大脳皮質基底核変性症 33 例における臨床病理学

新潟大学脳研究所
「脳神経病理標本資源活用の先端的共同研究拠点」
共同利用・共同研究報告書
大脳皮質基底核変性症 33 例における臨床病理学的検討
研究代表者
吉田
眞理1)
研究協力者
辰己
新水1),三室
柿田
明美3),高橋 均4)
マヤ1),岩崎 靖1),橋詰
良夫2),
愛知医科大学加齢医科学研究所1)、福祉村病院神経病理研究所2)、
新潟大学脳研究所デジタル医学分野3) 、新潟大学脳研究所病理学分野4)
研究要旨
大脳皮質基底核変性症(CBD)における辺縁系を含む側頭葉病変の特徴を明らかにするため、剖検で診
断された CBD 33 例で、側頭葉病変を検討した。CBD において、高率に嗜銀性顆粒を認めた。また、
嗜銀性顆粒病(AGD)で認められる嗜銀性顆粒の分布よりも、側頭葉全体にわたりより広汎に分布する傾
向を認めた。さらに、海馬においても嗜銀性顆粒は、AGD でみられるものよりも広範に出現し、
argyrophilic threads を伴っていた。側頭葉において argyrophilic threads を伴いながら広汎に嗜銀性
顆粒を認めることは、CBD の特徴と思われた。
A.研究目的
大脳皮質基底核変性症(corticobasal degene-
通常の HE 染色、KB 染色、Gallyas-Braak 嗜銀
染色、AT8 免疫染色、Neurofilament (monoclonal,
ration, CBD)は、大脳皮質・白質、基底核、黒質
70 kD and 200 kD, 1:600)免疫染色、RD3
などに、タウの沈着を伴って神経細胞脱落を認め
(monoclonal, tau 209-224,1:3000)免疫染色、RD4
る神経変性疾患である。一方、嗜銀性顆粒病
(monoclonal, tau 275-291,1:500)免疫染色で検討
(argyrophilic grain disease, AGD)は、CBD と同
した。
一のタウアイソフォーム(4 repeat tau)からなる
側頭葉の検討部位は、側頭極、扁桃核、前方海
嗜銀性顆粒を辺縁系優位に認める加齢性疾患で
馬、後方海馬(外側膝状体)のそれぞれのレベル
ある。CBD ではその嗜銀性顆粒病の合併が多い
における冠状断で検討した。Saito stage III の
とされているが、CBD の辺縁系病変は十分に明
AGD 2 症例を control として比較した。
らかにされていない。
我々は、CBD と AGD において、嗜銀性顆粒の
C.研究結果
分布や出現量を比較検討するために、剖検で診断
平均死亡年齢は 69.1 歳、罹病期間は 5.8 年、男女
された CBD 33 例における側頭葉病変を検討した。
比は 1:0.7 であった。側頭葉新皮質、側頭葉内側
における神経細胞脱落は、多くの症例で認めなか
B.研究方法
病理学的検討は、20%中性緩衝ホルマリン固定
後、
パラフィン包埋 9μm 厚の組織切片を作成し、
った。
嗜銀性顆粒は 32 例(97.0%)で認められた。
Saito
stage に従うと陽性率は、25 例(75.8%)となった
(Saito stage I
7 例;II
8 例;III 9 例)。AGD
その他の所見としては、アルツハイマー型 NFT
と比較すると、側頭葉全体により広範に認める傾
の出現量は少なかった(Braak stage I 11 例;
向を認めた(図 1)
。
II
17 例;III 4 例)。それらは、RD3 免疫染色
で陽性を示し、CBD で認める構造物(RD3 陰性、
RD4 陽性)と区別可能であった。
D.考察
嗜銀性顆粒は CBD では比較的高率に合併する
と報告され(41.2%. Togo T, 2002)、我々の検討で
も 97.0%と高率に合併していた。嗜銀性顆粒は加
図 1.AGD と CBD における嗜銀性顆粒の分布の違い。
CBD では、辺縁系からより遠位まで、広範に分布。
縦軸は各領域の嗜銀性顆粒の数(40 倍視野あたり)
。
横軸は、側頭葉における各領域。左から T4, T3, T2, T1
(後頭側頭回、下側頭回、中側頭回、上側頭回)。
また、海馬においても AGD での嗜銀性顆粒は
限局的であるのに対し(海馬 CA1、海馬支脚)
、
CBD では海馬全体(海馬 CA1~CA4、海馬歯状回、
海馬支脚)に分布する傾向を認めた(図 2)。さら
に、CBD では、CBD の特徴的な所見のひとつで
ある argyrophilic threads が海馬全域に多数認め
られる傾向があり、grain の出現と相関していた
(図 2)
。
齢とともに増加していき、30 歳以上では 5.6%、
65 歳以上では 11.7%、平均 80 歳では 43.2%と報
告されている。ただし、我々の検討での CBD の
死亡年齢と比較すると(平均 69.1 歳)、単なる加
齢性変化とするには合併率があまりにも高かっ
た。
次に、側頭葉における嗜銀性顆粒の分布を検討
した。AGD では側頭葉内側に多く、外側では乏
しい傾向を認める(Saito Y. 2004)。我々の検討で
も、AGD では側頭葉内側を主体に分布し、中側
頭回や上側頭回には分布しにくい傾向をみとめ
た。一方、CBD では嗜銀性顆粒は側頭葉全体に
わたって分布していた。
また、海馬においても AGD と比べ、CBD では
海馬全体に広汎に分布する傾向を認めた。さらに、
CBD では、CBD に特徴的な多数の argyrophilic
threads が海馬全域に認められる傾向があり、
grain の出現と相関していた。
CBD
歯状回
CBD
CA1
このように、CBD では、嗜銀性顆粒がより高
率かつより広汎に認めることは、単なる加齢性変
化というよりも、CBD に特徴的な所見と思われ
た。
AGD
歯状回
AGD
CA1
E.結論
CBD では高率に嗜銀性顆粒を認めた。また、側
図 2.CBD と AGD における海馬での嗜銀性顆粒の出
頭葉において argyrophilic threads を伴いながら
現様式。CBD では歯状回にも嗜銀性顆粒を認め、CA1
広汎に嗜銀性顆粒を認めることは、CBD の特徴
では argyrophilic threads を伴っている。
的所見と思われた。
上段 CBD、下段 AGD。左
歯状回、右
CA1。
G.研究発表
1. 論文発表
なし
2. 学会発表
1) 辰己新水,三室マヤ,岩崎靖、橋詰良
夫、柿田明美、高橋均,吉田眞理.大脳皮
質基底核変性症 36 例における臨床病理学
的検討.
2)Tatsumi S, Mimuro M, Iwasaki H,
Yoshida M, Aiba I, Okuda S. A case of
TDP-43 proteinopathy associated with
corticobasal
clinically
degeneration
diagnosed
ALS-dementia.
as
(CBD),
familial