東・東南アジア人患者におけるINR値別のイベント発現状況

2016/9/9
ESC 2016レポート|抗血栓療法トライアルデータベース
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2016年8月27~31日,イタリア・ローマ
東・東南アジア人患者におけるINR値別のイベント発現状況―GARFIELD-AFより
2016.9.9
ESC 2016取材班
東および東南アジアでは,脳卒中/全身性塞栓症,大出血のいずれも,INR 1.6~2.0がも
っとも発現率が低い-8月30日,欧州心臓病学会学術集会(ESC 2016)にて,後藤信哉氏
(東海大学医学部内科学系環器内科教授)が発表した。
●背景・目的
ビタミンK拮抗薬(VKA)は,心房細動患者における血栓塞栓症発症抑制に有効である 1,
2)。しかしながら,VKAの効果はその治療の質に大きく依存し,PT-INR(以下INR)が治療
域を下回る場合は血栓塞栓症リスクが,上回る場合は出血リスクが上昇する。
VKAの推奨治療域は地域により異なり,欧米ではINR 2.0~3.0である一方3, 4),日本では,
後藤信哉氏
70歳未満では2.0~3.0,70歳以上では1.6~2.6とされている5, 6)。
ここでは,Global Anticoagulant Registry in the FIELD-Atrial Fibrillation (GARFIELD-AF)のデータを用い,東および東南ア
ジア(日本,中国,韓国,シンガポール,タイ)にて,新規に非弁膜症性心房細動(NVAF)と診断され,VKAを投与されてい
る患者の至適INR治療域について検討した。
●方法
GARFIELD-AFは新規にNVAFと診断(6週以内)された,脳卒中リスク因子を1つ以上有する18歳以上の患者連続例を登録
する,前向き観察研究である7)。
本解析は,ベースライン時にVKAを投与されていた東および東南アジアの患者を対象とし,1年間の追跡期間中のINRとイ
ベント発現との関連について分析した。抗血小板薬投与の有無は問わなかった。解析にはINRの測定間隔が90日未満の
場合のみとし,Rosendaal’s methodにもとづく線形補間法より,各INRレベルにある期間を算出8)。Poissonモデルを用い,
最終INR測定から30日以内の脳卒中/全身性塞栓症および重大な出血に関して,各INRレベルでの年間粗発現率,ならび
にINR1.6~2.0に対する罹患率比(IRR)を解析した。なお,イベント発症後およびVKA中断後のINR,ならびに測定間隔が90
日以上の場合は解析から除外した。
●結果
1. 患者背景
2010年5月~2015年9月の期間中,東および東南アジアから9,632例を登録した。このうち,ベースライン時にVKAを投与さ
れており,1年間に3回以上のINR値の記録がある患者1,835例(19.1%)を解析対象とした。診断時の平均年齢は67.8歳で,
女性が41.7%を占めた。平均CHA2DS2-VAScスコアは3.0,平均HAS-BLEDスコアは1.3であった。また平均INRは2.0で,<
1.6は35.8%,1.6~2.0は24.5%,2.0~2.6は23.8%,>2.6は15.8%であった。
2. 脳卒中/全身性塞栓症
http://att.ebm­library.jp/conferences/2016/esc/esc1606.html
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脳卒中/全身性塞栓症は,INR<1.6は2.8%/年(1.6~2.0に対するIRR 7.9,95%CI 1.0-62.9),1.6~2.0は0.4%/年,2.0~
2.6は1.8%/年(IRR 5.2,95%CI 0.6-44.4),>2.6は0.7%/年(IRR 2.0,95%CI 0.1-31.8)で,1.6~2.0でもっとも発現率が低
かった。IRRは1.6~2.0にくらべ<1.6,2.0~2.6,>2.6で高い傾向を認めた。なお,脳卒中の病型は,おもに脳梗塞であっ
た。
3. 大出血
大出血は,INR<1.6は0.7%/年(IRR 2.0,95%CI 0.2-21.8),1.6~2.0は0.4%/年,2.0~2.6は1.5%/年(IRR 4.2,95%CI
0.5-37.3),>2.6は5.6%/年(IRR 16.0,95%CI 2.0-127.8)で,1.6~2.0でもっとも発現率が低かった。IRRは,>2.6で大きく
上昇した。
4. 全死亡
全死亡は,INR<1.6は1.4%/年(IRR 4.0,95%CI 0.4-35.3),1.6~2.0は0.4%年,2.0~2.6は1.1%/年(IRR 3.1,95%CI 0.330.0),>2.6は2.1%/年(IRR 6.0,95%CI 0.6-57.6)であり,1.6~2.0がもっとも低かった。
●結論
東および東南アジアにて,新規にNVAFと診断された患者において,脳卒中/全身性塞栓症および大出血のいずれも,INR
1.6~2.0のレンジでもっとも発現率が低かった。このINRレンジは,日本のガイドラインの推奨値と矛盾しないものであった。
アジア人患者においてINR値により転帰に大きな違いがあるのかについては,更なるデータが必要である。
文献
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抗血栓療法トライアルデータベース
http://att.ebm­library.jp/conferences/2016/esc/esc1606.html
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