「考える (THINK)」 ! 大阪大学名誉教授 城田靖彦 考える力を育むことは、近年の大学教育のみなならず中・初等教育においても重要なキー ワードの一つである。新書 「人生を面白くする 本物の教養」(出口治明著、幻冬舎)に 「自 分の頭で考えられることが教養」 との記述がある。この当たり前の、だが人間の精神活動の 根幹をなす 「考える」 ということを私自身が強く意識するようになったのは、留学がきっかけ であった。 私は助教授のときに、米国カリフォルニア州にある IBM 社 San Jose 研究所 (現 Almaden 研究所)に博士研究員として 1974 年 7 月から 1 年間留学する機会を与えられた。今の感覚で は遅い年齢である 34 歳で初めて飛行機に乗って海外の地に足を踏み入れた。 研究所では 個室のオフィスが与えられた。親しくなった何人かの研究者のオフィスの机上に 「THINK」 の標語が掲げられていたことは、私に強い印象を与えた。 1986 年 4 月教授に昇進して研究室を主宰するようになってから 2003 年 3 月に定年退官す るまでの 17 年間、新しい大学院生と学部卒研学生を研究室に迎えた毎年 4 月に、IBM 研究 所で見た 「THINK」 の標語のことに触れながら、 研究を行うにあたって 「自分の頭で考え る」、「研究を楽しむ」、「全力を尽くす」 ことが大切であるということ、そして、これらのことは社 会に出て仕事に就いた場合にもあてはまるということを研究室全員に情熱をもって語った。 2003 年 4 月から 10 年間勤務した福井工大においても、自分の頭で考える習慣を身に付けて ほしい旨をいろいろな機会に話した。 グローバル化した今日の社会で起きている国内外の様々な問題について、 一つのメディア の論調を鵜呑みにしたり風潮に追随したりではなく、 いろいろな情報を基に自分の頭で考え、 判断することが各人に求められている。 留学時に IBM 研究所員の机の上に置かれていた標 語 「THINK」 は、40 年を経た今も脳裏に焼き付いている。 (平成 28 年 1 月 1 日)
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