 となる単位 ベクトル ek を用いて k = ( k '+ik " )ek と書こう。そうすれば、波数 k = kek → k = (k '+ik " )ek の変化に伴い、 ~ = n + iκ のように変わると予想される。すなわち、以下のような関係式になるだろう。 屈折率も n → n k = k '+ik " = ω c0 ε' ω ~ ω σ = n = (n + iκ ), ε ' ≡ ε + i ε 0 c0 c0 ω ---(1) ~ は、複素屈折率と呼ばれる。また、n は屈折率であり、κ は消衰係数である。屈折率 n は、σ = 0 の ここで n 媒質と同様、電場の位相速度が遅くなる程度を表わす定数であり、消衰係数κ は、電場の伝播に伴って、電場 の振幅が変化する度合いを表わす定数である。ε ' ≡ ε + iσ / ω の場合の、 n, κ の具体的な式は、次の「吸収係 数α 」の項目で、与えられている。 吸収係数α :Beer の法則 光の伝播方向に沿っての、物質による光吸収を考える。物質の吸 I(z) I(z+dz) 収係数α は、単位長さあたり物質により光が吸収される割合として 定義される。すると、長さ L の物質により光が吸収される割合は、 αL になる。 光が z 軸方向に伝播し、物質の表面から深さ z の場所での光強度 を I (z ) とする。光の位置が z から z + dz だけ変化する時、光が吸 42 z=0 z z+dz 収される割合はαdz で与えられる。よって、光の位置 z , z + dz での光強度の関係は、次のようになる。ここ で、 I (0) は入射光強度である。 I ( z + dz ) − I ( z ) = −αI ( z )dz → dI ( z ) = −αI ( z ) dz → I ( z ) = I (0) exp(−αz ) この関係を Beer の法則という。 先ほど得られた関係式 k = ω c0 (n + iκ ) を用いると、物質中の電場ベクトルは、 n, κ を用いて、 n ω ω E ( z , t ) = E0 exp(− i (ωt − kz ) ) = E0 exp − i ωt − (n + iκ ) z = E 0 exp − iω (t − z ) − κz c0 c0 c0 となる。 n は光電場の位相速度を決め、一方κ は振幅の大きさが電磁波の伝播とともに減衰(増大)する割合 を決めることがわかる。n およびκ をそれぞれ屈折率および消衰係数と呼ぶ。さらに光強度は電場の 2 乗に比 例するので、光強度 I (z ) は I ( z ) = I (0) exp(−αz ) のように変化する。ここでα = 2ωκ を吸収係数と呼ぶ。 c0 n~ = n + iκ を ε ,σ , ω を用いて表わす事 さて、既に示した式(p.42 の(1)式)を用いると、 ε ' / ε = n 2 − κ 2 ε' ε' εR' εI ' = n + iκ → = +i = (n + iκ ) 2 = n 2 − κ 2 + 2inκ → R 0 ε0 ε0 ε 0 ε0 ε I ' / ε 0 = 2nκ の関係式が出る。これと ε ' = ε R '+iε I ' = ε + i σ の関係式から、n, κ を ε , ω , σ で表わすと、次のようになる。 ω 1/ 2 1/ 2 2 2 ε ε σ σ n= 1+ 1+ , κ = −1 + 1 + 2ε 0 2ε 0 εω εω ただし n, κ > 0 とした。また、波数ベクトル k = k '+ik" = k'= ω c0 ε σ 1+ 1+ 2ε 0 εω 2 1/ 2 , k " = ω c0 ω c0 。 (n + iκ ) は、ε ' = ε R '+iε I ' = ε + i ε σ −1+ 1+ 2ε 0 εω で与えられる。計算の詳細は、以下。 n, κ > 0 の値の求め方 ( ε R ' , ε I ' > 0 としての計算) n 2 ,−κ 2 は、以下の 2 次方程式の解である。 43 2 1/ 2 σ の関係から ω 2 2 ε R ' / ε 0 = n 2 − κ 2 εR' ε I '2 ε R ' / ε 0 = n + (−κ ) 2 → → x − x − =0 2 ε0 4ε 0 − (ε I ' /( 2ε 0 )) 2 = n 2 ⋅ (−κ 2 ) ε I ' / ε 0 = 2nκ この方程式を解く。 2 2 ε ' ε '2 ε ' ε '2 ε '2 ε ' 1 ε ' 2 ε '2 x − R x − I 2 = 0 → x − R − R 2 − I 2 = 0 → x − R = R 2 + I 2 2ε 0 4ε 0 2ε 0 4 ε0 ε0 4ε 0 4ε 0 ε0 2 →x= ε R ' 1 ε R '2 ε I '2 ± + 2ε 0 2 ε 0 2 ε 0 2 よって、 n > 0, κ > 0 として、 1 εR' ε ' 1 ε R '2 ε I '2 n2 = R + + 2 →n= + 2 2ε 0 2 ε 0 ε0 2 ε 0 1/ 2 2 2 ε R ' ε I ' + ε 0 ε 0 1 εR' εR' 1 εR' εI ' ε ' 1 εR' εI ' 2 −κ 2 = R − + → = − + + → = − + κ κ 2ε 0 2 ε 0 2 ε 0 2 2ε 0 2 ε 0 2 ε 0 2 2 ε 0 2 εR '= ε , εI '= 2 2 2 σ を代入して、 n, κ 等の値を得る。 ω 44 1/ 2 2 2 ε R ' ε I ' + ε 0 ε 0 (iii) 空気と物質(σ ≠ 0 )との境界面での反射率 R n = 1 n~ 入射 空気中から垂直入射で電磁波が物体へ入射する時、電磁波の反射率 R は、物体 ~ として、次式で与えられる。 の複素屈折率を n 透過 反射 2 n~ − 1 ( n − 1) 2 + κ 2 R= ~ = n +1 ( n + 1) 2 + κ 2 z B0=k×E0/ω 以下、 R の求め方 z = 0 を境界面とし、z < 0 で空気中または真空中、z > 0 で物質中とする。 電荷密度 ρ ( x ) = 0 とする。また、µ = µ 0 の物質とする。電磁波は、境界面に k E0 垂直入射する。 入射電磁波 :incident + z 方向、波数は k ベクトルの向きの、計算での確認 E i ( z , t ) = E0i exp[−i (ωt − kz )] = ( E xi 0 ,0,0) exp[−i(ωt − kz )] H i ( z , t ) = H 0i exp[−i (ωt − kz )] = (0, H yi 0 ,0) exp[−i (ωt − kz )] 反射電磁波 :reflected − z 方向、波数は − k E r ( z, t ) = E0 exp[−i (ωt − (−k ) z )] = ( E xr0 ,0,0) exp[− i (ωt + kz )] r H r ( z, t ) = H 0 exp[−i (ωt − (−k ) z )] = (0, H yr 0 ,0) exp[− i(ωt + kz )] r 透過電磁波:transmitted E0i = ( E0i ,0,0), k i = (0,0, k ) i k × E 0 = (0, kE0 ,0) = ωB0i → B0i = k × E0 / ω = (0, kE0 / ω ,0) E0r = ( E0r ,0,0), k r = (0,0,−k ) r k × E0r = (0,−kE0 ,0) = ωB0r → B0r = k r × E 0r / ω = (0,−kE0r / ω ,0) + z 方向、波数は k ' E t ( z , t ) = E0 exp[−i (ωt − k ' z )] = ( E xt 0 ,0,0) exp[−i (ωt − k ' z )] t H t ( z, t ) = H 0 exp[−i (ωt − k ' z )] = (0, H yt 0 ,0) exp[−i (ωt − k ' z )] t E0t = ( E0t ,0,0), k t = (0,0, k ' ) t k × E0t = (0, k ' E0t ,0) = ωB0t → B0t = k t × E 0t / ω = (0, k ' E0t / ω ,0) 物質中のマクスウェル方程式は、 µ = µ 0 かつ損失がある場合(σ ≠ 0 )に行った計算から、次のような式 になった。 ( ρ ( x , t ) = 0 を仮定する。 ε ' = ε + iσ / ω 。p.41 の式) ∂B ( x , t ) =0 ∂t ∂D( x , t ) ∂E ( x , t ) rotH ( x , t ) − = i ( x , t ) または rotH ( x , t ) = ε ' ∂t ∂t divB ( x , t ) = 0 rotE ( x , t ) + Exi z=0 Ext Hyi Exr divD( x , t ) = 0 Hyt また、空気中と物質中で、次の関係式が成り立つ。 z < 0 : B = µ0 H , D = ε 0 E , i ( x, t ) = 0 Hyr z > 0 : B = µ0 H , D = εE , i ( x , t ) = σE ( x , t ) また、誘電率 ε 、透磁率 µ = µ0 、電気伝導度σ (複素誘電率 ε ' = ε + iσ / ω )である物質を伝播する電磁波 ~ は、 の波数 k ' (複素数)および物質の複素屈折率 n k' 2 = ε ' µ 0ω 2 = ε ' ω2 ε' ω ~ ω ω ε' : k'= = n = ( n + iκ ) , ε 0 µ 0ω 2 = 2 c0 c0 ε 0 c0 ε 0 c0 ε0 45 σ ε' ~ = n = n + iκ , ε ' = ε + i ω ε0 ~, n, κ を用いて、入射、反射、透 で与えられる(p.42 の(1)式) 。ここでは、ε ,σ , µ の代わりに、もっぱら n 過する電磁波の振幅の間の関係式を求め、反射率 R を求める。 最初は、Maxwell 方程式の中の 1 つの式 rotE ( x, t ) + ∂B( x, t ) = rotE ( x , t ) + µ 0 ∂H ( x , t ) = 0 に、 ∂t ∂t E , H : E ( z , t ) = E 0 exp[ −i (ωt − kz )] = ( E x 0 ,0,0) exp[ −i (ωt − kz )] H ( z , t ) = H 0 exp[ −i (ωt − kz )] = (0, H y 0 ,0) exp[ −i (ωt − kz )] を代入し、 y 成分の比較を行う事で、電場および磁場間の振幅の関係式を求める。 まず、透過する電磁波では、 ( E ( z, t ), H ( z, t ) で、 k → k ' の読み替え) y 成分を比較すると、 ∂H y ∂E xt ∂E zt − = − µ0 → ik ' E xt 0 exp[ −i (ωt − k ' z )] − 0 = − µ 0 ( −iω ) H yt 0 exp[ −i (ωt − k ' z )] ∂z ∂x ∂t k' t n~ n~ n~ n~ t 1/ 2 t t → H yt 0 = Ex0 = E xt 0 = E = E = E x 0 , Z 0 = (µ 0 / ε 0 ) x 0 x 0 1/ 2 1/ 2 Z0 µ0ω µ0c0 (µ 0 / ε 0 ) µ 0 / (µ0ε 0 ) t Z 0 = 377(Ω) を、自由空間(真空)のインピーダンスという。 入射電磁波 E x 0 , H y 0 の場合は、上の関係式で、 ε ' → ε 0 , k ' → k の置き換えを行い、 i H yi 0 = i 1 i Ex0 Z0 を得る。 最後に、反射する電磁波 E x 0 , H y 0 では、伝播方向が − z だから波数は − k となる。そこで E ( z, t ), H ( z, t ) r r で、波数 k → − k の読み替えを行い、真空中での伝播である事から誘電率 ε ' = ε 0 ( ε = ε 0 , σ = 0 )とおき、 ∂H ∂E xr ∂E zr − = − µ0 → i ( − k ) E xr0 exp[ −i (ωt − ( − k ) z )] − 0 = − µ 0 ( −iω ) H yr 0 exp[ −i (ωt − ( − k ) z )] ∂z ∂x ∂t − k 1 1/ 2 → H yr 0 = E xr0 = − E xr0 , Z 0 = (µ 0 / ε 0 ) µ 0ω Z0 r y となる。まとめると、 H yi 0 = 1 i 1 n~ t Ex 0 , H yr 0 = − Exr0 , H yt 0 = Ex 0 Z0 Z0 Z0 である。 E yi 0 , H xi 0 , E yr 0 , H xr0 , E yt 0 , H xt 0 間の関係式は、次の 2 つのマクスウェル方程式を利用して電磁波の境界面で の連続の条件を求め、その結果を利用して導く事ができる。 rotE ( x , t ) + ∂B ( x , t ) ∂D( x , t ) = 0, rotH ( x , t ) − = i ( x , t ) = σE ( x , t ) ∂t ∂t 最初に、 rotE ( x, t ) + ∂B( x, t ) =0 ∂t において、空気中と物質との境界線を含む、長さ δl , δh 面積 δS = δlδh の微小な長方形で、面積積分を行う。 46 その際、ストークスの定理 ∫ C E (r , t ) ⋅ dr = ∫ rotE ( x , t ) ⋅ ndS を用い、電場の面積積分を線積分に変える。 S ∂B ( x , t ) ∂B ( x , t ) = 0 → ∫ E (r , t ) ⋅ dr = ∫ rotE ( x , t ) ⋅ ndS = − ∫ ⋅ ndS C S S ∂t ∂t ∂B ( x , t ) → ∫ E ( r , t ) ⋅ dr = − ∫ ⋅ ndS C S ∂t rotE ( x , t ) + ベクトル t は、境界面と平行な任意方向の単位ベクトルである。 n を境界面に垂直な法線方向の単位ベクトル とし、 b を n および t に垂直な単位ベクトル( b = n × t )とする。 E1 を空気中の電場、 E2 を物質中の電場 とする。 E の線積分を具体的に計算しよう。右図の線積分の長方形の経路で、境界面に垂直方向の経路では、空気中 (領域 1)でδh1 、物質中(領域 2)でδh2 の移動の長さとし、δh = δh1 + δh2 とする。境界線に沿った経路の 長さは δl とする。境界線をまたぐ 2 つの線積分は、相殺してゼロになる 領域1 δl t δh (δh << δl として、δh の線積分の寄与を無視できると考えても、同じ結果を 得る。 ) 。 E ( x , t ) および B ( x , t ) の値は、δh, δl の大きさが十分小さいとして、 領域2 長方形の経路内の 1 点 x で代表させる。電場 E は線積分、磁束密度 B は面積 積分を行えば、 E1 ⋅ tδl + E 2 ⋅ ( − t )δl = − ∑ ∂B j ( x , t ) j =1, 2 ∂t n ⋅ bδlδh j t をえる。ここでδh = δh1 + δh2 → 0 とすれば、右辺はゼロになるので、 b = n×t E1 ⋅ tδl + E 2 ⋅ (− t )δl = 0 → ( E1 − E 2 ) ⋅ t = 0 を得る。この式は、E1 − E2 の t 成分がゼロ、すなわち、E1 = E + E , E 2 = E の t 成分が等しい事を示す。 i r t さて、 t を x 方向にとれば、 E1 − E2 の x 方向の成分はゼロなので、 E xi 0 + Exr0 = Ext 0 を得る。同様にして、 rotH ( x, t ) = ∂D( x, t ) + σE ( x, t ) ∂t において、空気中と物質との境界線を含む、長さδl , δh 面積δS = δlδh の微小な長方形における面積積分を行 う。 H1 を空気中の磁場、 H 2 を物質中の磁場とする。先ほどと同様に考え、ストークスの定理を用いると、 rotH ( x , t ) = ∂D( x , t ) ∂D( x, t ) + σE ( x , t ) → ∫ H (r , t ) ⋅ dr = ∫ + σE ( x , t ) ⋅ ndS C S ∂t ∂ t → H1 ⋅ tδl + H 2 ⋅ (−t )δl = ∂D j ( x , t ) + σE j (x, t ) ⋅ bδlδh j ∂t j =1, 2 ∑ となる。ここでδh = δh1 + δh2 → 0 とすれば、 H1 ⋅ tδl + H 2 ⋅ (− t )δl = 0 → ( H1 − H 2 ) ⋅ t = 0 を得る。この式は H1 − H 2 の t 方向の成分がゼロ、すなわち、H1 = H + H , H 2 = H の t 成分が等しい事 i を示す。そこで t を y 方向にとれば、 47 r t 1 i 1 r n~ t Ex0 − E x0 = E x 0 → E xi 0 − E xr0 = n~E xt 0 Z0 Z0 Z0 H xi 0 + H xr0 = H xt 0 → を得る。反射率は、入射電磁波強度に対する反射電磁波強度の比で定義される。また、電磁波の強度は電磁波 の振幅の 2 乗に比例するので、以下のようになる。 r ~ Exi 0 + Exr0 = Ext 0 ~ − 1) E i + (n~ + 1) E r = 0 → Ex 0 = − n − 1 → R = → ( n i x0 x0 Exi 0 n~ + 1 Ex 0 − Exr0 = n~Ext 0 2 n~ − 1 n~ + 1 これより反射率 R は、 2 n~ − 1 R= ~ n +1 で与えられる。磁場の連続の式から計算しても、同じ結果が得られる。以下は、その途中計算の部分である。 H xi 0 + H xr0 = H xt 0 r ~ ~ ~ ) H i + (1 + n~ ) H r = 0 → H x 0 = − 1 − n = n − 1 ( 1 → − n i x0 x0 1 t r H xi 0 1 + n~ n~ + 1 H y 0 − H y 0 = ~ H y 0 n 補足: divB ( x , t ) = 0, divD( x , t ) = 0 この 2 つの式から、境界面において、 D, B の境界面に垂直な成分(法線成分)が連続である事が求まる。 図のような、境界面を含む、厚さの薄い直方体の中で divB( x, t ) = 0 、および divD( x , t ) = 0 の体積積分を 行う。Gauss の定理 ∫ V divAdV = ∫ A ⋅ ndS を利用し、 n を境界面の法線方向の単位ベクトルとすると、 S D1 ⋅ n1δS + D2 ⋅ n2δS = 0, n = n1 = −n2 → ( D1 − D2 ) ⋅ nδS = 0 n1 → ( D1 − D2 ) ⋅ n = 0 これは、 D1 , D2 の n 方向の成分が等しい事を示す。同様の計算で、 ( B1 − B2 ) ⋅ n = 0 を得る。この場合も、 B1 , B2 の n 方向の成分が等しい事を示す。 48 n2 n 物質の光学的性質 物質の光学的性質は、誘電率や吸収係数などで特徴付けられる。そのメカニズムを古典的なモデル(模型) により説明する。代表的な模型には、電子がポテンシャルに束縛された電子振動模型と、自由電子の運動を扱 うドルーデ模型がある。 振動の一般論・概論 原子の振動子 振動している電気双極子は、1887 年にヘルツ(Hertz)により実験的に証明されたように、電磁波を放射す る。原子を振動する双極子とみなす考えは、Hertz の実験に先立って、1878 年にローレンツ(Lorentz)によ り提案された。 原子の振動子模型では、次のように考える。電子は、原子核の周りの安定な軌道を回る。そして、ばねは 電子の平衡状態からのずれを元に戻す復元力を表わす。負に帯電した電子(図で白丸)と、正に帯電した原子 核(図で黒丸)により、電気双極子を作る。その大きさは、電子と原子核との距離に比例する。 電子の質量、原子核の質量をそれぞれ m, M とし、復元力のばね定数を K S とすれば、周波数ω0 は、 ω0 = KS 1 1 1 , = + mred mred m M で与えられる。ここで mred は換算質量という。原子には、多くの遷移周波数 が存在する(近赤外、可視、紫外の領域に、多くの吸収と放出のスペクトル が存在)ので、我々は、多くの双極子の存在を仮定しなければならない。 双極子とスペクトルとの関係は、双極子の振動を考える事で理解できる。 原子核の質量は電子に比べはるかに大きいので、原子双極子の振動の最中、ほとんどその位置を変えない。一 方電子は周波数 ω0 で原子核に近づいたり遠ざかったりする。よって、電子の振動で時間変化する双極子が生 じる。 + e の電荷を持つ原子核と − e の電荷を持つ電子との距離を x(t ) (原子核が十分重くほとんど移動しな いと考え、 x (t ) は電子の平衡状態の位置からのずれと考えてよい。 )である。とすると、時間変化する電気双 極子 p (t ) は以下のように書かれる: p (t ) = ( − e) x (t ) 。 振動する双極子は、古典的な Hertz の双極子の実験が示すように、周波数ω0 の電磁波を放出する。よって原 子は、十分なエネルギーが与えられれば、その双極子固有の周波数の電磁波を放出する。 イオン・極性分子による振動子 もし媒質がイオン結晶なら、正負のイオンを含む。これらの帯電したイオンが平衡状態の位置から振動する なら、振動する双極子になる。これは、原子核の周りで振動する電子と同じである。よって、イオン結晶中の イオンと電磁波との相互作用を考える時、これら双極子による光学的効果を考える必要がある。 古典的な分極した分子では、2 つのイオンがばねにより結合し、安定な状態にある。2 つのイオンは、安定 な位置の周辺で振動し、振動する電気双極子を形成する。これは、原子核に束縛された電子の振動と同じであ る。この模型の換算質量は、先ほどの原子と電子での双極子の換算質量よりもはるかに大きいので、電子が振 動する場合と比較すると周波数が低くなり、振動の周波数は近赤外の領域の周波数になる。 49 E 分子の振動と光との相互作用は、分子に対して外部から加える電場 によって生じる。電場により帯電した原子(イオン)が動くので、分子 が帯電している事は重要である。分極した分子では、電子雲が複数の原 子のうちの 1 つに高確率で位置している。 - + 原子による電磁波の吸収 双極子模型は、原子と周波数ω の外部電磁波との相互作用を理解する助けにもなる。交流電場は、電子と原 子核に対して力を加え、周波数 ω で振動させる。もし ω が原子の持つ周波数のうちの1つ ω0 に等しいなら、 共鳴現象が起こる。共鳴により、電子と原子核の振動は非常に大きくなり、外部電場から原子へとエネルギー が移動する。つまり ω = ω0 なら、原子は電磁場のエネルギーを吸収する。 媒質による電磁波の吸収 量子論によると、電磁波の吸収では、原子が電磁波を吸収し、励起状態に遷移する。これは、終状態、始状 態のエネルギーを E 2 , E1 とし、 hω = E 2 − E1 の時に限って起こる。ここで h は h をプランク定数として、 h = h /(2π ) である。もし原子が励起されたら、原子は無輻射遷移(電磁波を出さない遷移)により基底状態 に戻る。この際、吸収された電磁波は熱になる。または、ある時間遅れを伴い、電磁波を放出する。原子から 放出された電磁波は、互いにコヒーレンスが無い(干渉の性質を示さない、または放出される電場の位相がラ ンダムである。また、放出される電磁波の向きは、ある定まった方向があるわけではなく、全ての方向に電磁 波は放出される。よって、電磁波が原子により構成された媒質を通過後、電磁波のエネルギーが減少する。こ れが媒質による電磁波の吸収である。なお、電場の可干渉性、コヒーレンスについては、簡単な記述が p.10 にある。 媒質中において光電場の速度が減少する理由 もし ω ≠ ω0 なら、原子は電磁波を吸収せず、原子を含む媒質はその電磁波に対して透明である。この状況 では、電磁波は原子を非共鳴的に振動させ、その振動周波数は電磁波の周波数ω である。原子の振動は電磁波 の振動に追従するが、その振動には位相の遅れが生じる。この位相の遅れは摩擦による減衰により生じる(減 衰のある調和振動子の強制振動で、位相の遅れのあることが、大抵の本で説明されている。 ) 。振動している原 子は全て電磁波を放射するが、電場位相の遅れは、原子を含む媒質にわたって起こるため、電磁波の波面に時 間遅延が生じる。これが、媒質中の電磁波の速度が真空中の速度よりも遅い理由である。速度の減少は、この ように起こる。そして、媒質の屈折率は、真空中の光電場の速度に対する媒質中の光電場の速度の比により定 義される。 自由電子の集団運動 電子と原子核による双極子、イオン同士による双極子は、どちらも束縛された振動子である。ところが、金 属やキャリアをドープした半導体では、自由電子の数が非常に多い。このような自由電子は、個別の振る舞い ではなく、集団としての運動を行う。 50 平衡状態では、自由電子が空間的に一様に分布しているとしよう。しかし何らかの原因でその分布に乱れが 生じると、ある場所での電荷密度分布が高くなる。しかし電子が集合すると、同じ符号の電荷を持つ電子にク ーロン力が働き、集合した電子は、もとの平衡点に戻ろうとする。このようにして、自由電子の集団としての 動きが生じる。平衡点に自由電子が戻っても、いきなり止まる事はできないため、平衡点を通過し、その後再 び平衡点に戻ろうとする。自由電子の集合は、このような振動運動を行う。このような振動を、プラズマ振動 という。 自由電子が支配的な金属では、プラズマ周波数(後ほど説明する)よりも高い周波数の電磁波に対して透明 になり、プラズマ周波数よりも低い周波数の電磁波を全反射で反射する。金属光沢は、この考えに基づいた模 型で説明される。 51 電子振動子模型 --- 誘電体・絶縁体に対する模型 --この模型は、量子力学の発展以前に原子物理学者たちによって用いられてきた。電磁波に最もよく応答するの は,物質内の電子である。この模型では、1個の原子の中で、調和振動子のポテンシャルの谷の中に捉えられた 電子により電気双極子が誘起される。電子振動子の共鳴周波数と吸収線の線幅は、実際の遷移にあうように選ぶ。 また、振動子と電磁場の相互作用の強さを表すパラメーターである振動子強度(oscillator strength)を導入す る。これを用いて計算した吸収強度が実験値と合うように定める。 1 次元における質量 m 、電荷 − e の電子振動子の運動方程式は、 d 2 x(t ) dx(t ) k e +γ + x(t ) = − E (t ) 2 dt dt m m ここで x (t ) は電子の平衡位置からの変位であり、γ は減衰定数、kx は復元力、E (t ) は電場の瞬時値を表す。 なお、この模型では、電子は原子核に束縛されており、巨視的な電荷の流れ、すなわち電流はない。 電場 E (t ) と原子の変位 x (t ) を次のように表す。 (電場や変位は実数であるため、計算は exp( −iωt ) のまま 行ない、最後に実部をとればよい。 ) E (t ) = E0 exp( −iωt ), x (t ) = X (ω ) exp( −iωt ) 固有(角)周波数ω 0 = χ"max k / m とおくと、上式は (ω02 − ω 2 ) X − iωγX = −(e / m) E0 → X = − χ"max/2 (e / m) E0 ω0 − ω 2 − iωγ 2 となり、変位 x (t ) は、次のようになる。 FWHM (e / m ) x(t ) = − 2 ⋅ E0 exp(−iωt ) ω0 − ω 2 − iωγ われわれは電磁波の周波数ω ~ ω0 の近傍に興味があるので、次の変形をする。 x(t ) = − (e / m) E0 exp(−iωt ) (e / m) E0 exp(−iωt ) (e / mω0 ) E0 exp(−iωt ) ≈− =− (ω0 − ω )(ω0 + ω ) − iωγ (ω0 − ω )(ω0 + ω0 ) − iω0γ 2(ω0 − ω ) − iγ 分極(巨視的な双極子モーメント) P (t ) は、単位体積中に N 個の振動子が存在する場合、1 個の振動子(電 子)の双極子モーメント p (t ) = ( −e) x(t ) の N 倍で与えられ、 P (t ) = N ( −e) x (t ) = ( Ne 2 / mω0 ) E0 exp( −iωt ) ( Ne 2 / 2mω0 ) =− E0 exp( −iωt ) 2(ω0 − ω ) − iγ (ω − ω0 ) + iγ / 2 と表される。電子の電気感受率 χ (ω ) は、誘起された分極 P (t ) = ε 0 χ (ω ) E (t ) の式で定義され、一般には複 素数となる。 χ (ω ) = χ ' (ω ) + iχ " (ω ) とおくと、 χ (ω ) = − Ne 2 1 ⋅ 2mω0ε 0 ω − ω0 + iγ / 2 χ ' (ω ) = − Ne 2 Ne 2 ω − ω0 γ /2 χ ω ⋅ , " ( ) = ⋅ 2 2 2mω0ε 0 (ω − ω0 ) + (γ / 2) 2mω0ε 0 (ω − ω0 ) 2 + (γ / 2) 2 となる。 χ " (ω ) は半値全幅(full width at half maximum:FWHM)γ / 2 のローレンツ形(1 /( x + 1) のよう 2 な関数形)である。半値幅とは、 χ " (ω ) がとる最大値 χ "Max の半分の値 χ "Max / 2 を与える 2 つの周波数の差 をいう。半値全幅は、半値幅とも言われる。一方 χ ' (ω ) は χ " (ω ) を微分したような形状である。 52 χ (ω ) が複素数であるため、物質の誘電率は複素数になるので、 ε ' と書く。電束密度 D の定義: D = ε ' E = ε 0 E + P = ε 0 E + ε 0 χ (ω ) E = ε 0 (1 + χ (ω )) E から、誘電率 ε ' は、 ε ' = ε 0 (1 + χ (ω )) である。よって、| χ (ω ) | << 1 の場合、 n + iκ は次のように簡単に求まる。 (p.42 の(1)式参照) 1 1 i ε' ε 0 (1 + χ (ω )) = = 1 + χ (ω ) ~ 1 + χ (ω ) = [1 + χ ' (ω )] + χ " (ω ) ε0 ε0 2 2 2 ε' = n + iκ , ε0 → n = 1+ 1 1 χ ' (ω ), κ = χ " (ω ) 2 2 一般には、 n = ε 0 (1 + χ (ω )) = [1 + χ ' (ω )] + iχ " (ω ) → ε0 κ = 1/ 2 1 2 2 1 + χ ' (ω ) + (1 + χ ' (ω ) ) + (χ " (ω ) ) 2 1/ 2 1 2 2 − 1 − χ ' (ω ) + (1 + χ ' (ω ) ) + (χ " (ω ) ) 2 で与えられる。 複数の周波数を持つ振動子が単位体積あたり N 個あり、そのうち周波数 ω j を持つ振動子の割合が f j なら、 χ (ω ) = −∑ j Ne 2 f j 2mω jε 0 ⋅ Ne 2 f j 1 1 =∑ ⋅ , ∑j f j = 1 ω − ω j + iγ j / 2 j 2mω j ε 0 ω j − ω − iγ j / 2 となる。ここで f j を振動子強度という。 図はω0 / γ = 5 / 0.4 の場合 1.5 ω − ω0 χ " (ω ) χ ' (ω ) 1 γ /2 , = =− 2 χ "max ω − ω0 2 χ "max ω − ω0 + 1 + 1 γ /2 γ /2 χ "max = χ " (ω0 ) = 1 χ"(ω)/χ"max 0.5 0 Ne 2 mω0γε 0 -0.5 Ne 2 1 Ne 2 1 ⋅ =− ⋅ γ ω − ω0 2mω0ε 0 ω − ω + i γ 2mω0ε 0 ⋅ +i 0 2 2 γ /2 ω − ω0 −i Ne 2 γ /2 =− ⋅ mω0γε 0 ω − ω0 2 + 1 γ /2 χ (ω ) = − -1 -4 χ'(ω)/χmax -2 0 2 4 (ω−ω0)/γ | χ (ω ) |<< 1 の場合、複素屈折率 n~ = n + iκ は上で計算したように、きれいな式になる( n~ = 1 + χ (ω ) / 2 ) ので、屈折率 n の電磁波の周波数ω 依存性に関する以下の議論は、周波数の範囲を含め厳密に正しい。 さて、χ ' (ω ) はω = ω0 − γ / 2 ≡ ω L に最大値、ω = ω0 + γ / 2 ≡ ω R に最小値を持つ分散型( x /[ x + 1] の形) 2 53 の曲線である(このページの補足参照) 。一方 χ " (ω ) は、ω = ω0 にピークを持つローレンツ型(1 /[ x + 1] の 2 形)の曲線で、その半値全幅( χ " (ω ) が最大値の 1/2 の値をとる時の 2 つの ω の差: ω R − ω L )は γ である。 ω << ω L およびω >> ω R の領域では、物質は電場に対してほぼ透明である( χ " (ω ) ~ 0 → κ ~ 0 。注意: 真空中と物質との境界で反射がゼロという意味ではない。吸収がない事をさして、透明と言っている。 ) 。また ω < ω L および ω R < ω の領域では、屈折率は、周波数 ω が大きくなるに従い大きくなる。一方 ω0 近傍 ( ω L < ω < ω R )では、周波数 ω が大きくなるに従い屈折率は小さくなる。屈折率が周波数に依存する現象 を分散とよび、 dn / dω > 0 の場合( ω < ω L および ω R < ω の領域)を正常分散、 dn / dω < 0 の場合 (ω L < ω < ω R の領域)を異常分散とよぶ。 | χ (ω ) |> 1 の場合は、上の議論は定性的に正しい。周波数の範囲が少し変わる。 n 複数の電子振動子がある場合(図では 3 つ) 、右図のような振る舞いをする。 ω κ ω 白色光 赤 黄 緑 三角プリズムによる光の分散現象:波長ごとに屈折率が異なる ため、異なる波長成分が空間的に分離される。 紫 青 ω − ω0 χ ω ' ( ) γ /2 補足: =− 2 χ "max ω − ω0 の振る舞い + 1 γ /2 x≡ x ω − ω0 , f ( x) = − 2 = − x ⋅ ( x 2 + 1) −1 γ /2 x +1 − ( x 2 + 1) + 2 x 2 x2 −1 = ( x 2 + 1) 2 ( x 2 + 1) 2 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− x | − ∞ − 1 + 1 + ∞ f ' ( x) | + 0 − 0 + f ' ( x) = −1 ⋅ ( x 2 + 1) −1 − x ⋅ (−2 x) ⋅ ( x 2 + 1) −2 = f ( x) | 0 増加 極大値 減少 極小値 増加 よって χ ' (ω ) は、 ω − ω0 = ±1 で極値を取る。 γ /2 54 0 ドルーデ(Drude)模型 重い金属イオンと軽い電子との混じった電気的に中性の集合体を、プラズマと言う。金属や、不純物をドー プした半導体は、 同じ数の位置が固定されたイオンと自由電子からなるので、 プラズマとしての扱いが出来る。 自由電子は、外部から力が加わっても、復元力(元の位置に戻ろうとする力:ばねによる力など)が働かない。 1 次元の自由電子の運動方程式は、 d 2 x (t ) m dx(t ) m + = −eE (t ) dt 2 τ dt ここで x (t ) は電子の位置であり、τ は電子同士の衝突までの時間、または電子がイオンに衝突するまでの時間 の平均値、E (t ) は電場の瞬時値、( − e) は電子の電荷を表す。電場 E (t ) と原子の変位 x (t ) を次のように表す。 (電場や変位は実数であるため、計算は exp( −iωt ) のまま行ない、最後に実部をとればよい。 ) E (t ) = E0 exp( −iωt ), x (t ) = X (ω ) exp( −iωt ) すると、運動方程式から − ω2 X − iω τ X = −( e / m ) E 0 → X = e 1 ⋅ ⋅ E0 m ω 2 + iω τ となり、変位 x (t ) は、次のようになる。 x (t ) = e 1 ⋅ ⋅ E0 exp( −iωt ) m ω 2 + iω τ 1 個の電子の双極子モーメント p (t ) は p (t ) = ( −e) x(t ) であるから、単位体積中に N 個の振動子が存在する 場合、巨視的な双極子モーメントすなわち分極 P (t ) は、 p (t ) の N 倍となり、 P (t ) = N ( − e) x (t ) = N ( − e) ⋅ e 1 Ne 2 1 ⋅ ⋅ E 0 exp( −iωt ) = − ⋅ ⋅ E 0 exp( −iωt ) m ω 2 + iω m ω 2 + iω τ τ と表される。分極 P (t ) と電場 E (t ) との関係式: P (t ) = ε 0 χ (ω ) E (t ) から電気感受率 χ (ω ) が求まる。 ε 0 χ (ω ) = − ω P2 Ne 2 1 Ne 2 1 Ne 2 。 ⋅ → χ (ω ) = − ⋅ =− , ω P2 = iω m ω 2 + iω ε 0m ε 0 m ω 2 + iω ω2 + τ τ τ ω P をプラズマ周波数という。実部と虚部に分けて書くと i 1− 2 ω P2 ω P2 Ne 2 1 1 i ω P2 ωτ = − ω P χ (ω ) = − ⋅ =− =− 2⋅ =− 2⋅ ⋅ 1− 2 2 iω i 1 ε 0 m ω 2 + iω ω ω ω τ ωτ + 1 / 2 ω + 1+ 1+ τ ωτ τ (ωτ ) 2 =− ω P2 ω 2 + 1/τ 2 +i ω P2 /(ωτ ) ω 2 + 1/τ 2 となり、 χ (ω ) は一般には複素数となる。 55 ドルーデ模型の光学的性質 (緩和定数τ = ∞ の場合の電気感受率 χ (ω ) ) まず、運動がほとんど抑制されない(τ = ∞ )電子の系を考える。すると、 χ (ω ) = − ω2 Ne 2 1 ⋅ 2 → χ (ω ) = − P2 ε 0 m ω + iω / τ ω となる。誘電率 ε = ε 0 (1 + χ (ω )) であり、誘電率 ε と n, κ の関係式は次のとおり。 (p.42 の(1)式) (注意: 誘電率が実数でも、屈折率は複素数になる場合がある。 ) ε ~ = n = n + iκ , ε0 ε' ε 0 (1 − ω P2 / ω 2 ) ω2 = = 1 − P2 ε0 ε0 ω 反 1 空気と物体との境界面での反射率 R は、垂直入射の場合、 射 n~ − 1 ( n − 1) 2 + κ 2 R= ~ = n +1 (n + 1) 2 + κ 2 率 2 0 1 ω/ωP で与えられる(既に示した。p.45) 。 物体の厚さが十分厚いとしよう。ω < ω P の時 ε / ε 0 = n~ は純虚数である。よって、電磁波の反射率 R = 1 となる。ω > ω P では反射率が下がり、ω → ∞ では n = 1 となり、反射率 R → 0 となる。金属には、自由電 子がたくさんあるため、ω P は十分大きく、ω < ω P であるような可視光の領域で R = 1 (全反射)である。こ れが、金属が全反射して光沢を持つ理由である。 ドルーデ模型での自由電子の緩和の効果 (伝導率、joule 熱への影響) 電子の運動量 p (t ) = mdx (t ) / dt として、電子の運動方程式を書き換える。 m d 2 x (t ) m dx(t ) dp(t ) 1 + = −eE (t ) → + p (t ) = ( −e) E (t ) 2 τ dt τ dt dt この運動方程式は、電子が電場 E (t ) により加速されるが、その運動量を時間τ 程度で失う事を示す。よってτ は、運動量散乱時間(momentum scattering time)といわれる。電子が電場により加速されても、イオンとの衝 突、電子同士の衝突により一定速度以上には速くならない。これは、衝突によりエネルギーが失われる事を意 味し、そのエネルギーの損失は、ジュール(joule)熱となって表れる。 AC(交流)電場 E (t ) = E 0 exp( −iωt ) を電子に加える。解として、 p (t ) = p0 exp( −iωt ) を仮定する。 ( − e) E 0 dp(t ) 1 1 + p(t ) = ( −e) E (t ) → −iωp(t ) + p(t ) = ( −e) E (t ) → p(t ) = exp(−iωt ) τ τ dt − iω + 1 / τ 電子の速度 v (t ) = p (t ) / m は、 v(t ) = p(t ) / m = ( −e ) / m (−e)τ 1 E0 exp(−iωt ) = ⋅ E0 exp(−iωt ) − iω + 1 / τ m 1 − iωτ 電流 J (t ) および伝導度σ (ω ) で与えられるので、 自由電子の密度 (単位体積あたりの電子の個数) を N として、 が以下のように求まる。 (オームの法則が交流でも成立するとしよう:J (t ) = σ (ω ) E (t ) からσ (ω ) が求まる。 ) J (t ) = N (−e)v(t ) = Ne2τ 1 ⋅ E0 exp(−iωt ) = σ (ω ) E (t ) m 1 − iωτ 56 AC伝導度 : σ (ω ) = ここでσ 0 = Ne Ne2τ 1 σ0 Ne2τ 。 ⋅ = , σ 0 = m 1 − iωτ 1 − iωτ m τ / m は、DC(直流)電場で測定した伝導度である。金属、キャリア(電子または正孔)を −14 −13 ドープした半導体の運動量散乱時間τ = 10 ~ 10 (s) であり、光(可視光程度)の周波数に相当する。よって 2 DC 伝導からのずれを観測するためには、光の周波数に相当する電磁波、つまり光を用いる必要がある。 さて、 この場合のジュール熱 J (t ) E (t ) を計算しよう。a (t ), b(t ) ∝ exp( −iωt ) の時、a (t )b(t ) = 1 Re[ A ⋅ B*] 2 の関係(p.28)から、時間平均したジュール熱 J (t ) E (t ) を求めると、 Ne2τ 1 Ne2τ 1 ⋅ E0 exp(−iωt ) × E0 exp(+iωt ) = ⋅ E02 m 1 − iωτ m 1 − iωτ 2 2 1 Ne τ 1 + iωτ 2 1 Ne2τ 1 Ne τ 1 1 → J (t ) E (t ) = Re ⋅ E02 = Re ⋅ E0 = ⋅ E02 2 2 2 m 1 − iωτ 2 m 1 + (ωτ ) 2 m 1 + (ωτ ) J (t ) E * (t ) = となる。 以下では、2 つの極端な場合について考えよう。 (i) ωτ << 1 :τ << 1 / ω より、交流電場の振動よりも頻繁に電子の散乱が生じるので、電場の向きが変わら ない間に電子散乱(電子とイオンや、電子同士の衝突)が起こると見なせる( ~ 1 / ω よりも短い時間の間では、 電場の向きは、ほとんど変化しない。 ) 。よって、電子が散乱されるまでの時間では、電場の大きさ・向きが変 化しない直流電場と見なせる。その場合、電場による力 eE (t ) と電子の速度は同位相で振動するため、ジュー ル熱 J (t ) E (t ) ≠ 0 である。これは、電場から電子にエネルギーが与えられる事を意味する。 (ii) ωτ >> 1 :1 / ω << τ より、電場が振動する間に電子がほとんど散乱されず、電子が孤立して真空中にい るかのように見なせる。この時、電場 E (t ) = E0 exp(−iωt ) に対して電子の速度 v(t ) は、 v(t ) = (−e)τ 1 (−e)τ (−e)τ ⋅ E0 exp(−iωt ) ~ i ⋅ ⋅ E0 exp(−iωt ) = ⋅ E0 exp(−iωt + iπ / 2) m 1 − iωτ mωτ mωτ となる。電子の速度変化と電場の振動は位相が 90 度ずれるので、電場が電子に与えるエネルギーは 0 になる。 (注意:速度は v(t ) ではなく、 Re[v(t )] として、理解する事。 ) J (t ) E (t ) = 1 Ne2τ 1 ⋅ E02 → 0 2 2 m 1 + (ωτ ) よって、電子と電磁波とのエネルギーのやり取りはない。 注)電場と電子とは、お互いにエネルギーをやり取りできる事に注意すると、(i)(ii)の結果が成り立つ事が理解 できるだろう。完全な説明にはならないが、電場と電子との関係を、ブランコの乗り手と、乗り手を押す人に 対応させて考えよう。押す人がタイミングよく乗り手を押せば、ブランコのゆれはだんだん大きくなる。これ が、電場が電子に対してエネルギーを与える事に対応する。逆に、押す人の手のゆれの速さがブランコのゆれ と同じ場合、乗り手がブランコを揺らして押し手の手を押すようにすれば、乗り手に押されて押し手の手の揺 れが大きくなる。これが、電子から電場へのエネルギーを与える事に相当する。 当然この中間の、エネルギーのやり取りの無い場がある。それが、電子と電磁場とのエネルギーのやり取り では、振動の位相が 90 度異なる場合である。電子と電磁場とのエネルギーのやり取りでは、振動の位相が同位 相か 180 度異なるかによって、エネルギーの移動する方向が真逆になってしまう。 57 光学的手法による χ (ω ) と AC 伝導度σ (ω ) の同等性 さて、1 次元の自由電子の運動から、巨視的な電気双極子(分極) P (t ) と電流 J (t ) を導いた。 P (t ) = ε 0 χ (ω ) E = − Ne 2 1 Ne 2τ 1 ⋅ ⋅ E0 exp( −iωt ), J (t ) = σ (ω ) E (t ) = ⋅ E0 exp(−iωt ) m ω 2 + iω m 1 − iωτ τ χ (ω ) を式変形すれば、以下のように、σ (ω ) と関連付けられる。 ε 0 χ (ω ) = − σ 1 1 1 1 1 Ne 2 Ne 2τ Ne 2τ Ne 2τ / m ⋅ =− ⋅ =i ⋅ =i ⋅ =i 0 ⋅ ω 1 − iωτ ω 1 − iωτ m ω 2 + iω mω i + ωτ mω 1 − iωτ τ σ (ω ) =i ω となり、ドルーデ模型によれば、電気感受率 χ (ω ) と AC 伝導度σ (ω ) とは、お互いに関連することが分かる。 すなわち、光学的手法による χ (ω ) の測定は、AC 伝導度でのσ (ω ) 測定と同等である。 プラズマ振動 ドルーデ模型においてほとんど運動が抑制されない(τ = ∞ )時、電子系の電気感受率 χ (ω ) は、 χ (ω ) = − ω P2 ω 2 + 1/τ 2 +i ω P2 ω P2 /(ωτ ) → ( ) = − χ ω ω2 ω 2 + 1/τ 2 であった。また、 ε ~ = n = n + iκ , ε0 ε = ε0 ω P2 ) 2 ω 2 = 1 − ωP ε0 ω2 ε 0 (1 − から、 ω ~ ω P で、 χ (ω ) ~ −1 であり、 n ~ κ ~ 0 を得る。その時電束密度 D = εE = ε 0 (1 + χ (ω )) E で与 えられるため、 D = 0 である。電場 E はイオンと自由電子で作られ、分極 P の向きは電場 E の向きと逆向き である。このように、ω ~ ω P の振動は、誘電率 ε = 0 での振動に対応する。 ここで、自由電子群に働く電場の力から、自由電子群が振動する事を定 平衡状態 性的に理解しよう。外部電場のない金属を考える。金属は、固定された格 - +- - +- - +- - +- - +- - +- - +- - +- - +- - +- -+ - +- - +- - +- - +- - +- - 子の位置にある正のイオンと自由電子から構成されており、その電荷は全 体で中性である。簡単のため、イオンと電子からなる平板を考える。平衡 状態では、自由電子が空間的に一様に分布しているとしよう。 図に示しように、自由電子全体の位置を右方向に u だけずらす。すると、正のイオン位置は変わらず、電子 の位置が変化するので、分極(電気双極子)ができる。分極は、電場を作る。電場の向きは、自由電子の移動 を妨げる向き(図で右向き)であり、電場による力は、負の電荷を持 電場Eの向き つ自由電子群を元の位置(左方向)に戻そうとする。この電場の力は、 電子が平衡点からずれた場合、常に元の位置に戻すような復元力とし て働く。そのため、電子の集団は、平衡点に戻ろうとする。このよう にして、自由電子の集団としての動きが生じる。平衡点に自由電子群 58 + + + u +- - +- - +- - +- - +- - - +- - +- - +- - +- -+ +- - +- - +- - +- - +- - +- が戻っても、いきなり止まる事はできない(動きを急に止める力が無い)ため、平衡点を通過し、その後再び 平衡点に戻ろうとする。この繰り返しにより、自由電子群は、固定されたイオンの格子の周りで振動する。こ の振動は、プラズマ振動と呼ばれている。 プラズマ振動の周波数は、以下のようにして求まる。平衡状態では、正のイオンと電子群は、ずれることな く空間的に重なっている。しかし、電子群の位置の移動 u により、分極 P が生じる。電子の位置が u ずれると、 そのずれの向きと反対方向に 1 つの電子あたり、p = e( x + − x − ) = e(0 − u ) = ( − e)u の電気双極子が出来る。 ここで、 x + は正イオンの位置(位置の変化なしで 0)であり、 x − は電子の位置である。すると、 N を単位体 積あたりの電子の数として、巨視的な電気双極子すなわち分極 P は P = Np = N (−e)u で与えられる。一方、 分極によって生じる電場(外部電場ではない。自由電子によって生じる電場の事。 ) E は、 E = Neu / ε 0 であ る(このページの補足参照) 。この時、電束密度 D = εE = ε 0 E + P = 0 である。 電場により自由電子群が受ける力の向きは、自由電子が元に戻るような向きである。イオンは十分重く動か ないとする。すると、微小面積 dS 、微小長さ dL (体積 dSdL )の自由電子群の運動方程式は、電子の質量 を m として、 dL d 2u Neu d 2u Ne 2 N (dSdL)m 2 = N (dSdL)(−e) ⋅ E = N (dSdL)(−e) ⋅ → 2 =− u ε0 ε 0m dt dt dS となる。これは、単振動の運動方程式と同等であり、角周波数は Ne /(ε 0 m) で与え 2 られる。この値は 1 次元の自由電子のドルーデ模型で得られたプラズマ周波数ω P に一致する。すなわち、電 子群は、プラズマ周波数ω P で単振動する。 まとめると、分極 P は P = N (−e)u で与えられる(分極の向きは、負の電子から正のイオンヘ向かう方向) 。 一方、正のイオンと電子によって作られる電場 E の向きは、正のイオンから負の電子へ向かう方向である。よ って、分極ベクトルの向きは電場の向きとは逆向きである。そのため、電束密度 D = εE = ε 0 E + P = 0 とな り、誘電率 ε = 0 となる。逆に言えば、プラズマ振動は、誘電率 ε = 0 の時の自由電子群の振動である。 補足:電子群のずれによって生じる電場の大きさが Neu / ε 0 で与えられる事 平行に並んだ 2 枚の導体の板にそれぞれ単位面積当たり + Q,−Q の電荷を帯電させる。そのうち、+に帯電 した導体の表面にまたがる底面積 dS の微小な円筒を考え、この円筒状で Gauss の法則を適用する。対称性か ら電場の成分は導体板の面に垂直な成分しかない事が分かる。その電場を E+ とすれば、 E+ dS + E+ dS = + QdS ε0 → E+ = Q 2ε 0 となる。 E+ の電場がプラスの符号であるのは、右図が示す ように、電場の向きが導体から外向きである事を示す。 +Q -Q dS E+ E+ E- E- 単位面積当たり − Q で帯電した導体板についても同様の 計算をすると、電場 E− は、 E− dS + E− dS = (−Q)dS ε0 → E− = − Q 。 2ε 0 ここで、2 つの電場 E+ と E− は、導体の板から見れば、向きが反対方向でその大きさは同じである事に注意 しよう。 E− の電場にマイナスの符号がついているのは、右上の図が示すように、電場の向きが導体に向かっ ての向きである事を示す。すると、2 つの導体板にはさまれた領域の電場の大きさを E とすれば、電場の向き 59 を考慮し、電場の合成(先ほどの図を参照)により、 E = E+ − E− = Q ε0 となる。この結果を、プラズマ振動の問題に適用する。電子と正のイオンとのずれの大きさを u とすると、ず れによって生じる単位面積あたりの電荷は、 Q = Neu である。よって、電子群のずれによって生じる電場の 大きさは、 Neu / ε 0 で与えられる。 注)Q = Neu である事:単位体積あたりの電子数 N 個、断面積 ds 、長さ u の微小な体積 dV = ds × u には、 e × NdV = Neuds の電荷が存在する。よって単位断面積あたりでは、Q = Neuds / ds = Neu の電荷がある。 ドルーデ模型の光学的性質: n, κ の周波数依存性の詳細 電束密度: D = εE = ε 0 E + P = ε 0 E + ε 0 χ (ω ) E から、複素誘電率 ε ' = ε 0 (1 + χ (ω )) であり、既に求め た関係式(p.55)から、 ε ' = ε R + iε I と書けば、 ε R , ε I は次式で与えられる。 ε ' = ε R + iε I = ε 0 (1 + χ (ω )) χ (ω ) = − ωP2 ω2 + iω =− τ ωP2 ω 2 + 1/τ 2 +i ωP2 /(ωτ ) εR ωP2 ε I ωP2 /(ωτ ) Ne 2 2 ω , = → = 1 − , = P ω 2 + 1/τ 2 ε 0m ε0 ω 2 + 1/τ 2 ε 0 ω 2 + 1/τ 2 となる。また、 ε R / ε 0 = n 2 − κ 2 ε' 2 = n + iκ → ε R / ε 0 + iε I / ε 0 = ( n + iκ ) → ε0 ε I / ε 0 = 2nκ の関係式が成り立つ。さらに、以下の式を既に導出した(p.44) 。 1/ 2 1/ 2 2 2 2 2 ε R ε I ε R ε I 1 εR 1 εR n= − + + + + , κ = ε0 ε0 2 ε 0 2 ε 0 ε 0 ε 0 例えば銅の場合、ω P = 1.7 × 1016 (s −1 ), τ −1 = 4.1 × 1013 (s −1 ) なので、以下ではω P >> τ −1 として考察する。 ω (I)ω >> ω P >> τ (ωτ >> 1, P << 1 )の場合 ω −1 電子が散乱される時間τ の間に、電磁波は多数回の振動をする。これは、電子があまり散乱されない(衝突 するまでに、電子は多数回の振動をする)事を意味するので、伝導電子による電磁波の吸収は小さい。 χ (ω ) = − ω P2 ω2 ω2 Ne 2 1 ⋅ 2 =− 2 ~− 2 P ~ − P2 ~ 0 ε 0 m ω + iω / τ ω [1 + i /(ωτ )] ω (1 + i / ∞) ω → ε ' / ε 0 = 1 + χ (ω ) ~ 1 → ε R / ε 0 ~ 1, ε I / ε 0 ~ 0 であるから、 n ~ 1, κ ~ 0 となる。 ( n, κ の具体的な表式からも、 n, κ の大きさの程度が求まる。 )よって反射 率 R ~ 0(p.45)となり、金属は電磁波に対し完全に透明となり、吸収もない。この領域は、紫外領域である。 60 (II) ω P = ω >> τ ε R / ε0 = 1− (ω Pτ = ωτ >> 1) の場合 −1 ω P2 ω 2 + 1/τ 2 = 1− ω P2τ 2 ω P2 /(ωτ ) ω P2τ / ω P ωτ 1 ε ε = , / = = 2 2 = 2 P2 I 0 2 2 2 2 2 2 ω Pτ + 1 ω Pτ + 1 ω + 1/τ ω Pτ + 1 ω Pτ + 1 近似計算をすると、 n ~ κ ~ 0 を得る。この時、プラズマ振動をする。 n, κ の具体的な表式からの計算(近似計算の詳細) 1/ 2 2 2 ε R ε I 1 εR + + n= ε ε 2 ε 0 0 0 1 1 = + 2 2 2 ω Pτ + 1 1/ 2 1 1 1 2 2 + 2 2 12 + ω P2τ 2 = 2 ω Pτ + 1 ω Pτ + 1 1/ 2 2 2 ε R ε I 1 εR − + + κ= ε ε 2 ε 0 0 0 = 1 1 − 2 2 + 2 ω Pτ + 1 1/ 2 −1 (ωτ >> 1, ωτ 1 2 2 + 2 P2 ω Pτ + 1 ω Pτ + 1 1 1 1 = + 2 2 2 ω Pτ + 1 1 + ω P2τ 2 1 1 1 − 2 2 = + 2 2 12 + ω P2τ 2 2 ω Pτ + 1 ω Pτ + 1 (III) ω P >> ω >> τ 2 1/ 2 1/ 2 2 1 1 1 2 2 + ~ ω Pτ 2 ω Pτ 2 ω Pτ 1 2 2 + 2 2 ω Pτ + 1 ω Pτ + 1 1/ 2 ~0 2 1/ 2 1 1 1 = − 2 2 + 2 2 2 2 ω Pτ + 1 1 + ω Pτ ~0 ωP >> 1, ω Pτ >> 1 )の場合 ω ω P2 ω P2 ω P2 ω P2 ω P2 ω P2 / = 1 − = 1 − ~ 1 − = 1 − ~ − ε ε − / ~ ε ε R 0 R 0 ω 2 + 1/τ 2 ω 2 [1 + 1 /(ωτ ) 2 ] ω 2 (1 + 1 / ∞) ω2 ω2 ω2 → 2 2 1 1 ω P2 ωP2 /(ωτ ) ω P2 ε / ε = ω P /(ωτ ) = ε / ε ~ 1 ω P ~ ⋅ ~ I 0 ωτ ω 2 I 0 ω 2 + 1 / τ 2 ω 2 [1 + 1 /(ωτ ) 2 ] ωτ ω 2 (1 + 1 / ∞) ωτ ω 2 ω これより、多少の近似計算の後、 n ~ 0,κ ~ P を得る。 ω 計算の詳細 1/ 2 2 2 ε R ε I 1 εR n= + + 2 ε 0 ε 0 ε 0 1/ 2 2 2 ω P2 1 ω P2 1 ω P2 ~ − 2 + − 2 + ω ωτ ω 2 2 ω 1/ 2 2 1 ω P2 ω P2 2 1 = − 2 + 2 1 + ω 2 ω ωτ 1/ 2 2 2 ε R ε I 1 εR − + + κ= ε ε 2 ε 0 0 0 1/ 2 2 1 ω P2 ω P2 2 1 = + 1 + 2 ω2 2 ω ωτ 1/ 2 1 ω P2 ω P2 − 2 + 2 1 + 0 2 ~ ω 2 ω 1 ω P2 ~ − − 2 + 2 ω ω − ω 1/ 2 1 ω P2 ω P2 − 2 + 2 ~ ω 2 ω 2 2 P 2 1 ω + ωτ ω 1/ 2 1 ω P2 2 2 ~ 2 ω 1 ω P2 ω P2 2 + 2 1 + 0 2 ~ ω 2 ω 2 P 2 2 =0 1/ 2 1/ 2 ~ ωP ω κ ~ ω P / ω かつω P >> ω から、κ >> 1 となる。よって、κ >> 1 から電磁波の伝播は起こらず減衰する事が わかる(p.43) 。また、周波数が小さくなるにつれ、減衰が大きくなる。伝播が無く減衰が起こっている事、お よびκ >> 1, n ~ 0 から、電磁波が反射される割合が大きい事(反射率 R ~ 1 に近い状態)がわかる。 61 ωP >> 1, ω Pτ >> 1 )の場合 ω 電磁場が 1 回振動する時間(1 回の振動時間: ~ 2π / ω )よりも、電子の散乱時間τ のほうが小さい (IV) ω P >> τ −1 >> ω (ωτ << 1, 1 / ω >> τ ) 。すなわち、電子が多数回散乱されても、外部から加わる電場(外部電場)の大きさと向きはほと んど変わらないため、電子から見ると、外部電場は直流電場のように見える。よって、外部電場により分極し た電子が作る電場により、外部電場が遮断されるので、電磁波は導体の中深くには進入できない。以下の計算 で、その事を確認しよう。 電磁波の周波数ω がω << τ −1 ω P2τ 2 ~ 1 − ω P2τ 2 ~ −ω P2τ 2 ω 2 + 1/τ 2 ω 2τ 2 + 1 、 ω P2 /(ωτ ) ω P2τ / ω ω P2τ ω P 2nκ = ε I / ε 0 = 2 = ~ = ⋅ ω τ >> 1 ω + 1 / τ 2 ω 2τ 2 + 1 ω ω P n2 − κ 2 = ε R / ε 0 = 1 − ω P2 である時、次のような近似を用いる。 = 1− すると、 n, κ に対して、次のような値を得る。 ω 2τ n ~ κ ~ P 2ω 1/ 2 近似計算の詳細 1/ 2 2 2 ε R ε I 1 εR n= + + ε ε 2 ε 0 0 0 1 ~ − ω P2τ 2 + 2 1/ 2 2 1 1 ~ − ω P2τ 2 + ω P2τ 2 12 + 2 ωτ ε 1 εR κ= − + R 2 ε0 ε0 2 εI + ε0 2 1/ 2 (− ω τ ) 2 P 1/ 2 ω 2τ + P ω 2 1/ 2 ~ ω 2τ 2 1 − ω P2τ 2 + P ωτ 2 1 ~ + ω P2τ 2 + 2 2 1 1 2 2 2 2 2 ~ + ω Pτ + ω Pτ 1 + 2 ωτ 2 2 (− ω τ ) 2 P 1/ 2 ω 2τ 2 1 + ω P2τ 2 + P ~ ωτ 2 1 ~ − ω P2τ 2 + 2 1/ 2 ~ ω 2τ + P ω 2 2 1/ 2 1 ω P2τ 2 2 ωτ 2 1/ 2 (ω τ ) 2 P ω 2τ = P 2ω 1/ 2 ω 2τ = P 2ω ω 2τ 2 + P ωτ 2 1/ 2 1/ 2 1 ~ + ω P2τ 2 + 2 1 ω P2τ 2 ~ 2 ωτ 2 2 (ω τ ) 2 P 2 2 ω 2τ 2 + P ωτ 2 1/ 2 1/ 2 表皮深さ(skin depth) (金属中を電磁波が進入する深さ) さて、物質中の電場ベクトルは、 n ω E ( z , t ) = E0 exp[− i (ωt − (k '+ik " ) z )] = E0 exp − iω (t − z ) − κz c0 c0 であり、その時、光強度 I (z ) は、 I ( z ) ∝| E ( z , t ) | から、 2 I ( z ) = I (0) exp(−αz ) で与えられ、α = 2ωκ / c0 は吸収係数であった(p.43)。 τ −1 >> ω であるような低周波数領域での電磁波の伝播を考える。プラズマ周波数ωP 、真空での光の速さ c0 、 および DC 電気伝導度σ 0 は、 ω P2 = Ne 2 Ne 2τ 1 Ne 2τ σ 0 1 = = , σ0 = , c02 = ε 0 m ε 0τ m ε 0τ m ε 0 µ0 62 で与えられた。(IV)で計算した結果を利用すると、吸収係数α は、次式で与えられる。 2ωκ 2ω ω P2τ α= = c0 c0 2ω 1/ 2 2ωω P2τ = 2 c0 1/ 2 1/ 2 2ωτ σ = 2 ⋅ 0 c0 ε 0τ 1/ 2 2σ ω = 0 2 ε 0 c0 1/ 2 2σ ω µ = 0 2 ⋅ 0 ε 0 c0 µ0 1/ 2 = (2σ 0ωµ 0 ) 。 よって、吸収係数α は「DC 伝導率σ 0 と周波数ω の積」の平方根に比例する。この結果は、AC(交流)電場 は伝導体の非常に短い距離しか進入できない事(α ∝ ω 1/ 2 )を示す。この現象は、表皮効果(skin effect)と いわれる。また、 δ= 2 α = 2 σ 0ωµ 0 を表皮深さ(skin depth)という。表皮深さは、伝播する電場の振幅が1 / e の大きさになるときの電場の進入長 として定義されている。よって、吸収係数α の半分の値になる。 銅の場合を見よう。なお、真空での透磁率 µ 0 = 4π × 10 −7 (H/m), (T ⋅ m/A) 。銅の室温での DC 伝導率は、 σ 0 = 6.5 × 107 (1/ Ωm) である。周波数 f = 50Hz では、ω = 314rad/s になる。この時、δ = 8.8mm である。 また f = 100MHz は、ω = 6.28 × 108 rad/s であり、その時、δ = 6.2µm である。 さて、周波数ωP は、金属では可視領域にある。よってω < ω P であるすべての可視領域の光は反射される事 になり、金属は金属特有の光沢面を示す。ただし、金属の厚さ l が l ≤ δ の場合は、電磁波は、その振幅をあ まり小さくする事なく、金属を伝播し透過する。 63 局所電場補正:ローレンツ(Lorentz)の局所電場モデル 物質内の点 r における巨視的な電場(原子の大きさよりは十分大きな、ある大きさで平均を取った、物質内 の電場の大きさ) E が、一般に Maxwell 方程式で用いられている電場の量である。 さて、外部から物質に電場 E 0 を加えると、それに応じる形で、原子内の原子核と電子の位置の平衡点から のずれや、正イオンと負イオンとの位置の平衡点からのずれなどが生じる。このような正負のイオンや原子核・ 電子の位置のずれを電気双極子といい、 p で表す。電気双極子の単位体積あたりの大きさを、分極 P で表す。 正負のイオン、原子などがその平衡点からずれると、それらは、電場を作る。分極 P により作られる電場の大 きさは、物質に依存する。分極 P により作られる電場の存在により、物質内の巨視的な電場 E と外部から物質 に加えられた電場 E 0 との違いを生じる。 では、物質を構成する個々の原子に加わる電場の大きさは、巨視的な電場 E および分極 P と、どのような関 係があるのだろうか。物質内における巨視的な電場 E は、平均操作を施された量であるため、物質中の 1 個の 原子に加わる電場の大きさと異なってもよい。原子を 1 個選び出したとき、その原子の位置での電場を、局所 電場 E local という。 気体のような希薄な物質の場合は、巨視的な電場 E と原子の位置での局所電場 E local との違いは無視できる かもしれない。しかし、液体や気体の場合には、それら物質中に数多くの原子が存在する(着目する原子の近 くにも他の原子がたくさん存在する)ため、巨視的電場 E と局所電場 E local の違いが大きくなる。このように して、物質中のある原子に加わる電場 E local は、巨視的な電場 E そのものではない。 では、どのようにして局所電場 E local を求めるのだろうか?まず、物質中のある原子に着目する。外部電場 E が物質に加えられている際に、ほかに影響を与えないように(どのようにするのだろうか?)しながら、着目 する原子を囲む微小な部分をくりぬいて真空にする。そのくりぬかれた位置に現れる電場が、局所的な電場 E local である。物質を連続体として扱い、微小な球をくりぬいたとすると、その球の表面には表面電荷σ が現 れる。物質の分極を P とすれば、球の中心での電場の大きさ E local は、 E local = E + P 3ε 0 で与えられる。 (この関係式は、すぐ後で説明する。 )この局所電場 Elocal を Lorentz(ローレンツ)の局所電 場という。実際の物質は、こんな単純な構造をしていないので、連続体での近似や球をくりぬく事は、多少な りとも正確さに欠けると考えたほうがよい。しかし、現象の粗い把握には、便利である。 E local の求め方 既に述べたように、物質内における巨視的な電場 E ( 「外部から加えられた電場」と「物質の分極によって 出来る、平均的な電場」の、2 つの電場を足し合わせて出来る電場)は、平均操作を施された電場である。し かし、物質内のある点 x に着目すると、点 x の近くにある双極子がとる微視的な空間的構造に起因した電場に よる寄与もある。そこで、局所電場 E local を求めるにあたり、次のような手続きで計算する。 物質に外部から電場が加われば、それに伴い、物質中に分極 P が出来る。分極 P により生じる電場を計算す るためには、電気双極子 p により出来る電場を計算し、物質の内部の電荷密度 ρ e ( x ) と物質の表面にできる表 面電荷密度σ ( x ) により出来る電場を求める必要がある。さらに、物質内部の電気双極子 p の微視的な空間的 配置に起因した電場も考慮する必要がある。そのため、物質中の着目する点 x を中心とする径 a の球の内部と 64 球の表面、それ以外の物質中の内部全て、最後に物質の外表面の 4 つの箇所に分けて電場の寄与を考えよう。 半径 a の球を考えるのは、計算を簡単にするためである。 このように物質を 4 つの部分に分けて考えると、分極 P に起因する 4 物体内の電荷密度 ρ e ( x ) 、および表面電荷密度σ ( x ) を求める必要が ある事がわかる。ρ e ( x ) とσ ( x ) は分極 P から生じるため、それらを 1 2 3 誘電体 分極 P の関数として求めなくてはならない。 そこで、最初に、電気双極子によってできる電場を求め、その電場 から、電荷密度 ρ e ( x ) と表面電荷密度σ ( x ) を求める。次に 4 つに分けた物質のそれぞれにおいて発生する電 場を求め、それらの和としての局所電場を求める。 外部電場 E により物質内に誘起される分極 P は、微小な電気双極子 p の集合体である。そこで、電気双極 子 p が 1 個で作る静電ポテンシャルを求める。電気双極子 p の電荷を q とし、その長さを s とする( + q,− q の 2 つの電荷が s 離れて位置する。 )と、 p = qs で与えられる。電気双極子の中間の点を原点に取り、そこか ら r 離れた場所での静電ポテンシャルφ ( r ) は、 φ (r ) = q 1 1 − 4πε 0 ( r − s / 2) 2 ( r + s / 2) 2 = q 4πε 0 1 1 − 2 r 2 + ( s / 2) 2 − rs cos θ r + ( s / 2) 2 + rs cos θ である。r >> s とし、上の式を s / r で展開し、s / r の 1 次まで取る。f ( x) = 1 / 1 + x の 1 次までの近似は、 f ( x ) = (1 + x ) −1 / 2 → f ' ( x ) = −1 / 2 ⋅ (1 + x ) −1 / 2−1 = −1 / 2 ⋅ (1 + x ) −3 / 2 r である事を利用すると、 f ( x ) ≈ f (0) + f ' (0) x = 1 − x / 2 から、 φ (r ) = q 1 1 − 2 2 2 4πε 0 r + ( s / 2) 2 + rs cosθ r + ( s / 2) − rs cosθ − s/2 q 1 1 = − 2 4πε 0 r 1 + ( s / 2r ) 2 − s cosθ / r 1 + ( s / 2 r ) + s cos θ / r x' θ + s/2 1 q s cos θ qs cos θ 1 2 2 ⋅ = 1 − [( s / 2r ) − s cos θ / r ] − 1 − [( s / 2r ) + s cos θ / r ] = 4πε 0 r 2 r 4πε 0 r 2 2 4πε 0 r p⋅r = 4πε 0 r 3 ≈ q を得る。電気双極子のある点(2 つの電荷の中点)を x ' 、観測点を x とすれば、 r = x − x ' なので、ポテンシ ャルφ ( r ) を次のように書き換える。 φ ( x, x ' ) = p ⋅ ( x − x' ) 4πε 0 | x − x ' |3 この式を、 x ' に関する微分演算 ∇ x ' = (∂ / ∂x ' , ∂ / ∂y ' , ∂ / ∂z ' ) に関する下の関係式を用いて、式変形する。 ∇ x ' ≡ grad x ' = ( ∂ ∂ ∂ , , ) , | x − x ' |= ( x − x' ) 2 + ( y − y ' ) 2 + ( z − z ' ) 2 ∂x' ∂y ' ∂z ' ∂ | x − x '| ∂ = ( x − x' ) 2 + ( y − y ' ) 2 + ( z − z ' ) 2 = 2 ⋅ (−1)( x − x' ) ⋅ (1 / 2) ⋅ ( x − x' ) 2 + ( y − y ' ) 2 + ( z − z ' ) 2 ∂x' ∂x' ( 65 ) 1/ 2−1 ∂ | x − x'| ( x − x' ) =− 2 ∂x' ( x − x' ) + ( y − y ' ) 2 + ( z − z ' ) 2 これより、 ∇ x ' | x − x ' |= − x − x' | x − x'| よって、以下の結果を得る。 1 x − x' ∂ ∂f (u ( x ' )) ∂u ( x ' ) −1 −1 − ( x − x' ) f (u ( x ' )) = :→ ∇ x ' = ∇ x ' | x − x '|= ⋅ = 2 2 ∂u ( x ' ) | x − x '| | x − x '| | x − x '| | x − x '| | x − x '|3 ∂x' ∂x' この関係を用いて、ポテンシャルφ ( r ) は、次のように書き換えられる。 (注意:観測点を x 、電気双極子 p の ある点を x ' とした。 ) p ⋅ ( x − x' ) p ( x − x' ) p 1 p 1 = ⋅ = ⋅ ∇ x' = ⋅ grad x ' 3 3 4πε 0 | x − x ' | 4πε 0 | x − x ' | 4πε 0 | x − x ' | 4πε 0 | x − x'| φ ( x, x ' ) = 誘電体中には、このような電気双極子 p が多数含まれる。その集合体である単位体積あたりの電気双極子が分 極を表わすベクトル P に他ならない。さらにφ ( x, x ' ) を分極 P ( x ' ) を用いて書き換えると、電気双極子 p の ある点を x ' としたので、 φ ( x, x ' ) = P ( x' ) 1 ⋅ grad x ' 4πε 0 | x − x'| である。これが、点 x ' での分極によって出来る単位体積あたりの静電ポテンシャルである。なお、観測点は点 x である。 次に、分極 P の空間的な分布の考察から、分極 P に起因する物体内の 電荷密度 ρ e ( x ) 、および表面電荷密度σ を求める。誘電体が作る電場 は、図のように、4 つの部分からなる。1 番目は、半径 a でくり抜かれ 4 1 2 3 た誘電体の部分が、 くり抜かれないで残っているために作る電場である。 残りの誘電体の部分による電場の寄与(図の 2~4 の部分)をφD ( x ) で 表わそう。 観測点 x で生じる静電ポテンシャルφD ( x ) は、誘電体中の点 x ' での分極 P ( x ' ) を用いると、誘電体中の全 ての点 x ' に関して体積積分を行ない、 φ D ( x ) = ∫ φ ( x, x ' )dx ' = ∫ V V P ( x' ) 1 1 1 ⋅ grad x ' dx ' = P ( x ' ) ⋅ grad x ' dx ' ∫ 4πε 0 | x − x'| 4πε 0 V | x − x'| で与えられる。 dx ' = dx' dy ' dz ' 。ここで、次の関係式を用いて、φD ( x ) を書き直す。 P ( x' ) ∂ P ( x' ) ∂ [ P ( x ' )] x ' ∂ 1 ∂ 1 div x ' = = [ P ( x ' )] x ' + P ( x' ) : ∂x ' | x − x ' | x ' ∂x ' | x − x ' | ∂x ' | x − x' | ∂x ' | x − x ' | | x − x' | P ( x ' ) div x ' P ( x ' ) 1 → div x ' + P ( x ' )grad x ' = | x − x' | | x − x' | | x − x' | この関係式を用いると、φD ( x ) は、以下の式で与えられる。 66 φD ( x ) = = 1 ∫ P ( x' ) ⋅ grad 4πε 0 V 1 ∫ div 4πε 0 V x' x' P ( x ' ) div x ' P ( x ' ) 1 1 div x ' dx ' − dx ' = ∫ | x − x'| 4πε 0 V | x − x ' | | x − x'| P ( x' ) − div x ' P ( x ' ) 1 dx ' + dx ' ∫ 4πε 0 V | x − x ' | | x − x'| ここで、右辺 1 番目の式にガウスの定理を用いて、体積積分を面積積分に変える。また、誘電体とそれを取り 囲む真空中との境界面においては、誘電体から真空中へ向かう方向に法線ベクトルの向きを取り、単位長さの 法線ベクトルを n( x ) として計算する。すると、静電ポテンシャルφD ( x ) は以下のように書き換えられる。 P ( x' ) 1 − div x ' P ( x ' ) dx ' + dx ' ∫ 4πε 0 V 4πε 0 V | x − x ' | | x − x'| − div x ' P ( x ' ) 1 1 1 P ( x ' ) ⋅ n( x ' ) = dS + dx ' + ∫ ∫ 4πε 0 S (in ) | x − x ' | 4πε 0 V | x − x ' | 4πε 0 φD ( x ) = 1 ∫ div x' P ( x ' ) ⋅ n( x ' ) dS | x − x'| S ( out ) ∫ 右辺第 1 項は、くり抜かれた空洞の部分の表面 S ( in ) の表面電荷による寄与(法線ベクトル n の向きは、誘電体 からくり抜かれた部分へ向かう方向)であり、第 2 項は、誘電体中の、分極による電荷の寄与である。第 3 項 は、誘電体の表面に誘起された表面 S( out ) の表面電荷による寄与(法線ベクトル n の向きは、誘電体から外へ 向かう方向)である。 さて、空間内に電荷分布 ρ e ( x ' ) があり、誘電体表面に電荷密度σ ( x ' ) の電荷が分布する場合、 x の場所に おける静電ポテンシャルφ ( x ) は、 φ( x) = 1 4πε 0 σ ( x' ) ρ e ( x' ) 1 ∫ | x − x' | dS + 4πε ∫ | x − x ' | dx ' S 0 V である。φD (x ) とφ ( x ) を比較すると、誘電体の表面 S (in ) , S( out ) での電荷密度σ 、および分極による物体内の 電荷密度 ρ e ( x ) は、法線ベクトル n の向きは、誘電体から外、またはくり抜かれた部分へ向かう方向とし、 σ ( x ) = P ( x ) ⋅ n( x ), ρe ( x ) = −div x P ( x ) で与えられる。これで、表面での電荷密度σ ( x ) および物体内の電荷密度 ρ e ( x ) の一般式が求まった。 注意:半径 a の球の内部についても、同様の手続きで ρ e ( x ) = −div x P ( x ) が求まると考えるかもしれない。 しかし、分極 P ( x ) は巨視的な物理量なので、物質中の電気双極子の微視的な空間構造に起因する電荷密度を 求める事は、適当ではない。 以上の結果を元に、空洞にする前の誘電体中のある点 x における電場(局所電場)を求める。誘電体が作る 電場は、図のように、4 つの部分からなる。番号 1 の部分は、半径 a でくり抜かれた誘電体の部分が、くり抜 かれないで残っているために作る電場である。残りの誘電体の部分による電場の寄与(図の番号 2~4 の部分) は、φD ( x ) で表わされる。 最初に、半径 a でくり抜かれた誘電体の部分が作る電場(図の 1 の部分)を考える。くりぬいた球の内部の 原子・分子が作る電場は、球を構成する結晶構造により異なるが、単純な構造の場合は、次の計算で示すよう に、ゼロになる。一般の結晶構造の場合もほぼゼロになるとしよう。 球内の球の中心から位置ベクトル r 離れた場所にある双極子 p が、球の中心に作る電場 Ein - dip は、 Ein-dip ( r ) = 1 p 3r ( p ⋅ r ) − + 4πε 0 r 3 r 5 で与えられる。 67 電場 E in - dip (r ) の求め方:電気双極子のある点を原点 0 にとり、を観測点を r = ( x, y, z ) とする。電気双極子の静電 ポテンシャルφ ( r ) (p.65)の grad をとれば、双極子による電場が求まる。 φ (r ) = ∂f (r ) ∂f (r ) ∂f (r ) p⋅r p⋅r → Ein-dip (r ) = −gradφ (r ) = −grad , gradf (r ) = , , 3 3 4πε 0 r 4πε 0 r ∂y ∂z ∂x 電場の計算 p⋅r ∂ = −[ ( p ⋅ r )] 1 3 − p ⋅ r ∂ 13 = − p j 1 3 − p ⋅ r (−3)r −(3+1) ∂r 3 ∂x j ∂x j 4πε 0 r 4πε 0 ∂x j r 4πε 0 r 4πε 0 4πε 0 r 2 2 2 1/ 2 x ∂r ∂ ( x + y + z ) 1 = = ( x 2 + y 2 + z 2 )1/ 2−1 ⋅ 2 x j = j ∂x j ∂x j 2 r [ Ein-dip (r )] j = − ∂ ∂x j [ Ein-dip (r )] j = − p j → E in-dip (r ) = − 1 4πε 0 r p 4πε 0 r 3 3 − (−3) +3 pj p ⋅ r −( 3+1) ∂r p⋅r xj p⋅r xj 1 = −pj +3 =− +3 r 3 3+1+1 3 ∂x j 4πε 0 4πε 0 r 4πε 0 r 4πε 0 r 4πε 0 r 5 ( p ⋅ r )r 1 p 3r ( p ⋅ r ) = − + 5 4πε 0 r 4πε 0 r 3 4πε 0 r 5 E 球の対称性を考慮すると、電場 Ein - dip の、外部電場に垂直な成分はゼロになる。電 場 E in- dip の外部電場と同じ方向の成分 ( Ein - dip ) // External は、右図の記号を用いると、 ( Ein-dip ) // External = x P r = x − x' θ 1 p 3r cos θ ( pr cos θ ) 1 p(3 cos 2 θ − 1) − + = 4πε 4πε 0 r 3 r5 r3 0 x' となる。電気双極子が半径 a の球の空間(くりぬいた球の内部)に一様に分布していると仮定して、球内の全 ての双極子 p による寄与を求める。次の式がその計算。 r ,θ , φ が微小量 dr , dθ , dφ 変わることで作られる微 小な体積は、 dr × rdθ × r sin θdφ で与えられる(p.69 の補足参照)ので、 1 4πε 0 ∫ p(3 cos 2 θ − 1) p dr ⋅ rdθ ⋅ r sin θdφ = 3 r 4πε 0 π a 2π r2 2 ∫+0 r 3 dr ∫0 (3 cos θ − 1) sin θdθ ∫0 dφ = 0 π −1 +1 0 +1 −1 [ ] 変数変換x = cos θ : ∫ (3 cos 2 θ − 1) sin θdθ = ∫ (3x 2 − 1)(−dx) = ∫ (3 x 2 − 1)dx = x 3 − x −1 = 0 1 すなわち、 ( Ein - dip ) // External = 0 。以上より、くりぬいた球の内部の原子・分子が作る電場は、ゼロである。 次に、誘電体中の分極による電荷密度 ρ e ( x )(図の 3 の部分)の電場への寄与を求める。電荷密度 ρ e ( x ) は、 ρ e ( x ) = −divP ( x ) で与えられる。その電荷密度 ρ e ( x ) で作られる静電ポテンシャルは、既に求めたように、 1 ρ e ( x' ) 1 ∫ | x − x' | dx' = 4πε ∫ 4πε 0 V 0 V − div x ' P ( x ' ) dx ' | x − x' | であった。外部電場は空間的に一様であり、分極ベクトル P ( x ) の空間依存性がない場合、電荷密度 ρ e ( x ) = −divP ( x ) = 0 。半径 a の球の外側の部分での、分極に起因した電荷密度 ρ e ( x ) で作られるポテン シャルはゼロ(空間依存性がない)である。よって、この静電ポテンシャルを空間微分する事で得られる電場 =ゼロである。 続いて、誘電体の外側の表面 S( out ) に存在する表面電荷σ (図 4 の部分)による、静電ポテンシャルへの寄 与を考える。これによる寄与は、 68 P ( x ' ) ⋅ n( x ' ) dS 4πε 0 S ( out ) | x − x ' | 1 ∫ で与えられる。この遠方の表面電荷による静電ポテンシャルは、着目している空洞の場所から見れば、誘電体 の結晶構造の詳細には関係ない、巨視的静電場である。誘起される分極 P の向きは外部電場 E 0 と同方向であ るため、 分極 P によって出来る表面電荷で作られる電場 E1 の向きは外部電場 E 0 と逆向きになる。 この電場 E1 を、反分極場という。誘電体内部の巨視的電場 E は、外部電場 E 0 と反分極場 E1 の和で与えられる。 ここで、誘電体が図に示すような長方形の場合に、誘電体内部の巨視的電場 E を求めよう。誘電体が長方形 の場合、反分極場 E1 の大きさと向きは、プラズマ振動の箇所で求めた + + + (p.59 の補足) 。それによれば、反分極場の大きさ E1 は、 E1 = Np ε0 = P ε0 - E1 E0 で与えられた。ここで p は外部電場によって誘起された電気双極子 1 個の大きさであり、 N は単位体積あた りの電気双極子の数(電気双極子の数密度)である。この電場 E1 は E 0 と反対向きの電場ベクトルである。分 極の大きさ P は P = Np で与えられ、 P は E 0 と同じ方向を向く。よって、長方形の形をした誘電体内部の巨 視的電場 E は、 E = E0 + E1 = E0 − P ε0 で与えられる。 最後に、切り抜かれた部分の表面電荷によって作られる電場を求めよう。一様な外部電場 E 0 が加えられて いる誘電体を連続体として扱い、微小な球をくりぬくと、その球の表面には、分極 P に起因した表面電荷σ が 現れる。次は、この表面電荷σ により作られる電場 E P を求める。 E 外部から加えられた一様な電場 E 0 により作られる分極 P は、外部 電場 E 0 と向きが同じであるとする。球の表面電荷密度σ は、右図の ように、誘電体から半径 a の球がくりぬかれた状況を考えると、 σ = P ⋅ n = P cos(π − θ ) = − P cos θ P - - θ - - - + n + + + + で与えられる。図の(+) (-)の記号は、分極 P による表面電荷の符 号を示す。球座標表示をとれば、微小な面積は、 dS = adθ ⋅ a sin θdφ (すぐ下の補足参照)で与えられる。 補足:積分での微小面積と微小体積の求め方 adθ 図で、右方向に z 軸を取り、 z 軸を周回する方向に角度φ を取り、 z 軸の+方向から-方向に移動する向きに角度θ をとる。極座標で、 半径 a の球で角度θ ,φ の微小な変化で出来る微小面積 dS を考える。 半径 a の変化量 dθ の回転で、adθ の幅を持つ。また、半径 a sin θ の 角度 dφ 回転により、幅 a sin θdφ になる。これら 2 つの長さで出来る 微小面積は、 dS = a sin θdφ × adθ である。微小体積 dV の場合は、 a → r (動径)と読み換える。さらに動径 r が dr だけ変わると、 dr , dθ , dφ の変化のため、微小体積は、 dV = dr × dS すなわち、 69 a φ asinθ dθ 0 θ z asinθdφ adθ dV = dr × r sin θdφ × rdθ になる。 この微小な面積 dS における電荷の大きさは、 dq = σdS = σ ( adθ ⋅ a sin θdφ ) となり、この微小電荷の、球 の中心との距離は a である。この微小電荷で出来る電場の、分極 P に垂直な成分は、くりぬかれた球の対称性 を考えるとゼロになる。そこで、微小部分で出来る電場の、分極 P の方向の電場成分のみを考慮する。球の中 心から見ると、図の角度θ をなす部分で出来る電場の向きは、法線ベクトル n の向きになる。そこで、分極 P と平行な電場成分の大きさは、電場の大きさに cos(π − θ ) を掛けたもので与えられる。 以上の考察から、分極 P に起因する表面電荷σ によって作られる電場 E P の、 P 方向の大きさ EP は、次式 で与えられる。 EP = 1 1 dq cos(π − θ ) σdS cos θ = − (− P cos θ )(adθ ⋅ a sin θdφ ) cos θ =− 2 2 ∫ 4πε 0 a 4πε 0 a Ω 4πε 0 a 2 Ω∫ S ( in ) ∫ =+ 1 4πε 0 a 2 2π π 0 0 ⋅ a P ∫ dφ ∫ 2 π cos3 θ P sin θ cos θdθ = + ⋅ 2πP − =+ 4πε 0 3 θ =0 3ε 0 2 1 よって、この表面電荷による電場は P 3ε 0 となる。 以上の結果をまとめると、局所電場 E local は、誘電体内部の巨視的電場を E とすれば、ベクトル表示で、 E local = E + P 3ε 0 となる。この結果は、仮定した球の半径 a によらない。この局所電場 Elocal を、ローレンツの局所電場という。 クラウジウス-モソッティ(Clausius-Mossotti)の式 物質に加わる巨視的電場 E と分極 P の間に、 D = εE = ε 0 E + P → P = (ε − ε 0 ) E の関係があるので、 Elocal = E + P 1 ε + 2ε 0 =E+ (ε − ε 0 ) E = E 3ε 0 3ε 0 3ε 0 を得る。一方、局所電場 E local が誘電体内の 1 個の原子・分子に加わると、原子・分子は分極して電気双極子 p を作る。 p は E local に比例するので、次のように書ける。 p = αE local α を原子・分子の分極能率という。分極 P は p と単位体積あたりの原子(分子)数 N の積で与えられる。 P = Np = NαE local よって、次の下線を引いた関係式(クラウジウス-モソッティの式)を得る。 ε + 2ε 0 E Nα ε + 2ε 0 ε − ε0 P = NαElocal = Nα 3ε 0 → (ε − ε 0 ) E = Nα E → = 3ε 0 ε + 2ε 0 3ε 0 P = (ε − ε ) E 0 70 電子振動子模型における、局所電場の効果 ここでは、電子振動子模型において、局所電場の効果を見よう。1 次元の電子振動子の運動方程式は、外部 電場を E (t ) として、 d 2 x(t ) dx(t ) k e +γ + x(t ) = − E (t ) 2 dt dt m m で与えられた。このような、原子群の集団としての運動を考えよう。ここで x (t ) は電子の平行位置からの変位 であり、γ は減衰定数、kx は復元力、 E (t ) は電場の瞬時値、( − e) は電子の電荷を表す。外部電場 E (t ) に対 して、全ての電子が同じ振幅、同位相で振動すると仮定する。簡単のため、原子群の巨視的な電場を外部電場 E (t ) に等しいと見なす。電場 E (t ) を、局所電場に置き換える。原子数密度を N とすると、 Elocal = E + P 1 ↔ E (t ) → E (t ) + N (−e) x(t ) 3ε 0 3ε 0 すると、電子の運動方程式は、次のように書き換えられる。 d 2 x(t ) dx(t ) k e d 2 x(t ) dx(t ) k e 1 + + x ( t ) = − E ( t ) → +γ + x(t ) = − [ E (t ) + N (−e) x(t )] γ 2 2 dt dt m m dt dt m m 3ε 0 → d 2 x(t ) dx(t ) k Ne 2 e x(t ) = − E (t ) + + − γ 2 dt dt m m 3ε 0 m 局所電場の効果を考慮しない場合との違いは、運動方程式において、電子の束縛(ばね定数)に関する項が k k Ne 2 k Ne 2 Ne 2 = ω02 1 − = ω02 → − = 1 − m m 3ε 0 m m 3kε 0 3kε 0 となり、電気双極子の存在によりばね定数が実効的に小さくなる事である。電気双極子の密度 N に依存した電 子の共鳴周波数は、次式で与えられる。なお、 N が小さな希薄な気体では、ω0 ' ≈ ω0 である。 ω0 ' = ω0 1 − Ne 2 3kε 0 なお、電子がばらばらな位相で振動している場合、巨視的な電気振動子(分極)の統計平均としての値 P (t ) は、 N N P (t ) = ∑ j =1 p j (t ) = (−e)∑ j =1 x j (t ) = 0 となるため、周波数の低減は見られない。 71 クラマース・クロニッヒ(Kramers-Kronig)の関係式 誘電体に電場 E を加えると、分極 P を生じるが、 E に対する P の応答には、一般に時間の遅れが生じる。 よって E が時間的に変動する場合には、E (t ) と P (t ) との間に単純な比例関係が成り立たない。そこで、E (t ) を入力、 P (t ) を応答と考え、その間の一般的な関係を求める。まず、原理的な考察により、 (i) 入力 E1 (t ), E 2 (t ) に対し、それぞれ P1 (t ), P2 (t ) が生じるなら、入力 aE1 (t ) + bE 2 (t ) に対し、 aP1 (t ) + bP2 (t ) が生じる。(重ね合わせの原理)。 (ii) 入力 E (t ) に対し P (t ) が生じるなら、 E (t − t a ) に対し P (t − t a ) が生じる(時間に対する一様性) 。 (iii) t < t a で E (t ) = 0 (入力信号=ゼロ)なら、 t < t a で P (t ) = 0 (因果律) 。 (i)の重ね合わせの性質から、入力 E (t ) に対する応答 P (t ) は、 E (t ) に関して線形性がある。よって、 +∞ P (t ) = ε 0 ∫ G (t : t ' ) E (t ' )dt ' −∞ と置く事ができる。 、 (ii) (iii)により、 G (t : t ' ) = G (τ ),τ = t − t ' ≥ 0 G (τ ) = 0, τ < 0 となる。 G (τ ) を応答関数という。 E (t ) = δ (t ) とすると、これに対する応答は、 P (t ) = ε 0G (t ) である。 ここで、 E (t ) = E 0 exp( −iωt ) とすると、 t t P (t ) = ε 0 E0 ∫ G (t − t ' ) exp( −iωt ' )dt ' = ε 0 E0 ∫ G (t − t ' ) exp( +iω (t − t ' )) exp( −iωt )dt ' -∞ -∞ +∞ = ε 0 E0 exp( −iωt ) ∫ G (τ ) exp(iωτ )dτ , τ = t − t ' 0 = ε 0 χ (ω ) E (t ) ただし、複素数で定義された電気感受率 χ (ω ) は +∞ χ (ω ) = ∫ G (τ ) exp(iωτ )dτ 0 である。 χ ' (ω ), χ " (ω ) を実数として χ (ω ) = χ ' (ω ) + iχ " (ω ) とおくと、すぐ上の式から、 +∞ +∞ 0 0 χ (ω ) = χ ' (ω ) + iχ " (ω ) = ∫ G (τ ) exp(iωτ )dτ = ∫ G (τ )[cos(ωτ ) + i sin(ωτ )]dτ となるので、実数部分と虚数部分同士を比較し、 +∞ +∞ 0 0 χ ' (ω ) = ∫ G (τ ) cos(ωτ )dτ , χ " (ω ) = ∫ G (τ ) sin(ωτ )dτ である。また上の式でω → −ω とおけば、 cos(−ωτ ) = cos(ωτ ), sin(−ωτ ) = − sin(ωτ ) の性質から、 χ ' ( −ω ) = χ ' (ω ), χ " ( −ω ) = − χ " (ω ) が成立する。 フーリエ(Fourier)変換の公式 よく用いられる係数を含めた公式 72 +∞ 1 F (ω ) = ∫ 2π +∞ 1 2π F (ω ) = ∫ ∫ F (ω ) exp(−iωτ )dω −∞ 2π F (ω ) とおくと、 f (τ ) exp(iωτ ) dτ → R (ω ) = 2π F (ω ) = −∞ +∞ ∫ f (τ ) exp(iωτ )dτ −∞ +∞ 1 2π f (τ ) = 2π −∞ において、 R (ω ) = +∞ 1 f (τ ) exp(iωτ )dτ , f (τ ) = ∫ F (ω ) exp(−iωτ )dω = −∞ 1 2π +∞ ∫ { 2π F (ω )} exp(−iωτ )dω = −∞ 1 2π +∞ ∫ R(ω ) exp(−iωτ )dω −∞ これにより R (ω ) , f (τ ) 間でフーリエ変換を再定義すると、 +∞ R (ω ) = 1 2π f (τ ) exp(iωτ )dτ , f (τ ) = ∫ −∞ +∞ ∫ R(ω ) exp(−iωτ )dω −∞ となる。 続いて、 R (ω ), f (τ ) の偶奇性の考察をする。 もし R (−ω ) = R(ω ) (偶関数)なら、 +∞ 1 f (τ ) = 2π 1 = 1 ∫−∞R(ω ) exp( −iωτ )dω = 2π +∞ 1 ∫−∞R(ω )[cos(ωτ ) + i sin(ωτ )]dω = 2π +∞ ∫ R(ω ) cos(ωτ )dω −∞ +∞ ∫ R(ω ) cos(ωτ )dω π 0 となる(フーリエコサイン変換) 。その時、 f (τ ) = 1 2π +∞ ∫ R(ω ) cos(ωτ )dω = −∞ 1 π +∞ ∫ R(ω ) cos(ωτ )dω 0 においてτ → −τ とおけば、 f (τ ) = f ( −τ ) 、すなわち f (τ ) は偶関数である事が分かる。 一方、 R (−ω ) = − R (ω ) (奇関数)の時、 f (τ ) = 1 2π = −i π +∞ ∫ R(ω ) exp(−iωτ )dω = −∞ 1 2π +∞ ∫ R(ω )[cos(ωτ ) − i sin(ωτ )]dω = −∞ 1 2π +∞ ∫ R(ω ) × ( −i ) sin(ωτ )dω −∞ +∞ ∫ R(ω ) sin(ωτ )dω 0 となる(フーリエサイン変換) 。ここでτ → −τ とおけば、 f (τ ) = − f (−τ ) 、すなわち f (τ ) は奇関数である 事が分かる。 以上をまとめると、 R(ω ) と f (τ ) のフーリエ変換の関係は、 R(ω ) = +∞ ∫ −∞ f (τ ) exp(iωτ )dτ , f (τ ) = 1 2π +∞ ∫ R(ω ) exp(−iωτ )dω −∞ R(ω ) が偶関数の時、 f (τ ) も偶関数であり、 f (τ ) = R(ω ) が奇関数の時、 f (τ ) も奇関数であり、 f (τ ) = 1 +∞ π −i π 73 ∫ R(ω ) cos(ωτ )dω 。 0 +∞ ∫ R(ω ) sin(ωτ )dω 。 0 これらの性質を用いて、 χ (ω ) = χ ' (ω ) + iχ " (ω ) ( χ ' (ω ), χ " (ω ) は実数)と G (τ ) に関する考察をする。 さて、 +∞ χ (ω ) = χ ' (ω ) + iχ " (ω ) = ∫ G (τ ) exp(iωτ )dτ , 0 +∞ +∞ 0 0 χ ' (ω ) = ∫ G (τ ) cos(ωτ )dτ , χ " (ω ) = ∫ G (τ ) sin(ωτ )dτ において、積分区間を − ∞ < τ < +∞ に変更する。その際、フーリエコサイン変換、サイン変換では、G (τ ) の 範囲を 0 < τ < +∞ から − ∞ < τ < +∞ に拡張し、それぞれ偶関数、奇関数と解釈しなおした計算になる。 まず、 G (τ ) を仮に偶関数と見なして、 χ ' (ω ) と G (τ ) との関係を拡張する。 +∞ χ ' (ω ) = ∫ G (τ ) cos(ωτ )dτ 0 に対し、仮に G (τ ) がτ < 0 でも定義され、 G ( −τ ) = G (τ ) の性質を持つと仮定すれば、偶関数どうしのフー リエ逆変換を用いると(注意: χ ' ( −ω ) = χ ' (ω ), χ " ( −ω ) = − χ " (ω ) を既に示した。 ) 、 f (τ ) = 1 π +∞ ∫ R(ω ) cos(ωτ )dω ↔ G (τ ) = 0 1 π +∞ ∫ χ ' (ω ) cos(ωτ )dτ 0 が得られる。 χ " (ω ) についても同様である。 χ " (ω ) の場合は、仮に G ( −τ ) = −G (τ ) の奇関数の性質がある として、奇関数のフーリエ変換の計算をすればよい。これらをまとめると、 G (τ ) = 1 +∞ π ∫ χ ' (ω ) cos(ωτ )dτ = 0 1 π +∞ ∫ χ " (ω ) sin(ωτ )dτ 0 である。 次に、 χ ' (ω ) と χ " (ω ) との関係式を求める。これ以降は、複素関数論の本を参照する事。複素積分を行うた めにω を複素数ω ' でおき換え、 ε (ω ' ) を複素平面上で定義された関数と考えよう。 +∞ +∞ 0 0 χ (ω ) = ∫ G (τ ) exp( iωτ )dτ → ∫ G (τ ) exp( iω ' τ )dτ ω1 ' , ω2 ' を実数としてω ' = ω1 '+iω2 ' で置き換えると、次の式を得る。 +∞ +∞ 0 0 χ (ω ' ) = ∫ G (τ ) exp(iω ' τ )dτ = ∫ G (τ ) exp(i(ω1 '+iω2 ' )τ )dτ +∞ = ∫ G (τ ) exp(iω1 ' τ ) exp( −ω2 ' τ )dτ 0 G (τ ) は、 0 < τ < +∞ で定義されている。もしω2 ' < 0 なら、τ → +∞ の時、 − ω2 ' τ → +∞ となるため、 exp( −ω2 ' τ ) → +∞ になる。よって、G (τ ) が発散しない自然な関数であるなら、 χ (ω ' ) が発散する異常な振 る舞いをするのは、 ω2 ' < 0 の場合に限られる。逆にいえば、 「 χ (ω ' ) はω2 ' > 0 の複素平面の上半分で正則」 である。この結論は、後ほど、総和側を導く際に用いる。 さて、コーシー(Cauchy)の積分定理により、 χ (ω ' ) ∫ ω '−ω dω ' = ∫ A −∞ +∫ AωC +∫ +∞ C −∫ −∞D +∞ =0 74 ここで − ∞ ~ D ~ +∞ の部分の経路積分で、円の半径を十分大きくとると、 =0 ∫ − ∞D + ∞ になる。続いて、次の公式(一周する円の経路でのθ積分は、反時計回り(左回り)が+になる)を用いる。 2π f ( z) f ( z0 + εeiθ ) f ( z0 + εeiθ ) iθ iθ dz = d ( e ) = lim εe idθ = 2πif ( z0 ) ε ∫ C z − z0 ∫ ( z0 + εeiθ ) − z0 ε →0 ∫ εeiθ C 0 すると、経路 AωC での積分は、右回り(× (−1) )半円(× 1 / 2 )の積分のため、 ( −1) × 2πiχ (ω ) / 2 で与え られる。これから、 0=∫ +∞ +∞ A A χ (ω ' ) dω ' = ∫ +∫ +∫ = ∫ + (−1) × iπχ (ω ) + ∫ AωC ω '−ω −∞ −∞ C C A →∫ +∫ −∞ +∞ = P∫ C +∞ χ (ω ' ) dω ' = πiχ (ω ) −∞ ω '−ω をえる。ここで、P P はコーシー(Cauchy)の積分の主値である。 χ (ω ) = χ ' (ω ) + iχ " (ω ) とおくと、 +∞ P∫ +∞ χ ' (ω ' ) + iχ " (ω ' ) χ (ω ' ) dω ' = πiχ (ω ) → P∫ dω ' = πi( χ ' (ω ) + iχ " (ω )) ω '−ω −∞ ω '−ω −∞ 実数部、虚数部を比較して、 χ ' (ω ) = 1 π P∫ +∞ +∞ 1 χ " (ω ' ) χ ' (ω ' ) dω ' , χ " (ω ) = − P∫ dω ' π −∞ ω '−ω −∞ ω '−ω を得る。この関係式は応答関数の実部と虚部を結びつけるので、分散公式(クラマース-クロニッヒ Kramers-Kronig の式)とよぶ。この関係式は、 χ ' (ω ), χ " (ω ) の一方を知っている場合に、他方を導くのに 用いられる。 さて、 χ ' ( −ω ) = χ ' (ω ), χ " ( −ω ) = − χ " (ω ) の性質を用いると、以下のように変形できる。 χ ' (ω ) = +∞ 0 +∞ 1 1 − χ " (ω ' ) 1 χ " (−ω ' ) χ " (ω ' ) χ " (ω ' ) d (−ω ' ) + P∫ dω ' = P∫ d (−ω ' ) + P∫ dω ' -∞ ( −ω ' ) − ω -∞ − ω '−ω π 0 ω '−ω π π 0 ω '−ω 0 1 P∫ π = (−1) 4 1 π P∫ +∞ 0 +∞ +∞ +∞ χ " (ω ' ) χ " (ω ' ) 1 1 1 1 dω ' + P∫ dω ' = P∫ + χ " (ω ' )dω ' ω '+ω π 0 ω '−ω π 0 ω '+ω ω '−ω +∞ 1 2ω ' χ " (ω ' ) 2 ω ' χ " (ω ' ) = P∫ dω ' = P∫ dω ' 2 2 π 0 ω ' −ω π 0 ω '2 −ω 2 +∞ 0 +∞ 1 1 χ ' (ω ' ) χ ' (ω ' ) χ ' (ω ' ) dω ' = − P∫ dω '+ − P∫ dω ' χ " (ω ) = − P∫ −∞ ω '−ω π -∞ ω '−ω π π 0 ω '−ω 0 +∞ +∞ +∞ 1 1 1 − χ ' (ω ' ) 1 χ ' (−ω ' ) χ ' (ω ' ) χ ' (ω ' ) = − P∫ d (−ω ' ) − P ∫ dω ' = (−1) 4 P∫ dω ' − P∫ dω ' +∞ ( −ω ' ) − ω π π 0 ω '−ω π 0 ω '+ω π 0 ω '−ω 1 +∞ +∞ 1 1 2 ω ' χ ' (ω ' ) 1 = − P∫ + dω ' χ ' (ω ' )dω ' = − P ∫ π 0 ω '+ω ω '−ω π 0 ω '2 −ω 2 すなわち、 χ ' (ω ) = 2 π P∫ +∞ 0 +∞ 2 ω ' χ " (ω ' ) ω ' χ ' (ω ' ) d ω ' , χ " ( ω ) = − P dω ' 2 2 ∫ ω ' −ω π 0 ω '2 −ω 2 75 となる。 さて、 ε (ω ) − ε 0 = ε 0 χ (ω ) = ε 0 ( χ ' (ω ) + iχ " (ω )) の関係と上で得られた式から、 ε ' (ω ), ε " (ω ) の間に成 り立つ関係式を導く。この際、 ε (ω ) − ε 0 = ε 0 χ (ω ) を利用し、 (注意: ε (ω ) = ε ' (ω ) + iε " (ω ) ) +∞ +∞ ε χ (ω ' ) ε (ω ' ) − ε 0 χ (ω ' ) dω ' = πiχ (ω ) − (×ε 0 )→ P∫ 0 dω ' = πiε 0 χ (ω ) → P∫ dω ' = πi(ε (ω ) − ε 0 ) -∞ ω '−ω -∞ ω '−ω -∞ ω '−ω +∞ (ε ' (ω ' ) − ε 0 ) + iε " (ω ' ) → P∫ dω ' = πi[(ε (ω ) − ε 0 ) + iε " (ω )] = −πε " (ω ) + iπ (ε (ω ) − ε 0 ) -∞ ω '−ω P∫ +∞ 実数部、虚数部を比較して、 ε ' (ω ) − ε 0 = 1 π +∞ ε " (ω ' ) ε ' (ω ' ) − ε 0 1 dω ' , ε " (ω ) = − P ∫ dω ' -∞ ω '−ω -∞ π ω '−ω P∫ +∞ を得る。 1 次元の電子振動子での、χ ' ( −ω ) = χ ' (ω ), χ " ( −ω ) = − χ " (ω ) の性質の確認をしよう。1 次元の電子振動子 の運動方程式は、 ω0 = k / m、E (t ) = E 0 exp( −iωt ) で、 d 2 x(t ) dx(t ) k e +γ + x(t ) = − E (t ) 2 dt dt m m となり、変位 x (t ) は、次のようになる。 x(t ) = − (e / m) E0 exp(−iωt ) ω0 2 − ω 2 − iωγ 電気双極子 p (t ) は、 p (t ) = (−e) x(t ) = ε 0 χ (ω ) E (t ) = − (e / m) E0 exp(−iωt ) ω0 − ω 2 − iωγ 2 で与えられる。よって χ (ω ) = χ ' (ω ) + iχ " (ω ) は、 χ (ω ) = (e 2 / ε 0 m) e2 1 e2 ω0 − ω 2 + iωγ = = ω0 2 − ω 2 − iωγ ε 0 m ω0 2 − ω 2 − iωγ ε 0 m (ω0 2 − ω 2 ) 2 + (ωγ ) 2 2 ω0 − ω 2 ωγ e2 e2 + i 2 2 2 2 2 ε 0 m (ω0 − ω ) + (ωγ ) ε 0 m (ω0 − ω 2 ) 2 + (ωγ ) 2 2 = これより、 χ ' ( −ω ) = χ ' (ω ), χ " ( −ω ) = − χ " (ω ) の関係が成り立っている事が確かめられた。なお、複数の振 動子が存在する場合は、単位体積あたりの振動子の数密度 N 、 k 番目の振動子の共鳴周波数ωk と振動子強度 f k を用いて χ (ω ) = ∑ k N (e 2 / ε 0 m ) f k , ∑ f k = 1 ωk 2 − ω 2 − iωγ k と書く事ができる。 屈折率 n(ω ) と消衰係数κ (ω ) との間の関係式 続いて、屈折率 n(ω ) と消衰係数 κ (ω ) との間の関係式を導く。われわれは、次の関係式を、損失がある場 合の電磁波の伝播の箇所で、既に導いた。 76 ε' 2ωκ = 1 + χ (ω ) = n (ω ) + iκ (ω ), α = ε0 c0 さて、 「 G (τ ) が発散しない自然な関数であるなら、ω ' = ω1 '+iω2 ' とおいて、χ (ω ' ) が発散するような異常な ω2 ' < 0 の場合に限られる。逆にいえば、χ (ω ' ) はω2 ' > 0 である複素平面の上半分で 正則」 である」 事を議論した (p.74 下) 。χ (ω ' ) がこのような特性であるなら、 1 + χ (ω ) − 1 = n(ω ) − 1 + iκ (ω ) も、ω2 ' > 0 である複素平面の上半分で正則になる事がわかる。また、 | ω |>> 1 の領域では、物質が共鳴する 周波数から十分離れているので、 χ (ω ) → 0 すなわち n(ω ) − 1 + iκ (ω ) → 0 である。よって、 χ ' (ω ), χ " (ω ) の関係式を導いた手続きを、 n(ω ) − 1, κ (ω ) でもそのまま使える。対応関係は、 χ ' (ω ) ↔ n(ω ) − 1 、および χ " (ω ) ↔ κ (ω ) であるから、以下の関係式を得る。 c0α (ω ' ) +∞ +∞ ω ' +∞ α (ω ' ) ω 'κ (ω ' ) 2 2 c0 ω 2 ' dω ' = P ∫ 2 2 dω ' n(ω ) − 1 = P ∫ 2 2 dω ' = P ∫ 2 2 π 0 ω ' −ω π 0 ω ' −ω π 0 ω ' −ω 振る舞いをするのは、 +∞ 2 κ (ω ) = − P ∫ π 0 ω '[n(ω ' ) − 1] dω ' ω '2 −ω 2 χ (ω ), ε (ω ) の総和則 電子振動子模型に限らず、電子(分極)の振動は、外部から掛けられた電場の周波数ω → ∞ の時、追従で きないと考えられる。 さて、複数の電子振子が存在するとし、 ω0 の最大値を ω M としよう。 χ " (ω ) は ω >> ω M の時、電磁波の 吸収がないため、ゼロになる。この関係を用いて、次の χ ' (ω ) の積分表示において、ω , ω ' の大小関係で次の ように分けて考える。 χ ' (ω ) = 2 π +∞ ω ' χ " (ω ' ) dω ' ω '2 −ω 2 0 P∫ ω >> ω ' の時は、 ω >> ω ' : ω ' χ " (ω ' ) ω ' χ " (ω ' ) ~ ω ' 2 −ω 2 − ω2 とできる。一方、ω ' >> ω > ωM の時、ω ' −ω ≈ ω ' と見なす事が出来る。また、ω ' は共鳴周波数の最大値 2 2 2 から大きく外れているので、 χ " (ω ' ) → 0 である。その時、以下のように大きさを評価することが出来る。 ω ' >> ω , ωM : ω ' χ " (ω ' ) ω '⋅0 ~ =0 − ω '2 ω '2 −ω 2 よって、被積分関数を次のように書き換えても問題はないだろう。 ω ' >> ω , ωM : ω ' χ " (ω ' ) ω ' χ " (ω ' ) → ω '2 −ω 2 −ω2 次に、ω >> ω ' 、ω ' >> ω > ω M における不等号を[ > → >> ]のように解釈しなおすと、ω >> ω M の領域 で、次の近似式を得る。なお、この式変形の最後の式は、発散する事がないので、主値を取ることを意味する P を除いて書いた。 77 2 χ ' (ω ) = π 2 ≈ π = − P∫ +∞ 0 ω +∞ 2 2 ω ' χ " (ω ' ) ω ' χ " (ω ' ) ω ' χ " (ω ' ) d ' = P d ' + P dω ' ω ω 2 2 2 2 ∫ ∫ ω ' −ω π 0 ω ' −ω π ω ω '2 −ω 2 ω P∫ +∞ +∞ ω ' χ " (ω ' ) ω ' χ " (ω ' ) ω ' χ " (ω ' ) 2 2 d ' + P d ' = P dω ' ω ω 2 2 ∫ ∫ −ω π ω −ω π 0 −ω2 0 2 πω 2 ∫ +∞ ω ' χ " (ω ' )dω ' 0 注意: 「 G (τ ) が発散しない自然な関数であるなら、χ (ω ' ) が発散する異常な振る舞いをするのは、ω2 ' < 0 の 場合に限られる。逆にいえば、χ (ω ' ) はω2 ' > 0 の複素平面の上半分で正則である」事を、既に議論している。 次に、χ ' (ω ), χ " (ω ) の関係式 χ ' (ω ) = − 2 πω 2 ∫ +∞ ω ' χ " (ω ' )dω ' を用いて、n(ω ), α (ω ) 間の関係式を求める。 0 まず、既に得られた関係式 2ωκ ε' = 1 + χ (ω ) = n + iκ , α = c0 ε0 に対して、 | χ (ω ) |<< 1 が成り立つ場合は、 χ " (ω )、α (ω ) の間に c α (ω ) c α (ω ) 1 1 ε' = 1 + χ (ω ) ~ 1 + χ (ω ) = n (ω ) + iκ (ω ) = n(ω ) + i 0 → χ (ω ) = n (ω ) − 1 + i 0 2 2ω 2 2ω ε0 → c 1 1 χ ' (ω ) = n(ω ) − 1, χ " (ω ) = 0 α (ω ) 2 2 2ω の関係式を得る。この結果を、先ほどの χ ' (ω ), χ " (ω ) の関係式に代入すると、次式を得る。 πωP2 2 +∞ +∞ 0 0 = ∫ ω ' χ " (ω ' )dω ' = ∫ ω '⋅ +∞ +∞ πω 2 c0 α (ω ' )dω ' = c0 ∫ α (ω ' )dω ' → P = ∫ α (ω ' )dω ' ω' 2c0 0 0 このようにして得られた関係式: πω P2 2 +∞ = ∫ ω ' χ " (ω ' )dω ', 0 πωP2 2c0 +∞ = ∫ α (ω ' ) dω ' 0 は、一般に総和則と呼ばれる。これら関係式は、吸収スペクトル測定に際して、未測定の波長領域において大 きな吸収があるかどうか判断する材料として用いられる事がある。 電子振動子模型での総和則を求めよう。共鳴周波数の最大値をω M として、ω >> ω M が成り立つ時、 χ (ω ) ≈ ∑ k N (e 2 / ε 0 m) f k N (e 2 / ε 0 m) N (e 2 / ε 0 m) ω P2 Ne 2 2 = f = − ⋅ 1 = − , = ω ∑ k P −ω2 −ω2 ω2 ω2 ε 0m k をえる。両者の比較を行うと、 +∞ 2 χ ' (ω ) = − 2 ∫ ω ' χ " (ω ' ) dω ' +∞ πω 0 ω2 2 πωP2 +∞ → − P2 = − 2 ∫ ω ' χ " (ω ' ) dω ' → = ∫ ω ' χ " (ω ' ) dω ' ω πω 0 2 ω P2 0 χ (ω ) ≈ χ ' (ω ) = − ω 2 が、電子振動子模型での総和則である。 78 結晶中での電磁波の伝播 光学的異方性・複屈折 電磁波の伝播では、物質は、等方的と仮定した。したがって、誘起された分極 P の方向は、電場 E の方向 と一致し、分極と電場とは、方向に依存しない定数の係数で結び付けられた( P = ε 0 χE ) 。しかし誘電体結 晶では、一般にこのような状況にはない。原子間の距離は、全ての方向で同じとは限らない。また、原子また はイオン間の力の大きさも変わるだろう。すると、原子に固有な振動の周波数が異なり、それに伴い屈折率の 方向依存性が出てくるだろう。このような方向依存性は、 「電子振動子模型」で説明した事柄から、予想される 事である。この状況は、異方性がない気体・液体と異なる。 光学的異方性に関連した現象のうち、光学素子に応用されている簡単な現象について、まず考察する。その 後、複屈折における簡単な場合について述べる。結晶は原子・イオンの周期的配列で出来ているので、誘起さ れる分極の向きと大きさは、加えられた電場の向きと結晶の配置に依存すると予想される。そこで、 Px χ11 χ12 χ13 Ex P = ε 0 χE, Py = ε 0 χ21 χ22 χ23 E y P χ z 31 χ32 χ33 Ez の式が成立する。電気感受率 χ = ( χ ij ) は一般に複素数の成分を持つので、以下では χ = ( χ ij ) を複素感受率 テンソルと呼ぶ。 χ ij の値は、一般に結晶格子に対する x, y , z 軸の取り方に依存する。そこで簡単のため、 (立 方体を含めた)直方体の形の結晶を考えよう。結晶軸にそろえて座標軸を取れば、 x, y, z の 3 つの軸が互いに 直交するような軸になる。また、非対角成分はすべてゼロになり、 χ11 Px Py = ε 0 0 P 0 z 0 χ 22 0 0 E x 0 E y χ 33 E z となる。一般には、任意の構造の結晶では、3 つの独立なベクトルを複素感受率テンソルの固有ベクトルとす れば、複素感受率テンソルの固有値が複素感受率テンソルの対角成分になる。このあたりの話は、行列の対角 化・固有ベクトルを扱った線形代数などの本を参照する事。 χ = ( χ ij ) :複素感受率テンソルの要素について、結晶構造が簡単な場合について、説明する。 ・立方体(全ての辺の長さが等しい結晶構造) この場合、 x, y , z 軸を区別する事は難しい。言い換えれば、どの結晶軸を x, y , z 軸にとってもよい。よって χ11 = χ 22 = χ 33 となる。 ・単軸結晶、1 軸性結晶(uniaxial crystal) Tetragonal、hexagonal、trigonal な対称性の結晶の総称。2 つの辺の長さが等しく、残りの辺の長さが異なる。長 さが異なる軸を一般には z 軸とする。光学的性質は、 x, y 方向では同じで z 方向では異なるので、 χ11 = χ 22 ≠ χ 33 である。 z 軸を光学軸、 c 軸(optic axis)という。 79 以下では、簡単のため、各軸が互いに直交する単軸結晶(1 軸性結晶)の場合について、光学的異方性と、 それに関連した現象を説明する。それぞれの軸方向の誘電率または電気感受率テンソル χ ij と屈折率との関係 は、以下の関係式から導かれる。 χ 11 χ = 0 0 0 χ 22 0 0 0 χ 33 の時、電束密度 D は、 D = E = ε 0 E + P = ε 0 E + ε 0 χE = ε 0 ( I + χ ) E ε 11 / ε 0 1 0 0 χ11 0 ε = ε 22 / ε 0 = I + χ = 0 1 0 + 0 χ 22 ε0 0 0 1 0 0 ε 33 / ε 0 0 1 + χ11 0 0 0 = 0 1 + χ 22 0 χ 33 0 0 1 + χ 33 となる。さらに結晶は光電場を吸収しない(κ = 0 )とする。それぞれの軸方向の屈折率(実数)の 2 乗が「物 質の誘電率を真空の誘電率で割った値: ε / ε 0 」と等しい( ε ' / ε 0 = n~ 2 = ( n + iκ ) 2 、 κ = 0 ) 。よって、1,2 軸方向(光電場が直線偏光しているとして、偏光方向が 1 軸または 2 軸に平衡)の屈折率を n0 、3 軸方向(光 電場が直線偏光しているとして、偏光方向が 3 軸に平行)の屈折率を ne とすれば、 1 + χ11 = 1 + χ 22 = no2 , 1 + χ 33 = ne2 が成り立つ。以下では、単軸性結晶において、光電場が x 軸方向に伝播する場合を考える。 光電場の偏光の変化 + x 方向へ伝播する平面波の光電波を考え、入射電場が次の式で表される場合を考える。真空中では、何れ の偏光方向でも波数は同じだから、 k = ω / c0 として、 x < 0 で E ( x, t ) = e y E y 0 exp[−i (ωt − kx)] + e z E z 0 exp[−i (ωt − kx)] = (0, E y 0 ,0) exp[−i (ωt − kx)] + (0,0, Ez 0 ) exp[−i (ωt − kx)] である。e x , e y , e z は、結晶の軸方向を示す、互いに直交する単位ベクトルである。電場は、x 軸方向に伝播し、 単軸性結晶内を進む。また、電場は、 y, z 成分を持つ。 k // ex x=0 ey L 電場が結晶面に垂直に入射する位置を x = 0 とすると、それ ぞれの偏光方向での波数ベクトルは、 k = nω / c0 の一般的 ex ez な関係から、単軸性結晶において、以下のようになる。 k y = n0 ω c0 , k z = ne ω k // ex 。 c0 k y (k z ) は、光電場の偏光方向が y (z ) 方向の波数の値である。ここでは、 ne > n0 とする。すると、結晶に 80 入射後の電場は、 E ( x, t ) = e y E y 0 exp[ −i (ωt − k y x)] + e z E z 0 exp[ −i (ωt − k z x)] ここで全体を exp[−i (ωt − no ω c0 x)] でくくると、電場 E ( x, t ) は E ( x, t ) = E 0 ( x) exp[−i (ωt − no ω c0 ey x)], E0 ( x) = e y E y 0 + e z E z 0 exp[i (ne − no ) ω c0 E x] ez で与えられる。すると、結晶の長さ L 伝播後の電場は、以下のようになる。 E ( L, t ) = E 0 ( L) exp[−i (ωt − no ω c0 L)], E 0 ( L) = e y E y 0 + e z E z 0 exp[i (ne − no ) ω c0 L] ---(議論で用いる式) 結晶から出射した光電場の偏光特性は、光電場の z 成分が exp[i ( n e − no )(ωL / c 0 )] の因子を持つため、一般 に入射電場の偏光特性とは異なる(必ずしも直線偏光のままで結晶から出射するとは限らない。 ) 。以下では、 すぐ上の式を用いて、光電場の偏光特性が結晶伝播に伴い変化する様子を、 (ne − no )(ωL / c 0 ) = π / 2, π の 2 つの場合で見る。簡単のため、E y 0 = E z 0 = E0 > 0 として、結晶の y, z 軸と 45 度の角度をなす直線偏光の入 射光電場を考える。 ( n e − no ) ωL c0 = π の場合 ( ne − no )(ωL / c 0 ) = π → exp[i ( ne − no )(ωL / c 0 )] = exp(iπ ) = −1 E ( L, t ) = E 0 ( L) exp[−i (ωt − no { ω c0 L)] } = e y E0 + e z E0 exp(iπ ) exp[−i (ωt − no { 偏光方向のシフト } = e y E0 + e z (− E0 ) exp[−i (ωt − no ω c0 ω c0 E ey L)] ez L)] となる。この場合、 z 方向の光電場の向きが入射時と逆向きになるので、ベクトルの足し算を考えると、結晶 から出てくる光電場の偏光方向は、入射電場と比べ 90 度回転(直交)している。図では、最初点線の向きの 偏光方向が、結晶を通過後、実線の向きに変わる事を示す。 結晶から出てくる光電場の時間変化を見よう。そのため、 no (ωL / c 0 ) − ωt L = 0 となるような時間 tL を考 え、その後の時間経過 t ' = t − t L として、時刻 t ' での電場の大きさを見る。電場の表示は実数表示にとる。 (注: exp(ix) = cos( x) + i sin( x) ) ω ω E ( L, t ) = Re e y E0 + e z E0 exp[i (ne − no ) L] exp[−i (ωt − no L)] = Re e y E0 + e z (− E0 ) exp(− iωt ') c0 c0 = e y E0 cos(ωt ' ) + e z (− E0 ) cos(ωt ' ) [{ 81 } ] 直線偏光の光電場の偏光方向を任意に回転させる方法 上の説明では、入射光電場が y, z 軸と 45 度の角度をなす偏光方向の場合を考えたが、直線偏光の光電場の 偏光方向を結晶に対して適当な角度にとる事で、光電場の偏光方向を任意に回転させることが出来る。この事 を示すため、入射光電場として E ( x, t ) = {e y E0 sin θ + e z E0 cosθ } exp[−i (ωt − kx)] を仮定する。 ( ne − no )(ωL / c 0 ) = π の時、 { } E ( L, t ) = e y E0 sin θ + e z (− E0 ) cos θ exp[−i (ωt − no ω c0 L)] となり、入射時に z 軸(+)方向に対してθ の角度をなしていた直線偏光の光電場の向きが、出射時には z 軸 (-)方向にθ の角度をなす。すなわち、直線偏光の光電場と単軸結晶の光学軸とのなす角度を適当に選ぶ事 で、光電場の直線偏光はそのままで、任意の偏光方向に変える事が出来る。1/2 波長板は、この原理を利用す る。 ( n e − no ) ωL c0 = π / 2 の場合 分かりやすくするため、光電場の実数表示をする。y, z 方向の光電場の振幅が E0 > 0 である光電場が、x 方 向に伝播する場合を考える。結晶の長さを L とし、 no (ωL / c 0 ) − ωt L = 0 となるような時間 tL を考え、その 後の時間経過 t ' = t − t L での光電場の大きさを見る。 (注: exp(ix) = cos( x) + i sin( x) ) ω E ( L, t ) = Re e y E0 + e z E0 exp(iπ / 2) exp − i ω (t '+t L ) − no L c 0 = Re e y E0 + e z E0 exp(iπ / 2) exp(− iωt ') = Re e y E0 exp( −iωt ' ) + e z E0 exp(− i (ωt '−π / 2 ) { } [{ ] } [ ] = e y E0 cos(ωt ' ) + e z E0 cos(ωt '−π / 2) この電場の向きがどのように変化するか、次の表を利用して調べよう。 ωt ' cos(ωt ' ) 0 π /2 π 3π / 2 2π 5π / 2 3π 1 0 -1 0 1 0 -1 cos(ωt '−π / 2) 0 1 0 -1 0 1 0 また、電場の振幅の 2 乗は、 cos 2 (ωt ' ) + cos 2 (ωt '−π / 2) = cos 2 (ωt ' ) + sin 2 (ωt ' ) = 1 ey となるため、時間に関係なく一定の大きさの振幅である。右図に示すよ うに、電場は、その大きさを変えることなく偏光方向が電場の伝播に伴 い回転する。このような光電場を、円偏光という。 (1 / 4 波長板の原理) ωt=0、2π 3π/2 π/2,5π/2 ez π 82 複屈折 光学的異方性が原因で起こる特徴的な現象に、複屈折(double refraction)がある。これは、無偏光の光が、例え ば右図のように、空間的に 2 の光に分離する現象である。この現 無偏光の光 象は、結晶が 2 つの異なる屈折率を持つ場合に可能である。この 現象で大事な所は、境界面(結晶面)に垂直に入射しても、光線 が空間的に 2 つに分かれることである。 最初は、簡単な場合で複屈折を理解する。紙面に垂直方向 に直線偏光する光電場の屈折率が n e 、それ以外の 2 方向に直 線偏光する光電場の屈折率が no とする。ここで、ne > no と 無偏光の光 屈折角 しよう。ここに無偏光の光電場が入射すると、紙面と平行な 偏光方向の電場(屈折率 no )の屈折角よりも、紙面と垂直な 偏光方向の電場(屈折率 n e )の屈折角のほうが小さく、図の 入射角 ように、光電場が結晶内部で 2 つに分かれる。 (屈折角の大 きさについては、p.2 の最後の式を参照。 ) 。これが複屈折の 基本現象である。 光電場が結晶に垂直入射する場合の複屈折現象は以下のように、直感的に理解することが出来る。ただし、 以下の説明は、現象を理解する事を優先にしており、正確な説明ではない事を念頭に置こう。注意:先ほどの 例とは、 c(z ) 軸の向きが異なる。 平面波である無偏光の光電場の伝播方向は、 x 軸に対して垂直で、 z 軸( c 軸)と角度θ で結晶に入射する とする。 k = ( k ⋅ e y ) e y + ( k ⋅ e z )e z ez c-軸 ez 無偏光の光 θ ex θ ey ey x 軸方向に平行な偏光の向きを持つ光電場(紙面に対して垂直方向)では、光電場の感じる結晶の屈折率は no である。その波数ベクトルの向きは入射時の伝播方向と同じで、大きさは k = noω / c0 である。この場合、 光電場は結晶に垂直に入射した後、結晶中をまっすぐに進む。 一方、 yz 面に平行な偏光方向の光電場(紙面に対して水平方向)では、光電場の感じる結晶の屈折率は、 光電場の偏光方向が y 軸に平行(光電場の伝播方向が z 軸と平行)な時 no であり、光電場の偏光方向が z 軸 に平行(光電場の伝播方向が y 軸と平行)な時 n e である。真空中での電磁波の光速度を c0 、波長を λ0 、波数 を k0 とすると、ω = c0 k0 、 λ0 = 2π / k0 = 2π /(ω / c0 ) の関係式が成り立つ。 入射する光電場の波数ベクトル k を結晶の y, z 軸の 2 つの方向に分けると、 k = (k ⋅ e y )e y + (k ⋅ e z )e z = e y k0 sin θ + e z k0 cosθ = k0 (e y sin θ + e z cosθ ) となる。簡単のため(ほんとうに簡単のためである事を断わっておく。 ) 、屈折率 n の結晶に入射後の波数 k ' の 83 各成分が、k = ω /(c0 / n) = nk0 の関係で変わるとする。すると、結晶に入射後の波数 k ' は、次のようになる。 k ' = k0 (e y ne sin θ + e z no cos θ ) = k0 no (e y ne sin θ + e z cos θ ) n0 波数の変化 k → k ' は、 k = k0 (e y sin θ + e z cosθ ) → k ' = k0 no (e y ne sin θ + e z cosθ ) n0 となる。ここで、波数 k , k ' の y, z 成分の相対的な大きさを比較しよう。ne > no の場合、波数 k と比較して、 波数 k ' の y 成分が z 成分よりも大きくなっている事がわかる。つまり、結晶の伝播に伴い、波数の向きが右 下方に向く事が分かる。 上の説明は波数ベクトルの変化から見た場合であるが、波面の向きの変化からも、結晶伝播に伴う光線の向 きの変化を理解する事ができる。光電場(光線)が結晶内を伝播する際、1 秒間に e y 方向には c0 / ne 、 e z 方 向には c0 / no だけ波面が進む。もし ne > no なら、 波面の様子 c0 c0 > no ne c0 no c0 となり、光電場の波面は、右図で e z 方向により進むた め、光電場の進行方向は右下方向を向く。この様子を c0 ne c0 右図に模式的に示した。図に示すように、光の波面が 伝播する方向は、入射方向(水平方向)から斜め下方 真空中 結晶中 向にずれる。 (注意:波面の伝播する方向が波数ベクト ルで表わされるので、波数と波面の一見異なる説明は、同じ説明を、単に言葉を変えて行っているにすぎない。 ) 以上の説明は、光電場が結晶中を伝播する時の、波面の伝播する方向についての説明であり、光線(光電場 のエネルギー)の伝播方向についての説明ではない。しかし、およそこのような理由で、無偏光の光電場(光 線)が光学的異方性を持つ結晶に入射した場合は、たとえ垂直入射でも、 c 軸が結晶に入射時の光電場の伝播 方向と異なれば、結晶内部で 2 つの光電場(光線)に分かれる。この性質を利用したさまざまな偏光ビームス プリッターが作成されている。 より厳密な理解のためには、上で行ったような電磁波の波面の伝播する向きを示す波数ベクトル k について の議論ではなく、電磁波のエネルギーの流れる方向、すなわちポインティング(Poynting)ベクトルの伝播方 向についての理解・議論が必要になる。また、結晶中における光電磁波の伝播方向の波数ベクトルを求めるた めには、ここでは説明しなかったが、フレネル(Fresnel)の光線方程式を用いる必要がある。 84 索引 あ行 電束密度 15、53 ら行 アンペールの法則 18 電磁波が横波である事 36 ラプラス方程式 35 アンペール-マクスウェルの法則 19 電磁波のエネルギー密度 30 ラプラシアン 23、35 位相 7 電磁波の吸収 50 乱反射 4 位相速度 22、24 透磁率 15、23 レンズの公式 5 一様な空間 23 等方性媒質 35 ローレンツ形 52 インピーダンス 24 真空の---- 24 ローレンツの局所電場 64 な行 (電磁波の)エネルギー密度 30 円偏光 37 円偏光 右回り、左回り 38 ベクトル演算の定義・公式の説明 ベクトル演算の定義・公式の説明 は行 反射型回折格子 13 反分極場 69 波長 7 回折 11 波源 7 ガウスの法則 16 反射率 45 可干渉性 10 半値全幅 52 逆進性 4 表皮深さ 63 干渉 8 表面電荷密度 64 換算質量 49 Beer の法則 43 光学的な距離 3 フーリエ変換 72 吸収係数 42、43 複素感受率テンソル 79 局所電場 64 複屈折 83 虚像 6 ファラデーの電磁誘導の法則 17 屈折率 24、42 フェルマーの原理 2 群速度 25 プラズマ 55 クラウジウス-モソッテティの式 70 プラズマ周波数 55 光学軸 79 プラズマ振動 58 コヒーレンス 10 分極ベクトル 15 実像 5 エネルギーの損失 34 分散 54 正常---- 異常---- 54 周波数 7 分散公式 75 ジュール熱 30 複素屈折率 42 div( A× B) 29 divrotA( x ) 21 A × (B × C ) 分極による電磁波の 磁化ベクトル 15 23 rotrotA( x , t ) か行 さ行 divA( x, t ) 15 rotA( x, t ) 15 消衰係数 42 平均パワー(電磁波の) 32 総和則 77 変位電流 20 振動子強度 53 ホイヘンスの原理 9 ポインティングベクトル 30 た行 直線偏光 37 ま行 直線偏光板 37 マクスウェル方程式 15 電荷の保存則 19 電気感受率 15、35、52 や行 電気双極子 15、49 ヤングの干渉実験 9 電気伝導度 15 横波(電磁波が横波である事) 36 電気双極子が吸収するエネルギー 31 85 40
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