直角双曲線上に3頂点をもつ三角形の垂心が同一曲線上

直角双曲線上に3頂点をもつ三角形
の垂心が同一双曲線上にあることの
幾何的な証明
小野田 啓子
聖徳大学附属聖徳中学校聖徳高等学校
はじめに
B
三角形の頂点を図形や曲線
の上で動かし,内心,外心,
重心,垂心の軌跡を調べた
ことが契機
G
外心
H
内心
A
垂心の軌跡は何故そうなる
のか理由が分からなかった
C
垂心の軌跡
直角双曲線上で3頂点を
動かしたとき,垂心は同
一双曲線上にあることに
気付いた
( )
B b, 1
b
H
上の3点A,B,Cを結んで
1
できる△ABCの垂心は,
( a, )
a
計算によれば簡単に直角
双曲線上にあることが分
かる
(
1 ,
abc
(
C c, 1c
)
)
abc
(
A a, 1
a
)
幾何的な証明を行なおうとした動機
計算による証明で結果を説明する
ことはできたが,何故このような関係
があるのかという疑問が残った
直感的に理由が分かりやすい幾何
的な証明ができれば,三角形の垂心と
直角双曲線との関係が分かるのでは
ないか
直角双曲線の角度に関する性質
『2定点を結んだ直線Lと,その2定点をそれぞれ通る
直線がLとなす角度の差が一定である点の集まりは直
角双曲線となる』
(大阪教育大附属高等学校池田校舎 友田勝久先生よ
り)
y
|∠ PAB-∠ PBA|
= 7.2 (一定)
B
P
L
36.2
O
43.4
A
x
直角双曲線の幾何学的性質
直角双曲線 xy=k 上にある,原点対称な2点をA,Dとする。
この双曲線上の2点をP,Qとすれば,座標で計算すると,
傾き(PA) = -傾き(PD)
傾き(QA) = -傾き(QD)
となる。よって,∠PAQ = ∠PDQ が成り立つ。
(大阪教育大附属高等学校池田校舎 友田勝久先生より)
y
P
Q
A
D
O
x
〔証明〕
【直角双曲線上の三角形に成り立つ性質】
直角双曲線上に任意の3点A,B,Cを取り,△ABCを作る。
〔性質ⅰ〕
頂点Aの原点に関して対称な点をD(=-A)とする。このとき
,頂点Bを双曲線上のどこに取っても,直線ACとx軸とのなす
角をδとすると,
∠BAC-∠BCA+∠CBD=2δ・・(ⅰ)
y
が成り立つ。この関係は,他の
B
各頂点と角に対しても同様に成
り立つ。
A'
D
l
A''
C
2
O
B'
A
x
〔性質ⅰ〕の証明
右の図で,∠BAC=α,∠BCA=β,∠CBD=εとおく。
点Bを通るx軸に垂直な直線lに関して,点Aと対称な点をA’とすると,
〔直角双曲線の幾何学的性質〕から,
傾き(AB)=-傾き(BD)
ゆえに,直線ABとBDは直線lに関して対称な直線であり,点A’は直線BD上
にある。
よって,
y
B
∠BA’B’= ∠BAB’=α
より,
∠BA’’B’=α+ε
直線ACとx軸とのなす角をδとすると,
∠A’’B’C=2δ
より,
β+2δ=α+ε
l
A'
A
よって,
A''
α-β+ε= 2δ・・・(ⅰ)
O
x
2
B'
D
ここで,2δはA,Cが変わらなけれ
C
ば一定となるので, α-β+εの値
は一定である。
〔性質ⅱ〕
直角双曲線上にある点Pに対して,
fAC(P)=∠PAC-∠PCA
と定義するとき, fAC(B)= fAC(H)となる点Hが,同じ双曲線上
に頂点B以外に1点だけ存在する。このとき〔性質ⅰ〕から,
∠BAH=∠BCH・・・(ⅱ)が成り立つ。
y
B
H
P
A
C
O
x
〔性質ⅱ〕の証明
頂点Bと点Hに対して,(ⅰ)より「 fAC(B)= fAC(H) 」と「∠CBD=∠CHD」
は同値である。
なぜならば,頂点Bと点Hに対して, α-β= 2δ-ε ・・(ⅰ) は,
fAC(B)=2δ-∠CBD
fAC(H)=2δ-∠CHD
となるが,2δは点A,Cが変わらなければ一定であるから,
「 fAC(B)= fAC(H) 」⇔「∠CBD=∠CHD」
いま,頂点Bに対して,△BCDの外接円を描くと,双曲線との交点は点B,
C,D以外に1個存在する。
y
この点をHとすると,円周角の定理より,
∠CBD=∠CHD
B
よって,
fAC(B)= fAC(H)
すなわち,
H
∠BAC-∠BCA=∠HAC-∠HCA
ゆえに,
A
∠BAH=∠BCH・・・(ⅱ)
O
x
D
〔性質の証明終〕
C
直角双曲線上にある△ABCの垂心が同じ双曲線上にあることの証明
直角双曲線上に頂点がある△ABCにおいて,頂点Aの原点に関して対称
な点をD(=-A)とする。
このとき,△BCDの外接円と双曲線の4つの交点のうち点B,C,D以
外の点をHとすると, 〔性質ⅱ〕より,
∠BAH=∠BCH・・・①
y
頂点BとCを入れ替えても成り立つので,
∠CAH=∠CBH ・・・②
B
●
直線AHとBC,直線BHとAC,直線CH
とABの交点を,それぞれL,M,Nと
L
する。
H
②と円周角の定理の逆から,4点A,M,
×
×
L,Bは同一円周上にある。
O
よって,円周角の定理および①から,
M
D
C
∠BAL=∠BML=∠HML=∠HCL
ゆえに,4点L,C,M,Hは,同一円周
上にあり,円に内接する四角形LCMHの対角の和から,
∠HLC+∠HMC=180°・・・③
N
×
●
A
x
また,
△ABL∽△CBN (①より2角相等)
△AHM∽△BHL(②より2角相等)
より,
∠ALB=∠CNB=∠BMA・・・④
④より,
∠HLC=∠HMC・・・⑤
③,⑤より,∠HLC=∠HMC=90°
y
B
●
N
L
H
×
よって,AL⊥BC,BM⊥AC,④か
らCN⊥ABであるから,点Hは△ABC
の垂心である。
×
D
O
C
×
●
A
M
以上から,直角双曲線上にある△ABCに対して,①,②を満たす点Hが
同じ双曲線上にただ1つ存在して,点Hは△ABCの垂心であるから,直角
双曲線上にある△ABCの垂心は,同じ直角双曲線上にある。
〔証明終〕
x
授業後の生徒の感想
興味を持った性質をかいてください。
・モアレの図(2名)
・いろいろな図形の垂心,外心,内心,重心の軌跡。
・直角双曲線上の三角形の垂心は,その曲線上にあること。
感じたこと思ったことなどの感想を自由に書いてください。
・いかにも入試問題のようなものにも,美しい図形的性質がかくされて
いてとてもおもしろいと思いました。
・とてもおもしろかった。図形の性質につながるところが,やはり数学
の知識の奥深く,おもしろいところだと思った。単に「こういう性質
です。」ということじゃなくて,応用・発展していくところが,数学
はすごい!それに改めて気づいて,より数学に興味が湧いた。
・図形的な性質がいろいろあることが分かった。
・頂点が対辺に平行に動くときの垂心が,一定の動きをするのが不思議
でした。
研究のまとめ
直角双曲線と三角形の垂心の幾何的な関係を考え
たことで,直角双曲線上の点の興味深い角度に関す
る性質を知ることができた。
生徒が曲線のさまざまな性質に出会って心を動か
される経験は,数学への興味・関心を高めることに
つながるのではないかと思う。今後も,このような
きれいな性質の探求を続け,授業に取り入れて行き
たい。
〔謝辞〕 大阪教育大学附属高等学校池田校舎 友田勝久先生には,直角双曲線の幾
何的性質に関すること,および証明を見通しのよいものにするために数々の貴重なご
助言をいただきました。心から感謝を申し上げます。