リアルタイムPCRハンドブック - Life Technologies

リアルタイムPCRハンドブック
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目次
リアルタイムPCRの基礎
実験デザイン
プレートの準備
データ解析
トラブルシューティング
デジタルPCR
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1
2
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リアルタイム PCR の基礎
1
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リアルタイム PCR の基礎
1.1 イントロダクション
3
1.2 リアルタイム PCR の概要
4
1.3 リアルタイム PCR とその構成要素の概要
5
1.4 リアルタイム PCR 解析用語
7
1.5 リアルタイム PCR 蛍光検出システム
11
1.6 解離曲線解析
15
1.7 パッシブレファレンス色素の使用
16
1.8 コンタミネーションの防止
17
1.9 マルチプレックスリアルタイム PCR
17
1.10 内部標準およびレファレンス遺伝子
19
1.11 リアルタイム PCR 装置のキャリブレーション
20
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1
2
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リアルタイム PCR の基礎
1.1 イントロダクション
ポリメラーゼ連鎖反応( PCR)は、分子生物学における最強
トの初期量に関する定量的情報が得られます。リアルタイ
の テクノロジ ー の 一 つ で す。 PCR により、DNA ま た は
ム PCR に使用される蛍光レポーターとして、二本鎖 DNA
cDNA のテンプレート内の特定の配列に特異的なオリゴヌク
レオチド、熱安定性 DNA ポリメラーゼを含む状態で、サー
(dsDNA)結合色素、または増幅中に PCR 産物とハイブリダ
マルサイクリングを使用して、数千倍から数百万倍に複製あ
イズする PCR プライマーまたはプローブに結合した色素分
子が用いられます。
るいは「増幅」することが可能です。従来の(エンドポイント)
PCR では、増幅された配列の検出および定量は最終 PCR
1
蛍光の変化は、サーマルサイクリングと蛍光色素スキャンを
サイクル後にゲル電気泳動および画像解析などの PCR 後
組み合わせた装置により、反応の過程中に測定します。リ
の解析により行います。リアルタイム定量 PCR では、PCR
アルタイム PCR 装置は、蛍光をサイクル数に対してプロッ
産物を各サイクルにおいて測定します。反応をその指数関
トすることにより、全 PCR 反応の過程を通して蓄積される
数的増幅期間内においてモニターすることにより、ユーザー
産物を示す増幅プロットを作成します(図 1)。
はターゲットの初期量を非常に正確に決定することができ
ます。
1.1 イントロダクション
PCR では DNA は理論的には指数関数的に増幅し、増幅サイ
クル毎にターゲット分子の数は 2 倍に増加します。 PCR が
開発された当初、研究者達はサイクル数と PCR 最終産物の
量を利用して、既知のスタンダードとの比較により目的物質
の初期量を算出することが可能であるはずだと考えました。
その後、幅広い定量法の必要性に応じてリアルタイム定量
PCR の技術が開発され、エンドポイント PCR は主としてシー
ケンシングやクローニング用に特定の DNA を増幅する目的
リアルタイム PCR には以下のような利点があります。
• PCR 反応の進行をリアルタイムで
モニターすることが可能です。
• 各サイクルにおいてアンプリコンの量を正確に
測定することができるため、サンプル中の初期濃度を
非常に正確に定量することが可能です。
• 検出のダイナミックレンジが非常に広くなっています。
• 増幅と検出をシングルチューブで行うため、
PCR 後の操作は必要ありません。
や他の分子生物学技術における用途に用いられるようにな
りました。
ここ数年において、リアルタイム PCR は DNA または RNA
の検出および定量のための主要なツールとなってきました。
リアルタイム PCR では、DNA 量を各サイクルの後に、生成
この技術を使用することにより、6 ∼ 8 桁をカバーするダイ
される PCR 産物分子(アンプリコン)の数に正比例して蛍光
ナミックレンジにおいて、2 倍差以内の量比を正確かつ高精
シグナルを増加させる蛍光色素を用いて測定します。反応
度に検出することができます。
の指数関数的増幅期に収集されたデータから、増幅ターゲッ
図 1. 相対蛍光 vs. サイクル数:増幅プロットは、各サンプルからの蛍光シグナルをサイクル数に対してプロットすることにより作成されます。このため、
増幅プロットはリアルタイム PCR 実験を通した反応産物の蓄積を表します。ここに示すプロットを作成するために使用したサンプルは、ターゲット DNA
配列を段階希釈したものです。
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リアルタイム PCR の基礎
1.2 リアルタイム PCR の概要
このセクションでは、リアルタイム PCR 操作に関係するステッ
2-Step qRT-PCR
プ の 概要をご紹介します。リアルタイム PCR は、従来 の
2-Step 定量逆転写 PCR(qRT-PCR)は、はじめに逆転写酵素
PCR 技術のバリエーションの一つであり、一般にサンプル
中の DNA または RNA の定量に使用されます。配列特異的
なプライマーを使用して、特定の DNA または RNA 配列の
コピー数を決定します。 PCR サイクル中の各ステージにお
(RT)を使用した Total RNA または poly(A)+RNA の cDNA
いて生成される増幅産物の量を測定することにより、定量
きます。リアルタイム PCR アプリケーションにおいてすべ
することができます。特定の配列( DNA または RNA)がサ
てのターゲットが均一に存在し、かつオリゴ(dT)プライマー
への逆転写を行います。この最初の cDNA 鎖合成反応では、
ランダムプライマー、オリゴ( dT)または遺伝子特異的プラ
イマー( GSPs)のいずれかのプライマーを用いることがで
ンプル中に多く存在する場合には、早いサイクル数で増幅
の 3′
バイアスを避けるために、ランダムプライマーまたは
が確認されます。逆にサンプル中に含まれる目的の対象配
オリゴ(dT)とランダムプライマーの混合物を使用する研究
列が少ない場合には、増幅が確認できるサイクルが遅くな
者が多いです。
1
ります。増幅産物の定量は蛍光プローブまたは DNA 結合蛍
cDNA 合成を行う温度は選択した RT 酵素に依存します。続
いて、cDNA の約 10% を別のチューブに移し、リアルタイム
ます。
PCR 反応に使用します。
リアルタイム PCR のステップ
1-Step qRT-PCR
リアルタイム PCR 反応の各サイクルは 3 つの大きなステッ
1-Step qRT-PCR では、最初の cDNA 鎖合成反応とリアル
プで構成されます。反応サイクルは、一般的に 40 サイクル
タイム PCR を同一チューブ内において組み合わせることに
で実施します。
より、反応のセットアップを簡素化し、コンタミネーションの
1.2 リアルタイム PCR の概要
光色素と、PCR 反応に必要なサーマルサイクルを実行しな
がら蛍光を測定するリアルタイム PCR 装置を用いて行い
可能性を減少させます。 1-Step qRT-PCR では遺伝子特異
1.熱変性:高温でインキュベーションを行い、二本鎖 DNA
を一本鎖に「解離」し、DNA 鎖の二次構造をほぐします。
一般的には、DNA ポリメラーゼの耐性のある最高温度が
使用されます(通常 95˚C)。テンプレートの GC 含有量が
的プライマー(GSP)の使用が必須です。これは、オリゴ(dT)
またはランダムプライマーを使用すると 1-Step 反応におい
て目的以外の産物が生成し、目的とする産物の量が減少す
るためです。
多い場合には、変性時間を増加させることも可能です。
2.アニーリング:アニーリングステップにおいて、相補的な
配列が鋳型にハイブリダイズします。このため、算出し
たプライマーの融点( Tm)に基づいた適切な温度に設定
します。
3.伸長:70 ∼ 72˚C において DNA ポリメラーゼの活性は最
適であり、伸長は最高毎秒 100 塩基の速度で進行します。
リアルタイム PCR などの実験系においてアンプリコンが
小さい場合には、伸長ステップはしばしば 60˚C の温度を
使用してアニーリングステップと同時に実施します。
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リアルタイム PCR の基礎
1.3 リアルタイム PCR とその構成要素の概要
このセクションでは、リアルタイム PCR 実験における主要
1.3 リアルタイム PCR とその構成要素の概要
1
マグネシウム濃度
な反応構成要素 およびパラメータに関する概要をご紹介
通常リアルタイム PCR では、最終濃度が約 3mM の塩化マ
します。レポーター色素、パッシブリファレンス色素および
グネシウムまたは硫酸マグネシウムが使用されています。
ウラシル DNA グリコシラーゼ( UDG)など特定の構成要素
大部分のターゲットにはこの濃度が適していますが、最適な
に関する詳細は、このハンドブックの後半でご紹介します。
マグネシウム濃度は 3mM から 6mM の間にあります。
DNA ポリメラーゼ
適切な実験テクニック
PCR の性能は熱安定性 DNA ポリメラーゼと関連しているこ
とも多いため、酵素の選択が PCR の成功には極めて重要で
す。低温での Taq DNA ポリメラーゼの活性の有無は、PCR
適切な実験テクニックの重要性を過小評価してはなりません。
プで、専用の実験器具および溶液を使用することが最善です。
での増幅反応における特異性に影響を与える主要な要因の
フィルターチップおよびスクリュー式のキャップのチューブ
一つです。目的の温度よりも低い段階で、プライマーが非
を使用することにより、コンタミを低減することが可能です。
テンプレートの調製から PCR 後の解析に至る反応の各ステッ
特異的に DNA にアニールすると、ポリメラーゼによる非特
反復実験(理想的には 3 反復)において厳格なデータを得る
異的な産物が合成される可能性が生じます。
「ホットスタート」
ためには、サンプル以外のすべての反応成分を含むマスター
酵素を使用することにより、非特異的なミスプライミングに
ミックスを先ずは調製してください。マスターミックスを使
起因する非特異的産物の合成の問題を最小限に抑えること
用することにより、ピペッティングの回数が減り、その結果ウェ
が可能です。ホットスタート酵素を使用すると、反応系の準
ル間のコンタミおよび他のピペッティングエラーの可能性
備中および初期 DNA 変性ステップ中に DNA ポリメラーゼ
を低減させることが可能です。
は活性を示さなくなります。
テンプレート
逆転写酵素
各リアルタイム PCR 反応には、10 ∼ 1,000 コピーのテンプ
逆転写酵素(RT)は、DNA ポリメラーゼと同様にリアルタイ
レート核酸を使用してください。これは約 100pg ∼ 1μg の
ム PCR を 成 功 さ せ るた めに 極 め て 重 要 で す。 より長 い
ゲノム DNA あ るい は 1pg ∼ 100ng の Total RNA 由 来 の
cDNA を高収量で得られるだけでなく、高温においても良
好な活性を有する RT を選択することが重要となります。高
温における性能は、二次構造を有する RNA を変性させるの
に非常に重要です。 1-Step リアルタイム PCR においては、
高温でも活性を保持する RT により、高い融解温度( Tm)で
GSP を使用することが可能となり、特異性が増加し、かつバッ
cDNA に相当します。テンプレートが過剰に存在すると、テ
クグラウンドを低下することができます。
ンプレートに含まれる阻害物質がより高レベルで反応系に
含まれる可能性があるため、PCR の効率が著しく低下する
危険性があります。ゲノム DNA ではなくcDNA への PCR プ
ライマーの特異性を利用する場合には、ゲノム DNA のコン
タミネーションの可能性を低減するために、RNA テンプレー
トを処理することが重要になる可能性もあります。この場
合テンプレートを DNase I で処理することが一つの方法です。
dNTP
dNTP と熱安定 DNA ポリメラーゼは、同一メーカーのもの
超高純度でインタクトな RNA は、長くて高品質の cDNA 合
を使用するのが得策です。別々のメーカーからの試薬を使
成に必要不可欠であり、正確な mRNA 定量に重要であると
用した実験では 1 サイクル( Ct)感度が下がることも稀では
考えられます。 RNA は、RNase のコンタミがないことが必
ありません。
要で、RNase フリーの状態で保存することが必要です。一
般的に、リアルタイム PCR では Total RNA を使用して良好
な結果が得られます。 mRNA の単離により特定な cDNA の
収量を改善する可能性はありますが、通常 mRNA を単離す
る必要はありません。
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リアルタイム PCR の基礎
リアルタイム PCR プライマーデザイン
プライマーデザインソフトウェア
良好なプライマーをデザインすることはリアルタイム PCR
において最も重要なパラメータの一つです。多くの研究者
Primer Express® ソフトウェア等のプライマーデザイン用
のソフトウェアプログラム、および Vector NTI® Software の
が、リアルタイム PCR のプライマーおよびプローブとして、
ような配列解析ソフトウェアを用いると、自動的にターゲッ
実証されたアルゴリズムを使用してデザインされ、世界中
ト配列を評価し、上記の基準に基づいてプライマーをデザ
の研究者から信頼を得ている TaqMan® Assay 製品の購入
インする事ができます。
を選択している理由はここにあります。ご自身でリアルタイ
ム PCR プライマーをデザインされる際には、長鎖産物は
プライマーデザイン用のソフトウェアを使用することにより、
あまり効率的に増幅しないので、アンプリコンの長さが約
プライマーがターゲットの配列に特異的であること、および
50 ∼ 150 塩基対となるように PCR プライマーをデザインし
内部二次構造が存在しないことが、事前にデザイン上で確
てください。
認され、同一プライマー 内 およびプライマー 間における
末端での相補的ハイブリダイゼーションを回避することが
3′
一般的に、プライマーの長さは 18 ∼ 24 ヌクレオチドとする
できます。先に示したように、良好なプライマーをデザイ
必要があります。こうすることにより、実用的なアニーリン
ンすることは、特にアンプリコン検出に SYBR Green I のよ
グ温度が使用できます。プライマーはスタンダード PCR の
うな DNA 結合性色素を使用する場合には極めて重要です。
1
ガイドラインに沿ってデザインし、ターゲットの配列に特異
1.3 リアルタイム PCR とその構成要素の概要
的で、内部二次構造が存在しないことが必要です。プライ
マーには、ホモポリマー配列(例:poly(dG))または繰り返
しモチーフなど不適切なハイブリダイゼーションを起こす
可能性のある構造の使用を避ける必要があります。
プライマー ペアは Tm 値が近似しており( 2˚C 以内)、かつ
GC 含有率が約 50% であることが必要です。 GC 含有率の高
いプライマーは、安定した不完全ハイブリッドを形成する可
能性があります。反対に、AT 含有率が高いと、完璧にマッ
チしたハイブリッドの Tm が抑えられます。プライマー 間の
相補性およびハイブリダイゼーション(プライマーダイマー)
を避けるために、プライマーペアの配列を検証してください。
qRT-PCR 用には、イントロンの両側のエクソンにアニール
するプライマーをデザインし(あるいは mRNA のエクソン
とエクソンの境界をまたぐように設計して)、cDNA と混在し
ている可能性のあるゲノム DNA の増幅の確認をするため
に解離曲線解析によって識別できるようにしてください。プ
ライマーの特異性を確認するためには、公的データベース
に対する BLAST 検索を行い、ご使用になるプライマーがター
ゲットのみを認識することを確認してください。
最適な結果を得るためには、50 ∼ 900nM の濃度において
プライマーの条件検討が必要な場合もあります。ほとんど
の反応系においては各プライマーの最終濃度を 200nM に
するのが適切です。
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リアルタイム PCR の基礎
1.4 リアルタイム PCR 解析用語
本セクションではリアルタイム PCR において使用される主な用語の定義をご紹介します。
1
ベースライン
検量線
リアルタイム PCR におけるベースラインとは、蛍光シグナ
既知濃度のテンプレートの段階希釈物を使用して、実験試料
ルにほとんど変動がない、PCR の初期サイクル(通常 3 ∼
15 サイクル)におけるシグナルレベルのことを指します。こ
中のターゲットテンプレートの初期開始量を決定し、反応効
のベースラインの低シグナルは、反応のバックグラウンドあ
段階希釈物の各既知濃度の対数(x 軸)をその濃度における
るいは「ノイズ」と同一であるとみなすことができます(図 2)。
リアルタイム PCR におけるベースラインは、増幅曲線の手
Ct 値( y 軸)に対してプロットします。この検量線から、反応
の効率および様々な反応パラメータ(傾き、y 交点および相
率を評価するための検量線を作成することができます
(図 4)。
動解析または自動解析により、各反応毎に実験データを基
関係数など)を導き出すことができます。 検量線作成用に
に設定されます。下記に示すサイクル値(Ct)を正確に決定
選択する濃度は実験試料中において期待されるターゲット
するためには、ベースラインを注意深く設定することが必要
濃度の範囲をカバーすることが必要です。
です。ベースラインの決定には、初期サイクルに観察され
るバックグラウンドを排除するために十分なサイクル数を使
用することが必要ですが、増幅シグナルがバックグラウンド
1.4 リアルタイム PCR 解析用語
を超え始めるサイクルを含まないようにします。異なるリ
アルタイム PCR 反応または実験を比較する時には、ベース
ラインを各反応に関して同一の方法で設定することが必要
です(図 2)。
Threshold Line
リアルタイム PCR 反応の閾値(Threshold Line)は、算出し
たベースラインシグナルに対して、統計学的に有意な増加
が 見られるシグ ナ ルレベ ルとします(図 2)。 Threshold
Line は反応による増幅シグナルをバックグラウンドから識
別するために設定されます。通常、リアルタイム PCR 装置
のソフトウェアは、Threshold Line をベースライン蛍光値
の標準偏差の 10 倍の値に設定します。しかし、Threshold
Line は PCR の指数関数的増幅期のいずれの点においても
図 2.リアルタイム PCR のベースラインおよび Threshold Line
設定することが可能です。
C(
t Threshold Cycle)
Threshold Cycle(Ct)は、反応の蛍光シグナルが Threshold
Line と交差する時点のサイクル数です。 Ct 値はターゲット
の初期量に反比例するため、DNA の初期コピー数の算出に
使用することができます。例えば、異なる量のターゲットを
含むサンプルからのリアルタイム PCR 結果を比較する場合、
2 倍の初期量を含むサンプルは、増幅前に半分のコピー 数
のターゲットしか含まないサンプルよりも Ct 値が 1 サイクル
早くなります(図 3)。これは両方の反応において PCR 効率
が 100% である(すなわち、サイクル毎に産物量が正確に 2
倍に増加する)と仮定した場合の例です。
テンプレートの量が少ないほど、有意な増幅が見られるサ
イクル数の値は大きくなります。
図 3.10 倍の段階希釈試料の増幅プロット
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リアルタイム PCR の基礎
傾き
増幅反応の対数直線期の傾きは反応の効率の尺度となりま
す。正確で再現性のある結果を得るためには、反応の効率
は限りなく 100% に近く、すなわち傾きとして –3.32 に限り
なく近づくことが必要です(詳細は下記の効率の項を参照)。
効率
次の等式から、100% の PCR 効率は –3.32 の傾きに相当す
ることになります。
効率 = 10(–1/ 傾き)– 1
図 4.リアルタイム PCR データの検量線の例:検量線では、サイクル値(Ct)
を y 軸、RNA または DNA ターゲットの初期量を x 軸とします。傾き、y 軸
交点および相関係数の値から反応の性能に関する情報が得られます。
理想的には、PCR 反応の効率(E)は 100%、すなわち指数関
数的増幅期においてテンプレートがサイクル毎に 2 倍に増
1
幅します。このため実際の効率は反応に関する貴重な情報
を提供します。アンプリコンの長さ、二次構造および GC 含
影響を与える可能性のある因子には反応自体のダイナミッ
相関係数とは、データがどの程度検量線に合致しているか
クス、最適でない試薬濃度の使用および酵素の品質などが
を示す値です。 R2 値は検量線の直線性を反映しています。
含まれ、効率 を 90% 未満に低下 させる場合 も あります。
理想的には R 値は 1 となりますが、一般的にはおよそ 0.999
PCR 阻害物質がサンプルに含まれていると、効率が 110%
が最も良好な数値となります。
を超えることもあります。 良好な反応では効率は 90% ∼
2
1.4 リアルタイム PCR 解析用語
量などの実験因子は効率に影響を及ぼします。他に効率に
相関係数(R2)
100% となるはずで、傾きとしては –3.58 から –3.10 の間に
Y 軸交点
なります。
Y 軸交点は、反応の理論的検出限界、または x 軸で表したター
ゲット分子の最小コピー 数において、統計学的に有意な増
ダイナミックレンジ
幅が生じた場合に期待される Ct 値を表します。 PCR は理論
ダイナミックレンジとは、出発物質の濃度の上昇と増幅産物
的には単一コピーのターゲットを検出することが可能ですが、
の濃度の上昇が対応する範囲のことです。理想的には、リ
リアルタイム PCR 実験において確実に定量することが可能
アルタイム PCR のダイナミックレンジは、プラスミド DNA
なターゲットの最小コピー数は一般的に 2 ∼ 10 コピーです。
では 7 ∼ 8 桁、cDNA またはゲノム DNA では 3 ∼ 4 桁の範囲
このため、y 軸交点を感度として直接使用することはできま
です。
せんが、y 軸交点の値は異なる増幅システムおよびターゲッ
ト間の比較には有用となる可能性があります。
絶対定量
絶対定量とは、既知量の試料を段階希釈して増幅し、検量線
指数関数的増幅期
を作成するリアルタイム PCR を指します。検量線との比較
リアルタイム PCR の定量は、増幅の後期または反応がプラ
によって、未知の試料を定量します。
トーに達した時点ではなく、指数関数的増幅期の初期に行う
ことが重要です。指数関数的増幅期の初期においては、す
相対定量
べての試薬がまだ過剰に存在し、DNA ポリメラーゼが高活
相対定量とは、一つの試料中(例:処理済み)の標的遺伝子
性を保っており、増幅産物は低濃度であるためプライマー
の発現を、他の試料中(例:未処理)の同一遺伝子の発現と
のアニーリング能と競合することはありません。これらの
比較するリアルタイム PCR を指します。結果は、処理済み
要因すべてが、より正確なデータの取得に貢献します。
試料中の発現が未処理試料中の発現と比較して何倍変化し
たか(増加または減少)で表されます。このタイプの定量に
おいては、実験のばらつき補正のためのコントロールとして、
内在性コントロール遺伝子(βアクチンなど)を用います。
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リアルタイム PCR の基礎
解離曲線
A.
解離曲線(融解曲線)は反応温度の上昇に伴い色素が結合し
た二本鎖 DNA( dsDNA)が一本鎖 DNA( ssDNA)へ「解離」
する際に観察される蛍光の変化をグラフ化したものです。
例えば、SYBR® Green I 色素が結合した二本鎖 DNA を加熱
すると、融解点( Tm)に達した時点で、DNA 鎖の解離および
そ れに続く色素 の 放出により、急激 な 蛍光 の 減少が検出
されます。蛍光を温度に対してプロットし(図 5A)、続いて
– ∆F/∆T(蛍光変化/温度変化)を温度に対してプロットする
ことにより(図 5B)、二本鎖 DNA の解離の動態が明瞭となり
ます。
1
増幅後の解離曲線解析は、プライマーダイマー副産物等が
存在するかどうか PCR 産物を調べ、反応特異性を確認する
B.
ための、簡便で明瞭な方法です。核酸の Tm は、種々の要因
のうち、鎖の長さ、GC 含量および塩基のミスマッチにより
1.4 リアルタイム PCR 解析用語
影響されるため、多くの場合融解特性により、異なる PCR
産物を識別することが可能となります。解離曲線による反
応産物の特性化(例:プライマーダイマー vs. アンプリコン)
により、長時間を要するゲル電気泳動の必要性が低減します。
図 6 に示す典型的なリアルタイム PCR データセットは、これ
までご紹介した用語の多くを説明する良い例となります。
図 6A には典型的なリアルタイム PCR 増幅プロットが示して
あります。 PCR 反応の初期サイクルにおいては、蛍光にほ
とんど変化は観察されません。反応が進むにつれて、蛍光
レベルはサイクルごとに増加し始めます。Threshold はベー
スラインより上の、プロットの指数関数的増幅部分に設定さ
図 5.
(A)融解曲線および(B)– ∆F/∆T vs. 温度
れます。この Threshold を用いて、サイクル閾値、すなわ
ち各増幅反応の Ct 値が決定されます。既知量のターゲット
を含む一連の反応の Ct 値を使用して、検量線を作成するこ
とができます。定量は未知の試料の Ct 値をこの検量線と比
較することにより行われ、相対定量の場合には試料間での
比較を行い、検量線を反応効率のチェックのために使用しま
す。 Ct 値はテンプレートの初期量に反比例し、テンプレート
の初期量が多いほど反応の Ct 値は低くなります。
図 6B には、増幅プロットにおける Ct 値から作成した検量線
を示しています。検量線から増幅効率、反復の一貫性およ
び反応の理論的検出限界に関する重要な情報が得られます。
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リアルタイム PCR の基礎
A.
1
B.
1.4 リアルタイム PCR 解析用語
図 6.典型的なリアルタイム PCR データセット
(A )10 倍希釈段階試料のリアルタイム PCR 増幅プロット
(B)テンプレートのコピー数 vs. サイクル値を(Ct)示す検量線
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リアルタイム PCR の基礎
1.5 リアルタイム PCR 蛍光検出システム
リアルタイム蛍光 PCR ケミストリ
A.
B.
リアルタイム PCR には、多くの蛍光ケミストリが存在します
が、最も広く使用されているのは 5′
ヌクレアーゼアッセイで
あり、そ の 中でも最もポピュラー なアッセイは TaqMan®
Assay です。他の蛍光ケミストリでは、SYBR® Green 色素
ベースのアッセイなどがあります(図 7)。
1
ヌクレアーゼアッセイは、Taq DNA ポリメラーゼの持つ 5′
5′
ヌクレアーゼ活性から命名されました(図 8)。
ヌクレアーゼドメインは DNA 合成の下流に存在する、テン
5′
プレートに結合した DNA を分解することが可能です。 5′
ヌ
クレアーゼアッセイの第二の重要な要素は FRET と呼ばれ
る蛍光共鳴エネルギー移動現象です。 FRET において蛍光
図 7.リアルタイム PCR の蛍光ケミストリ
ヌクレアーゼアッセイ
(A)5′
(B)SYBR® Green アッセイ
1.5 リアルタイム PCR 蛍光検出システム
色素の発光は、近傍に存在するもう一つの色素、多くの場
合クエンチャーと呼ばれる色素により、大きく低減されます
(図 9)。
FRET は、緑色と赤色の 2 つの蛍光色素によって説明するこ
とができます。緑色の光は赤色の光より波長が短いため、
緑色の蛍光色素は赤色と比較してより高い蛍光発光エネル
ギーを有しています。赤色色素が緑色色素の近傍に存在す
る場合、緑色の色素の励起により緑色の蛍光発光エネルギー
図 8.代表的 Taq DNA ポリメラーゼ:彩色した球体はタンパクドメインを
表しています。
が赤色の色素に移動します。言い換えると、エネルギーが
高レベルから低レベルに移動します。結果として、緑色の
色素からのシグナルは抑制、または「消光」されます。しかし、
A.
B.
2 つの色素が近接していない場合には、FRET は起こらず、
緑色の色素は完全なシグナルを発します。
ヌクレアー
ターゲットの検出または定量のための典型的な 5′
ゼアッセイには、2 つの PCR プライマーと TaqMan® プロー
ブが含まれます(図 10)。
PCR の開始前においては、TaqMan® プローブは未変化で、
レポーターとクエンチャーが近接しているため FRET を生じ
ます(図 11)。このため、レポーターのシグナルは PCR 反
図 9.FRET 現象:
( A)FRET 現象は、緑色蛍光色素が赤色蛍光色素に近接している時に起
こります。
(B)FRET は 2 つの蛍光色素が近接していない場合には起こりません。
応の前の段階では消光されています。
PCR の過程において、プライマーとプローブがターゲット
にアニールします。 DNA ポリメラーゼがプライマーからプ
ヌクレアーゼアッセイの特異性
5′
ローブの上流まで伸長したとき、もしプローブが正しいター
アッセイの特異性とは、得られた結果においてアッセイがど
ゲットに結合していれば、ポリメラーゼの 5′
ヌクレアーゼ活
の程度ターゲットからのシグナルを含み、非ターゲットから
性によりプローブが切断され、レポーター 色素を含んだ断
のシグナルを排除しているかを示します。特異性は、間違
片が放出されます。一度切断が起きるとレポーターとクエ
いなくアッセイの最も重要な要素です。 5′
ヌクレアーゼアッ
ンチャーはもはやお互いに近接しなくなりますので、放出さ
セイの特異性をおびやかす最大の要因となるのが相同配列
れたレポーター分子は消光されません。
です。相同配列は、ターゲットと類似した配列を有する遺伝
子ですが目的とするターゲットではありません。相同配列
は同種間および関連種間において極めてよく見られます。
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リアルタイム PCR の基礎
図 10. TaqMan® プローブ:TaqMan® プローブは遺伝子特異的な配列を
有し、2 つの PCR プライマー 間のターゲットに結合するようにデザイン
末端にはターゲットの増幅をレポー
されています。TaqMan® プローブの 5′
トする蛍光色素である、
「レポーター」が結合しています。プローブの
末端にはレポーターからの蛍光を消光するクエンチャーが結合してい
3′
末端をブロックして熱安定性 DNA
ます。クエンチャーは、プローブの 3′
ポリメラーゼによる伸長を阻止する役目も果たしています。
図 11.溶液中の TaqMan® プローブ:R はレポーター色素を、Q はクエン
チャー分子を、橙色の線はオリゴヌクレオチドを示しています。
ヌクレアーゼアッセイには、プライマーセットおよびプロー
5′
ブという2 種類のツールを使用します。プライマーで最大限
TaqMan® プローブのタイプ
1
は特異性にほとんど効果を発揮しません。これとは対照的に、
の開発の初期の段階において、詳細な試験を行った結果、
TaqMan® MGB プローブはどこにミスマッチが入っても高い
特異性を確保することができます。 TaqMan® MGB プロー
TaqMan® プローブを切断させるために PCR プライマーよ
りも著しく高いアニーリング温度を必要とすることが判明し
ブはプライマーよりも強力な特異性に優れたツールです。
ました。このため、TaqMan® プローブはプライマーよりも
例えば、プライマー結合部位に 1、2 塩基のランダムミスマッ
マッチがあってもプローブ結合に対する影響が比較的小さ
の特異性を確保するためには、ターゲットと相同配列の間の
ミスマッチがプライマーの 3′
末端塩基に位置していることが
1.5 リアルタイム PCR 蛍光検出システム
必要です。ミスマッチが 3′
末端から離れた位置にある場合
TaqMan® プローブは、MGB および非 MGB の 2 つのタイプ
に分類することができます。初期の TaqMan® プローブは「非
MGB」に分類されます。これらのプローブでは、クエンチャー
として TAMRATM 色素を使用しています。リアルタイム PCR
長くなっています。このように長いプローブに 1 塩基のミス
チが存在していても、DNA ポリメラーゼが相同配列に結合
いため、切断される可能性が高くなります。しかし、真核生
したプライマーから効率よく伸長する可能性は非常に高い
物における遺伝子発現や一塩基多型等の高度な遺伝的複雑
です。ミスマッチプライマーから DNA ポリメラーゼが 1、2
性に関連する多くのアプリケーションにおいては、より高い
塩基伸長すると、相同配列に結合したプライマーが安定化
特異性が必要となります。
されます。その結果、相同配列に結合したプライマーは、目
的のターゲットに結合したプライマーと同等に安定して結合
そ の 後 TaqMan® プ ロ ー ブ 技 術 を 改 良 す ることに より
します。この時点では、もはや DNA ポリメラーゼが相同配
TaqMan® MGB プローブが生まれました。 TaqMan® MGB
プローブはその 3′
末端にマイナーグルーブ結合( MGB)分
列のコピーを合成し続けるのを防ぐことは不可能です。
子を有しています。プローブがターゲットに結合する部分
末端に
これとは対照的に、TaqMan® プローブ結合部位の 5′
の DNA に短いマイナーグルーブが形成され、MGB 分子が
おけるミスマッチは、3′
末端にクエンチャー色素が存在する
結合して Tm が上昇することにより、プローブの結合が強化
ため、DNA ポリメラーゼ反応により伸長および安定化され
されます。結果として、TaqMan® MGB プローブは、プライ
る可能性はありません。 TaqMan® MGB プローブの結合部
マーよりもかなり短くすることが可能です。 MGB の存在に
位にミスマッチが存在するとプローブの結合強度が低下す
より、TaqMan® MGB プローブは TaqMan® プローブよりも
るため、プローブは切断されずに遊離します。遊離したプロー
短 いにもかかわらず Tm が 高くなって います。この ため、
ブは消光された状態のままですので、PCR サイクルの最後
TaqMan® MGB プローブはより高い温度において、プライ
でデータを収集する時点においては、たとえ相同配列が増
マーよりも高い特異性をもってターゲットに結合することが
幅していても、得られるシグナルはターゲットから生成され
可能となっています。TaqMan® MGB プローブでは、プロー
たものであり相同配列に由来するものではありません。
ブが比較的短いため 1 塩基のミスマッチがより大きな影響
を与えます。この高い特異性のため、TaqMan® MGB プロー
相同配列に加えて、PCR においては、プライマーが DNA 試
ブは最も高度な遺伝子解析への使用が推奨されています。
料のランダムな部位に結合することにより生成する産物や、
時にはプライマー 同士が結合して生成するいわゆる「プラ
イマーダイマー」などの非特異的産物が生成する可能性も
あります。非特異的産物はターゲットと無関係であるため
TaqMan® プローブ結合部位がなく、このためリアルタイム
PCR データには影響しません。
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リアルタイム PCR の基礎
TaqMan® プローブシグナル生成
SYBR® Green 解離解析
TaqMan® プローブおよび TaqMan® MGB プローブのいず
れも、シグナル生成は同様のパターンを示します。 PCR の
初期のサイクルにおいては、低レベルの消光されたレポー
SYBR® Green 解 離 解 析 で は、SYBR® Green を 利 用した
PCR 後に PCR 産物を加熱して解離解析を行います。解離
解析は追加費用が必要なく、PCR 反応プレートを直接使用
ターシグナルのみが検出されます。この初期データはリア
することができるため、特異性評価において魅力ある選択
ルタイム PCR ソフトウェアにおいては自動的にゼロに差し
肢です。しかし解離解析は、サーマルプロトコル時間を延長
引かれ、
「ベースライン」と呼ばれます。もし試料にターゲッ
して行うため追加の解析時間が必要となり、主観的な面も
トが含まれていれば、十分な量の切断プローブが蓄積し、ベー
あり、分離能が制限されています。
スラインを超える増幅シグナルが現れます。増幅シグナル
が出現するポイントは、ターゲットの初期量に反比例してい
1.5 リアルタイム PCR 蛍光検出システム
1
ます。
SYBR® Green 解離解析は、ターゲットが一つの決まった遺
伝子配列であるならば一つの特定の融点(Tm)を有し、それ
を利用して試料中のターゲットを同定することが可能という
®
SYBR Green 色素
コンセプトに基づいています。非ターゲット産物の中にはター
SYBR® Green I 色素は、すべての二本鎖 DNA のマイナーグ
ルーブに結合する蛍光 DNA 結合色素です。 DNA に結合し
た SYBR® Green 色素が励起すると、非結合性の色素よりも
はるかに強い蛍光シグナルを発生します。 SYBR® Green 色
素を使用するアッセイは通常 2 種類の PCR プライマーを用
います。理想的な条件下では、SYBR® Green 色素アッセイ
は、TaqMan® プローブと同様の増幅パターンを示します。
PCR の初期のサイクルにおいては水平なベースラインが
ゲット産物とは著しく異なる Tm を持つものがあり、そのよう
な非ターゲットの増幅を検出することが可能です。
解離解析プロトコールは PCR サイクルの後に付け加えます。
解離反応が終りしだい、リアルタイム PCR ソフトウェアがデー
タを負の一次導関数としてプロットし、融解プロファイルを
ピークに転換します。
観察されます。試料中にターゲットが存在すると、ある時点
単一のターゲット分子を用いて増幅することで、ターゲット
で十分な量の PCR 産物が蓄積され、増幅シグナルが出現し
のピークを正確に同定することができます。 RNA およびゲ
ます。
ノム DNA などの多くの試料は高度な遺伝子複雑性をもつた
め、ターゲットの増幅を抑制し、時には融解ピークの形状を
SYBR® Green アッセイの特異性
変化させる可能性のある、非ターゲット増幅が起こる可能性
アッセイの特異性の確認は重要ですが、特異性による影響
を有しています。純粋なターゲットを同時に増幅すると、増
を受けやすいアッセイに関しては特に重要です。 SYBR®
幅後に Tm のピークおよび形状を特定のターゲットと関連付
®
Green アッセイにおいては TaqMan プローブの特異性を
けることができます。単独のピークのみが検出されるのが
利用することが不可能で、このため特異性がより大きな問
理想的です。ターゲットピークは、幅が狭く、対称的で、肩
題となります。SYBR® Green 色素はターゲットまたは非ター
やピークが割れるなどの異常が観察されないことが必要です。
ゲットのすべての増幅産物に結合し、そのシグナルがすべ
これらの異常がみられた場合、近似する Tm を有する複数の
て積算されて一つの増幅プロットが生成されます。 SYBR®
産物が存在する可能性が高く、これらの反応の特異性が強
Green 増幅プロットのパターンから特異性の評価をするこ
く疑われます。解離解析で異常がみられたウェルは解析対
とは不可能です。増幅がターゲット、非ターゲットまたはそ
象外にする必要があります。
れらの混合物からなる場合のいずれにおいても、プロットは
同じパターンを示します。 SYBR® Green アッセイにより増
SYBR® Green 解離解析は分離能が低く、Tm が近似するター
幅産物が生成しても、そのシグナルのほとんどがターゲット
ゲットと非ターゲット、例えば相同配列を識別することがで
由来であるかどうかは不明です。
きない可能性があります。このため、さらに根拠となる情
非ターゲットの増幅は試料ごとに大きく異なる可能性があ
ト由来のピークであると完全にみなすことはできません。
報がない場合には、1 つの幅の狭い対称的なピークをターゲッ
るため、すべての SYBR® Green 反応に関して少 なくとも
1 種類の特異性評価を行う必要があります。最も一般的には、
解離解析が評価に使用されています。
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リアルタイム PCR の基礎
解離解析データは、増幅が観察されたすべてのウェルにお
いてそれぞれ評価する必要があります。試料に純粋なター
ゲットピークに相当しないピークが存在する場合には、その
反応においてターゲットは検出されていないと判断します。
試料に単一のターゲットピークの Tm および形状とマッチす
るピークが含まれる場合には、その反応においてターゲット
が増幅された可能性があります。解離解析データは、それ
のみでは決定的要素とすることはできませんが、ターゲット
を含まない試料からのデータ、シーケンシング、またはゲル
電気泳動など他のデータと組み合わせることによって、特
異性の信頼度を高めることができます。
1
リアルタイム PCR 装置
様々な仕様のリアルタイム PCR 装置がありますが、全ての
装置に蛍光色素を励起する励起光源および蛍光発光を検出
する検出器およびサーマルサイクラーが搭載されています。
サーマルブロックには、StepOnePlus® システムに搭載され
1.5 リアルタイム PCR 蛍光検出システム
て いる固定型と、ViiATM 7 システムおよび QuantStudioTM
12K Flex システムに搭載されているようなユーザーが交換
可能なタイプがあります。48 ウェルプレート、96 ウェルプレー
ト、384 ウェルプレート、384 マイクロウェルカード、3072 ス
ルーホールプレートなど様々な PCR 反応フォーマットが使
用できるリアルタイム PCR 装置をご提供しています。又す
べてのリアルタイム PCR 装置にはデータ収集および解析用
のソフトウェアが搭載されています。
色素の識別
通常リアルタイム PCR 反応系には複数の色素が含まれてい
ます。例を挙げると、1 つ又は複数のリポーター色素、クエ
ンチャー色素、そして最も頻繁に使用されるパッシブリファ
レンス色素などです。同一ウェルに複数の蛍光が入っている
場合も、励起および発光フィルターの最適な組み合わせおよ
びマルチコンポーネント補正により、個別に測定することが
可能です。
マルチコンポーネント補正は反応中の各色素の蛍光強度を
測定する手法です。マルチコンポーネンティングは、検出
された蛍光シグナルの構成要素を分離、区別するアルゴリ
ズムです。このシステムを用いたソフトウエアにより、蛍光
色素のシグナルを正確に解析し、複数の蛍光色素の同時検
出が可能になり、又、トラブルシューティングに有用な情報
も得られます。
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リアルタイム PCR の基礎
1.6 解離曲線解析
解離曲線解析および検出システム
解離曲線解析とプライマーダイマー
解離曲線解析は、蛍光物質がアンプリコンに結合した状態を
プライマーダイマーは 2 本の PCR プライマー(同一プライ
保つリアルタイム PCR 検出系でのみ行うことができます。
マー同士及び異なるプライマー同士のいずれも)が、ターゲッ
®
1
®
TM
SYBR Green I 色素または SYBR GreenER 色素を使用
トの代わりにお互いに結合しあうことにより形成されます。
した増幅した反応系では温度解離曲線解析を行うことがで
プライマーダイマーの Tm 値はアンプリコンの Tm 値よりも低
きます。 TaqMan® プローブのように 2 重標識されたプロー
いため、解離曲線解析によりプライマーダイマーの存在を
ブは、PCR 中に蛍光物質を反応溶液中に放出することにより、
確認できます。テンプレートを含むサンプル中におけるプ
シグナルに非可逆的な変化を生じるため、解離曲線解析を
ライマーダイマーの存在は、PCR 効率を低下させ解析が不
行うことはできません。しかし、これらの方法は特異性の高
明瞭となるため、好ましくありません。プライマーダイマー
いので解離曲線解析ができないことは大きな問題とはなり
は、プライマーが十分に存在しテンプレートが存在しない状
ません。
態であるテンプレートなしの条件(NTC)で最も頻繁に形成
SYBR® Green I 色素および SYBR® GreenERTM 色素の蛍光
レベルはいずれも二本鎖 DNA に結合すると著しく上昇しま
す。二本鎖 DNA の解離をこの蛍光レベルでモニターすると、
DNA が一本鎖になり色素が DNA から遊離すると同時に蛍
ンプレートを含む反応中にもプライマーダイマーが存在す
1.6 解離曲線解析
されます。 NTC におけるプライマーダイマーの存在は、テ
光の低下が検出されます。
るということを意味します。 NTC にプライマーダイマーが
認められた場合には、プライマーのデザインを見直すこと
が必要です。 NTC の融解曲線解析により、プライマーダイ
マーと試薬組成に含まれるコンタミしている核酸による疑
似増幅を識別することが可能です。
解離曲線解析の重要性
リアルタイム PCR の特異性は使用するプライマーおよび反
解離曲線解析の方法
応条件によって決まります。非常に良好にデザインされた
解離曲線解析を行うために、サーマルサイクリングプロトコ
プライマーでもプライマーダイマーを形成したり非特異的
ル の 直後に融解プロファイ ルを組 むようにリア ルタイム
産物を増幅する可能性が常に存在します(図 12)。また、リ
PCR 装置をプログラムすることが可能です。増幅が完了し
アルタイム PCR を行う際には、RNA 試料がゲノム DNA を
た後に、増幅産物を加熱して完全な解離曲線データを回収
含み、その DNA が増幅される可能性も存在します。リアル
します(図 13)。 現在ほとんどのリアルタイム PCR 装置に
タイム PCR の特異性は融解曲線解析を用いて確認すること
おいて、解析パッケージにこの機能が組み込まれています。
が可能です。融解曲線解析を行うことができない場合には、
反応間の Ct 値の差が妥当なものであり、非特異的産物の存
在に起因するものではないことを確認するための追加検証
が必要です。
図 12.解離曲線解析により、解離曲線において増幅産物のピークの左側
に見られる追加ピークとして示される、プライマーダイマーなどの非特
異的産物の存在を検出することが可能です。
15
図 13.Applied Biosystems® 装置上での解離曲線サーマルプロファイ
ル設定の例を示しています(DNA 変性のために 94˚C まで急速に加熱し、
続いて 60˚C まで冷却しました)。
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リアルタイム PCR の基礎
1.7 パッシブレファレンス色素の使用
パッシブレファレンス色素はリアルタイム PCR において、レ
ポーター 色素の蛍光を標準化し PCR に起因しない蛍光の
変動を補正する目的で使用します。標準化は、反応液の組
成や容量の変化に起因するウェル間の変動を補正し、装置
のスキャン時の変動を補正するために必要です。ほとんど
のリアルタイム PCR 装置は ROXTM 色素をパッシブレファレ
ンス色素として使用していますが、その理由は、ROXTM 色素
がリアルタイム PCR 反応に影響を与えず、使用されるすべ
1
てのレポーター色素やクエンチャー色素の蛍光シグナルと
の識別が可能な蛍光シグナルを発生するためです。
パッシブレファレンス色素
1.7 パッシブレファレンス色素の使用
ROXTM 色素ベースのパッシブレファレンス色素は、Applied
Biosystems® 装置のように、ROXTM 色素の使用が可能な装
置において、リアルタイム PCR の蛍光レポーターシグナル
の標準化に使用されます。パッシブレファレンス色素を使用
すると、装置の解析パラメータの初期値を変えることなく
蛍光レポーターシグナルの標準化を効果的に行うことがで
きます。 TaqMan® リアルタイム PCR マスターミックスに含
まれるパッシブレファレンス色素は、以下の目的の内部標準
として使用されます。
• PCR に起因しない蛍光の変動の標準化
(例:ピペッティングエラー)
• 装置の「ノイズ」に由来する蛍光の変動の標準化
• 装置の励起と検出の変動の補正
• マルチプレックスリアルタイム PCR および
リアルタイム PCR のベースラインの安定化
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リアルタイム PCR の基礎
1.8 コンタミネーションの防止
従来の PCR と同様にリアルタイム PCR 反応も核酸のコン
UDG キャリーオーバーの作用機序
タミネーションの影響による偽陽性結果が得られる可能性
UDG によるキャリーオーバーの低減はリアルタイム PCR マ
があります。コンタミネーションの原因としては以下のよう
スターミックス中の dTTP を dUTP で置き換えることから始
な可能性があります。
まります。続いてリアルタイム PCR 反応ミックスを UDG で
処理すると、ウラシルを含むコンタミした PCR 産物は分解
1
• 試料間汚染
• 実験器具によるコンタミネーション
• 終了した PCR 反応からの増幅産物やプライマーの
キャリーオーバー汚染。これが PCR の偽陽性結果の
最大の原因であると考えられています。
トは変化しません。
スタンダードなプロトコールにおいては、PCR サーマルサ
イクル前に 50˚C で短時間インキュベートし、UDG 酵素がす
べてのコンタミした DNA 中のウラシル残基を分解します。
ウラシル DNA グリコシダーゼ(UDG)
1.8 コンタミネーションの防止
1.9 マルチプレックスリアルタイム PCR
されますが、天然型(チミン含有)ターゲット DNA テンプレー
ウラシル塩基の除去は DNA のフラグメンテーションを起こし、
ウラシル DNAグリコシダーゼ(UDG)は、終了した PCR 反応か
DNA が PCR のテンプレートとして使用されることを防止し
ら DNA の増幅を防止することにより、PCR 反応間の DNA キャ
ます。 UDG は PCR において 95˚C のステップにより不活化
リーオーバー汚染を減少または防止するために使用されます。
されます。 50˚C で不活化される熱不安定性型の酵素もご提
PCR 反応における UDG の使用は偽陽性を減少させ、リアル
タイム PCR の効率およびデータの信頼度を上昇させます。
供しており、1-Step リアルタイム PCR 反応ミックスに使用
することが可能です。
1.9 マルチプレックスリアルタイム PCR
マルチプレックス概要
す。マルチプレックスアッセイの構築を検討する場合には、
マルチプレックス PCR は、同一反応における 2 種類以上の
マルチプレックスの利点と、その検証を行うのに必要な検
遺伝子配列を増幅し特異的に検出する方法です。マルチプ
討がどの程度必要か熟考することが必要です。
レックス PCR を成功させるためには、ゲル電気泳動などの
エンドポイント検出法によって目的のすべての配列が検出
マルチプレックスの利点
されるのに十分な増幅産物が生成されなくてはなりません。
マルチプレックスの 3 つの利点である、スループットの増加(プ
マルチプレックス PCR は、定性的結果を得るために使用さ
レート当たりより多くの試料がアッセイ可能)、試料使用量
の減少および試薬使用量の減少によるメリットは、実験中の
れます。
ターゲット数によります。例えば、単一のターゲットアッセ
リアルタイム PCR マルチプレクックスは、定性または定量
イの定量的実験においては、ターゲットと内在性コントロー
的結果を得るために使用されます。リアルタイム PCR マル
ルとともにデュプレックスとしてランできることにより、スルー
チプレクックスを成功させるためには、目的の配列に関して
プットが増加し、試料および試薬の使用量を 2 倍減少させる
十分なシグナルが生成されなくてはなりません。
ことが可能です。しかし、2 個のターゲットアッセイが含ま
れる定量的実験の場合には、すべてのデータを得るために、
「プレックス」という表現は、多重項の表現に使用されます。
ターゲット 1 とノーマライザー、およびターゲット 2 とノーマ
シングルプレックスは単一の遺伝子配列を増幅するように
ライザーという 2 種類のデュプレックスが必要となります。
デザインされたアッセイです。デュプレックスは、2 個の遺
この場合、スループットは増加しますが、試料および試薬の
伝子配列を増幅するようにデザインされたアッセイです。
使用量の減少は 1.5 倍に抑えられます。これら 3 つの利点は、
最も一般的なマルチプレックスはデュプレックスであり、ター
実験に使用する遺伝子配列の数の関数として以下の式で表
ゲット遺伝子のアッセイを、対照または標準化遺伝子と同一
現されます。
のウェルで行われます。
改良倍数 =(遺伝子数)/(遺伝子数 – 1)
いくつかの市販のリアルタイム PCR キットがマルチプレッ
クス 用 にデ ザ インさ れ 検 証 さ れて い ます。 例 えば、
ターゲットと内在性コントロールとマルチプレックスするも
MicroSEQ E. coli O157:H7 Kit は、標的とするE.coli アッセ
う一つの利点は、ピペッティングのエラーを最小化できるこ
イを内在性陽性対照とともにマルチプレックスします。研究
とです。同一ウェルからのターゲットと内在性コントロール
に応用する際には、研究者自身がマルチプレックスするアッ
のデータは、同一の試料添加操作に由来しているため、ピペッ
セイを選択し、マルチプレックスの検証も行う必要がありま
ティングのエラーはターゲットおよびノーマライザーの結
®
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リアルタイム PCR の基礎
果に同等に影響していると考えられます。この利点を利用
(ROXTM 色素)が含まれています。青色のみを励起する装置
するためには、反復精度を計算する前にターゲットデータを
は、この ROXTM 色素をパッシブレファレンス色素として励起
同一ウェルの標準化データで標準化することが必要です。
させることができますが、青色励起は一般的に赤色色素を
シングルプレックス法により解析された(ウェルベースの標
レポーターとして使用するには十分ではありません。
準化なし)マルチプレックスデータと、マルチプレックス法
により行われた解析との比較により、シングルプレックスの
レポーター 色素はターゲット遺伝子や遺伝子産物の種類に
エラーにもよりますが、マルチプレックス精度の利点が極め
よって選択する必要はありませんが、適切な色素の選択を
て大きくなる可能性のあることが示されています。例えば、
行うことにより、マルチプレックスアッセイを簡素化するこ
シングルプレックスのエラーが最小である試料においては、
とが可能です。例えば、FAMTM 色素は、TaqMan® プローブ
マルチプレックス精度の利点も最小となります。
で 使 用 さ れる最 も 一 般 的 なレポ ー タ ー 色 素 で す。 Life
マルチプレックス精度の利点は、より高い精度を必要とする
として FAMTM 色素を選択し、内在性コントロール用のレポー
定量的実験においては特に重要となります。例えば、コピー
ターとして VIC® 色素を選択することをお勧めしております。
数変異の実験において、1 コピーの遺伝子から 2 コピーを識
この組み合わせにより、FAMTM 色素標識をした複数のターゲッ
別するのは 2 倍の変化であり、良好な精度が必要となります。
トと、内在性コントロール用の VIC® 色素の 2 種類の色素を
しかし、2 コピーから 3 コピーを識別するのはわずか 1.5 倍
組み合わせたマルチプレックスアッセイをすることが可能
Technologies 社では、ターゲットアッセイ用のレポーター
です。トリプレックスアッセイを行う場合には、3 番目の色素
として NEDTM 色素を FAMTM 色素および VIC® 色素とともに使
度を得るために推奨される一つの方法です。
用することができます。 NEDTM 色素を使用する場合には、
1.9 マルチプレックスリアルタイム PCR
の変化であり、さらに優れた精度が要求されます。マルチ
プレクシングは、このようなタイプの実験に必要とされる精
1
同一のウェルに TAMRATM 色素が存在しないようご注意くだ
マルチプレクシング用装置
さい。
マルチプレックスアッセイでは通常同一のウェルに複数の
色素が含まれています。リアルタイム PCR 装置は同一のウェ
マルチプレックス PCR におけるバイアス
ルに存在するこれらの異なる色素を正確に測定することが
マルチプレックス PCR での偏り(バイアス)は、マルチプレッ
できる必要があります。一方の色素のシグナルが他方の色
クスアッセイにおいて起こり得る好ましくない現象で、バイ
素のシグナルと比較して極めて高い場合においても、各色
アスがかかるとより多く存在する遺伝子が DNA ポリメラー
素に関して特異的に測定できることが必要です。
ゼによって偏って増幅され、存在量の少ない遺伝子の増幅
を抑制してしまいます。バイアスへの対処法はより多く存
マルチプレクシングに推奨されるケミストリ
在するターゲットへの PCR プライマー濃度を減少させるこ
リアルタイム PCR マルチプレクシングに最適な蛍光ケミス
とで、
「プライマーリミット」と呼ばれています。制限をかけ
トリは、マルチプレックスにおいて各遺伝子配列を検出する
たプライマー濃度は、少なくとも指数関数的に増幅し、且つ
ために、それぞれ異なった色素を使用することができるも
PCR 産物が蓄積し存在量の少ないターゲットの増幅を阻害
®
のです。ほとんどのマルチプレクシングは、TaqMan プロー
してしまう前にプライマーが枯渇する程度の濃度である必
ブベースのアッセイに代表される、多重色素、高特異性ケミ
要があります。
ストリを用いて行われています。
マルチプレックスアッセイをする場合には、PCR 反応におけ
RNA を含むマルチプレックスアッセイにおいては、一般的
に 1-Step RT-PCR よりも 2-Step RT-PCR が推奨されます。
1-StepRT-PCR では、逆転写と PCR に同濃度のプライマー
る各遺伝子や遺伝子産物の絶対 DNA 量または cDNA 量に
が必要となり、マルチプレクシングにおけるプライマー濃度
一般的な 3 つのシナリオを以下に示します。
基づいて、どの遺伝子がバイアスを起こす可能性があるか
を確認する必要があります。デュプレックスにおいて最も
の最適化が制限されます。 2-Step RT-PCR においては、逆
転写に影響を及ぼすことなく、マルチプレクシング用にプラ
デュプレックスシナリオ 1
イマー濃度の最適化を検討することが可能です。
これが最も一般的なシナリオです。より多く存在する遺伝
子または遺伝子産物がすべてのサンプルにおいて同一の場
マルチプレックス反応用色素の選択
合。プライマーリミットは、最も多く存在するターゲットに
マルチプレックスリアルタイム PCR を行う場合、検出する
対しての み 行うことが必要 です。 例えば、真核生物 の 総
各遺伝子には、それぞれ異なるレポーター色素を用いる事
ることが必要です。メーカーは各装置について推奨する色
RNA の 20% に相当する 18S rRNA が内在性コントロールで
あるとします。 18S rRNA 由来の cDNA はすべてのサンプ
ルにおいて、どの mRNA 由来の cDNA よりも多く存在しま
す。このため、18S rRNA アッセイのみプライマーリミット
素を紹介しています。 Applied Biosystems® リアルタイム
を行うことが必要です。
が必要です。選択したレポーター色素を同一のウェル内に
おいてリアルタイム PCR 装置によって励起し正確に検出す
PCR マスターミックスには赤色パッシブレファレンス色素
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リアルタイム PCR の基礎
デュプレックスシナリオ 2
マルチプレックスプライマー相互作用
2 つの遺伝子がすべてのサンプルにおいてほぼ同一量存在
する場合。一般的に、Threshold が同じであると仮定した場
合、2 つの遺伝子間の Ct の差が 3 以上ある場合は遺伝子量
は同等といえません。コピー数多型などのゲノム DNA 解析
の多くはこのシナリオにあてはまります。シナリオ 2 におい
ては 2 つの遺伝子がほぼ同時に指数関数的増幅ラインを示
マルチプレックスアッセイに関するもう一つの注意点は、異
すため、プライマーリミットは必要ありません。
なるアッセイ用プライマー 間におこる相互作用です。マル
チプレックス中のアッセイ数の増加によりプライマーペア
の数も増加するため、それぞれのプライマー同士の反応の
相互作用のリスクも増大します。例えば、4 つの PCR プラ
イマーを含むデュプレックスアッセイにおいては、6 つのプ
ライマーペアが生じる可能性があります。 6 つの PCR プラ
イマーでは、15 のプライマーペアが生じる可能性があります。
1
デュプレックスシナリオ 3
各アッセイは、シングルプレックスにおいては良好な性能を
このシナリオにおいては、いずれの遺伝子および遺伝子産
示しますが、マルチプレックスアッセイにおいてはプライマー
物も極めて多く存在する可能性があります。この場合いず
同士の相互作用が競合産物を生成し、増幅を抑制する可能
れのアッセイもプライマーリミットの必要があります。
性があります。プライマー同士の相互作用は、マルチプレッ
クスに使用されるアッセイが相同配列を含む場合に生じる
可能性があります。プライマー 相互作用が起こる場合は、
1.9 マルチプレックスリアルタイム PCR
1.10 内部標準およびレファレンス遺伝子
異なるアッセイをマルチプレックスに使用することがその対
処法となります。
1.10 内部標準およびレファレンス遺伝子
リアルタイム PCR は、遺伝子発現解析における最適な方法
です。リアルタイム PCR を使用し、特定の遺伝子について
ハウスキーピング遺伝子を使用した
相対遺伝子発現定量
正確で再現性の高い発現プロファイリングを獲得するため
相対遺伝子発現比較は、選択したハウスキーピング遺伝子
には、実験間の発現量の補正用に信頼性の高い内部標準遺
の発現量が一定である場合に最も良好に機能します。ハウ
伝子を使用することが極めて重要です。一般的にはハウス
スキーピングレファレンス遺伝子の選択は、Bio Techniques
キーピング遺伝子が利用されています。内部標準(あるい
29:332( 2000)および J Mol Endocrinol 25:169( 2000)な
は内在性コントロール)は、ターゲットとなる遺伝子とほぼ
どのいくつかの文献において精査されています。理想的には、
同等のレベルで発現している必要があります。内在性コン
選択されたハウスキーピング遺伝子の発現量を各細胞また
トロールをアクティブレファレンスとして使用することにより、
は組織に関して検証し、発現量がすべての実験において一
mRNA ターゲットの定量を各反応に添加された総 RNA 量
定であることを確認する必要があります。例えば、GAPDH
の差に応じて標準化することが可能です。内在性コントロー
発現は増殖している細胞中においては過剰気味に発現され
ルの種類にかかわらず、これらの遺伝子に関してはすべて
ていることが示されています。また 18S リボソーム RNA
の実験条件下において試験を行い、コントロール遺伝子の
(rRNA 種)が常に細胞性 mRNA 集団のすべてを表している
発現がすべての条件において一定であることを確認する必
とも限りません。
要があります。
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リアルタイム PCR の基礎
1.11 リアルタイム PCR 装置のキャリブレーション
どのようなリアルタイム PCR 装置においても、適性な性能
を維持するために、適切な時期に正確なキャリブレーション
これらの温度に関連した現象はすべて、励起および蛍光の
を実行することが極めて重要です。キャリブレーションにより、
光路において発生し、蛍光シグナルに変動を起こす原因と
データの完全性および一貫性が長期間にわたり維持されま
なる可能性があります。これらの変動の度合いは、試薬に
す。リアルタイム PCR 装置は、定期的なメンテナンスの一
溶解している空気の量やプレートがいかによくシールされ
環として、また新しい色素を初めて使用する前に、製造者か
ているかといった要因によって様 々に変化します。一般的
ら提供される取扱説明書に従ってキャリブレーションする必
にユニバーサルな変動はレポーターシグナルに明らかな歪
要があります。
みを引き起こすことはありませんが、反復の精度には影響
を与えます。パッシブレファレンス色素が存在する場合、パッ
励起/蛍光の補正
シブレファレンス色素はレポーターと同じ光路に存在するた
リアルタイム PCR 装置の光学系は大きく 2 つの種類に分類
め、レポーターをパッシブレファレンスに対して標準化する
されます。一つはハロゲンランプや LED などの励起光源、
ことによりこれらの変動は補正されます。
1
もう一つは CCD またはフォトダイオードのような蛍光検出
器です。製造者メーカーによりブロック内のウェル間の励
精度の向上
パッシブレファレンスによる標準化の補正効果は、リアルタ
イム PCR データの精度を向上させます。改善の度合いは、
装置の使用年数および使用回数の増加とともに増大する可
試薬やプレートの調製方法など、多くの因子により異なり
能性があります。プレート間の補正されていない励起/蛍
ます。
1.11 リアルタイム PCR 装置のキャリブレーション
起強度および蛍光感度に関した優れた均一性が得られてい
ますが、常にいくらかの変動は存在し得ます。この変動は、
光は Ct 値がシフトする原因となる可能性があります。しかし、
パッシブレファレンス色素を反応に使用している場合には、
特殊な光学的変動
これらの差はレポーターおよびパッシブレファレンスのシグ
特殊な光学的変動は、サーマルサイクルに関連した異常で、
ナルに同等の影響を与えるため、レポーターをパッシブレファ
レポーターシグナルに明らかな異常を引き起こしますが、
レンスに対して標準化することにより差が補正されます。
ラン中のすべての反応に普遍的ではありません。特殊な光
ユニバーサルな光学的変動
であり、
「光学的ワーピング」と呼ぶこともできます。光学
従来のプラスチック製 PCR プレートおよびチューブにおい
的ワーピングは、ウェルのシールが不十分な場合に、PCR
学的変動の一つの例は、プレートシールの大きな形状変化
ては、液体試薬がウェルの底部にあり、その液体の上に空隙
反応中に加熱された蓋からの熱と圧力によってシールが正
が存在し、プラスチックのシールがウェルを覆っていました。
しく装着されることにより起こります。 もう一 つ の 例 は、
この形状では温度に関連した様々な現象が発生します。
PCR 反応中に破裂する大きな気泡の発生です。
サイクル中において、温度は 95˚C に達します。そのような
増幅プロットにおける異常はベースラインに問題を引き起
高温においては、水分はウェルの空隙へと蒸発していきます。
こす可能性があり、Ct 値にも影響を及ぼす可能性があります。
この水蒸気あるいはスチームはチューブの低温壁上に凝結
パッシブレファレンス色素に対する標準化は光学的ワーピン
し、水滴として底部の試薬に戻っていきます。この「還流」
グに対する優れた補正を提供するため、補正された増幅プロッ
と呼ばれる過程は PCR 反応を通して継続します。
トには全く異常が見られない場合もあります。標準化は大
きな気泡の破裂に対する完全な補正は行いませんが、大き
次に、高温においては液体試薬中に溶解している空気の溶
な気泡の破裂に起因するデータの異常を最小限に抑えるこ
解度が低下し、小さな気泡が発生します。
とは可能です。
さらに、スチームの圧力がプラスチックのシールに力を及ぼ
し、PCR の間にシールの形状が少し変化します。
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実験デザイン
2
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実験デザイン
2.1 イントロダクション
23
2.2 リアルタイム PCR アッセイのタイプ
23
2.3 アンプリコンおよびプライマーデザインの留意事項
24
2.4 核酸の精製および定量
27
2.5 逆転写における留意事項
29
2.6 コントロール
31
2.7 標準化法
31
2.8 検量線による効率、感度および再現性の評価
33
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実験デザイン
2.1 イントロダクション
良好なリアルタイム PCR アッセイをデザインおよび開発す
を決定してください。このセクションにおいては、リアルタ
ることが、正確なデータを得る基礎となります。事前に計画
イム PCR のデザインおよび実施方法についてご紹介します。
を立てておくことにより、実験デザインを構築する過程で考
ここでは、変動の原因とそれらがデータの精度に及ぼす影響、
えられるすべての実験的変動に対処することができます。
および以下の項目に関する最適化のガイドラインをご紹介
していきます。
実験デザインの構築に着手する前に、アッセイの目的、特に
解き明かすべき生物学的論点が何であるかを明確に理解し
ておくことが必要です。例えば、特定の疾患状態における
遺伝子の相対的発現量を決定するためにデザインされた実
験は、同一の疾患状態からウイルスコピー 数を決定するた
めの実験とは全く異なります。実験の目的を確立した後に、
1.ターゲットアンプリコンおよびプライマーのデザイン
2.核酸の精製
3.逆転写
4.コントロールと標準化
5.検量線による効率、感度および再現性の評価
適切なリアルタイム PCR コントロールおよび最適化の方法
2.1 イントロダクション
2.2 リアルタイム PCR アッセイのタイプ
2
2.2 リアルタイム PCR アッセイのタイプ
遺伝子発現のプロファイリングは、リアルタイム PCR の一
ゲノム遺伝子プロファイリングアッセイにおいては、重複ま
般的な使用目的であり、試料間での遺伝子発現のパターン
たは欠失に関してゲノムを解析します。アッセイデザイン、
を同定するために、転写産物の相対量を評価します。遺伝
特に検量線を作成するかについては、相対的定量と絶対的
子発現実験においては、RNA の品質、逆転写の効率、リア
定量のいずれが必要であるかによって決まります。リアル
ルタイム PCR の効率、定量法およびノーマライザー遺伝子
タイム PCR の効率および 1 コピーの変異を識別するために
の選択が特に重要な役割を果たします。
必要な精度に焦点が当て、アッセイデザインを行います。
ウイルス価決定のためのアッセイは、デザインが複雑にな
最後に、アレル識別アッセイでは、変異を単一核酸レベルで
る場合もあります。ほとんどの研究では試料中のウイルス
検出することが可能です。上記の方法とは異なり、ゲノム
コピー数の定量を行うことが必要です。試料中のウイルス
の接合性を決定するためにエンドポイントの蛍光を測定しま
コピー数の定量は通常、既知のゲノム等価体または力価が
す。アレル特異的な交叉反応の頻度を低く抑えるために、
既知のコントロールウイルスを使用して作成した検量線と
プライマーおよびプローブのデザインが特に重要な役割を
比較することにより行い、正確な定量は検量線の作成に使
果たします。
用したコントロールの精度に依存します。ターゲットの性質
によっては、例えば RNA ウイルスまたは DNA ウイルスなど
では、逆転写およびリアルタイム PCR の効率も重要な役割
を果たします。ウイルスが機能的ウイルスであるかどうか、
または研究がウイルス全体を検出するものであるかどうか
によって、アッセイのデザインを行う際に影響があります。
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実験デザイン
2.3 アンプリコンおよびプライマーデザインの留意事項
ターゲットアンプリコンのサイズ、GC 含量、位置
および特異性
ターゲットの特異性はデータの精度に影響するもう一つの
このガイドの後半においてさらに詳しくご紹介しますが、反
ンする場合には、プライマーの結合部位がゲノム上の特異
応効率はリアルタイム PCR データの精度にとって最も重要
的な場所に設計されていることを確認してください。そう
重要な因子です。リアルタイム PCR のプライマーをデザイ
です。理論上は、PCR 反応中は各ターゲットがサイクル毎
することによって、プライマーにより試料ゲノム中の相同性
にコピーされ、ターゲットの全長分子が各サイクルで 2 倍に
の高い他の部位の配列が増幅される可能性を抑えられます。
増幅します。この 状態が 100% の 増幅効率に相当します。
プライマーデザイン用のソフトウェアプログラムはもととな
サーマルサイクルが進むにつれて、反応効率の変動は大き
るゲノムに対するターゲット配列のスクリーニング過程を自
くなります。このため、100% の増幅効率から外れることは、
動化し、相同領域をマスクすることによってこれらの位置に
誤ったデータにつながる可能性があります。
プライマーがデザインされないようにします。
反応効率の変動を最小限に抑える一つの方法としては、比
ゲノム DNA、偽遺伝子およびアレル変異
較的短いターゲットを増幅することです。 100 塩基対の領
RNA 試料中への DNA キャリーオーバーは、発現量の測定
域の増幅は、例えば 1,200 塩基対のターゲットの増幅よりも、
において問題となる可能性があります。ゲノム DNA が目的
1 サイクルにおける完全合成の確率が高くなると考えられ
のターゲット転写物とともに増幅されてデータが無効とな
ます。このため、リアルタイム PCR のターゲットの長さは
る可能性があります。ゲノム DNA のコンタミは、逆転写酵
一般的に 50 ∼ 150 塩基対となっています。さらに、短いア
素を含まないコントロール反応系(RT コントロール)を設定
ンプリコンはターゲットテンプレートの長さの変動の影響を
することにより検出できます。 RT コントロール由来の Ct が、
最も希釈されたターゲットから得られる Ct よりも高い場合
もターゲット配列が長い場合には、上流および下流プライマー
には、ゲノム DNA は増幅反応に影響していないことが示さ
は同一の DNA フラグメント中に相補的配列を見つける確率
れます。しかし、ゲノム DNA は dNTP やプライマーなどの
が低くなります。
反応成分と競合するため、反応効率を低下させる可能性が
2.3 アンプリコンおよびプライマーデザインの留意事項
あまり受けません。核酸サンプルが若干分解しており、しか
2
あります。
アンプリコンの GC 含量および二次構造は、不正確なデータ
につながるもう一つの原因となり得ます。 DNA ポリメラー
リアルタイム PCR においてゲノム DNA コンタミによる影響
ゼの反応が二次構造により阻害される場合、各サイクルに
を避けるための最良の方法は、ゲノム DNA に存在し mRNA
おけるターゲットの 増幅が不完全になりやすくなります。
には存在しないイントロンを利用する、周到に考慮されたプ
理想的には、プライマーは極端な GC を含まない、中程度
ライマー(またはプライマー・プローブ)をデザインすること
( 50%)の GC 含量の領域にアニールして増幅するようにデ
で す。 TaqMan® Gene Expression Assay は 可 能 な 限り、
ザインすることが必要です。 cDNA を増幅するためには、ア
ンプリコンを転写産物の 3′
末端付近に設計することが望まし
TaqMan® プローブをエクソン‐エクソンジャンクション上に
デザインしています。 SYBR® Green 色素ベースの検出用
いです。これらを配慮したアンプリコンは、RNA の二次構
プライマーセットに関しては、隣接するエクソン上にアニー
造により転写産物からの全長 cDNA の合成が阻害される場
ルするか、プライマーの一つをエクソン‐エクソンジャンクショ
合においても、その影響を受ける可能性を低くおさえられ
ンに上にデザインする必要があります。上流と下流の PCR
ます(図 14)。
プライマーが同一のエクソン内にアニールすると DNA およ
び RNA 由来のターゲットが共に増幅します。反対に、プラ
イマーが隣接するエクソン上にアニールすると、通常 cDNA
のみが増幅されます。その理由はゲノム DNA 由来のアン
プリコンがイントロン配列を含むため、リアルタイム PCR に
使用される条件下で効率的に増幅されるにはアンプリコン
が長くなりすぎるためです。
偽遺伝子、またはサイレント遺伝子は、プライマーをデザイ
ンする場合に考慮するべき転写変異です。これらの遺伝子は、
プロモーターまたは遺伝子自体における変異または再配列
により非機能的となった、現存遺伝子の発現誘導体です。プ
ライマーデザインソフトウェアプログラムは BLAST 検索を
図 14.高度な二次構造を有する RNA 分子
実行し、偽遺伝子およびその mRNA 産物を避けることが可
能です。
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アレルバリアントは同一の染色体座にある、2 つ以上の特徴
的な遺伝子型です。これらのバリアントからの転写産物間
には 1 つ以上の変異の違いがあります。プライマーデザイ
ンにおいてアレルバリアントを考慮する必要性があるかどう
かは、1 つ以上の変異がデザインする配列内に存在するかど
うかによって決まります。さらに、バリアント間の GC 含量の
差が増幅効率を変動させ、融解曲線に分離したピークが生
成する可能性もあり、非特異的な増幅と間違って判断され
る可能性もあります。プライマーデザインにおいては、交
互に接合したバリアントも考慮に入れる必要があります。
プライマーおよびプローブの特異性、
ダイマー形成および自己ヘアピン形成
プライマーダイマーは、フォワードプライマーとリバースプ
ライマーの間の相互作用により最も頻繁に生じますが、フォ
ワードプライマー同士またはリバースプライマー同士のア
図 15.AutoDimer からのスクリーン:このソフトウェアは、プライマー
配列を解析し、プライマー内において二次構造の存在の可能性がある領
域(プライマー自身の折り畳みを生じる可能性がある領域)またはプラ
イマーがお互いにアニールする可能性のある配列部分をレポートします。
ニーリング、または単一のプライマーがヘアピンを形成す
2
ることによっても起こり得ます。プライマーダイマーは、マ
ルチプレックスリアルタイム PCR のように、より複雑な反応
において大きな問題となります。ダイマー形成が互い違い
に起こることは実際頻繁に見られる現象ですが、その結果
ある程度の伸長が起こり、意図するアンプリコンのサイズ
2.3 アンプリコンおよびプライマーデザインの留意事項
に近づき、サイクルが進むにつれて増幅する産物が生成す
る可能性があります。一般的に、PCR 反応の開始時点のター
ゲットの量が少ないほど、プライマーダイマーの生成の可
能性は高くなります。しかし一般的に、プライマーダイマー
の生成は目的のプライマーとテンプレートとの相互作用よ
り起こりにくくなり、またこの現象を最小限に抑制または排
図 16.プライマーダイマー 形成を検討するためのアガロースゲル解析
サーマルサイクル反応に先立って、核酸試料を段階希釈して PCR ミック
ス成分に添加し、同一容量の各混合物をアガロースゲルにロードしました。
プライマーダイマーは、ゲルの底部に広がったバンドとして現れています。
除する方法が多数存在することは、この問題のポジティブな
プライマーダイマーに関する主な問題は、偽陽性結果を生
AutoDimer プログラム(米国国立標準技術研究所 の P.M.
Vallone 著)は、プライマーの全リストを同時に解析するこ
とが可能なバイオインフォマティクスのツールです(図 15)。
じる可能性があることです。この点は、SYBR® Green I 色
このソフトウェアは、特にマルチプレクシングにおいて有用
素などの DNA 結合色素を使用する反応においては特に問
です。プライマー配列のバイオインフォマティクス解析は、
題となります。もう一つの問題点は、プライマーダイマー
ダイマー生成のリスクを大きく低減させることが可能ですが、
生成に起因する反応の競合により、反応効率が好ましい範
ダイマー形成を実験的にモニターすることも必要です。
側面です。
囲である 90% ∼ 110% の範囲を超えてしまう可能性がある
ことです。最後の主な問題点である増幅反応のダイナミッ
プライマーダイマーをスクリーニングする従来の方法であ
クレンジの狭域化もまた反応効率に関連しており、反応の感
るゲル電気泳動法においては、プライマーダイマーは、ゲ
度に影響を及ぼす可能性があります。プライマーダイマー
ルの底部付近に、広がった不鮮明なバンドとしてあらわれま
自 身 から シ グ ナ ル が 発 生し て い な い 場 合 に お い て も
す(図 16)。ゲルによる検証の問題点の一つは、感度が高く
( TaqMan® Assay の場合のように)、効率およびダイナミッ
ないため結論が曖昧になる可能性があることです。しかし、
クレンジは影響を受ける可能性があります。
ゲル解析はプライマーダイマーの検出の最良の方法である
と考えられている、融解・熱解離曲線から得られたデータの
構築した PCR プライマーデザインを解析し、それらがダイ
検証に有用です。
マー 形成や自己ヘアピン形成を起こしやすいかどうかを決
定するいくつかの無料のソフトウェアをご利用になれます。
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実験デザイン
検 出 に DNA 結合色素 を 使用 するす べ て のリア ルタイム
一般的にはゲル電気泳動がリアルタイム PCR の特異性を確
PCR では、ランに続いて融解または熱解離曲線を作成する
必要があります。装置によりDNA が二本鎖で蛍光が高い状
態である低温度から、DNA の変性により蛍光が低くなる高
温 度 へと温 度 を 上昇 さ せ ます。 PCR 中 に 生 成 さ れる各
PCR 産物の Tm において、蛍光の急激な低下が観察されます。
テンプレートを含まないコントロール( NTC)において得ら
認するための初めのステップになります。ゲル電気泳動は
ターゲットアンプリコンと異なるサイズの産物を同定するた
めには有用ですが、近い大きさのアンプリコンは識別できず、
その感度は制限されています。融解曲線解析は、その精度
および感度から、プライマーの特異性をゲル電気泳動を用
いて評価した確認結果が非常に信頼できるか判断できます。
れる融解曲線のピークとターゲットから得られるピークと比
較することにより、プライマーダイマーが反応中に存在する
非特異的増幅は、できるかぎり常に排除することが望ましい
かどうかが確認できます。
ですが、このような二次産物の存在が常に大きな問題とは
理想的には、テンプレートを含む各反応に単一の特徴的な
たは GC 含量の異なる複数のアレルをあえてターゲットとす
ピークが観察され、NTC においてピークは観察されないこ
る場合には、複数の産物の生成が予想されます。
ならない場合もあります。例えば、異なるアイソフォームま
とが望ましいです。期待されるアンプリコンよりも低い Tm
値にある、より小さく幅の広いピークで、NTC 反応におい
プライマーデザインの留意事項
ても観察されるピークは、ほとんどの場合プライマーダイマー
リアルタイム PCR 用のプライマーのデザインに関する留意
に由来するものです。さらに、反応産物のゲル電気泳動に
事項を以下に示します。 Vector NTI® Software の配列解析
より、融解ピークに相当する反応産物のサイズを検証するこ
ソフトウェアなどのプライマーデザインソフトウェアプログ
とも可能です。
ラムは、弊社のオンライン注文システムに直結しています
ので、配列をカット・アンド・ペーストする必要も一切ありま
プライマーダイマーが存在していても、リアルタイム PCR
2
せん。これらのプログラムは、以下のガイドラインを組み
込んだアルゴリズムを使用して、特定の遺伝子またはターゲッ
ト配列用のプライマーを自動的にデザインし、さらに既知の
トロールには存在し、テンプレート DNA を含む反応には現
配列、相同配列に関するゲノム全体の BLAST 検索も行うこ
れない場合が多く観察されます。テンプレートが存在しな
とが可能です。
2.3 アンプリコンおよびプライマーデザインの留意事項
アッセイ全体としての精度には影響を与えない場合もあり
ます。プライマーダイマーがテンプレートを含まないコン
ければプライマー同士が相互作用する確率がより高くなる
ことから、この現象は当然のことです。テンプレートが存在
すると、プライマーダイマーの形成は起こりにくくなります。
NTC において観察されるピークがテンプレートを含む反応
の融解曲線に現れない限り、プライマーダイマーは問題と
なりません。
プライマーダイマーは、プライマーが不完全マッチの予期
しない位置にアニールすることにより生成するアンプリコン
を含む、広い意味での非特異的 PCR 産物の一部であるとい
• 通常、18 ∼ 28 のヌクレオチド長のプライマーを
デザインする。
• 繰り返し塩基配列を避ける。
• ミスマッチ配列が安定してハイブリするのを
防ぐために、50% の GC 含量を目標とする。
• Tm 値が近い(お互いに 2˚C 以内)プライマーを
選択する。
• アッセイに使用するすべてのプライマー間および
各プライマー内の配列的相補性を避ける。
えます。非特異的産物の増幅が問題となるのは、それらが
蛍光に影響を与え、結果として反応の Ct を擬似的にシフトさ
せるためです。非特異的産物は反応成分への競合により反
応効率に影響を与え、その結果ダイナミックレンジおよびデー
タの精度を低下させます。非特異的産物は、正確なコピー
数を求める絶対定量アッセイにおいてはさらに大きな問題
となります。
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実験デザイン
2.4 核酸の精製および定量
リアルタイム PCR における核酸精製法
最後に、有機溶解とシリカカラムを組み合わせた方法は、試
核酸の精製を行う前に、サンプルの種類(細胞または組織)
料溶解に優れ、かつシリカ結合法の簡便性と、速度および純
および適切な精製方法の選択について考察することが必要
度を同時に利用することができます。
です。 DNA および RNA 分離法により、簡便性や、有機溶媒
の必要の有無、および回収した核酸の純度( DNA( RNA 精
RNA の品質の評価
製の場合)、タンパク質、有機溶媒の残存)が異なります。
このセクションでは、主として RNA 分離についてご紹介しま
RNA の品質と量の評価においては、配慮すべき重要点がい
くつかあります。 A260 /A280 比が 1.8 から 2.0 の間であることを
確認してください。比が 1.8 以下である場合にはタンパク質
すが、ガイドラインのほとんどは DNA の分離にも当てはま
の汚染が示唆され、反応効率を低下させる可能性があります。
ります。
A260 /A230 比は、カオトロピック塩であるグアニジンイソチオシ
アナートおよびフェノールなど、酵素反応を阻害する、フェ
1-Step の試薬ベースの有機抽出法は、RNA を様々な種類
2
ノール環を有する成分の残存の評価に有用です。 RNA の
の細胞および組織から精製するのに非常に効果的な方法で
分解度を、変性ゲル上または Agilent Bioanalyzer などの装
す。多くのプロトコルでは、核酸を RNase の作用から保護し、
置上で評価してください(図 17)。
核酸の完全性を維持しながら細胞を破壊して細胞成分を溶
解するために、フェノールとグアニジンイソチオシアネート
の混合物を使用します。通常、そこにクロロホルムを添加し、
遠心分離によって混合物を水相と有機相に分離します。グ
アニジンイソチオシアネートの存在下では RNA は水相に存
在し、DNA およびタンパク質は有機相および中間相に移動
2.4 核酸の精製および定量
します。その後 RNA をイソプロパノール沈殿により水相か
ら回収します。
この方法は比較的迅速であり、高収量で RNA を得ることが
可能ですが、毒性のある化学薬品を使用することが必要で、
他の方法と比較してより高く DNA が残存する可能性があり
ます。残留するグアニジン、フェノールまたはアルコールが
cDNA 合成効率を著しく低下させる可能性もあります。
ほとんどのシリカビーズまたはフィルターベースの方法では、
RNA を内在性の RNase の作用から保護するカオトロピック
図 17.RNA の分解度を示す、Agilent Bioanalyzerトレースおよびゲル
イメージ:2 つの蛍光ピークは 18S および 28S の rRNA バンドに相当しま
す。分解していない哺乳類の total RNA は、18S および 28S の rRNA を
表す 2 本のバンドまたはピークを示します。一般的に、28S rRNA の輝度
は 18S rRNA の 2 倍です(あるいは Agilent Bioanalyzerトレースにおけ
るピーク下面積が 2 倍です)。
塩であるグアニジンイソチオシアネートの存在下で試料の
溶 解 お よ び 均 質 化 を 行 い ま す( Biochemistry 18:5294
( 1979))。均質化の後、試料にエタノールを添加して RNA
Agilent Bioanalyzer では、RNA の品質決定をさらに進化さ
をシリカベースのビーズまたはフィルターに結合させ、不
せて、RIN( RNA integrity number)値を算出します。 RIN
純物を洗浄によって効率よく除去します( Proc Natl Acad
値は、分解産物も含めた全体のトレースから算出され、通常
Sci USA 76:615(1979))。精製した Total RNA は水で溶出
rRNA ピークのみを評価するよりも優れています。
します。
異なる組織由来の RNA に関して RIN 値を比較することによ
この方法は有機溶媒抽出法よりもさらに迅速で、フェノール
り、品質の標準化および一貫性の維持が可能となります。
を必要としません。 RNA の収量は溶媒抽出ほど高くありま
せんが、タンパク質、脂質、多糖類、DNA および精製試薬に
関する純度は通常有機溶媒抽出よりも良好です。洗浄が不
完全だとグアニジンおよびエタノールが残存し、cDNA 合成
効率にともに悪影響を与える可能性があります。
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実験デザイン
定量の精度
溶液中での DNase 反応は、従来 65˚C における DNase の加
RNA の定量のためには、より高い感度、精度および高スルー
プットを実現するようにデザインされた、RiboGreen® 色素
および PicoGreen® 色素などの蛍光色素を用いる方法が、
UV 吸収法よりも優れています。 UV 吸収測定法では核酸と
熱不活化を必要とします。反応に必要なマグネシウムが、こ
遊離のヌクレオチドを識別することが不可能です。実際、遊
の温度においてはマグネシウム依存性の RNA 加水分解を
引き起こす可能性が あります。 DNA-free TM キットおよび
TURBO DNA-free TM キットは、新規の DNase 不活性化試薬
を使用してこれらの問題を回避します。 DNase 酵素を反応
離のヌクレオチドは 260nm において核酸よりも吸収が高く
から除去するのに加えて、不活性化試薬は二価の陽イオン
なります。 同様に、UV 吸収測定法では同一試料において
に結合し反応緩衝液から除去します。このため反応効率に
RNA と DNA を識別することはできません。さらに精製した
影響を与える可能性のある二価の陽イオンを RT-PCR 反応
核酸に含まれることの 多 い 夾雑物は UV 吸収を示します。
に使用することへの恐れを抑えることができます。
最後に、UV 吸光光度計は測定のためにかなりの量の試料を
消費します。蛍光色素に関しては幅広い種類の色素が入手
可能ですので、核酸を遊離のヌクレオチドから識別するこ
とが可能な色素、同一試料において DNA を RNA から識別
することが可能な色素 および一般的な夾雑物に感受性 の
な い 色素 など、前述 のすべての 欠点を克服することので
きる試薬を選択することが可能です。 Qubit® Quantitation
2
Platform は、DNA、RNA またはタンパク質に結合すると蛍
光性になる最先端の蛍光色素を用いる、Quant-iTTM 蛍光技
術を使用しています。 Quant-iTTM Assay Kit は研究対象の
分子(夾雑物を含まない)の濃度のみを測定できるため、特
異性が高く、UV 吸収測定よりも正確な結果が得られます。
しかも、一般的に蛍光色素を使用する定量法は非常に感度
2.4 核酸の精製および定量
が高く、少量の試料しか必要としません。
遺伝子発現研究におけるゲノム DNA の残存
前項において、プライマーデザインが、リアルタイム PCR
反応において残存 DNA 由来の増幅を排除するための第一
歩であるということをご紹介しました。 RNA の精製段階に
おける試料の DNase 処理は DNA をもとからコントロール
することを可能とする方法です。従来の DNase I 酵素に加
えて、Life Technologies では、触媒的に野生型 DNase I よ
りも優 れた、高活性 TURBOTM DNase を提供しています。
TURBOTM DNase は、RT-PCR の 障 害とな るごく少 量 の
DNA も除去することが可能です。 DNase 処理は、精製方法
に応じて、溶液中でもカラム上でも行うことができます。カ
ラム上での DNase 処理にはシリカマトリックス抽出を使用
するのが一般的で、塩洗浄が酵素自身を除去するため、溶
液中の処理とは異なり、EDTA の存在下で加熱による不活
化を行う必要はありません。欠点としては、カラム上での
反応にはより大量の酵素が必要となります。
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実験デザイン
2.5 逆転写における留意事項
逆転写酵素
リアルタイム PCR に使用される逆転写酵素の大部分は、トリ
骨髄芽球症ウイルス(AMV)またはモロニーマウス白血病ウ
イルス(M-MLV)由来です。天然の AMV 逆転写酵素は一般
的に M-MLV よりも熱安定性ですが収量は低くなります。し
かし、天然型 の 酵素を改変することにより、リアルタイム
• ハイスループットのサンプルスクリーニング̶ 理由は
先述したとおりです。
• 感度̶1-Step 反応においては生成した cDNA が
すべてリアルタイム PCR 増幅に利用されるため、
2-Step 反応と比較してより感度が高くなる
可能性があります。
PCR にとって理想的な性質を有する変異体が得られます。
理想的な逆転写酵素には以下のような性質が備わっています。
• 熱安定性̶前述したように、二次構造は反応の感度に
大きな影響を与えます。天然型の RT の性能に
理想的な温度は 42˚C から 50˚C の間ですが、
熱安定型の RT はこの温度範囲の高温域(あるいは
それ以上の温度)において機能し、GC 含量の
2.5 逆転写における留意事項
2
高い領域の逆転写も可能となります。
• RNase H 活性̶ RNase Hドメインは通常の天然型
逆転写酵素に存在し、in vivo で次の複製段階のために
RNA-DNA ヘテロ二量体の RNA を解離するために
機能します。リアルタイム PCR においては、RNase H
活性により収量および完全長の cDNA の割合が大きく
1-Step qRT-PCR には以下のような欠点があります。
• プライマーダイマーの生成可能性の増加 ̶1-Step
反応の初期から存在するフォワードおよびリバースの
遺伝子特異的プライマーは、逆転写条件である
42˚C ∼ 50˚C の温度範囲でダイマーを形成する
可能性がより高くなります。これは、DNA 結合色素を
検出に使用する際には特に問題となります。
• cDNA を他のリアルタイム PCR 反応に使用することが
不可能̶1-Step 反応では、RT ステップからの
cDNA がすべて使用されます。このため、
反応に失敗するとすべての試料が失われてしまいます。
低下する可能性があり、感度の低下につながります。
2-Step qRT-PCR においては、逆転写は逆転写用に最適化
RNase H 活性を低下させた RT がいくつか
開発されており、中でも SuperScript® II および III が
されたバッファー 中で行われます。 逆転写が完了すると、
最も優れています。
各リアルタイム PCR 反応に移行できます。
1-Step qRT-PCR および
2-Step qRT-PCR
約 10% の cDNA を PCR 用に最適化されたバッファー中での
2-Step qRT-PCR の利点を以下に示します。
点を評価する必要があります。
• cDNA を保存してさらにリアルタイム PCR 反応を
行うことが可能です̶ 2-Step qRT-PCR では
複数回の qRT-PCR 反応に十分な量の
cDNA を合成しますので、レアな試料または
1-Step 反応においては、逆転写の間は逆転写酵素と熱安定
• 感度 ̶2-Step 反応においては、RT と PCR 反応は
1-Step qRT-PCR を選択するか 2-Step qRT-PCR を選択す
るかは、簡便性、感度およびアッセイデザインにより左右さ
れます。各実験に関して、それぞれの方法の利点および欠
量の限られた試料には最適です。
性 DNA ポリメラーゼの両方が存在し、高温の DNA ポリメラー
それぞれ個別に最適化されたバッファー中で
ゼ活性化段階(いわゆるホットスタート)において RT が不活
行われるため、1-Step 反応と比較してより感度が
性化されます。通常、RT には DNA ポリメラーゼにとって最
高くなる可能性があります。
適ではないバッファーが適しています。このため、1-Step
反応のバッファーは両方の酵素に関して、許容可能ではあ
るけれど最適とはいえない機能性を供給する、妥協的なソ
• 複数のターゲット̶ 使用する RT プライマーによっては、
単一の RNA 試料から複数のターゲットの解析を
行うことが可能です。
リューションとなっています。この機能性のわずかな低下は、
単一チューブ内ですべての cDNA 産物が PCR 段階で増幅
2-Step qRT-PCR には以下のような欠点があります。
されるという利点により補われます。
1-Step qRT-PCR の利点を以下に示します。
• コンタミネーションの防止̶ 単独チューブ内で
連続して反応するので、RT 段階と PCR 段階の間での
汚染物質のコンタミ防止されます。
• RT 酵素およびバッファーがリアルタイム PCR を
阻害する可能性があります̶ 通常リアルタイム PCR
反応に cDNA 合成反応液を 10%程度使用しますが、
これは適正に希釈を行わないと、RT および関連する
バッファー成分が DNA ポリメラーゼを阻害する
可能性があるためです。
• 簡便性̶ピペッテイングステップ数が減少し、
ハンズオン時間が最小限に抑えられます。
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実験デザイン
• 簡便性が低い ̶2-Step 反応にはより多くの操作が
ります。しかし、リアルタイム PCR プライマーがターゲット
必要であり、ハイスループットアプリケーションへの
の 3′
末端近傍にデザインされている限り、この位置の下流
適応性がより低くなります。
における早期伸長停止は通常重大な問題とはなりません。
• コンタミネーションの危険性̶各ステップに異なる
チューブを使用するため、コンタミネーションの
弊社ではいくつかの種類のオリゴ(dT)プライマーをご提供
危険度が増します。
しています。 Oligo
(dT)
20 は、チミジン 20 量体の均一混合物
であり、Oligo( dT)12-18 は、チミジン 12 量体とチミジン
RNA プライミング法
応には遺伝子種、オリゴ( dT)またはランダムプライマーが
18 量体の混合物です。アンカー付きオリゴ(dT)プライマー
は、3′
UTR/poly(A)ジャンクションでアニールすることにより、
poly( A)スリップを回避するようにデザインされています。
熱安定性の高い RT では、短いプライマーと比較して高温で
使用可能で(図 18)、プライマーの選択が RT 効率および一
より堅固にアニールした状態を保持する、長いプライマー
貫性、そしてその結果としてデータの精度に大きな影響を
のほうが性能が高くなる可能性もあります。標準化に 18S
逆転写はリアルタイム PCR 反応の中で最も可変的な部分
であるのではないかと考えられています。 cDNA の合成反
与えます。
rRNA を使用する場合には、オリゴ( dT)プライマーは推奨
しません。
ランダムプライマーは多くの cDNA の合成に適しており、リ
アルタイム PCR において最高の感度を提供することが可能
配列特異的プライマーは、最高の特異性を示し、RT 用プラ
です。ランダムプライマーはまた、細菌性 RNA などの非ア
イマーの中では最も一貫性のあることが示されています。
デニル化 RNA においても理想的です。ランダムプライマー
しかし、配列特異的プライマーはオリゴ( dT)プライマーや
はターゲット分子全体にアニー ルするため、分解した転写
ランダムプライマーのような柔軟性を得ることはできず、ター
産物や二次構造が存在していても遺伝子特異的プライマー
ゲット遺伝子産物の cDNA コピーのみが合成されます。こ
やオリゴ(dT)プライマーの場合ほど大きな問題にはなりま
のため配列特異的プライマーは、少量または貴重な試料を
せん。
取り扱う研究においては一般的に最良の選択肢ではありま
2
2.5 逆転写における留意事項
せん。 1-Step qRT-PCR 反応においては cDNA 合成には常
収量の向上は望ましいことですが、ランダムプライマーで
に配列特異的プライマーを使用しますが、2-Step 反応にお
はコピー 数を過大評価してしまう可能性があることがデー
いては他のプライマーを用います。
タから示されています。ランダムプライマーとオリゴ( dT)
プライマーの組み合わせを利用することで、同一の RT 反応
各プライマーはそれぞれ特徴的な理論的長所と欠点を有し
において両者の長所を組み合わせることにより、データの
ています。さらに各ターゲットは異なるプライマーに対し
品質を向上させることが可能な場合もあります。ランダム
て異なった反応を示す可能性があります。理想的には、初
プライマーは 2-Step リアルタイム PCR においてのみ使用
期のアッセイ評価段階において各プライマーを評価し、ど
されます。
のプライマーで最適な感度と精度を得られるかを決定する
ことが必要です。
オリゴ( dT)プライマーは、その mRNA への特異性および
同一の cDNA プールから多くの異なるターゲットを解析す
逆転写の効率に影響を与える因子
ることが可能であることから、2-Step 反応に多用されてい
リアルタイム PCR において、RT ステージは PCR ステージ
ます。しかし、オリゴ( dT)プライマーは常に転写物の 3′
末
よりも一貫性が低くなっています。これは、テンプレート
端から逆転写を開始するため、強固な二次構造が存在する
RNA に関連した要因の組み合わせによるもので、熱安定性
DNA ポリメラーゼに関しては通常この組み合わせによる試
と不完全 な cDNA の 合成につ な がる可能性 が あります。
FFPE 試料から単離された RNA などの、フラグメント化した
RNA のオリゴ(dT)プライミングも問題を生じる可能性があ
験は行われていません。これらの要因として以下のものが
挙げられます。
RNA 分解度の相違:特定の RNA 試料の分解量は、cDNA に
変換されて定量される mRNA ターゲットの割合に直接影響
します。使用する RT プライマーによっては、分解の影響に
より、RT による完全長のターゲットアンプリコンの cDNA の
生成が阻害される可能性があります。 RT 効率が低いほど
PCR アッセイの感度は低くなります。標準化されていない
効率の変動は不正確な結果につながる可能性があります。
図 18.一般的に使用される RNA プライミング法の図解
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実験デザイン
GC 含量、RNA 試料の複雑性および使用する RT 酵素:RNA
発現量の比較においては、RT が試料間のさけられない差に
感受性が低いほど精度は高くなります。例えば、RT プライ
グアニジンは RNA を効率的に抽出するために必要ですが、
マーに適合しないすべてのバックグラウンドの核酸による
汚染物質の量の差は、試料間の比較に影響を与える可能性
試料の複雑性だけでも、10 倍におよぶ反応効率の差をもた
があります。このため、これらの夾雑物の量が一貫して低く
有機溶媒およびカオトロピック塩の残存:エタノールおよび
酵素反応を強く阻害します。 RNA 試料間におけるこれらの
らし得ることがデータによって示されています。このような
なるような RNA 精製方法を使用することが重要です。弊社
バックグラウンドにおいても一貫した cDNA 合成が可能な
ではリアルタイム PCR 反応において、検証済みのノーマラ
RT が理想的です。
イザー遺伝子を使用することも推奨しています。
2.6 コントロール
リアルタイム PCR 反応におけるコントロールでは、実験試
PCR 反応産物のコンタミネーションに由来するものです。
料から得られたシグナルが研究対象のアンプリコンである
このタイプの汚染があると、発現量は実際よりも高く観察
ことを証明する特異性の検証を行います。すべての実験に
されます。
はテンプレートを含まないコントロール( NTC)を設定する
2
必要があり、qRT-PCR においては逆転写酵素を含まないコ
No-RT 反応は逆転写酵素以外のすべての反応成分を含ん
ントロール(no-RT)を設定することが必要です。
でいる必要があります。 no-RT コントロールにおいて増幅
産物が観察された場合には、cDNA ではなくゲノム DNA が
NTC には、DNA または cDNA 試料以外のすべての反応成分
増幅されたことが示唆されます。この増幅によっても、実験
が含まれていることが必要です。これらのウェルにおいて
試料の見かけの発現量が実際よりも高く観察されます。
2.5 逆転写における留意事項
2.6 コントロール
2.7 標準化法
検出される増幅 は、プライマ ーダイマ ーまたは 混合した
2.7 標準化法
これまで本ガイドにおいて、実験の不整合性を排除すること
量のわずかな差が RT 反応に影響を及ぼし、増幅効率を低下
がリアルタイム PCR 実験のデザインにおいて極めて重要で
させる可能性があります。 試料中に存在する変動要因は
あることをご紹介してきました。実験計画から逸脱してしま
PCR 反応によってすべて増幅されます。このため試料中の
うと、データの比較が制限され、偏差を考慮に入れずに解析
生物学的条件とは無関係に、大幅な変化が生じる可能性が
を行うと誤った結論につながる可能性もあります。実験上
あります。ピペッティングも手技による変動要因の一つとな
の変動要因は、テンプレートの品質および量、RNA 精製方法、
り、精製後の RNA 解析によって標準化することはできません。
逆転写そして勿論リアルタイム PCR の増幅も含まれます。
本質的には、標準化とはこれらの原因に由来する変動の影
コントロール遺伝子での標準化:ノーマライザー遺伝子(コ
響を中和する方法です。リアルタイム PCR の各段階におい
ントロール遺伝子または内在性コントロールとも称されます)
て、それぞれ個別の標準化法が存在しますが、効果はそれ
の使用は、リアルタイム PCR における変動のほとんどすべ
ぞれ異なります。これらの方法として以下の方法が挙げら
ての原因に対処する最も完全な方法です。しかし、この方
れる。
法では、比較されるすべての試料中にこの遺伝子が一定量
存在していることが必要です。効果的なノーマライザー遺
試料の量の標準化:同量の試料、例えば組織または細胞を
伝子は、RNA の品質と量、および RT とリアルタイム PCR 両
使用して RNA または DNA 精製を行うことにより、変動を最
者における増幅効率の差を標準化します。もし 2 つの異な
小限に抑えることは可能ですが、大まかにしかできず、RNA
る試料において、ターゲットの逆転写または DNA ポリメラー
精製のバイアスには対処できません。
ゼによる増幅が異なる速度で進行した場合には、ノーマラ
イザーの転写がこれらの変動を反映します。ノーマライザー
RNA または DNA の量の標準化:RNA 試料または DNA 試料
の正確な定量および品質の評価は必要ですが、RT およびリ
アルタイム PCR 反応の効率の差の調整にはならないため、
遺伝子には“ハウスキーピング”遺伝子などの内在性のコン
トロール遺伝子または外在性の核酸ターゲットが使用でき
ます。
唯一の標準化法としては不十分です。例えば、阻害物質の
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実験デザイン
内在性コントロール
リアルタイム PCR における一般的な内在性ノーマライザー
遺伝子は以下の通りです。
:細胞骨格遺伝子
• β- アクチン(ACTB)
:リボソームサブユニット
• 18S リボソーム RNA(rRNA)
:セリン・トレオニン
• シクロフィリン A(CYC)
フォスファターゼ阻害剤
:
• グリセルアルデヒドリン酸デヒドロゲナーゼ(GAPDH)
解糖系
:主要組織適合性
• β-2- マイクログロブリン(B2M)
複合体
:リソソーム中の
• β- グルクロニダーゼ(GUS)
エキソグリコシダーゼ
:
• ヒポキサンチンリボシルトランスフェラーゼ(HPRT)
プリン再利用経路
:RNA 転写
• TATA-Box 結合タンパク質(TBP)
図 19.一般的に使用される内在性コントロールの遺伝子発現量と、標準
化の重要性:この例では、2 つの処理群と 1 つの正常群に関して、内部陽
性コントロール( IPC)とともに増幅した一般的なコントロール遺伝子の
発現量を解析しました。IPC は正常な反応間の変動の標準値をしめします。
∆Ct が 0 である正常試料と比較した、各処理群におけるノーマライザーの
発現レベルの変動を棒グラフで表しています。目的は、IPC が示す変化
と同様の変化を示すノーマライザーを見つけることです。
すべてのリアルタイム PCR 実験はそれぞれ異なるため、熟
慮と綿密な計画のもとノーマライザーを選択することが必
処理により発現レベルが下がっているように見えるため、こ
要です。他の研究室で何が使用されているかに基づいてノー
れらの処理群に関しては良好なノーマライザーの選択肢で
マライザーを選択するのではなく、選択したターゲットの定
はないことが明らかです。最も一般的なコントロール遺伝
量法に最もよく適応するノーマライザーを選択してください。
子の発現量でも、一定の条件下では変化することがありま
2
2.7 標準化法
すので、常に検証を行うことが必要です。
品質が高いノーマライザーの第一条件は、存在量がターゲッ
トの遺伝子産物と同等であることです。マルチプレクシング
• GAPDH は多くの例において一貫性を示す一般的な
においては特に重要で、ターゲットが Ct に到達する前にノー
ノーマライザーです。しかし、いくつかの癌細胞、
マライザーがプラトーに達してしまうと、ターゲットの Ct 値
腫瘍抑制因子で処理した細胞、低酸素状態および
が高くなりノーマライザーの意味がなくなります。一方で、
マグネシウムまたはインスリン処理した試料においては、
ノーマライザーの反応を発現量が低い反応系にあわせるた
めにプライマーリミットの条件を構築することが可能です。
過剰発現されることが知られています。
• β- アクチンは、ほとんどの細胞型において比較的
ほとんどの TaqMan® Endogenous Control Assay は、プラ
十分な発現量を示すため、一般的に使用されている
イマーリミット用の形態で入手することが可能です。
もう一つのハウスキーピング遺伝子です。しかし
その一貫性は、乳房上皮細胞、割球、ブタ組織および
ノーマライザーターゲット用のリアルタイム PCR アッセイは、
実験ターゲット用のアッセイと同様の増幅効率を有すること
イヌ心筋など多くの条件下で疑問視されています。
• 18S rRNA は細胞の総 RNA の 85% ∼ 90% を占め、
が必要ですが、この点は検量線を使用して評価することが
その量はラット肝臓、ヒト皮膚線維芽細胞およびヒトと
できます。効率の異なる反応を比較する場合には補正する
マウスの悪性細胞株において非常に一貫性があります。
ことも可能ですが、反応効率がお互いに近似している方が
しかし、中程度または低い発現量のターゲットの
精度が向上します。
標準化には、その存在量が問題となります。
最後に最も重要な点として、ノーマライザーの発現は試料
の処理法または疾患状態にかかわらず一定であることが必
18S rRNA で十分なレンジのベースラインが得られ、
かつ研究対象のターゲットが 40 サイクル以内に Ct に
達するような RNA 濃度を見つけることは多くの場合
要です。この点は図 19 に示すように、実験的に決定する必
困難です。さらに、マルチプレックス反応においては、
要があります。
ノーマライザーが研究対象ターゲットの PCR 効率を
低下させないように、18S 用プライマーの濃度を
複数の反復実験をくりかえすことで正確な結果であること
制限することが必要になります。
が保証されますが、シクロフィリン、TBP および HPRT は、
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実験デザイン
単一のコントロール遺伝子の精度に依存せず、複数の検証
外来性ノーマライザーの例としては、光合成遺伝子など植
済みノーマライザーの幾何学的平均値を利用する代替法も
物機能に特異的遺伝子の、in vitro 転写 RNA が使用されるこ
存在します。複数の安定したノーマライザーを使用するこ
とがあります。哺乳類細胞にはこれと同じ転写物が存在し
の方法は、あらゆる単一遺伝子の Ct 変動をより効果的に和
ないため、このノーマライザーは哺乳類の試料に添加する
らげ、利用できるアッセイおよび試料タイプの範囲を広げ
ことが可能です。
る可能性があります。
外来性ノーマライザーの問題点を以下に示します。
外来性ノーマライザー
外来性ノーマライザーの使用はあまり一般的ではありませ
んが、特定の試料セットに対して一貫性の高い内在性ノーマ
例えば細胞溶解バッファー中に添加することにより、
ライザーが見つけられない場合に使用可能な代替法となり
外来性ノーマライザーを最大限に活用することが
ます。外来性コントロール遺伝子は、実験試料中に含まれ
できます。
ない配列を有する、合成 RNA またはin vitro 転写 RNA です。
外来性であるため、異なる条件または処理において細胞内
に生じる可能性のある生物学的変動の影響は受けません。
外来性ノーマライザーを使用する場合、実験ワークフロー
2
• 内在性ではありません。ワークフローの初期、
• ノーマライザーを添加する際、ピペッティングの
精度が結果に影響を及ぼします。
• 転写物の安定性は、長期保存および凍結・融解の
繰り返しにより影響を受ける可能性があります。
のより早い段階において添加すると、より多くのステップに
このため、コピー数を定期的に評価し、時間経過と
おけるばらつきを標準化することが可能です。例えば、外
ともにコピー数が変化していないことを確認する
来性の転写物を細胞溶解バッファーに添加すると、細胞溶解、
必要があります。
RNA 精製およびそれに続くRT および PCR 反応用のノーマ
2.7 標準化法
2.8 検量線による効率、感度および再現性の評価
ライザーとして使用することができます。
2.8 検量線による効率、感度および再現性の評価
実験デザインの最終段階は、ここまで検討してきたパラメー
タが、効率、感度および再現性の高い実験につながってい
ることを検証することです。
PCR の増幅効率はリアルタイム PCR において最も一貫性
のある因子です。しかし、この増幅は RT 効率における変動
を指数関数的に拡大し、誤った結果をもたらす可能性があり
ます。 100% の効率とはサイクル毎にテンプレートが完全に
反応効率
前述したとおり、リアルタイム PCR の全体としての効率は
RT 反応および PCR 増幅反応それぞれの効率に依存してい
ます。
2 倍に増幅することに相当しますが、アッセイ検証における
許容範囲は 90% ∼ 110% と言われています。この効率の範
囲は、検量線の傾きでは –3.6 から –3.1 に相当します。図 20
のグラフでは、反応効率に依存した測定バイアスが示され
ています。
RT の効率は cDNA に逆転写されたターゲット RNA の割合
により評価されます。低い逆転写率は感度に影響を与えま
比較するすべてのターゲット(例:コントロール遺伝子およ
すが、試料間の逆転写率のばらつきのほうがより大きな問
び実験対象の遺伝子)に関する反応効率を検証し、得られた
題となります。
効率ができる限り同等になるように最適化し、データ解析時
に補正することにより、効率の差を低減することが可能です。
この方法はデータ解析の項でさらに詳しくご紹介します。
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実験デザイン
図 20.異なる増幅効率により生じるバイアス効果:70% ∼ 100% の効率
を示す 4 つの異なるリアルタイム PCR。初期においては、差は必ずしも
明らかではありません。しかし、30 サイクル後には、70% の効率の反応
と 100% の効率の反応の間でコピー数に 100 倍の差が生じています。効
率の差はサイクル数の多い反応およびより高い感度を必要とするアッセ
イにおいてより重要となります。
図 21.リアルタイム PCR の効率を評価するための検量線の例
反応効率は検量線を作成することによって最も適正に評価
実験条件を評価し、相対定量結果に PCR 効率を考慮するこ
できます。検量線は、核酸の段階希釈試料を調製し、リアル
とに加えて、特定の反応に関する問題が阻害によるもので
タイム PCR を行うことにより作成します。核酸量を X 軸、Ct
あるかあるいは最適化の不足によるものであるかを同定す
を Y 軸として結果をプロットします。検量線の作成に使用し
るために検量線を使用することも可能です。この点に関し
た試料は実験に使用する試料と(できる限り)類似している
ては、このハンドブックのトラブルシューティングの項でよ
ことが必要です(例:同じトータル RNA または DNA 試料)。
り詳しくご紹介します。
2
希釈範囲または検量線のダイナミックレンジは実験試料に
感度および再現性
検量線の傾きを使用して反応効率を算出しますが、反応効
効率が最適な 90% ∼ 110% にある検量線により、リアルタ
率の適正値としては、90% ∼ 110% が一般的です。
イム PCR において測定可能なテンプレートのインプット量
以下に示す例(図 21)では、3 つの異なるターゲットについ
トにおいていかに早く現れるかによって決定される場合も
て検量線を作成しています。赤色と青色の検量線が平行で
あります。しかし、感度は本来、いかに少ないテンプレート
2.8 検量線による効率、感度および再現性の評価
おいて予測される濃度範囲をカバーする必要があります。
の範囲を決定します。感度は、ターゲットの Ct が増幅プロッ
あることから、これらの効率は同等ですべての希釈段階に
が最適な増幅効率を維持した状態で検量線にフィットするか
おいて正確に比較することが可能であることが示唆されて
どうかで評価されるべきです。検量線にフィットする最も低
います。このタイプの比較の例としては、ノーマライザー
い試料濃度から反応の感度を決定します。
遺伝子をターゲット遺伝子と比較して、試料間の実験誤差を
補正する場合が挙げられます。しかし、紫色のケースは低
検量線には反復の再現性の基準となる、R2 値が付随します。
濃度において効率が低下しており、低濃度において比較対
検量線を複数回繰り返し作成し、一貫性およびそれに伴う試
照として使用することは不可能です。
料のデータ精度が維持されているかどうかを評価すること
が可能です。
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プレートの準備
3
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プレートの準備
3.1 混合
37
3.2 プレートローディング
37
3.3 プレートシーリング
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3.4 プレート挿入
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3
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プレートの準備
3.1 混合
リアルタイム PCR 反応液を調製する直前に、すべての試薬
いと正確な測定を行えない可能性があります。チューブを
を十分に混合し、スピンダウンすることを推奨します。酵素
緩やかに数回反転させたり、1 ∼ 2 秒間ボルテックスしたり
を含むマスターミックスを緩やかに攪拌し、PCR プライマー
することが効率の良い混合方法です。しかし、ボルテックス
ペアまたは TaqMan® Assay および融解した核酸試料など
を過剰に行うと、気泡が発生して蛍光検出が妨害されたり、
を短時間( 1 ∼ 2 秒間)ボルテックスします。リアルタイム
酵素活性が低下し増幅効率が低下する可能性があります。
PCR マスターミックスは一般的に他の成分よりも粘度が高
常に短時間の遠心を行って、反応液を容器の底部に集め、
いため、十分に混合することが重要です。混合が十分でな
気泡を取り除くことが必要です。
3.2 プレートローディング
3.1 混合
3.2 プレートローディング
3.3 プレートシーリング
3
反応プレートおよびチューブへの試薬の添加順序は、実験
は、RNA 試料を先に入れてアッセイミックスを後から添加
の性質に基づいて決定します。 例えば、20 種類 の 異なる
するほうが容易です。試薬の添加順序にかかわらず、試料
RNA 試料において 5 個の遺伝子の発現を解析する場合には、
とアッセイのクロスコンタミを避けるためにピペッティング
先ずアッセイミックスを反応プレートまたはチューブに入れ、
操作の実施計画を立ててください。核酸は親水性であり、アッ
そこに試料を添加するのが適切です。一方、5 種類だけの
セイマスターミックスとすばやく混合しますので、核酸を添
RNA 試料において 20 個の遺伝子の発現を解析する場合に
加した後反応液を混合する必要はありません。
3.3 プレートシーリング
プラスチック製の PCR プレートは、光透過性のキャップ、ま
プレートをシールしたら、持ち上げて底部を観察し、予期せ
たは光透過性のカバー(片面に接着剤の付いた薄いプラス
ぬ空のウェル、ウェルの壁に接着した液滴およびウェル底部
チック製のシート)でシールします。光透過性カバーの接着
に気泡などが存在しないことを確認してください。空のウェ
面は白い裏紙で保護されています。カバーの端には、ミシ
ルまたは明らかに液量の異なるウェルが無いか注意してく
ン目で線引きした長方形のタブが付いています。カバーの
ださい。ウェルの内壁に付着した液滴および底部の気泡など
取り扱いにはこれらのタブを使用し、カバー自体には触れ
があるときは短時間遠心分離してください。
ないようにしてください。白い裏紙をはがしてカバーをプレー
トの上の隆起した縁の内側に置いてください。正方形のプ
バーコードを付けたプレートを用いることも可能です。プレー
ラスチック装着ツールがカバーに付属しています。ツール
トの上面には書き込みをしないでください。蛍光の励起お
でカバーを擦り、特にプレート上部の四隅に沿ってカバーを
よびリードの妨げとなる可能性があります。また、インクが
貼り付けてください。白の裏紙をミシン目からはがす際に、
リアルタイム PCR 装置に付着する可能性がありますので、
装着ツールの端でカバーの端を押さえ、カバーが引き上げ
プレートの底面にも書き込みはしないでください。着色物
られないようにします。プレートの上部を観察し、特に四隅
質または蛍光物質によるブロックの重度の汚染は、リアルタ
に沿ってカバーがプレートにきちんと接触していることを確
イム PCR データに悪影響を及ぼす可能性があります。
認してください。
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プレートの準備
3.4 プレート挿入
プレートの準備が整ったら、メーカーの説明書に従ってプレー
に適合することを確認してください。96 ウェルのスタンダー
トをリア ル タイム PCR 装 置 に 設 置しま す。 DNA また は
ドブロックと 96 ウェルの Fast ブロックは同一ではないこと
cDNA テンプレートおよび AmpliTaq Gold® 試薬を含むプレー
に留意してください。スタンダードの 96 ウェルおよびスタ
トは、室温で非常に安定です。これらのプレートは通常の実
ンダードチューブの容量は 0.2mL ですが、Fast 96 ウェルプ
験室の照明下、室温で数日間、問題なく保存することが可能
レートおよび Fast チューブの容量は 0.1mL です。Fast モー
です。混合物中の蛍光色素が劣化する可能性がありますの
ドを使用しない場合においても、Fast ブロックにおいては
で、反応液を入れたプレートには直射日光が当たらないよう
Fast プレートを使用することが必要です。
にしてください。プレートを屋外に移動する必要がある場
合には、プレートをアルミ箔で覆い、日光が当たらないよう
ローディング方法は装置のモデルによって異なります。い
にしてください。
くつかの装置は引き出しシステムを搭載しており、引き出し
を手前に引いてブロックまたはホルダーにプレートを設置し、
交換可能なサーマルサイクリングブロックを搭載した装置
引き出しを押し戻します。いくつかの装置においては、コン
を使用される場合は、ブロックが挿入するプレートのタイプ
ピュータ制御されたアーム上にプレートを設置します。
3
3.4 プレート挿入
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データ解析
4
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データ解析
4.1 イントロダクション
41
4.2 絶対定量
41
4.3 比較定量
43
4.4 高分解能融解曲線(HRM)解析
45
4.5 マルチプレックスリアルタイム PCR 解析
47
4
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データ解析
4.1 イントロダクション
実験デザインのセクションの冒頭でご紹介したように、適正
な定量法は実験の目的によって異なります。
• 比較定量法においても綿密な実験計画が必要ですが、
得られるデータは正確なコピー数ではなく
サンプル間の相対値になります。遺伝子発現研究には
• 絶対定量法によって、ターゲットの実際のコピー数が
決定されますが、絶対定量法は最も煩雑で困難な
この方法がよく利用されています。比較定量法には、
∆∆Ct 法と検量線法の 2 種類があります。
定量方法です。この方法には周到な計画と高度に
正確な検量線作成が必要です。絶対定量は
ウイルス価の決定に多く使用されます。
4.2 絶対定量
絶対定量法は、研究対象であるターゲットの実際のコピー
検量線の作成 ̶ テンプレートの選択
数を決定することが必要な研究者にとっては最適なリアル
先述したように、絶対定量のための検量線作成にどのような
タイム PCR 解析法です。絶対定量を行うためには、濃度既
テンプレートを使用するかにより、データの正確さが決定さ
知のターゲットテンプレートから数桁の希釈系列を作成し、
れます。検量線作成用テンプレート中のコピー数の確認には、
リアルタイム PCR によって増幅させ、各ターゲット濃度を
均一で純度の高い状態のものを利用されると思いますが、
PCR 結果の Ct 値に対してプロットすることにより検量線を
作成する必要があります。未知試料の Ct 値とこの検量線か
検量線作成時には、検査対象のサンプルの状態とできるだ
け同レベルの純度のテンプレートを用いることが望ましい
ら、コピー数を決定します。
です。核酸の単離および逆転写などのステップで量の変化
が起き得るため、ターゲットテンプレートは、実験試料が関
検量線の作成 ̶ 概要
与するのとほぼ同様の反応ステップに関与することとなり
絶対定量で使用する検量線では、ターゲットのコピー 数が
ます。以下のタイプのテンプレートが絶対定量のスタンダー
既知である必要があります。このため、検量線の作成に先立っ
ドとして使用されています。
て、テンプレートが正確に定量されることが要求されますが、
4.1 イントロダクション
4.2 絶対定量
4
これが検量線設定の最も重要な点となります。ターゲット
の試料中に正確に 2 × 1011 コピー 存在するとします。試料
1.DNA スタンダード:興味対象ターゲットの PCR アンプリ
コンまたは興味対象ターゲットを含むプラスミドクローン。
は 10 倍希釈を 8 回段階希釈し、2 × 103 コピーまで希釈しま
す。 各希釈液に対して 少 なくとも 3 反復 でリア ルタイム
利点:生成、定量が容易で、適切な保存により容易に安定性
PCR を実行します。得られる検量線によって、各コピー 数
とそれぞれの Ct 値との相関が得られます。この検量線との
を維持できる。
比較により、未知試料のコピー 数が導き出されます。定量
欠点:リアルタイム PCR の RT の鋳型として使用できないた
の精度は検量線の品質に直接関連しています。
め、RT 効率の差を評価できない。
絶対定量においては以下の点に留意してください。
2.RNA ス タ ン ダ ード:タ ー ゲット の in vitro 転 写 RNA
(図 22)。
1. 検量線作成用のテンプレート調整、およびそのテンプレー
ト量を正確に定量しておくことは、実験の基礎となります。
利点:RT 効率を評価でき、ターゲットの最も良いスタンダー
また段階希釈におけるピペッティングの正確さは極めて
ドとなる。
重要です。リアル PCR は非常に高感度であるため、些細
な人為的エラーでも結果に影響してしまう場合もあるの
欠点:生成に時間がかかり、また不安定であるため長期保存
で注意してください。
が困難。
2. ターゲットテンプレートおよび実際の試料の段階希釈サ
ンプルにおいて、RT 効率及び PCR 効率がほぼ一致する
ことは非常に重要です。
各 RNA および DNA スタンダードは均質であるため、しばし
ば実験試料よりも反応効率が高くなります。より実験試料
に近い不均質な環境を形成して反応効率のバランスをとる
ために、バックグラウンド RNA として酵母 tRNA などをスタ
ンダードテンプレートに添加することが可能です。バックグ
ラウンド RNA により、cDNA 合成速度を 10 倍まで抑制可能
であることが示されています。
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データ解析
図 22. in vitro 転写プロトコルの図解:リアルタイム PCR から生成され
た PCR 産物自身が 5′T7 プロモーターを含む配列および 3′poly(T)を含
むリバースプライマーを用いて増幅されます。in vitro の転写反応によ
りポリアデニル化したセンス mRNA が生成されます。精製後、正確に定
量し、検量線用に希釈します。
図 23. 検量線作成のためのプレートセットアップ:サイクル閾値( Ct )の
平均値を算出する場合には、反復反応から得られる、最大値および最小
値は排除されます。
検量線のアプリケーション ̶ cRNA
段階希釈溶液の濃度範囲は、実験に測定する試料中のター
絶対定量のために最適な検量線はどのように作成すればよ
ゲット遺伝子濃度を全てカバーすることが重要です。例えば、
いかを示すため、このセクションでは、絶対定量法のための
未知の試験試料に 10 コピーの遺伝子しか含まれない可能性
cRNA 検量線の作成をステップ毎にご紹介していきます。
がある場合、最小ポイントが 100 コピーのテンプレートまで
の検量線では不十分です。
T7 RNA ポリメラーゼは、プラスミドまたは PCR 産物をテン
プレートとして、対象遺伝子の転写産物のプールを作製する
ために使用することが可能です。
各希釈段階に関して、6 個の Ct 値が得られます。最大と最小
の Ct 値を除外して、残りの 4 個の Ct 値の平均を算出します。
例えば、この例で 10–4 の希釈段階に注目すると(図 23)、同
cRNA の測定には、UV 吸収測定よりも検出限界の幅が広く
一試料の Ct 値に 2 サイクルものばらつきがあることがわか
精度がより高い蛍光測定が推奨されます。
ります。このばらつきは、特定のコピー 数に相当するこの
4
希釈段階の Ct 値を平均値の 21.4 とすることにより最小限に
コピー 数を算出した後、検出に影響を与えない酵母 tRNA
抑えられます。
を cRNA と tRNA の比が 1:100 となる割合で添加し、生体試
4.2 絶対定量
料由来のバックグラウンドを再現することが可能です。この
標準溶液を少なくとも 5 ∼ 6 桁にわたって希釈し、リアルタ
イム PCR による Ct 値の決定に使用します。
ピペッティングの不正確さは絶対定量のデータに極めて大
きな影響を及ぼします。適切な注意を払うことによりこの
影響を最小限に抑えることが可能です。ここに示すプレー
トセッティングでは、3 種類の異なる cRNA 段階希釈系列を
作製し、それぞれの各希釈段階について 2 反復で増幅反応
を行いました。
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データ解析
4.3 比較定量
比較定量も技術的には困難ですが、絶対定量ほど厳格では
比較定量アルゴリズム̶ ∆∆Ct
ありません。比較定量は多くの遺伝子発現研究に使用され
∆∆Ct 法は非常に広く利用されている方法で、実験試料から
ている技術であり、キャリブレーター(ノーマル)試料およ
の結果をキャリブレーター(例:未処理または野生型試料)
び 1 つ以上の実験試料存在下で、興味対象遺伝子の発現量
およびノーマライザー(例:ハウスキーピング遺伝子発現)
の変動を解析できます。この方法においては正確なコピー
の両者の結果を比較します。この方法では、試験試料中お
数決定は必要ではなく、キャリブレーター試料と比較した相
よびキャリブレーター 試料中の興味対象遺伝子( GOI)の Ct
対比に焦点を当てます。
が、同じ 2 つの試料中のノーマライザー(norm)遺伝子の Ct
に関して相対比較されています。得られる∆∆Ct 値が発現相
ここでは、比較定量の一般的な方法の概要を示し、各方法に
対比の決定に使用されます。
おけるばらつきを最少限に抑える方法をご紹介します。
相対比 = 2−∆∆ Ct
比較定量アルゴリズム̶ ∆Ct
これは最も基本的な比較定量法です。興味対象遺伝子の発
∆Ct 試験試料 – ∆Ct キャリブレーター = ∆∆Ct
現に関して、試験試料およびキャリブレーター試料の両者か
Ct GOIS – Ct normS = ∆Ct 試験試料
ら Ct 値が得られ、それらの差が ∆Ct となります。相対比は単
Ct GOIC – Ct normC = ∆Ct キャリブレーター
に 2 の ∆Ct 乗となります。
∆∆Ct 法では、ノーマライザーおよびターゲット遺伝子の反
相対比 = 2
∆Ct
応効率が同等であることが必要です。もちろん、誤差の許
容範囲がどの程度であるかという疑問が生じるのは当然です。
この基本的な方法は、試料の量、品質、または反応効率の
その決定には、同一試料を使用した、ノーマライザー 遺伝
補正を行えな いという点で、完全 な 方法とは言えませ ん
子およびターゲット遺伝子両方の検量線を作成する方法が
用いられます(図 25)。各希釈サンプルに関して、ノーマラ
(図 24)。
イザーとターゲットの間の平均的∆Ct が得られます。重要な
のは値そのものではなく、各希釈段階における値の一貫性
です。
4
研究によっては、効率におけるこのわずかな誤差が不正確
さの原因となる場合もあります。興味対象遺伝子およびノー
マライザー 遺伝子の両者に関する補正を行うことにより、
増幅効率のばらつきによる効果を最小限に抑えることが可
能です。
比較定量アルゴリズム̶ 検量線法
4.3 比較定量
比較定量の検量線法は、試験試料中およびキャリブレーター
試料中におけるターゲット遺伝子の Ct の差を使用しますが、
図 24. 処理 サンプ ルとキャリブレーターにお ける発現量 の 相対定量
処理サンプルおよびキャリブレーターを 2 反復でランしました。キャリブ
レーターの Ct 値は 6 であり、処理サンプルの Ct 値は 12 でした。 ∆Ct 法に
よると、処理サンプル中のターゲット遺伝子の相対発現量の計算値は、キャ
リブレーターより 64 倍低い値となりました。しかし、ノーマライザーを
使用していないため、実験のばらつきがこの結果に及ぼしている影響が
未知であり、結果は信頼性があるものとはみなされません。
43
この値はレファレンス遺伝子 C ts に対して標準化され、増幅
効率のわずかなばらつきに対しても補正されています。こ
の方法においては、ノーマライザーおよびターゲット遺伝
子の両方の増幅効率を決定するための検量線が必要ですが、
前述の方法で使用されていた仮定を排除することが可能で
す。この方法においては、ノーマライザー 遺伝子が、解析
対象の試料すべてにおいて同一であることが必要です。
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データ解析
Fold difference = (Etarget)ΔCt target /(Enormalizer)ΔCt normalizer
E = efficiency from standard curve E = 10[-1 /slope]
ΔCt target = Ct GOI c - Ct GOI s
ΔCt normalizer = Ct norm c- Ct norm s
M.W. Pfaffl 著 A-Z of Quantitative PCR から引用した相対比に関する
等式。
計算用に最も正確な相対値を得るためには、検量線のため
のキャリブレーター試料を注意深く選択することが必要です。
キャリブレーターは、実験試料と同じ精製過程で精製され、
同じ反応条件で調整された、実験試料と同等の複雑性を有
していることが必要です。このため、完璧なキャリブレーター
は対象ターゲットを含む、不均質な試料であり、例えば研究
中の細胞株または組織からのトータル RNA などが含まれま
す。キャリブレーターと実験試料の差はすべて不正確な効
率補正につながる可能性があり、その結果として遺伝子発
現の相対比に関して不正確な結果が算出される可能性があ
るということに留意してください。コピー 数は実測値では
ないので、希釈または希釈値は任意な値にすることが可能
です。
図 25. 相対効率プロット:∆Ct の範囲は 2.0 ∼ 2.5 です。 ∆Ct を希釈度また
は RNA のインプット量に対してプロットし、傾きを求めます。完全に平ら
な曲線(傾き = 0)は、すべてのインプット濃度における効率が同等であ
ることを示し、∆∆Ct 法においては、0.1 未満の傾きが許容範囲であると通
常考えられています。
検量線法においても、∆∆Ct 法におけるのと同様の増幅曲線
用の設定が使用されますが、ノーマライザーとターゲット遺
伝子( GOI)の Ct 値を調整するためには、検量線からの増幅
効率値(理想的には同一のプレートでランされたもの)を使
用します。効率は両者の傾きから導き出されます(図 26)。
4
以上を要約すると、定量法の選択における第一段階は、まず
絶対定量と相対定量のいずれが最適であるかを判断するこ
とです。試料中に存在するターゲット分子の数を知る必要
がある場合には、既知量のターゲットテンプレートを使用して、
正確な検量線を作成することが必要です。大部分の実験に
おいては、相対的定量法が適切な方法となります。 ∆Ct 法で
はノーマライザーを使用しませんが、∆∆Ct 法ではリアルタ
以上のレファレンス遺伝子を使用します。ノーマライザー
を使用することにより、反応効率の調整を含む、あるいは含
図 26. ノーマライザーと興味対象遺伝子の Ct 値を調整するために、検量
線から増幅効率値が導き出されます。 HeLa RNA を 6 オーダーの範囲
で希釈し、リアルタイム PCR を行ってノーマライザーおよびターゲット
遺伝子(GOI)両者に関する検量線を作成しました。
4.3 比較定量
イム PCR プロセスにおけるばらつきを補正するために 1 つ
まない差の算出を行うことが可能です。
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データ解析
4.4 高分解能融解曲線(HRM)解析
高分解能融解曲線(HRM)解析は、SNP、新しい変異および
メチル化パターンを同定するための新しい方法です。この
方法は同一条件で PCR 後の密封チューブを用いて行います。
HRM 解析は従来の融解曲線法と比較してより感度の高い
方法で、二本鎖の DNA が一本鎖の DNA に解離する温度を
モニターします。この温度は、増幅産物の融点( Tm)として
知られています。光学系および温度制御系の機器性能のアッ
プグレードと共に、高速でのデータ回収と高精度の温度コン
トロールおよび均一性を実現するためのソフトウェアの解析
機 能 を 兼 ね 備 え たリア ル タ イ ム PCR 装 置 が 必 要 で す。
QuantStudioTM 12K Flex、ViiATM 7、7900 HT Fast、7500
Fast、StepOnePlus® および StepOne® Real-Time PCR
System などを HRM 解析を行うことの可能な装置として現
在販売しています。
HRM 解析においては、約 80 ∼ 250 塩基対の遺伝子フラグ
図 27. PCR アンプリコンの融解曲線プロファイルの特性:個別の DNA
配列毎に特徴的な融解曲線プロファイルが存在します。変異を Tm のシフ
トまたは融解曲線の形の変化として検出することが可能です。従来の融
解曲線解析とは対照的に、HRM では単一ヌクレオチドの違いを有するア
ンプリコン間の識別が可能です。 HRM 法は dsDNA 結合色素を用いた
多くの新しいアプリケーションの可能性を広げます。
メントを高機能な二本鎖 DNA( dsDNA)結合色素を含む反
応 液 内 で PCR に より増 幅しま す 。 MeltDoctorTM HRM
Master Mix(Life Technologies)では、二本鎖 DNA の存在
従来これらのアプリケーションには、各ターゲットに固有の
下 、蛍 光 バック グ ラ ウ ンド が 低 く 輝 度 の 高 い SYTO®
蛍光プローブが必要でしたが、それらは高価で、デザインに
9 色素の熱安定型である MeltDoctor HRM Dye を使用し
時間がかかる上に柔軟性に欠けていました。 dsDNA 結合
ています。 40 サイクルのランの後、増幅産物をアニールさ
色素 を 使用 する HRM は、プロ ーブ ベ ー ス の 解析と同様
せ蛍光度が最も高い状態にスタンバイさせます。 HRM 解
の性能を、より低価格で柔軟性のあるフォーマットを得るこ
析を開始すると、リアルタイム PCR 装置はゆっくりと温度を
とができます。
TM
上昇させると同時にアンプリコンからの蛍光データを記録
4
します。 PCR 産物が変性(または融解)し始めると、蛍光色
HRM には多くのアプリケーションが存在しますが、Tm 値の
素が放出されるにつれて増幅産物の蛍光はその Tm に近づく
わずかなシフトを検出する必要のある、単一塩基レベルで
までゆっくりと低下していきます。 Tm に最も近くなると、試
の識別が最も困難です。
料が二本鎖 DNA から一本鎖 DNA へと変化するのにあわせ
て蛍光の急激な低下が観察されます(図 27)。
HRM 解析ケミストリ
特別な装置およびソフトウェアに加えて、HRM 解析には単
HRM 解析アプリケーション
一ヌクレオチドの違いを有するアンプリコンの融点を識別
最も広く使用されている HRM アプリケーションは、遺伝子
する能力のある dsDNA 結合色素が必要です。
4.4 高分解能融解曲線(HRM)解析
スキャニングです。遺伝子スキャニングは、PCR アンプリコ
ンにおける未知の変異の検索で、シーケンシングに先立って、
HRM での使用に成功している色素には、以下のものがあり
あるいはシーケンシングの代わりに行われます。 PCR 産物
ます。
中 の 変異が HRM によって検出されるのは、変異があると
DNA 融解曲線の形に変化が現れるためです。ヘテロ二量体
の DNA 試料は、増幅され融解すると、ホモ接合の野生型ま
たは変異型試料とは異なる融解曲線プロファイルを示します。
HRM 解析の一般的なアプリケーションには以下のものが含
まれます。
•
•
•
•
•
•
45
• MeltDoctorTM HRM Dye(Life Technologies)
• Molecular Probes® SYTO® 9 色素
(Life Technologies)
• LCGreen® and LCGreen® Plus+ reagents
(Idaho Technology)
• EvaGreen® dye(Biotium Inc.)
遺伝子スキャニング(変異検索)
変異解析
1 塩基多型(SNP)検出
ヘテロ接合性研究
種の同定
メチル化解析
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データ解析
HRM 解析アッセイ成功の鍵
• 最高の感度を達成するためには、アンプリコンを
短くします。長いアンプリコンと比較して、
100 塩基対程度のアンプリコンでは単一ヌクレオチド
の違いを有するアンプリコンの融点を識別する
ことがより容易となります。
• PCR アンプリコンの特異性を確認します。
ミスプライミング産物およびプライマーダイマーが
あるとデータの解釈が複雑となります。高い特異性を
得るためには、200nM 未満のプライマー濃度を使用し、
MgCl 2 濃度を 1.5mM ∼ 3mM の範囲とし、
さらにホットスタート DNA ポリメラーゼを使用する
ことが有用です。標準的な低分解能の融解曲線を
使用して、ミスプライミングの有無を評価してください。
テンプレートを含まないコントロール(NTC)の
融解曲線による特異性の評価を行うことが重要です。
• ターゲット以外の変異を含む領域での増幅を
避けます。種相同性、エクソンとイントロンの境界、
スプライス部位、および PCR 産物の二次構造
および自己ヘアピン形成を確認します。
• 解析するすべてのターゲットに関して、蛍光プラトーが
同様で、PCR 産物の量が同様になるようにします。
比較する試料間の量の差は、Tm 値に影響を与え、
HRM 解析を混乱させる可能性があります。
同量のテンプレートを使用することが有用な場合も
あります。
• 反応に十分な量のテンプレートが使用可能なことを
確認してください。一般的に、正確な融解解析に
十分な産物を増幅するためには Ct 値が 30 以下で
4
あることが必要です。
• 融解データの収集には十分な範囲の温度領域を設定
してください。例えば、アンプリコンの融点の
前後 10˚C の範囲(Tm ± 10˚C)の温度領域が必要です。
正確な曲線の補正を行いかつ反復間での
高い相関性を得るには、融点前後に十分なデータを
4.4 高分解能融解曲線(HRM)解析
とることが必要です。
• さらにいくつかの装置においては、すべての産物を
確実に再結合させて、ヘテロ二量体形成を
促進するために、増幅に続いて(融解の前に)
50˚C でのプレホールド段階を挿入することが
推奨されます。ターゲット遺伝子フラグメントを
高感度でバイアスなく増幅可能な、
MeltDoctorTM HRM Master Mix などの
ミックス試薬を使用してください。
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データ解析
4.5 マルチプレックスリアルタイム PCR 解析
マルチプレックス反応は同一のリアルタイム PCR 反応にお
• アンプリコンは短くします。 50 塩基対から 150 塩基対
いて複数のターゲットを解析する技術です。各ターゲットは、
の範囲の部分を増幅するプライマーをデザインする
ターゲットに特異的な蛍光プローブまたはプライマーペア
ことにより反応効率が上昇します。
に結合した特定の色素により識別します。一般的に、マルチ
• Tm 値がお互いに 2˚C 以内の範囲にあるプライマーを
プレックス反応はノーマライザー遺伝子とターゲット遺伝子
デザインします。すべてのプライマーおよび
を同一の反応において増幅する目的で使用します。
プローブが同一温度でアニールするということに
理論的には、特定の反応中において増幅が可能なターゲッ
つながります。
留意してください。 Tm 値の違いは効率のバイアスに
ト数は、使用できる光学的に識別可能な色素の数、およびリ
アルタイム PCR 装置によって励起および検出が可能な色素
の数によって制限されます。しかし、実際にはその他の実
• プライマーおよびプローブのデザインには BLAST
検索を行い、ターゲットに対する特異性を
確認してください。
験的制約も存在します。例えば反応中において、異なるプ
• プライマーデザインソフトウェアを使用して、プライマー
ライマーペアおよびプローブがお互いに反応しないことが
またはプローブにダイマー形成を起こしやすい配列が
必要であり、これらのプライマーおよびプローブは dNTP お
ないかどうか確認してください。無料プログラムの
よび熱安定性 DNA ポリメラーゼなどの PCR 成分を共用し
なければなりません。マルチプレックス反応は最適化に時
一つである、AutoDimer(米国国立標準技術研究所の
P.M. Vallone 著)は特定のマルチプレックス反応に
間がかかりますが、いくつかの優れた利点が存在します。
おけるすべてのプライマーデザインに関して、
すべての組み合わせにおけるダイマー形成の傾向を
• 変動が少なく、一貫性が高い。ノーマライザーと
解析することができます。
ターゲット遺伝子を同一チューブ内で
マルチプレックス反応することにより、これら 2 つの
試薬の最適化
ターゲットを別々の(隣り合っている場合でも)
マルチプレックス反応において極めて重要な問題は、増幅
ウェルにおいて増幅することに起因する、
される異なるターゲット間での試薬の競合です。高い増幅
ウェル間の誤差が排除されます。
効率を確保するためには、プライマーの量を減らすか、す
• 使用する試薬の量が少なく、コストダウンにつながり
ます。マルチプレックス反応では同数のターゲットの
4
べての PCR 成分の濃度を上昇させるか、あるいはその両方
が必要です。
解析に必要な反応が少なくて済みます。
• より高いスループット。各 PCR ランおよび各試料に
ついてより多くのターゲットの解析が可能となります。
プライマー濃度およびターゲットの量
マルチプレックス反応においてはすべてのアンプリコンが
同数存在するわけではなく、また同じ効率で増幅するわけ
マルチプレックスアッセイ成功の鍵
でもありません。より増幅しやすいあるいはより大量に存
マルチプレックス反応を成功させるためには、以下に示す
在するターゲットに対するプライマーの濃度を制限するこ
事項を含めた多くの要因を考慮する必要があります。
とにより、反応性を同レベルにすることが可能です。例えば、
4.5 マルチプレックスリアルタイム PCR 解析
β- アクチン
(高コピーノーマライザー)
を存在量の少ないター
• プライマーおよびプローブのデザイン
• 試薬の最適化(プライマー濃度、ターゲットの量、
ゲットとマルチプレックスすると、β- アクチンがサイクルの
初期の段階で、共用する反応成分を枯渇させてしまう可能
反応成分および蛍光色素分子とクエンチャーの
性があります。β- アクチンプライマーの量を減少させるこ
組み合わせなどを含みます)
とにより、増幅速度が制限され、より存在量の少ないターゲッ
• マルチプレックスアッセイの検証
トを障害のない状態で増幅することが可能となります。一
般的に、より存在量の多いターゲットに関しては、Ct 値を遅
プライマーおよびプローブのデザイン
らせない範囲で最も低いプライマー濃度を使用することが
プライマーおよびプローブのデザインは、マルチプレックス
必要です。
アッセイにおいて最も重要な因子です。反応の複雑性が増
すにつれて、プライマーおよびプローブがダイマーとなる
反応成分の濃度
可能性、あるいは各反応成分の競合により複数のターゲット
すべてのマルチプレックス反応は異なっていますが、Taq
の増幅が制限される可能性が増加します。競合効果を最小
DNA ポリメラーゼ、マグネシウムおよび dNTP の量を増加
限に抑え、性能を最大限に活かすために特に重要な因子を
させ、バッファー強度を上昇させることにより、反応に関与
以下に示します。
するすべてのターゲットの感度および増幅効率を高めるこ
とができます。
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データ解析
蛍光色素分子とクエンチャーの組み合わせ
同様の検量線法を使用して、すべてのプライマーとプロー
マルチプレックス反応におけるレポーター蛍光色素分子は、
ブを混合し、各希釈段階に関してマルチプレックス反応を実
スペクトル的に特徴的で、各色素に由来する蛍光シグナル
行してください。各ターゲットに関して得られた効率を、対
が単一チャネル内で検出されることが必要です。適切な色
応するシングレックスのリアルタイム PCR 反応の効率と比
素を使用することにより、リアルタイム PCR 装置の励起お
較してください。理想的には、シングル反応とマルチプレッ
よび光学系は、誤った蛍光色素に由来する蛍光の存在(この
クス反応の間にはほとんど変化がないはずです。もしマル
ような障害はクロストークとも称されます)が発生しないよ
チプレックスターゲットの反応効率の変化が 5% を超えてい
うに波長をフィルターすることが可能です。
るかあるいは好ましい範囲である 90% ∼ 110% に収まらな
同様に、マルチプレックスされるプローブの数が多くなると、
チプレックスアッセイ中の他の成分の濃度を最適化する必
各二重標識蛍光プローブにおけるクエンチャーの選択がよ
要があります。
い場合には、プライマーまたはプローブの濃度またはマル
り重要となってきます。 TAMRATM 色素のような蛍光クエン
チャーは、FAMTM 色素用 の 一般的なクエンチャーであり、
感度の低下を防ぐためには、マルチプレックス反応における
蛍 光 色 素 の エ ネ ル ギ ー を 異 なる波 長 に お い て 放 出 する
Ct 値がシングレックス反応において得られた Ct 値と同等で
ことにより作用します。マルチプレックス反応においては、
あることが必要です。
このタイプのクエンチャーは異 なる波長における複数 の
シグナルを与え、フィルタリングが複雑化し、データの安定
性にも影響する可能性があります。一方、ダーククエンチャー
はエネルギーを蛍光ではなく熱の形で放出するため、全体
的な蛍光バックグラウンドがより低く抑えられます。ご使用
になられる装置の検出能に基づいて、適切なマルチプレッ
クス色素の組み合わせを選択してください。多くの色素の
ス ペクト ル 互 換 性 に 関して は、www.lifetechnologies.
com/spectraviewer をご覧ください。
マルチプレックスアッセイの検証
シングルプレックスのリアルタイム PCR の場合と同様に、アッ
セイのランの前に、マルチプレックス反応中のすべてのター
ゲットの反応効率を評価するために検量線を作成する必要
4
があります。この検証過程は大きく 2 つの段階に分けられ
ます。
1.各ターゲットのプライマーおよびプローブを検証し、個々
の効率を同定します。これがプライマーおよびプローブ
デザインの初期の評価です。
4.5 マルチプレックスリアルタイム PCR 解析
2.マルチプレックスアッセイ全体の最適化。
ターゲットにとって理想的なデザインおよび条件を決定する
ために、個々のターゲットに関するプライマーおよびプロー
ブセットを評価してください。段階希釈の検量線を用いて
評価します。 100% に近い効率が得られることを目標として
ください。各プライマーおよびプローブの組み合わせを機
能的に評価した後、マルチプレックスの最適化に進んでくだ
さい。プライマーおよびプローブの組み合わせに関するシ
ングレックスの条件は、ターゲットがマルチプレックスであ
る場合には最適とならない可能性があることに留意してく
ださい。マルチプレックスパネルを構築する際には、初回
の実験においてすべてのターゲットを組み合わせるのでは
なく、1 回に 1 個ずつターゲットを添加していくことが賢明
です。
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トラブルシューティング
5
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トラブルシューティング
5.1 イントロダクション
51
5.2 よくある質問
58
5
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トラブルシューティング
5.1 イントロダクション
理想的なリアルタイム PCR 解析を実行するには、最適化に
プライマーダイマーに起因する問題
よって反応のすべてのパラメータをきめ細かく調整し、正
プライマーダイマーが反応に与える影響は、使用するケミ
確な結果が確実に得られるようにすることが必要です。新
ストリにより大きく異なります。蛍光プローブを使用する反
しい遺伝子の研究を始める場合、または解析のパラメータ
応はプライマーダイマーによる影響をあまり受けない傾向
を変更する場合には常に、必要なすべての反応調整を含む
にありますが、これはプライマーダイマー領域におけるプロー
解析の検証を行う必要があります。具体的にはプライマー
ブのアニーリングおよび切断がほとんど起こらないためです。
濃度、サーマルサイクリングの温度および時間の調整、そし
この場合には、プライマーへの競合が考慮すべき主要因子
て標準曲線評価によるパラメータの確認などです。
となります。一方、二本鎖 DNA 結合色素を利用する反応は、
プライマーダイマーが存在しない条件に大きく依存してい
最適化には時間がかかりますが、時間をかけるだけの価値
ますが、これは色素がプライマーダイマーに非特異的に結
はあります。なぜなら、最適化は解析の最高の感度とダイ
合する可能性があり、その蛍光が反応中にモニターされる
ナミックレンジ、高い効率(高精度につながります)および非
蛍光量に影響を及ぼしてしまうためです。これによって Ct
常に優れた再現性の獲得につながるからです。これらの因
がシフトし、解析結果を歪めてしまいます。
子はすべてデータの信頼度につながり、最終的には研究コ
ミュニティーに受け入れられ得る実験結果につながります。
外来性のシグナルは最も重要な因子ですが、反応ウェル内
の競合も反応効率に直接影響を及ぼします。前述したように、
リアルタイム PCR のトラブルシューティングは、非常に困難
反応効率が低いとダイナミックレンジが狭められ、結果とし
であるように感じられるかもしれません。しかし、正しい解
て感度が低下します。
5.1 イントロダクション
析デザインが考慮されていると仮定した場合、一般的なリ
アルタイム PCR の問題点は、以下の 4 つの大きな範囲にグ
そもそも二量体形成が起こらないようにするために、プラ
ループ分けすることが可能です。
イマーデザインの段階において簡単な予防策を講じること
が最良の方法です。そのための無料ツールがいくつか入手
•
•
•
•
プライマーダイマーの形成
可能です。そのようなツールの一例が AutoDimer(米国国
プライマーおよびプローブの保存
立標準技術研究所の P.M. Vallone 著)で、プライマーペア
リアルタイム PCR 阻害および反応効率の低下
の配列を解析し、理論的に二量体形成を起こし易いプアリ
ソフトウェア解析設定
マーペアに警告を出します。
プライマーダイマーの形成
バイオインフォマティクスを利用したプライマーデザインに
プライマーダイマーは、プライマーペアの間に部分的な配
より、二量体形成の可能性を低減させることが可能ですが、
列の相同性が存在する場合に形成されます。 PCR 反応中に
二量体形成を実験的にモニターすることはやはり必要です。
プライマー同士がアニールすると、Taq DNA ポリメラーゼ
5
による伸長が起こり、本来のプライマーよりもサイズが大き
プライマーダイマーの有無の決定
く、しかもサイクルが進むにつれて誤ったアニーリングをよ
ゲル電気泳動法はプライマーダイマーを可視化するための
り起こしやすくなる産物を生成する可能性があります。プラ
優れた方法です。プライマーダイマーはゲルの底部付近に、
イマーの長さによっては、プライマー自体が折り畳まれるこ
通 常 100 塩 基 対 以 下 の 広 がった バンドとして 現 れま す。
とによりテンプレートとの競合環境を作り出してしまう可能
PCR 反応においては、ダイマー形成とテンプレートのアニー
性もあります。特にマルチプレックス反応のような複雑な
リングおよび伸長の間に競合が存在します。テンプレート
反応系では、これらの望ましくない反応が発生する機会が
が減少するにつれて、プライマーダイマーは多くの場合増
増加します。
加します。
プライマーダイマーの形成は、リアルタイム PCR のデザイ
ゲル電気泳動法を唯一の検証方法として使用することの欠
ンおよび検証において解決しなくてはならない最も一般的
点は、感度がナノグラム領域であるため結果が不確実にな
な問題の一つですが、リアルタイム PCR 反応からこれらの
る可能性があることです。ゲル電気泳動法の長所は、温度
問題を取り除く方法は多数存在します。プライマーダイマー
解離曲線(融解曲線)データが存在する場合、反応産物のサ
の問題をどのようにして解決するかをご紹介する前に、先ず
イズの把握が全体的解釈する際に有用となることです。
なぜダイマー形成を最小限に抑えることあるいは低減させ
ることが必要であるかを理解することが重要です。
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トラブルシューティング
A.
B.
5.1 イントロダクション
図 28.(A)特異的増幅および(B)プライマーダイマーの影響を示す、増
幅プロットおよび融解プロファイル:プライマーダイマーは( B)におい
て増幅曲線中の NTC により生成されたシグナルおよび融解プロファイル
中の追加ピークとして同定されます。
熱解離曲線は、融解曲線とも称され、二本鎖 DNA 結合色素
2. プライマー濃度を下げることも可能です。さらに、フォワー
を使用する反応の標準的な熱的分析手法です。非常に特異
ドプライマーとリバースプライマーの比を変化させるこ
性が高く増幅した場合は、リアルタイム PCR プレート上の
とが有用となる場合もあります。ほとんどの場合、各プ
各ウェルに関する融解曲線において 1 本の幅の狭いピーク
ライマーの最終濃度として 200nM が理想的ですが、必要
が確認できます。プライマーダイマーは 70˚C 程度の領域で
の融解を示す、蛍光度の低い幅広の「波」として現れます。
であれば 60nM 程度に低下させることも可能です。
3. マグネシウム濃度は約 3mM が最適です。これ以上の濃
このピークの形と Tm 値の特徴は、プライマーダイマーのサ
度ではプライマーダイマーが生成しやすくなります。
イズが小さく、しかも一定していないことに起因しています。
4. プライマーダイマーが形成されるかどうか評価されてい
データ解析の項で示したように、融解曲線においてプライ
なかった場合には、評価を行い、必要であればプライマー
マーダイマーの存在が疑われる場合には常に、NTC ウェル
デザインの変更を検討してください。通常、ホットスター
との比較を行ってください。テンプレートが存在しない場合
ト DNA ポリメラーゼの使用および、反応のセットアップ
にプライマーダイマーが最も形成されやすいです(図 28)。
を氷上で行うことが望ましいです。
5. 理想的には、同一のターゲットに関して複数のプライマー
プライマーダイマーの低減または排除
セットを同時に試験することが必要です。実際この方法
プライマーダイマーが問題となる場合、反応におけるプラ
により直ちに使用可能なプライマーペアが見つけられれ
イマーダイマーの生成を低減または排除するためにいくつ
ば、最適化に費やす多くの時間を節約することが可能と
かの方法があります。
なります。
1. 第一の方法はサーマルサイクル条件の最適化ですが、こ
5
ダイマーは、プライマーペアの存在下により低温で RT 反応
れには主としてアニーリング温度の上昇が行われます。
を行う 1-Step qRT-PCR 反応において、より大きな問題と
ほとんどの場合、プライマーは 60˚C で効率よくアニー
なる可能性があることに留意してください。
ルするようにデザインされていますが、これは 2-Step の
サイクル( 95˚C における変性段階から直接 60˚C におけ
るアニーリングおよび伸長ステップに進みます)により安
定した増幅が可能となるためです。
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トラブルシューティング
プライマーおよびプローブの保存
A.
プライマーおよびプローブの保存条件は、見過ごされるこ
とが多い要因ですが、リアルタイム PCR 解析の長期的な成
功および一貫性に大きな影響を与える可能性があります。
プライマーおよびプローブの安定性に影響を与える主な要
因は、保存温度、保存期間、長期間にわたる光への曝露の有
無、プライマーおよびプローブの保存濃度および保存溶液
の成分です。
プライマーおよびプローブの不適切な保存に
起因する問題
プライマーおよびプローブを不適切に保存すると、分解お
よび特異性が消失する可能性があり、結果として反応効率
に影響を与えます。蛍光標識したプライマーおよびプロー
ブに依存する解析においては、分解したプローブが遊離の
色素を放出し、バックグラウンドが上昇してシグナルとノイ
ズの比が低下します。このため、蛍光強度が低くなり非常
に精度の低い増幅曲線になる可能性があります。プライマー
およびプローブに結合した蛍光色素は、時間経過とともに
退色する可能性があり、リアルタイム PCR 装置により検出
5.1 イントロダクション
されにくくなります。
B.
プライマーまたはプローブの品質の低下の検出
プライマーおよびプローブの安定性を保持するための第一
の防御法は、簡単な保存時間のモニターを行うことです。
多くの場合、プライマーおよびプローブは、1 年間(あるい
はそれ以上)は安定です。しかし、保存条件が最適でない場
合には、保存条件に関連した影響が 6ヵ月以内にあらわれる
こともあります。
プライマーの品質を評価する最も適切な方法は、増幅曲線
を定期的に作成する方法です。反復の不正確さおよび融解
曲線における複数ピークがみられる場合、特に以前にそれ
らの現象がみられていない場合には、安定性が低くなって
5
いることの一般的な兆侯といえます。
蛍光標識されたプローブおよびプライマーの場合には、装
置のマルチコンポーネントビュー上の蛍光バックグラウンド
の値が正常より高い場合に、プローブの分解が示唆されます。
蛍光標識したプローブまたはプライマーが分解していない
場合でも、蛍光色素自体が分解している場合には、反応産物
がエチジウムブロマイドで染色したゲルで確認できますが、
図 29. 保存が不適切だったプライマーの影響を示す、増幅プロット(融
解曲線および蛍光バックグラウンドにより示されています)
(A)vs. 適切
に保存されたプライマー(B)
リアルタイム PCR 装置では検出されません。
図 29 には、保存条件が適切でないプライマーの影響を表わ
す増幅曲線が示されています。図 29A の増幅プロットは分
解したプライマーによる負の影響を受けており、図 29B の
曲線は適切に保存されたプライマーを用いた良好な結果を
示しています。融解曲線からはさらに詳細が明らかとなり、
複数の非特異的産物が存在していることが示されています。
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トラブルシューティング
プライマーおよびプローブの長期にわたる
安定性の維持
どがあります。前述したように、チューブ中での競合は反応
効率が低くなる原因となります。
プライマーおよびプローブの安定性の維持するためには 4
つの重要点があります。凍結乾燥されたプライマーは保存
ターゲットの効率が高い場合においてもあるいは低い場合
時間および保存温度に関してより長期に安定です。濃度調
においても、ターゲットとノーマライザーの効率を合致させ
整したプライマーは –20˚C で保存し、約 1 年以降は機能性
ることが、データの精度を維持するためには非常に重要です。
の低下の兆侯をモニターすることが必要です。標識したプ
例えば、ターゲット A に関する効率が 95% で、ノーマライザー
ライマーおよびプローブに関しては標識を光から保護する
に関する効率が 96% である方が、ターゲット A に関する効
ことにより(不透明なチューブの使用および暗所での保存な
率が 99% で、ノーマライザーに関する効率が 92% である場
ど)長期保存することができます。
合よりも適切です。
さらに、プライマー 濃度も安定性に影響を与える可能性が
歪んだ効率の問題点
あります。プライマーを 10μM 以下の濃度で保存すること
90% ∼ 110% の範囲を超える効率は、結果に人為的な歪み
は推奨しません。実際、ほとんどの場合において 100μM の
を生じ、誤った結論へと導く可能性がありますが、これは主
プライマー濃度が扱いやすい濃度となっています。プライ
に比較用のターゲットが異なる効率を有することに起因しま
マーおよびプローブは、特に標識されている場合には分注
す。さらに、阻害および効率の低下もアッセイの感度に影
して保存し凍結・融解サイクルを最小限に抑えることが必要
響を与え、ダイナミックレンジが縮小し、汎用性が低下する
です。最後に TE 緩衝液は水よりも安定的な環境です。さら
可能性があります(図 30)。
に、0.1mM EDTA を含む TE 緩衝液は(標準的な TE 緩衝液
効率の歪みの同定
選択です。これはいくつかの PCR 反応では、残留する EDTA
前述したとおり、特定のアッセイが非効率的であるかどうか
の影響を受けやすいためです。
を同定するための最良の方法は、未知試料において期待さ
PCR 阻害物質および反応効率の低下
を作成し、その範囲における効率を観察することです。結
ここまでの説明により、リアルタイム PCR のアッセイデザイ
果はほぼ 100% であることが必要です。
5.1 イントロダクション
に含まれる濃度である 1mM EDTA と比較して)、より良い
れる濃度範囲において希釈されたテンプレートの標準曲線
ンおよび最適化の重要な要因の中における反応効率の重要
性はすでに十分に理解されていると思われます。もう一度
融解曲線またはゲル電気泳動法において複数のピークが観
見直しておくと、反応効率の算出には検量線(ターゲットテ
察される場合には、反応中で競合していることが示され、そ
ンプレートの段階希釈試料から作成されたもの)を用います。
の競合が確実に反応効率に影響を与えています。
この反応効率の値は、反応全体の「正確性」のマーカーとし
ての機能を果たします。効率が低いときと高いときでは異
効率の低下または阻害の解決
なる結果になります。このような状況を改善するための方
反応が阻害されていること、または反応の効率が低下して
法は極めて多様です。理想的な反応効率は 100% ですが、
いることが判明した場合に、効率を望ましい範囲に戻すいく
90% ∼ 110% の範囲が広く受け入れられています。
つかの方法があります。
5
高効率または低効率の要因
反応効率が 110%を超える場合は反応に阻害が存在するこ
とを示しています。阻害の要因には、低品質の RNA または
DNA、高濃度のテンプレートおよび核酸精製の残留物など
があります。例えば、シリカカラムが使用された場合、DNA
または RNA を抽出させるために使用したカオトロピック塩
が Taq DNA ポリメラーゼを阻害する可能性があります。有
機溶媒抽出を使用した場合には、残留するフェノールおよび
エタノールが同様の効果をもたらす可能性があります。
通常、阻害は反応効率が 90%以下になる要因として一般的
ではありません。効率の低下の要因には最適化されていな
い試薬濃度(主にプライマー、マグネシウム、そして特にマ
ルチプレックス実験においては Taq DNA ポリメラーゼ)な
どがあげられます。その他の効率の低下を引き起こす要因
図 30. 反応効率を評価するためのテンプレートの段階希釈:早い Ct 値を
示す希釈物においては Ct 値が互いに接近しており、曲線は異常な形状を
示しています。テンプレートがより希釈されるにつれて阻害の影響がな
くなり、曲線は特徴的な指数関数的形状相により近くなります。
としては、プライマー 間の Tm の差が 5˚C 以上であること、
およびサーマルサイクル条件が最適化されていないことな
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トラブルシューティング
1.阻害に関しては、テンプレートの濃度が最も高いウェル
A.
を除いて検量線を解析し直すことができます。もし効率
が 110% 以下に戻れば、アッセイに問題はありませ ん。
但し、検量線から除いた濃度はすべて実際のアッセイに
は使用しないように注意してください。
2.もう一つの解決法として、テンプレートの再精製がありま
す。その際には、エタノール沈殿由来のエタノールを除
去するために乾燥時間を長くすること、またはシリカベー
スの精製由来のカオトロピック塩を除去するためにカラ
ム上での精製を追加することを忘れないでください。
3.効率の低下に対してはアッセイの最適化によって解決す
ることが可能です。その過程は比較的簡単な場合もあり
ますが、場合によってはアッセイの複雑性が増すにつれ
B.
て最適化が煩雑になる可能性もあります。
4.単一 の 産物 の みが増幅される場合には、マグネシウム
濃度を 6mM にまで上昇させることにより効率を改善す
ることが可能ですが、競合が存在する場合にはマグネシ
ウム濃度を低下させることが効果的である可能性もあり
ます。
5.主としてマルチプレックス反応においては、プライマー
5.1 イントロダクション
およびプローブの最適化マトリックスが必要となる場合
があります。この場合、特定のアッセイに関する理想的
な濃度の組み合わせを見つけるために、フォワードプラ
イマーとリバースプライマーの様々な比、そして時には
異なるプローブ比を試験します。理想的なプライマー濃
図 31.(A)設定が不適切なベースラインおよび(B)設定が正しいベース
ラインを示す増幅プロット
度は 100nM ∼ 600nM の範囲であり、理想的なプローブ
濃度は 100nM ∼ 400nM の間です。
6.サーマルサイクリングの条件(特にアニーリング温度)が
プライマーの Tm に関して好適であり、プライマー同士が
同様な Tm を有するようにデザインされていることを確認
してください。
増幅曲線ベースラインの直線性は、結果に影響を与える可
能性のあるパラメータの一つです。装置ソフトウェアは一
般的に、増幅曲線の平らな部分(蛍光の増幅がみられない
部分)
を自動的にベースラインとして設定します。しかし、ノー
マライザーとして 18 S を使用する場合のように、Ct が非常
に早い場合には、すでに平らではない部分が誤ってベース
5
反応に関連しているように見られる問題が実際はソフトウェ
ラインに含まれてしまう可能性があります。図 31 にはベー
ア関連の問題であるという場合も存在します。ソフトウェア
スライン設定を変化させた同一のプロットです。図 31A には、
の設定を検証あるいは最適化することにより期待に沿う結
サイクル 1 からサイクル 14 のベースラインによるプロット
果が得られるケースもしばしば存在します。
を示していますが、蛍光は 10 サイクル目から検出されてい
るため、この設定は幅が広すぎます。その結果として曲線
ソフトウェア解析設定
が沈み Ct が遅くなります。図 31B は、ベースラインをサイ
先に述べたように、解析により良好なアッセイが表示されな
クル 2 からサイクル 8 の範囲にリセットした結果を示してい
くなっている可能性が存在する場合もあります。データの精
ますが、曲線および Ct 値は正確な位置に戻っています。
度に最も大きな役割を果たす解析設定は以下のとおりです。
ベースラインレンジの設定は、あまり頻繁には考慮されま
•
•
•
•
増幅曲線ベースラインの直線性
せんが、反応の効率に影響を与える可能性があります。図
ベースラインレンジ設定
32 に示すように、装置の初期設定によりほとんどのアッセイ
Threshold Line の設定
で適切な範囲に設定されます。しかし、手動で調整すること
レファレンス色素
により結果をさらに改善することが可能な場合もあります。
Threshold Line の設定(バックグラウンドを超える蛍光レ
ベルで、Ct 決定のために使用される値)はソフトウェアによ
り自動的に設定されるもう一つのパラメータですが、これも
手動で調整することが可能です。
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トラブルシューティング
A.
B.
C.
D.
E.
F.
図 32. 許容可能な反応効率を獲得するためのベースライン設定法の比較:
(A および D)これらのプロットにおけるベースラインは手動により非常に広く
設定されており、検量線の傾きは –2.81 で、好ましい範囲である –3.58 から –3.10( 90% から 110% の効率に相当)の範囲から大きく外れています。
(C および F)ここには A および D と同一の曲線が示されていますが、ベースラインは装置により自動的に選択されたものです。傾きは理想的な範囲内に
あり、アッセイはこのダイナミックレンジにわたって検証されています。
(B および E)これらのプロットにおいては手動による調整が行われ、さらに 4 ∼ 5
サイクルがベースラインに含まれており、傾きはさらに改善され、効率がほぼ 100% となっています。
5.1 イントロダクション
同一のランで複数のキットまたはケミストリを評価する際に、
しばしば手動での調整が必要となります。ソフトウェアは自動
的に、より高いプラトーを有する曲線(図 33 の青色のプロット)
に理想的な Threshold を設定します。しかし赤色のプロットに
関する理想的な Threshold はさらに低い値であるため、この
結果は同一のデータセット中の赤色のプロットの Ct にバイア
スをかけます。このため、各データセットを別々に解析し、各
状況に応じて理想的な Threshold を選択することが必要です。
また、初期設定で多くの 場合極めて適切 な 位置に設定さ
れますが、必要に応じてさらに精度を向上させるために、
Threshold を指数関数的増幅期の真中に手動で設定するこ
とも可能です。
検量線のダイナミックレンジの検証により、アッセイ毎に許
図 33. 対数プロットのスクリーンショット。プラトーの高さの異なる、す
なわち異なる指数対数的増幅期を有する 2 セットの増幅曲線の例が示さ
れています。 増幅曲線において、Ct 決定のために最も正確な部分は対
数プロットにおける指数関数的増幅期のちょうど真中に当たります。理
想的な閾値の設定は各データセットによって異なることもあります。
容可能なテンプレート濃度が決定されます。検量線の最高
または最低濃度が実際の解析において使用されない場合に
限り、反応効率を向上させるためにこれらの濃度を排除す
レファレンス色素を使用する装置においては、ソフトウェア
ることも可能です(図 34)。
により不活性色素 のシグ ナ ルがター ゲットの 発 する蛍光
5
から差し引かれます。このため、例えば ROXTM のレベルが
一般的に、効率が低下する場合にはいつでも両端のデータ
高すぎる場合には、得られるターゲットシグナルが非常に
ポイントを排除することが可能であるため、非常に高いテン
低くなり、波状 で 一貫性 の な い 増幅プロットを 与 えます
プレートから非常に低いテンプレートまで検出限界を広げ
(図 35A)。
ておくのもよいでしょう。
一見したところ、反応が失敗し、多くの最適化が必要である
TM
ROX およびフルオレセインなどのレファレンス色素の使
ように思われますが、いったいどこから始めればよいのでしょ
用は、装置およびユーザーに起因するエラーの影響を排除
うか? しかし、ノーマラーザーとしての ROXTM チャネルのス
するための強力な方法です。レファレンス色素の使用は非
イッチを切り、データを再解析すると、実際のところデータ
常に一般的になっているため、この「舞台裏の」因子は、多
は適切であることがわかります(図 35B)。つまりレファレン
くの場合忘れられたり、反応に負の影響を与えることはない
ス色素の標準化の問題であることがわかります。
とみなされたりしています。しかし、装置と色素自体の関係
を理解しておくことは重要です。
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56
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トラブルシューティング
前述したとおり、装置ソフトウェアの設定はほとんどの場合
適切に行われます。しかし、これらの設定を検証することに
よりデータの精度の信頼度をさらに向上することができます。
ソフトウェアによって選択されたベースラインが増幅曲線の
平らな範囲のみにあることを確認し、必要に応じてベース
ラインのレンジを増加または減少させてください。増幅曲
線を対数プロットで観察し、Threshold が指数関数的増幅期
の真中付近にあることを確認してください。 y 軸を蛍光プラ
トー強度に対して適切にスケール化し、異常値を標準曲線か
ら排除して効率および R2 値を改善することが可能であるこ
とに留意してください(これらの希釈が「未知」試料の評価
に使用されていない場合に限ります)。
図 34. 異常値を排除 することにより達成 された 検量線 の 傾 きの 改善
5 桁にわたる段階希釈に関して増幅反応を行いました。この範囲において、
傾きは –2.9 であり、好ましい効率の範囲から外れています。下段の曲線
最後に、比較を行うアッセイ間では、ベースラインおよび
では、検量線から希釈度の最も高い点を排除して効率を再解析しました。
傾きは –3.1 に改善し、アッセイを検証するために十分な効率であると考
えられます。
Threshold の設定が同一であることが必要な点に留意して
ください。
A.
トラブルシューティングは、リアルタイム PCR アッセイの検
証および使用において避けることのできない問題です。し
かし、以下のように重要点を整理して理解することにより、
5.1 イントロダクション
比較的簡単なプロセスとすることが可能です。
• プライマーダイマーがシグナルまたは反応効率の
低下に影響していないことを確認してください。
• プライマーおよびプローブの安定性を維持するのに
必要な対策を講じてください。
B.
• 反応評価の最終段階として検量線を作成して
ください。
• 90% 以下の効率は 110% を超える効率とは非常に
異なるものであることを理解してください。
• 必要に応じて装置の解析設定を検証し調整して
ください。
5
57
(A)ROXTM などのパッシブレファ
図 35. レファレンス色素に関する補正:
レンス色素のレベルが高い場合、ターゲットのシグナルが低くなります。
( B)ROXTM のシグナルを解析から除去すると、ターゲットシグナルは期
待される範囲に収まります。
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トラブルシューティング
5.2 よくある質問
Q:一定量のヒトゲノム DNA に含まれるコピー 数はいくつ
ですか?
Q:効率の異なる PCR 反応間の Ct 値を比較することは可能
でしょうか?
A:1 ゲノムコピー = 3 × 109 bp
A:効率の異なる PCR 反応間の Ct 値を比較することはでき
ません。その理由は、∆∆Ct の算出が PCR 効率は同等で
1bp = 618g/mol
1 ゲノムコピー =(3 × 109 bp)×(618g/mol/bp)
= 1.85 × 1012 g/mol =(1.85 × 1012g/mol)×
(1 mole/6.02 × 1023(アボガドロ数))
あるという仮定の下に行われているためです。このため、
未知の試料の定量を行う前にシステムの最適化を行うこ
とが必要です。又は検量線法を用いて効率を補正した
定量を行うことが可能です。
-12
= 3.08 × 10 g
各体細胞には 6.16pg(精子および卵細胞には 3.08pg)の
DNA が含まれています。 3.08pg のヒト DNA には、すべ
ての非反復配列が 1 コピー含まれています。したがって、
100ng の ゲ ノ ム DNA に は 、 100,000pg/3.08pg =
~33,000 コピーが、すなわち 1ng の DNA には 330 コピー
が含まれます。
Q:クエンチャーとは何ですか? なぜクエンチャーをリア
ルタイム PCR に使用するのですか?
A:クエンチャーとは、プライマーまたはプローブに結合さ
せた分子で、プライマーまたはプローブに結合している
蛍光色素からの発光を消光します。クエンチャーは一般
的にプローブをベースとするアッセイに使用され、同一
のオリゴに結合している蛍光色素から発光される蛍光を
Q:リアルタイム PCR アッセイの効率に配慮が必要な理由
消光したりあるいはその波長を変化させたりします。ク
エンチャーのこの作用は一般的には FRET(蛍光共鳴エ
は何ですか?
5.2 よくある質問
ネルギー移動)により生じます。蛍光色素が励起される
A:例えば 2 つの遺伝子の発現を比較したい場合(例えば、
とそ のエネ ルギーはクエンチャーに転移され、クエン
ノーマライザー遺伝子を使用する場合)には、測定され
チャーが異なる(より長い)波長で発光します。一般的な
た Ct 値が PCR 試薬中に存在する汚染物質による影響を
クエンチャーには、TAMRATM 色素、および非蛍光性のク
受けていないということ、あるいは最適化が行われてい
エンチャーなどがあります。
ないアッセイに起因するものではないということを確証
するために PCR 効率を確認しておくことが必要です。
Q:どのような場合に、2-Step ではなく1-Step の qRT-PCR
を使用するのでしょうか?
Q:私の行った実験では、より濃度の高いテンプレートから
より効率の低い増幅曲線が得られました。希釈試料から
2
得られた傾きは –3.4、R 値は 0.99 でしたが、高濃度の
2
試料から得られた傾きは –2.5、R 値は 0.84 でした。
A:2-Step qRT-PCR は、単一の RNA 試料から複数のメッ
セ ー ジ を 検 出 す るた め に 広く使 用 さ れ て い ま す 。
2-Step qRT-PCR では、さらに将来の解析用に cDNA を
保存しておくことが可能です。しかし、多数の試料を解
A:試料中に含まれる何かが PCR を阻害していると考えら
析する場合には 1-Step qRT-PCR のほうが操作は容易
れます。希釈された試料からより高い効率が得られたの
で、cDNA 合成と増幅の間にチューブを開ける必要がな
は、阻害物質(塩またはその他の成分)が、阻害効果を示
いため、キャリーオーバーによる汚染を最小限に抑える
す濃度以下に希釈されたためです。この現象に関する
ことが可能です。すべての cDNA 試料を増幅に使用す
説明は以下に示す参考文献などに記載されています。
るため、1-Step qRT-PCR はより感度が高く、わずか 0.1pg
• Ramakers C, Ruijter JM, Deprez RH et al.(2003)
Assumption-free analysis of quantitative
real-time polymerase chain reaction(PCR)data.
Neurosci Lett 339:62–66.
• Liu W and Saint DA(2002)A new quantitative
method of real time reverse transcription
polymerase chain reaction assay based on
simulation of polymerase chain reaction kinetics.
Anal Biochem 302:52–59.
• Bar T, Ståhlberg A, Muszta A et al.(2003)Kinetic
outlier detection(KOD)in real-time PCR. Nucleic
Acids Res 31:e105.
のトータル RNA でも解析可能です。
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5
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デジタル PCR
6
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デジタル PCR
6.1 デジタル PCR
61
6.2 qPCR vs. デジタル PCR
63
6.3 デジタル PCR 実験を始める
65
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60
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デジタル PCR
6.1 デジタル PCR
従来のリアルタイム PCR と比較したデジタル PCR
デジタル PCR におけるターゲットの定量
デジタル PCR では従来のリアルタイム PCR と同一のプラ
デジタル PCR による定量は極めて簡単な統計解析により行
イマーセットを使用します。すなわち、TaqMan® Assay ベー
います。各反応には 0、1 または数個の分子が含まれている
スの検出系を用いてデジタル PCR に使用することが可能で
ことが予測され、陽性シグナルと陰性シグナルの比は古典
す。大きく異なる点は、デジタル PCR では反応がナノリット
的なポワソン分布に従います。例えば、1,000 コピーのウイ
ルスケール以下の数万の区画に分割されて増幅されることで
ルスターゲットを含む、ウイルス DNA とデジタル PCR 試薬
す。その他の主な相違点を表 1 に示しています。正確なサイ
の混合物があり、その混合物を 1,000 の区画またはリアルタ
ズの反応区画を有し、多数の形態で入手可能な QuantStudioTM
イム PCR サイクリングおよびデータ収集の反復に分割した
Digital PCR Plate は、デジタル PCR に最適です(図 36)。
とすると、数学的には各反応にそれぞれ約 1 コピーが含まれ
デジタル PCR では、各ミニ反応がゼロまたは 1 個のターゲッ
ることが期待されます。もちろん、偶然的に 0、2 または 2 以
ト分子を含むようにすることが必要ですが、そのために通常
上のコピーを含む反応も非常に多数存在する可能性があり、
数段階の希釈で多数の反復をおいて実験します。デジタル
その可能性がポワソンモデルにより示されます。
PCR 実験においては、サーマルサイクル反応を行い、デー
タはリアルタイム(従来のリアルタイム PCR と同様)あるい
図 38 にポワソン分布モデルが示してあります。先ほどの例
はエンドポイントリードのいずれかによって取得することが
の続きとして、もし 1,000 反復のデジタル PCR 反応の 63%
可能です。デジタル PCR 用のシステムの中には、サーマル
が陽性シグナルを与えたとすると、各反応中のターゲットコ
サイクリング中に結果を読み取る機能を持たず、エンドポイ
ピー 数の同定は、まず y 軸上で 63% の点を見つけ、それに
ントのデータのみが取得可能なものもあります。最高の感
相当する 1 反応当たりの平均コピー 数を赤線のグラフ上か
度を必要とするアプリケーションに関しては、増幅プロット
ら見つけ出すことによって行われます。この例では結果は
を精査することにより、真の陽性結果を偽陽性結果と識別す
1 反応当たり 1 ターゲットとなります。計算は百分率ベース
ることが可能となり、各反応中に存在するターゲットのコピー
で行われていますので、結果は反復数にかかわらず同一と
数に関する情報を提供することが可能です。サーマルサイ
なります。しかし、反復数が多いほど信頼区間が狭くなりデー
クルおよびデータ取得の後、ミニ反応の陽性と陰性の比を
タの統計学的信頼度が向上するという違いがあります。
使用して、元の試料に含まれるターゲット分子の絶対量を算
出することが可能です。デジタル PCR で使用される基本的
6.1 デジタル PCR
な方法を図 37 に示しています。
6
61
図 36. QuantStudioTM Digital PCR Plate:各プレートには、48 個のサブ
アレイが配置されており、それぞれのサブアレイには 64 個のスルーホー
ルが含まれています。プレートには親水性コーティングおよび疎水性コー
ティングが施されており、底面の無いスルーホール中にキャピラリー作
用によって試薬が保持されることが可能となっています。
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デジタル PCR
0.039
0.062
0.122
Copies/reaction
1
核酸の単離と定量
2
3
試料とリアルタイム
PCR 試薬を混合、希釈
反応混合物を
4
多数の区画に分割
増幅および
データ収集
5
データ解析による
コピーおよび
反応の同定
• Ambion® および
Invitrogen® の試料調整製品
•Qubit® 2.0 Fluorometer
• TaqMan® Assay および
PCR マスターミックス
• QuantStudioTM Digital PCR
Plate 他
• QuantStudioTM 12K
Flex Real-Time
PCR System 他
• QuantStudioTM 12K
Flex Real-Time
PCR System 他
図 37. デジタル PCR は簡単なワークフローおよび汎用されている技術を使用しています。
表 1. 従来のリアルタイム PCR とデジタル PCR の比較
実験からのアウトプット
リアルタイム(qPCR)
デジタル PCR(dPCR)
Ct 、ΔCt 、またはΔΔCt
コピー数 /μL
定量
相対定量
絶対定量
結果に影響を与える
検出ケミストリ
結果は、左記のいずれの因子にも
(例:TaqMan® Assay
可能性のある要因
影響されません。
または SYBR® Green 色素)
使用したリアルタイム装置
PCR プライマーおよび
プローブの増幅効率
6.1 デジタル PCR
Poisson distribution
100%
90%
80%
Reactions
70%
60%
1 copy
2 copies
50%
3 copies
Positive reactions
40%
30%
20%
10%
0%
0.001
0.01
0.1
1
10
Average copies per reaction
図 38. デジタル PCR データからのターゲット量の算出にはポワソン等式
が使用されます。 デジタル PCR 反応の陽性結果の割合により、ポワソン
統計モデルに基づくターゲットの絶対量が決定されます。赤色の曲線が
ポワソン分布を示しています。 1 反応当たり(あるいは 1 反復当たり)の
コピー数を見つけ出すためには、陽性反応の割合を y 軸上で見つけ、赤
い曲線まで水平線を引き、交差点から垂直に線を降ろして 1 ウェル当た
りのコピー数を見つけ出します。 DigitalSuiteTM Software は、この統計
モデルを使用して QuantStudioTM Digital PCR Plate の各スルーホール
当たりのターゲットのコピー数を 95% の信頼区間で同定します。グラフ
上のその他の曲線は、実際に 1 反応当たり 1 コピーが得られる可能性を
示しています。 1 反応当たり 1 コピーが期待される値においては、反復
の約 36% が 1 コピーを、18% が 2 コピーをそして 5% が 3 コピーを含みま
す。残りにはターゲットが含まれません。
6
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62
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デジタル PCR
6.2 qPCR vs. デジタル PCR
少量の病原体の検出
大部分の病原体試料において、リアルタイム PCR(qPCR)に
Is virus present or not?
Is this result “real”?
よりハイスループットおよび低コストで病原体の存在の有無
に関する明確な結果が得られます(図 39)。しかし、デジタル
PCR は、曖昧さの無い結果を得ることが可能です(図 40)。
ウイルスレファレンススタンダード
ウイルス学者は、リアルタイム PCR による相対的定量のた
めの指標として、核酸スタンダードまたは核酸コントロール
を用います(図 41)。しかし場合によっては、ウイルスのス
タンダードが市販されていないケースや、それらが衛生行
政機関や学術研究機関からも入手できないケースが存在し
ます。 デジタ ル PCR は、RNA から調製した DNA または
図 39. TaqMan® Assay を使用した、HIV のリアルタイム PCR 検出:リア
ルタイム PCR により、ウイルスの存在の有無が決定されます。
cDNA を直接定量できるという、ウイルス検出法においては
ユニークな特長を有しているため、他のアッセイに使用す
るためのレファレンススタンダードまたはコントロールを作
製することが可能です。図 42 には、ウイルスレファレンス
のスタンダードの開発および検証に、どのようにデジタル
PCR を使用することができるかという例が示されています。
1 個の反応ウェルに 1 コピーのターゲットが含まれるように
希釈した試料中の、陽性および陰性のデジタル PCR 結果数
6.2 qPCR vs. デジタル PCR
を評価することによりターゲットを定量できます。
図 42 には、デジタル PCR を用いて、一連のスタンダードに
図 40. TaqMan® Assay を使用した、HIV のデジタル PCR 検出:デジタ
ル PCR により、1 mL 当たりのウイルスのコピー数を特定的に決定でき
ます。
関するウイルス価を決定した実験を示しています。この方
法を用いて、3 種類の異なる AcroMetrix® ウイルススタンダー
ドに関する試験を行いました。初期ウイルス価が高いため、
実験の第 1 段階として、スタンダードを 10 倍から 400 倍に希
釈して、一連の希釈試料を作製しました。デジタル PCR デー
タの解析によって、3 種類の試料の絶対定量を行いました。
図 41. リアルタイム PCR を使用した相対定量:リアルタイム PCR の精度
は解析法の対数的性質により制限され、絶対定量は不可能です。
6
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デジタル PCR
1/200
1/100
1/10
EBV
Concentration
(copies/mL)
1/400
0.062 copies/rxn
0.122 copies/rxn
1.210 copies/rxn
CMV
Concentration
(copies/mL)
0.039 copies/rxn
R2 = 0.998
0.116 copies/rxn
0.286 copies/rxn
3.060 copies/rxn
BK
Concentration
(copies/mL)
0.059 copies/rxn
0.097 copies/rxn
0.165 copies/rxn
0.362 copies/rxn
R2 = 0.986
2
R = 0.990
図 44. デジタル PCR による単一細胞解析:単一細胞に関して 8 つのサブ
アレイを使用し、デジタル PCR によりgapdh とnanog の比が検証され(単
一細胞プロトコル)、nanog 転写の単一細胞中における絶対定量ができ
ました。
3.508 copies/rxn
Relative dilution factor
図 42. デジタル PCR は、正確なウイルスのスタンダードおよびコントロー
ルを作製するために使用することができます。 デジタル PCR を使用して、
数 種 類 の 二 本 鎖 DNA ウイ ル ス、具 体 的 には Epstein-Barr ウイ ル ス
(EBV)、ヒトヘルペスウイルス 5(HHV-5)としても知られているサイトメ
ガロウイルス( CMV)、および BK ウイルス( BK)用の AcroMetrix® スタ
ンダードのセットの評価を行いました。ウイルスのスタンダードを、図に
示すように希釈し、デジタル PCR プレートを使用して定量しました。各
希釈度において、それぞれに 64 のスルーホールを含む 12 のサブアレイ
に関する PCR 反応を実行することにより、1 試料当たり 768 反復で PCR
反応を行いました(図中の左側のヒートマップ)。図中の右側のグラフは、
ターゲット検出の直線性と精度を示しています。
6.2 qPCR vs. デジタル PCR
図 43. リアルタイム PCR による単一細胞解析:前増幅により、単一実験
で多くの遺伝子の発現プロファイルが明らかにされます。
単一細胞解析
リアルタイム PCR は、多くの単一細胞のハイスループット
で低価格なスクリーニングを可能としますが、一般的に試料
の前増幅が必要です(図 43)。デジタル PCR は、前増幅を
必要とせずに高感度で絶対的、かつ正確な単一細胞の遺伝
子発現の測定を可能とします(図 44)。
6
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デジタル PCR
6.3 デジタル PCR 実験を始める
リアルタイム PCR 実験において、さらに高い精度を達成す
る必要がある場合には、デジタル PCR を使用してデータを
評価することが有用です。デジタル PCR 実験を行うために
は、各反応に含まれる分子の数が 1 または 0 となるように試
料を希釈する必要があります。 DNA を出発原料とする実験
に関する希釈係数は表 2 を、RNA を出発原料とする実験に
関する希釈係数は表 3 をそれぞれ参照してください。
表 2. DNA を出発原料とするデジタル PCR 実験用の希釈係数
デジタル PCR 実験用の希釈係数
OpenArray
®
コピー数 /μL
スルーホール 1 個
当たりのコピー数
100
30,303.0
200
40
200
1,000
90
27,272.7
180
36
180
900
80
24,242.4
160
32
160
800
70
21,212.1
140
28
140
700
60
18,181.8
120
24
120
600
50
15,151.5
100
20
100
500
40
12,121.2
80
16
80
400
30
9,090.9
60
12
60
300
20
6,060.6
40
8
40
200
10
3,030.3
20
4
20
100
5
1,515.2
10
2
10
50
1
303.0
2
0
2
10
0.5
151.5
1
0
1
5
0.1
30.3
0
0
0
1
6.3 デジタル PCR 実験を始める
試料濃度
(ng/μL)
上限(5X)
ターゲット(1X)
下限(0.2X)
分光光度計を使用して初期濃度を確立し、対応する各希釈
係数を決定してください。各列の希釈係数には適切な希釈
範囲の上限と下限が含まれています。
6
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デジタル PCR
リアルタイム PCR 実験の効率には差異があるため、この表
に関する実験的仮定を示します。
仮定
1 コピーのゲノム DNA = 3.3pg
反応ミックス設定の例
1X
2X マスターミックス
2.5μL
20X FAM Assay
384 ウェルの
0.25μL トランスファー
水
1.25μL
試料
1μL
プレート
表 3. RNA を出発原料とするデジタル PCR 実験用の希釈係数
デジタル PCR 実験用の希釈係数 *
OpenArray
®
リアルタイム
PCR の Ct
10μL rxn 当たりの
15
4,194,304
13,841.2
2,768.2
13,841.2
69,206.0
16
2,097,152
6,920.6
1,384.1
6,920.6
34,603.0
17
1,048,576
3,460.3
692.1
3,460.3
17,301.5
18
524,288
1,730.15
346.0
1,730.2
8,650.8
19
262,144
865.08
173.0
865.1
4,325.4
20
131,072
432.5
86.5
432.5
2,162.7
21
65,536
216.27
43.3
216.3
1,081.3
22
32,768
108.13
21.6
108.1
540.7
23
16,384
54.07
10.8
54.1
270.3
24
8,192
27.03
5.4
27.0
135.2
25
4,096
13.52
2.7
13.5
67.6
26
2,048
6.76
1.4
6.8
33.8
27
1,024
3.38
3.4
16.9
28
512
1.69
1.7
8.4
29
256
.84
4.2
30
128
.42
2.1
31
64
.21
1.1
32
32
33
16
34
8
35
4
36
2
37
1
コピー数の概数
スルーホール 1 個当たりの
コピー数の概数
上限(5X)
ターゲット(1X)
下限(0.2X)
6.3 デジタル PCR 実験を始める
* 試料と反応ミックスの比率はリアルタイム PCR と同一の値を使用。
6
リアルタイム PCR 実験からの Ct 値を使用して初期濃度を確
立し、対応する各希釈係数を決定してください。各列の希
釈係数には適切な希釈範囲の上限と下限が含まれています。
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