フィールドスポーツのための 動作トレーニング:サッカー

C NSCA JAPAN
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Volume 16, Number 1, pages27-37
Key Words【動作:movement、指導:coaching、練習:practice、発達:development、
フィールドスポーツ:field sport、サッカー:soccer】
フィールドスポーツのための
動作トレーニング:サッカー
Movement Training for Field Sports: Soccer
Ian Jeffreys MSc, CSCS*D; NSCA-CPT*D
University of Glamorgan Pontypridd, Wales, United Kingdom
要約
グラムも、その主要な目的は競技
大多数のフィールドスポーツに
パフォーマンスの向上であり、し
おいて、質の高い動きはパフォー
たがって動作トレーニングと競技
マンスの基本的要素である。基礎
との関連性が必要であるというこ
的な動作スキルと競技動作を行う
とである。この点を強調するため
前提として、体系的な向上プログ
に、また現場における応用状況を
ラムが必要であり、そのプログラ
提示するために、本稿ではサッカー
ムにおいては、適切な練習と適切
をモデルに用いて、競技特異的な
な指導が中心的な役割を果たす。
動作プログラムの作成方法を解説
チームスポーツにおいては、レ
する。サッカー選手は試合中に長
ベルにかかわらず圧倒的多数のス
い距離を移動し
(10kmを超えるこ
ポーツで、動き(動作)の重要性が
とも珍しくはない)、その間に様々
明らかである。動きとは、試合に
な動作距離、動作パターンを用い
必要なすべてのスキルを一連の流
てゲームを行い、しかもその大多
れとして連続して行うことであり、
数が感覚的な刺激によるという点
多くの競技にとって重要である。
で、サッカーを優れたモデルとし
大抵の場合、卓越した能力をもつ
て取り上げる。しかし、サッカー
選手は、一つひとつのスキルのレ
はあくまでも一例であり、本稿で
ベルではなく、それらのスキルに
解説する概念は、フィールドで行
付随する動きのレベルでの能力が
うあらゆるチームスポーツに応用
高いことが特徴である。
できる。
本稿では、チームスポーツのた
めの動作トレーニングプログラム
を概説する。本稿で主張する点は、
どのような動作トレーニングプロ
動作トレーニングの多面性
動作トレーニングでは、サッカーの
パフォーマンスを最適化することを目
的とした運動プログラムを作成する。
したがって重要な出発点は、サッカー
というスポーツに特異的な動作要件を
把握することである。動作を明確に把
握するためには、このスポーツで用い
られる主要な動作パターンを、動作の
きっかけとなる感覚的な刺激と合わせ
て特定することが必要である。
本稿のパート1では、フィールドス
ポーツのニーズ分析について検討す
る。試合中も試合間にも動作要件には
幅広い多様性があるが、サッカーのよ
うなフィールドスポーツの感覚要件と
ともに、一般化した動作パターンの重
要性を概説する。論文の後半では、動
作トレーニングプログラムの作成につ
いて論じ、パート1で確認された動作
要件を引き出すための最適な方法を確
定する。パート2は、動作トレーニン
グの3つの重要な領域を統合する必要
性について論じる。適切な向上、適切
な練習、適切な指導、これらの3領域
は「動作トレーニングの3要素」
として
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知られている。これらの領域は、それ
技特異的なスキルと統合する能力にも
パート1: チームスポーツの動作要件
ぞれ重要な運動科学の3つの領域に対
アプローチしなければならない。
プログラムの概要:目標を念頭におい
応している。運動学習、バイオメカニ
アスリートの動作水準は、アスリー
て開始する
クス、そして教育学である。動作はス
トの競技スキルの水準を高めるが、そ
どのスポーツの動作プログラムで
キルであるから、動作トレーニングプ
れだからこそ、スキルの失敗が実は稚
も、そのプログラムが目標としている
ログラムの作成プロセスにおいては、
拙な動作が原因である場合も多い。ア
最終的な成果に狙いを定める必要があ
運動学習を最適化する学習アプローチ
スリートの動作とその結果としての身
る。大多数のフィールドスポーツと同
によって動作スキルを検討する必要が
体ポジションが、スキルを首尾よく遂
様、サッカーでは動作トレーニングを
ある。さらに、動作が力学的原理に基
行することを不可能にするのである。
通して、試合の勝ち負けに関連のある
づく以上、すべての練習には力学的な
サッカーにおいては、シュートやタッ
重要なスキルを行うために、最適なポ
正当性が必要であることについて論じ
クルのミス、ディフェンダーが相手の
ジションを取ることができる選手を育
る。
選手に抜かれるというような失敗は、
成する必要がある。要するに、最終目
運動学習のプロセスにおいて、きわ
単にサッカーのスキルが不足している
的は選手を今よりも優れた選手にする
めて重要でありながら見落とされがち
だけではなく、動作パターンの破綻お
ことであり、この概念はいかなる動作
な部分は、指導の基準である。適切な
よびその結果として、スキルを実行し
トレーニングプログラムにも共通の目
指導は、動作トレーニングの3要素に
ようとした身体ポジションが悪かった
的であるに違いない。アスリートは、
おいて重要な役割を果たす。最適な指
ことが根本原因であることも少なくな
試合の状況に応じて、また動作を刺激
導を行うためには、堅実な教育学、運
い。
する重要な感覚的要因や意志決定要因
動学習、およびバイオメカニクスの原
競技スキルを実行するポジションを
に応じて効率的に動くことを要求され
則に基づいた練習を行うことが必要で
確保するためには動作が必要であるこ
る(20)。最終的には、スキルが必要と
あり、本稿はこれらについても概説す
とを前提とすると、最適な動作トレー
されるポジションを取るための動作パ
る。
ニングとは、単にスピードとアジリ
ターンをいかにスムーズに作り出し、
ティに関連したドリル以上のものであ
正しい動作パターンを安定的に、しか
なぜ動作トレーニングが必要なのか
ると考えなければならない(7)。動作
も自動的につくることが必要であり、
選手が行う動作の質を評価するとき
トレーニングプログラムが最終的に成
それによって選手は試合状況の把握と
は、動作の速度だけでなく、効率と効
功したか否かについては、必要とされ
反応に集中できるようになる。
果に関しても評価する必要がある。最
る競技スキルを効果的に遂行できるよ
したがって、試合の状況に合わせて
終的な評価は、選手が競技でスキルを
うな動作を確実に行えるようになった
直接転移できる動作の自動化は、あら
発揮する能力である
(11)
。動作トレー
かによって決定される(7)。このよう
ゆるスポーツの動作向上プログラムに
ニングは、伝統的なスピードとアジリ
に考えると、選手が必要なスキルを実
おける重要な目標である。この自動化
ティのトレーニングも含んではいる
行できるポジションでボールに到達し
は、選手が動作を行うことに意識的な
が、これらの要素自体を単独に測定す
ない限り、単に素早くボールに到達す
注意を払う必要がないレベルまで到達
るよりも、むしろ競技パフォーマンス
るだけでは十分とはいえないだろう
することを要求する。このレベルに達
と直接関連づけられる。スピードとア
(7,12)
。これを最適な状態で実現する
すると、適切な動作が自動的に産出さ
ジリティは、動作トレーニングプログ
ためには、動作ドリルは究極的に競技
れる。大抵のスキルがそうであるよう
ラムにおいてきわめて重要な要素では
の必要条件と関連していなければなら
に、自動化には関連のある動作パター
あるが、それらによって競技パフォー
ない。
したがって動作ドリルの成功は、
ンをたくさん練習する必要がある。
マンスが向上しない限り、トレーニン
必ずしもアジリティドリルのタイムの
この最終目標を念頭に置いて始める
グが成功したとはみなされない。動作
改善によって測定されるとは限らず、
ことにより、動作トレーニングのルー
トレーニングでは、スピードとアジリ
フィールドでのパフォーマンスの向上
トマップを作成できる。最終目的が設
ティだけではなく、競技状況下でそれ
によって評価する必要がある。
定されていれば、選手をそのレベルま
らを発揮する能力、さらにそれらを競
28
January/February 2009 Volume 16 Number 1
で導く向上プログラムを通して再ト
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レーニングを行うことができる。本稿
に関して選手が目下の課題に応じて調
動作には、通常サッカーに関連し
のパート2では、そのようなプログラ
整できる、一般的プログラムとして発
たスキルとできるだけ素早くある
ムを作成する。
達する。これは車の運転を学ぶことに
地点へ到達することなどが含まれ
似ている。基本的な運転スキルを完全
る。
スキーマ:動作トレーニングの目標
に獲得すれば、我々は練習で走った道
サッカーなどのチームスポーツにお
路だけでなく、どのような道路でも運
競技の重要目標動作パターン
けるひとつの挑戦は、その不規則性で
転できる。スキーマ学習のメカニズム
この分類を用いることにより、競技
ある。自動化に到達することは可能で
に関しては、すでに非常に多くの研究
動作を、例えば側方へのスタート、後
はあるが、自動化は、試合で要求され
が行われているが(17)、一般動作プロ
方へのスタートなど、達成しなければ
る動作に対して正確に設定されなけ
グラムに関する基本的なスキーマ理論
ならない複数の主要な課題に分割でき
ればならない。試合の動作パターン
は、現在もなおスキル向上モデルを作
る
(11)
。これらの課題が特定できた
は、わずかな例を挙げただけでも方
成するための有効な基礎である。
ら、次にそれらの課題を達成する最適
向、スピード、相手チームのポジショ
な動作パターンを明確に示すことがで
ン、
フィールド上の選手のポジション、
ニーズ分析
きる。表1はそれぞれの目標機能の分
ボールのポジションなど、多数の要素
フィールドスポーツに基づいた動作
類における重要な動作課題を提示し、
が様々に変化する。このように、実際
プログラムを組み立てるときに、試合
サッカーにおいて、それらの課題達成
の試合ではほとんど無限ともいえる動
の動作要求を特定し、発達させねばな
のために上達させる必要のある主要な
作の組み合わせが可能であり、たとえ
らないことは明らかである。さらに、
テクニックを示している。これらは、
最も優秀なコーチに無制限に時間を与
あるスポーツで用いられている動作パ
動作パターンの向上プロセスの基礎を
えたとしても、前述の要因のあらゆる
ターンを特定し、その動作パターンの
構成し、動作向上プログラムを作成す
可能な組み合わせを再現することは、
試合における目的を明確に描き出すこ
る際の基本を形成する重要なスキルを
明らかに不可能である。
とが必要である。その結果、動作パター
提示している。また、それぞれのスポー
競技スキルの向上のカギは、スキル
ンの試合への転移を最大化できる。動
ツ競技のための仮想の動作シラバスで
を学習する方法にある。Schmidtの提
作パターンとその目標機能に対処する
もある。指摘すべき重要な点は、表1
唱した
「一般動作プログラム」
に関する
ことによって
(7,8)
、まさに必要とさ
は単純な分類にすぎず、これらの動作
スキーマ理論は
(15)
、多数の動作状況
れる正確な動作パターンを鍛え、競技
の中に含まれる動作は広範囲に及ぶと
があるサッカーのような環境における
における選手の具体的な役割に従って
いうことである。例えば、開始動作は
スキルの上達を説明するモデルを提供
それらに取り組むための一連の向上
立ったままでも移動姿勢でも行う必要
し、また、スキル向上プログラムの作
ドリルを準備できる。この目標の達成
があり、それらの移動姿勢は様々な方
成を方向づけるきわめて重要な情報を
を助けるために、目標機能に関して
向で、バックペダル、サイドシャッフ
提供している。スキーマ理論とは、要
動作を分類することが役立つだろう。
ルなど様々な動作パターンで行われる
求される個々の動作に対してそれぞれ
Jeffreysは(7,8)、目標動作機能を3種
可能性が高い。さらに、ランニングパ
1つの動作プログラムを産出するので
類に分類することを提案した。
ターンには、直線ランニングだけでは
はなく、むしろ与えられたそれぞれの
1.開始動作:運動を開始または変化
なく、曲線パターンも取り入れる必要
状況において、その正確な必要条件に
させるために使われる動作
がある。単純ではあるがこの分類は、
従って様々に変化させることのできる
2.移行動作:次に行う活動の準備と
一般的プログラムを産出することを意
して使われる動作で、次の活動が
味する(15)。スキルは、そのスキル
首尾よく効率的に行うことのでき
を行うときに身体がどのように機能す
るポジションを維持することを目
感覚的スキルはスポーツ競技動作の重
るかを学ぶことによって学習される
的とする。
要な一部である
トレーニングで取り組むべき核となる
基本構造を提供している。
(17)
。このようにして、シャッフルの
3.実現動作:活動の成功を最終的に
動作パターンは動作トレーニングプ
基本スキルは、スピード、距離、方向
決定する重要な動作である。この
ログラムの効果的なシラバスを提供す
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表 1 サッカーの動作パターン
種類
開始
移行
実現
目的
動作パターン
前方へスタート
加速パターン
側方へスタート
ヒップターンとドライブ
後方へスタート
ドロップステップ
方向転換
カットステップ/プラントステップ
静止待機
アスレティックポジション
ポジションの確保
アスレティックポジションで移動
側方へ移動
サイドシャッフル
後方へ移動
バックペダル
前方へ移動/カーブ
効率的なランニング動作
アタッカーを斜めに追跡
クロスステップラン、身体を相手選手に向ける
減速
アスレティックポジションへのチョップステップ
前方へコントロールしながら移動
アスレティックポジションでチョップステップ/調整ステップ
加速
加速動作パターン
最高速度まで移動
ローリングスタートからのキック
必要があると思われる。
るが、プログラムの成功は、パフォー
示唆されている
(2,20)
。動作トレーニ
マンスにもたらす効果によって決定さ
ングは究極的には、重要な動作パター
・位置
れる。適切な場所で適切なタイミング
ンとその競技における感覚的手がかり
・速度
でこれらの動作を用いるアスリートの
が直接関係していなければならない。
・加速力
能力は、スキルをスポーツ競技の中で
例えば、サッカーの動作の重要な刺激
Fittsらは(4)、トレーニング初期に
の状況に合わせて実行する能力を必要
は、チームメイト、対戦相手、そして
は、選手は最も単純な情報、すなわち
とする。特に、競技の重要なポイント
ボールなどいくつかの要因の動きであ
位置を収集できるだけかもしれないと
を察知する能力を発達させ、スポーツ
る。多くのフィールドスポーツにおい
示している。練習が増加すれば、選手
のカギとなる手がかりに反応しなけれ
て、動作は比較的持続的に行われるた
は速度の情報と後には加速力に関する
ばならない。高レベルのフィールドス
め、動作の規則性は、個別のタスク(明
情報も処理できるようになるだろう
ポーツのパフォーマンスでは、選手は
確な開始と終了がある)の場合よりも、
(14)。明らかなことは、感覚スキルも
競技特異的な感覚的手がかりに応じて
はるかに環境的な刺激に依存している
練習が必要だということである。そし
移動し、多数の競技スキルを実行でき
(17)
。このように、選手に動作パター
て感覚スキルが競技特異的であるなら
ることが要求される。そのためには、
ンだけに焦点を合わせるのではなく、
ば(2)、基本的な動作パターンが一旦
選手は効果的にポイントとなる感覚的
これらの感覚的スキルを発達させるド
定着したら、感覚スキルを取り入れる
手がかりを特定し反応できる必要があ
リルやエクササイズも実施させること
ことにより、最終的に動作トレーニン
り
(1,20)、予期した情報を収集し、そ
が肝要である。Fittsらは(4)、アスリー
グをできる限り競技特異的にすること
れに応じて動くことができるようにす
トが識別できる必要がある感覚情報に
が求められる。したがって、ドリルの
る必要がある
(20)
。重要な感覚的手が
は3つの主要分野があり、それらは「単
開始のきっかけは、競技特異的な刺
かりを予期し、それに反応する能力は
純」から「複雑」へ移行する一つの連続
激を取り入れ、単純に言葉による指示
上級レベルのアスリートの特徴であり
体を形成していると示唆している。彼
だけに頼らないことが必要である。さ
(2)
、このスキルはきわめて競技特異
らのモデルでは、選手はすなわち環境
らに感覚情報も、向上プロセスを通じ
的であることが科学的根拠に基づいて
刺激に関して以下の3要素を識別する
て複雑さのレベルが上がるのに合わせ
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て、階層的な体系に一致させる必要が
ある
(17)
。これにより、さらに上級ア
スリートは中級アスリートよりも変化
適切な指導
に富んだドリルが必要であり、中級者
は初心者よりも多様なドリルが必要で
適切な指導
あること、また、これを容易にするた
学習環境
誘導発見学習
指導者によるフィードバック
めに適切な向上プログラムを設定しな
ければならない。
適切な向上
パート2:動作トレーニングプロ
グラムの作成
基礎段階
向上段階
ピーク段階
動作トレーニングの3要素
適切な練習
適切な動作
適切な向上
適切な練習
目標志向性
目標に適したドリルの選択
ドリルの配置
練習の多様性
本稿では、一般的に使用されている
「スピードとアジリティのトレーニン
グ」
という用語ではなく
「動作トレーニ
図1 動作トレーニングの3要素
ング」という用語を用いているが、そ
の概念は、このトレーニングの最終目
標が競技パフォーマンスを促進するこ
ニカス、および教育学を応用すること
の上に築かれる(17)。したがって最適
とであるという重要な考え方を反映し
が可能となる。図1は、動作トレーニ
な動作の発達には、安定的な動作パ
ている
(12)
。40ヤードダッシュやプロ
ングの3要素の必須項目をまとめてい
ターンという確固とした基礎が重要と
アジリティなどのスピードやアジリ
る。
なる。我々が試合で見る複雑な動作
も、もしそれらが最適な発達を遂げて
ティのテストは、あらゆる動作プログ
ラムにおいて然るべき位置を占め、基
適切な上達
いれば、動作の確固たる土台の上に築
礎となる重要な特質の長所と短所を示
スキルの向上を図る方法において、
かれているはずである。新しいスキル
すことができる。しかし、パフォーマ
スポーツの競技動作をスキルとして分
の学習は、安定したパターンに大きく
ンスの重要な指標は、あくまでも競技
類することには重要な意味がある。ス
依存しているため(13)、これらの基礎
におけるパフォーマンスそのものでな
キルに基づく活動を見ると、書くこと
的動作は、自動的で、安定的でなけれ
ければならない。動作トレーニングの
であれ音楽であれ、あるいはスポーツ
ばならない。したがって、動作トレー
概念は、基本的な動作と競技パフォー
であれ、その圧倒的多数がきわめて明
ニングが順序よく組み立てられている
マンスとの関係に焦点を合わせてい
確な上達段階を経て獲得される
(1)
。
こと、トレーニングの漸進の枠組み
る。
スキルはまず基礎段階から始まり、向
が、スキルの上達の原則に従っている
包括的な動作トレーニングプログラ
上段階を経て、ついにはきわめて高い
ことがきわめて重要である(11)
。かつ
ムの作成において、3つの主な要素を
プレッシャーの下でも自動的に一貫性
てJeffreysは(9,10)、 動 作 ス キ ル の 向
提示する必要がある。すなわち、
のあるスキルの産出が可能となる段階
上の3段階に基づいて、スキルの向上
・適切な向上
まで、時間をかけて徐々に上達させる
における3つの主要段階を特定した
・適切な練習
ことが必要である(17)。このプロセス
(17)。その3段階とは、基礎段階、向
・適切な指導
全体は長い時間を要する。そして、こ
上段階、そしてピーク段階であり、ス
である。
のような運動学習の3段階を通って一
ポーツ競技の向上プログラムを確立す
これらは動作トレーニングの
「3要
人ひとりの選手を導くためには、一連
るための適切な体系を提供している。
素」を構成し、これら3要素すべてを
の漸進的なドリルとエクササイズが必
統合することにより、動作トレーニン
要である(16)。
基礎段階
グの基礎である運動学習、バイオメカ
スキルは、それまでに習得した能力
基礎段階の主要な目的は、重要な
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31
表2 基礎段階における指導のガイドライン
・競技の主要な個別の動作を獲得させる
において、サッカーで要求されるあら
ゆる基本動作の確実なテクニックを獲
得するだろう。この段階で肝心なこと
・動作速度ではなく、動作の質に重点を置く
は、我々が競技動作として知っている
・最初は1つの課題動作に重点を置く
・3 種類のコミュニケーション形式をすべて活用した適切な教示を与える
・動作パターンが身につくまでは、非競争的環境でパフォーマンスを行う
運動を獲得するために、これらの動作
を漸進的に統合し一体化することであ
・適切な場合は、スキルをいくつか小さい部分に分解する
る。これは、ダンスの基本ステップが
・頻繁にフィードバックを与えるが、細部にこだわりすぎない
ダンスのルーティンへと集約されるこ
・フィードバック中は一つの分野に的を絞る
とに似ている。向上段階で重要なこと
・疲労を最小限に抑えるために、練習を分配する
は、単に主要な動作だけではない。そ
・最初はブロック練習を用いるが、その後ランダム練習を導入する
れらをダンスのルーティンと同様、滑
らかに継ぎ合わせることが重要であ
表3 バックペダルからの移行
活動
動作パターン
ターンして後方へスプリント
ドロップステップして加速
ターンしてアタッカーを斜めに追跡
ドロップステップしてクロスステップラン
側方へ移動
しっかりと立ち、サイドシャッフル
直ちにサッカーのスキルを行う(例え
ばタックル、ヘディングのためのジャ
ンプなど)
しっかりと立ち、スキルを用いる
停止して待機
しっかりと立ち、アスレティックポジショ
ンで移動
停止して前方へ移動
しっかりと立ち、前方へ加速
る。動作パターンは単一パターンのパ
フォーマンスが破綻するのではなく、
あるパターンから別のパターンへ変化
するときに、例えばサイドシャッフル
からバックペダルへと変化するときに
破綻するのである。これは、直線方向
のスピードと側方へのスピードをはっ
きり分けたプログラムで問題となる。
多くのフィールドスポーツにおいて、
これらの動作は決して区別されること
はないにもかかわらず、この種類のト
レーニング体系では、決定的に重要な
動作のコンビネーションを上達させる
ことは決してできないからである。
動作パターンを確立することである
Jeffreysは(10)、これらの段階におけ
選手が各動作パターンの間を効果的
(10)
。したがって表1に示されている
る最適な指導のガイドラインを提示し
に移行する能力を身につけること、さ
基本動作が、この段階における練習の
た。
それらは表2にまとめられている。
らに典型的な運動の流れを認識するこ
中心となる
(12)
。これらの動作パター
この段階では、競技特異的なドリルの
とがこのプロセスにとって重要であ
ンの上達に必要なドリルは、初歩的な
必要性は比較的限られている。しかし
る。そのためには、スポーツにおいて、
ものに見えるかもしれないが、それ
重要なことは、使用するドリルが、サッ
動作がどのように組み立てられている
らは実際、どのような動作プログラ
カーのパフォーマンスに必要とされる
かを分析することが必要であり、その
ムにおいてもカギとなる、構造的な
基本的な動作パターンを確実に上達さ
目的を達するために、ビデオで試合を
基礎を成している。すべてのスキルと
せるために選択されていることである
撮影することは優れた手段である。例
同様、これらの動作をマスターするた
(11)
。
めには、付加的フィードバック
(アス
えば選手がバックペダルを行うとき、
次の動作は何か、またどのような活動
リートが課題から得られることに対す
向上段階
が次の動作の引き金となるのかを知る
る追加のフィードバック)と誘導発見
向上段階は、基礎段階の基本的動作
ことができる。
学習
(アスリートを自己発見へと誘導
パターンから、ピーク段階におけるき
表3に、サッカーにおいてバックペ
するドリルと質問の応用)によって補
わめてサッカーに特異的な動作までの
ダルが行われる場合の典型的な動作を
強された、適切な練習が必要である。
漸進段階である(10)。選手はこの段階
概説した。このような情報を入手して
32
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おけば、コーチはこれらのパターンを
強化するドリルを作成できる。
初めは、
これらのドリルはクローズドドリル
(あらかじめ設定された動作パラメー
タ)
として行うが、徐々にオープン
(開
放)ドリル
(動作パターンがランダム
で、外的な刺激の認識とその刺激に対
する反応に依存する)に移るべきであ
表4 向上段階のガイドライン
・競技の主要な移動および動作パターンに焦点を合わせる
・最初はクローズドドリルを用い、徐々にオープンドリルへと進む
・ドリルの速度を上げ、競争を導入する
・ドリルに変化をつける
・詳細なフィードバックを与える一方、フィードバックの量は減らす
・フィードバック時に質問をして、自分のパフォーマンスをモニタリングさせ、誘
導発見学習を促進する
る。オープンドリルでは、選手は、試
・練習はランダムに配置し、内容に変化をもたせる
合で実際に反応するのと同じ刺激に反
・徐々に、目標状況下(サッカー)でドリルを実施する
応することを要求される。例えば、選
手2名によるオープンドリルでは、選
手2がボールを持って選手1に向かっ
ルを利用しても、完全に習得すること
認できるとも限らないからである。そ
て走る間、選手1がバックペダルで移
は決してできない(20)。ここで重要な
のため、試合の代わりに試合の局面を
動する。選手1は選手2の動作と活動
ことは、サイドシャッフルからスプリ
模倣した状況を用いるほうが適切であ
に反応し、選手2がどのような行動を
ントへ移るような、スポーツ競技にお
る。その中で特異的な動作パターンと
とったとしても、それに適切な反応を
いて観察された典型的な動作の変化を
そのコンビネーションに狙いを定め、
する必要がある。この一連の活動全体
特定すること、そして最初はクローズ
また適切な指導介入も行うことができ
は、重要な刺激の再生を伴うものであ
ドドリルを用いて、動作パターンを上
る。ここでも、試合における視覚的ま
り、試合の状況に類似している。この
達させ安定化させることである。しか
た感覚的要件を再現する必要がある。
とき動作の結果に対して適切な指導的
し、アスリートが進歩するにつれて、
肝心なことは、提供される付加的
介入を提供することにより、理想的な
前述の試合に類似したオープンドリル
フィードバックの質(本稿の
「指導者に
学習経験が実現する。
へと漸進する必要があり、試合で要求
よるフィードバック」の節を参照)
と選
したがって、向上段階は、クローズ
される重要な感覚的スキルと関連づ
手自身の誘導発見学習の水準である。
ド〈閉鎖〉
ドリルからオープンドリルま
けながら漸進させる必要がある(12)。
最終的な目的は、選手が自分の動作を
で移行することが特徴である。クロー
Jeffreys(10)が提供した向上レベルに
評価できる能力、パフォーマンスに関
ズドドリルは基本的な動作パターンと
おける指導のガイドラインが、表4に
連のある質問に答えることができる能
そのコンビネーションを身につける際
まとめられている。
力、さらに、試合中に自分のパフォー
マンスを分析して必要な調整を行うこ
には有益であるが、その予測可能性が
多くのクローズドドリルの弱点であ
ピーク段階
とができる能力を向上させることであ
る。動作が一旦始まると、あらかじ
ピーク段階の重要な目的は、先行す
る。このプロセスを促進するためには、
め設定された一連の動作が行われ、ア
る2つの段階から競技パフォーマンス
付加的フィードバックが厳密であるこ
スリートは逸脱する必要がない。だが
に、確実かつ最大限の転移を実現する
と、すでに豊富な経験を積んでいる選
そのような状況は、動作要件が瞬時に
ことである。この転移を促進するため
手のパフォーマンスを高めるレベルで
変化するフィールドスポーツには決し
には、ランダムで、競技特異的なドリ
与えられることが必要である。ピーク
て当てはまらない。例えばサッカーで
ルが何よりも優先される。試合がパ
段階の成功の多くは、前の段階を首尾
は、ウィングをカバーするためにフル
フォーマンスを行う目標の状況ではあ
よく完了していることに基づくと思わ
バックが後方へスプリントしていると
るが、ただ単に試合を行うだけでは、
れる(11)。なぜなら、それらの段階を
きに、ウィングがチェックすることに
理想的な動作向上環境を作り出すこと
経ることにより、堅実な動作パターン
決めると、フルバックは瞬時に停止し
はできない。実際の試合では、最適な
と動作コンビネーションを身につけ、
て方向を変えなければならない。この
スキーマの発達に必要な情報が、常に
それらの動作を自動的にまた競技特異
ような動作の変化は、クローズドドリ
容易に入手できるとは限らないし、確
的な状況において行うことのできる選
C National Strength and Conditioning Association Japan
33
表5 ピーク段階のガイドライン
・各種の複雑なオープンドリルを用いる
・きわめて競技特異的なドリルを目標状況下で実施する
・ドリルはランダムに配置し、内容に変化をもたせる
・頻度は少ないが厳密なフィードバックを与える
・フィードバックにより、選手が動作に関連した質問に答えられるようにする
動作ルールを作ることであるとの前
提に立てば、トレーニングに変化を
持たせることはきわめて重要であり
(6)
、それが運動学習の促進要因とな
る(17)。どのレベルの練習にも、ある
程度の変化は取り入れる必用がある
が、パフォーマンスの最も高いレベル
において必要とされる自動化の発達に
手が誕生するからである。ピーク段階
ドリルの選択
は、多様性が特に重要である(8,16)。
においても、他の段階と同様、指導の
選択したドリルのすべてに、上達さ
練習に多様性を持たせることによって
基準と練習デザインが決定的な重要性
せるべき動作パターンに関して、使用
アスリートに常に重要な動作特性につ
をもつ。Jeffreys(10)が提示した、こ
される目標の運動力学に関して、さら
いて評価させ、その結果、スキーマの
の段階の指導のガイドラインを表5に
に選手が進歩すれば、競技パフォーマ
ルールの発達が促進される(15)。し
まとめておく。
ンスへの転移可能性に関して、具体的
たがって練習に多様性を持たせること
な目的が必要である。ドリルはセッ
により、スキーマを発達させうる幅広
適切な練習
ション全体の目標に関連づけて選択す
い基礎的経験をアスリートにもたらし
適切な向上プロセスが設定された
べきであり、選手の能力とも関係して
(17)、知性的な付加的フィードバック
ら、次に重要な動作トレーニングの3
いなければならない。
によって補強した場合に特に大きな効
果を発揮する。
要素は、適切な練習である。適切な練
習は、熟達者のパフォーマンスの向上
ドリルの配置
にとってきわめて重要であり
(18)
、選
セッションの目標と使用するドリル
適切な指導
手が動作を行う機会が多ければ多いほ
を選択したら、次にコーチは、学習を
動作トレーニングプログラムにおい
ど、動作スキルの向上も大きい。練習
最適化するためにセッション内のドリ
ても、またスピードとアジリティのプ
を組み立てる場合、次の質問によって
ルを配置する。初心者のドリルは大概、
ログラムにおいても、実際、最も看過
セッションの枠組みが提供される。
多くの休息を挟んで細かく配置する。
されている側面が指導である。ドリル
これに対して経験を積んだアスリート
の選択と応用が重要であることは疑う
は、一度により多量の練習をこなすこ
余地がないが、その有効性は適切な指
とができ、単位時間当たり大きな仕事
導があって初めて最大限に高められ
量に耐えることができる。さらに、学
る。適切な指導とは科学でもあり芸術
・ドリルの配置はどうか?
習のきわめて初期を除けば、ランダム
でもあり、その中心は科学原理の応用
・多様性はあるか?
練習
(試行中のドリルの並びが一定で
だけではなく、人間関係と適切な相互
はない)のほうが、ブロック練習(ある
交流に基づいている。したがって、指
目標志向性
タスクのすべての試行が、他のタスク
導は動作トレーニングの3要素におけ
セッションとセッションのすべての
の練習を伴うことなく連続的に行われ
る主軸であり、健全な教育学の原理に
要素に、具体的な目標が必要である。
る)
よりも好ましい(8,16,17)。
基づいていなければならない。
・このセッションは目標に適してい
るか?
・ドリルの選択は目標に適している
か?
動作の指導は、3つの主要な問題を
例えば、向上段階のサッカーのセッ
ションであれば、「ディフェンスで有
練習の多様性
利なポジションをとるテクニックを向
セッションの目標が設定され、目標
・学習環境の提供
上させる」という目標を設定し、その
を達成するためのドリルが選択・配置
・誘導発見学習の提供、そして
目標を中心として、セッション全体の
されたら、最後の重要な要素はドリル
・指導者によるフィードバック
枠組みを作成できるだろう。
の多様性である。動作トレーニングの
目的が、様々な状況に応用できる一般
34
January/February 2009 Volume 16 Number 1
核として展開する。
である。
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学習環境
題点に対する解答を選手自らが導き出
ルの焦点は、バックペダルやサイド
いかなる動作プログラムの結果も、
すことを奨励する。
「結果はどうだっ
シャッフルなど、多くの基本的な動作
ストレングス&コンディショニング
たか」
、
「そこで何が起きたと思うか」、
パターンを行うための最適な方法を確
コーチが自分の指導するプログラム内
「どのように感じたか」などの質問は、
認することである。しかし、それらの
で作り出す学習環境によって大きく促
アスリートの注意を重要な動作パター
基本的パターンが一旦確立したら、最
進される。最適な学習のためには、ア
ンの特徴に引きつけるので、誘導発見
終目的はそれらのパターンを試合に転
スリートが学習経験に積極的に関わ
学習を促進する素晴らしい手段であ
移させることであるから、試合の状況
り、自分が刺激を受け、支援されてい
る。このようにして選手は、次第に自
を再現するドリルを用いることが必要
ると感じられる、動機付けを高める雰
らの動作を評価し、動作に基づく重要
になる(2)。したがって、向上プログ
囲気が重要である
(3)
。事実、才能の
な情報を引き出す能力を獲得できる。
ラム全体を通して、一般的パターンか
発掘と発達に関するある報告は
(18)
、
なぜそのようなことが起きているのか
ら高度に特異的なドリルまで移行させ
パフォーマンスは、個人の能力の発達
をアスリート自身が判断できるように
ていかなければならない(9)
。
を促す環境においてのみ向上すると主
なれば、動作経験から得た学習が大い
張している。さらに、誘導発見学習を
に促進される。こうして獲得したスキ
指導者によるフィードバック
巧みに導く指導介入を行うことによっ
ルは、
試合の状況にも十分に転移する。
スキーマ理論の重要な特徴は、アス
て、学習環境は最適化される。
選手は、自分のパフォーマンスを評価
リートが種々の状況に適用できる動作
し、必要な調整を行うことが可能にな
ルールを学ぶ必要があるということで
誘導発見学習の巧みな技
るからである。
ある(17)。動作ルールを発達させると
スキーマ学習の最適化に関する重要
誘導発見学習を最も効果的に提供す
きの情報には、4つの重要な特徴があ
な特徴は、動作の結果に関する情報が
るために重要なことは、アスリートが
る(17)。
必要であることである。スキーマ学習
動作に基づく重要情報を入手できるよ
1. 初期条件に関する情報(姿勢、足の
の興味深い特徴は、正しい動作と誤っ
うに、誘導発見学習の難度をアスリー
た動作のどちらからもプラスの学習効
トの発達レベルに合わせること、そし
果が得られるという点である。誤った
てアスリートの成長に伴って難度を上
動作を行った場合、動作が誤っている
げていくことである(4)。この目標を
ことを選手自身が気づき、誤った理由
達成するためには、指導の正確さが要
を考えることが重要である。これが知
求される。すなわち、動作パターンに
性的な指導と組み合わさって、誘導発
対処する必要がある場合、あるいは学
見学習の形式をとることができる。ア
習経験が生じた場合、常に誘導発見学
これらの4つの情報要素があれば、
スリートに自分の動作パターンを評価
習を促進する動作に基づいた質問を用
スキル学習とスキーマの発達は最適化
することを奨励することは、スキーマ
いる。このためには、動作課題に関す
されるだろう。4要素のうちいずれが
に基づく動作パターンを発達させる最
る情報のうち、最も重要な情報源に的
欠けていても、スキーマの発達は遅れ
良の方法である。またこのプロセスに
を絞る必要がある(19)。多くの場合、
る(17)。多くの場合、情報が存在して
よって、アスリートは自分の動作を評
競技スキルの失敗は動作の失敗にまで
いても、選手がそれを利用するスキル
価し修正する力と自信をつける。そ
遡ることができ、それらがレベルの高
を持っていない可能性がある。その場
れが一層強力な学習環境を提供する
い指導と一体となったときに、適切な
合には、コーチが選手の注意をその情
学習環境を提供できる。
報に向けさせる必要がある(16)
。これ
誘導発見学習は、動作プログラムの
ドリルの適用も、選手のパフォーマ
が、コーチが最も重要な情報をアス
開始当初から積極的に取り入れること
ンスレベルと一致した、適切なレベル
リートに示す付加的フィードバックの
ができる。動作を行う前に指導者が多
でなければならない。プログラムを開
重要なポイントである。すなわち、ス
くの手がかりを与えるよりも、選手が
始したばかりの選手には、比較的単純
キーマの発達に必要な情報のうち、不
ドリルを試みた後で、特定の動作の問
なドリルが必要だろう。それらのドリ
足部分を埋める情報をコーチが提供す
(16)
。
位置など)
2. 動 作 パ タ ー ン の パ ラ メ ー タ( ス
ピード、方向など)
3. 動 作 の 結 果 に つ い て の 付 加 的
フィードバック
4. 結果を感覚的に捉えた結果(どう
感じたか、見えたかなど)
C National Strength and Conditioning Association Japan
35
るのである。ドリルと動作の指導は、
それぞれの動作パターンに関して、
ドシャッフルにおいては、方向を変え
ドリル自体をはるかに超えたものであ
カギとなる運動力学を明らかにする
ることがきわめて重要であり、またこ
るから、セッションによって最適な学
ことができる(9)。これらの運動力学
の方向変換はいついかなるときも起こ
習を実現し、最適な動作の向上をもた
は、あらゆるドリルの応用のための指
り得る。効果的に方向を変えることは
らすためには、コーチは、選手が前述
導用テンプレートを提供し、またコー
選手の重心が安定していること、低い
の情報を必ず入手できるようにする必
チがフィードバックを提供するときの
位置にあること、さらに選手の足が地
要がある(9)。ただ単にドリルを行う
軸となるテンプレートも提供する。最
面に近く低い位置に保持されているこ
だけでは、いかにうまく作成されたド
適な運動力学は、3つの主要エリアに
とが必要である。しかし、このドリル
リルでも、最適な動作パターンを使わ
焦点を合わせる。姿勢、腕の活動、お
を行うとき、多くの選手の重心は運動
なかったり、また付加的フィードバッ
よび脚の活動であり、これらは一般に
時に上下し、足が地面から離れてしま
クを与えずにドリルだけを行えば、決
PALパラダイムと称されている(5)。
う。このような動作をした場合、選手
して最適なスキルの向上をもたらすこ
1. 姿勢:身体アライメント、荷重分
は比較的速くA地点からB地点に到達
とはできない(9)。誘導発見学習と同
布、重心の位置、基底面に対する重
することができるが、空中で方向転換
じく、付加的フィードバックも選手の
心線、ヘッドポジションなどを含む
することはできない。つまり上下動作
成長に合わせて変化させる。アスリー
2. 腕の活動:動作の大きさ、動作の
は、サッカーの試合の状況では全く有
トが上達プロセスの段階を上っていく
方向、力発揮能力などを含む
効性に欠けるため、ドリルで教示すべ
につれて、頻度が高く一般的で詳細な
3. 脚の活動:身体と脚部に対する足
きではないし、ドリルに取り入れては
厳密性を含まない情報から、頻度は少
部の位置、足圧分布、脚部のアライ
ならない。これは単にドリルに的を絞
ないがきわめて正確な情報へと発展さ
メント、力発揮能力、力の方向、基
るのではなく、最終目標を念頭に置い
せる。
底面などを含む
てドリルを開始することの重要性を示
それぞれの動作パターンには、それ
す好例である。したがって、ターゲッ
自体のターゲットメカニクスがある
トメカニクスは、コーチがフィード
すべての動作は正しい力学原理に基
(12)
。それらは最適なテクニックの基
バックを与えるときの核となるモデル
づいていなければならない。それが、
礎となる、基本的な力学的原理を提供
効果的な動作の指導とフィードバック
する。使用されるテクニックには一定
の基礎を提供するからである。指導や
の個人差があると思われるが、すべて
結論
フィードバックが成功するためには、
のテクニックは、基本的な力学的原理
高い競技パフォーマンスを発揮する
コーチが、様々な動作パターンに関す
に従わなければならない。世界のトッ
には効果的かつ効率的な動作が重要で
る明確な技術モデルを持っていること
プクラスのスプリンターの間で見られ
あり、平均的な選手とトップクラス選
が肝要である。表1は、一連の重要
る技術差がごくわずかであるように、
手との違いでもある。動作はスキルで
で基本的なテクニックを特定し、サッ
用いられるテクニックはすべて、動作
あり、スキルである以上、訓練し、上
カーのための動作シラバスを示してい
を支配する一般的なルールに従ってい
達させることができる。大多数のスキ
る。ここできわめて重要なことは、こ
るのである(11)。
ルと同様、動作スキルの向上には、運
れらの動作を行うときは、パフォーマ
テクニックを評価するときに重要な
動制御の原理に基づいた長期的な取り
ンスを最適化するテクニックを使って
ことは、選手が基本的な力学的要件を
組みが必要である。競技の動作を構成
行うということである。このような最
達成しているか、また試合にそれらが
要素に分解することによって、動作の
適なテクニックを、
「ターゲットメカ
直接転移しているかどうかである。一
向上と競技パフォーマンスへの転移と
ニクス
(target mechanics)
」と 名 付 け
つの良い例がサイドシャッフルの動作
を最適化できる漸進的システムを構築
ることができ、それは動作効率、効果、
である。サッカーにおいて重要なこの
できる。この向上システムの中で適切
力発揮を最適化できる健全なバイオメ
移動動作は、アタッカーの動きなどの
な練習が行われ、適切な指導によって
カニクス的原理に基づいていなければ
様々な刺激に反応するのを待っている
補強されれば、動作トレーニングの
「3
ならない
(7)
。
ときに用いられる。サッカーでのサイ
要素」が確立されて、スキル学習と動
ターゲットメカニクスの応用
36
January/February 2009 Volume 16 Number 1
を提供する。
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となるだろう。◆
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15. Schmidt, RA. A schema theory of discrete
CSCS/NSCA-CPT認定者の皆様へ
2008年CEU報告書提出について
2008年CEU報告書をまだ提出されていない方は、早急に事務
局まで郵送してください。提出書類は、下記の3点です。
① 2008年用報告用紙
(
『継続教育の方針と手続き』
22 ~ 23ページ)
motor skills. Psychol Rev 82: 225-260, 1975.
16. Schmidt, RA and Wrisberg, CA. Motor
Learning and Performance , 3rd ed.
Champaign, IL: Human Kinetics, 2004. pp 183275.
17. Schmidt, RA and Lee, TD. Motor Control
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Champaign, IL: Human Kinetics, 2005. pp 302458.
18. Sportscotland. Player Improvement: A
Consultancy Paper. Edinburgh: SportScotland,
2005.
19. Wulf, G, Shea, C, and Park, JH. Attention
and motor performance; Preferences for
and advantages of an external focus. Res Q
Exercise Sport 72: 335-344, 2001.
20. Young, W and Farrow, D. A review of
agility: practical applications for strength and
conditioning. J Strength Cond Res 28: 24-29,
2006.
From Strength and Conditioning Journal:
Volume 30, Number 4, pages 19-27.
著者紹介
Ian Jeffreys: 英 国 ウ ェ ー ル ズ の University
of Glamorgan で ス ト レ ン グ ス & コ ン デ ィ
ショニング上級講師を務め、ブレコンにある
All-Pro Performance の経営者兼パフォーマ
ンスディレクターとしても活躍している。
CEU インフォメーション
~ Vol.11 ~
までに2008年CEU報告書のご提出が確認されない場合、認定資
格失効の手続きがなされ、2009年1月下旬~ 2月上旬に「認定資
格失効のお知らせ」を郵送します。遅延者のために特別措置をはか
る場合もありますので、対象の方はお送りするお知らせを必ずお
読みください。
※
「CEU証明書類」
(同14ページ参照)添付のこと。
2008年CEU報告書をすでにご提出いただいた方の中で、12月号のク
※12月号のクイズも、2008年の活動に含まれます。CEU報告書提
出の際は、活動内容の欄に“取得予定”とご記入ください。
イズを提出された方、銀行引き落としを希望された方の報告書の結果の
発送は、1月中旬以降になります。また、銀行引き落としを希望された
方で報告書の内容に不備のある場合は、その旨を事前にお知らせします。
② 管理費の振込受領証のコピー(今回は銀行引き落としはできま
せん。郵便局に備え付けの振替用紙をご利用の上、お振込みく
ださい。)
③ CPR認定証のコピー(2008年12月31日時点で有効なもの)
※CPRの更新が12月中で、認定証が年内にお手元に届かない場合に
限り、CEU報告書の送付期限を2009年1月末までとしますので、
すべての書類を揃えてお送りください。また、仕事の都合等にて1
月よりも遅れる場合はその旨をお書きになり、ご提出ください。
な お、2006年1月1日 ~ 2008年12月31日 の 継 続 教 育 活 動 が
2008年12月31日までに修了できなかった場合、もしくは1月末
2009年~ 2011年のCEUについて
資格の継続をされた方に、1月末より今期(2009 ~ 2011年)
の認定証と『資格更新のための継続教育活動(CEU)について』の冊
子をお送りいたします。新たに変更された事項もございますので、
必ずお読みください。
ご不明な点がございましたら、NSCAジャパン事務局(CEU担
当/ [email protected])までお問い合わせください。
ウェブサイトで自分のCEU取得状況をチェックしよう!
NSCAジャパンウェブサイトにて、ご自分のCEU活動の状況、取得CEU数、残単位数などが閲覧できるサービスがスタートしました!
ぜひ、今年のCEU報告書のご提出からお役立てください。詳しくは、ウェブサイトをご覧ください。
NSCA ジャパン事務局 TEL:03-3452-1684 http://www.nsca-japan.or.jp
C National Strength and Conditioning Association Japan
37
Information
作能力の向上を最大化することが可能