匡習 急性前立腺炎より生じたと思われる肝膿蕩の 1例 笠井 利則 守山和道 上問健造 小松島赤十字病院 桜井紀嗣 泌尿器科 要旨 急性前立腺炎より生じたと思われる多発性肝膿壌の l例を経験したので報告する 。症例は 、4 7 歳男性。高熱が 3週間 8. 2Cの発熱、血液検査での 持続し 、頻尿等の排尿障害もあるため精査加療目的で当科紹介された 。初診時所見では、 3 0 著明な炎症所見、軽度の膿尿が認められた 。直腸内指診では前立腺に著明な圧痛があり、 KUB、尿道造影で前立腺部 7X1 2 0 1 0 1の結石陰影を認めた 。尿道結石症および急性前立腺炎と診断した 。また腹部エコ ー、腹部 CTで多発性 尿道に 1 肝腫痛を認めたため 、肝生検を施行し肝! 雌;虜と診断された 。その後、化学療法 にて炎症所見も改善し 、砕石術 を施行し た。化学療法を 開始して約 1 0 週間後の腹部エコーでは肝膿傷は認めなかった 。 キーワード :尿道結石症、急性前立腺炎、肝膿蕩 初診時検査成績 はじめに 急性前立腺炎より生じたと思われる多発性肝膿蕩の 二 杯 分 尿 所 見 第 l尿] pH6. 5,蛋 白 (2+), l例 を経験したので若干の文献的考察を 加 えて報告す . 1/hpf , WBC35. 7/h p fo [ 第 2尿] ; 尿糖(一 ),RBC7 る。 pH6.5,蛋白(1+),尿糖(一),RBC1 .8/hp f , WBC 。 1 0 .7/hpf 症 例 尿細菌培養 :陰性。 r m r l,Hb11 .8g/de, 4 Ht3 5. 9%,WBC1 7 9 0 0/m n 1,PLT5 5. 3X1 0 /r m r l。 4 末梢血液所見 :RBC3 6 5X1 0 / 患者 :4 7 歳、男性。 主訴 :発熱、頻尿等の排尿障害。 9 7 0年(19歳時)、虫 垂 炎。 1 9 8 6年 ( 3 5歳 既 往 歴 :1 血液生化学所見 :Na1 3 4mEq/,1 K4 .5mEq/,1 C1 94mEq/,1 Ca1 O.1mg/ c , e L BUN7mg/c L e,Cr .O. 6mg/ d e ,UA2. 8 n 沼/ d e,P3.1 m g/ d e, GOT36IU/l ,GPT 時)、右尿管結石症。 家族例 :特記すべきことなし 。 4 1IU/,l LDH485IU/,l CRP26.8 6 4IU/,l y-GTP1 9 9 7 年秋頃に 肉眼的血尿を認めた ことがあ 現病歴 :1 m g/d e 。 りその後 、頻尿気味で あった 。 1 998年 1月末頃から高 熱 ( 3 9t) が出現し、市販の風邪薬を内服していたが 画像診断 0日、近 医を受診した 。既往歴 解熱しないため 、 2月 1 などから尿路感染症に よる発熱が疑われ、 2月 1 2日 、 精査加療 目的に 当科紹介された 。 0 8 . 2C、血圧 1 2 6/7 3 0 1 m H g、脈拍 初診時現症 :体 温3 8 4回/分、整。 KUB ( 初診時):左腎結石と腸脱 頚 部 前立腺部尿 道に 1 7X1 2 m mの石灰化 陰影を認めた ( F i g .1)。 UCG ( 初診時) :前立腺部尿道の石灰化 陰影に一致 F i g.2。 ) して陰影欠損を認め、尿道結石症と診断した ( 右腰背 部 側腹部に圧痛があり、直腸内診では 、前 立腺は、超栗実大 、弾性軟、圧痛が著明であ った。 治療 経 過 検査所見より尿道結石症に伴う急性前立腺炎と考え VOL .4 NO. 1 MARCH 1 9 9 9 急性前立腺炎より生じたと思われる肝臓蕩の 1例 69 メロペネム ( MEPM)1 .0g/日の点滴治療を行い、 4日目より解熱した 。 また肝機能異常を認めたため内 科に紹介し腹部 CT、エコー等を施行した。2月17日 、 腹部 CTで多発性肝腫癌を認めた ( Fi g .3)。画像上、 転移性肝腫蕩も否定できず、 2月19日、経皮的肝生検 を施行した 。病理組織結果は、多数の好中球を認める のみであり多発性肝膿虜と診断された 。メロ ペ ネムの 点滴治療で炎症所見は軽快したため、 2月2 5日、経尿 道的腸脱砕石術を施行し た。結石分析結果はシュウ酸 カルシウム 88%、リン画変カルシウム 1 2%であった 。 ( F i g . 1) 1 9 9 8年 2月1 2目、KUB ( F i g .3) 1 9 9 8年 2月1 7日、腹部造影 CT 多発性肝腫癌を認めた 。 ( 内部 lowdensityで周囲淡く enhanceされた 。 ) 術後経過 :炎症所見は改善 したが、腹部 CT、エコー で依然として多発性肝! 陸揚を認め、肝機能障害もあ っ たため、メロベネムの点滴治療を継続した 。その後、 腹部エコーで肝膿蕩のサイズ縮小を 認め、 3月17日退 院とな った。化学療法を開始して約 1 0 週間後の 4月27 日の腹部エコーでは肝膿壌 は認めなかった 。 考 察 肝!陸揚は、肝内に膿が限局性に集積した状態であ 2目、UCG ( F i g .2) 1 9 9 8年 2月1 初診日入院の上、内視鏡的に尿道結石を I J 刺光内に押し り、病原菌が脈管 を介する場合と、近接臓器の炎症か ら直接侵入する場合がある 。発生原因により化膿性肝 膿蕩とアメーパ性肝膿療に大別される 1)-3)。本邦にお 戻し尿道バルーンカテーテル留置の緊急処置を行っ ける肝!陸揚の 90%以上は、胆道系の細菌感染から生じ た。結石は、約 1 . 5 c m大で、黄色、表面不整であ った 。 てくる化膿性肝膿蕩である 2) 。感染経路として、経胆 70 急性前立腺炎より 生 じたと 思われる肝)j農場の l仔 J I KomatushimaRe dCros sHospit a lMedical J ou r nal 道性 、血 行│ 生、直達性、外傷性、特発性に大別できる 。 ルパペネム系抗生物質の点滴治療単独で治癒が可能で . iKleb s ielaお よび Pseudomona sなど 起炎菌は E .c ol あったと思われる 。若年者で 、体力があったことも治 のグラム陰性菌や嫌気性菌 な どの化膿性細菌である 。 療に よ く反応 した要 因であったと 思 われるが、逆 にそ 従来 、若年者にみら れていた急性化膿性虫垂炎後の二 陸揚を 引 き起こ した こ とを考慮す のような患者でも肝l 次性肝膿傷は 、早期診断 と治療法の進歩により減少傾 ると 、今後とも稀だが日常診療を行うにあたり注意を 向にある 。一方 、免 疫不 全状態、 糖 尿 病 患 者 な ど の する 必要があると思われる 。 c ompromis edhos tに続発する肝膿壌の頻度が増加傾 。 また肝jJ農場は画像上特異的な所見が乏し 向にある 3) 文 献 く 、 他 の肝占拠性病変との鑑別 が困難なことがあ る4) 。そのような場合、積極的にエコーガイド下穿刺 1)田中直英,荒川泰行 :肝膿療の起 こ り方と治療方 術を施行すべきである 。臨床 上 、起炎菌を推定して em p i r i ct her apyを開始 しなけ れ ばならないことも多 法 , med ici na 1 :6 8 -70, 1 997 2)柴田実, 三 田 村 圭 二 :肝 膿 蕩、med i c i na 3 く、起炎菌を考慮し た うえ で胆汁への移行 の良好 な抗 。小さい膿傷、 生物質を選択することが重要である 5) 5 12 -5 14, 1 997 3)越田容子,久米 光,岡 安 勲 :肝膿蕩一病理形態、 軽症例では抗生物質のみで治癒が可能である 。 また大 きい膿療に対してはエコ ーガイド下経皮経肝ド レナー 学一、臨床消化器内科 1 3:1 92 3 -1 927、1 996 4)鈴木滋 ,古井滋,森耕一 :肝膿蕩一画像診断一 , ジ、内視鏡的胆道ドレナ ー ジなどを施行することに 臨床消化器内科 1 3:1 9291 9 37, 1 996 よって、最近ではほとんどの症例が開腹術を施行する 5)青木ますみ,園井乙彦 :肝膿場 。 自験例 は、尿道結石症に伴う ことなく治療できる 6) その変遷一, I 臨床消化器内科 1 3:1 9 3 9 -1 947,1 996 6)吉田博,坂田研二,谷川久一 :肝膿蕩一 内科治療 急性前立腺炎より生じた 二次性多発性肝膿虜 ( 血行性 感染)であると考えられ 、調べ得た限りでは症例報告 とその限界 を認めない 。 また血行性感染で あ るため、 胆汁への移 1 996 ,臨床消化器内科 原因菌の特徴と 1 3:1 995-2003, 行より 血行性に 十分に 肝膿蕩への移行が可能であるカ AC a s eo fL iv e rA b s c e s sI n d u c e db yA c u t eP r o s t a t i t i s To sh in or iKASAI,Ka zumi c iMORIYA MA .Kenz oUEMA .Nor it suguSAKURAI D ivi s i ono fUr o l ogy,Koma t sus h imaRedCr o s sHos p it al r i e n ceo fac a seo fm u l t i p lei l v巴ra bs c e s se sa p p a ren t lyi n d uc edbya c u t 巴p r o s t a t i t i s Wer e p o rtour巴xpe Thep a ti e ntwasa47 ・y e ar o l dman,whohadh ighf e v erf or3weekst o g e therwi t hdy sur i ai n c l u d i n gp o l lak i u r i aand wasi nt r oduc edt oo u rde pa rtme n tf o rc r os se x aminat ionandt r e a tment s. Thef i n d i ng sa tt hei n it i a le x amina t i o nwer e 2C,ma r kedi n f la mmatoryr e a c ti o nbyt hehe ma t ol ogi c alexamina ti o nandm i l dpyu r ia . A di s t i n c t h ighf e v ero f3 8. r os t a t ebyt her e c t alp al pa ti o na ndKUBa ndu r e t h r o gr aphyr evea l edas t ones h adow o f1 7 t e nde r n e s swasf el ti nt h巴 p x12mmi nt hepr os t a ti cu re th ra . Ur e th rals t on ea nda cu tep r os t a ti t iswer ed iagno s eda ndanemer gen cyendos co p ic ope r a t i o nt op u tba ckt hes t on et ot h巴 b la dde rwasp e r f ormed. Att hes amet ime ,a bdomina lechogr a phyandCT i c hwered iagno s edi l v e ra b s c e s s e sbyas ubs equentb iopsy. Then. r e v e al e dmult i pl eo c cu rr enc eo fhe pa t i cmasses,wh i n f lam mat o ryf i n d i ng swe r eimpr ovedbyc hemo the r a pya ndc r us hi ngo fc al cu l usi nt heb l a d de rwaspe r f o r med . Li ver swasno tde t e c t edbyabdomina le chogr aphyabout1 0weeksa f t ert hes t ar to fc he mo the r apy a bs c巴s 0 Ke ywo r ds: u r巴t h ra ls t o ne ,a c ut ep r os t at i t is , i lvera bs c e ss ,1 99 9 Koma t us himaRe dCr o ssHos p it al Med ic a lJ o ur na l 4: 69-71 VOL .4 N O.1 MARCH 1 9 9 9 急性前 立腺炎より生じたと思われる肝臓務の l例 7 1
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