2015年8月29~9月2日,英国・ロンドン アスピリン併用の有無によるリバーロキサバンとワルファリンの比較 ―ROCKET AFより 2015.9.14 心房細動患者において,アスピリン投与例では血管死,全死亡,出血の発現率が高く,ま たCAD非合併例におけるアスピリンの投与は血管死と全死亡のリスクの増大に起因。一 方,アスピリン投与と抗凝固薬の種類に交互作用は認められず,頭蓋内出血や死因とな る出血についてはアスピリンの有無にかかわらず,リバーロキサバン群で低値-8月30 日,欧州心臓病学会(ESC 2015)にて,Rohan Shah氏(米国)が発表した。 ●背景・目的 アスピリンは,冠動脈疾患(CAD)治療において広く用いられている。一方,心房細動患者 の脳卒中予防においては抗凝固療法が必要となり,2014年に米国心臓病学会(ACC)/ 米国心臓協会(AHA)/米国不整脈学会(HRS)が発表した「心房細動患者の管理に関す るガイドライン」1)では,CHA2DS2-VAScスコアが2点以上の非弁膜症性心房細動(NVAF) Rohan Shah氏 に対する抗凝固療法は,ワルファリン,リバーロキサバン,ダビガトラン,アピキサバンのいずれもクラスIの推奨となってい る。心房細動患者では,冠動脈疾患を合併することも多く,すでにアスピリンが投与されているNVAF患者に対し経口抗凝 固薬を併用した場合のエビデンスは,十分とはいえない。 本解析は,NVAF患者を対象にリバーロキサバンとワルファリンを比較した大規模臨床試験ROCKET AF2)のサブ解析とし て,ベースライン時にアスピリンを投与されていたNVAF患者の特徴ならびに抗凝固療法による転帰を評価し,また,CAD 合併の有無別にアスピリン使用に関連するリスクについて検討した。さらに,アスピリン投与下のNVAF患者に対するリバ ーロキサバンとワルファリンの有効性・安全性についても比較した。 ●対象・方法 ROCKET AFでは,CHADS2スコア≧2点のNVAF患者14,264例をリバーロキサバン群(20mg/日,クレアチニンクリアランス が30~49mL/分の場合は15mg/日)またはワルファリン群(目標PT-INR 2.0~3.0)にランダム化。平均1.9年の追跡後,有 効性の主要評価項目(脳卒中または全身性塞栓症),副次評価項目(全死亡,血管死,心筋梗塞),安全性の主要評価項 目(重大な出血事象または重大ではないが臨床的に問題となる出血事象[NMCR]),安全性の副次評価項目(重篤な脳内 出血,致死的出血,出血性脳卒中)について評価した。 本解析では,対象患者をアスピリン投与の有無,CAD合併の有無,および抗凝固薬の種類(リバーロキサバン,ワルファリ ン)により層別化し,Cox比例ハザードモデルを用いて各患者集団における評価項目を比較した。なお,アスピリン投与の 有無(投与例5,205例,非投与例9,059例)はベースライン時および試験期間中の併用の有無により評価し,有効性に関す る評価項目はintention-to-treat(ITT)解析,安全性については安全性解析対象集団/治験薬投与下での解析を行った。 ●結果 1. アスピリン投与の有無別の患者背景 アスピリン投与の有無別で有意差が認められたのは,年齢(アスピリン投与例72歳,非投与例73歳),持続性心房細動(そ れぞれ79%,82%),心筋梗塞既往(それぞれ22%,14%),うっ血性心不全(それぞれ68%,59%)であった。また,ベース ライン時にビタミンK拮抗薬を投与されていた症例が少なかった(それぞれ34%,79%)(すべてp<0.0001)。 2. アスピリン投与の有無別の評価項目 アスピリン投与例は非投与例にくらべ,全死亡(5.67%/年,4.19%/年,補正後ハザード比[以降HR]1.27,95%CI 1.131.42 , p<0.0001 ) , 血 管 死 ( 3.76 % / 年 , 2.61 % / 年 , HR 1.29 , 1.11-1.49 , p = 0.0006 ) , 重 大 な 出 血 事 象 お よ び NMCR(16.58%/年,13.75%/年,HR 1.32,1.21-1.43,p<0.0001)がいずれも多かった。 脳卒中または全身性塞栓症(2.53%/年,2.13%/年,p=0.094)のほか,心筋梗塞,重篤な脳内出血に関しては有意差を 認めなかった。 3. 抗凝固薬の種類とアスピリン投与の有無別の評価項目 次に,リバーロキサバン群とワルファリン群における有効性の評価項目について,アスピリン投与の有無別に検討した。ア スピリン投与例において,全死亡はリバーロキサバン群にて低値で(リバーロキサバン群:5.14%/年,ワルファリン群: 6.19%,HR 0.83,0.70-0.99),血管死(3.56%/年,3.95%/年,HR 0.91,0.74-1.13),脳卒中または全身性塞栓症(2.34%/ 年,2.71%/年,HR 0.88,0.68-1.14),心筋梗塞(1.37%/年,1.24%/年,HR 1.14,0.80-1.64)には差を認めなかった。アス ピリン非投与例についても同様の結果で,治療薬とアスピリンの投与の有無での交互作用を認めなかった。 安全性の評価項目については,アスピリン投与例では,頭蓋内出血(リバーロキサバン群:0.49%/年,ワルファリン群 0.92%/年,HR 0.54,0.31-0.95),死因となる出血(0.26%/年,0.61%/年,HR 0.43,0.20-0.89),出血性脳卒中(0.29%/ 年,0.59%/年,HR 0.49,0.24-1.01)はいずれも,リバーロキサバン群で一貫して低値であった。これはアスピリン非投与例 でも同様であり,治療薬間とアスピリンの投与の有無での交互作用もなかった。 4. CAD合併とアスピリン投与の有無別の評価項目 CAD合併の有無別にアスピリン投与例と非投与例での評価項目を比較した。CAD合併のない症例においては,アスピリン 投与例は非投与例よりも全死亡(5.12 %/年,3.61%/年,HR 1.42,95%CI 1.23-1.64)および血管死(3.26%/年,2.16%/ 年,HR 1.44,1.20-1.73)が多かったが,CAD合併例においては全死亡(6.87%/年,6.65%/年,HR 1.03,95%CI 0.851.25),血管死(4.86%/年,4.47%/年,HR 1.06,95%CI 0.84-1.34)ともアスピリン投与の有無による差はなく,CAD合併と アスピリン投与の有無には交互作用を認めた(全死亡:交互作用のp=0.0085,心血管死:交互作用のp=0.041)。 その他の有効性および安全性に関する評価項目に関しては,各患者集団の間での有意差や交互作用はみられなかった。 ●結論 ROCKET AFのNVAF患者において,アスピリン投与は血管死,全死亡,大出血事象およびNMCR発現率の上昇と関連して いた。アスピリン投与と抗凝固薬の種類との間に交互作用はなく,全体成績と同様に,頭蓋内出血や死因となる出血,出 血性脳卒中に関しては,アスピリン投与の有無に関わらず,リバーロキサバン群で低値を示した。なお,CAD非合併例で は,アスピリン投与例は非投与例にくらべ血管死および全死亡のリスクが増大が認められた。 文献 1. January CT, et al. American College of Cardiology/American Heart Association Task Force on Practice Guidelines. 2014 AHA/ACC/HRS guideline for the management of patients with atrial fibrillation: a report of the American College of Cardiology/American Heart Association Task Force on Practice Guidelines and the Heart Rhythm Society. Am Coll Cardiol 2014; 64: e1-76. 2. Patel MR, et al. the ROCKET AF Investigators. Rivaroxaban versus warfarin in nonvalvular atrial fibrillation. N Engl J Med 2011; 365: 883-91. Shah R, et al. Rivaroxaban vs. warfarin with concomitant aspirin use in patients with atrial fibrillation: findings from the ROCKET AF trial Eur Heart J 2015; 36(abstract supplement): 345. 抗血栓療法トライアルデータベース
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