景気循環研究所レポート 地方創生を後押しする製造業の「国内回帰」 2015 年 1 月 16 日 設備投資の先行指標 1 月 15 日に発表された 14 年 11 月の機械受注統計によると、設備投資 の先行指標である「船舶・電力を除く民需」は前月比 1.3%増加した。同 指標は 14 年 5 月を底に回復基調で推移しており、14 年度の上期にかけて 停滞した設備投資が今後、反転・増加に転じる可能性を示唆している。 中小企業も回復へ 円安による海外収益の押し上げを背景に、日本のグローバル大企業は好 業績を記録している。国内の「人手不足」の深刻化も相俟って、大企業・ 製造業の設備投資意欲は旺盛だ。もっとも、設備投資回復の動きは大企業 や輸出企業に限った話ではない。機械受注統計のうち、中小企業の設備投 資に先行するとされる「代理店経由」の受注動向をみると、14 年 11 月こ そ前月比 11.6%減少したものの、同 6.2%増加した 10 月の受注額と平均 した受注額は、7-9 月期の月平均受注額を 0.4%上回っている。 地方の設備資金需要 さらに、資金需要の観点からみると、設備資金の貸出残高は、銀行 3 業態(都市銀行・地方銀行・地方銀行Ⅱ)のいずれも前年同月を上回って いるが、都市銀行に比べ、地方銀行・地方銀行Ⅱの増勢が著しい(図 1)。 1 月 13 日に発表された 14 年 12 月の「貸出・預金動向速報」でも、地銀・ 地銀Ⅱの総貸出平残の前年比伸び率は 3.7%と、都銀等(都銀+信託銀+旧 長信銀)の 1.7%を大幅に上回っている。「量的・質的金融緩和」によっ て実現した極めて緩和的な金融環境は、地域金融機関の貸出スタンスの積 極化を通じて、設備投資回復のすそ野の拡大に貢献した可能性がある。 嶋中 雄二 景気循環研究所長 図 1. 堅調に推移する地方の設備資金貸出 (前年比、%) 宮嵜 設備資金の貸出金残高(末残、左目盛) 8 浩 シニアエコノミスト 03-6213-6573 miyazaki-hiroshi@sc.mufg.jp 都市銀行 地方銀行 1.5 地方銀行Ⅱ 6 1.4 4 1.3 2 1.2 0 1.1 圭亮 -2 シニアエコノミスト 03-6213-2608 1.0 (兆円) -4 0.9 -6 0.8 -8 0.7 福田 fukuda-keisuke@sc.mufg.jp 本レポートは、嶋中雄二の見方に基づ き、宮嵜・福田が執筆を担当しています。 -10 機械受注(船舶・電力を除く民需、右目盛) 0.5 -12 景気循環研究所 東京都千代田区丸の内 2-5-2 三菱ビルヂング 0.6 08 09 10 11 12 13 (注1)地方銀行は全国地方銀行協会加盟銀行、地方銀行Ⅱは第二地方銀行加盟銀行。 (注2)貸出分類の一部変更(09年6月)に伴う統計上の段差を当研究所が調整。 (資料)内閣府「機械受注統計」、日本銀行「現金・預金・貸出金」をもとに三菱UFJ モルガン・スタンレー証券景気循環研究所作成 1 14 (年、月次) 2015 年 1 月 16 日 資金需要から浮かび上がった地方での設備投資の好調ぶりは、今後、円安 「国内回帰」と円相場 の定着に伴う製造業の生産拠点の「国内回帰」によって、一段と加速しそう だ。製造業の海外現地生産比率に対する、ドル・円レートの 2 年程度の先行 性から判断すると、15 年度は、生産拠点の海外移転に歯止めがかかり、徐々 に国内生産比率が上昇するタイミングとなる(図 2)。現在、一部の主要企業 の「国内回帰」事例が報じられているが、国内で製造を再開ないし新設する 拠点は総じて、大都市圏からやや離れた地方に存在する(表 1)。今後、円高 による採算悪化で生産を休止していた地方の工場が相次いで操業を再開し、 さらには増産体制の強化から設備投資を実施する展開も予想される。実際、 東京や大阪、名古屋などの大都市圏を抱える地域よりも、経済の集積度が小 さい地域において、生産設備への不足感がより強まっている(表 2、設備判断 BSI)。同時に、「人手不足」に対する認識も、生産拠点を多く抱える地方に おいて、一段と強まりつつある模様だ(図 3、表 2 の従業員数判断 BSI)。 政府は現在、「地方創生」を経済政策の柱に据える方針を打ち出している。 労働力確保が課題 地方における潜在的な労働力の掘り起しを政府が推進することで、「国内回 帰」に伴う雇用・所得環境の改善は、地方でより実感されることになろう。 表 1. 最近の主な「国内回帰」事例 図 2. 海外現地生産比率と為替レート 国内生産・ 投資の内容 企業名 ソニー 小林製薬 三井造船 円高 ○ 閉鎖工場を環境事業の拠点に再生(蓄熱製品開発など) 静岡県御殿場市 2.0 ○ 芳香消臭剤の一部 宮城県大和町 1.5 -8 ○ マスク 愛媛県新居浜市 1.0 0 0.5 ○ 船舶、港湾クレーン 岡山県玉野市 千葉県市原市 大分県大分市 -0.5 秋田県、山梨県 -1.0 ○ スマートフォンや自動車向け電子部品 ○ 縦型洗濯機 パナソニック -40 -32 海外現地生産比率 (前年差、左目盛) 3.0 中国生産の3割を 段階的に国内移管 TDK (%) ドル・円レート トレンドからのかい離率 (2年先行、右逆目盛) 3.5 長崎県諫早市 熊本県菊陽町 ○ スマートフォン向け画像センサー リコー 4.0 上昇 生産拠点 (%ポイント) ○ 家庭用エアコン、ドラム式洗濯機 8 低下 16 24 円安 32 (年度) -1.5 88 90 92 94 96 98 00 02 04 06 08 10 12 14 16 兵庫県神戸市 (注)海外現地生産比率は年度。ドル・円レートは暦年末(直近は15年1月)。 (資料)内閣府「企業行動に関するアンケート調査」、日本経済新聞社資料をもとに 三菱UFJモルガン・スタンレー証券景気循環研究所作成 滋賀県草津市 ○ 家庭用エアコンの一部 滋賀県草津市 シャープ ○ 中型冷蔵庫、52型以下の液晶テレビ、空気清浄機など 大阪府八尾市 栃木県矢板市 ホンダ ○ 国内向けミニバイク(50cc)生産の一部 熊本県大津町 日産自動車 ○ 米国向けエンジン生産 福島県いわき市 キヤノン ○ 国内生産比率を4割→5割に引き上げ アイリス オーヤマ ○ LED照明の生産を中国から国内に戻す 佐賀県鳥栖市 東芝 ○ フラッシュメモリーの新工場を新設 三重県四日市市 トヨタ自動車 ○ 研究開発費を200億円積み増して9800億円に 図 3. 地域別にみた雇用の過不足感 不足 ダイキン工業 - 30 (「不足気味」-「過剰気味」、%ポイント) 14年12月末 25 20 - ( トヨタ九州) ○ 新型車「レクサスNX」向けエンジンを増産 -16 0.0 静岡県袋井市 逆に、赤字の続く デジカメの生産を 中国に移管 ○ 電子レンジ、IHI調理器具 -24 2.5 福岡県苅田町 15 (注)一部に検討中ないしは見込み案件を含む。 (資料)各種報道資料をもとに三菱 UFJ モルガン・スタンレー証券景気循環研究所作成 10 14年9月末 5 表 2. 地域別の雇用・設備の過不足感(14 年 12 月末) 北海道 従業員数 判断BSI 設備判断 BSI 東北 関東 北陸 東海 25.5 24.7 15.8 19.1 18.4 10.2 3.6 1.3 2.1 1.4 過剰 ● 数値のプラス幅が大きいほど「不足」感が強い (「不足・不足気味」-「過大・過剰気味」、%ポイント) 近畿 15.1 中国 四国 北九州 南九州 21.8 15.5 21.4 21.5 2.3 ▲ 2.6 6.6 6.1 5.2 沖縄 過去の平均 0 北 海 道 東 北 関 東 北 陸 東 海 近 畿 中 国 四 国 北 九 州 南 九 州 沖 縄 (注)過去の平均は10年6月末~14年12月末をもとに算出。 (資料)財務省「法人企業景気予測調査(財務局別)」をもとに三菱UFJモルガン・ スタンレー証券景気循環研究所作成 27.1 - (注)従業員数判断BSIは全規模・全産業、設備判断BSIは同・製造業。沖縄の設備判断BSIは非公表。 (資料)財務省「法人企業景気予測調査(財務局別)」をもとに三菱UFJモルガン・スタンレー証券景気循環研究所作成 (以 上) みやざき ひろし (15.1.16 宮嵜 巻末に重要なお知らせを記載していますので、ご参照ください。 2 浩) 2015 年 1 月 16 日 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 本資料は信頼できると思われる各種データに基づいて作成されていますが、当社はその正確性、完全性を保証するものではありません。本 資料で直接あるいは間接に採り上げられている有価証券は、価格の変動や、発行者の経営・財務状況の変化およびそれらに関する外部評価 の変化、金利・為替の変動などにより投資元本を割り込むリスクがあります。ここに示したすべての内容は、当社の現時点での判断を示している に過ぎません。本資料は、お客様への情報提供のみを目的としたものであり、特定の有価証券の売買あるいは特定の証券取引の勧誘を目的と したものではありません。本資料にて言及されている投資やサービスはお客様に適切なものであるとは限りません。また、投資等に関するアドバ イスを含んでおりません。当社は、本資料の論旨と一致しない他のレポートを発行している、或いは今後発行する場合があります。本資料でイン ターネットのアドレス等を記載している場合がありますが、当社自身のアドレスが記載されている場合を除き、ウェッブサイト等の内容について当 社は一切責任を負いません。本資料の利用に際してはお客様ご自身でご判断くださいますようお願い申し上げます。 当社および関係会社の役職員は、本資料に記載された証券について、ポジションを保有している場合があります。当社および関係会社は、 本資料に記載された証券、同証券に基づくオプション、先物その他の金融派生商品について、買いまたは売りのポジションを有している場合が あり、今後自己勘定で売買を行うことがあります。また、当社および関係会社は、本資料に記載された会社に対して、引受等の投資銀行業務、 その他サービスを提供し、かつ同サービスの勧誘を行う場合があります。 三菱UFJモルガン・スタンレー証券の役員(会社法に規定する取締役、執行役、監査役又はこれらに準ずる者をいう)が、以下の会社の役員 を兼任しております:三菱UFJフィナンシャル・グループ、三菱倉庫。 債券取引には別途手数料はかかりません。手数料相当額はお客様にご提示申し上げる価格に含まれております。 本資料は当社の著作物であり、著作権法により保護されております。当社の事前の承諾なく、本資料の全部もしくは一部を引用または複製、 転送等により使用することを禁じます。 c 2015 Mitsubishi UFJ Morgan Stanley Securities Co., Ltd. All rights reserved. Copyright ◯ 〒100-0005 東京都千代田区丸の内 2-5-2 三菱ビルヂング 三菱 UFJ モルガン・スタンレー証券株式会社 景気循環研究所 (商号) 三菱 UFJ モルガン・スタンレー証券株式会社 金融商品取引業者 関東財務局長(金商)第 2336 号 (加入協会) 日本証券業協会・一般社団法人金融先物取引業協会・一般社団法人日本投資顧問業協会・一般社団法人第二種金融商品取 引業協会 本資料は、英国において同国the Prudential Regulation Authorityとthe Financial Conduct Authorityの監督下にあるMitsubishi UFJ Securities International plcが配布致します。また、米国においては、Mitsubishi UFJ Securities (USA),Inc.が配布致します。 巻末に重要なお知らせを記載していますので、ご参照ください。 3
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