なざなざなざりっく! ID:71893

なざなざなざりっく!
プロインパクト
︻注意事項︼
このPDFファイルは﹁ハーメルン﹂で掲載中の作品を自動的にPDF化したもので
す。
小説の作者、
﹁ハーメルン﹂の運営者に無断でPDFファイル及び作品を引用の範囲を
超える形で転載・改変・再配布・販売することを禁じます。
︻あらすじ︼
ユグドラシルサービス終了時に起きた、もしかしたら有り得たかもしれない世界の
話。
この話は制作者のオリジナル展開も多少入ってます。
その場のノリなどで書いてますので定期更新ではありませんが、どしどし書いていき
ますのでお相手お願いします。
始まりと再会 │││││││││
│││││││││││││││
ガゼフ・ストロノーフ∼カルネ村編∼4
目 次 ︶会、お茶会、撮影会 │
1
ぷらねっとうぉっちんぐ ││││
ナザリック大会議∼至高の方々による至
高なる会議∼ │││││││││
メ ン バ ー チ ェ ン ジ ∼ カ ル ネ 村 編 ∼ 5 38
29
つかの間の平穏 ││││││││
む︶ │││││││││││││
どきっ、女だらけのイベント回︵異業種含
おいでよ、ナザリック城 ││││
ナザリックの忙しい一日 ││││
戦いの終わり∼カルネ村編∼6 │
46
ナザリック大会議∼守護者によるナザ
リックの為の会議∼ ││││││
師弟の稽古 ││││││││││
55
136 128
へいわのひとこま │││││││
はじめてのおつかい ││││││
65
女 教 師 怒 り の 鉄 拳 ∼ カ ル ネ 村 編 ∼ 2 正義の味方∼カルネ村編∼1 ││
86
118 106 99
22
78
94
女子︵
7
お っ ち ょ こ ち ょ い ∼ カ ル ネ 村 編 ∼ 3 74
15
?
│
始まりと再会
オンラインゲーム︻ユグドラシル︼サービス終了当日、10分前。
ギルド︻アインズ・ウール・ゴウン︼の本拠地、ナザリック第十階層にある玉座の間
に、二人の姿があった。
そのうちの一人。ギルド長であるモモンガは、守護者の一人であるアルベドの設定を
見て、一人絶句していた。
ちなみにビッチである
クロールしていくと、最後の一文に目が止まった。
電化製品の取り扱い説明書のような文章量に、モモンガが飛ばし気味で設定画面をス
た。
て微笑んでいるアルベドだが、そのキャラクター設定は膨大な量の文章で記されてい
そんな呟きが、モモンガがいる玉座の間にぽつりと広がる。傍らでモモンガに向かっ
﹁設定魔なのは知っていたけど、タブラさん設定凝りすぎだろこれ⋮﹂
1
ビッチ
ピッチ
⋮⋮ビッチ
?
?
を付いてふと考える。
して、設定の改竄を行う。〝ちなみにビッチである〟という行を消して、モモンガは肘
ギルドを象徴するギルド武器︽スタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウン︾を使用
最後の日だし、皆も許してくれるだろ。
の物なので、骸骨が悩む姿はかなりシュールな画になっている。
設定画面を開いたまま、う∼むと唸るモモンガ。その姿はアンデッドのオーバロード
﹁女の子なのに、流石にこれは可哀想だ⋮⋮﹂
因みに、アルベドには他にもニグレド、ルベドという姉妹がいる設定もある。
ター設定を見たら分かる通り、かなりの凝り性なのだ。
一度やると決めたら徹底的にやり込む、そしてギャップ萌え。アルベドのキャラク
格︵性癖とも言える︶を思い出して頭を抱えた。
時が止まったように少しの間手が止まるモモンガだったが、製作者であるタブラの性
?
モモンガを愛している
決断したなら、後は実行有るのみ。と、ノリノリで残った行に文字を入力していく。
﹁え、うーん⋮⋮、良いのかなぁ⋮⋮。ま、いっか、どうせ最後だし﹂
始まりと再会
2
﹂
?!
﹂
?
﹂
!
た。
アインズ・ウール・ゴウンが誇るギルド一の問題児、るし★ふぁーの姿がそこにあっ
﹁るし★ふぁーさん⋮⋮
﹁ギリギリだけど、おひさーです
自分が座る玉座の背から聞こえた声に、思わずモモンガは振り向く。
﹁
﹁みーちゃった、みーちゃった。せーんせーにゆーたーろ♪﹂
そして、そんなモモンガを見つめる目線が3つ。
俺の事を愛してくれたらなぁ⋮⋮。と。
想像以上の気恥ずかしさに、思わず出したこともない声が吹き出した。こんな美人が
﹁おぅっふ﹂
3
声に合わせて敬礼した彼は、ニカッと笑って言った。
﹁今日が最終日だって言うし、来たんですよ。正直、ギルドが残っているとは知らなかっ
たですけどね、今日までありがとうございます﹂
あぁ⋮⋮、懐かしい。
目の前のるし★ふぁーに対して抱いた感想はそれだった。ギルド一の問題児として
大変だった彼だが、その問題行為も今では良い思い出になっている。
モモンガが感傷に浸っていると、るし★ふぁーが言った。
るし★ふぁーが、モモンガの座る玉座の前に向かって指を指した。
﹁ま、僕だけでなく他の人も居るんですけどねー。ほら、あの人も﹂
﹁タブラさんもね﹂
﹁お久しぶりです。モモンガさん﹂
そこには、タブラ・スマラグティナの姿があった。その姿を見て更に興奮し、思わず
﹂
泣きそうになるモモンガに向かって、タブラは続けた。
?
れと同時に、スゥ、と緑の回復エフェクトの様な物が身体を包み、先ほどの緊張感が消
骸骨の身体なのに、全身に冷や水をぶっかけられた様な感覚がモモンガを襲った。そ
﹁いや、この場合は義息子の方が良いのかな
始まりと再会
4
えてしまった。
それを見て頭に﹃あれ、こんなエフェクトあったっけ﹄と疑問符を浮かべるモモンガ
﹂
これはまさかNTR、寝とりな
とるし★ふぁーだったが、こちらへと近付いてくるタブラの重圧感に押し潰されそうに
なる。
のか
﹁いいや、同僚に守護者を取られたのだから⋮⋮寝とり
﹁お待ち下さい
タブラ・スマラグティナ様、どうか御許し下さい
突然動き出したアルベドによって、3人の思考がストップした。
!
﹂
知った。そりゃそうだ、怒るさ、と超位魔法の一発でもくらう覚悟を決めたが。
興奮気味に此方へと近付いてくるタブラに、モモンガは自分が行ったことの重大性を
?!
?
!
5
﹁やっぱり怒ってますよね
﹂
﹁大丈夫ですよ、NTR展開とか最高じゃないですか
﹂
!
?
﹁あー、この人やっぱアレだわ﹂
始まりと再会
6
女子︵
︶会、お茶会、撮影会
は、5つの人影が見えていた。︵人影と言っても、頭に異形種の、が付くが。︶
ナザリック第六階層、豊かな自然が広がっている大森林の中にある巨大樹。その中に
?
すけど﹂
?
ルファがいる。
?
の動きやすそうな服装とは違い、ピンクを基調としたフリフリのドレスを着ていた。
ぶくぶく茶釜は膝の上でモゾモゾしているアウラに問い掛ける、アウラの服装は普段
﹁ま、確かに最初はテンパったけどねー、ってアウラ、どうかしたの
﹂
けられているアウラ・ベラ・フィオーラ、やまいこの脇に控えているメイドのユリ・ア
いこのアインズ・ウール・ゴウン女性メンバー3人だ。他にはぶくぶく茶釜の膝に乗っ
丸形のテーブルに集まって話しているのは、ぶくぶく茶釜、餡ころもっちもち、やま
﹁最初はボクもビックリしましたけど、今では結構慣れた⋮⋮かな
﹂
﹁本当ですよねー。まぁ、ご飯も美味しいし、施設も最高だし、元現実とは天と地の差で
﹁それにしても、まさかナザリックの中でリアルに過ごす日が来るとはねぇ﹂
7
﹁い、いえ、申し訳ありません。普段はこのような服は着ないため、その⋮⋮、少し恥ず
かしいというか、なんというか﹂
顔を赤らめながら言うアウラの言葉は、普段の彼女を知るユリからすれば﹁誰だコイ
ツ﹂みたいな感想を抱かせた。
普 段 の 快 活 な キ ャ ラ は 引 っ 込 み、年 頃 の 少 女 の よ う な 初 々 し い 様 子 を 見 せ て い る。
はっきり言って破壊的な可愛さだった、一枚撮りたい。
アウラがこのような格好をしているのは、簡単に言ってしまえばぶくぶく茶釜の趣味
だ。他にも部屋の隅にあるタンスの中には数種類のドレスなどが有るし、キグルミなど
も用意している。
かなり短めのスカートの裾をギュッと握り、ダークエルフ独特の浅黒い顔を真っ赤に
して俯くアウラを見て、ぶくぶく茶釜は無い表情を愉悦に歪ませた。
﹁え、ちょ、ま、待ってください‼御慈悲を、御慈悲をぉぉぉ‼﹂
な空気に身体を凍らせる。
何処からともなくカメラを取り出した餡ころもっちもち、アウラは二人から漂うイヤ
﹁本当です最高です撮ります﹂
ん﹂
﹁ふっふっふ、やはりこのぶくぶく茶釜の感性は間違っていなかったようだよ、餡ころさ
女子(?)会、お茶会、撮影会
8
﹁ダーメ♪茶釜さん、エロいの行きましょう、エロいの﹂
言うが早いか、ぶくぶく茶釜の身体の一部が変形し、アウラの手足を拘束する、立場
﹁合点承知﹂
的にも実力的にも格上の二人からは、今のアウラでは逃げ切れなかった。
﹂
でもせめて、せめてもの慈悲をもう二人残っているやまいことユリに求め、すがるよ
うに視線を向ける。
﹁うん。このケーキ初めて食べたけど好きな味だな﹂
﹂
﹁お口に合ったようで幸いです、お飲み物は如何しますか
﹁んーと、ロイヤルミルクティーとか有るかな
⋮⋮お褒めの言葉、大変嬉しく御座います﹂
!
のなかで叫んだ。
こっちの事なんかガン無視でお茶してやがった二人に、アウラは﹁薄情者ぉ‼﹂と心
﹁っ
﹁ありがとう、ユリみたいなメイドを持って幸せだよ﹂
﹁畏まりました。すぐに用意致しますね。その間、此方をお食べ下さい﹂
?
?
9
◆
疲れた⋮⋮、精神的にも肉体的にも。
﹁うぅ⋮⋮﹂
次はこの衣装、次はこれ。そんな感じに着せ替え人形と化していたアウラは、ひとし
きり撮影が終わると解放された。普段着ている服装に着替えると、部屋に備え付けられ
ている椅子に腰掛けた。
﹁やー。お疲れ様ー﹂
﹁っぁ、申し訳ありません‼﹂
手を軽く振りながら現れた餡ころもっちもちに、アウラはすぐさま立ち上がって頭を
垂れる。疑問そうにこちらを見る彼女にアウラは口早に謝罪を述べる。
いつまでも何も言わない彼女に、アウラが不安気に少し顔を上げる。そんなアウラを
員みたいなものかなー。と他人事の様に思っていた。
文句なしの姿勢で謝罪するアウラを見て、餡ころもっちもちは会長の前でだらけた社
てはいけない。という気迫が、アウラから漂っている。
普段通りの服装に身を包んだ今となっては、先ほどの様な真似は出来ない、いや、し
﹁至高の御方を前にして不敬な態度、申し訳ありません‼﹂
女子(?)会、お茶会、撮影会
10
見て、餡ころもっちもちは笑った。
﹁あははは、大丈夫大丈夫。怒ってなんかないよ、楽にして
﹁ハッ﹂
﹁いや、普通に座ってほしいんだけど⋮⋮﹂
﹂
?
﹁で、ですが、それは至高の御方への侮辱に﹂
ケラケラと笑って追撃する餡ころもっちもち。
﹁そーだそーだ﹂
﹂
﹁それは守護者としてのアウラの役割でしょ。今は、私の娘としてのアウラで居てよ﹂
軽く頭を下げ、敬礼しているアウラ。そんな彼女に、ぶくぶく茶釜は言った。
﹁至高の御方であるお二人の前で、失礼な態度は取れませんので﹂
て、アウラは口を開く。
その言葉を聞いてぶくぶく茶釜は軽くため息を漏らした。そんな二人の会話を聞い
﹁またですか﹂
﹁いやね、アウラがまた真面目ちゃんに戻っちゃって﹂
﹁ただいまー⋮⋮、何の状況
とをしていると、ぶくぶく茶釜が戻ってきた。
その場で手を後ろに組んで待機をしだしたアウラに、思わず苦笑がもれる。そんなこ
?
11
﹂
﹁あぁーもぅー﹂
﹁ぁぅっ
ろもっちもちは言った。
ベチン、という低めのハイタッチ音が響く。ぽかんと口を開けているアウラに、餡こ
﹁﹁イェーイ﹂﹂
﹁ナニでしょ﹂
﹁ナニをするんですかねぇ﹂
から言われたらソイツ連れてきなさい、お話をするから﹂
﹁その至高の御方で、アウラの親である私が言ってるんだから良いの。もし文句を誰か
ウラを乗せたぶくぶく茶釜は、彼女の頭を優しく撫でていった。
本日何度目かの拘束を受け、アウラの身体はぶくぶく茶釜へと運ばれる。膝の上にア
?!
﹂
﹁ありがとうございます
﹁は、ハイ
﹂
﹂
﹁うん。気軽に頼ってくれると、ボクも嬉しいかな。ユリもだよ
?
神にも等しい方々からの言葉に、二人は涙目で返事をした。
!
!
﹂
?
何かあったら、私ややまいこさんにも相談しなよ
﹁そんな恐ろしいお母さん﹁オイ﹂違った、美少女なお母さんなんだから、大丈夫だよ。
女子(?)会、お茶会、撮影会
12
﹂
再び団欒が始まった時、そういえば、とアウラが口を開く。
﹁先ほど、お二人はどちらに行かれてたのですか
あぁ⋮⋮﹂
やいのやいのとドタバタしだした三人を見て、やまいことユリは苦笑いをしていた。
﹁ちょ、お二人共、本当に御慈悲をぉぉぉ‼﹂
﹁ディーフェンス‼ディーフェンス‼﹂
﹁と、通して下さい‼アレだけは、アレだけは現像を阻止しなければぁぁあああ‼﹂
﹁ディーフェンス‼ディーフェンス‼﹂
﹁第九階層の、写真屋﹂
カチャリ、と二人はティーカップを置いて
﹁ぅん
?
?
13
﹁でも、こういうのも好きだなぁ﹂
に流通するが、それはまた別のお話。
後日、ナザリック内部にて、ダークエルフの少女のコスプレ画像︵ギリギリ︶が極秘
やまいこの言葉に、ユリは優しく微笑んだ。
﹁⋮⋮はい﹂
女子(?)会、お茶会、撮影会
14
ぷらねっとうぉっちんぐ
﹂
?
この森には姉であるアウラ・ベラ・フィオーラの使役獣のフェンリル等が放し飼いさ
た。大きさ的には姉が飼っている魔獣だろうか、と彼は考える。
次はどうしようか。とマーレが考えていると、彼の索敵に引っ掛かった反応があっ
﹁⋮⋮
らせたり、木々に水を上げたり、様々だ。
ドルイドである彼は、その能力を使用して、森の調整を行っていた。邪魔な雑草を枯
る。
何処から見ても少女、という姿であったが、その実、男の子である。否、男の娘であ
た。
第六階層の大森林、木々が生い茂るその中に、マーレ・ベロ・フィオーレの姿はあっ
﹁ふぅ、こんなものかなぁ﹂
15
れている。特別襲い掛かってはこないのだが、見た目はかなり怖い。
﹂
それだったらどうしようかなー、怖いなー。と思っていたが、目に入ったソレを見て
そんな考えは全て吹き飛んだ。
﹁ぶ、ブループラネット様⋮⋮っ
﹂
?
ます﹂
﹁うん、宜しく頼むよ﹂
!
されるのは褒美と一緒だからだ。
高の御方である方からならば、どんな命令でも遂行するのが当たり前であり、また命令
ペコリと軽く頭を下げたブループラネットに、マーレは慌てて上げるように促す。至
﹁あぁ、そこまでされなくても、命令してくだされば充分です
﹂
﹁は、はい。それでしたら、この先に開けた場所が有りますので、そ、そちらにご案内し
﹁急に来て悪かったね。少し、この辺りでゆっくり出来る所はないかい
姿を確認してすぐ、跪く。そんなマーレを見てブループラネットは言った。
?!
トを案内した。
若干カチコチと動きがぎこちなくなっていたが、マーレは目的地へとブループラネッ
﹁︵ぜ、絶対に粗相の無いようにしなきゃ⋮⋮︶﹂
ぷらねっとうぉっちんぐ
16
◆
正直叫びだしたかった。
ブループラネットは、先頭を行くマーレに付いて行きながら、そんな衝動にウズウズ
していた。
彼は自然を超が付くほど愛している男である、特に星空が好きで、素材と金を用意さ
えすればほぼ何でも作れるユグドラシルは、彼の趣味を更に暴走させた。
ただろうと感じた。
こっちに来て涙は出ない身体になっていたが、人間のままであったらマジ泣きしてい
﹁はぁー⋮⋮﹂
で覆われていたため、見るのは生涯初めてである。
自身が作り上げた最高傑作とも言える、第六階層の星空、現実では汚染されきった雲
﹁︵そして、空を見上げれば満天の星空⋮⋮、此方に来れて良かったぁ⋮⋮︶﹂
来なかった事を、彼は堪能しまくっていた。
深呼吸をして感じる、マイナスイオンたっぷりの空気。森林浴という現実では一生出
﹁︵うっはーぁ⋮⋮、本ッ当に最高だ︶﹂
17
﹁な、何か不備が御座いましたか
﹂
此方の管理をさせて頂いている身からすれば光栄です
!
だ。勘違いをさせて済まなかったな﹂
﹁あ、いえいえ
﹂
ありがと
﹁いいや、あまりにもここの環境が良くてね、私は自然が大好きだから堪能していたん
因だろうと理解したブループラネットは笑って言った。
前を歩いていたマーレが、びくびくしながら此方へと振り返る。さっきのため息が原
?
◆
を言い合いながら、進んでいく。
不安気な顔から溢れんばかりの笑顔に変わったマーレ、二人はそのまま他愛ないこと
うございます
!
!
案内されたのは、森のなかにある少し開けた場所。大きめの木々の間にハンモックが
﹁いいや、私にはこれで完璧さ﹂
すが⋮⋮﹂
﹁こ、此方で御座います。申し訳ありません、至高の御方が過ごすにはまだ不充分なので
ぷらねっとうぉっちんぐ
18
通してあり、充分過ごしやすいと言える。
﹂
?
土下座でも始めそうなマーレに、ブループラネットは手を降る。
﹁も、申し訳ありません‼睡眠の邪魔をしてしまいまして‼﹂
いマーレが、ビクリと跳ね上がった。
どのくらい時間がたったのか、気付けば寝ていたらしい。側でずっと控えていたらし
﹁⋮⋮ぅん
﹁ブループラネット様は、本当に自然が好きなんだなぁ⋮⋮﹂
れば、それだけで充分すぎる物だった。
人生を掛けて想像し、創造した夢が目の前に広がっている。ブループラネットからす
はゆっくりと目を瞑った。
ナザリックのシモベ全員が許可しないであろうことを考えながら、ブループラネット
﹁︵⋮⋮ここに住むのも良いなぁ︶﹂
た。後ろでマーレが何やら言っているが、この際無視しておく。
空間から敷くためのマットを取り出したブループラネットは、無造作にそれを放っ
﹁よ、っと﹂
19
﹁いや、こちらこそ済まない。どれ、少し冷えただろう温かい飲み物でも出そう﹂
空間からポットやら何やら取り出して準備しだしたブループラネットに、マーレが慌
てる。
﹁い、いえ‼別に問題ありませんので、そんなことしていただなくとも⋮⋮っ﹂
でも、もう準備は終わったから、出来れば飲んでほしいだが⋮⋮﹂
﹁ブループラネット様の幼少期ですか⋮⋮気になります﹂
星空に対しての興味が尽きないんだ﹂
﹁私はね、幼い頃に見た本にあった星空に、心を奪われてしまってね。それ以来、自然や
の方に差しだして、ブループラネットは言った。
ホコホコと湯気が上がっているマグカップを二つ用意している。その一つをマーレ
﹁そうかい
?
楽しげに話すブループラネットを見て、マーレはただ笑った。
自分達からすれば神にも等しい方の幼少期、普通じゃないだろ。と言いたくなるが、
﹁はは、普通の子供さ﹂
ぷらねっとうぉっちんぐ
20
お待ち下さい‼﹂
た、確かに。見落としていたな⋮⋮、よし、行こう﹂
﹁え。ぶ、ブループラネット様
?!
てで捜索、捕獲部隊を編成︵守護者主導︶したのは後の話。
単身星空を見ようと外に飛び出したブループラネットのせいで、ナザリック内が大慌
?!
﹁外
たが。
まぁ、ブループラネット様の作った物とは比べ物にはなりませんが、と続けようとし
﹁そ、そういえば、モモンガ様が外の世界の星空も素晴らしいと称賛されていました﹂
21
ナザリック大会議∼至高の方々による至高なる会議∼
︻ウルベルト・アレイン・オードルと、たっち・みーの仲は悪い︼
それはナザリックに居る者ならば、誰でも知っている常識だった。
ギルド内にて魔法職最強であるウルベルトと、戦士職最強であるたっち、その元々の
職の違いや性格の違いが衝突の原因である。
狩りにいくモンスターで対立、善行か悪行かでの対立、正義の味方を良しとするタッ
チとは違い、悪であることを極めたいウルベルト、互いが互いに気に入らない存在で
あった。
例えば、こんな具合に。
ふぁー、タブラ、ぶくぶく茶釜、餡ころもっちもち、やまいこ、ブループラネット、ヘ
モモンガの言葉に、円卓の間にて集まっていたプレイヤー、ペロロンチーノ、るし★
﹁││さて、それでは会議を始めましょうか﹂
ナザリック大会議∼至高の方々による至高なる会議∼
22
ロヘロ、武人建御雷、たっち・みー、ウルベルトのユグドラシルプレイヤー11人が椅
子へと座る。
?
!
題児であった。
﹁やっぱり世界征服でしょ
﹂
モモンガの言葉に、うーむと悩み出すギルメン、そんな中口を開いたのは何時もの問
ですよ﹂
﹁皆さん、何か提案はありますか 具体的でなくとも、漠然とした夢の様な物でも良い
会議のお題は、︻これからこの世界どう進んでいくか︼という事から始まった。
誰にも見えないテーブルの下で、モモンガはグッと拳を握った。
﹁︵とはいえ、他のギルメンも居るかもしれないし、これから頑張らないとな︶﹂
以上を望むのはワガママとも言える。
ギルド全盛期とまでは行かないが、それでも主要なメンバーが揃っているのだ、これ
和気藹々と座って話している姿を見て、モモンガは目を細めた。
﹁︵懐かしいなぁ⋮⋮︶﹂
23
﹁却下﹂
﹁言うと思った﹂
るし★ふぁーの言葉にやっぱりか、という空気が漂う。特に女性メンバーからは否定
﹁だよねー﹂
的な意見が出ていた。
可決はされないだろうが、取り敢えず世界征服と手持ちのノートに書き記したモモン
ガは、視界の端で挙がっている手に気づいた。
の声を上げる。
﹁でしょでしょ
やーっぱりウルベルトさん、話が分かるぅ
﹂
!
﹁ワールドアイテムの中に、悪魔を大量発生させる物があったでしょう それを真似
ルトは得意気に語りだした。
盛り上がっている二人に、モモンガは問う。聞かれたかった事柄なのだろう、ウルベ
﹁アレとは何ですか、ウルベルトさん﹂
﹁えぇ、ユグドラシル時代では結局試さなかったアレを試す機会になるでしょうし﹂
?
そう口に出したのは、ウルベルトだった。ウルベルトの言葉に、るし★ふぁーが歓喜
﹁私も良いと思いますけどね、世界征服﹂
ナザリック大会議∼至高の方々による至高なる会議∼
24
?
て作った物ですよ﹂
﹁あー、そういえば作りたいって言ってましたね。完成してたんですか
﹂
召喚するのは中級がメインですから、特に危険は
?
﹁⋮⋮何か意見でも、たっちさん
やめてよホントに、と。
またかコイツら、と。
﹂
二人のそのやり取りに、その場に居た全員の意見が重なった。
﹁あぁ、ウルベルトさんの計画には反対です﹂
?
正義の味方が、黙ってはいなかった。
﹁却下です﹂
ルトだったが、
もいいと考えているモモンガ、それを知ってか知らずか、己の計画を練っていくウルベ
アンデッドの身体になって、人間に対する情がかなり薄くなっているせいか、どうで
﹁んー、そうですねぇ﹂
ありません﹂
大国のいずれかで試してみませんか
﹁まだ試作品段階ですけどね、試そうとは思ってたんですよ。どうですモモンガさん、3
?
25
﹁大国の一つで実験する
虐殺するつもりですか﹂
この世界に
そんなふざけた事が通るわけないだろう。そこに住む住人を
来てからは感じ方に違いがあるのは皆一緒です﹂
﹁別に問題はないでしょう。人が死んだからって、貴方は悲しめますか
の手がおずおずと上がった。
﹁ど、どうされました、やまいこさん﹂
﹁ぼ、ボク、せっかくこの世界に来たんだから、冒険とかしてみたいです
!
?
なっていた。
!
﹁そうだよねー、私も色んな所行ってみたいな﹂
﹁うんうん、元の世界よりは綺麗な自然だし、ピクニックみたいなのもしたい
﹁姉ちゃん、その見た目でそれはちょっとキツイわ﹂
﹁おい、表出ろ弟﹂
﹁え、ちょ﹂
﹂
普段なら空気も読まずに何言ってんだ、とツッコまれる所だろうが、今は救いの手に
﹁﹁﹁︵やまいこさんナイス‼︶﹂﹂﹂
﹂
徐々に白熱してきた二人の言い合いに、皆がどうする と言い出してきたころ、一人
?
?
﹁だからといって、罪の無い人々を殺していい理由にはならない‼﹂
ナザリック大会議∼至高の方々による至高なる会議∼
26
ガシリとペロロンチーノの腕を掴んだぶくぶく茶釜は、指輪の力を起動して転移し
た。
﹁えぇ
ちょっとぉ
﹁あ、賢者タイム﹂
事の元凶は何処行った‼﹂
皆好きにヤりすぎィ‼⋮⋮ぉっふ﹂
﹁って、るし★ふぁーさんは
?!
何かを我慢するように少しの間頭に手を当てていたモモンガだが、ゆっくりとヘロヘ
そして逃げたるし★ふぁー
何処かに行ったぶくぶく茶釜とペロロンチーノ
口喧嘩をしているタッチとウルベルト
うんうん、とブループラネットが相づちを打つ。
﹁こそこそ出ていってたなぁ﹂
﹁彼なら先ほど、こっそりと出ていきました﹂
を開いた。
側に座っていたヘロヘロと共にるし★ふぁーを探していると、近くに居た建御雷が口
?!
?!
﹁ギルドチョー、茶釜さんとペロロンさんがどっか行きましたー﹂
27
ロに顔を向けた。
目が合い、数秒間言葉もなく見つめ会う二人。
その意味を理解したヘロヘロは言った。
﹁俺、今までの分まずはゆっくりしたいです﹂
﹂
ナザリック第一回会議の結果は、
﹁⋮⋮そうしましょうか﹂
こうして幕を閉じた。
﹁因みに何をしてるんです
﹁風呂入れるんだ⋮⋮﹂
﹁今はお風呂にハマってますね∼。風呂は命の洗濯とはよく言ったものですよ♪﹂
?
︻自由︼
ナザリック大会議∼至高の方々による至高なる会議∼
28
ナザリック大会議∼守護者によるナザリックの為の会議
∼
第六階層、アンフイテアトルムには、守護者であるアルベド、デミウルゴス、アウラ、
﹂
マーレ、コキュートス、シャルティアの他、執事頭であるセバスの総勢7名が集まって
いた。
﹁それで、アタシ達はどうすれば良いの、アルベド
﹂
?!
は、アルベドに駆け寄る。
書類に目を通した瞬間、アルベドの顔が驚愕に変わった。それに反応した守護者達
﹁どれどれ⋮⋮、ッ
アルベドが封を開くと、中には一枚の書類が入っていた。
と察する。
アルベドが見せた封筒には、まだ封がされていた。全員が揃ってから開くのだろう、
議をしておけとの事よ。議題については受け取ってあるわ﹂
﹁モモンガ様が言うには、ナザリックの幹部としての連携を取りやすくする為、簡単な会
アウラの言葉に、全員の目がアルベドへと向かう。
?
29
﹁どうしたのアルベド
﹂
﹂
それに気付いたアウラが振り向くと、目を見開いた。
全員が円形になって顔を向き合わせていると、空間に歪みが生じ、二つの影が現れた。
﹁必要な物は全て頂いているからね⋮⋮。特に欲しいものは無いな﹂
﹁マダ決マラナイナ﹂
が、他の者の意見を採り入れようとしていた。
全員がうーむと悩む中、じれったく感じたアウラが言う。彼女も決まってはなかった
?
◆
それを見た全員が、歓喜の声を上げた。
守護者各員、及び執事頭に褒美を与えるので、それぞれ話し合いまとめておくように
には。
シャルティアがアルベドの手から取り上げると、全員に見やすいように広げた、そこ
﹁あぁ、もう。とっとと見せなんし‼﹂
﹁その書類に、何か問題でもあったのかね﹂
?!
﹁それで、何か欲しいものは出来たの
ナザリック大会議∼守護者によるナザリックの為の会議∼
30
﹂﹂﹂﹂
﹁ぶ、ぶくぶく茶釜様、ペロロンチーノ様‼﹂
﹁﹁﹁﹁ッ
掛けた。
﹂
﹁ぶくぶく茶釜様、何があったかは存じませんが、お気を確かに
﹁御姉弟デ喧嘩ナド、得ヲスルコトナドアリマセンゾ
!
﹂
!
﹁ボヘェッ
﹂
﹁ふんっ‼﹂
﹁ほ、ほら。皆がこう言っているのだし、もう許しては貰えないだろうか、姉上﹂
ノが言う。
全員の必死な引き止めに考える所があったのか、力が緩んだのを感じたペロロンチー
らすれば、優先して止めるべき案件であった。
ぶくぶく茶釜とペロロンチーノ、この二人の︵一方的な︶喧嘩の結末をよく知る者か
す
﹁そうで御座います。どうか気を和らげ、話し合いによる解決を、どうかお願いいたしま
!
﹂
連れる、というよりは引き摺るという表現が正しい光景に、守護者各員が慌てて声を
﹁ちょ、やめ、姉ちゃん、タンマタンマ、悪かったって‼﹂
﹁やっほー、ちょーっと隅の方借りるよ﹂
?!
31
?!
﹁あぁっ、ペロロンチーノ様
﹂
﹂
とは、心の中での呟きである
?
﹂
?
﹂
﹂
あぁ、なーんか面倒になってさぁ。暇潰しに此方来たの﹂
﹁そうだよ。文句ある
﹁お、俺は暇潰しに連れられたのか
?
がら必死に慰めていた。
落ち込んで暗いオーラを放つペロロンチーノ、近くではシャルティアがオロオロしな
﹁無いです⋮⋮﹂
?
?
﹁んー
﹁そういえば、ぶくぶく茶釜様。会議の方はよろしいのですか
怒りが静まったのを感じて、デミウルゴスが場の空気を変えようと話しかけた。
ていうか、こっちの方が会議らしい会議してね
自分に対して畏まる態度に、うんざりしたように言うぶくぶく茶釜。
﹁あー、うん。楽にしてね、これ命令﹂
した‼﹂
﹁ハッ、モモンガ様より、守護者各員と執事頭で会議をせよとの事で、会議をしておりま
?
アが慌てて駆け寄った。
掴んでいた腕を主軸に、そのまま地面に叩き付けられたペロロンチーノ。シャルティ
!
﹁それで、何の集まりなの、これは
ナザリック大会議∼守護者によるナザリックの為の会議∼
32
﹁な、何があったのですか
大事な会議を離れるなど⋮⋮﹂
?
﹂
?
ロンチーノが口を開いた。
どうしたものかと、ぶくぶく茶釜が悩んでいると、不意にいつの間にか隣に居たペロ
﹁いや、そうじゃないけどさ⋮⋮﹂
﹁不快に感じたのなら謝罪いたします‼﹂
﹁至高ノ御身ニ頂イタコノ機会ニ、何カナザリックノ為ニト思ッテノ事﹂
﹁も、申し訳ありません‼﹂
いる、と表現しているその姿に、ぶくぶく茶釜はため息をついた。
折角機会を作って貰ったにも関わらず、中々に決まらない自分達を不甲斐なく思って
代表として答えるアルベドの声が、どんどん萎んでいく。
決まらず⋮⋮﹂
﹁モモンガ様から、私どもの望むものを褒美として与える、と承ったのですが、どうにも
﹁それで、此方はどんな感じなの
全員が納得したのを確認して、今度はぶくぶく茶釜が質問した。
たっち・みーとウルベルト、この二人が犬猿の仲なのはナザリックでは常識である。
ぶくぶく茶釜のその言葉に、﹁あぁ⋮⋮﹂と全員が声を漏らした。
﹁るし★ふぁーさんを起爆剤に、たっちさんとウルベルトさんが喧嘩してね﹂
33
﹁お前たち個人が必要な物はないのか
﹂
以上望むものは⋮⋮、今のところ御座いません﹂
﹁私どもは、至高の方々から頂いた装備品など、有り余る物に溢れております。もうこれ
ペロロンチーノのその言葉に、守護者達は顔を見合わせた後言った。
?
﹂
!
でもよろしいでしょうか﹂
?
﹂
﹁いえ、そうではありません。ですがこれからのナザリックの為、必要な物でございます
﹁⋮⋮。要するに、私たちをパシりにしたいって事
﹂
﹁無礼を承知で申し上げます。〝私どもの欲する物〟、それは至高の方々に対するもの
頭を垂れて言った。
その真剣そのものの顔に、ペロロンチーノがハンドサインで先を促すと、アルベドは
顔をして手を挙げる。
え、マジで。他にどうすりゃええねん。そう二人が悩んでいると、アルベドが神妙な
﹁そうだよ、気持ちは充分伝わったから、ありがとう﹂
﹁あぁ、いや、そう畏まるな﹂
さい
﹁ご、娯楽の施設についても、全て僕たちには充分足りていますから⋮⋮、ご、ごめんな
ナザリック大会議∼守護者によるナザリックの為の会議∼
34
!
﹂
そう言って上げたアルベドの顔は、今まで見たことがないくらいのヒロイン︵として
最悪な︶スマイルだった。
◆
﹁⋮⋮で、それがこれですか
と書かれていた。
至高の方々の御世継ぎ
そこには
ロヘロの視線に押されるように、手紙を開封する。
はよ開けろ。とワクワク感MAXでこちらを見るぶくぶく茶釜とペロロンチーノ、ヘ
だとこれに守護者達の欲しいものが書かれているのだろう、と考える。
円卓の間にあるテーブル。モモンガの前には、一通の手紙が置かれていた、話の流れ
﹁うん。すぐに皆で話し合って出してきた﹂
?
35
﹁﹁﹁﹁⋮⋮⋮⋮⋮⋮。﹂﹂﹂﹂
無言で手紙を元に戻し、ふぅ、とため息をつく。
﹁却下で﹂
﹁﹁﹁そうですね﹂﹂﹂
何事もなかったかのように、声を合わせて賛同する一同。
こんな風に、次回の会議では一致団結したいなぁと思ったモモンガだった。
﹁それ以上は言うな﹂
﹁⋮⋮⋮⋮⋮⋮結局、一生童て﹂
﹁僕なんか全身スライムですよ⋮⋮﹂
﹁子作りって⋮⋮。付いてないんですけど﹂
ナザリック大会議∼守護者によるナザリックの為の会議∼
36
﹁まぁ、何だ。今から呑みにでも行く
﹁﹁﹁﹁賛成﹂﹂﹂﹂
37
﹂
?
師弟の稽古
第六階層、アンフイテアトルム。
そこは大きな闘技場であり、コロッセオのような造形をしている。
侵入者が入ってきたとき、ここで迎え撃つ役割を持っている場所でもある。
さて、そんな闘技場で、二つの影が戦闘をしていた。
片方は四本の手足にそれぞれ武器を持ち、隙無く構えたまま、相手の様子を伺ってい
る。コキュートスだ。
そして、向こうが攻めるのを待てば全くと言っていいほど攻めてこない
刀で斬りかかれば、手元の柄を弾かれ攻められない
横から槍で斬りかかれば、懐に入り込んで胴に竹刀を叩き込まれ
あぐねていた。
挟撃、剛撃、その全てを一本の竹刀で受け流していく建御雷に、コキュートスは攻め
本の腕で、一本の竹刀を持っていた。
細く息を出しながら、相手、武人建御雷の様子を伺う。彼はコキュートスとは違い、二
﹁︵ココマデ、差ガアルカ⋮⋮︶﹂
師弟の稽古
38
ジリジリと間合いを図る自分に対し、死んでいるのではないかと思うほどにピクリと
もしない建御雷。
しばらくどう攻めるかイメージしてみたが、どう打っても見える敗北に、コキュート
スはその場に膝をついた。
ナザリックにおいて武器を使用しての武装戦で、守護者の中では自分の右に出るもの
ねた。
昆虫型の特徴でもあるアゴをガチガチと鳴らしながら、コキュートスは建御雷へと訊
﹁マダマダ、精進ガ足リナイノデショウカ﹂
近くへと腰を下ろした。
そう言うと、ふぅ、と大きく息を吐いた建御雷は、膝をついたままのコキュートスの
﹁む⋮⋮。分かった﹂
﹁マイリマシタ⋮⋮。完敗デ御座イマス﹂
39
は居ない、とコキュートスは自負している。
それは周囲も認めており、戦争にでもなったら主力となるのはコキュートスの部隊だ
ろう。
だからこそ、そのトップとしての誇りと重圧が、コキュートスには掛かっていた。
﹂
﹁建御雷様ノ武器デアル︻斬神刀皇︼ヲ受ケ継イダモノノ、ソレデハマダ不足ナノデショ
ウカ﹂
﹁それは⋮⋮、他の武器が良かったということか
﹁イイエ‼﹂
﹁落ち着け、コキュートス﹂
は少し離れた所にいたシモベが何事かと振り向くほどだった。
建御雷を不快に思わせてしまったかと、コキュートスは大きな声で否定する。その声
?
答えの見つからない疑問。それがコキュートスの中でモヤモヤとわだかまっている
言葉も、答は特に無いのだろう。そう、建御雷は感じた。
そのまましょんぼりと、コキュートスは肩を落としたまま無言でいた。先ほどまでの
﹁⋮⋮申シ訳アリマセン﹂
師弟の稽古
40
物だった。
﹁コキュートス、一つ話を聞いてくれないか
﹁ナンナリト、御話下サイ﹂
﹂
コキュートスの考えていることが分かったのか、建御雷は笑って言った。
れのどこが特別ではないのか。
それにたっち・みーにおいては︻ワールドチャンピオン︼の職種を所有している。そ
等しい存在だ。それが特別ではないはずがない。
自分達ナザリックに属する者からすれば、創造主たる41人のプレイヤーは、神にも
だった。
建御雷のその言葉に、コキュートスが正直に思ったのは、何言ってんだ、ということ
﹁俺やたっちさん、弐式炎雷さん達は、別に特別だから強いという事ではない﹂
﹁⋮⋮ナンデショウカ﹂
言えることがある﹂
﹁お前が俺の事をどう感じているか、それははっきり言って分からない。だが、一つだけ
コキュートスの返答に、ありがとうと言ってから、建御雷は話す。
?
41
﹁強い者はな、皆大なり小なり臆病なものなんだ﹂
建御雷のその言葉を、コキュートスは一瞬理解できなかった。
周囲を観察すれば余裕が出来、どのような状況でも対処出来るからだ﹂
﹁臆病な者は、自らの身を守るのに必死な為、周囲の事を良く観察している。一歩退いて
例えば、と続ける。
﹁先 ほ ど の 手 合 わ せ で も そ う だ。お 前 の 使 用 す る 武 器 は 柄 が 長 い も の や 棒 状 の 物 が 多
かった、それならば、斬撃のスピードが乗る前に、力の弱いところで押さえてしまえば
ダメージは免れるし、最小限の動きや疲労で済む﹂
そう言われて、コキュートスは先ほどの手合わせを思い出した。確かに、建御雷から
の攻めは少なく、カウンターの技が多かった。
﹁まぁ、コキュートスはもう充分強いから、こんなことを言っても分からないだろう、だ
から﹂
一呼吸おいて、建御雷は言う。
﹁お前にとって譲れないものを守ると良い﹂
そう言って、建御雷は笑みを浮かべた。
﹁⋮⋮不甲斐ナイ自分メノ為ニ、感謝ノ意ガ尽キマセン。武人建御雷様、アリガトウゴザ
師弟の稽古
42
イマス﹂
﹁なに、大事な守護者の為だ。大した事ではない﹂
建御雷とそう会話をしながら、コキュートスは思う。自分の譲れないものとは何か
と。
﹂
ナザリック、ひいては至高の方々の為ならば死ぬのも惜しくはないが、この問題の答
えはそういうことではないだろう。
﹁建御雷様、お疲れ様です﹂
﹁ぼ、ぼくたち、何か変ですか
﹂
﹁⋮⋮えと、どうしたのコキュートス﹂
来たのだろう。
声に振り向くと、アウラとマーレがこちらに近づいていた。第六階層の手入れにでも
﹁お疲れ様です、御二人で稽古ですか
?
の二人はそう訊ねた。
﹂
じっと見ていたのを疑問に思ったのだろう、コキュートスの視線に、アウラとマーレ
?
﹁イヤ、何デモナイ。ソレヨリ、本来ノ用事ハ良イノカ
?
43
﹁建御雷様がいらっしゃるのに、他の事に手を出すわけにはいかないでしょ、お世話して
からいくわよ﹂
﹁な、何かありましたら、気軽にお申し付け下さいね、建御雷様﹂
﹁あぁ、ありがとう﹂
楽しそうに笑う二人を見て、コキュートスの中で一つの思いが出た。
ナザリックに比べれば軽いものだが、出来るならば⋮⋮。
こうしてある今の平穏を、皆が笑って過ごせる日常を、変わらないよう守りたい。
そう、感じていた。
﹁⋮⋮もぅ、何よコキュートス。さっきからジロジロと⋮⋮、もしかしてアンタ、ロリコ
師弟の稽古
44
ンだったの
﹂
?
﹁好きにさせなさい﹂
﹁え、えと、どうしましょうか。建御雷様﹂
﹁ちょっ⋮⋮、何よその言い方は‼﹂
﹁バカナ事ヲ言ウナ。アウラノ身体ニ興奮スル要素ハナイ﹂
45
へいわのひとこま
第九階層、円卓の間︵臨時会議室︶には、11人からなる日本人の男女が集まってい
た。
それぞれは全員が若く、二十∼三十代がほとんどだろうという見た目だ。
リーダーらしき男の言葉に、全員が声の方を向く。
﹁││さて、第二回目の会議ですが、始めに言っておくことが幾つか﹂
す﹂
﹁一つ目、喧嘩をするなとは言いません、出来るだけ冷静に、議論という形でお願いしま
﹁異論はありません﹂
男の言葉に反応した二人が、心当たりがあるのだろう、口々に謝った。
﹁私もありません﹂
喧嘩は何も生まない、会議では冷静に議論を交わすべきだ。
﹁二つ目、姉弟喧嘩はこの場で行ってください。勝手に会議室から離れないように﹂
へいわのひとこま
46
﹁異論無し。その代わり血が飛ぶかもしれないので先に謝っときます﹂
﹂
?!
﹂
﹁ちょっと、モモンガさん。それはあんまりでしょ
﹁本気で言ってるんですか
?
﹂
!
をついて立ち上がった。
当然の結果だ、とでも言いたげな空気に、るし★ふぁーと呼ばれた男はテーブルに手
﹁﹁﹁異論無し﹂﹂﹂
﹁異議を却下します﹂
﹁異議有りぃ‼﹂
﹁三つ目、るし★ふぁーさん、喋るな﹂
冷や汗が止まらないが、決してびびっているからではない
な仲間だと思っているからこその肯定だ。
男が女性の言葉を肯定したのは決して怖かったからではない。彼がその女性を大切
姉弟なのだろう、男の言葉に反応した二人は、そう会話していた。
﹁しないで
﹁許可⋮⋮しましょう﹂
﹁ちょっと待って、ねぇちゃん。それは姉弟喧嘩の領域を越えてる﹂
47
﹁へ
﹂
﹁本気で言ってるんですか
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
﹂
﹂
﹁本気で、言ってるんですか
?
﹂
!
﹂
他にも複数の気配がすることから、他のメイドも連れてきているのだろう。
タの声だった。
豪勢な作りの扉から聞こえたのは、プレアデスの一人、エントマ・ヴァシリッサ・ゼー
﹁え、早⋮⋮。し、しばし待て
﹁モモンガ様。お食事の用意が出来ました。﹂
うしたその時。
モモンガと呼ばれた男が、皆が意識をこちらに向けているのを確認してから口を開こ
何か思い当たる節があるのか、るし★ふぁーは静かに椅子へと座った。
で、ほどほどにお願いします﹂
﹁まぁ、喋るなは冗談ですが⋮⋮。僕たちの発言で過剰に反応する者︵NPC︶も居るの
?
?
﹁料理頼んだのって10分くらい前じゃなかった
?
へいわのひとこま
48
﹁そうですね。会議の後に届くと思ったんだけどなぁ﹂
所で、外へと声を掛けた。
◆
﹁お飲み物はどうされますか、ワイン等をお持ちしましょうか
﹁いいや、水で充分だ。酒は夜に楽しむとしよう﹂
?
めるだけなので、酒は必要ない。
ナザリックの酒にも興味があるが、変化で人に化けた場合の飲食に問題がないか確か
ガへと訊ねていた。
料理が次々と運ばれる中で、プレアデスの一人、ソリュシャン・イプシロンがモモン
﹁かしこまりました﹂
﹂
そんなことを言いながら、課金アイテムであるそれを懐へとしまう。皆が落ち着いた
﹁元人ですけどね、俺達﹂
﹁いやー、ゴミレアがこんな所で役に立つとは、人生何があるか分からないなぁ﹂
の異形の姿へと戻った。
各々が、手首に装着している腕輪のような物を取り外すと、グニャリと姿が歪み、元
﹁りょうかーい﹂
﹁兎に角、さっさと変化を解除しましょう﹂
49
﹁⋮⋮ねぇ、ユリ。この料理とかは10分くらいで出来たの
﹂
?
んが、料理長はやけに張りきって料理しておりました﹂
﹂
﹂
いやー、至高の御身に愛されるだなんて罪な女っすねェッ
﹂
﹁料理関連に関しては料理長と副料理長がほとんどを担当しておりますので分かりませ
﹁そ、そうなんだ⋮⋮﹂
﹂
﹁⋮⋮申し訳ありません。何か不備が御座いましたか
﹁え、いやいや。大丈夫大丈夫
﹁ルプーちゃーん。果実水ちょーだい﹂
﹁かしこまりました、ぶくぶく茶釜様﹂
?
﹁いつも通りで良いよ。ルプーちゃんのキャラ好きな方だし﹂
﹁⋮⋮そうっすか
?!
!
﹁い、痛いっす。ユリ姉ぇ⋮⋮﹂
?
?
﹁ルプスレギナ、無駄口叩いてないで御奉仕しなきゃ駄目でしょ
へいわのひとこま
50
﹁ナーベラル、この料理はどんなものだ
﹂
?
﹂
?
人間の姿をしていては、余計な混乱を招きそうだ。
?
今回ここに並べたものは、外の世界で執事頭のセバスが仕入れてきた情報を元に作っ
﹁そうですね、たっちさん。それでは皆さん、食べましょうか﹂
﹁モモンガさん。冷めるのも勿体ないし、食べませんか
﹂
いたので、変化したあとに派手に騒ぎを起こすのは不味いだろう。
ただ、閉じていく扉の端に、コキュートスの配下である昆虫型のモンスターか立って
去って行った。
各々の好みや、必要な料理の配膳を終えると、プレアデスのメンバーは円卓の間を
﹁ありがとうございます。料理長にも、そのように伝えておきます﹂
﹁あぁ、いや。美味しそうだと思ってな。楽しみだ﹂
﹁カレー⋮⋮、で、ございますか
﹁ふむ、カレーに似た香りがするな﹂
りいただくよう、料理長から聞いております﹂
﹁はっ。此方はこのスープに、ライスか今からお持ちするパン生地を浸してお召し上が
51
た料理だ。
まずはこの世界の人間が食べている物を理解することで、この周辺の主な物流や食の
文化を学び、いち早く人間の生活に溶け込めるようにする。
それが、人間の料理を食べようとすることを否定的なアルベドやデミウルゴスを納得
させた理由だった。
﹁︵俺的には、ナザリックの豪勢な料理より、こんな感じの料理の方が胃にピッタリなん
だよなぁ︶﹂
野菜や肉がふんだんに入っているスープを一口食べる。じわりと口の中に広がる旨
味を感じながら、ゆっくりと味わう。
ナザリック特製の料理も美味しいのだが、舌が肥えていない身からすれば、こういう
庶民料理の方が美味しく感じるのだ。
﹁︵さて、これが終われば次は情報収集の段取りか⋮⋮︶﹂
はっきり言ってこの世界は未知数だ。他のユグドラシルプレイヤーがいるかもしれ
ないし、居たら居たで戦闘になるようなことにはしたくない。
りだ︶﹂
﹁︵まぁでも、まずはゆっくり味わうかな。こんな人数で食事するなんて、本当に久方ぶ
へいわのひとこま
52
顔を上げて食卓を見渡せば、ギルドメンバーの皆が和気藹々として食事をしている。
普段は一人で味気ないご飯を食べることが多かった身からすれば、こんなに楽しい食
事はそれこそ初めてかもしれない
これから起こる苦労や楽しみはそれこそ無限大。
﹂
だが、今はその事には考えず、この楽しい食事を楽しもうと考えたモモンガだった。
﹁あ。料理長さーん。至高の方々、料理大絶賛してましたよ﹂
﹁∼∼ッ‼﹂
﹁⋮⋮おぉ。なんかすごいっす、作業のスピードが速くなってるっす
!
53
﹂
﹁気持ちは充分に分かるわ。⋮⋮ところで、料理の時間が早かったようだけど、どうやっ
て作ったの
﹁⋮⋮。﹂
﹁⋮⋮本格的に家事スキルでも手にいれようかしら﹂
そうね﹂
﹁へぇ、食材を食べ頃にまで一瞬で煮込める魔法の圧力鍋⋮⋮。よく分からないけど、凄
?
﹁ユリ姉ぇはクソ真面目っすね⋮⋮﹂
へいわのひとこま
54
はじめてのおつかい
都市エ・ランテル
リ・エスティーゼ王国の国王直轄地でもあるそこは、都市としても優れており、年中
冒険者や商人が行き来する町として活気に溢れている。
その都市の中央広場、多くの露店商が開かれている場所に、複数の男女が歩いていた。
﹁人が多いですねぇ、ももさん﹂
﹁そうですねぇ、ペロさん﹂
その中の男性二人は、他人事のように歩きながら話していた。
﹂
その表情はどこか諦めたような、まるで﹁どうしてこうなった﹂とでも言いたげな表
情だ。
﹁周りの人、めちゃくちゃ注目してますよ﹂
﹁大人気じゃないですか、特に男に。手でも振ったらどうです
?
55
﹁血の雨が降りそうなんで遠慮しときます﹂
その集団が通る度に、その通りに居る者はほぼ全てといっていいほど、こちらを眺め
ていた。
特に男からの視線が多く、こちらをじっくりとなめ回すように見ている者が多い。
﹁下等な虫けら風情がジロジロと⋮⋮。皆殺しにしたらどれだけスッキリするか﹂
﹂
﹁よしなさいナーベ。モモンガ様達は穏便に行動を取ると言っていたわ、私たちの勝手
な行動で至高の方々に泥を塗る気
憂さ晴らししましょう﹂
﹁お互い様よ。もし我慢できなくなったら言ってちょうだい。適当な人間を連れ帰って
﹁⋮⋮。少し落ち着いたわ、ありがと、ソリュシャン﹂
?
人は、さっきから目立ちまくっていた。
視察の為に二人で行こうとしたのだが、当然の様に︵有無も言わさず︶着いてきた二
えた。
視線を集めている元凶の会話を聞いて、今度こそモモンガとペロロンチーノは頭を抱
﹁良い案ね。それで行きましょう﹂
はじめてのおつかい
56
顔立ちが超が付くほどの美形である二人は、メイド服という服装も相まって、かなり
の視線を集めている。
﹂
このままでは、近いうちに何か問題が起きそうだ。
﹁二人とも、ちょーっとこっちに来なさい
﹁良いか。今回私たちがここまで来た理由を知っているか
﹁違う
誰が言った、そんなこと
﹂
!
そんなことは言った覚えがない。
﹁え、何それは﹂
﹂
﹁デミウルゴス様から、至高の方々は世界征服を計画していると聞きましたが﹂
!
﹁来たる世界侵略の日に備えて、人間達の勢力を調べに来たと﹂
?
特に抵抗することもなくついてきた二人にモモンガは言った。
二人の腕を掴み、人気の無さそうな路地へと連れていく。
事態を危うく感じたモモンガがついに動いた。
!
57
だが、デミウルゴスがよくする何時もの深読みが出たのだと、モモンガは自分に納得
させた。
﹁今回俺達がここまで来たのは、人間達の勢力を調べるためでもあるが、文化や常識を調
べるためだ﹂
モモンガの代わりに、近くにいたペロロンチーノが答える。
この世界で生きていくためには︵別に今のままでも良いが︶、何時何が起こるか分から
ない、それに備えてこの世界の常識やルールを調べようというのが、先日の会議で決
まった。
﹁人間を嫌うなとは言わんが、俺達に迷惑を掛けたくないのであれば、それに応じた態度
や言葉遣いをしろ﹂
別にそこまで怒ってなかったモモンガは、すぐに頭を上げさせる。
頭を下げた。
先ほどの騒ぎを思い出したのだろう、顔を青くさせた二人は、モモンガ達に向かって
﹁出過ぎた真似を、どうか御許し下さい‼﹂
﹁も、申し訳ありません‼﹂
はじめてのおつかい
58
ろか、その辺にいる小金持ちくらいだろうか。
﹁いらっしゃいませ、本日はどのような物をお探しで
﹂
店員の本分を思いだし、お手本のように頭を下げる。
集団の中の一人の男性が、こちらに笑顔で近づいてきた。
﹁こちらに来れば、大抵の物は手にはいると聞いてきたのですが﹂
?
?
﹁えぇ、あまりに高価な物になると難しいですが⋮⋮。例えば、どのような物を
﹂
その後から入ってきたのは、二人の男性、服装からみて、権力はそれなりというとこ
が、誰もが目を引く美形だった。
まず視界に入ったのは二人のメイド服を着た黒髪と金髪の女性、どちらも気風が違う
ドアを開けて入って来た集団を見たとき、その女性店員は目を見開いた。
◆
不安しかない一行の旅は、都市の中心へと足を運んだ。
﹁えぇ、それでは行きましょうか﹂
よ﹂
﹁文化や歴史などであれば、書物でまとめている場合が多いですからね。期待できます
﹁⋮⋮さて、それでは書物を扱っている場所があるかな﹂
59
﹁広い分布で分かる地図と、この辺りの歴史や、文化が分かる本はありますか
﹂
﹂
?
が多い。
男の話した内容を聞いて、店員の脳裏に幾つかの物がピックアップされた。だが、数
?
﹁あるには有りますが、少々数が御座います。裏の倉庫で、お選びになられますか
﹂
﹁いや、それぞれ有るぶん全て下さい﹂
えぇ﹂
﹁⋮⋮全て、ですか
﹁
?
るだろう。
正直、この男に出せるとは思えない。
﹁物⋮⋮ですか
﹂
?
そう言いながら差し出された物は、一つの金で出来た首飾りだった。
﹁宝石の類いなんだがな。それがダメならこの辺りの質屋を紹介してくれ﹂
?
﹂
金貨10枚というと、ポンと出せるような代物ではない。世帯平均年収の数年分はあ
﹁全てですと、金貨10枚相当で御座います。﹂
ながら、手元にあるそろばんを弾いた。
何かおかしな事でも言ったか、と男の顔に不安が浮かぶ。店員は本の値段を思い出し
?
﹁あぁ⋮⋮。申し訳ない、出来れば金ではなく、物で払っても良いかな
はじめてのおつかい
60
細いチェーン状に細工され、数珠繋ぎの様に色とりどりの宝石があしらわれている。
手に取ると、細い造りながらもしっかりとした重みがあり、本物の金細工だと素人目
にも理解できた。
﹂
初めて見たその美しさに、店員は数秒我を忘れて見入っていた。
﹁さて、本を受け取り次第、ナザリックへと帰還するとしよう﹂
引っ込めるとため息を一つ吐いた。
そう言うと、店員は奥の方へと引っ込んで行った。店員と話していた男は、笑顔を
﹁はい、失礼します﹂
﹁大丈夫だ。こちらもいきなりですまなかったな、焦らず、ゆっくりと用意してくれ﹂
待ちいただけますでしょうか﹂
﹁ご無礼を御許し下さい。今すぐ商品の方をお持ちいたします、数が数ですので、少々お
下げる。
慌てて体勢を直すと、首飾りを丁寧にカウンターから取り出した布の上に置き、頭を
返答が遅いことを不安に思ったのか、男が探るように聞いてきた。
﹁⋮⋮、それでは足りないか
?
61
男のその言葉に、後ろにいた数人は頷いた。
こうして、異世界に転移したモモンガの初めてのおつかいは幕を閉じた。
◆
﹁⋮⋮文字が分からんですねぇ﹂
ペラペラとページを捲りながら、餡ころもっちもちは呟いた。
近くで魔道具のメガネを着用しているモモンガへと声を掛ける。
﹁魔道具の類いで理解出来るくらいですね。時間はまだまだ掛かりますが﹂
﹁仕方ありません、数が少ないですから﹂
﹁ユグドラシル時代ではゴミだと思っていたアイテムが、まさかここまで必要な物にな
るとは⋮⋮﹂
この場で本を読んでいるのは、ブループラネット、たっち・みー、モモンガ、ウルベ
ルト、建御雷の5人だ。
他の者は持っていなかった為、交代で読もうということで決定したのだった。
どのような物です、ウルベルトさん﹂
?
普段は仲が悪いウルベルトとたっちの二人も、興味津々で本を捲っている。
﹁ほら、この辺りとか⋮⋮﹂
﹁何
﹁しかし、ユグドラシルプレイヤーの匂いを感じる文書もありますね﹂
はじめてのおつかい
62
﹂
これ﹂
そのやり取りに微笑ましく思いながらも、モモンガは次の本へと手を伸ばした。その
時、
どうしました
﹁モモンガさん、私私。通じてる
﹁茶釜さん
?
﹁はい⋮⋮っはぁ﹂
﹁どうした。落ち着いて話せ﹂
﹁と、ッ突然の入室、申し訳、ありません﹂
嫌な予感しかしないが、なるべく冷静に、メイドの言葉を待つ。
メイドのその緊迫した表情に、その場に居た誰もが緊張する。
いく。
何事かと全員が目を向けると、息を切らしたメイドの一人が、モモンガへと近づいて
ぶくぶく茶釜の話を遮るように、円卓の間の扉が、音を立てて開かれた。
﹁モモンガ様ぁ‼ 大変です‼﹂
﹁単刀直入に言うとさ、やまいこさんが﹂
脳裏に走る声に、
︻メッセージ︼を受信したと感じて、モモンガは手を頭へと添える。
?
?
63
大きく息を吸って、メイドは一口で言った。
この世界での物語は、無情にも進んでいく。
ぶっつけ本番
かわれました﹂
﹁やまいこ様、ぶくぶく茶釜様両名が、
︻ゲート︼を使用し、カルネ村というところへ向
はじめてのおつかい
64
正義の味方∼カルネ村編∼1
でもやり方としては近いかも
﹁おぉっと、こ、こうですかね﹂
﹁あ、惜しい
﹂
?
﹁お、ぉぉお
そのまま一時間。
﹁スゴいじゃんやまいこさん
﹂
で、出来ましたよ
﹂
一見パントマイムをしているかのようだが、本人達はいたって真面目である。
1メートル程の鏡に向かって、手を縦横にスライドしたり、ぐるぐると回したり⋮⋮。
になって取り組んでいた。
第九階層にある執務室では、やまいことぶくぶく茶釜が︻遠隔視の鏡︼の操作に夢中
!
?!
いでいた。
視点の移動、引いたり、拡大したり等のコツを掴んだ女子二人は、キャッキャとはしゃ
!
!
65
その姿が異形の者でなかったなら、きっと微笑ましくあっただろう。
﹁おめでとうございます。やまいこ様、ぶくぶく茶釜様﹂
﹁あ、セバス﹂
﹁やっほー﹂
パチパチと軽めの拍手と共に現れたのはセバスだった。後ろに紅茶のティーポット
と言いたいのだろう。
?
が乗ったカートがある。
作業が一段落行ったから、休憩でもどう
﹂
?
鏡︼で遊んでいたぶくぶく茶釜が声を上げた。
綺麗に一礼し、カチャカチャと紅茶の準備を始めたセバスを眺めていると、
︻遠隔視の
﹁かしこまりました。すぐに準備致します﹂
﹁私レモンティーに蜂蜜たっぷり垂らしたのお願い﹂
﹁ロイヤルミルクティー頼めるかな
正義の味方∼カルネ村編∼1
66
﹁どうかしたんですか
﹁いや、これ⋮⋮﹂
﹂
かろうじて逃げた女の子二人も、すぐさま追い付かれる、姉であろう女の子が、必死
﹁ぁ⋮⋮﹂
﹃││││‼﹄
だが、特に時間を稼げる訳でもなく、すぐに切り殺されてしまった。
付いた。
そのまま眺めていると、一人の男性が、娘であろう女の子二人を庇って兵士へと組み
﹁⋮⋮⋮⋮異形種、か﹂
﹁私もだよ。⋮⋮多分、この身体になった影響じゃないかな﹂
﹁⋮⋮何でかな。普通なら気分が悪くなりそうなのに、全然なんともない﹂
て、その考えも吹っ飛んだ。
何かの祭かと思ったが、兵士が持っているその武器と、血だらけで倒れている人を見
景だった。
ぶくぶく茶釜が指を指した方には、鎧を着た兵士が、村の中で人を追い回している光
?
67
の形相で兵士のヘルムを殴り飛ばした。
﹁あ、ヤバい。この女の子殺される﹂
隣で見ていたぶくぶく茶釜がそう声を上げた。見れば、背中から切りつけられ、今ま
さにとどめの一刺しが入れられる寸前だった。
待って‼﹂
やまいこの尊敬する一人の人物の言葉が、心の中で響いていた。
空間に︻ゲート︼の発動に生じる歪みができ、迷うことなくその中に足を踏み入れる。
た。
後ろで何か言っているのが聞こえたが、やまいこにとってはそれどころではなかっ
?!
なりません、お待ち下さい‼﹂
﹁え、ちょ、やまいこさん
﹁やまいこ様
?!
﹁︻ゲート︼起動﹂
正義の味方∼カルネ村編∼1
68
自分の所属するギルド︻アインズ・ウール・ゴウン︼の創設理由の一つ。
〝困っている人が居れば、助けるのは当たり前〟
それを、この世界でも証明してみせる。
ユグドラシルプレイヤー、やまいこ
彼女の生涯初めての実践が、始まる。
◆
はっきり言って、自分の身に何が起きているのか、私、エンリ・エモットは理解でき
て居なかった。
突然村に来た兵士に襲われ、母が剣で斬られるのを何も出来ず、ただ見ていることし
か出来なかった。
付かれた。
だが、ネムはまだ幼い。ある程度は距離を稼げたが、特に意味も出せず、すぐに追い
村の外れまで逃げだした。
父にそう怒鳴られた時、初めて身体が自由に動いた。震えている妹のネムを連れて、
﹁エンリ、ネムを連れて逃げろ‼﹂
69
﹁ったく、手こずらせやがって、このガキ﹂
﹁さっさと殺せよ。殺害人数で負けてんぞ。俺たち﹂
﹁そうだな。っと、まずはちいせぇのから殺そうぜ、また逃げられたら厄介だ﹂
ちいせぇの。という声に、ネムの事だとすぐに分かった。
私の中の警鐘が鳴り響く、それを行うには、何の躊躇いもなかった。
﹂
﹁アアァァア‼﹂
?!
りそうだった。
痛みはない。それよりも頭が沸騰したようにグラグラとしており、自分がどうにかな
しゃぐしゃになったのが分かる。
頭と言っても、防具であるヘルムを殴り飛ばしたくらいだ。それどころか、手がぐ
飛ばした。
今まで一度も出したことない声を上げて、私はネムの腕を掴んでいる兵士の頭を殴り
﹁ぐぅっ
正義の味方∼カルネ村編∼1
70
﹁このガキぃ‼﹂
顔を上げると、兵士が得体の知れない物を見る目で、私の後ろを指差していた。
﹁し、知らん。⋮⋮、何か来るぞ﹂
﹁な、何だ。ありゃあ⋮⋮﹂
すぐにでも痛みがくると思ったのに、いつまでたっても来なかった。
恐怖から泣き出した妹を守るため、庇うようにして身を丸める。
﹁い、嫌だよ‼ おねぇちゃんが居ないと嫌だ‼﹂
﹁大丈夫だよ、ネム。⋮⋮もう一度、私がアイツらを押さえるから、その隙に逃げて﹂
﹁お、おねぇちゃん⋮⋮﹂
兵士は剣を構えて、こちらへと向かってくる。
背中を数度切りつけられ、地面へと蹴り転がされた。
﹁そうだな⋮⋮、死ね、ガキ﹂
﹁ははっ、だっせぇ。⋮⋮さっさと行こうぜ、隊長がお呼びだ﹂
71
ゆっくりと振り返ると、何もない空間に、ぽっかりと黒い穴が開いている。
その穴の中から、人影が一つ、ゆっくりと出てきた。
黒い髪をした、この辺りでは見たことない風体。そして、見たこともないくらいの美
人だった。
﹁間に合ったようだね。良かった⋮⋮﹂
穴から出てきた彼女は、私の事を確認すると近寄ってきた。親し気な雰囲気に、何処
かで出会ったかと記憶を辿る。
うが、嗚咽も出てきて、自分が今情けない顔をしているのが分かる。
ズキズキと痛みだした背中の傷のせいか、自然と涙が溢れだした。慌てて手で顔を覆
た自分がいた。
笑顔でそう言った女性を見て、胸の中に何かがストンと落ちて、次第に落ち着きだし
﹁もう大丈夫だよ。安心して、アナタ達のことは、私が守るから﹂
正義の味方∼カルネ村編∼1
72
﹁こんな無抵抗の子供二人に、大の大人が二人掛かりで殺そうとするなんて⋮⋮﹂
女性はそう言ってゆっくりと立ち上がり、兵士の方へと向くと言った。
その目は、はっきりと怒りで染まっていた。
﹁おいで、特別授業してあげる﹂
﹁道徳は担当外の教科なんだけど﹂
73
は誇りを持っていた。
だから、そんな子供達が大人になっていく段階を見ていける教師という仕事に、ボク
てる。
モンスターペアレントと呼ばれる人たちも、自分の子供なんだ、大切にするに決まっ
反抗期の子供だって、大人になるための自立する用意だとも言える。
怖いもの知らずで、言いたいことをズケズケ言ったりする子供も好きだ。
だが、それでも子供と接することは楽しかったし、やりがいもあった。
イライラを溜め込むこともあった。
日々ストレスとの戦いで、元々言いたいこともはっきりと言えない性格も相まって、
問題児ならぬ問題親、モンスターペアレントだっている。
確かに、授業を聞かない反抗期真っ盛りの子供や、
ボクは、教師という職に就いていることに充実していた。
女教師怒りの鉄拳∼カルネ村編∼2
女教師怒りの鉄拳∼カルネ村編∼2
74
だからこそ、今ボクがこうして彼女達をを庇っているのも、ボクは間違っているとは
﹂
少しも思っていないし、言わせない。
◆
﹁ひ、怯むな、ぶっ殺せ
﹁⋮⋮ステータスが結構下がるから、割りと本気で殴ったけど⋮⋮。まぁ、別に良いか﹂
になりながらバウンドし、更に吹っ飛んでいたところだった。
視線を送ると、遥か数十メートル先で、見覚えある鎧を着たナニカが、グシャグシャ
ゴパッ、という音と共に、何かが俺の隣を目にも止まらぬスピードで通過した。
││そう、思っていた。
見た目が異様だから多少怯みはしたが、所詮は女、すぐに片はつく。
隣に居た相棒が、剣を振り上げて黒髪の女に突撃した。
!
75
拳をグーパーしながらブツブツ呟いていた女が、俺の方を見た。
それだけで、身体に冷や水をぶっかけられたみたいに冷え上がる、足の感覚が希薄に
なり、自分が今立っているかどうか、それすらも確認できないくらい震えていた。
﹁さて、次は君の番だね﹂
﹂
女が、この場の空気に合わない笑みを浮かべながら、こちらへとゆっくり近付いてく
る。
女は一瞬きょとんとした顔をした後、軽く笑って言った。
﹁君は、そう言って助けを求める人に、少しでも慈悲を与えたかな
﹁そ、そうだ。与えた、与えたとも‼﹂
自分達の行いが知られ、兵士は後がなくなったことを理解した。
﹁へぇ、ヘラヘラ笑いながら殺してたのは、慈悲を掛けた結果なんだ。ならさ⋮⋮﹂
?
﹁た、頼む⋮⋮っ、見逃してくれ‼﹂
女教師怒りの鉄拳∼カルネ村編∼2
76
兵士の心境が分かったのか、女はにこりと微笑んで言った。
の鉄拳で幕を閉じた。
体罰教育という、PTAやら教育委員会が物申しそうな特別授業は、彼女、やまいこ
鉄拳制裁。
﹁まだまだスッキリしないけど⋮⋮。まぁ、取り敢えずは良いか﹂
のように吹き飛んだ。
言葉はそこまでしか語られず、腹部に絶命の一撃を受けて、兵士の身体はゴムボール
﹁や、やめ││﹂
﹁〝郷に入りては郷に従え〟ボクの国の言葉なんだけどね、それを実行しよう﹂
77
おっちょこちょい∼カルネ村編∼3
﹁あ、ぁぁあ。どうしよぅ⋮⋮﹂
先ほどまでの剣幕はどこに行ったか、エンリとネムは目の前でオロオロとするやまい
こをただ見ていた。
﹂
兵士との戦闘を終え、一段落してふと我に帰ったやまいこは、重大なミスに気付いた。
?!
た。
これ以上ない間抜けな惨状に、やまいこはただオロオロと右往左往するしかなかっ
そして、それが無い以上︻ポーション︼などで傷の手当ても出来ない。
そう、助けに来たのに丸腰だったのだ。
﹁︻無限の背負い袋︼持ってきてない⋮⋮ッ
おっちょこちょい∼カルネ村編∼3
78
﹂
?
まいこは違った。
﹂
?
﹂
﹁あ、あのぅ。⋮⋮怒ってます
﹁あぁん
﹁ひぃぃ
?! ?!
﹂
﹂
突然現れたもう一人の女性に、エンリとネムは﹁誰だろう﹂程度の認識だったが、や
にこにこと笑顔で対応したのは、
︻変化の腕輪︼で変身したぶくぶく茶釜の姿だった。
﹁言いたいこと、分かるかな
﹁ぶっ、ぶくぶく茶釜さん⋮⋮﹂
おぉ、と歓喜するやまいこだったが、差出人の顔を見て真っ青に染まった。
声と共にやまいこに差し出されたのは、紛れもなく彼女の︻無限の背負い袋︼だった。
うとすると、横から声を掛けられた。
いっそナザリックに二人とも連れていこう、そうしよう。と︻ゲート︼を起動させよ
﹁お嬢ちゃん、お探しの物はこれかい
?
79
ドスの効いた声と共に、ぶくぶく茶釜の態度が一変した。両手でやまいこの顔をガシ
リと掴むと、そのまま頬っぺたをムニムニと力強く捏ねまくる。
﹁あの時、私は、待ってって、言ったでしょ‼﹂
﹁で、でも、それじゃ間に合わな││﹂
ある程度捏ねると、気がすんだのかぶくぶく茶釜は手を離した。
﹁問答無用ぉ‼﹂
そのままエンリへと近付くと、一本の︻ポーション︼を差し出す。
﹁はい。これで充分治るから、使って﹂
﹁は、はい﹂
始めてみる赤い色のポーションに、エンリは一瞬飲むのを躊躇ったが、助けてくれた
恩人︵の仲間︶から貰ったのだ、意を決して飲んだ。
傷が治ったのを確認すると、やまいこはエンリとネムに微笑んだ。
﹁⋮⋮うん、大丈夫そうだね﹂
﹂
一通りお礼も言って、安心したのも束の間、エンリは失礼を承知で言った。
﹁あの、村の方にも他の兵士が居ると思うんです。助けてくれませんか
?
おっちょこちょい∼カルネ村編∼3
80
﹁良いよ、元からそのつもりだしね。良いでしょ、茶釜さん﹂
﹁さて、それじゃ村の方へと案内してくれる
﹂
の鏡︼に写る兵士へと、分かりやすい敵意を放っている。
モモンガに対してそう言ったのはデミウルゴスだ。冷静なように見えるが、︻遠隔視
ます﹂
﹁モモンガ様、すぐにでも私ども守護者を送り込み、御二方に帰還して貰うべきでござい
第9階層、執務室。そこには部屋の広さに比べて、かなりの人数が入っていた。
﹁⋮⋮良かった。無事なようだな﹂
◆
ぶくぶく茶釜のその言葉に、エンリは頷いた。
?
変わったものは無かった。
そう言ってぶくぶく茶釜は視線を空へと送る。エンリも同じように見上げたが、特に
﹁そうだね。モモンガさんにも連絡入れてるし、多分こっちの様子見てると思うよ﹂
81
デミウルゴスのその言葉に、同席している他の守護者も頷いた。二人を連れ戻し、代
わりに自分を行かせろと、態度が語っている。
﹂
﹁先ほど、茶釜さんから連絡があった。村の方へと赴き、問題解決まで滞在するようだ﹂
﹁そのようなこと││﹂
﹁なら、お前にあの二人を止められるか
何かを迷うような態度のデミウルゴスに、続けて言う。
デミウルゴスが言う前に、椅子に座って腕組みをしているウルベルトが、そう言った。
?
﹁この辺りの三大国のいずれかでしょうけど⋮⋮。正直、この村を襲うメリットが無い
﹁それにしても、あの兵士達の出所は何処なんですかね﹂
居るが、頭を下げ了解の意を取る。
それまで待て。とウルベルトは締めた。その言葉に守護者は納得できていないのも
それに、こうして観測もしている。事が動けば、お前達を送り込むとしよう﹂
﹁あの二人ならば大丈夫だ。茶釜さんは防御特化、やまいこさんは突破力も充分ある。
おっちょこちょい∼カルネ村編∼3
82
ですからね﹂
﹂
?
﹂
?
﹂
?
まぁ、資源がバカにならないという理由が主なのだが。
も関わらず、わざわざ出向いて相手することが多い。
貧乏性が多い︻アインズ・ウール・ゴウン︼は、折角各階層にギミック組み込んだに
分かりました。とブループラネット他、数名が声を上げた。
﹁それは相手の実力次第で決めましょう。先ほど程度なら、充分勝てる筈です﹂
﹁分かりました。⋮⋮ギミックはどうします
レベルを最大限に上げておく段取りをしてもらえますか﹂
﹁この村からナザリックは近いので、もしもの時のために各階層守護者と連携して、防衛
﹁私たちはどうすれば
呼ばれなかった者の一人、ブループラネットが手を上げた。
モモンガの言葉に、呼ばれた数人が頷いた。
しもの為に、戦闘準備しといて貰って良いですか
﹁そうですね。⋮⋮ペロロンチーノさん、タブラさん、たっちさん、ウルベルトさん。も
﹁ふむ。これからの出方次第ということですか﹂ 83
﹁⋮⋮おや、村の外に怪しげな集団が﹂
モモンガが操作すると、鎧と法衣を合わせたかのような装備の集団が、村の様子を覗
︻遠隔視の鏡︼を覗いていたタブラが、一点に指差して言った。
くように森に隠れていた。
﹁黒幕かな﹂
﹁うーん、兵士達の装備と全く違うけどなぁ﹂
﹂
?
﹁偽装の線もありますよ﹂
﹁あ、そっか。ならそうなのか
﹂
?
﹁了解でーす﹂
さて、次はどうでる
?
﹁待ちましょう。まだ不安要素が多いですから﹂
弓での攻撃を得意とする彼なら造作もないことだが、それは決断が早すぎる。
イタズラするノリで、ペロロンチーノがそう言った。
﹁俺が狙撃しましょうか
おっちょこちょい∼カルネ村編∼3
84
仲間の安全を確実な物にするため、モモンガは︻遠隔視の鏡︼を操作した。
﹂
?
﹂﹂﹂﹂﹂
?!
その情報に、ナザリックで仁義無き戦いが勃発するが、また別の話。
至高の方々に自分の容姿を使ってもらえる。
﹁﹁﹁﹁﹁
﹁そうですね。少し弄れば充分使えると思います。皆美男美女だし﹂
﹁⋮⋮変化の見た目、ナザリックの者から選びましょうか﹂
﹁茶釜さんはルプスレギナかな
﹁ていうか、やまいこさんの人間の姿。ユリにそっくりですね﹂
85
ガゼフ・ストロノーフ∼カルネ村編∼4
﹁││先ほどの失礼な物言い、誠に申し訳ない﹂
王国戦士長、ガゼフ・ストロノーフは、目の前の女性、やまいことぶくぶく茶釜に頭
を下げた。
﹁い、いえ。仕方ないと思いますし、お互い様ですよ﹂
﹂
?
反対に、やまいこと茶釜の二人も、ガゼフ一団を犯人と勘違い。
襲われていた村の襲撃犯だと疑うのは仕方のないことかもしれない。
黒髪の、見たこともない風体の美女二人組。
そこで出くわしたのがガゼフの一団だ。
に出た。
村に到着したやまいことぶくぶく茶釜は、エンリとネムを安全な場所へと隠し、索敵
││数時間前。
気にしてない。と言外に言っている二人に、ガゼフは更に頭を低くした。
﹁まぁ、大きな問題にもならなかったし、特に問題ないなら終わりにしませんか
ガゼフ・ストロノーフ∼カルネ村編∼4
86
開戦前に一言あるか、とお互いに問いただした結果、
﹁あれ、コイツら違うんじゃね
となった。
ゼフ、ぶくぶく茶釜で簡単な会議をする。
﹂
隠していたエンリとネムを、やまいこが迎えに行っている間に、カルネ村の村長、ガ
た。
王国での戦士長の地位に就いているガゼフは、罪の無い女性を糾弾したと反省してい
?
すが、そちらは
﹂
﹁あ、えっと⋮⋮。茶釜と呼んでください。もう一人は、やまいこです﹂
﹁茶釜さんに、やまいこさん⋮⋮。この辺りの人とは思えないが、どちらから
?
?
やっぱり来た。と茶釜は心のなかで舌打ちする。
﹂
﹁ガゼフ・ストロノーフ、リ・エスティーゼ王国にて戦士長をしております。⋮⋮失礼で
遅くなりましたが、とガゼフは言って
﹁⋮⋮素晴らしい人格者ですね﹂
﹁いいえ、困っている者を助けるのは、当たり前のことですから﹂
﹁改めて、村の者を守っていただき、ありがとうございました﹂
87
どうしようかと悩んでいると、ドアを開けて一人の兵士が飛び込んできた。
﹁戦士長、報告です‼﹂
﹁どうした、敵襲か﹂
﹁はい。村の外部にて、こちらへと向かう集団を発見したとの報告、おそらくですが法国
の手先かと‼﹂
﹂
兵士の報告に、茶釜がぽつりと言った。
﹁法国
﹁スレイン法国という国です。やはりな⋮⋮﹂
?
?
﹁ちょうど良かった。やまいこさん、今回の黒幕のお出ましだよ﹂
ナイスタイミング、と茶釜はやまいこへ言った。
てくる。
上機嫌で入ってきたやまいこは、何かを感じたのだろう、こちらを気遣うように聞い
﹁どうしたの
﹂
話の流れから大体読めてきた茶釜が口を開こうとしたとき、ドアが開いた。
﹁戦士長⋮⋮﹂
ガゼフ・ストロノーフ∼カルネ村編∼4
88
﹁⋮⋮詳しく聞いて良いですか
﹂
?
﹂
?
やまいこだ。
?
ガゼフはそう思っていた。
良いですよ、と返事をした自分に対して、輝くような笑みを浮かべたやまいこを見て、
美人は得をするというが、本当だな
フは苦笑した。
意識しているのかどうかは分からないが、軽い上目遣いでそう訊ねるやまいこにガゼ
﹁ガゼフさん、少し良いですか
﹂
椅子から立ち上がり、道具を纏めるガゼフに、声を掛ける存在があった。
ける﹂
﹁本当に申し訳ない⋮⋮。せめて、すぐにでも村を出よう。外の連中も、まとめて引き受
一通り話したあと、ガゼフは村長へと頭を下げた。
自身、ガゼフ・ストロノーフの殺害。
ガゼフは話した。おそらくであろう今回の事件の狙い。
﹁⋮⋮あぁ。お話ししましょう﹂
すか
﹁ガゼフさん、あなたが分かったこと、これからしようと思っていること、話して貰えま
89
◆
﹂
陽光聖典、という言葉に、ガゼフ達一団はざわついた。
スレイン法国の誇る武力の一つ。六色聖典にそれに近い存在があった。
だが、それは存在しないということに、表向きではなっている。
﹂
﹁お初にお目にかかる。リ・エスティーゼ王国、戦士長のガゼフ・ストロノーフで間違い
ないかな
﹂
夕暮れかかった時刻、村の外部の平原地帯では、二つの部隊が睨みあっていた。
﹁そうだが。そちらは
男はニヤリと笑い、その場にいる者全てに聞こえるよう大きな声で言った。
﹁これから死ぬお前には名乗る必要も無いのだが⋮⋮。ま、良いだろう﹂
?
か
﹂
あからさまな態度に、ガゼフの部下が沸き立った。すぐにでも戦闘を始めようとする
?
?
﹁おや、要らぬ疑惑を持たれているようだが、何か確証が
﹂
﹁お前達が、最近この近辺の村落を襲撃して回っている者達、ということで、間違いない
?
?
﹁私はスレイン法国、陽光聖典隊長、ニグン・グリッド・ルーインだ。ガゼフ戦士長
ガゼフ・ストロノーフ∼カルネ村編∼4
90
部下を手で制し、ガゼフは言う。
⋮⋮やれ﹂
?
陽光聖典がいる上空数メートル付近に、それらは居た。
馬の駆ける音に混じって、誰かがそう言う声が聞こえた。
﹁何だ、あれ⋮⋮﹂
││そうなるはずだった。
る。
彼らが得意なのは白兵戦だ。魔法を使うのだとしても、接近戦にはある程度持ち込め
ガゼフの号令に、騎馬に乗った兵士達は陽光聖典へと進軍していく。
﹁進めぇ‼﹂
ニグンのその言葉が合図となった。
﹁言いたいことはそれだけかな
﹁お前達のその命、ここで散ると思え﹂
腰につけた鞘から剣を抜き放ち、ニグン、陽光聖典へと向ける。
こちらに投降するのであれば粗雑には扱うまいとは思ったが⋮⋮﹂
﹁お前達が俺の抹殺を狙い、村落を襲撃していたのはもう分かっている。それを自白し、
91
︻炎の上位天使︼
︻監視の権天使︼
と呼ばれる。第三、第四位階魔法で召喚される天使。
天才と呼ばれる魔術師にしか呼び出せない存在を兵士が知っているはずものなく、ガ
﹂
ゼフ部隊は次々に撃破されていった。
﹁通常の武器ではダメか、ならば
︻戦気梱封︼
!
﹁︻四光連斬︼、︻即応反射︼﹂
もう一体。
﹁せぃっ‼﹂
一体。
﹁はぁっ‼﹂
なるべく大技、隙を作る技は使わず、一撃で倒すことを念頭におく。
三つの武技を発動させる。
︻流水加速︼
︻急所感知︼
ガゼフ・ストロノーフ∼カルネ村編∼4
92
囲んできた天使を四体。
王国で支給されている普通の武器の切れ味の悪さに、ガゼフは舌打ちをついた。
意地と誇りとプライドを爆発させて、ガゼフは咆哮と共に大地を踏みしめた。
﹁まだまだァァア‼﹂
女を戦場に立たせてたまるか。
﹃もし、ダメだと判断したら、私たちの魔法で乱入します﹄
先ほど村でやまいこに言われたことを思いだし、ガゼフは身体に活を入れる。
﹁︵ここで決着を付けなければ⋮⋮︶﹂
93
メンバーチェンジ∼カルネ村編∼5
﹁先ほどまでの威勢はどうしたのかな、戦士長﹂
夕日が沈みかけ、もう薄暗いとさえ思える時間帯、カルネ村付近の平原では、一つの
戦場に決着がつこうとしていた。
倒れているのは皆、ガゼフが率いる兵士達のみ。ニグン率いる陽光聖典は、誰も倒れ
てすらいない。
﹁女を戦場に出すなど、戦士として最低だ﹂
ではなかった。
突如変わったその態度に、ニグンは頭のネジでも外れたか、と疑問に思ったが、そう
疲労困狽のガゼフが力なく笑う。
﹁⋮⋮これだけは、したくなかったのだが﹂
る力があるのなら、出しても良いぞ﹂
﹁我らが使役する︻炎の上位天使︼と、
︻監視の権天使︼の力はどうかね。まだ隠してい
メンバーチェンジ∼カルネ村編∼5
94
そう言葉を残して、ガゼフが突然消えた。
﹂
ガゼフだけではない、その部下達も、突然にだ。
﹁なっ⋮⋮、何処に消えた、何をした
﹂
?
﹁あぁ、そうそう。さっきまでの戦い全部見ててさぁ、もう決着ついたでしょ、止めない
﹁それで、貴女方は、何かようですか
部下の数名が色めき立つが、ニグンは言った。
だった。
フレンドリーに、笑顔でそう挨拶したのは、どちらも絶世の美女と言えるほどの女性
﹁ども、茶釜です﹂
﹁初めまして、陽光聖典のみなさん。ボクはやまいこと申します﹂
すると、ガゼフが先ほどまでいた位置に、二つの人影が現れた。
見たこともない現象に、ニグンは思わず辺りを見渡す。
?!
95
﹂
﹁ふざけるな‼﹂
﹂
﹁私たちは世界の救済を願うもの、その行いに口を出す気か
﹁ガゼフが死ぬことが救済なのだ、邪魔をするな
!
﹂
ニグンがそう言うと、茶釜がでもさぁ、と返す。
れを邪魔しないでほしい﹂
﹁皆、よく言ってくれた。聞いただろう、お嬢さん、ガゼフを殺すことが我らの使命、そ
!
﹂
軽い調子で言う茶釜の言葉に、ニグン達陽光聖典は口々に言う。
?
?
﹁手始めにそこの村を焼いてやれば、奴もすぐにでも顔を出すだろう﹂
ニグンはニヤリと笑って、二人の背後を指差した。
⋮⋮﹂
﹁知れたこと、奴等が穴蔵から出てくるまで、また村落を襲撃するだけだ。そうだなぁ
白々しいその言葉に、ニグンは舌打ち混じりに返した。
﹁そのガゼフさん、もう居ないよね。どうするの
メンバーチェンジ∼カルネ村編∼5
96
﹂
その言葉に、目の前の女性二人、特にやまいこが反応する。
﹁⋮⋮そうやって村を襲撃することに、何の意味があるの
どうして関係の無い人まで殺す必要があるの﹂
?
憤ることはあるまい。それが普通なのだから﹂
?
﹁そうだね。確かにそれは我が儘だ。でもね⋮⋮﹂
呪いの類いかと周囲を探っていると、黙っていたやまいこが言った。
瞬間感じる、上空からの殺意に、ニグンは全身に冷や汗をかいた。
な我が儘というものだ﹂
﹁それと同じだ。我らは必要だから人を殺す、それに対するお前の怒りは、ただの身勝手
に対してもお前は憤るか
﹁お前の言っていることはただの偽善だろう。今まで肉を食ったことはあるだろ、それ
それに、とニグンは続ける。
など、仕方のないことだ﹂
﹁それをすることが、世界の為、人類の平和のためだとすれば、それによって生じる損害
﹁そこに住んでる人も居るんだよ
﹁意味など無い。強いて言えば、ガゼフを呼び出すための餌だ﹂
?
97
その女性から沸き立つ、見えないなにかに、陽光聖典の呼び出した天使達が異常に反
応する。
﹁我が儘だろうが身勝手だろうが、構わない。ボクは、ボクの意地を通す‼﹂
﹁よく言ったね、やまいこさん。次は私も混ざるから、お互いにサポートよろしく﹂
第二ラウンド。カルネ村での戦いは、終焉へと向かう。
﹁⋮⋮後で泣き言言っても遅いぞ、異端者がぁ‼﹂
メンバーチェンジ∼カルネ村編∼5
98
戦いの終わり∼カルネ村編∼6
ニグン達陽光聖典は、殲滅戦術を得意とする一団だった。
隊員の使役する︻炎の上位天使︼と
ニグンが使役する︻監視の権天使︼、またニグン自体の特異な能力︵タレント︶によっ
て、天使のステータスは強化される。
天使達一団の人海戦術と、隊員が使える魔法での後援によって、ニグン達陽光聖典は
数々の勝利を手にしていた。
今回の任務でも、ガゼフ・ストロノーフ一団を殺害という、いつも通りに任務をこな
﹂
すだけだったが││
﹁││これで全部
﹁大したことないなぁ。王国最強らしいのガゼフさんが追い詰められるくらいだから、
位天使︼が光を放ちながら霧散していくところだった。
女、やまいこが上体を戻して言う、彼女が向き合っていた地面には、潰れた︻炎の上
?
99
手こずるかと思ったけど﹂
﹁まぁ、第三位階程度の魔法だし、こんなもんじゃない
﹂
﹂
隣に来たぶくぶく茶釜がそう言うと、その言葉に陽光聖典一同が動揺する。
?
だ。
第三位階は、選ばれた人間のみが到達出来る領域の魔法。〝程度〟とはどういうこと
誰が発したか、その言葉を理解し、ニグンは激昂した。
﹁第三位階⋮⋮〝程度〟
?
﹂
﹁第三位階程度とはどういうことだ、貴様等、その言葉を理解して言っているのか、えぇ
戦いの終わり∼カルネ村編∼6
﹂
﹁最高位天使を召喚する、援護しろ﹂
魔法も使わず、武技を使用した様子もない。己の身体能力のみで打倒したのだ。
その第三位階の天使を、コイツらは軽く倒した。
分かっている。
?!
﹁ハッ
100
!
ニグンはそう言うと、懐から一つの水晶体を取り出した。子供の頭一つ分くらいあり
そうなそれを見て、茶釜が言う。
﹂
!
今すぐそこに這いつくばり、
?
命乞いをするのであれば、考えてやらんこともないぞ﹂
﹁どうだ。この姿を見ても先ほどの余裕が言えるか
過去に魔神の一体を倒したとされるそれを仰ぎ見て、ニグンは言った。
それが、︻魔封じの水晶︼に封じられていた最高位の天使だった。
︻威光の主天使︼
光聖典の兵士は感嘆の声を上げる。
闇に包まれたはずの平原を、その神々しい光で照らす、その光の持つ清浄な気配に、陽
神々しい光を放ちながら、一体の天使が出現した。
﹁見よ、この尊き姿を。そして恐怖し、ひれ伏せ
召喚準備の整った水晶を掲げ、高らかに言った。
様子の変わった二人に、ニグンは勝機を見たりと笑う。
﹁だとすると厄介ですね。⋮⋮流石にワールドエネミークラスはないでしょうけど﹂
く限り、︻熾天使︼でも入れてんのかね﹂
﹁あれ、
︻魔封じの水晶︼だね。超位魔法以外を取り込める物だけど⋮⋮。あの言葉を聞
101
﹂
︻善なる極撃︼
﹂
ニグンのその言葉を聞いても、やまいこと茶釜はポカンと呆けたように︻威光の主天
使︼を見上げているだけだった。
何か言いたげな雰囲気に、ニグンは問いただす。
﹂
それを聞いて、一拍置いてから茶釜が言う。
﹁何だね、言いたいことがあるのなら聞いてやるが
これが
マジか、お前。という顔で見ている。
﹁いや、〝最高位〟の天使
?
!
隣に立つやまいこも、これはちょっと⋮⋮。と言いたげだ。
?
手応えあり、まともに直撃したとニグンは感じたがすぐにそれは幻想だったと知る。
天から降り注ぐ聖なる光の柱が、やまいことぶくぶく茶釜に直撃する。
!
?
﹁⋮⋮ならば受けてみろ。魔神をも滅ぼした一撃を
戦いの終わり∼カルネ村編∼6
102
﹁ちょ、熱っ﹂
﹂
そんな軽い調子で︻善なる極撃︼から出てきた二人に、ニグン達陽光聖典は今度こそ
﹁な、なんかピリピリくる⋮⋮﹂
絶句した。
﹁そ、そんな⋮⋮。ま、まさかお前達、神の血を継ぐ〝覚醒者〟⋮⋮っ
﹂
!
もう安全だって﹂
?
機嫌が戻ったやまいこに、内心ガッツポーズしながら、二人は転移で村へと移動した。
﹁⋮⋮そうですね
﹁カルネ村に戻って、エンリちゃん達に報告しよう
不満。そう顔に出しているやまいこに、ぶくぶく茶釜は苦笑を浮かべた。
﹁⋮⋮⋮⋮分かりました。﹂
て帰還だって﹂
﹁情報取りたいから、アイツらはナザリックに連れていくってさ、だから私たちはこれに
ぶくぶく茶釜が︻メッセージ︼を終えると、やまいこへと伝える。
﹁⋮⋮はい。あ、そうするんですか。⋮⋮ま、良いでしょ。了解でーす。はい。﹂
?!
103
陽光聖典をナザリックへと連行する捕縛部隊が登場したのは、すぐ後の事であった。
◆
次々と捕縛される陽光聖典の姿を︻遠隔視の鏡︼で眺めながら、モモンガはそう呟い
﹁︻魔封じの水晶︼が出てきたから警戒しましたけど、普通にクリアできましたね﹂
た。
あのニグンとかいう男の物言いには腹立ったが、無事に終わったので不問としよう。
﹂
﹁なら、そのスレイン法国にはプレイヤーが居るんですかね
してみます
⋮⋮牽制含めて攻撃でも
それに⋮⋮。と続け、モモンガは周囲に居る者達に視線を向ける。
﹁よしましょう。下手につついて要らない問題を作る必要もありません﹂
?
?
は、プレイヤーの可能性もあります﹂
﹁血 を 継 ぐ っ て こ と は 実 在 の 人 物 と い う こ と で し ょ う か。あ の 二 人 と 同 等 と い う こ と
け﹂
﹁それにしても、気になるワードが有りましたね。神の血を継ぐ〝覚醒者〟⋮⋮、だっ
戦いの終わり∼カルネ村編∼6
104
﹁ここにいる全員ならば、どんな奴が攻めてきても勝てますからね。恐れることはあり
ません﹂
その言葉に、その場に居たプレイヤーは静かに笑みを浮かべた。
ここは﹃そうだな﹄、とか言うところでしょ﹂
?!
仕舞った。
二人が帰ってきたら一言注意しないと、と思いながら、モモンガは︻遠隔視の鏡︼を
再び賑やかになる一同に、場が暖まる。
﹁えぇ
﹁モモンガさん、台詞が臭い﹂
105
ナザリックの忙しい一日
その日、ナザリックは喧騒に包まれていた。
﹂
﹂
普段は静寂に包まれ、廊下を歩く足音しか響くことはない廊下を、数人のメイドやシ
モベが走り回る。
﹁││急ぎなさい、資材の搬入はまだですか
﹁シャルティア様からのシモベの伝令によるとまだのようです
いつもは冷静なデミウルゴスですら、その日は焦っていた。
普段であれば叱責の対象であるその態度も、今はどうでもいいとさえ思えていた。
いないことを伝える。
そのデミウルゴスの言葉に、走り回っていたシモベの一人、サキュバスがまだ届いて
!
?!
◆
デミウルゴスのその言葉は、廊下の喧騒に消えていった。
﹁くそ、ここで何としても手柄を立てなくては⋮⋮﹂
ナザリックの忙しい一日
106
円卓の間。普段は会議で使用するその場所は、今は男性プレイヤーしか居なかった。
﹂
?
﹁御無事の生還で何よりでございます﹂
﹁││やまいこ様、ぶくぶく茶釜様両名。御帰還されました﹂
ことの始まりは昨日。
それが急務での議題だった。
︻変化の腕輪︼の変化対象。
た。
同意するように頷いたウルベルトを見て、モモンガは分かりやすい不満を口に出し
﹁えー⋮⋮﹂
﹁えぇ﹂
﹁ですから私たちは、自分の守護者の姿を使いますよ﹂
その言葉に反応するように、隣に座っていたたっち・みーが言う。
重苦しい空気の中、取り敢えずジャブでモモンガが会話を繰り出す。
﹁それで、どうします
107
守護者、シモベ、メイド⋮⋮、ナザリックに存在する全てのシモベが、二人に向かっ
て頭を垂れる。
困惑するやまいこと違い、ヒラヒラと適当に対応したぶくぶく茶釜は、モモンガの元
へと来ると言った。
﹁ただいま。心配かけてすみませんでした、モモンガさん﹂
﹁あ、す、すみませんでした﹂
﹁いえ、二人が無事で何よりですよ﹂
本心からの言葉に、やまいことぶくぶく茶釜は胸を降ろす。
会話が終わったのを感じてか、執事のセバスと、守護者のデミウルゴスが三人に近付
く。
下げた。
デミウルゴスの言葉に反応するように、アウラ、マーレ、ユリが立ち上がり深く頭を
て下さい。﹂
世において頂点に位置する御方。勝手な行動をされて、心配する者が居ると意識なさっ
﹁セバスに同意でこざいます。お二人は他の至高の方々と同じくナザリック、いや、この
きだと思われます﹂
﹁失礼を承知で申し上げます。あのような状況では、シモベの数名を引き連れて行くべ
ナザリックの忙しい一日
108
﹁⋮⋮うん。ごめんね﹂
?
囲に比べてあまり良いものではなかった。
元々毒の沼地にあった遺跡が、だだっ広い草原に移ったので、ナザリックの外観は周
凝った見た目にするため、ブループラネット、タブラ、ウルベルトもそれに参戦した。
ぜ、となったのだ。
もち、るし★ふぁー、ヘロヘロを先頭に、ナザリック︵特に外観︶をリフォームしよう
それからのナザリックは嵐のようだった。お祭り隊長、ぶくぶく茶釜、餡ころもっち
﹁⋮⋮え
﹂
﹁えーっと、近いうちに、ナザリックにお客さんが来るんですけど⋮⋮﹂
﹁どうされました。やまいこさん﹂
﹁あ、モモンガさん。伝えることが﹂
困るので、後で謝りに行こうとすぐに上げる。
自分の子供ともいえる者からの心配に、二人も頭を下げた。また過剰に反応されても
﹁次からは気を付けるから﹂
109
皆が言うならせっかくだし、とモモンガもノリノリでGOサインを出した。
そこまでは良かった。
﹁なら、二人みたいに人間の時の姿でも決めましょうか﹂
誰が言ったか、その言葉から戦争が起きた。
とたっち。
﹁なら、私は守護者のセバスをモチーフとしましょう﹂
とウルベルト。
﹁それなら私はデミウルゴスですね﹂
﹂
?
﹁蟲にしかモテねーよ
﹂
﹁コキュートスなんてどうです
!
絶対モテますよ﹂
﹁人前に出れる姿じゃないですよね﹂
﹁モモンガさんそのままでもカッコいいじゃないですか﹂
それからも争いは続いた。
﹁なら僕は⋮⋮、あれ、もう居なくね
ナザリックの忙しい一日
110
?
﹁じゃあエクレアをお譲りしましょう﹂
﹁おや、詳しいですね﹂
﹁誉められても全然嬉しくない
!
﹂
?
水面下での戦いは、噴火寸前の火山のように高まっていた。
私が選ばれる。
その場にいたプレアデス、守護者数名は静かに、されど激しく闘志を燃やす。
しょうけど﹂
﹁それはあの方々が決めることよ、シャルティア。まぁ、貴女が選ばれることはないで
せんよ
﹁至高の方々に使われるなど、私たちにとっては何物にも代えがたい至福。⋮⋮譲りん
﹁私もよ、エントマ⋮⋮。他に決められていないのは、餡ころもっちもち様だけね ﹂
﹁ぐぬぬ⋮⋮、腹立つほどに羨ましいぃ⋮⋮﹂
﹁いやぁ、こんな私を至高の方々に使われるなんて至極光栄の極みっす♪﹂
﹁ぶくぶく茶釜様はルプー、やまいこ様はユリ姉をモチーフにした。羨ましい﹂
そんなプレイヤーをそっちのけで、シモベの間でも争いは始まっていた。
◆
﹂
﹁イワトビペンギンじゃねーか﹂
111
﹁⋮⋮順当に行くならば、私の姿はウルベルト様が使われるかと思われるが⋮⋮、ぶくぶ
く茶釜様の例を見ると、思わぬ番狂わせがありそうだ﹂
﹁ソウダナ。⋮⋮マァ、俺ノ姿ナド、至高ノ方々ハ使ワナイダロウガ﹂
⋮⋮﹂
﹁そ、それを言うなら、ぼ、僕だって無いですよ。至高の方々からすれば子供に見えるし
﹁いや、マーレ。君は私たちが見ても子供に見えるが⋮⋮。とにかく。今、ナザリックの
模様替えをしているのは大きなチャンスだ﹂
デミウルゴスの言葉に、コキュートス、マーレは疑問を浮かべる。
セバスは察したのか、なるほど、と口を開いた。
﹁いや、コキュートス。それはいくらなんでも飛び越えすぎだ⋮⋮﹂
﹁オォ、若様。ソンナニ慌テナクトモ、爺ハココニ居リマスゾ⋮⋮﹂
キュートスはトリップしていた。
話の内容を理解したのか、おぉ、と声を上げる。それぞれの野望があるのか、特にコ
﹁その通りだ、セバス。まぁ、至高の方々から頼りにされると思えば、分かりやすいかな﹂
または任命されると⋮⋮﹂
﹁つまり、この模様替えでの貢献によって、今後至高の方々が行動をされる際、共に行動、
ナザリックの忙しい一日
112
とにかく。と言って、
◆
?
﹂
?
?
ているんですけど﹂
﹁外壁は良いんじゃないですか
要塞っぽく造るのもカッコいいと思いますけど﹂
﹁んー、思いきってタイル張りにして外壁を造るか、柵を設置して庭園風にするかで迷っ
﹁それで、どうするつもりなんです
隔視の鏡︼を使用してコピーしている。
二人とも︻変化の腕輪︼を使用していた。取り敢えずはその辺にいる人間の姿を、
︻遠
近くではコキュートスの配下である︻八肢刀の暗殺蟲︼が、姿を消して控えている。
座った。
第一階層、出入り口の付近で座り込んでいるタブラの近くに、ブループラネットは
﹁あぁ、プラネットさん。外観をどのようにしようかと、考え中でして⋮⋮﹂
﹁おや、此処で何をされてるんです
タブラさん﹂
デミウルゴスが差し出した手に、その場に居た男性陣は手を重ねた。
協力しようじゃないか﹂
﹁今がチャンスだ。共に、ナザリックに、ひいては至高の方々に仕える者として、お互い
113
﹁要塞⋮⋮、良いですね。そのアイデアいただきです。﹂
目の前に広げた羊皮紙に、サラサラとタブラは書き込んでいく。
﹂
そこには全体の造りと、どこをどう造り変えるかのアイデアが記されていた。
﹁おかげで外観は決まりそうですね﹂
﹁そうですか。⋮⋮他には何処をリフォームするんです
第六階層、ジャングルの一角に、その建物は建築途中であった。
﹁はいはーい、そこはもう床張って行って良いよー﹂
◆
ているようです﹂
﹁第六階層に、お客さん用のホテルを建てるらしいですよ。もう、建築にまで取り掛かっ
?
骨組みは終わっており、後は各階層の床など、内装を完成させていくところだった。
﹂
﹁お疲れさま、アウラ。調子はどう
?
モモンガ様から貸していただいた︻デスナイト︼や、コキュートス、
?
デミウルゴスの配下の者が手伝ってくれてるんです﹂
﹁欠陥住宅⋮⋮
﹁え、早⋮⋮。大丈夫だよね、欠陥住宅とかじゃないよね﹂
後は内装を仕上げていくだけですね。後1日
!
あれば終わりそうです﹂
﹁ぶくぶく茶釜様、お疲れさまです
ナザリックの忙しい一日
114
﹁あぁ、なるほど。皆やる気充分なんだね、ありがとう﹂
﹂
!
﹂
この工事終わったら絶対休ませよう。絶対。
そう、心に誓った。
◆
﹁え、えーと。こんな感じですか
﹁そうそう、そんな感じ。悪いね、マーレ﹂
﹁い、いえ。至高の方々からの命令ですから、嬉しいです
﹂
?
﹁え、えぇー⋮⋮﹂
﹁ま、︻飛行︼を使われたら意味ないけどねー﹂
﹁な、なるほど。確かに大人数でも一網打尽に出来ますね。流石は至高の方々﹂
つし、仮に入られたりしても、橋を落とせば逃げられないしな﹂
﹁俺の国では、昔拠点の回りに堀を掘ってたんだよ。侵入者のルートを削るのにも役立
﹁そ、それにしても、堀を三重に作るのは、どのような策略が
その中の一人、マーレが、隣にいるるし★ふぁーへと疑問を放つ。
!
?
ナザリック外部、屋根部分に、三人の人影があった。
﹂
どん、と胸を叩き、誇らしげにするアウラに、ぶくぶく茶釜は笑う。
﹁至高の方々からの命令とあらば、どんなことだって致しますよ
115
﹂
ケラケラと笑いながら言うるし★ふぁーに、マーレは困惑する。
そんな二人に、隣にいた建御雷が訊ねた。
﹁ところでマーレ、掘はどれくらいの深さになっているんだ
杖を構え、マーレは魔法を起動する。
﹁わ、分かりました﹂
﹁そうか⋮⋮、深さをもう3メートル深くしてもらえるか
﹂
﹁え、と、深さが大体10メートル、幅は5メートル程で造っています﹂
?
の作業は、彼の独壇場であった。
ドルイドである彼は、大地の操作に手慣れている。ゆえに、ナザリック外部での今回
?
いた。
守護者各位、更には姉であるアウラを出し抜けたと、マーレは心の中でほくそ笑んで
至高の方々直々の側近。
﹁︵こ、これでアピールポイントは大分稼げたはずだよね︶﹂
ナザリックの忙しい一日
116
﹁そういえば建御雷さん、ここには何で
﹁そこまで信用ないの俺
﹂
﹂
﹁満場一致で、るし★ふぁーさんの監視を頼まれました﹂
?
117
?!
おいでよ、ナザリック城
凄い。
エンリは語彙が少ない自分を恥じた。
路が出来ていた。
その周囲では、モノクロ状にタイルが張っており、入り口へと繋がる道は、煉瓦で通
体、四方に設置されている。
ガッシリとした構造は三階くらいまでの高さがあり、屋根には悪魔を象った石像が四
た。
圧倒的な迫力を誇るその外観は、エンリが今まで見た中でも一番の迫力のものだっ
隣では妹のネムが目をキラキラさせて見上げていた。
﹁すっごーい、お城みたい‼﹂
おいでよ、ナザリック城
118
その全体を囲むように、石垣のように外壁が作られており、門には蒼い炎を灯した大
きな杯が、両端に備えられていた。
外に一歩出ると、その周囲を囲むように堀が三重にも掘られている。中には水が張ら
れ、見たこともない綺麗な花が浮かんでいた。
﹂
﹁お待ちしておりました。カルネ村のエンリ・エモット様、妹のネム様で御座いますか
119
﹂
?
で御座います。私はユリ・アルファ、こちらでメイドをしている者です﹂
﹁⋮⋮やまいこ様は私のご主人であり、このナザリック地下大墳墓における頂点の一人
ネムの言葉通り、服装や雰囲気は全く違うが、確かにやまいこに似ていた。
ネムの言葉に、エンリはマジマジと女性を見つめる。
﹁初めまして⋮⋮、やまいこさん
﹁は、はい。カルネ村から来たエンリです。こっちは、妹のネムです﹂
驚きを隠せず、恐る恐る、エンリは返答をする。
いつの間に居たのか、一人の女性メイドが門の付近に立っていた。
?
間違えるな。直接言われはしなかったが、目線はそう言っていた。
慌てて謝ると、ユリは優しく微笑んで門を開けた。
﹁それでは、中へ御入りください。やまいこ様、ぶくぶく茶釜様方が、首を長くしてお待
ちしております﹂
あ、ほんとに此処であってたんだ。
開いていく門を見ながら、エンリは今更ながらそう思っていた。
◆
よくわからないうちに案内された場所には、やまいこと茶釜が居た。
﹁久しぶり、二人とも﹂
一生を掛けてもここまで揃えきれないほどの調度品に包まれたその部屋に、エンリは
一瞬入るのを躊躇った。
意を決して入ると、エンリの家に入りきらないくらいの広さのテーブルに、二人の他
にもう一人男性が座っている。
﹁久しぶりです
﹂
﹁やまいこさん、茶釜さん、お久しぶりです﹂
おいでよ、ナザリック城
120
!
﹂
今にも駆け出そうとするネムを押さえつけていると、それを見た二人が言う。
﹁元気そうで良かったよ﹂
﹁久しぶりだね、あの後は何もなかった
﹁えぇ、何事もなく過ごせました。⋮⋮えぇと、そちらの方は
?
﹁いやいや、我が友人であるやまいこさんと茶釜さんの友人だ。構うことはないよ、ここ
頂きありがとうございます﹂
﹁あ、は、初めまして、カルネ村に住むエンリ・エモットと申します。この度は、お招き
﹁初めまして、ナザリック地下大墳墓の主をしています。モモンガです﹂
同じ地方の出身なのかな、とエンリは感じていた。
やまいこ達と同じ黒髪で、この辺りでは見たこともない風体の美形。
モモンガと言われた男性はこちらの事を見ると、笑顔を浮かべた。
﹁あぁ、こっちは、私たちのリーダーである、モモンガさん﹂
﹂
不気味な程の静寂に、何かの前触れかとも思ったが、至って平和だった。
すらもなかった。
あの後のカルネ村は、兵士の追撃なども考えられていたが、兵士はおろか、魔物の姿
挨拶もほどほどに、やまいこがそう訊ねてきた。
?
121
に居る間はゆっくりしていってくれ﹂
不思議と人を落ち着かせるその声音に、エンリは自然と聞き入れていた。
﹂
隣にいた筈のネムが、いつの間にかモモンガに近づいていたことを知るのは、すぐの
ことだった。
﹁ねぇねぇ、ここのお城、ぜーんぶモモンガさんが作ったの
﹂
﹁へぇ∼。こんなに凄い場所を作れるなんて、モモンガさんの友逹は凄い人なんだ
それで、他にはあったかい
﹂
えっとね、凄かったんだよ、兵士の一人をね、思いっきりぶっ飛ばしてたの
?
止めたほうが良いか、と二人に視線を送ったが、二人は手を横に振った。
﹂
﹂
﹂
!
!
友人達で作り上げた場所だ﹂
﹁⋮⋮、いや、私だけではない。そこに居るやまいこさんや、茶釜さん、その他居る私の
?
﹁⋮⋮あぁ。やまいこさんと茶釜さんの凄さは、先日君も見ただろう
﹁うん
﹁あはは、そうかそうか
﹁うん、他にはね││﹂
?
身振り手振りで興奮した様子で話すネムの話に、モモンガは笑って聞いている。
!
!
﹁えっと、今日は一泊してもらおうと思っているんだけど、大丈夫かな
?
おいでよ、ナザリック城
122
﹁えぇ
⋮⋮だ、大丈夫なんですか
?!
﹂
?
リは顔を青ざめた。
﹁ここにいる間は、さっきモモンガさんが言った通り何も気にしなくて良いよ
﹁で、ですが、ネムが迷惑をお掛けしたらと思うと⋮⋮﹂
という茶釜の提案に、エンリは全力で首を横に振った。
﹁あー、大丈夫だよ。別にその辺の物壊した所で、誰も怒らないし﹂
一個壊してみる
?
﹂
﹁この日の為に、ご飯も美味しい物を用意したんだけど⋮⋮。和食と洋食、どっちが良い
?
﹂
自分一人ならば良いが、ネムが居たら何が起こるか、考えられる最悪な光景に、エン
回りにある展示品の様なものも、一つ壊せばどれだけの請求が来るか考えきれない。
感漂っている。
今いるこの部屋も、床に敷いている絨毯は靴で踏んでも良いのかと考えるほどに高級
た。
エンリは正直に言って、このナザリックは自分にとって場違いな場所だと思ってい
﹁うん。元々そのつもりだったんだ。もし急ぎの用があるなら、別に良いけど⋮⋮﹂
123
?
和食、洋食。どっちも聞きなれない単語にエンリが困惑していると、やまいこがメイ
ドの一人を呼んだ。
二、三話すと、メニュー表の様なものを持ってきて、エンリの前に置く。
﹁本日のメニューは││﹂
挙げられた名称は、ほとんど聞いたことのない物だった。煮付け、などはスープの類
いだろうかと思案する。
ただし、エンリの中で食いついたのは、デザートのメニューだった。
ン等。食後のドリンクは、ホットチョコレート、コーヒー、紅茶を予定しております﹂
﹁デザートには、6種のアイスクリーム、季節のフルーツを使ったタルト、他にもマカロ
アイスクリームは聞いたことがあった。自分が汗水流して働いた給料を三回分以上
払って食べられる甘味。
それが食べられるとなっては、エンリを止める鎖も、もはや蜘蛛の糸程度の強度しか
なかった。
◆
改めて、自分の語彙の無さに恥じた瞬間だった。
凄い。
﹁││いただきます﹂
おいでよ、ナザリック城
124
﹁ぅわ∼
﹂
﹁まだまだ有るの
﹂
﹁ふふ、そんなに急がなくとも、まだまだ見る場所は有るぞ
﹂
目に映るものが全て好奇心を掻き立てる物に、ネムの足は止まらなかった。
廊下に敷いている絨毯にせよ、壁などに掛かっている絵画や宝飾品の数々。
何もかもが見たことない物で出来ている、とネムは思っていた。
眼前に広がる光景に、ネムは興奮しきっていた。
!
﹂
も、後で使うが良い﹂
﹁よ、浴場ってなに
ワクワクが増える。
!
いや、しかし⋮⋮。と悩みだしたモモンガ。
?
その時、通路の奥からやってきたその男に、ネムは声を上げた。
第六階層を飛ぶか
﹁ははは。では次へと向かうとするか、次は⋮⋮﹂
﹁そうなんだ。楽しみ
﹂
よく分からないが、とにかく広い風呂、とネムは理解した。この後に増えた楽しみに、
?
?
﹁む。風呂には入らないのか
ナザリックの浴場は広い。存分に楽しむが良い﹂
﹁あぁ、ここナザリックはこの世の贅を極めたからな。まだ使うには早いが、浴場など
?
?
125
﹂
﹁は、初めまして
ります
カルネ村から来た、ネム・エモットと言います。今日はお邪魔してお
!
﹂
?
﹁なら、第六階層なんてどうです
パーリングでもするんですが﹂
﹁行く
﹂
これからトレーニングがてら、軽く建御雷さんとス
私たちの戦いが見れるかもだが﹂
たっちはモモンガの表情を思い出して、そう呟いた。
ちょろイン。
﹁確か、なんと言ったか⋮⋮。ペロロンチーノさんが言ってたが。⋮⋮そうだ﹂
指輪を起動して一足先に行ったモモンガ達に、たっちはポツリと言う。
二つ返事で即答したネムに、モモンガは満足そうに微笑んだ。
!
?
?
しようかと思って﹂
﹁あぁ、たっちさん。このネムに、今ナザリック内部を案内していましてね、次は何処に
﹁モモンガさん、ここで何を
良く言えました、と頭を撫でるたっちに、ネムは自然と笑顔になった。
んでくれ﹂
﹁ん、あぁ、やまいこさん達のお客さんか。初めまして、私はたっち・みー。たっちと呼
!
﹁なるほど⋮⋮。ネム、行ってみるか
おいでよ、ナザリック城
126
﹂
!
!
﹂
?!
あぁ、どうしましょう、いっそアイテムで若返りの薬
?
﹁コイツはあれだな、ヒドインだ﹂
を探すとか
て⋮⋮、もしやそういう性癖が
﹁子供だろうが何だろうが、女は女です。⋮⋮あぁ、モモンガ様。そんな女にデレデレし
﹁恋敵って⋮⋮、あれは子供だぞ﹂
す
﹁止めないでください、ペロロンチーノ様 今私は、恋敵になるであろう女を見てるんで
﹁⋮⋮お前は此処で何してるんだ、アルベド﹂
127
どきっ、女だらけのイベント回︵異業種含む︶
第九階層、ロイヤルスイート。
その中の一室では、円形の大きなテーブルに、色とりどりのスイーツがはみ出ん限り
に並べられていた。
﹂
?
﹂
﹁えっとね、なんか紙みたいなのが燃えた後に、すっごく大きなワンちゃんが出てきたの
だ。
手に持ったナプキンでそのクリームを取ったのは、優しい笑顔を浮かべたやまいこ
口の端にクリームを付けたまま、ネムは大きく手を動かして話す。
﹁へぇー。どんなことをしていたの
﹁それでね、モモンガさんが使う魔法、凄かったんだー♪﹂
どきっ、女だらけのイベント回(異業種含む)
128
隣にいた茶釜を見ると、同意するように苦笑いを浮かべていた。
ネムが話した内容に、やまいこはその笑顔を引くつかせる。
!
﹁ねぇねぇ、ネムちゃん。そのワンちゃんの名前、モモンガさん何て言ってた
﹁ケルベロス
﹂
﹁あ、うん。それだよ餡ころさん
﹁そっかー、やっぱりかー﹂
﹂
?
私も混ぜろ。という意味だろう。
﹂
∼っ、美味しい⋮⋮﹂
﹁ほらほら、エンリちゃん。これも美味しいよ
﹁い、いただきます
﹁甘い物大好きなんだね。よく食べるの
?
﹁い、いえ。普段はこんな甘味食べれません。ほとんどが果物とかです﹂
?
!
﹂
これはお仕置きやろなぁ、と小声で呟いた餡ころに、やまいこはOKサインを出した。
間違っても、子供に見せるために召喚する代物ではない。
る。
強力なモンスターで、それ一体でこの辺の国一つくらい軽く滅ぼすくらいの力があ
第十位階魔法に相当する召喚魔法によって出てくる、三つの頭を持つモンスターだ。
!
?
︻ケルベロス︼
﹂
﹁えっとね⋮⋮、確か、けるべら、けるべる⋮⋮﹂
129
﹂
と、茶釜が近くに居たメイドへとオーダーを告げる。
﹁⋮⋮、よし、エンリちゃん。食べよう、食料庫が空っぽになるくらい
﹁えっ﹂
スイーツ追加で
!
﹂
!
﹁さんせー。ていうか、二人は着替えあるの
﹂
﹁ナザリックに有るので良いでしょう。メイドに頼んでおきます﹂
?
﹁んー、良いね。なら皆で行こうか﹂
浴場と聞いて、昔聞いた王国の広い風呂というのをエンリは思い出していた。
手を上げてそう言ったネムに、全員の視線が集まった。
﹁あ、だったら浴場ってところに行ってみたい
時計を見上げると、時間的にもう少ししたら就寝の準備といったところか。
食後の一時、これ以上入らないくらい膨れた腹を擦っていると、餡ころがそう言った。
?
﹂
またあのカートいっぱいにスイーツが乗ってくるのだろうかと、エンリは困惑した。
扉から出ていった。
畏まりましたと頭を下げたメイドは、スイーツを乗せていた大きなカートを引いて、
!
﹁それにしても、この後どうする
どきっ、女だらけのイベント回(異業種含む)
130
と状況が掴めないでいると、やまいこが手を引いて言う。
エンリが物思いに耽っている間に、トントン拍子で話は進んでいた。
え、何事
?
◆
﹁おおぅ
﹂
等と思っていると、エンリの視界はブラックアウトした。
何だ何だ、何処のVIPが来てんの
?
?
その場にいた他の者も思っていたのだが、るし★ふぁーは特に気にすることもなく、
俺、なんか久しぶりに真面目なこと言った気がする
いるナーベラルを見ながら、るし★ふぁーはふと思った。
瞬間、顔を青くして﹁あれは同等、あれは同等⋮⋮﹂と自分に洗脳するように呟いて
気を付けてね。特にやまいこさんに﹂
﹁うん。ナーベちゃん、多分あのお客さんに下等生物って言ったら嫌われると思うから
﹁如何なる場合であっても、絶対に男性を通すなと、仰せつかってありますぅ﹂
様二名が入浴中で御座います﹂
﹁はっ、只今やまいこ様、餡ころもっちもち様、ぶくぶく茶釜様、そして下等せ││お客
イド数名︵プレアデス含む︶にるし★ふぁーが言った。
浴場前の暖簾が掛けられた場所、主に女性側の方に、立ち塞がるようにたっているメ
?
スパリゾートって何
﹁なら次は、ナザリック自慢の浴場︻スパリゾートナザリック︼に案内するね﹂
131
そのまま男性用の暖簾をくぐった。
◆
肩まで湯船に浸かって、エンリはそう口に出した。
﹁ふぅ⋮⋮、気持ちいぃ⋮⋮﹂
その様子を見て、同じく湯船に浸かった茶釜が言う。
﹂
?
近所の人はそう言うが、エンリからすればそれは異常だった。
聞き分けのいい、良い子になった。
﹁お父さんとお母さんが、その、死んで。前までよく笑っていたのに、急に⋮⋮﹂
探るように聞いた茶釜に、コクりと頷いて肯定する。
﹁⋮⋮あの時以来
﹁あの子、最近はめっきり笑わなかったんです﹂
楽しそうに笑うネムを見て、エンリはポツリと呟く。
ネムを探すと、まだやまいこと餡ころに身体を洗ってもらっているところだった。
素直に思ったことを、そう口にした。
﹁あ、はい。色々と、ありがとうございます﹂
﹁今日は満喫してくれたかな﹂
どきっ、女だらけのイベント回(異業種含む)
132
﹁だから、今日はここにお邪魔させてもらって、本当に良かったです。久しぶりに、本心
から笑うあの子を見れたから⋮⋮﹂
湯に映る自分の顔が、いつの間にかクシャっと歪んでいた。流れる涙を誤魔化すよう
に、何度も顔を洗う。
﹂
?
見捨てる気で居た。
友人であるやまいこが助けたいと必死だったから力を貸しただけで、自分一人ならば
正直に言って、茶釜は当初、エンリとネムのことはどうでもよかった。
く撫でる。
胸元に顔を押し付けて必死に声を上げないように嗚咽するエンリを、茶釜はただ優し
偉い偉い、と背を優しく叩く茶釜に、エンリは思いきり抱きついた。
人とも我慢して頑張ってる。それはとても凄いことだよ﹂
﹁突然二人きりになってさ、生活しなさいって、私なら絶対無理だもん。それなのに、二
リにしか聞こえないように言う。
そんなエンリを、優しく茶釜は抱き締めた、他の者から見えないようにすると、エン
﹁茶釜さん⋮⋮
﹁偉いね、二人とも﹂
133
そして、異業種になってからそんな感性に目覚めた自分を、心底軽蔑している。
茶釜がこの二人に構うのも、そうした自分を変えたいと思うからでもあった。
﹁⋮⋮これからさ、何かあったらすぐに言ってね。私だけでも行って、二人のことを絶対
に守るから﹂
自分の胸で泣きじゃくる少女を見ながら、茶釜はそう願っていた。
そして願うなら、次からは悲し涙でなく、嬉し涙を流していってくれますように、と。
これ以上、この姉妹が理不尽に巻き込まれないように、
﹁⋮⋮ぁぃ﹂
どきっ、女だらけのイベント回(異業種含む)
134
﹁おや、モモンガさん。ご機嫌麗しゅう﹂
﹂
?
その後、メチャクチャ折檻した
らな﹂
﹁いや、頭冷やすのに︻女教師怒りの鉄拳︼は必要無いやちょっと待ってマジで洒落にな
﹁ちょっと、頭冷やそうか﹂
﹁⋮⋮⋮⋮⋮⋮キノセイジャナイデスカ
る第十位階の召喚魔法を使ったと聞きまして﹂
﹁いえ、何処かの︻オーバーロード︼が、小さな子供に見せるためだけに、安全性に欠け
﹁餡ころさん、茶釜さん、やまいこさん。どうしました、こんな時間に﹂
135
つかの間の平穏
﹁││重ね重ね、本当にお世話になりました﹂
明くる日の昼下がり、昼食を食べ、最後にお茶会を交えてからエンリ逹はナザリック
を出た。
メイドを引き連れてまで送りにきたやまいことぶくぶく茶釜と餡ころに、エンリは心
からの礼を言う。
﹁いや、大したことじゃないから、お礼なんて良いよ﹂
﹂
﹁うん。私たちこそ、わざわざこんなところにまでありがとうね。⋮⋮帰り、送らなくて
本当に大丈夫
で危険な道のりでもない。
ここからカルネ村までは、歩いても充分辿り着ける。確かに時間は掛かるが、そこま
茶釜の言葉に、エンリは苦笑いをして断った。
?
﹁大丈夫ですよ。森に近付かず、草原の道を通れば安全ですから﹂
つかの間の平穏
136
心配だ。そう顔に出しているやまいこに、エンリは笑顔で言った。
﹂
?
﹂
?
優しく撫でる。
﹁皆さん、今回はありがとうございました
﹂
﹁お、良く言えたね。偉いぞー、ネムちゃん﹂
?
!
﹁えへへ。モモンガさんにも、色々見せてくれてありがとうって伝えてくれる
﹁うん。良いよ、伝えておくね﹂
﹂
至れり尽くせりな対応に、エンリはもう一度頭を下げた。その下げた頭をやまいこは
いている。
それは、小さな角笛に紐を通しただけの物だった。飾り付けに鳥の羽のような物が付
が、すぐに来てくれるから﹂
﹁もし、危ない時とか困った時とかに、それを吹いてごらん。助けてくれるモンスター
﹁やまいこさん、これはなぁに
それと、と追加で差し出された物を、今度は隣にいたネムが受け取った。
いが漂っていた。
差し出されたバスケットを受けとる。上等なそのバスケットからは、美味しそうな匂
﹁そっか⋮⋮。なら、途中でお腹が空いたときに、これを食べて
137
また来てねー、と手を振る三人に、エンリとネムは礼をして歩いていく。
夢のような時間だったが、例え夢でも良いとさえ感じる二日間だった。
◆
﹁⋮⋮そうですか。もう帰ったんですね﹂
茶釜の報告に、モモンガはそう言った。
少しだけ寂しそうなその横顔に、茶釜はニヤニヤとしながら言う。
﹂
ただ、他にも見せてやろうと思っていただけで ﹂
﹁あれれ∼、もしかして寂しいんですか
﹁なっ、ち、違いますよ
?
詰まりそうになるが、一口で言った。
モモンガは報告書を机に置き、茶釜へと向き合う。どこかむず痒いその感覚に言葉が
﹁⋮⋮違いますよ。ただ、﹂
ら、その時で良いでしょ﹂
﹁言い訳が苦しいですよ、モモンガさん。まぁ、また来てくれるって言ってくれましたか
!
﹁ほんとにちょろいなー⋮⋮﹂
あー、もう。と一人悶えるモモンガ、その様子を見て、茶釜は言った。
くなって⋮⋮﹂
﹁ナザリックをあそこまで褒められるとは思ってみませんでしたからつい色々と見せた
つかの間の平穏
138
﹁へ、なんですか
﹂
?
きゃいけないことなんですから﹂
﹂
﹁キャー、〝いけないこと〟だなんて、一体ナニをするつもりなの、モモンガさん
﹁ちょ、待って、変なこと言いながら逃げるんじゃない
!
﹁おや、ヘロヘロさん。人間の姿で入っているとは﹂
﹁ん、あぁ、タブラさんですか﹂
ふぅ、と一息吐いていると、後ろからくる人影があった。
湯船に浸かる男の顔には、至福の表情が浮かんでいる。
た。
同時刻、第九階層にある大浴場︻スパリゾートナザリック︼には、一人の男の姿があっ
﹁はぅぁー⋮⋮、ぁぁぁ、極楽だぁ⋮⋮﹂
◆
のことか、と苦笑いをした。
執務室から聞こえる、ドタバタと走り回る音を聞いて、外に居たメイド数名はいつも
!
﹂
﹁あ、そうやってまた隠そうとしてるでしょ。ダメですよ、情報の共有は最優先でしな
﹁なーにもないですよー﹂
139
タブラはそう言ってヘロヘロの近くへと湯船に浸かった。
ふぅ、と一息吐くのを待って、ヘロヘロは言う。
﹁今回のリフォームはお疲れさまでした﹂
﹁あぁ、いえいえ。こちらとしても、自由にさせてもらえて逆に礼を言いたいくらいです
から﹂
私はその辺に居そうな、平均的な顔にしましたが﹂
﹁そうですか。⋮⋮ところで、タブラさんは顔のデータ、誰をモチーフにしたんですか
﹂
﹁私ですか
か、こう、
そう言ったヘロヘロの顔を、タブラはじっと見つめる。確かに美形ではあるが、どこ
整して貰いました﹂
﹁あ、そうなんですか。僕は、前に見たカルネ村の人間をモチーフに、デミウルゴスに調
?
?
すけど﹂
﹁あれ、なんか変ですか
デミウルゴスが、長い時間真剣に考えて調整してくれたんで
そういやこの人、伝説の超社畜戦士だったなぁと、タブラは心の中でしみじみ思う。
悲壮感というか、全体的に死にかけな表情だったのだ。
﹁︵なんか、顔が死んでる⋮⋮︶﹂
つかの間の平穏
140
?
少しだけ不安そうに、自分の顔を手でペタペタと包むヘロヘロに、タブラは手を横に
振って誤魔化した。
﹂
?
﹂
﹁ははは。まぁ、気持ちは分からんでもないですが⋮⋮。タブラさんはどうするんです
﹁結構居ますねぇ。守護者がまた喧しくなりそうだ﹂
ね﹂
﹁今のところの立候補は、ウルベルトさん、たっちさん、餡ころさん、モモンガさんです
﹁ほぅ。メンバーは誰々ですか
﹁そういえば、そろそろ本格的に動くらしいですね﹂
て言った。
御愁傷様、とデミウルゴスの顔を思い出しながら祈っていると、ヘロヘロが伸びをし
﹁︵どんなにしても表情が死ぬんだから、デミウルゴスは相当焦ったろうな⋮⋮︶﹂
141
﹂
?
﹁僕はまだ休みたいです。申し訳ないとは思うんですけどね⋮⋮﹂
ヘロヘロさんは
﹁私は色々としたいことがありますからねぇ。しばらくはナザリックでお留守番です。
言った。
湯を両手ですくい、顔を洗う。じんわりと暖めてくれる湯に頬を弛ませて、タブラは
?
﹁いや、休めるときには休んだほうが良いですよ﹂
特に貴方は、とタブラは口には出さず言った。
言ったことは本心だ。別に冒険がどうでも良いとは思わないが、かといってやりたい
ことを我慢するつもりもない。
﹁まぁ、オンオフを大事に、やるべきことをやりましょう﹂
﹁そうですねぇ﹂
﹁では、お先に﹂
風呂から上がり、さっさと身支度を整えると、タブラは指輪を起動する。
﹁あ、乙です﹂
目指すは、ニューロニスト・ペインキルが居る拷問部屋。
﹁さーて、質問には回数制限がある、それを踏まえた上での情報収集⋮⋮か。俺の種族っ
て記憶の吸出しも可能なのかね﹂
ラは転移していった。
︻ブレインイーター︼である自身の種族を思い出しながら、お仕事お仕事、と呟いてタブ
つかの間の平穏
142