2016/1/17 第14章 工学倫理 第14回 教科書:技術者の倫理入門 第四版 杉本泰治 高城重厚 著 杉本泰治,高城重厚 第14章 技術者の財産的権利 第15章 技術者の国際関係 工学倫理 第14回 1 14.1 企業財産の持ち出し-1 • ナイロンの発明者の物語(1983年2月10日日経のコラム) カロザース:ナイロンを発明した天才化学者 勤務先のデュポン社の待遇 海外旅行や飲食費など、会社が全て持つという約束。 カロザースの能力を非常に高く評価。 機嫌を損ねないように、引き抜かれないようにした。 技術者の専門的能力が稼ぎ出す価値の大きさを示す。 技術者 労働力⇒企業に提供 企業から⇒給与などを受け取る 余剰価値の高い技術者⇒企業の所得となる 大きな余剰価値を持つ技術者は不満⇒解消へ 企業内における給与などの待遇UP要求 3 工学倫理 第14回 より良い雇用条件の企業に移籍など この事件における技術者の法的責任 企業が開発したCADシステム=情報の盗み出し ⇒まだ罰則規定なし。「企業秘密漏示罪」は未整備。 刑法:コピー=財物と認定 ⇒業務上横領罪(刑法253条) 主犯ら3人=懲役2年6月~1年 執行猶予3~2年 主犯ら3人=懲役2年6月~1年、執行猶予3~2年 執行猶予がついた理由 コピーしなくても、自ら作成可能 コピーは新システムまでのつなぎ⇒情状酌量 他人のアイディアを盗んだ訳ではない 産業スパイなどとは異なる 設計書という有形の財物=会社のもの 自分らの頭脳にあるもの=技術者のもの 工学倫理 第14回 14.1 企業財産の持ち出し-2 新潟鉄工資料持ち出し事件 1980年頃 CADソフトを1セット約1億円で販売 1981年秋 ノウハウの流出を恐れて外販停止 仲井部長代理ら4人が、外販停止方針に抵抗。 外販による他流試合により技術が向上⇒却下 不満⇒CADソフトのシステム設計書を持出し 満 設計書を持出 CADは、仲井らが約10年をかけて作り上げたもの。 1983年2月 元技術幹部らが業務上横領で逮捕 多額の会社資金を使った技術開発の成果=CAD 技術開発の成果=自分のものという思い込み コンピュータ技術者=他社に簡単に移れる 会社の方針転換⇒安易な資料持ち出しに走る 工学倫理 第14回 4 14.2 特許権収入-1 14.1 企業財産の持ち出し-3 工学倫理 第14回 技術者の財産的権利 企業に勤務する技術者には給料が、依頼者から業務 を受ける技術者には報酬がある。技術者は、給料・報 酬などの収入で、基本的人権をもつ者として健康で文 化的な生活を営むとともに、専門家としての能力をつ ねに更新する努力をする。収入はそのようにして消費 されるほか、収入の一部によって経済的な財産が形成 される。市民としての生活にも、技術者としての生活 にも、財産は生活を安定させる大切な要素である。技 術者の財産的権利といえば、真っ先に特許権が挙がる。 しかし、もっと視野を広げよう。 14.1 企業財産の持ち出し 14.2 特許権収入 14.3 起業の自由ー会社法制 2 工学倫理 第14回 14.4 まとめ 5 • 青色LED特許紛争 中村修二氏:青色発光ダイオード(LED)開発者 1999年 日亜化学工業退社⇒UCSB教授へ 特許に対して日亜から2万円だけ受け取る。 「社員だった当時から(自分の発明に対する)報 社員だった当時から(自分の発明に対する)報 酬は少ないと感じていたが、裁判などに訴えるの は(結論が出るまでに)時間がかかるし、考えてい なかった」 退職金5000万円の代償に秘密保持契約を迫る。 何も研究できなくなる内容なので断る。 工学倫理 第14回 6 1 2016/1/17 14.2 特許権収入-3 14.2 特許権収入-2 2000年 日亜が中村氏を訴える⇒中村氏が怒る 2001年 中村氏が、日亜に特許が自分にあること の確認か、「相当の対価」として20億円請 求料を求める。(一審判決前に200億円に引 上げ) 2004年 特許料200億円の支払いを命じる 特許料200億 支払 を命じる (発明対価604億円、差額404億円にも請求 権) 巨額の特許料が日本全土に衝撃 2005年 控訴審6億800万円で和解 (著しい減額に注目) 工学倫理 第14回 7 14.2 特許権収入-4 改正後(同条4項) 勤務規則等で対価を定める場合 ・ 基準の策定に際して使用者と従業者との間で行われ る協議の状況 ・ 策定された当該基準の開示の状況 ・ 対価の算定について行われる従業者からの意見の聴 取の状況 状 対価の基準が不合理でなければ裁判所が尊重する趣旨 同条5項 定めがない又は定めが不合理な場合 ・ その発明により使用者等が受けるべき利益の額 ・ その発明に関連して使用者等が行う負担、貢献 ・ 従業者等の処遇その他の事情を考慮 9 工学倫理 第14回 14.2 特許権収入-6 • 特許権収益の配分 発明報奨制度 従来は数千円~数万円 権利意識の高まり⇒最高1億円以上を用意する企業も 2001年5月 オリンパス光学判決 発明の対価は企業が一方的に決められない。 2004年1月29日 日立製作所、光ディスク特許訴訟 発明対価として1億6284万円の支払い命令。 2004年1月30日 日亜化学青色LED 200億円支払い命令 2004年2月24日 味の素、人工甘味料=アスパルテーム 約2億円の支払い命令 ⇒1億5000万円で和解(会社の利益の約4%に相当) 2005年4月 特許法の改正 11 工学倫理 第14回 今後多くの訴訟を経て⇒合理的な対価が形成される。 工学倫理 第14回 • 職務発明(特許法第35条1項) 企業などに勤務する技術者の職務上の発明 発明者=特許を受ける権利 企 業=通常実施権のみ(専用実施権は別) しかし、通常は企業が特許権者、専用実施権 ∴発明者=相当の対価の支払いを受ける権利(同条3項) 改正前(同条4項) 対価の額は、以下を考慮して決定。 ・その発明により使用者等が受けるべき利益の額 ・その発明がされるについて使用者が貢献した程度を 考慮 青色LED特許係争をはじめ発明報酬の訴訟が続く。 この規定のあいまいさが訴訟を招く原因 8 工学倫理 第14回 ⇒2005年4月1日に改正 14.2 特許権収入-5 収益に結びつくまでには,企業のさまざまな人 材が関わるから、発明者のみに報奨するのは公平 を欠く という産業側の主張がいれられた。 ・・・・青色LED訴訟の控訴審で、裁判所の和解勧 告による著しい減額は 法改正を先取りしたとい 告による著しい減額は、法改正を先取りしたとい えるようだ。 工学倫理 第14回 10 14.2 特許権収入-7 知的財産の性格 発明の全て=特許なら デュポンや日亜は特許権問題に専念すればよい 特許≠発明の全て =書面として特許出願された部分のみ 発明=人に知的活動によって生じる知的財産 発明 人 知的活動 よ て じる知的財産 知的財産-特許=発明者の頭脳に残る 企業でも、新規の知識全て≠特許出願 (ノウハウの部分が大) 知的財産=特許権など法定の権利+ノウハウ 発明対価の係争=法定の権利のみを対象 発明者の頭脳に残るノウハウ=別問題 工学倫理 第14回 12 2 2016/1/17 14.3 起業の自由-会社法制-1 14.2 特許権収入-8 特許係争の課題 ① 企業では係争に人的、経済的な資源を費やし ても、事業上の経費として支出できる。 ② 企業は経営者団体など産業界の支援があり、 その砦に守られている。 ③ 技術者の意見 技術者の意見が通るようになるには、社会に 通るよう なる は、社会 おいて技術者の連帯勢力が強くなり、主張する ようにならなくてはならない。 工学倫理 第14回 13 14.3 起業の自由-会社法制-2 • 最低資本金 会社法:当初、最低資本金の定めなし。 1990年 改正 最低1000万円と定められた。 理由=「会社の財産的基礎を強化するため」 最低1000万円を用意しないと会社設立できない。 当時70 25%が1000万円未満 5年以内に1000万円以上 当時70.25%が1000万円未満⇒5年以内に1000万円以上 or強制的に解散 2003年2月 特例措置により最低資本金の規定を撤廃 3年間で 最小の資本金=1円の企業:1583社設立 2006年5月 新しい会社法 最低資本金の規定なし 1990年 会社の財産的基礎を強化する目的は? 15 工学倫理 第14回 資本金の規定撤廃⇒起業の自由が前進 14.3 起業の自由-会社法制-4 • 株式オプション=ストックオプション 自社の株式を、予め決められた価格で購入できる権利。 1株50円×2万株=100万円で購入、市場で売却 2000円×2万株=4000万円-100万円=3900万円 職務に励む⇒株価が上昇⇒報酬が増える 貢献度の大きい社員に株式オプションを付与 1997年7月 法改正によって株式オプション実現 2002年4月 改正によって使いやすい新株予約権に 2007年3月 価値を計算して損益計算書に反映 株式オプションは、成長性が高く、株式が上場され、株価 が上がる可能性の大きい企業に適する。 ・・・・発明対価への事業利益の分配としても利用できる。 17 工学倫理 第14回 工学倫理 第14回 技術者の生き方 企業で働く or 事業を起す 圧倒的大多数は前者、後者を選ぶのは少数。 ベンチャー企業 リスクを負いながら努力して成功を勝ち取る。 現在の有名企業も20~30年前はベンチャー。 被用者となる技術者⇒安定成長に寄与 企業家となる技術者⇒国(社会)の発展に寄与 日本には企業家を育てる風土に乏しい。 戦後の勃興期⇒安定志向の閉塞状態へ 会社法:自由主義社会で発達 日本では明治期に欧州から会社制度を導入。 国家による企業統制の手段、大企業が利用するもの。 2000年前後 小さな規模の企業でも利用可能となる 工学倫理 第14回 14 14.3 起業の自由-会社法制-3 • 株式分割 株式=会社における株主の持分の割合 100株の会社で10株の株主は1/10の持分 起業者 設立時に1株を発行 その後、100分割(1株+新株99株発行) 80株は保有、20株×50万円=1000万円で売却 1000万円で事業を拡大 もう一度、100分割 8000株を保有、内1000株×70万円=7億円で売却 2001年10月 法改正により株式分割が利用可能に 株式市場における資金調達、創業者利益の例 工学倫理 第14回 16 14.3 起業の自由-会社法制-5 • 共同事業契約 1人でできないこと⇒他人と組んで実現を目指す 起業家となる技術者 技術ノウハウと業務執行の能力はある。 資本(お金)がない。 技術者と資本家が協力して事業を推進 2人ないし小人数の人が出資をして 共同の事業を営む契約=パートナーシップ契約 長期に渡る共同関係には信頼関係が大切 信頼関係の崩壊=パートナーシップの終わり パートナーの信頼関係=モラル問題 18 工学倫理 第14回 3 2016/1/17 知的財産基本法 14.3 起業の自由-会社法制-6 ① この法律で「知的財産」とは、発明、考案、 植物の新品種、意匠、著作物その他の人間の創 造的活動により生み出されるもの(発見または 解明がされた自然の法則または現象であって、 産業上の利用可能性があるものを含む)、商標 、商号その他事業活動に用いられる商品または 役務を表示するものおよび営業秘密その他の事 業活動に有用な技術上または営業上の情報をい う。 ② この法律で「知的財産権」とは、特許権、実 用新案権、育成者権、意匠権、著作権、商標権 その他の知的財産に関して法令により定められ た権利または法律上保護される利益に係る権利 20 工学倫理 第14回 をいう。 • 株主間契約 共同事業契約=パートナーシップ契約の例(表14.1) 甲:XYZ化学=資本と原料供給 乙:技術者A=技術ノウハウと業務執行 設立会社=製造と販売 株主間契約 株主となる人の間の契約 株主間契約=株主となる人の間の契約 しかし出資比率= 甲XYZ80%:乙技術者20の場合 株主総会で、株主間契約に反する議決が有効か? アメリカでは株主間契約が有効。 日本では、法解釈や法学が不明確。 このような事態は、日本ではよく起きている。 他人と組むには、信頼関係の破綻の危険がともなう。 19 工学倫理 第14回 「世界知的所有権機関(WIPO)を設 立する条約」(1967年)(2条(ⅷ))「知的所 有権」Intellectual property)とは、 • 文芸、美術および学術の著作物 • 実演家の実演、レコードおよび放送 • 人間の活動のすべての分野における発明 • 科学的発見 • 意匠 • 商標、サービスマークおよび商号その他の商業 上の表示 • 不正競争に対する保護 に関する権利並びに産業、学術、文芸または美術 の分野における知的活動から生じるすべての権利 21 工学倫理 第14回 をいう。 第15章 技術者は、科学技術という普遍性のある能力を そなえ、世界のどこでも仕事をすることができる。 それには国際的な感覚(=意識)が必要とされる。 15.1 国際間の地域統合―EUを例に 15 2 二国間・多国間の協定 15.2 15.3 国際規格・基準 15.4 国際化時代のコミュニケーション 15.5 むすびー曽木発電所遺構のこと 工学倫理 第14回 14.4 まとめ 技術者の財産的権利との関係で、企業財産の持 ち出し、特許権収入、会社法制、などの問題につ いて考察した。 • 技術者が、専門とする科学技術を職業に生かす と ろま は 通常 努力 可能 も 財産的権 ところまでは、通常の努力で可能でも、財産的権 利を守り、その果実を手にするには、法律・経済 ・金融など社会の他の領域との関わりに対処する 努力を必要とする。 • 技術者がみずから努力すれば、社会が手を貸す 仕組みが見つかるものである。 • 工学倫理 第14回 22 15.1 国際間の地域統合―EUを例に-1 技術者の国際関係 工学倫理 第14回 第2条(定義) 23 EUの生い立ち⇒“世界は動く”ことを実感させる 日本を含むアジア地域にもありえることかもしれない。 • 欧州連合(EU) 1950年5月9日 仏外相:ロベルト・シューマン シューマン宣言と言われる経済統合の構想を発表 欧州統合 父 仏計画庁長官 ジャ 欧州統合の父=仏計画庁長官:ジャン・モネが起草 ネ 起草 欧州石炭鉄鋼共同体(ECSC)の創設を提唱 ①生産の近代化と品質の向上 ②仏、独及び参加国へ同一条件での石炭と鉄鋼の供給 ③他の諸国に対する輸出の共同による振興 ④これらの産業の労働者の生活条件の均一化と改善 1951年 欧州石炭鉄鋼共同体(ECSC)設立⇒EUへ 24 工学倫理 第14回 ※毎年5月9日はヨーロッパデーとして祝う 4 2016/1/17 15.1 国際間の地域統合―EUを例に-3 2007年 1月 2007年12月 工学倫理 第14回 25 1999年 ユーロ導入⇒ 2002年 ユーロ発行⇒ 通貨統合 モネやシューマンの考えたことはだいたい実現した。 仏独は仲良くなり、西欧には平和が定着した。 経済統合により東側も変化⇒ソ連消滅・冷戦終了 21世紀のEUの役割 ⇒地域統合の経験やノウハウを世界へ広げること 地域統合 経験や ウ ウを世界 広げる EU本部:ブリュッセル 最高機関=欧州会議、閣僚理事会、欧州委員会 1975年 川や湖など水源地の水質 (行政執行機関) 各国政府や自治体でなく、欧州委員会が規制。 2004年 中東欧など10カ国が加盟、25カ国に(大欧州) 2007年 ルーマニア、ブルガリア加盟、27カ国に 26 工学倫理 第14回 2013年 クロアチアが加盟、28カ国に 15.1 国際間の地域統合―EUを例に‐4 • EUの法制 規則:直接に加盟国や市民を規制する。 指令:加盟国に立法措置を命じる。 例)PL法は当時のECの指令で加盟各国で制定。 2002年現在 フランスで適用される法令 政府独自の方針や仏国会のみに基づくものは激減。 EUの規則と指令に基づく国内法≒7割 EU内でのフランスの地位は小さくない。 政治、文化面での仏大統領の発言にも重み。 しかし、フランスの農業や通商政策は EU=ブリュッセルに統治されているのが実態 国独自の判断は例外的 多くの省庁は必要ない・・・・混乱を回避するために存続 27 工学倫理 第14回 といわれている。 討論1 • EUのなかのフランスの法制の状況から、日本、韓 国、中国、台湾の間で地域統合を実現し、共通の法 制をつくる場合を想像してみよう。 工学倫理 第14回 28 15.1 国際間の地域統合―EUを例に-5 15.1 国際間の地域統合―EUを例に-6 EUのこれから • 2007年1月 ルーマニア、ブルガリア加盟、27カ国に • 2013年 クロアチアが加盟、28カ国に • リスボン条約 2007年12月調印 加盟国拡大にともない政策決定の効率化を目指す。 「EUの顔」となる大統領職 外相級ポストの創設 「EUの顔」となる大統領職、外相級ポストの創設 2008年現在 独仏など18ヶ国批准 アイルランド:国民投票で批准が否決 「小国の声が埋没しかねない」との懸念 2009年 国民投票、批准関連法可決 • こうした波乱は今後もあることだろうが、EUが加 盟国の不統一で崩壊するなどと予想する人はだれもい 29 工学倫理 第14回 ない。 • 言語の課題 EU:経済統合を目指すが、言語は統一しない。 公文書は全て公用語に翻訳される。 当初9言語⇒11⇒2004年:20⇒2013年:23 9言語が1対1で対応するには、72通りの翻訳が必要 翻訳の難しさがいわれる。 2013年現在 加盟国=28カ国、23言語に翻訳 実際のEU機関の会議や打合せは英語or仏語 最初はフランス語が優勢 1995年 スウェーデン、フィンランド、オーストリア 加盟 英語派の勢いが強くなり始めた。 30 工学倫理 第14回 2004年 中東欧出身記者が増え英語での質疑が増える。 工学倫理 第14回 5 2016/1/17 15.2 二国間・多国間の協定-2 15.2 二国間・多国間の協定-1 • WTO(世界貿易機関) 1944年 連合国44カ国 国際通貨基金(IMF)、国際復興開発銀行(現世界 銀行)と並び関税及び貿易に関する一般協定(GAT T)を創設 無差別で自由な貿易を目指す。本部:ジュネ ブ 無差別で自由な貿易を目指す。本部:ジュネーブ 関税率の引き下げ、反ダンピングや非課税障壁に重 点 1967年 GATTで非関税障壁として規格が問題に 日本ではJISなど⇒国際規格との整合性 1980年 国際規格化が積極的に推進される 品質管理システム=ISO9000シリーズ 31 工学倫理 第14回 ISO⇒JIS化もGATTの流れ 15.2 二国間・多国間の協定-3 15.2 二国間・多国間の協定-4 • FTA(自由貿易協定) WTO:加盟国が増加し交渉が難航、 2015年11月30日で162の国・地域 FTA:特定の国や地域の自由貿易に関する二国間 協定 柔軟、迅速であり2004年8月で206件に。 しかし、FTAが増え過ぎると、WTOの自 由貿易の障壁となる。 工学倫理 第14回 33 15.2 二国間・多国間の協定-5 • ASEAN(東南アジア諸国連合) 1967年 当初5カ国を原加盟国として発足 インドネシア、マレーシア、フィリピン、シンガポール、タイ その後5カ国が増えて10カ国に 政治、経済、社会、文化、諸問題の解決を目指す。 • APEC(アジア太平洋経済協力会議) (アジア太平洋経済協力会議) 1989年 日本、韓国、米国、カナダ、オーストラリア、 ニュージーランド+ASEAN6カ国でスタート 太平洋両岸の諸国を経済的に結びつける目的。 1998年 ペルー、ロシア、ベトナムを加え21カ国・地域 首脳間の接触機会が増える 周囲の変化についていけない側面 35 工学倫理 第14回 ・・・・目的が経済から政治化、FTAの隆盛 工学倫理 第14回 1994年 GATT⇒WTO(世界貿易機構)へ 知的所有権も対象に、紛争解決メカニズムを強化 制度のつまみ食いを許さない一括方式の採用 WTO=国際貿易に関する唯一の世界的機関 自由貿易のための「多国間」の共通ルールづくり 1995年 サービス分野の貿易の拡大傾向 サービス貿易に関する一般協定(GATS)が成立 サービス分野=専門職業サービスが指定 弁護士、会計士、建築士、 技術士、医師、医療従事者などが該当 技術者の流動化促進は、これ=GATSによる ⇒技術者資格の相互承認は、GATSが関係してい 32 工学倫理 第14回 る。 • EPA(経済連携協定) 貿易以外も含めた包括的な協定=経済連携協定 専門職サービスの流動化はEPAによって実現す る。 日本とインドネシア両政府による 日本とインドネシア両政府によるEPA インドネシア看護師、介護福祉士の受け入れへ 医師、看護師など排他的な資格はEPAの対象。 技術士は、技術業の業務は資格がなくても従事で きるので、出入国管理法に基づく法務省の残留許可 による規制。 工学倫理 第14回 34 15.2 二国間・多国間の協定-6 • 「東アジア共同体」構想 ASEAN10ヶ国+日本、中国、韓国 経済、政治、安全保障などで地域的な連携を深める。 1990年 マレーシア首相が提唱 ⇒米国の強い反対で実現できなかった。 2002年 小泉首相が提唱 2003年 日ASEAN特別首脳会議の「東京宣言」に盛込む。 FTA(EPA)交渉により、域内の協力が進む→現実味 欧州連合(EU) 共同体を目指す基本理念を共有 政府間協定で主権も制限あるいは放棄しながら統合した。 東アジア 歴史的発展段階、政治体制、宗教、文化等も多様 多様性がアジアの特性であり、最終的な姿を描けない。 36 工学倫理 第14回 共同体の旗を掲げることで政治的な意思を醸成。 6 2016/1/17 15.3 国際規格・基準-1 15.3 国際規格・基準-2 • ISO(国際標準化機構)と技術者協会 • ISO(国際標準化機構) 各国を代表する標準化機関のネットワーク 1カ国1機関 2007年1月現在157カ国が加盟 非政府機関として、政府と民間の間で 製品、サービスやシステムの標準化を推進 各国の標準化機関 政府と民間の橋渡し機関として活動 ・政府への標準化の要求 ・民間事業を推進する技術基準の必要性 ・規格に対する消費者の要望 欧米:自らの仕事は自ら守り,作り出そうという 気風 自助(self-help)の精神が基盤 政府に頼らない(non-governmental) 自発的に進める(voluntary participation) 仲間 評価を尊重する( 仲間の評価を尊重する(peer review) i ) 日本:規格・基準は政府によって一元的に管理 アメリカ 規格・基準の始まりが、分野ごとの技術者の 自発的な努力によるもの。 工学倫理 第14回 37 15.3 国際規格・基準-3 • ASTM(アメリカ材料試験協会) 1902年 鉄道レールの破損の頻発を契機に発足 米国の工業材料と試験方法の標準化機関 欧州系のISOとの統一に向け見直し開始 • ASME(アメリカ機械エンジニア協会)の技術規格開 発 民の役割を明確に示すもの 日本:業務規格は国が制定し、一方的に民が順守 米国:ASMEが技術規格を制定し、州や政府が採用 業務規格は、自らが制定し国に利用させるもの 1880年 ASME設立 機械分野を代表する組織 1909年 組織的な研究活動によって 39 工学倫理 第14回 ASME規格としてボイラー規格などを制定 15.3 国際規格・基準-5 • ASME規格によるビジネス 火力発電、原子力発電、石油産業などの 機器の製作および検査などに広範囲に使用。 ASME ⇒規格を使用する事業所を審査認定する仕組み 機器設計:PEの設計と認証を求める 審査及び検査:公認検査機関の審査員の立会を要求 認定事業を運用し、ASME、PE、公認審査員に仕事 ※認定事業所=全世界で4500を超えている。 エンジニアの集団が、ボイラー及び圧力容器という 工業化社会の基本技術の規制を自ら策定し、自らの ビジネスを獲得してきた。 41 工学倫理 第14回 工学倫理 第14回 工学倫理 第14回 38 15.3 国際規格・基準-4 1850年~1910年 北米で1万件を超えるボイラー破裂事故 1865年 ミシシッピ河の蒸気船サルタナ号の ボイラー爆発事故 1500名以上の生命を奪う 1866年 ハートフォードスチームボイラー検査保険会社 HSBが設立 ボイラーの検査と保険で財産を守る。 1880年 年 ASME設立 設 1911年 ASME ボイラー規格委員会を設置 1914年 ASME ボイラー及び圧力容器規格を発行 1915年 HSBが、ASME規格を自社の規格として採用 1920年 米国12州、連邦政府の各部局 米国以外の数カ国でも採用 ボイラーの爆発事故が激減 40 工学倫理 第14回 ⇒ASME規格の有用性が証明 15.3 国際規格・基準-6 • ASME規格に対する国の関与 ANSI(米国規格協会) 米国の標準化機関としてISOに参加 ASCEやASMEなどの技術者団体と政府が創立。 自主的国家規格の策定の調整とISO活動に参加。 ASMEなど利害関係者と透明性のある調整を行う。 規格開発は民間の力を生かし、国が間接的に関与。 政府は、必要とする規制に民間の規格を採用。 例) 「ボイラーを設置する事業者は、ASME規格の 最新版によって製作されたボイラーを設置しなけれ ばならない。」と規程すればよい。 42 工学倫理 第14回 検査も民間が実施⇒行政コストの削減 7 2016/1/17 15.3 国際規格・基準-7 15.3 国際規格・基準-8 • 日本における規格の法律化 日本では、規格を定めるのは国の重要な役目 各省の権限で、法律の規則として細かく規定 例) 高圧ガスを扱う容器⇒高圧ガス保安法(経済産業省) ボイラ ボイラー・圧力容器⇒労働安全衛生法(厚生労働省) 力容器 労働安 衛 法(厚 労働省) 火力・原子力発電所の機器⇒電気業法(経済産業省) 工業関係の規格全般⇒工業標準化法を定めて管轄 JISC(日本工業標準調査会) 工業標準化法に定める国標準化機関、ISOに参画。 規格の制定には、産学官から技術者が参加。 規格そのものが法律なので、国のビジネス。 43 工学倫理 第14回 法律に定められた関連協会などが担当。 • 国から民への権限の委譲 1996年 WTOの貿易の技術的障害に関する協定(TBT) 規格や規格の適合性を評価する手続きが、不当な 貿易障害を起こさないことを目的。 • JSME(日本機械学会)による規格の制定 1999年~ 発電用設備に関する一連の規格発行 設備 関す 規 発電用火力設備規格、発電用原子力設備規格 わが国では国が規格を管理し、自由な発展を阻害 ⇒TBT協定により、国の規格関与は最小限に制限 ⇒民間が技術規格の整備と高度化に責任を持つ JSMEが規格制定に関心・成果⇒画期的なこと 技術規格・基準の制定を技術者に取り戻す努力 44 工学倫理 第14回 ⇒技術者のビジネスとする道が開ける 15.4 国際化時代のコミュニケーション-1 15.4 国際化時代のコミュニケーション-2 • APECエンジニアの使用言語 受入エコノミーで業務をする場合 受入エコノミーの言語の使用を要求していない。 エンジニアリング業務の性質上、あるいは顧客との 関係から、 専門職業務のコミ ニケ ション 英語が 般的 専門職業務のコミュニケーション=英語が一般的 受入エコノミーの言語を使用する義務なしとした。 実際には、英語で十分な意思疎通ができることが前提 技術者の意思疎通の手段:話し言葉以外に、 数学、デザイン能力、図面など多くの方法を持つ。 いずれにせよ、 論理的で説得力のあるコミュニケーション力が必須 45 工学倫理 第14回 • 国際関係の対話能力 理工系学部:明治期に西洋をモデルに教育制度を作る。 初めはドイツ語、戦後は英語で専門科目の教育。 技術者がカタコトでも英語でアメリカ人の技術者と対 話できるのは、理工系学部教育の誇るべき成果。 • 明石 康氏(元国連事務次長)に聞く グローバル化時代、コミュニケーションも国際化。 高等教育を受けた人の10%ぐらいは実践的英語を身 につける必要がある。 国連の外交官、お国なまりの英語で堂々としゃべっ ている。英語は思想表現の手段。通訳をいれず直接 対話。恥をかきながら覚えるしかない。 46 工学倫理 第14回 15.5 むすびー曽木発電所遺構のこと 討論2 • 本書の初めの図1.2(前出5頁)で、モラルに moralsが、倫理にethicsが、常識にcommon senseが、法にlawが、それぞれ対応しているの は、何でもないようだが、こういった積み重ね が、国際化する技術業の現場で対話することに なる。そのことの意義を考えよう。 工学倫理 第14回 工学倫理 第14回 47 • 高城重厚の業績(著者の1人,故人) • 遺構の再発見 出身地熊本県、川内川、曽木発電所の遺構を再発見 曽木電気+日本カーバイト商会=水俣病のチッソ 1999年県議会⇒05保存工事⇒06国の登録有形文化財 • 科学技術の正と負の歴史 技術が社会に及ぼす影響は、正も負も拡大傾向。 曽木発電所⇒日本の化学工業の正と負の歴史 • 野口遵(したがう)の事業 曽木発電所⇒余剰電力でカーバイト⇒チッソを設立 財産を寄付し朝鮮奨学会を設立、今も両朝鮮で活動 水俣病や日朝関係で不当評価 48 工学倫理 第14回 一人の技術者の国際的な姿勢を評価、再発見 8
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