Title Author(s) 超高圧電子顕微鏡法による金属間化合物の照射誘起固溶 体形成に関する研究 穴田, 智史 Citation Issue Date Text Version ETD URL http://hdl.handle.net/11094/50508 DOI Rights Osaka University 様式3 論 氏 論文題名 名 文 ( 内 穴 容 の 田 要 智 旨 史 ) 超高圧電子顕微鏡法による金属間化合物の照射誘起固溶体形成に関する研究 論文内容の要旨 本研究では,MeV電子照射下における金属間化合物からの固溶体形成プロセスおよびその支配因子を明らかにするこ とを目的として,平衡状態図において高温領域に固溶体を有する一連の金属間化合物,すなわちCr2Ti, Cr2Al, CrFeお よびTi2Pd金属間化合物の電子照射誘起固溶体形成挙動について検討した. 第1章では,HVEM内高エネルギー電子照射法を用いた金属間化合物の電子照射誘起相転移について説明し,照射誘起 固溶体の形成プロセスに関する研究の現状を示し,本研究の意義および目的について述べた. 第2章では,Cr2M (M = Ti, Al)金属間化合物におけるMeV電子照射誘起相転移挙動を調査し,得られた結果について 述べた.Cr2Ti金属間化合物は103 K以下におけるMeV電子照射下でアモルファス化した後,bcc固溶体に相転移した.Cr2Al 金属間化合物は照射誘起不規則化によりアモルファスを介さずbcc固溶体に相転移することが明らかとなった. 第3章では,σ-CrFe金属間化合物における電子照射誘起bcc固溶体形成挙動を調査し,得られた結果について述べた. σ-CrFe金属間化合物は298 K-473 KにおけるMeV電子照射下でその構造を安定に保つことができず,bcc固溶体に相転 移することが明らかとなった.SADパターンの解析より,σ-CrFe金属間化合物からbcc固溶体が形成された場合の結晶 方位関係が(301)bcc//(100)σ, [010]bcc//[010]σであることが明らかとなった.一方,低温22, 103 Kにおいてはσ-CrFe 金属間化合物の大きな構造変化は観測されないことが明らかとなった. 第4章では,Ti2Pd金属間化合物におけるMeV電子照射誘起相転移挙動を調査し,得られた結果について述べた. C11b-Ti2Pd金属間化合物は103 K以下におけるMeV電子照射下でbct固溶体に相転移した後,部分的にアモルファス化す ることが明らかとなった.さらに形成されたbct固溶体の格子定数比c/aが電子照射に伴い減少し,bct構造がbcc構造 に近づくことが明らかとなった. 第5章では,平衡状態図において高温領域に固溶体を有する一連の金属間化合物における電子照射誘起固溶体形成挙 動について総括し,その支配因子について議論した.その結果,状態図において高温領域に固溶体を有する金属間化 合物においては,照射による点欠陥導入によって容易に高温固溶体相に変化する傾向が存在することが明らかとなっ た.また,単純な規則-不規則相転移によって固溶体形成が困難な系においては,アモルファス相を経由して固溶体を 形成する場合や直接固溶体が形成されるが自由エネルギーの減少を伴う場合等,固有な経路で固溶体が形成されるこ とを見出した. 第6章では,本研究により得られた成果を総括した. 様式7 論文審査の結果の要旨及び担当者 氏 名 ( 穴 田 (職) 論文審査担当者 智 史 氏 ) 名 主 査 教 授 保田 英洋 副 査 教 授 安田 弘行 副 査 准教授 福田 隆 論文審査の結果の要旨 本論文は、MeV エネルギーの電子照射により点欠陥を定常的に導入する非平衡状態下において、金属間化合物が相 転移するプロセスとその機構を明らかにすることを目的として、2 元系平衡状態図の高温領域において bcc 固溶体相を 有する Cr2Ti, Cr2Al, CrFe、および、Ti2Pd 金属間化合物について、超高圧電子顕微鏡内電子照射の手法を利用した照射 誘起相転移実験を系統的に行い、以下の知見を得ている。 1. C15-Cr2Ti 金属間化合物においては、試料温度 103 K 以下で 2MeV 電子照射すると、その結晶構造を保持すること ができず、アモルファスに相転移することを見出している。さらに、そのアモルファス相に照射を続けると、照 射領域の中心部から bcc 固溶体相の結晶粒が生成し、照射量とともに成長することを明らかにしている。化合物 結晶相が単一のアモルファス相に相転移した後、粗大な bcc 固溶体相の結晶粒に結晶化するという典型的な照射 誘起結晶-アモルファス-結晶(C-A-C)相転移は過去に報告例がなく、C15-Cr2Ti 金属間化合物において初めて 実証された結果である。 2. C11b-Cr2Al 金属間化合物においては、試料温度 22 K-298 K の低温における電子照射により bcc 固溶体相に直接相 転移することを見出している。電子回折図形の解析から、形成された bcc 固溶体相の結晶方位は C11b-Cr2Al 金属 間化合物のそれと一定の関係をもち、この相転移が化学的不規則化によって進行することを明らかにしている。 3. σ-CrFe 金属間化合物においては、試料温度 298 K-473 K の室温より高い温度で電子照射すると、bcc 固溶体相に直 接相転移することを見出している。照射後の電子回折図形の解析から、σ 母相と bcc 固溶体相の結晶方位関係が [010]σ//[010]bcc, [100]σ//[301]bcc であることを明らかにしている。この結果に基づいて、σ-bcc 相転移における結晶 方位関係について、従来のモデルとは異なる新しいモデルを提唱している。また、22K ならびに 103 K の低温で 電子照射しても、σ-CrFe 金属間化合物は安定に存在し、構造変化しないことを確認している。照射欠陥の緩和が 起こりやすい高温においてのみ bcc 固溶体の生成が観測された事実より、σ-bcc 相転移は自由エネルギー減少型 の相転移であると結論付けている。 4. C11b-Ti2Pd 金属間化合物においては、試料温度 103 K 以下で電子照射すると、bct 固溶体相に直接相転移すること を見出している。この結果は C11b-Cr2Al 金属間化合物における bcc 固溶体相生成と同様に化学的不規則化により 進行することを示している。また、bct 固溶体相における格子定数の c/a 比が電子照射とともに減少して 1 に近づ き、bct 構造が bcc 構造に変化すると同時に、bct 固溶体相の一部はアモルファス化することを明らかにしている。 以上のように、平衡状態図の高温領域に固溶体相を有する金属間化合物は、電子照射による点欠陥導入によって、 その高温固溶体相に相転移し、そのプロセスでは C-A-C 相転移や自由エネルギー減少型の相転移等の特異な相転移機 構が関与することを明らかにしている。これらは、固相反応における固溶体形成現象を理解する上で有用な知見を多 く含んでおり、材料工学の発展に寄与するところは大きい。よって、本論文は博士論文として価値あるものと認める。
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