Prog. Med. 35(suppl. 1):404〜407, 2015 シンポジウム Ⅲ <アミオダロン注:毒薬指定から劇薬指定に変更となり何が変わったのか?> 心臓手術周術期におけるアミオダロンの位置づけ ─京都大学関連施設へのアンケート調査からの考察─ 南方 謙二 坂田 隆造* 表 1 術後心房細動発症の危険因子 はじめに 開心術後心房細動 (POAF) は,開心術施行症例の25 ~65%にみられ,多くは術後 2 ~ 3 日で発生する.心 機能低下例では血行動態の破綻,心不全の原因となり, 心室頻拍 (VT) を誘発する場合もある.また,徐脈傾 <術前の危険因子> <周術期の危険因子> ・高齢者 ・弁膜症手術 ・男 性 (僧帽弁>大動脈弁) ・肥 満 ・人工心肺使用 ・末梢血管疾患 (off─pumpCABGでや ・心房細動の既往 向のあるAFでは永久ペースメーカーが必要となるこ や少ない?) ・COPD ・大動脈遮断時間や人工 ・心臓弁膜症 とがある.さらに,脳梗塞を発症する場合もあり,入 心肺時間が長い ・心不全,低心機能 院期間延長による医療費の増大が問題となる1). ・左 房の拡大(特に僧帽 POAFの発症に関する術前の危険因子は高齢,肥満, 弁疾患) AF既往歴,心不全,低心機能などであり,一方,周術 ・2 本脱血 (僧帽弁手術, 三尖弁手術) ・カテコラミンの使用 ・ベースラインの心拍数 >100bpm 期の危険因子としては弁膜症手術,人工心肺使用,カ ・術前β遮断薬を内服し テコラミン使用などが知られている (表 1 ) . 2) ていない Villarealらは,冠動脈バイパス術 (CABG) 後のPOAF (文献 2 より引用) について,以下のように報告している.POAFを発症 した場合と,そうでない場合を比較すると病院死亡率 のオッズ比は1.7倍,脳卒中は2.0倍に増大した.退院後 れた前後で,POAFに対する予防法,治療方法はどの の追跡調査では,術前リスクを調整した後の解析でも ように変わったか,アミオダロンの使用状況,その位 遠隔期死亡率はオッズ比3.4倍となり,POAFは短期・ 置づけがどのように変化したか調査したので,以下に 長期の予後を大きく左右することが示唆された3). 報告する. ただしこのような背景のなか,POAFに対する予防 法,治療方法は各施設,医師によって異なっている. 対象と方法 実際には,それまでの経験に基づいた治療が継続して 当科主要関連施設26施設のうち,成人開心術を中心 行われる傾向にあり,残念ながらガイドラインに則っ に行っている18施設に対して,アンケート調査を実施 た適切な治療で行われているか定かでない. した. 今回われわれは,アミオダロンが劇薬に指定変更さ K.Minakata,R.Sakata:京都大学大学院医学研究科心臓血管外 科学 * 結 果 すべての施設から回答を得ており,関連施設グルー プ全体で,年間約4,500例以上の開心術が行われていた. ──72(404)── 第19回アミオダロン研究会講演集 A.全症例に対して 行っている施設 0 0 B.ハイリスク症例のみに対して 行っている施設 0 0 0 1 3 β遮断薬 アミオダロン Na遮断薬 ジギタリス K /Mg補正 1 4 3 図 1 POAF予防のための使用薬剤 表 2 POAFに対する治療(第一選択薬) 表 3 POAFに対する治療 (第二選択薬) ・ビソノテープ ・メインテート内服 ( 2 施設) ・シベノール静注 ・シベノール点滴 ・タンボコール ・アミオダロン注 ( 2 施設) ・K投与,血清K値を 5 mg/dL前後に補正 ・アスペノン ・経口β遮断薬 ・ベラパミル点滴静注 ・オノアクト持続静注 ・Mgを0.5Aから1A (20mEq) 投与 ・アミオダロン静注 ・経口アミオダロン ・ジゴキシン静注 ・ワソラン 5 mg+生食20mL,緩徐に静注 ・アミオダロン内服 ・オノアクト持続静注 ( 3 施設) ・アミオダロン150mgボーラス+維持750mg/日 ・β遮断薬増量 ・オ ノアクト持続静注(心拍数コントロ ー ル),メイン ・シベノールとワソラン静注 テート,ビソノテープ併用 ・アーチスト内服 ・メインテート内服 ・洞調律維持:ワソラン,ジギタリス ・サンリズム注1A,硫酸Mg注 1 本,ジギラノゲン注 1 ・リスモダン注orワソラン注orジギラノゲン注 本 1 時間,血清K値補正 登録商標マークは省略. ・サンリズム注( 5 施設) 登録商標マークは省略. 使用している治療薬について質問したところ,全例対 象施設では,アミオダロンを中心とした治療は 3 施設 1 .劇薬指定への変更を知っていましたか? (約38%) で,β 遮 断 薬 を 中 心 と し た 治 療 は 4 施 設 指定変更を知っていたと回答したのは約半数で,担 (50%) で行われていた (図 1 A) .一方,ハイリスク例対 当MRから,あるいは薬剤部から情報を得たとのこと 象施設では,アミオダロン治療は 1 施設 (25%) で,β であった. また, 使用頻度や適応基準に変化なかったか 遮断薬治療は 3 施設 (75%) で行われていた (図 1 B). 質問したところ, 救急救命室 (ER) , 集中治療室 (ICU) 4 .POAF治療の第一選択薬は? での使用頻度が増加し,さらに発症早期からの使用例 依然として,classⅠ抗不整脈薬に分類されるNa遮断 が増加したとのことであった. 薬が 7 施設 (37%) で使用されていたが,β遮断薬が 5 2 .アミオダロンは常備していますか? 施設 (26%) で,アミオダロンが 3 施設 (16%) で第一選 手術室にアミオダロンを常備しているか質問したと 択薬として使用されていた (表 2 ) . ころ,約半数で常備しており,また 2 施設で,変更後常 5 .POAF治療の第二選択薬は? 備するようになったとのことである.そのうち約75% 第二選択薬で最も多いのはβ遮断薬 ( 7 施設,32%) の施設はICUにも常備しているとのことである.ただ で,次いでCa遮断薬 ( 5 施設,23%) ,Na遮断薬 (4施 し,病棟でも常備している施設は半数程度であり,指定 設,18%) ,アミオダロン ( 3 施設,14%) の順であった 後に病棟でも常備するようになった施設はなかった. (表 3 ) . 3 .POAFの予防 (治療) を行っていますか? 6 .POAF治療の第三選択薬は? 全例を対象としている施設は約半数で,ハイリスク 第三選択薬で最も多いのはアミオダロン ( 7 施設, 例のみを対象としているのは約25%であった.実際に 44%) で,Na遮断薬 ( 3 施設,19%) ,β遮断薬 ( 2 施設, ──73(405)── Progress in Medicine Vol. 35 suppl. 1 2015 また必ず中心静脈ラインから投与するなど,工夫して 表 4 POAFに対する治療(第三選択薬) 治療している. ・アミオダロン注( 2 施設) ・オノアクト持続静注 ・β遮断薬 ガイドラインに基づいたPOAFの治療 ・ベラパミル静注 欧 米 の 最 新 ガ イ ド ラ イ ン 『2014AHA/ACC/HRS ・アミオダロン,シベノール,サンリズムなど ・経口サンリズム GuidelinefortheManagementofPatientsWithAtrial ・タンボコール100mg+ 5 %ブドウ糖100mL,10分で 4) Fibrillation』 によれば,POAFに対してβ遮断薬が推 点滴静注 奨されている (classⅠ) . ・ワソラン,ヘルベッサーなど ・ア ミオダロン注を開始し,内服へ切り替え継続 (2施 設) またアミオダロンは,POAFの予防に有効であり, POAFの発症リスクが高い症例に対して選択的に使用 する (classⅡa,levelA) とともに,難治例に対しては ・アミオダロン静注( 3 施設) 電気的除細動などを併用する (classⅡa,levelB) こと 登録商標マークは省略. が推奨されている. 13%) と続いた (表 4 ) . 一方で,洞調律維持のために非開心術患者と同等の 7 .POAF治療におけるアミオダロンの印象 (コメン 治療を行うことも推奨されている (classⅡa) .これま ト記入欄) での治療に加え,2014年版では,POAFに対してソタ 代表的なものを以下に示す. ロール,コルチヒンも推奨されるに至った (classⅡb) . ① 「 (POAFは) 脳梗塞のリスクにもなるので,電気的 ただし,上述の欧米のガイドラインにも,残念なが 除細動も含め,積極的なコントロールを目指している. ら,周術期心房細動に関する項目は見当たらない. 特に低左心機能例では予防的にアミオダロンを投与す 日本のガイドライン 『心房細動治療 (薬物) ガイドラ ることもあるが,投与方法が煩雑なために敷居が高い イン (2013年改訂版) 』5 )においても該当項目は見当た 印象をもっている. 」 らない.われわれ外科医が治療にあたる際に役立つよ ② 「予防的に術中からランジオロールの持続投与を う,今後ガイドライン改訂の際には,ぜひ一考いただ 行っているが,術中のカテコラミン使用の軽減なども きたいものである. 効果がある.メイズ手術後では洞調律維持のために, おわりに アミオダロンを積極的に使っているが,それ以外は, 発症後に対応しているのが現状である. 」 アミオダロンが毒薬から劇薬に指定変更されたもの の,その使用方法に大きな変化はみられなか っ た. アミオダロンをさらに使いやすく するために POAFの予防にはβ遮断薬が第一選択薬として使用さ れ,アミオダロンはハイリスク症例に使用されていた. アンケート結果のコメントにもあったように,アミ また,POAF治療では洞調律維持として,Na遮断薬の オダロン注 (アンカロン ) の添付文書に記載されてい 使用が依然として多く,アミオダロンは第二,第三選 る投与方法は,われわれ外科医にとって若干煩雑であ 択薬として使用されていた. さらに, 心拍数コントロー る.実際の臨床現場では,多くの血管作動薬は50mL ルとしてはβ遮断薬が多く使用されていた. シリンジポンプを使用することが多い.しかしながら, 保険適応の関係から,アミオダロン注は依然として 添付文書による投与方法ではアミオダロン注の投与は underuseの状態であると考えられるが,添付文書上の 輸液ポンプを使用し,かつ33mL/h,17mL/hと中途 煩雑な投与方法をより使い勝手のよいものに変更でき 半端な投与量で,記憶にとどめにくい.また,ドライ れば,さらなる発展が期待されると考えられる. ® 管理が求められる術後には総輸液量が多く,管理しに くい. 当科では,欧米のプロトコルに準じて,アミオダロ ン1,050mg/25時間として独自のプロトコルを作成し, 10mL/h, 5 mL/hと覚えやすい数値で投与している. そのほか,一時ペーシングでバックアップしておく, 文 献 1) JahangiriM,WeirG,MandalK,etal:Currentstrategiesinthemanagementofatrialfibrillation.AnnThoracSurg 2006;82:357─364. 2 )DiDomenico RJ, Massad MG:Pharmacologic strategies for prevention of atrial fibrillation after open ──74(406)── 第19回アミオダロン研究会講演集 heartsurgery.AnnThoracSurg 2005;79:728─740. 3) VillarealRP,HariharanR,LiuBC,etal:Postoperative atrial fibrillation and mortality after coronary artery bypass surgery. J Am Coll Cardiol 2004;43:742─ 748. 4 )JanuaryCT,WannLS,AlpertJS,etal:2014AHA/ ACC/HRS guideline for the management of patients withatrialfibrillation:executivesummary:areport of the American College of Cardiology/American HeartAssociationTaskForceonpracticeguidelines and the Heart Rhythm Society. Circulation 2014; 130:2071─2104. 5 )心房細動治療 (薬物) ガイドライン (2013年改訂版),循 環器病の診断と治療に関するガイドライン(2012年度 合 同 研 究 班 報 告) .(http://www.j ─ circ.or.jp/guideline/pdf/JCS2013_inoue_h.pdf) ──75(407)──
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