道央自動車道における舗装嵩上げ工の凍上低減効果 住友 敏昭*1 沖原 穂高*1 沼田 透*2 1.はじめに 道央自動車道登別室蘭IC~新千歳空港IC間の一部の切土部 では、毎年冬期に写真1に示すように凍上現象による路面隆 起が発生し、路面の平坦性が損なわれている。そのため、合 理的な対策工を確立し、冬期路面の平坦性を改善することが 課題である。凍上現象による路面隆起を抑制するために、各 種対策工を比較検討した。路床を非凍上性材料で置き換える 置換工法や、上部路床に断熱材を入れる断熱工法についても 検討を行ったが、経済性及び施工性に優位な舗装嵩上げ工1) (オーバーレイ工法)に着目した。そして、平成23・24年度 に舗装断面や寒冷度等現地条件の異なる4地区で試験施工を 写真1 厳冬期の道央自動車道における凍上状況 行い検証した結果、凍上を緩和させることが確認された。本 報では、舗装嵩上げ工の概要及び現地条件の違いによる舗装 はアスファルト表層から上部路床上層部まで非凍上性材料で 嵩上げ工の凍上低減効果の検証について報告する。 構成され、置換厚さは65㎝となる。また、その下層には置換 された火山灰質粗粒土と地山の火山灰質粗粒土(ともに支笏 2.路面隆起の発生と路床の現況調査 軽石流堆積物Spfl)で構成される。このうち置換火山灰質土 路面隆起の原因を究明するために、H15年に千歳IC~苫小 牧東IC間の走行車線を開削し、舗装断面構成の確認、目視観 と地山の火山灰質土を採取し,物理試験および凍上性判定試 験(NEXCO試験法112)を行った。 察、採取試料の土質試験を実施した。舗装断面構成(図1) 表1 土質試験結果 ( 建設時 ) 試験項目 開削調査 路床火山灰土 (地山) 置換火山 灰質土 地山火山 灰質土 細粒分質礫質砂 (SFG) - 細粒分質礫質砂 (SFG) - 28.8 39.2 (g/㎝ ) 2.220 2.544 2.446 (㎜) 37.5 37.5 37.5 粒 4.750㎜ 通過質量百分率 度 2.000㎜ 通過質量百分率 試 験 0.425㎜ 通過質量百分率 (%) 85.0 - 91.1 (%) 73.0 - 85.1 (%) 49.2 - 61.6 0.075㎜ 通過質量百分率 (%) 35.6 - 43.3 凍上前・後の質量増加量 (g) - +304 +202 凍 凍 上 率 上 凍 結 様 式 試 験 凍結融解後の修正CBR (%) - 14.5 11.3 - 3 3 ( 微細霜降状凍結) ( 微細霜降状凍結) 4.3 - 凍上性材料 凍上性材料 地盤材料の工学的分類 自然含水比 w n 土粒子の密度試験 ρs 最大寸法 凍 上 性 判 定 図1 舗装断面構成 *1 東日本高速道路㈱ 北海道支社 苫小牧管理事務所 *2 ㈱ネクスコ・エンジニアリング北海道 札幌道路事務所 (%) 3 (%) - 既設路床材および建設時の地山火山灰質土の土質試験結果を 表1に示す。地山火山灰質土の粒度試験結果は0.075㎜通過 質量百分率が43.3%となり、建設時から7.7%増加している。 また、凍上性判定結果は、置換火山灰質土が凍上率14.5%、 地山火山灰質土が凍上率11.3%、両試料ともに凍結様式3と なり、高い凍上性を示している。これは既設路床材が、粒子 破砕、乾湿繰返しおよび凍結融解繰返し作用等の複合的要因 により細粒化し、凍上性材料へと変質したものと推定される。 3.舗装嵩上げ工の試験施工の実施 舗装嵩上げ工の現地適用性および対策効果を検証するため に、平成23年度に札幌方面の苫小牧西IC~苫小牧東IC間の1 地区、平成24年度に室蘭方面の登別室蘭IC~登別東IC間、登 別東IC~白老IC間、白老IC~苫小牧西IC間の3地区で厚さ10cm の舗装嵩上げ工の試験施工を実施した。追跡調査内容および 頻度を表2に、地中温度計器の配置例を図2に、試験施工位 図2 地中温度計器の配置例 置を図3にそれぞれ示す。写真2の簡易ラフネス測定装置2) (STAMPER-FW)は簡易的に路面平坦性(IRI)を測定出来る装 ③GPS ①バネ上加速度計 ⑤小型PC 置として、試行的に導入したものである。 表2 追跡調査内容および頻度 調査項目 調査方法 測定頻度 地中温度・外気温測定 地中温度センサ・データロガー (外気温1点、地中温度3~4点) 毎正時に自動記録 路面平坦性(IRI)測定 簡易ラフネス測定装置 a(STAMPER-FW) 冬期前・凍上期・融解後 路面凍上量測定 水準測量 冬期前・凍上期・融解後 寒冷度比較調査 本線気象観測局データ ②バネ下 加速度計 写真2 簡易ラフネス測定装置(STAMPER-FW) H23年度試験施工 ①S48.4KP~S48.7KP 札幌方面 → 登 別 室 蘭 IC H24年度試験施工 ④S102.0KP ~ 102.3KP ④本体 登 別 東 IC 白 老 IC H24年度試験施工 ③S94.4KP~S94.7KP 新 千 歳 空 港 IC 苫 小 牧 東 IC 苫 小 牧 西 IC H24年度試験施工 ②S66.2KP~S66.6KP ← 室蘭方面 図3 試験施工位置図 表3 IC間別凍結指数 4.試験施工の追跡調査結果 凍 結 指 数 各IC間の気象観測局で記録した平成24年度の冬期のIC間別 凍結指数は、表3に示すとおり平成23年度とほぼ同様で、過 年度 3地区においては、一部、登別東IC~白老IC間でIRIが平均 白老IC ~ 苫小牧西IC 登別東IC ~ 白老IC 登別室蘭IC ~ 登別東IC <勇払川観測局> <ポン樽前川観測局> <虎杖浜観測局> <富浦川観測局> 過去10年平均 407℃ Days 321℃ Days 349℃ Days 278℃ Days H23年度 589℃ Days 483℃ Days 495℃ Days 432℃ Days H24年度 531℃ Days 444℃ Days 456℃ Days 394℃ Days 去10年間の平均値と比較して、約1.3倍の値を示している。 各追跡調査結果を表4に示す。白老IC~苫小牧西ICを除く 苫小牧西IC ~ 苫小牧東IC 表4 追跡調査結果 0.84mm/m上昇がみられたものの、地中温度や測量結果から凍 比較的大きな凍上路面隆起が見られた。これは、上部路床の 上抑制効果が認められた。一方、白老IC~苫小牧西IC間に着 凍上性材である置換火山質土まれで凍結が浸入し、凍上した 目すると、測量結果は平均凍上量9.3mm、最大凍上量が26.0mm ことが要因と推測される。このことから、白老IC~苫小牧西 と他の試験施工地区より高い値を示した。また、地中温度測 IC間において凍上抑制効果は小さく、適用性には課題が残る 定は、最低値(上部路床下面)は-0.93℃を示し氷点下の値 結果となった。しかし、全体としてみると、凍上の抑制効果 となった。本試験施工地区では,IRI値上昇は抑制されたが、 が確認でき、有効な対策であるということが確認出来た。 表5 凍結深さと置換厚さの関係 項目 ①下り 48.4kp~48.7kp <苫小牧西~苫小牧東> (B) (A) ②上り 66.2kp~66.6kp <白老~苫小牧西> (B) (A) ③上り 94.4kp~94.7kp ④上り 102.0kp~102.3kp <登別東~白老> <登別室蘭~登別東> (B) (A) (A) (B) 対策前 断面図 対策前置換厚(A) 650mm 450mm 650mm 500mm 修正Berggren式 による置換厚(B) 840mm 700mm 780mm 700mm 対策前置換不足厚 (C)=(B)-(A) 190mm 250mm 130mm 200mm 対策後置換不足厚 (C)-100mm 90mm 150mm 30mm 100mm 凍結指数 (過去10年最低値) 589℃ Days 483℃ Days 495℃ Days 432℃ Days 100≧不足厚 100<不足厚 100≧不足厚 100≧不足厚 OK NG OK OK 判定 5.必要舗装嵩上げ厚さの検討 各地区の追跡調査結果に及ぼす凍結深さの影響を把握する ために、推定凍結深さと非凍上性である舗装・切込砕石路床 の断面を比較した。各地点における必要な置換え厚さを算出 するために、舗装のような多層構造に適用しても実用上は問 題ないとされているAldrichによる修正Berggren式3)を用いた。 推定凍結深さと置換厚さの関係を表5に示す。 各試験施工地区は、凍結深さに対して非凍上性材の置換厚 は不足する結果となっている。しかし、苫小牧西IC~苫小牧 東IC間で実施した試験施工結果においては、2冬期連続で凍 上抑制効果が見られたことから、推定凍結深さが一部凍上性 路床材のへ浸入する条件下においても、路面に影響を及ぼさ 写真3 嵩上げを行ったハンドホール ない範囲があるものと推測される。このことから、試験施工 結果で最も抑制効果が得られた苫小牧西IC~苫小牧東ICの不 足厚90mmを効果指標とし、推定凍結深さと対策後置換厚を比 較して90mmまで不足しても、路面へ及ぼす影響は僅かである と考えられる。また、対策断面の再下段の地中温度は0.69℃ と0℃を上回る結果であったことから、推定凍結深さが概ね 一致する結果が得られている。したがって、嵩上げ工の適用 可否については、現況断面の施工誤差等を考慮し、対策後置 換不足厚100mm以下が妥当と考えられる。 これらより、各試験施工地区別に凍結深さと対策後置換厚 から算出した結果、表4に示すとおり対策後置換不足厚が150 ㎜となる白老IC~苫小牧西IC間を除く3地区では、IRI結果や 測量結果からも抑制効果が確認でき、且つ、対策後置換不足 厚が100mm以下となることから本対策は有効と判断される。 6.舗装嵩上げ工の施工を通して これらより、100mmmの舗装嵩上げの効果が期待できる(一 部区間は除く)ことは確認出来た。しかし、実際の施工を通 して本工法を凍上対策工として確立させるには、考慮しなけ ればならない事項もあったので報告する。 (1)交通安全施設並びに付帯工の嵩上げが必要 現況舗装高さより100mm嵩上げするため、中央分離帯側の 防護さくの嵩上げが必要となることから、上下線同時の追越 車線規制により、防護さくの嵩上げを行う必要がある。 また、路肩にある排水ますやハンドホール等の附帯工に段 差が生じるため、附帯工の嵩上げが必要となる。写真3はハ ンドホールの嵩上げを行った状況である。 (2)長時間の連続規制が必要 舗装嵩上げ工法は、基層舗設工と表層舗設工の2層施工で あり、片車線完了後は走行追越車線の間に100mmの段差が生 じるため、両車線が完全に完了しなければ規制解放ができな いため、昼夜連続車線規制での作業となる。 断熱工法や置換工法と比較すると施工時間は短いが、工法 の選定には交通量等を十分考慮する必要がある。 7.まとめ 舗装嵩上げ工の試験施工により効果を検証した結果、登別 室蘭IC~新千歳空港IC間の対策効果は、一部区間を除いて概 ね効果が得られる結果となった。試験施工を実施した年度は、 過去10年間で最も凍結指数が高い年度であるため、今回の試 験施工で得られた結果は、寒さの年変動を踏まえても長期的 に効果が持続できるものと期待する。しかし、白老IC~苫小 牧西IC間では、他の試験施工箇所と同等な効果を得るために は、Aldrichによる修正Berggren式より算出した場合、必要な 10cmを超えるため、当該区間の冬期路面の改善方法について は、今後、より合理的な対策工の検討に努めていくものとす る。 <参考文献> 1) 谷藤義弘・坂田史典・竹村真那斗・沼田透・山内智:舗 装嵩上げによる路床の凍上低減効果,第48回地盤工学研究発 表会論文集pp.1039-1040,2013. 2) 大廣智則、岡部浩紀、川島正人、川村彰:高速道路での 効率的な路面管理を行うための簡易IRI測定機の基礎的研究、 舗装、Vol.46、No.6,pp.13-20、2011. 3)中西出版:寒冷地地盤工学―凍上被害とその対策― 地盤の凍上対策に関する研究委員会 編 pp.38-52
© Copyright 2024 ExpyDoc