記事サンプル

法哲学と法哲学の対話
法 哲学と
法 哲学 の
対話
れたと考えるだろうか。あるいは,この異星人
の告げている我々の運命が正しいとして,我々
はどのようにしたら人権を保障することができ
ときには法をめぐって
るのだろうか。
名古屋大学教授
大屋雄裕
OHYA Takehiro
Ⅰ. 人 類と動 物 の 権 利
人権についてはしばしば,「人類の多年にわ
たる自由獲得の努力の成果であって……侵すこ
とのできない永久の権利」(日本国憲法 97 条)
第1回
テーマ 1
権利と
人権のあいだ
人権の基礎
であるとか,「すべての人類の生得の権利であ
り,その保護と促進は諸政府の第一の責任であ
る」(世界人権会議・ウィーン宣言及び行動計画
Ⅰ.
1)などと表現される。それが我々の社会を
成立させている最も根本的な制度ないし理念の
一つであることも間違いないだろう。しかしそ
の性質がどのようなものかということは,あま
り 明 確 で な い。 そ も そ も そ れ は 人 間 の
(human) 権利(rights) なのか,
「人権」とい
う固有のものなのか。権利の一環として語り得
るものだとすれば,その本質は意思=自己決定
提題
なのか・利益保護なのかといった問題もある。
あるいは「人類の生得の権利」(birthright of
all human beings) だとされる人権 (human
rights)は,
「動物の権利」(animal rights)と同
じものなのか,違うものなのか。違うとすれば
どのように異なるのか。動物の権利をめぐる主
4
4
圧倒的な技術力を持ち,実力では人類が到底
張の一つは,種の生存環境・生存条件を保護せ
対抗できないような異星人が突如地球に来訪し
よというものである 1)。奄美大島でのゴルフ場
たとしよう。彼らによれば,人類は地球の環境
開発に反対し,生息する動物 4 種を原告に加え
資源を浪費しすぎており,人口増加をこのまま
て提訴された「アマミノクロウサギ訴訟」(動
放置すると生態系が崩壊して絶滅の危機に瀕す
物を原告とする部分につき却下。鹿児島地判平成
るという。それを回避するためには個体数を一
13・1・22 裁判所 HP) は,その典型と考えるこ
定レベルに調整する必要があるので,彼らが適
とができるだろう。だがここで争われているの
切な基準に基づいて選抜を行い,過剰な個体を
は種としての集団的利益・集団的権利であり,
「除去」することにしたと通告されたとしよう。
その種に属する全個体が個別に持つと想定され
我々はここで,我々の持つ人権が適切に配慮さ
る権利ではない。たとえば致死的な感染症に罹
1)
このような主張は「自然の権利」(rights of nature)
に基づくものとして,
(後述Ⅳ)苦痛を免れる個体の権利と
しての「動物の権利」と区別されることが多いが,以下では
まず,主体が人類か動物かという観点に立ってその両者を
「動物の権利」として論じる。
2 ) Ronald Dworkin, “Introduction”, Taking Rights
Seriously, Harvard University Press, 1977. また参照,ロナル
ド・ドゥウォーキン(森村進 = 鳥澤円訳)『原理の問題』(岩
波書店,2012 年)第 8 章「リベラリズム」。
3 ) ロバート・ノージック(嶋津格訳)『アナーキー・国
家・ユートピア――国家の正当性とその限界』(木鐸社,
1995 年)43-52 頁。
48
法学教室
Apr. 2015 No.415
4
4
4
4
4