樹状高分子による ガンの「見張り」リンパ節の イメージング

樹状高分子による
ガンの「見張り」リンパ節の
イメージング
大阪府立大学大学院 工学研究科 応用化学分野
准教授 児島 千恵
浜松医科大学 メディカルフォトニクス研究センター
准教授 小川 美香子、教授 間賀田 泰寛
1.デンドリマー
コア
分岐
ユニット
末端
官能基
薬物
イメージングプローブ
◆タンパク質と同程度の大きさの単分子ナノ粒子
◆粒径・表面状態を精密に制御できる
◆末端官能基に様々な薬物やイメージングプローブ
を結合できる
→核磁気共鳴イメージング(MRI)、単一光子放
射断層撮影法(SPECT)などのイメージング剤と
して利用可能
C. Kojima et al, Nanomedicine, 7, 1001 (2011).
C. Kojima et al, Int J Pharm, 476, 164 (2014).
Table 1. 市販のポリアミドアミン(PAMAM)デンドリマーの世代数増加の影響
世代数
G2
G3
G4
G5
G6
G7
G8
粒径(nm)
2.6
3.6
4.4
5.7
7.2
8.8
9.8
末端官能基数
16
32
64
128
256
512
1024
分子量(kDa)
3.3
6.9
14
29
58
116
233
2.センチネルリンパ節(SLN)イメージング
センチネルリンパ節(SLN):
ガンの見張りリンパ節とよばれ、
ガン診断、ガン治療において重要
リンパ管
(かつてのガン治療)
リンパ行性転移の抑制のためガン周辺
のリンパ節の切除(リンパ節郭清)
※浮腫(むくみ)が生じる
(現在のガン治療)
センチネルリンパ節にガン細胞が存
在するか否かを検査
(センチネルリンパ節生検)
↓
陽性なら、リンパ節郭清
陰性なら、リンパ節温存
転移
がん
全身へ
センチネル
リンパ節(SLN)
SLNの同定
既存法(2剤投与)
デンドリマー
(単剤投与)
インド
シアニン
グリーン
(ICG)など
99mTc-スズ
コロイドなど
SLN
デンドリマーはセンチネルリンパ節のイメージング剤として有用
3.本研究の目的
Gx-NH2
カチオン
Gx-COOH
アニオン
Gx-Ac
ノニオン
末端官能基
(表面電荷)
Ac Ac
G8
Ac
Ac
Ac
Ac
Ac
Ac
サイズ
(世代数)
G6
Ac
G4
Ac
Ac
Ac
Ac
Ac
G2
SLNのイメージングのための構造最適化
4.粒径と表面電荷の異なるデンドリマーイメージング剤の作製
5.合成したデンドリマーのまとめ
デンドリマー
G2-NH2
G2-Ac
G2-COOH
G4-NH2
G4-Ac
G4-COOH
G6-NH2
G6-Ac
G6-COOH
G8-NH2
G8-Ac
G8-COOH
末端基
16
キレート剤
(結合数/
仕込み量)
5 / 10
64
8/7
256
7 /7
1024
8 /17
分子量(kDa)
粒径 (nm)
ζ 電位 (mV)
6
6
7
19
21
24
62
72
86
238
280
339
n.d.
n.d.
n.d.
n.d.
n.d.
n.d.
7.5
7.1
5.8
7.8
7.6
12
12
15
14
-2.4
-12
-22
-1.1
-4.5
-21
6.4
-12
-32
5~8分子のキレート剤が結合した
世代数の増加とともに、分子量、粒径が大きくなった
-COOH > -Ac > -NH2 の順に負の表面電荷が増大した
6.体内動態評価実験
①皮内投与
(計12種, 0.37MBq/100mL)
SD rat (♂, 5週齢, 120-140g)
②マッサージ(30秒)
心臓
肺
脾臓
③解剖
(1, 6, 24時間後, n=4)
④各臓器の
放射線量測定
肝臓
センチネル
リンパ節
投与部位
腎臓
筋肉
血液
7.投与部位における残存
G4
G6
G8
アミノ末端:残留
カルボキシ末端:比較的多く残留
アセチル末端:経時的に減少
G2の全て:
速やかに減少
8.血液への移行
G8
G6
アセチル末端:多く血中に移行
G4 :カルボキシ末端、アセチル末端で一部が血中に移行
G2 :全ての末端で一部が血中に移行
9.脾臓、肝臓、腎臓への移行
脾臓
肝臓
腎臓
G4
G6
G8
カルボキシ末端、
アセチル末端:
脾臓, 肝臓に多く
移行
G2, G4の一部 : 腎臓へ移行
10.センチネルリンパ節(SLN)への移行
G4
G6
G8
カルボキシ末端が多く移行
11.体内動態実験結果まとめ
センチネルリンパ節:
G8-COOH, G6-COOH,
G4-COOH
→粒径が大きくカルボ
キシ末端のもの
血
液
心臓
肺
肝臓
血液, 心臓, 肺, 筋肉:
G4-COOH, G2-COOH,
G4-Ac, G2-Ac, G2-NH2,
G8-Ac, G6-Ac
→粒径の小さいもの、
アセチル末端のもの
脾臓, 肝臓:
脾臓
G8-COOH, G6-COOH,
G4-COOH, G8-Ac,
G6-Ac
筋肉 →粒径の大きいカルボ
キシ、アセチル末端の
もの
腎臓:G4-COOH, G2-COOH, G4Ac,G2-Ac, G2-NH2
→粒径が小さいもの
投与部位:G8-NH2,
G6-NH2, G4-NH2,
G8-COOH, G6-COOH
→粒径が大きく、電
荷を帯びているもの
12.SPECTイメージング①表面電荷の影響(G6デンドリマー)
G6-Ac
G6-COOH
G6-NH2
G6-AcはSLNイメージングできなかった
G6-COOH, G6-NH2はSLNイメージングできた
G6-NH2は投与部位からのシグナルも高かった
13.SPECTイメージング②世代数の影響(COOHデンドリマー)
G8-COOH
G6-COOH
G4-COOH
G2-COOH
G2-COOHはイメージングすることができなかった
G8-COOH, G6-COOH, G4-COOHを用いてセンチネル
リンパ節のイメージングに成功した
14.センチネルリンパ節への取り込みメカニズム
①マクロファージによる貪食
②組織浸透性の影響
B細胞
全身
センチネル
リンパ節
T細胞
マクロファージ
投与部位
アニオン性リポソームは
マクロファージに貪食される
アニオン性リポソームは
中程度の組織浸透性を発現する
Kelly et al, J. Drug Delivery,
727241 (2011).
Khan et al,
Int. J. Nanomedicine, 8, 2733 (2013).
免疫染色によるマクロファージの貪食の有無の検討
15.組織蛍光免疫染色
蛍光色素を結合したデンドリマーを投与したラットのリンパ節の凍
結切片を抗CD68抗体で組織免疫染色した。
緑:マクロファージ (CD68) 、赤:デンドリマー
G4-COOH
G8-COOH
G6-COOH
100 mm
共局在を示す黄色のシグナルがほとんどみられなかった。
デンドリマーはマクロファージに取り込まれていない
ことが示唆された。
16.小括
◆SLNイメージングのためのデンドリマーイメージング剤の
設計のため、世代数と末端官能基の異なるデンドリマーを
作製した。
◆デンドリマーイメージング剤の表面電荷と世代数が体内
動態に及ぼし、G4以上のカルボキシ末端のデンドリマーが
SLNに多く局在した
◆G4以上のカルボキシ末端のデンドリマーでSLNのSPECT
イメージングができた。
◆G4以上のカルボキシ末端のデンドリマーでSLNの局在に
は、マクロファージの取り込みはほとんど関与していないこ
とがわかった。
17.新技術の特徴と想定される用途
• センチネルリンパ節生検のためのイメージング剤と
して利用できる。
• 現在の技術では、 放射性ラベルした無機コロイド
と色素などの2剤投与が必要であったが、デンドリ
マーは複数のイメージング剤を1分子に坦持するこ
とができるため、単剤投与でデュアルイメージング
ができる。
• マクロファージに取り込まれないので、センチネル
リンパ節に局在するガン細胞のイメージングにも適
用可能。
→ドラッグデリバリーとの併用も可能
18.転移性ガン細胞を標的としたドラッグデリバリーシステム
(DDS)
ガン転移
転移性腫瘍細胞
マトリックスメタロプロテアーゼ
(MMP:コラーゲン分解酵素)
細胞外マトリックス
主成分:コラーゲン
薬物担持
コラーゲンゲル
薬効を発現
(転移をブロック)
血管
(従来のゲル)
薬物包埋ゲル
→徐放
薬物運搬体を
包埋
(本研究)
転移に呼応するDDS
19.コラーゲンゲルにハイブリッドする薬物運搬体
抗がん剤を結合させたコラーゲンデンドリマー
グルタミン酸誘導体
ヒドラゾン結合(酸性条件で切断)
Kono, Kojima et al, Biomaterials, 2008
Glu(NHN)-NH
コラーゲンペプチド(CP)
第4世代(G4)ポリアミドアミン(PAMAM)デンドリマー
アドリアマイシン(ADR:抗癌剤)
→コラーゲンゲル(I型/IV型)に包埋
20.コラーゲンハイブリッドゲルの細胞毒性
ハイブリッドゲルの
細胞毒性
デンドリマーの細胞毒性
100
80
60
40
20
MDA-MB-231
MCF-7
0
0.001 0.01 0.1 1 10 100
Concentration
of ADR(μ M)
ADR濃度 (mM)
細胞生存率 (%)
細胞生存率
(%)
Viability(%)
Cell
120
MCF-7:転移能低い
MDA-MB-231:
転移能高い
ADR濃度(mM)
ハイブリッドゲルでは転移性の高い細胞に選択的な
細胞毒性を示した。
Tumor Volume (mm3)
21.コラーゲンハイブリッドゲルの腫瘍成長抑制効果
コラーゲン
ゲルのみ
抗がん剤を包埋し
たコラーゲンゲル
抗がん剤結合デンドリマーを
包埋したコラーゲンゲル
Time (days)
低分子薬剤を包埋したゲルよりも薬物運搬デンドリ
マーを包埋したゲルの方が高い抗腫瘍効果を示した
22.コラーゲンハイブリッドゲルの転移抑制効果
イメージング技術によってガン細胞(4T1/Luc)を検出
ハイブリッドゲル
転移なし
転移が見られたマウス: 2/5
薬物運搬体のみ
転移あり
4/5
薬物運搬デンドリマーを包埋したゲルは転移を抑制
する傾向はみられた
23.小括
◆薬物運搬体を包埋したコラーゲンゲルを作製した。
◆上記のゲルは転移性腫瘍細胞に選択的な薬理活性を
示した。
◆上記のゲルは抗腫瘍効果および転移抑制効果を示した。
ハイブリッドゲル
癌転移に
呼応した
新しいDDS
24.実用化に向けた課題と企業への期待
• PAMAMデンドリマーを用いて、センチネルリ
ンパ節のイメージングとガン転移に呼応したド
ラッグデリバリーを実現した。
→今後、得られた知見を元に、実用化に向けて
FDAなどで認可されている素材を用いて、検討
を行う。
• イメージング剤の開発、ガンのDDSの実施に
興味のある企業には、本技術の利用が有効
であると思われる。
本研究のイメージング剤、DDS材料の実用化を目指す
企業との共同研究を希望
25.本技術に関する知的財産権
•
•
•
•
発明の名称
出願番号
出願人
発明者
• 発明の名称
• 登録番号
• 出願人
• 発明者
:リンパ節イメージング剤
:特願2014-096756
:大阪府立大学、浜松医科大学
:児島千恵、仁木悠一郎、小川美香子、
間賀田泰寛
:コラーゲン医薬組成物及び
その製造方法
:特許第5392674号
:大阪府立大学
:児島千恵、西阪瑛子、末廣智幸
お問い合わせ先
公立大学法人
大阪府立大学
産学官研究連携推進センター
リエゾンオフィス
統括コーディネーター 金澤 廣継
TEL 072-254-9128
FAX 072-254-7475
e-mail [email protected]