fate/faker oratorio ID:70147

fate/faker oratorio
時藤 葉
︻注意事項︼
このPDFファイルは﹁ハーメルン﹂で掲載中の作品を自動的にP
DF化したものです。
小説の作者、
﹁ハーメルン﹂の運営者に無断でPDFファイル及び作
品を引用の範囲を超える形で転載・改変・再配布・販売することを禁
じます。
︻あらすじ︼
││││これは贋作者の聖譚曲
という妄想小説です
※これはもし士郎が凛に助けられずに死んでしまい、そのままオラ
リオに転生してしまったら
※設定はかなり緩いので基本的にご都合主義です
?
悪戯好きの神 │││││││││││││││││││││
運命の夜は訪れない │││││││││││││││││││
1
目 次 神の恩恵 ││││││││││││││││││││││││
4
ステイタス │││││││││││││││││││││││
ロキ・ファミリアのブラウニー ││││││││││││││
同調開始︽トレース・オン︾ │││││││││││││││
似た者同士 │││││││││││││││││││││││
9
15
24
34
40
運命の夜は訪れない
何故こうなったのだろうか、そう思考を巡らせる。
今の今まで、特にいつもと変わりない日常を過ごしていたはずだ。
それが今となってはどうだろう。
おおよそ人間とは思えぬほどの槍使いに胸を一突きされ、虫の息。
全身と思考の隅々までが死の気配に覆い尽くされている。
そう遠くないうちに命の灯火が燃え尽きると、確信さえできる。
嫌だ、死にたくない、死にかけの我が肉体はそんな命乞いの言葉す
らも発してくれない。
せめてもの抵抗として、心中で叫び続ける。
死んではならない、と。
月明かり照らす夜に、養父に誓った言葉が思い出される。
││しょうがないから、俺が代わりになってやるよ。
││爺さんはオトナだからもう無理だけど、俺なら大丈夫だろ。ま
かせろって、爺さんの夢は││
そうだ、正義の味方になる、ならねばならない。
それが衛宮士郎という男の使命なのだ。
あの日を生き延びた者として、自分の死が無意味であってはならな
い。
狂おしいほどの悔恨と絶望、しかしそれすらも死という理が押し潰
す。
やがて死は全身を満たし、思考を侵し、命の灯火を消し去った。
││││この世界に運命の夜は訪れない、あるのは衛宮士郎という
男の死のみだった。
まず最初に感じたのは、暖かさだった。
それは柔らかなベッドで暖かな毛布に包まれて寝ていると錯覚し
1
てしまうような、甘美な感覚。
そしてゆっくりと、微睡みから覚める。
まず最初に思い出したのは死の記憶だった。
確かに自分は死んだはずだ。
青く、人間とは思えない超常の力を持つ槍使いの男に無様に殺され
た。
生きたいと願った、生きることが自分の使命だった、だというにも
関わらず現実は自分に死を齎すのみだった。
では、今感じている感覚は何なのだろうか。
生憎と天国などというものは信じていない。
よしんばあるとしても自分が行くのは地獄だろうから、少なくとも
死後の世界という類のものではないだろう。
ああ、何も難しい話ではない。
五感があるのならば、何かの要因で生き延びたということに違いな
い。
ならばするべきことは単純、目を開けば良いのだ。
目を開いた先にあるのが、自室の天井か、病院の天井か、何なのか
はわからないが。
とりあえず助けてくれた人に礼をしなければならない。
最初に視界に映るのは、何だろうか。
できれば自室か保健室の天井出会って欲しいが、おそらくは病院の
天井だろう。
早めに体を治さなければ藤ねえに怒られるな、なんてことを考えつ
つ、ついに目を開く。
フェイカー
││視界に写ったのは、眼前で自分を見つめる並外れた美貌の緑髪
の美女だった。
﹁⋮⋮なんでさ﹂
﹁ふむ、意外と元気そうだな﹂
││││これは神々住まうオラリオの地に降り立った、贋作者の
2
オラトリオ
聖譚曲である。
3
悪戯好きの神
﹁出身は聞いたことのない国、神々は架空の存在だと思っていた、オラ
ナイン・ヘル
リオという都市はもちろんダンジョンの存在も知らなかった、か﹂
﹃九魔姫﹄リヴェリア・リヨス・アールヴはそう呟くと、ため息をつ
いた。
目覚めた後、眼前の美女はリヴェリア・リヨス・アールヴと名乗っ
た。
そして同時に自らをエルフである、とも。
その後、何らかの単語を挙げてこの言葉を知っているかなどの質問
をしてきた。
その結果が先ほどの呟きとため息、というわけだ。
ロ
キ
4
そして彼女は体の調子を確認すると、こう切り出した。
﹂
﹁さて、君は血まみれで倒れてたところを我らが主神が拾ってきたわ
けだが、何故血まみれで倒れていたのか説明してもらえるか
﹁何故、ですか⋮⋮﹂
昨夜の記憶がよみがえる。
刹那の間の出来事だった。
目にも留まらぬ速さで突き出された槍に胸を一突き。
逃げ惑おうとした時には、既に槍が心臓を貫いた後。
同時に、出血の原因となりそうな傷は既に無かったとも言っていたん
・・・・
﹁││主神は君を見つけた時、血まみれだったと言っていた。しかし
リヴェリアはそういった後、だが、と言葉を続けた。
はなる﹂
﹁ふむ、なるほど。確かにそれなら君が血まみれで倒れていた理由に
うとした瞬間に、槍で胸を貫かれたことだけ﹂
﹁⋮⋮襲われたんです、常識はずれの槍使いに。覚えてるのは逃げよ
れないに違いない。
血と死の気配が全身を冷たく覆っていくあの感覚はきっと忘れら
?
だ。当然胸を槍で貫かれた痕は無く、私達が君にしたのは治療ではな
く体を清潔な布で拭いたことくらいのものだよ﹂
それは一体、どういうことなのだろう。
確かにあれは致命傷だった、今生きているのが信じられないくらい
に。
だから、治療を諦めてしまいそうな程の傷を負っていたというのな
らわかる。
しかし血まみれであったという点を除けば五体満足だったという
のは、到底理解の及ぶ範疇ではない。
リヴェリアに対して、と言うよりかは思考を整理するために頭を振
る。
﹁⋮⋮ 少 な く と も、俺 に そ の 理 由 は わ か り ま せ ん。覚 え て い る の は
さっき言ったところまでです。それ以上は俺の知らない外部からの
何か、としか答えようがありません﹂
を開けたのは、赤髪で糸目の女性だった。
﹂
﹁⋮⋮毎度のことながら、もう少し静かに入ってくることはできない
のか
﹂
?
﹁⋮⋮まぁ、概ね言う通りだったな。信じがたくはあるが、話を聞いて
より、どうだったんや
﹁別にえーやんかー、そんぐらいでお小言言われたくないわ∼。それ
?
5
﹁確かに知らぬうちに胸の傷がふさがっていた以上、外部からの干渉
以外にはありえないか。では次だ、君はオラリオという都市を知らな
﹂
いと言った。しかし君が倒れていたのはオラリオの道端、君は一体ど
こで襲われた
﹂
﹁││││お∼すっリヴェリア、さっき拾ってきた男の様子はどうや
﹁﹃ガッコウ﹄、か⋮⋮。それは││﹂
じゃないし、ましてやオラリオなんて都市の中じゃありません﹂
﹁俺 が 襲 わ れ た の は 俺 が 通 う 学 校 の 校 舎 で す。道 端 で 襲 わ れ た わ け
?
リヴェリアの言葉を遮るようにけたたましい音を響かせながら扉
!
やっぱりウチの直感は間違ってへんやったろ
みた限りでは同意見だ﹂
﹁せやろ∼せやろ∼
﹂
の知れた仲なのだろう。
?
﹁││││お前、異世界人やろ
そう、断言された。
﹁⋮⋮⋮⋮はぁ﹂
しているのはほぼ間違いない。
﹂
それでいて会話ができているのだから、自分の知らない何かが介在
えないものだった。
あまり意識はしていなかったが、唇の動きはおおよそ日本語とは思
眼前の女性二人と円滑に会話を交わせていることに対する違和感だ。
強いて根拠を挙げるとすれば、とても日本語が話せるとは思えない
しかし、やはりここは異世界なのだろう、と漠然と感じていた。
ものが何もない。
否定するには今の状況は不可解な点が多く、肯定するには決定的な
ずもない。
異世界人かどうか、などといきなり聞かれたところで答えられるは
!
こちらの言葉を遮り、ビシッと指を刺され││
﹁あーそういうのはええから、そんでエミヤ、一つ確認や﹂
﹁衛宮士郎といいます、助けてもらって⋮⋮﹂
がら名を名乗る。
名乗られてすぐに名乗り返すべきだったと、少し申し訳なくなりな
言われて気づいたが、リヴェリアにも名を名乗っていなかった。
などと考えていたら、彼女の矛先は急に自分の方に向けられた。
﹁││そんで自分、名前は何ていうん
﹂
鬱陶しそうにしてはいるが邪険にしないあたり、リヴェリアと気心
性。
突然現れては、エセ関西弁で嵐のようにまくし立てる見知らぬ女
!
少なくとも、ここが自分の常識が通用するような場所ではないのだ
6
!
ろう。
ならばここは異世界、仮に異世界でなくとも異世界並に自分の知ら
ない世界ということになる。
だがしかし、どう返したものだろうか。
片や興味深そうに、片や呆れるように、こちらを見つめているが、両
者とも冗談を言っている雰囲気ではなかった。
助けてもらった恩もあるのだ、正直に話してしまうのが誠意という
ものだろう。
そう結論づけ、考えをまとめるようにゆっくりと口を開く。
﹁そう、ですね。話を聞いた限りでは、この世界は自分の知るものとか
け離れています。信じ難くはありますが、確かにここは異世界でしょ
う﹂
﹁⋮⋮嘘はついてへんみたいやなー﹂
糸目の女性は、安堵するようにそう言った。
7
なぜ嘘ではないと断言できたのだろうか、そもそも自分にも真実が
わからない以上嘘のつきようもないのだが。
﹁さっきの質問から察するに、確かにこの世界は君にとって異世界だ
ろう。少なくとも異世界と言って差し支えないほど、君の常識はここ
では通用しないはずだ﹂
その思考を遮るようにリヴェリアがそう告げた。
自分の考えていたこととほとんど同じだったこともあり、同意の頷
きを返す。
それにしても、奇妙なことは続けて起こるものだ。
死んだかと思えば、次は異世界。
地獄はともかく天国は信じていない身だが、ここは天国だと言われ
たら信じてしまいそうだ。
数瞬の沈黙の後、糸目の女性がちょっとええか、と話を切り出した。
﹁話がまとまったことやし提案があるんやけど、その前に確認や。こ
﹂
こはエミヤの知る世界やない、しかも常識まで違う。ということはこ
れから先生活していく方法は現状無いってことやろ
﹁⋮⋮その通りです﹂
?
﹁そこで提案や。エミヤ、ロキ・ファミリアに﹂
﹁待て待て、勧誘したいのはわかったが説明不足すぎる。とりあえず
自己紹介をして、詳しく説明をしてから勧誘するのが筋だろう﹂
﹁あー、確かにリヴェリアの言う通りや、自己紹介もせずにする話や無
かったな。ウチの名前は││﹂
眼前の女性は困ったような表情を浮かべながら頭をガシガシと掻
き、名を告げる。
・・
その名は、
﹂
﹁││ロキや。さっき言ったロキ・ファミリアの主神もしとる。よろ
しゅうなー﹂
﹁⋮⋮⋮⋮え
告げられたその名は、悪戯好きとして名高い、﹃神﹄の名だった。
8
?
神の恩恵
﹁ロキって⋮⋮あの悪戯好きの
﹂
﹂
られないくらい普通の女性としか感じられないことである。
そりゃ神の力
アルカナム
ただ疑問があるとすれば、目の前のロキからは神と言われても信じ
ろうが、なんとも不思議な気分だ。
ロキが目の前にいるのだからそうであってもおかしくはないのだ
るのかもしれない。
数多の神々、と言うと他にもゼウスであったりと他の神々も存在す
ぎはしない、と考えれば納得できる﹂
越した存在が神だ。世界が変わったところで神としての存在が揺ら
り立つオラリオにいると忘れてしまいそうになるが、常識を遥かに超
下界に降り立つことのほうがおかしいのだろうな。数多の神々が降
﹁そもそも神なのだからそうであっても不思議ではない、というより
知られてると思うと変な気分や﹂
﹁なるほど、そういうことがあるもんなんやなー。異世界の人間にも
在が目の前にいる、と考えれば混乱するのも無理はないか﹂
﹁確か君の世界では神は架空の存在⋮⋮という話だったな。架空の存
がいるんです。だからまさかその名前が出てくるとは思わなくて﹂
﹁いや、知っているというか、俺の世界の神話にロキって悪戯好きの神
前だ。
異世界の人間が自分のことを知っていたら、疑問を持つのは当たり
う。
それはともかく、問いに問いを返された形だがその質問は当然だろ
北欧神話における悪戯好きの神、それがロキである。
ロキ、神話などに詳しくない自分でも知っているほど有名な神だ。
驚きのあまり、考えが口に出てしまった。
でウチのこと知っとるん
﹁そうそう、でも実は悪戯より美女と美少女が好きなんや⋮⋮って、何
?
﹁あ、神なのに大したことなさそう、とか思ったやろ
!
9
?
ファ
ル
ナ
は封印してるけど、神の恩恵授けたりできるんやでー﹂
﹁⋮⋮もしかして、心が読めたり﹂
﹁今のは単純に表情から読んだだけや。嘘をついてるかついてないか
くらいはわかるけど、流石にそこまではできんなー﹂
そんなに顔に出ていただろうか。
表情から考えを読む洞察力もすごいが、嘘を判別できるというのは
やはりすごい。
下界に降りたことで神の力を完全に発揮できているというわけで
はなさそうだが、それでもやはり神ということなのだろう。
﹁さて、ここからは代わって私が説明しよう、ロキに任せると時間がか
かりそうだからな。⋮⋮さて、まず最初に説明しないといけないの
は、ダンジョンとモンスターの存在についてだろう。ここ、迷宮都市
オラリオはダンジョンというものが存在する。そしてこれがファミ
リアという存在にも関わってくるのだが、ダンジョンは凶悪なモンス
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ターの坩堝でな、放置しておけば地上は無秩序にモンスターで溢れて
しまう﹂
﹂
﹁ということは、ファミリアという組織の目的はそのモンスターを討
伐し脅威を退けること
英雄。
もの、果てには││英雄を志す者﹂
うもの達だろうが、名声を求めるもの、ただひたすらに強さを求める
﹁とは言え冒険者にも色々な目的がある。最も多いのは一攫千金を狙
ターの脅威を退けることができる⋮⋮﹂
﹁なるほど、お金目的でモンスターを討伐していけば、自ずとモンス
険者と呼ばれる存在の主な収入源になっている﹂
わけでこの魔石は換金することができて、ダンジョンに潜る者達、冒
で入手することができ、加工すれば資源として扱えるんだ。そういう
いうものがある。これはモンスターの生命の核であり、討伐すること
はほとんど建前のようなものだ。あらゆるモンスターが持つ魔石と
だとは言えないが、概ねその通り。⋮⋮と言いたいところだが、それ
﹁ダンジョンに一切潜らないというファミリアもあるから一概にそう
?
それは為した功績が伝説として語り継がれるほどの偉大な存在。
時に数多の人々を救い、時に凶悪な存在を討ち滅ぼし、時には世界
を救う。
それは目指してなれるようなほど、甘い存在ではない。
だが、この世界には英雄を志すものがいるという。
この世界には、英雄を志すに足る、何かがあるというのだろうか。
ファ
ル
ナ
英雄、その言葉に衝撃を受けた士郎の内心を知ってか知らずか、リ
ヴェリアは話を続ける。
﹁それを現実にしてしまうのが神の恩恵というものだ。神によって授
エクセリア
けられるそれは、授けられた者の能力を引き上げる。そしてモンス
ターの討伐など様々な経験によって得られる経験値を取得すること
で、能力はさらに高みへと引き上げられていく。極端な例だが、恩恵
があれば老若男女を問わず凶悪なモンスターの討伐を可能にする﹂
それは確かに文字通り、神の恩恵。
生身では考えられないほど、遥か高みに至るための権利、可能性。
ぞわりと、全身が粟立つ。
もし、その神の恩恵を得ることができれば││
﹁神の恩恵は主神によって眷属に与えられる。例えば君がロキ・ファ
ミリアに入るのであれば、ロキから授けられる、というようにね。と
は言っても神によって授けられる恩恵は全て等しく、そこに差はな
い。言ってしまえば恩恵が欲しいだけならどこのファミリアも変わ
らないんだ﹂
そしてリヴェリアは三本指を立てた。
﹁君 が 私 達 の フ ァ ミ リ ア に 入 る メ リ ッ ト は 三 つ あ る。一 つ は ロ キ・
ファミリアはオラリオの中でも最大規模の探索系ファミリアである
ということ。冒険者を志すというのならこのファミリアは他の追随
イ レ ギュ ラー
を許さないほど優れた環境だといえるだろう。二つめは君を厄介事
から守れるかもしれない、ということ。君は異世界人だ、そうである
以上娯楽に飢えた神からその事実を見抜かれれば厄介事に巻き込ま
れる可能性があり、そして現状の君はそれに対して自衛手段を持ち合
わせていない。ロキ・ファミリアの保有戦力は強大だ、故にロキ・ファ
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ミリアの眷属であるというだけで厄介事から身を守ることができる。
三つ目はこの世界で生きていく術を得られるということ。何も知ら
ない君ではファミリアを探すのも一苦労だ。もし君がロキ・ファミリ
アに入ってくれるというのなら、恩恵を授けたり、住処の提供だった
りと、少なくとも路地裏で野垂れ死ぬ、ということは無くなる﹂
﹁と、全部リヴェリアが説明してくれたけど、できればエミヤにはウチ
らのファミリアに入って欲しいと考えとる。と言うのもこのオラリ
オには目を付けられると厄介な神がおるんや、しかもそれなりの数
な。一部怪しいのがおるけど、それでもロキ・ファミリアってネーム
バリューはその大半の神を近寄らせないだけのもんや。ウチに入っ
てくれればいいけど、そうじゃなければ必ず厄介な騒ぎが起きる、し
かも結構な規模で、や。ウチはそれを望まない﹂
悪い話ではない、どころかメリットしかない話だと言える。
怪我はしていなかったというが、それでも命の恩人と言っていい人
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達からここまで言ってもらえているのだ。
これ以上世話になるのは心苦しくあるが、それ以上にこの勧誘を蹴
るとい選択肢はない。
﹁⋮⋮願っても無い話です。こちらこそ、よろしくお願いします﹂
頭を下げ、感謝の意を述べる。
﹁⋮⋮いやー、良かったわーそう言ってくれて。下手に遠慮されても
困る場面やったしなー﹂
﹁君のその選択を私は嬉しく思う、これで君も今から私達の家族とい
うわけだ。というわけで、家族なのだから当然私たちに敬語を使う必
要はない。私のことはリヴェリア、ロキのことはロキと、気軽に呼ん
でくれて構わないよ﹂
﹁そう⋮⋮か。わかった、よろしく、リヴェリア、ロキ。俺は衛宮士郎、
衛宮が姓で士郎が名前だから、士郎でいい﹂
あ、別にい
﹁な ん や、シ ロ ウ が 名 前 だ っ た ん か。よ ろ し ゅ う な ー シ ロ ウ。そ れ
じゃサクッと契約してしまうで、上着脱いでくれるか
や﹂
かがわしい意味とかはないで、背中にエンブレムを刻むためってだけ
?
女性の前で上着を脱ぐことに抵抗がないわけではないが、そうまで
言われて抵抗するのも申し訳ない。
羞恥心をなるべく意識しないようにしながら、上着を脱ぎ横にな
る。
﹁なんや、つまらんなー。まぁ女の子ならともかく男に変に抵抗され
ても面倒なだけやな﹂
イコル
ロキはサクッと、と宣言したとおりテキパキと契約を済ませる。
神血を与え、背中に道化師のエンブレムを刻み、裸で晒されている
ステイタスを隠蔽する。
ステイタスに特におかしい点はない、オールI0の基本アビリティ
とまっさらなスキル欄、誰もが同じの共通のスタートラインだ。
﹁ほい、これで契約はお終いや。明日は皆に紹介するから今日はもう
ゆっくり休みやー。あ、部屋はこれからもここ使ってもらうでー﹂
﹁では私も戻ろう、他のものはともかくフィンには話を通しておく必
要がある。明日時間になれば私が起こしに来るから、思う存分休むと
良い﹂
そう言って二人は部屋から出て行った。
﹁⋮⋮ふぅ﹂
ゆっくりと、そして長く息を吐く。
正直心の整理が付いているかと聞かれれば、そんなことはない。
死の記憶すら消化しきっていないうちに、これだ。
自分の知らない世界にいて、自分の知っている神がいて、話をして、
そして家族になった。
きっと自分はこれからこの世界で終わったはずの人生の歩みを再
開することになるのだろう。
目を閉じて、日本で生きた衛宮士郎という存在に別れを告げる。
過去の衛宮士郎は死に、今の衛宮士郎が生きている。
ならばこれからの人生はオラリオという迷宮都市で生きる衛宮士
郎のものだ。
死の直前まで諦めきれない願い、想いがあった。
一度死に、失ってしまったその想いを再び手につかむことはできる
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だろうか。
いや、何としてでも掴んでみせよう、あの誓いをなかったことにす
るのは衛宮士郎という存在には許されない。
だから。
﹁なれる、かな。この世界なら││﹂
││││正義の味方に。
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ナインヘル
似た者同士
﹃九魔姫﹄リヴェリア・リヨス・アールヴは、頭痛を抑えるかのよう
に額に手を当てていた。
﹁⋮⋮⋮⋮一体、何が﹂
眼前には、項垂れる料理長、料理をせっせと運ぶ士郎、揚げ物のよ
うな何かを頬張るアイズ。
﹁一体何があったと言うんだ⋮⋮﹂
﹂
﹁ははは、昨日君が言っていた新入り君は、もしかして料理人なのかい
﹂
﹁そんなわけあるか
悔しそうに拳を床に叩きつける料理長、本当に一人で作ったのかと
言いたくなるような量の料理を運ぶ士郎、我関せずとばかりにコロッ
ケを頬張るアイズ、額に手を当て呻くリヴェリア、楽しそうに笑う
フィン。
この状況は、まさに混沌としていた。
ことの発端は、士郎が厨房を訪れたことにあった。
目が覚めたはいいが時計がないので時間がわからず、さりとて二度
寝する気にもならず。
リヴェリアが来るまで待つか、それでもいつ来るかわからない以上
待つのも辛い。
しばらく迷った末、士郎は部屋の外に出るという選択をした。
迷いさえしなければ自分の部屋には戻ってこられるし⋮⋮と言い
訳をするかのように呟きながら立ち上がり扉を開け外に出る。
﹂
数分程さまよった後、士郎は料理の匂いをかすかに感じた。
﹁誰かが何か料理してるのか⋮⋮
?
﹂
匂いを辿った先は厨房、そこでは一人の男がせっせと料理を作って
新入りか
!
いた。
﹁何だお前
!
15
!
?
なら早く手伝え
﹁あ、ああ⋮⋮そうだ﹂
﹁そうか
﹂
!
﹂
ある食材使って何か作れ
わからないことあったら聞
!
そしてその少女は口を開く。
?
﹁そうだが⋮⋮何か用か
﹂
﹂
・・・
この少女もまた、士郎のことを厨房担当だと勘違いしていた。
﹁⋮⋮もしかして、新入りさん
﹂
似ている、と士郎は感じていた。
・・・・
│ │ そ し て 一 目 見 た 瞬 間、直 感 的 に こ の 少 女 は ど こ か 自分と
女であった。
そこにいたのは金髪と金色の瞳の恐ろしいほどに容姿の整った少
反射的にその方向へ振り向き、そして目を見開いた。
入ってきた。
無難に炒めもので良いかな⋮⋮などと考えていたら、誰かが厨房に
れていたので困惑はない。
いるが、一部知っているものもあったしわからないことは聞けと言わ
流石異世界というべきか、見たことのない食材や調理器具が並んで
ざっと食材と調理器具を眺める。
郎にとっては突然のことだったが特に不快感はなかった。
料理は士郎の得意分野であるし、そもそも料理を作るのが好きな士
を考えながら士郎は厨房に足を踏み入れる。
新入りは料理をしなきゃいけないのか⋮⋮などと見当違いなこと
新入りとしてその問いに肯定した。
それに対して士郎は、昨日入ったばかりだし⋮⋮と冒険者としての
聞いたつもりであった。
まず料理を作っていた男、料理長は厨房担当の新入りかどうか、と
今、この二人の間にはすれ違いが有る。
け
んだよ
﹁今日は買い出しの日だから残ってる食材を使いきらなきゃいけない
﹁あの、何をすれば﹂
!
!
﹁⋮⋮じゃが丸くん作れる
?
?
16
!
じゃが丸くん、とはアイズが好んで食べる芋料理のことである。
が、当然士郎はじゃが丸くんというものを知らない。
じゃが、からじゃがいも、もしくは芋を使ったものだと推測できる。
加えて丸、というからにはスライスしたりといったことはしないだ
ろう。
ということは。
﹁すまん、そのじゃが丸くんっていうのは作れない。コロッケなら作
れるんだが⋮⋮﹂
士郎の知る限り、最もその食べ物に近そうな料理はコロッケだっ
た。
﹂
見た限りコロッケに必要な食材や調味料はある。
﹁美味しいの
﹁得意料理ってほどでもないけど、作ったことはあるから問題ないぞ﹂
﹁じゃあ、お願い﹂
こうして士郎はコロッケを作り、出来上がったものをアイズと料理
長が食べ、アイズは表情を変えずに目だけ輝かせながらコロッケを頬
張り、料理長はその腕前に打ちひしがれ使い物にならなくなり、使い
物にならなくなった料理長の代わりに士郎が残りの食材を使い切り
せっせと配膳している。
というのが、リヴェリアとフィンの見た光景の真実であった。
﹂
よくわからない光景を前に、硬直していたリヴェリアだったが、い
つまでも固まっているわけにはいかない。
﹁⋮⋮あー、シロウ。君はもしかして料理人志望なのか
リヴェリアはチラリと、項垂れる料理長に視線を向ける。
⋮⋮﹂
担当だから、新顔を見れば勘違いするというのもわからなくはないが
あって、シロウは関係ない話だよ。まぁ人が入ってはすぐ辞める厨房
﹁そ れ は ⋮⋮ な る ほ ど。そ の 新 入 り、と 言 う の は 厨 房 担 当 の こ と で
て聞かれて、そうだって答えたら料理を作れ、と﹂
﹁あ、リヴェリア。⋮⋮いや、散歩がてら歩いてたら厨房で新入りかっ
?
17
?
料理人としてかなりの腕前を持つが、それ故に他の者に対する要求
が非常に高く、黄昏の館の料理人はすぐ辞めるというのが常識だっ
た。
ロキ・ファミリア全員分の食事を一人で賄えていた、というのも
あって役立たずは要らない、と豪語していた男なのだ。
それがこう、である。
綺麗に配膳された料理を見る限り料理長の仕事ではなく、また素人
仕事でもない。
つまり、これらを作ったのは士郎だということになる。
まさか士郎は本当に料理人か何かだったのか⋮⋮などと思考が傾
きかけたところで頭を振る。
﹁と に か く、勘 違 い が あ っ た と は い え こ ん な こ と を さ せ て 申 し 訳 な
かった﹂
﹁いや、勝手に歩き回ったの俺が悪いし、料理は好きだから構わない。
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口に合えばいいんだけどな﹂
料理長があれほどのリアクションをしているのだから、士郎の腕前
も相当なものだと伺える。
一体どれほどのものか、気になりかけていたところでようやく笑い
が収まったのか、フィンが士郎に話しかける。
﹁やぁ、はじめまして。君が新入りのシロウ・エミヤ君かな。僕はフィ
ン・ディムナ、このロキ・ファミリアの団長だ。僕のことはフィンで
も、団長でも、好きな様に呼んで構わないよ。最も、ほとんどの家族
が僕を団長と呼ぶけどね。シロウ、と呼ばせてもらってもいいかい
﹂
もぐもぐとコロッケを頬張っていても、神秘性こそ薄まるが欠片も
た。
アイズ、と呼ばれた少女はコロッケを食べる手を止めずにそう言っ
﹁ん、アイズ・ヴァレンシュタイン。アイズでいい﹂
イズ、ほら﹂
﹁で、どうせアイズのことだから自己紹介してないんだろうな⋮⋮ア
﹁ああ、構わない。よろしく、団長﹂
?
魅力を損なわないというのは流石の美少女っぷりである。
﹁さて、もう少しで家族が全員ここに集まる。偶然にも君が作った料
理で歓迎会、ということになりそうだ。自己紹介の挨拶を考えておい
てくれ、と言っても当り障りのないもので十分だけど。⋮⋮それと僕
は君の﹃事情﹄を聞いている。なるべくその事情は大っぴらにしない
でくれると助かる、僕やリヴェリアでフォローするから困ったことが
あれば言ってくれ﹂
﹂
﹁よーし、そろそろ皆集まったかな。それじゃ今日は一つ知らせるこ
とがある。││僕らのファミリアに新しい家族が加わった
いつもと様子の違う料理に、多くの団員が興味津々になっているの
に内心苦笑しながら新しい家族の歓迎を告げる。
士郎の方に視線を向けると、小さくうなずいて立ち上がり、こちら
の方へ歩み寄ってくる。
団員の視線が彼に集中するが、あまり緊張した様子もない。
﹁││シロウ・エミヤだ。今日から、よろしく﹂
衛宮士郎、と名乗るか一瞬迷ったが、どうやらこの世界では名を先
に持ってくるのが正しいと気がついていたため、そう名乗った。
挨拶ごとはあまり得意ではないため硬いものになってしまったが、
歓迎を表す拍手や声が聞こえてきていることから受けは悪いもので
はなかったようだ。
料理長が認めるほどの腕前
厳密には料理長は一度もシロウの腕前を認めたことはないのだが、
あのリアクションからして認めたと言っても嘘にはならないだろう。
新人の紹介が終われば後は飲めや歌えやどんちゃん騒ぎである。
朝食ということもあって流石に酒を飲むものはいないが、今まで食
べたこともない美味な料理に皆舌鼓を打つ。
﹁さて、全員とはいかないけど幹部メンバーとは顔合わせをしておこ
19
!
﹁そして今日の料理がいつもと違うことに気づいてる者も多そうだけ
﹂
ど、今日の料理はこのシロウが作った
らしいから、ぜひ味わってくれ
!
そしてフィンがそう告げると、先程より二段ほど上の歓声が響く。
!
﹂
うか。ロキとリヴェリア、僕とアイズは終わってるから⋮⋮ティオ
ネ、ティオナ
﹂
フィンがその名を告げると、はーいという返事とともに二人の少女
がやってきた。
﹁ティオネ・ヒュリテ、よ。よろしくね﹂
﹁ティオナ・ヒュリテだよー。それにしてもこの料理美味しいね
双子らしき二人の少女はそう名乗った。
となしく厨房にひっこんでろ﹂
﹁⋮⋮ふん、ベート・ローガだ。飯はうめぇが、雑魚に興味はねぇ。お
﹁後は⋮⋮お、丁度いいところに。ベート、新入りのシロウだ﹂
れば士郎の料理の評判は上々であった。
リアは主神の影響もあり女性が多くの割合を占めるため、総合的に見
とは言え士郎の料理は女性陣には非常に評判がよく、ロキ・ファミ
うが好ましかっただろう。
味の濃い料理に長けており、ガレスにしてみればそういった料理のほ
この土地の文化によく馴染んでいる料理長は、その豪快で油っぽく
が多いオラリオにおいて、少々繊細過ぎた。
士郎は和食を得意とする分、豪快で油っぽく味の濃いものを好む者
じゃのう﹂
料理、美味いことには美味いが、食っとる気にならんのがちと残念
キ・ファミリアでも最古参ということになるかの。それにしてもこの
﹁シロウ、と呼ばせてもらおう。儂はガレス・ランドロック。一応ロ
次にやってきたのは、老齢の大男である。
た。
しておこう、と士郎はそんなことを考えながらよろしくとだけ返し
思い当たり、そのうちエルフだったりアマゾネスが実在するのか確認
そう言えばリヴェリアもエルフっぽかった気が⋮⋮ということに
せる。
眩しいくらいの肌の露出と褐色の肌は、まさにアマゾネスを連想さ
!
態度こそ悪いが、実はベートのこのリアクションはまだマシな方で
ある。
20
!
雑魚に興味はない、というスタンスだが料理が彼の好みに合ったと
いうこともあり、強さを求めるが故にダンジョンがどれほど危険な場
所かよく知っている彼からすれば、厨房に引っ込んでろと言うのは危
険な場所にいく必要はないという、わかりにくすぎる欠片の善意で
あった。
﹁⋮⋮まぁ、口こそ悪いけど根は悪いやつじゃないから﹂
フィンは苦笑いをしながら、ベートのフォローをする。
口や態度が悪い、と言うのは皆が知るところであるが、根は悪いや
つではない、と言うのもまた同じだった。
強さに非常に拘りを見せ、弱者を馬鹿にする言動も多いが善意を持
ち合わせていないわけではない、というのを長い付き合いから知って
いるのだ。
こうして主立ったメンバーの紹介が終わり、フィンと士郎も食事に
戻る。
21
そしてしばらくして、ほとんどのメンバーが食べ終わった頃を見計
らってフィンは大きく手を鳴らす。
﹂
﹁さて、皆食べ終わった頃だし、そろそろシロウに誰が付くかを決めよ
うと思う
その手の持ち主は、﹃剣姫﹄アイズ・ヴァレンシュタイン。
そんなフィンの考えを遮るように、一本の手が挙がった。
が。
事情を知る自分とリヴェリアでフォローをしよう、と考えていたのだ
要するにフィンはLV.3あたりの指導に長けた冒険者を付けて、
ういうことを申し出ないから、というのがあった。
一級冒険者を付けるのは角が立つ、と言うのもあるが彼らは自らそ
ういう役割を担当するのは基本的にLV.2∼3の者たちだ。
とは言え、多数の高位冒険者を抱えるロキ・ファミリアと言えど、そ
係として付けるのが通例だった。
そういうこともあってロキ・ファミリアでは新人にベテランを指導
員は非常に豊富である。
零細ファミリアであればともかく、ロキ・ファミリアともなれば人
!
ガヤガヤとしていた雰囲気から一変、シンと食堂が静まり返る。
全団員の視線を一身に受け、アイズはこう言い放った。
﹂
﹁││シロウの面倒は、私が見る﹂
﹁リヴェリア、どうしたの
﹁ど う し た も 何 も、ア イ ズ が 何 故 あ ん な こ と を 言 っ た の か 聞 こ う と
思ってな﹂
アイズのあの発言は、当然大きな騒ぎとなった。
一級冒険者、それも﹃剣姫﹄が自ら新人の面倒を見るといったのだ
から、当たり前である。
もっとレベルの低いものが面倒を見るべきだとか、それよりも自分
のことを優先するべきだなどと様々な説得を受けたが、その全ての説
得を﹃最近ステイタスの伸びも悪いし、少し間を置こうと思っていた
からちょうどいい﹄という言葉一つで突っぱねた。
説得の言葉はどれも正論ではあったが、本人がここまで言うのであ
れば拒否するのも難しい。
仕方が無いのでフィンによる﹃フォローにもう一人付ける﹄という
妥協案で一応の解決と相成ったのだった。
とは言え、リヴェリアを始めとした一部の者達はそれが建前であ
る、と勘付いていた。
そう言った面々の代表として、リヴェリアがアイズの部屋を訪ね
た、というわけである。
﹁⋮⋮さっき言った通り﹂
﹂
﹁ではない、ということくらいは流石にわかっている。別に言いふら
そうと言うわけでもない、話してくれないか
なおさらダンジョンに篭もりきりになり、間違っても間を置こうとい
そういうアイズのことであるから、ステイタスの伸びが悪くなれば
認識であった。
誰かが見ていないとひたすらダンジョンに潜り続ける、それが共通
アイズの強さに対する執着は皆が知るところである。
?
22
?
う発想になるはずがないのである。
﹁⋮⋮別に、大したことじゃない﹂
・・
・・・・
アイズはそう前置きして、リヴェリアに本心を告げる。
﹁││ただ、シロウは私と似ていると、思ったから﹂
23
同調開始︽トレース・オン︾
﹁ゲホッゲホッ⋮⋮これは、ちょっと﹂
﹁コホッ⋮⋮やっぱり埃っぽいね。まぁ仕方が無いか﹂
士郎とフィンは二人して咳き込む。
二人は、団員たちの不要になったお古の装備、衝動買いしたはいい
が使わなかった装備、単純なガラクタなどなど、様々なものが詰め込
まれた倉庫に来ていた。
最近使われてないことや大半がガラクタであることが相まって、こ
の倉庫は非常に埃っぽい。
﹁⋮⋮手入れをすれば使えないことはない装備ばかりのはずだから、
これはと思うものがあったら選んでくれ﹂
異世界からやってきた士郎であるから、当然武器を持っていなけれ
24
ばお金、もといヴァリスの持ち合わせが有るわけもない。
というわけでファミリアで自由に使っていいとされている物が集
まった倉庫に来たわけだが、あまりのガラクタばかりの有様に、連れ
てきた当人であるフィンも微妙に不安になっていた。
一方の士郎だが、どことなく実家の土蔵と似た雰囲気を感じ取って
いてため、フィンが思っているよりはこの場所に好感触を抱いてい
た。
それと同時に魔術の鍛錬を欠かしていたことを思い出し、いい加減
再開しないと、と決意を固めながら言われた通り扱えそうな装備を漁
る。
﹁ここにあるものならどれを選んでも構わないけど⋮⋮アイズは﹃剣
﹂
姫﹄だからね、剣がいいかもしれない﹂
﹁﹃ケンキ﹄⋮⋮
にはLVがどうこう言ってもわかりにくいか。そう遠くないうちに
モンスターには引けをとらない剣の使い手だよ。⋮⋮と言っても、君
ど最高位に位置するLV.5の冒険者だからね。生半可な冒険者や
﹁そう、剣の姫と書いて剣姫。アイズはあれでもオラリオでもほとん
?
体験することになるだろうから楽しみにしておくと良いよ﹂
ファ
ル
ナ
あのコロッケを無表情で頬張っていた少女が凶悪なモンスターを
相手取る様子は想像できないが、それを可能にするのが神の恩恵なの
だろう。
リヴェリアが言っていた、
﹃極端な例だが、恩恵があれば老若男女を
問わず凶悪なモンスターの討伐を可能にする﹄という言葉を体現して
﹂
いるのが、あのアイズ・ヴァレンシュタインという少女であるという
ことだ。
﹁これは⋮⋮弓
フィンの話を聞きながら倉庫をあさると、若干古ぼけてはいるが使
われた様子のない弓が出てきた。
﹁ああ、それは⋮⋮確か誰かは忘れたけど、衝動買いしてきた弓だね。
﹂
結局使わなかったらしくてすぐに倉庫に放り込んだって言ってたっ
け。使うのかい
﹁そうだな⋮⋮弓の経験がないわけでもないからな。もっとも、弓の
種類は違うみたいだからあてにはならないけど﹂
弓道の経験があるため、弓という選択もそう悪いものではないだろ
う。
しかし使用経験があるのは競技用の和弓であって、今手に持ってい
る実戦用の洋弓ではないため、慣れるのに時間は掛かりそうだが。
﹁経験があるなら、それもいいね。⋮⋮っと、この剣はまぁまぁ良さそ
うだ。早いうちから弓一本に絞る必要も無いし、せっかくアイズが面
倒を見てくれると言うんだからこれも持っていくといいよ﹂
そう言ってフィンは一振りの剣を差し出す。
ずっしりとした重量はともかく、長さや柄から見て竹刀と似た要領
で扱えそうな長剣である。
真剣を振るうということに抵抗がないわけではなかったが、要領が
全く違いそうなナイフや片手剣を渡されても困りそうだと、士郎はそ
の剣を受け取った。
目的のものは一応手にとったが、できれば強化魔術の練習用に幾つ
かガラクタを確保しておきたいと考えフィンに声をかける。
25
?
?
﹁ここにあるガラクタ、幾つか適当に持っていっても構わないか
﹂
どと考えていた。
﹁それで、アイズ。これから何を始めるんだい
﹁ん、ひたすら模擬戦﹂
﹁⋮⋮そんなことだろうとは、思っていたよ﹂
﹂
﹂
感じ取った士郎は、学校の授業より大変じゃなければいいんだが、な
その笑みから何となくだがかなり厳しいんだろうな、ということを
を押すフィン。
どこか同情するような笑みを浮かべながら、覚悟しておくことを念
て言うのかな、覚悟をしておくように﹂
レッスンをするそうだ。夕食後に部屋を訪ねるそうだから、その、何
もダンジョンやモンスターについての知識がなさすぎるからね、個人
ところに⋮⋮っと、そう言えばリヴェリアから伝言だ。君はあまりに
﹁そうか、まぁ好きにしてくれて構わない。じゃあそろそろアイズの
﹁いや、大したことじゃない。個人的な鍛錬にな﹂
んだい
誰も文句を言わないからね。でもガラクタを持っていって何に使う
﹁ああ、構わないよ。ここにあるものなら何を持っていったところで
?
問題はLVの差である。
の対戦経験を学べるという観点から正しくはあるんだけど⋮⋮﹂
きる技術。技はそれらを身につけてからの話だから、模擬戦は格上と
﹁いや、確かに間違ってはいない。新人に大事なのは基礎と経験の生
つまりはそういうことである。
ちなみにアイズは新入りの面倒を見た経験というものが一切ない、
は、フィンの問いにそう答えた。
剣こそ身につけてはいないが、簡易的な防具を身にまとったアイズ
?
士郎は契約したてのステイタスオールI0に対し、アイズはLV.
5の高位冒険者。
26
?
しかもアイズは前衛型のステイタスであるため、下手をすれば目を
閉じていても無傷で完勝できる程の差だ。
無論それでは意味が無いため十分な手加減が必要となるし、愛剣で
あるデスペレートを持ってきていないということは、流石にアイズも
それくらいは意識しているのであろうことはわかる。
だが今の状況は、ちょっと手加減を間違ったアイズの蹴り一発で士
郎が気絶してもおかしくない。
いささか、と言う言葉では済ませられない程不安なフィンではあっ
たが、あのアイズが自ら新人の面倒を見ると言ったのだ。
団長として水を差す真似はしたくない、というのがフィンの本心で
あった。
﹁そう、か⋮⋮。じゃあ、僕は見守っておくことにしよう﹂
しかし当事者である士郎が心配であるのもまた本心であるので、せ
めて何かあったら対応してやれるよう近くにいることにするフィン。
27
その言葉にアイズは無言でコクリと頷き、視線を士郎へと向ける。
﹁じゃあ、はじめようか。鞘から抜いて大丈夫だよ、邪魔だろうし意味
ないから﹂
アイズはまず剣を鞘から抜くことを促す。
邪魔だというのは実戦で使う時は抜身なのだから邪魔という意味
であり、意味が無いというのはどうせ真剣でも当たりはしないのだか
ら意味は無い、ということである。
当然士郎の方は、はいそうですかという訳にはいかない。
己の倫理観に従えば、人に、それも女性に向かって真剣を向けるな
﹂
どありえないことだ。
﹁││││っ
きっとアイズは自分のことを歯牙にもかけておらず、士郎の振るう
世界が、常識が違うのだと、今この瞬間はっきりと思い知らされた。
りとも与えられる存在ではないのだと。
否が応でも理解してしまう、この少女は己の力量では絶対に一撃た
よって吹き飛ばされる。
だが、その考えも眼前の少女から放たれる圧倒的な闘気と存在感に
!
剣が自分に当たる事は無いと確信しているだろうし、その確信はほぼ
確実に正しい。
絶対的な差。
これがフィンの言っていた、オラリオでも最高位に位置する実力を
ファ
ル
ナ
誇る﹃剣姫﹄アイズ・ヴァレンシュタインの力の一端なのだろう。
この少女をこれほどの高みに押し上げたのは、きっと神の恩恵だ。
そして今、自分には同じものが宿っている、この少女と同じだけの
高みに至るだけの可能性がある。
意識を切り替える。
眼前に立っているのは、少女ではなく圧倒的な格上の存在である
と。
模擬戦といえど今の力量差では決して敵うまい、しかしそれは全力
を尽くさぬ理由にはならない。
今はまだ弱い、ならば強くなるために努力を積み重ねよう。
努力など今までずっと続けてきたことだ、それを後押ししてくれる
存在があるのならばより一層励むことができる。
だからこれは、最初の一歩だ。
そんな想いを秘めた、正眼の構えから放たれた士郎の一撃がアイズ
に迫り││
││││その一撃の結末を見届けること無く、士郎は意識を失っ
た。
﹁⋮⋮手加減、間違えた﹂
﹁ああ、うん、全く嬉しくないけど完璧に予想通りだ﹂
原因は当然というべきか、手加減を間違えたアイズの蹴りによるも
のであった。
それから二人の手によって介抱された士郎は程なくして目覚め、模
擬戦を再開しては蹴り飛ばされ意識を失い、介抱されては目覚め、の
繰り返しを夕食まで続けた。
果たして実になっているのか傍目には非常に分かり辛い訓練内容
28
ではあったが、士郎は満足したようだ。
そして夕食時にはアイズにコロッケを強請られ作ったり、料理長に
料理を教えてほしいと土下座されたり、夕食の準備を手伝ったりとい
うことをこなしながら、ようやく一日の用事を全て終えたのだった。
士郎は部屋に戻り、そして今朝倉庫から持ってきた幾つかのガラク
タを手に取る。
今から行うのは、切嗣が死んでから五年間ひたすら続けてきた魔術
の訓練である。
基本となる骨子を解明し、構成する材質を解明し、構成する材質を
補強する、強化の魔術。
成功率はゼロに等しいが、やはりそれは鍛錬を欠かす理由にはなら
ない。
そしていつもの通り実行しようとした瞬間、士郎は小さい、しかし
到底無視できぬ違和感に気づいた。
・・
29
その違和感は気づいた瞬間から肥大化し、そして数秒の後に違和感
・・・・
の正体に士郎はたどり着いた。
﹁⋮⋮在る。魔術回路が、在る﹂
衛宮士郎にとって、魔術回路とは魔術を使うたびに一から作り直す
ものである。
それは常識とはかけ離れた考えでありかなり危険なものだったが、
魔術師以下の半人前である魔術使いの士郎にとってはそれが常識
だった。
要するに魔術回路が既に在る、と言うのは士郎にとって明確な異常
である、ということだ。
﹂
その原因を探ろうと思考の海に沈み込もうとしたその意識を、コン
コンというノックの音が繋ぎ止める。
﹁リヴェリアだ、開けても構わないか
その音の主はリヴェリアだった。
魔術の訓練に意識が向いていて忘れていたのだ。
言っていたことを思い出す。
そう言えば、とフィンが個人レッスンをしにリヴェリアが来ると
?
了承の意を返すと、ゆっくりと扉が開かれリヴェリアが入ってく
る。
﹁フィンから話は聞いていると思うが、主にモンスターの知識を身に
付けるためにこれからある程度の期間、授業のようなものを設けたい
と思っている。低階層であっても知識の有る無しで生存率は違って
﹂
くるし、この世界の常識に精通していないシロウには確実に必要なも
のだからな。⋮⋮それで、手に持っているガラクタは何だ
﹂
﹁﹃マジュツ﹄⋮⋮
﹂
﹁ああ、わかった。⋮⋮これは、魔術の鍛錬に使うんだ﹂
外の者には決して話さないと誓おう﹂
﹁場合によってはロキとフィンには話すことになると思うが、それ以
んだが⋮⋮﹂
﹁いや、いい。ただできればあまり人には言わないでくれると助かる
てもらっていたほうが良い。
いざという時に隠していました、なんてことになるより事前に知っ
そんなリヴェリアにまで隠すというのは、不義理だろう。
ることになる。
しかし命の恩人であり、かつ自分の事情を知っていてこれからも頼
だから話すべきではない、のだろうが⋮⋮。
た。
魔術とは秘匿すべきものである、少なくとも切嗣はそう言ってい
て話す必要はないと言う。
魔術、という言葉を濁した士郎の様子を見て、リヴェリアは無理し
いいぞ
﹁⋮⋮言いにくいようなことであれば、無理して話してくれなくても
﹁ああ、これは⋮⋮ちょっとした鍛錬に使おうと思ってな。﹂
?
ことだよ﹂
?
﹁いや、魔法だなんて大層なものじゃない。それどころか魔術の中で
﹁⋮⋮それは﹃魔法﹄ではないのか
﹂
質を解明し、構成する材質を補強する。⋮⋮要は強化、硬くするって
﹁あんまり大したものじゃない、基本となる骨子を解明し、構成する材
?
30
?
も基本中の基本。俺はそれすらもまともに使えない半人前以下の﹃魔
術使い﹄だから、鍛錬は欠かせない⋮⋮んだけど﹂
﹂
﹁⋮⋮それもそうか、そもそも魔法であればロキがなにか言っている
はずだ。それで、何か問題があるのか
﹁そう、だな。魔術回路っていう、生命力を魔力に変換する神経みたい
なものがあるんだが⋮⋮。いつもはこれを、魔術を使う前に一から構
築しているんだが、さっき魔術を使おうとしたら既に魔術回路が在っ
たんだ﹂
﹁ふむ⋮⋮。魔術も魔法ではないが、魔力を必要とするのだな。私は
ファ
ル
ナ
その﹃マジュツカイロ﹄というものを知らないから断言はできないが、
それはおそらく神の恩恵によるものだろう。ステイタスの基本アビ
ファ
ル
ナ
リティの項目に魔力が存在するうえに、前回魔術を行使した時との明
確な変化は神の恩恵の有無だろうからな﹂
﹁⋮⋮なるほど、言われてみれば確かにそうだ﹂
ファ
ル
ナ
最後に魔術を行使したのはオラリオに来る前のことだから、確かに
ファ
ル
ナ
神の恩恵によるものである可能性が高いだろう。
正確には明確な違いとして神の恩恵の他に臨死体験があるが、それ
が魔術回路に影響を及ぼしたとは考えにくい。
ほとんど情報が皆無という状態で、真実に近いであろう回答を導き
エクセリア
出すのだから、やはりリヴェリアという女性の知性は相当に高いらし
い。
ステイタスは経験値を積むことで上昇していくはずだ。
まさか、魔術に鍛錬をこなすことで魔力量が増える、などというこ
とが起こるのだろうか。
﹂
﹁まぁ、そんなことを考えてもしょうがないか⋮⋮。それで、その授業
は今から始めるのか
いずれ必要になることは間違いないが、急を要することでもないから
な。それに個人的にその魔術に興味がある、できれば一度見せてもら
いたい﹂
﹁そうか、じゃあ今日は一度やって終わりにしよう。その、見てて面白
31
?
﹁いや、魔術の鍛錬をするというのならそちらを優先して構わない。
?
いものだとは思わないが⋮⋮﹂
﹁気になる、というのなら席を外すが
﹁いや、構わない﹂
﹂
あまり見られたいものでもないが、他でもないリヴェリアが見たい
というのならば断るほどのことでもない。
トレース
オ
ン
自分以外の全てを意識から排除し、意識を集中させ、告げる。
﹁││││同調、開始﹂
強化というが、やっていることは魔力を通す、ただそれだけのこと
だ。
だが、それほど単純な行為でもない。
魔力を通す、ということは、下手をすれば魔力を通された対象に
とって毒となりかねない。
故に。
﹁││││基本骨子、解明﹂
魔力を通すことを毒ではなく薬と為すには、その対象の構造を正確
に把握し、正しく空いている隙間に通す必要がある。
﹁││││構成材質、解明﹂
⋮⋮軽い。
その表現が正しいのかは分からないが、そうとしか言い表せないよ
うな感覚に陥っていた。
今までの強化の成功率はほぼゼロである。
しかし今までの強化と比べ今回の強化は、まるでせき止められてい
た川の障害物が取り除かれたかのように、軽く、容易い。
﹁││││っ、構成材質、補強﹂
⋮⋮成功、した。
士郎は胸中で安堵とともにそう呟く。
今手にあるのは見かけ上は何も変わらないが、確かに硬度強化が施
されているガラクタである。
今までとは全く違う手応えだった。
32
?
ファ
ル
ナ
そ れ も 神の恩恵 に よ る 影 響 な の か、そ れ と も 世 界 が 違 う か ら な の
か。
原因を推し量ることは自分にはできない、ただ成功したという事実
があるのみであった。
﹁⋮⋮なるほど、な。申し訳ないが、急用ができた。授業は明日からに
しよう、後の時間は好きに使うと良い﹂
不意にリヴェリアそう告げると、おもむろに立ち上がり士郎の部屋
を去った。
突然急用と言い出したことに疑問はあったが、そう言われて引き止
めるわけにもいかない。
士郎は強化が成功した、という事実を抱いたままベッドに潜り込
む。
アイズとの模擬戦で疲れていた体は、自分でも驚くほど安らかに眠
りについた。
イ レ ギュ ラー
廊下を歩くリヴェリアは、誰にも聞こえないような程小さな声量で
呟く。
﹁││││なるほど、ただの異世界人ではない、ということか﹂
彼女の歩みの先は、ロキの私室へと向けられていた。
33
ロキ・ファミリアのブラウニー
・・・・・
大きく息を吐き、自分に言い聞かせる。
今から放つ一撃は確実に当たらないと。
それが眼前の少女、
﹃剣姫﹄アイズ・ヴァレンシュタインと模擬戦を
続けてきて得た覆すことのできない事実だった。
筋力が違う、速さが違う、地力が違う、経験が違う、何もかもが遥
か格上の存在。
いくら相手が素手で手加減してくれていても、どれだけ油断されて
いたとしても、どうしようもないだけの差があるのだ。
そもそも手加減されているのに、気がついたら蹴り飛ばされてい
た、なんてことをしてくる相手と対等にやりあえるわけがない。
がむしゃらに突撃しては一瞬の衝撃の後に意識を失う、ということ
34
を何度繰り返したことか。
不安になるほど何度も気絶したが、それほど身体に異常がない。
なるほどこれが恩恵による影響か、などと思い当たったが全く持っ
て嬉しくない実感のしかただった。
﹂
剣を正眼に構える。
﹁││││っ
﹂
地面にまっすぐに向かって振り下ろされていた軌跡を強引に切り
だが何度も経験すれば流石に打開策も閃く。
﹁││はあっ
のがおなじみのパターンだった。
そしてここから先は、いつも一発の蹴りで気絶させられる、という
何度も同じようにして避けられているのだから、当然だ。
しかしそれは士郎にとっても、予想通り。
くとも士郎にはそう見える││で避けられる。
放たれた斬撃はアイズの頬を掠め││ることなく、紙一重││少な
その一撃は鋭く重い⋮⋮LV.1の冒険者にしては。
一呼吸の内に間合いへと踏み込み、上段から剣を振るう。
!
!
返し、鋭角に振り上げる。
今までは一撃を避けられ蹴られる、ということの繰り返しだった。
ならば一撃を避け蹴りかかろうとする時、その瞬間が最も一撃を与
えられる可能性が高い。
だがしかし、当然というべきか。
振り上げきったその剣は何者も捉えず、虚空を切り裂き││
││││お馴染みの衝撃が、背後から突き刺さった。
﹁⋮⋮また間違えた﹂
そこにはいつものように手加減を間違えたと呟く剣姫と、いつもの
ように蹴り飛ばされ気を失った新人の姿があった。
ン
35
﹁それにしてもお前さん、よくやるよなぁ﹂
ヤ
﹁どうしたんだ、ヤン。突然そんなこと言い出して﹂
アイズとの訓練を終えた士郎は、厨房で料理長と雑談を交わしなが
ら夕食の準備をしていた。
﹁シロウがロキ・ファミリアに入ったのが一週間前だったか。それか
ナインヘル
ら毎日あの剣姫にしこたま蹴り飛ばされるだけの訓練と、誰もが顔を
青くして嫌がる九魔姫の座学と、おまけに夕食の準備の手伝い。最近
じゃ朝っぱらから弓の訓練までしてるそうじゃねぇか。それで平気
な顔してるんだから、とんでもねぇな、ってことだよ﹂
﹁おいおい、流石に平気ってことはないぞ。アイズに蹴られるのはと
んでもなく痛いし、リヴェリアの授業はかなり厳しいし﹂
﹁けっ、顔色一つ変えずによく言うよ。九魔姫の座学は一日受けただ
けで誰もが土気色の顔になるんだ。おまけにあの九魔姫が教え甲斐
まったく、何でそこまで頑張れるんだか﹂
があるって言ってるんだから、一部の奴らからは人間じゃないってま
で言われてるんだぞ
﹁ま、お前みたいなのが冒険者に向いてるのかもな。どんな時も、どん
﹁⋮⋮努力するのは、嫌いじゃないからな﹂
?
な状況でも最善を尽くせる奴ってのは例外なく名を上げる。お前ほ
ど最善、努力を尽くしてる奴はこのオラリオにもそういないだろう
ぜ。⋮⋮なんてことを、一度もダンジョンに潜ったことも無いシロウ
に行ってもしょうがねぇか﹂
﹁ダンジョン、か﹂
今行っている全ての訓練は、やがて挑戦するダンジョン攻略のため
のものだ。
﹂
未だに肌で味わったことはないが、リヴェリアの授業で知識上では
危険なモンスターが跋扈するということを知っている。
﹂
﹁⋮⋮なぁ、﹃冒険者は冒険をしてはならない﹄って知ってるか
﹁なんだそれ、どういう意味だ
唐突にヤンはそう問いかけてきた。
そりゃ死ぬからだ。昨日俺の飯を美味いって言いながら食ってた奴
﹁オラリオの飯屋にお得意様ってのはほとんどいない。何でかって、
哀に滲ませながらヤンは言葉を続ける。
客がダンジョンで死んでたことに気づいてたのは、今度は確かに悲
理人として名を上げてた。⋮⋮その頃だったかな﹂
月もした頃にはすっかり流されちまって、その頃にはすっかり俺は料
を探して、いつかは冒険者に、何て考えも安定した稼ぎの前じゃ数ヶ
たもんだから、飯屋で働くことにしたんだ。金をためて、ファミリア
ウの前で言うのもなんだが、運の良いことに俺には料理の才能があっ
ら俺はバイトしてとりあえず当面の生活費を稼ぐことにした。シロ
ファミリア探しだがそれだって簡単に見つかるもんじゃねぇ。だか
﹁だ が ま ぁ、い き な り ダ ン ジ ョ ン に 潜 れ は し な い。最 初 に す る の は
るような声音でヤンは言った。
実は俺も元々は冒険者を目指してたんだ、とどこか悲哀を感じさせ
が死ぬなんてこと、そこら中に転がってて話の種にもなりゃしない﹂
生まれるくらいに、ダンジョンじゃ人が死ぬ。昨日笑い合ってた奴ら
茶をして死なないようにって意味だ。そんな矛盾するような言葉が
﹁言葉通りの意味だよ。冒険者は臆病に見えるくらい慎重に進め、無
?
が次の日にダンジョンで死んだ。一週間くらい続けて店に来てた客
36
?
が来なくなったと思ったら、一ヶ月後にあいつならダンジョンで死ん
だよって話を聞いた。⋮⋮そんなことが続いて、気がつけば俺の中に
冒険者になろうなんて考えはなくなってた。ダンジョンっていうの
はそんなところだ。死ぬ時は一級冒険者だって死ぬ。誰にも等しく、
シロウにも死ぬ可能性があるんだ。ダンジョンに潜る奴は大抵誰で
も目的や願いを抱えてるし、きっとシロウだってそうなんだろうな。
でも、それでも俺はシロウに冒険をしてほしくない。⋮⋮いや、別に
シロウに限った話じゃなくて、誰にも冒険をしてほしくない﹂
それはきっと、隣人が死ぬことが日常の、オラリオに住む冒険者で
ない人々の願い。
ダンジョンに潜る、という行為の意味の重さを、この時士郎は初め
て感じていた。
そして思い出すのは、あの死の体験。
あの体験を繰り返すのだと思うだけで、身体が凍り付きそうにな
る。
でも。
﹁でも、きっと俺は、ダンジョンに潜るよ﹂
目指すものがあるから。
取り戻したい誓いがあるから。
││正義の味方に、なりたいから。
﹁そう、か⋮⋮﹂
二人の間に、沈黙が満ちる。
﹁⋮⋮ま、お前はダンジョンに潜らなくたって飯で稼げるんだ。怖く
なったらいつでも冒険者を辞めればいい。誰も笑いはしないさ﹂
その微かなつぶやきは、確かに士郎の耳に届いていた。
あれから夕食の準備を終え、士郎は自室でリヴェリアの授業を受け
ていた。
﹁││││よし、では今日はここまで。それにしても、一週間で上層の
モンスターに関してほとんど完璧になるとはな﹂
37
﹁要は暗記だからな、そう難しいものじゃないし、慣れたものだよ﹂
この世界の住人ならばともかく、日本で高校教育を受けていた士郎
にとってはリヴェリアの授業はそう難しいものではない。
モンスター名とその特徴、そして現れる階層の暗記程度なら、歴史
などの暗記科目より楽なものだ。
﹁前々から思っていたが、シロウの世界はどうやらかなり教育水準が
高いようだな。冒険者にしては細身だし、風貌は粗野ではなく理知
的、知性もある。男連中には厳しいうちの女性陣も、どうやらシロウ
あまり他の団員と関わりがないからな⋮⋮﹂
は高評価のようだ。⋮⋮まぁ、極一部を除いて、だが﹂
﹁そうなのか
良く言えば豪快、悪く言えば粗野で雑な性格の男が多いオラリオ
で、士郎という男は異質である。
容姿や物腰など、リヴェリアのように気品に満ち溢れているわけで
はないが、その理知的な雰囲気はほかの男にはまず無いものだ。
そしてそれは日本で受けた教育の影響もあるが、元来の士郎の気質
と言える。
﹁多かれ少なかれ、皆新人のシロウを気にしているものだ。あのアイ
ズが直々に面倒を見ると申し出たくらいだからな。シロウの与り知
らぬところで結構噂になっているよ。未だに夕食の手伝いをしたり、
空いた時間には掃除をしているそうじゃないか。誰かが﹃ロキ・ファ
ミリアのブラウニー﹄、と言っていたな﹂
﹁ブラウニーって、ここでもか⋮⋮﹂
穂群原のブラウニー、とかつて呼ばれたことを思い出す。
ブラウニーとは家の住人が気がつかないうちに家事をこなす妖精
のことらしいが、特に嫌だということはないが、嬉しいかと聞かれて
も微妙な呼称である。
﹁特に弓の腕前は中々注目されているぞ、最初の一射を除いて後は全
て的に命中させているそうじゃないか。口に出してはいなかったが
あのベートも評価していたようだしな。フィンだってあれだけ蹴り
飛ばされても全く臆することのない胆力を褒めていたし、まさしく期
待の新人というところか﹂
38
?
﹁期待って、まだダンジョンに潜ったこともない新人に使う言葉じゃ
ないだろ﹂
﹁さて、どうかな。少なくとも私は期待しているがね。⋮⋮そろそろ
﹂
頃合いか、じゃあ行こうか﹂
﹁行くって、どこに
リヴェリアは立ち上がり、士郎についてくるよう促しながらこう
言った。
﹁ロキの部屋に。君が強くなるために必要なことだよ﹂
39
?
ステイタス
﹁⋮⋮ステイタスの更新
﹂
﹁せやでー。強くなるためには欠かせないことやな﹂
リヴェリアに連れられてロキに私室に入ると、突然﹃ステイタスの
更新をする﹄と告げられた。
﹁色々忙しそうやったからタイミングを見計らっとったけど、色々話
したいこととか説明してないこともあるし、これ以上遅らせるわけに
﹂
もいかなかったんや。疲れてると思うけど堪忍なー﹂
﹁構わないけど、それでステイタスの更新って
﹁あー、それはやなー。⋮⋮リヴェリアー﹂
ビリティだな﹂
ル
ナ
﹁他のものは関係ないのか
﹂
られる能力だ。⋮⋮まぁ契約したてのシロウに関係有るのは基本ア
が、発現すれば非常に役に立つスキルと魔法。これらが主に恩恵で得
下でのみ得られる発展アビリティ。また発現するかは個人差がある
えられたのかというと、それは五項目の基本アビリティと、特定条件
キを契約し神の恩恵が与えられた。では具体的にどのような力が与
ファ
﹁今日はステイタスとアビリティの説明だな。一週間前にシロウはロ
ような雰囲気を漂わせつつ説明を始める。
リヴェリアはそう言って嘆息するが、慣れているのかどこか諦めた
﹁⋮⋮まぁ、大方説明係として呼んだのだろうとは思っていたが﹂
?
の五項目だ。まぁどれも読んで字の如しだな。では今のシロウの基
な。さて、基本アビリティは﹃力﹄、
﹃耐久﹄、
﹃器用﹄、
﹃敏捷﹄、
﹃魔力﹄
だけだ。これから先ランクアップしてくるような時にはまた違うが
﹁関係がないわけではない。ただどれもまだ発現していない、という
?
﹂
40
?
本アビリティの値が幾つかと言うと⋮⋮全て初期値、オール0﹂
﹁⋮⋮え
初期値、オール0。
?
要は欠片も上昇していない、ということだろう。
﹁じゃあ、訓練の意味は一体⋮⋮﹂
エクセリア
﹁まぁ待て。確かに私の言い方が悪かったが、落ち込むのは話を聞い
てからにしろ。﹃経験値﹄を積むことで能力は上昇すると言うのは既
に話したことだが、即座に成長するというわけでもない。例えばアイ
ズとの模擬戦。あれは実戦に近いから、実戦ほどではないとはいえ魔
力以外の四項目の経験は得られただろう。ではその得た経験でいつ
成長するのか、というのがステイタスの更新なわけだ﹂
﹁⋮⋮なるほど。強くなるためっていうのはそういうことか﹂
﹁ステイタスの更新をしなければ、極論を言えばどれだけ経験を積ん
でも初期値のままということでもあるな。そして基本アビリティの
特徴として、熟練度というものが挙げられる。これは初期値I0を基
準に100刻みで最大値をS999とする、項目ごとの能力の高低を
示すものだな。項目に関連が深い経験を積めばその項目が重点的に
41
伸びるし、質の良い経験や新しい経験をを積めば上昇値は大きくなり
やすい。一般的に訓練ではあまり伸びず実戦での上昇がほとんどに
エクセリア
な る な。新 人 で あ る シ ロ ウ は 今 の う ち な ら 模 擬 戦 な ど で も 十 分 な
経験値を得られるが、いずれはダンジョンでの実戦が必要になってく
る﹂
﹁よし、そんじゃそろそろ更新を⋮⋮﹂
﹁まて、ロキ。シロウならわかるがお前が急かしてどうする。気にな
るのはわかるが、まだランクアップの説明が終わってないだろう﹂
﹁⋮⋮フィンに説明を任せたほうがよかったんかなー﹂
﹁そ う 思 う の は 勝 手 だ、私 に 任 せ る と 決 め た の は ロ キ だ ろ う。⋮⋮
まったく、では気を取り直してランクアップの説明だな。例えば私や
フィンであればLV.6、アイズであればLV.5、シロウであれば
LV.1というように、同じステイタスにも位階が存在する。その上
昇がランクアップというわけだ。ランクが1つ上がるだけで能力は
﹂
飛躍的に上昇し、その差は子供と大人と表現できるほどに大きい。ア
イズとの訓練で、その差の一端は理解できたんじゃないか
﹁ああ、それはもう。身に染みるほどに⋮⋮﹂
?
思い出すだけでも痛いくらいに、何度も蹴られた。
一撃で気絶できればいいが下手な手加減で気絶できない時が一番
辛い。
あれで一端だと言うのだから、確かに一つ位階が違えば持つ能力は
エクセリア
大きく違ってくるのだろう。
エクセリア
﹁ランクアップは普通に経験値積むだけでは至れない。通常を比べて
遥かに上質な経験値が求められる。例えば格上のモンスターを独力
で討伐したりなど、所謂﹃偉業﹄を達成する。それがランクアップの
条件だ。そしてランクアップを果たした暁には、基本アビリティの熟
練 度 は 一 旦 リ セ ッ ト さ れ、一 つ 上 の 位 階 と し て 再 ス タ ー ト と な る。
⋮・⋮もっとも、LV.1からLV.2までのランクアップの最短記
録は、アイズの一年だからな、まだ先の話ではある﹂
﹁一年って⋮⋮相当先の話だな。そんなにかかるものなのか﹂
﹁さらに言えば、ランクアップを重ねる毎に遠くなる。今から気にし
に上着を脱ぐことを促される。
﹂
イ レ ギュ ラー
慣れたという程でもないが、二回目ということもあり否やはない。
手早く上着を脱いてで俯せになる。
﹁︵⋮⋮ な る ほ ど な ー。リ ヴ ェ リ ア が た だ の 異世界人 で は な い っ て
言ったのもわかる気がするわ。後は﹃マジュツ﹄の確認やな︶﹂
ロキ・ファミリアの主神として数多の眷属たちのステイタスを見て
きたロキにとって、ステイタスの更新は手慣れたものである。
そうして確認できた数値は、魔力以外の四項目がおよそ20から3
0、特に耐久が40近い上昇だった。
新人であるため値が伸びやすいというのを考慮しても、実戦未経験
の模擬戦のみでここまでの上昇は中々のものだ。
値が伸びていけば流石に模擬戦のみではこれほどの上昇は望めな
いだろうが、いずれはダンジョンに潜り嫌でも実戦をこなすことにな
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たところで意味は無いさ。⋮⋮そろそろ、お待ちかねのステイタスの
ウチに任せときー
更新というこうか﹂
﹁よっしゃー
!
更新される当人よりも何故かはしゃいでいるロキに、契約時と同様
!
るのだから問題はない。
問題が在るとすれば、それは魔力の項目にあった。
しかも魔法は発現しとらんし︶﹂
﹁︵それにしても、魔力だけ上昇値120オーバーってどういうことや
ねん
基本アビリティは対応する項目に関係の深い経験を積むことで上
昇する。
要するに魔力の項目が上昇するには、魔法の訓練が不可欠なのだ。
しかし魔法が発現していないにもかかわらず、魔力の上昇値は12
0を超えている。
リヴェリアの話していた﹃マジュツ﹄、というものが原因なのは明ら
かだった。
ありがたいことにレアスキルなど厄介の種になりそうなものは発
現していなかったが、それでも頭の痛い問題である。
この魔力の上昇を偶然であるとか理由はわからないとかそういう
ものだとか、とにかく隠すべきなのか、それとも包み隠さず話してし
まうべきなのか。
見たところ年齢はそれほど高くもないが、年齢に見合わぬほど精神
が成熟しているとは聞いている。
有り体に言えばあまり頭のよろしくない者が多い冒険者の中でも、
シロウは取り立てて知性が深いとリヴェリアのお墨付きだ。
おそらく話してしまったほうが上手くいくだろう、頭がいい者は察
しが良い、それならば下手に隠すよりかはきっちり話した上でその重
要性を理解してもらったほうがやりやすい。
リヴェリアに確認するように視線を向けると、頷きを返された。
﹁︵ま、とにもかくにもマジュツの確認やな⋮⋮︶さらさらっと、これ
で更新は終わりやなー﹂
再びステイタスの隠蔽を施すと手慣れた手つきでステイタスを書
き写す。
士郎は起き上がると上着を着直し、確かめるように両手を握っては
開く、という動作を繰り返していた。
﹁⋮⋮あまり変わった感じはしないな﹂
43
!
﹁ランクアップでもしないと明確に変化を感じたりとかはないなー。
でもステイタスが急に上がり過ぎると制御を間違えたりもするから、
ダンジョンに潜るようになったらこまめに更新しに来てな。シロウ
のステイタスはこんなもんや﹂
﹁⋮⋮他の四項目と比べて魔力の伸びが異常、か﹂
ステイタスが書き写された紙を手にとった瞬間、士郎はスッと目を
細めそう呟いた。
﹂
﹁ま、それに関しての話もあるけど、とりあえずは﹃マジュツ﹄っての
をウチの前でしてみてくれんかな﹂
﹁それが構わないが、強化するものがないとどうしようもないぞ
﹁んーそうやな⋮⋮。じゃあこれで﹂
﹁⋮⋮⋮⋮まぁ、ロキが構わないというのなら俺はいいんだが﹂
士郎が手渡されたのはロキの私室においてあった、何というか、控
えめに言ってかなり個性的な置物だった。
リヴェリアも苦笑いしている当たり、ロキのセンスが⋮⋮というこ
とだろう。
しかし強化するにあたって問題はない。
リヴェリアには一度見せているし、いくらなんでもロキに隠すとい
うのはない。
おまけにここ一週間それなりの回数行使してきたが、一度も失敗は
なかった。
ト レ ー ス・オ ン
理由は未だにわからないが、成功し続けているという事実があれば
十分だ。
﹁││││同調開始﹂
基本となる骨子を解明し、構成されている物質を解明し、構成され
ている材質を補強する。
成功体験こそ最近のものしかないが、それでも十分に慣れているこ
ともあり程なくして無事に成功した。
﹁よし、成功だな。見た目じゃわかりにくいけど硬度強化、硬くなって
るはずだ﹂
﹁⋮⋮なるほどなー、流石にちょっとこれは。いや、まぁええか。とに
44
?
かくそのマジュツが魔力の上昇と関わってるみたいやな。わかっと
ると思うけど、ウチとかフィン以外の前では絶対に使わんのと話さん
こと。シロウのことや、わかっとるとは思うけど一応な﹂
﹁ああ、もちろんだ。あんまり人前で見せるものでもないからな﹂
﹁それなら安心や。それじゃ夜も遅いし、早く部屋戻って休みやー﹂
そうして士郎とリヴェリアが去った後、ロキは一人で呟いた。
﹁異世界の何かだろうとは思っとったけど、まさか神の力が関係ない
とまではなぁ。これがバレたら、相当厄介なことになるやろな。平和
に済めばええんやけど⋮⋮﹂
ロキはオラリオに降り立った神々の中でも、一際眷属に対する愛情
が深い。
そのため士郎に対して厄介な拾い物をした、などとは欠片も思って
いない。
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ただひたすらに、彼女は士郎の行く末が平和であればいいと願うば
かりだった。
﹁そういえば明日の連絡だが、明日のアイズとの模擬戦は休みだ。そ
れと一日予定を空けておくように﹂
﹂
ロキの部屋から出て自室に戻る道中、リヴェリアはシロウにそう告
げた。
﹁休みなのはわかったけど、一日空けておく理由は
いるからな﹂
﹁詳しいことは明日アイズから聞いてくれ。既にアイズに話は通して
﹁ああ、わかった。ありがとう﹂
な、ちょっとした餞別だと思ってくれればいい﹂
しなくていい。新人にそこまで大層な武器を持たせる気はないから
登録と武器の買い出しに行ってもらう。ああ、ヴァリスのことは気に
ジョンに潜る準備だ。明日はアイズの案内のもと、ギルドでの冒険者
﹁い つ ま で も 模 擬 戦 ば か り し 続 け る わ け に は い か な い か ら な。ダ ン
?
そう告げ終わった後、士郎と別れたリヴェリアは胸中で呟く。
﹁︵⋮⋮まぁ、これを決めたのは全部フィンなのだがな。新人の面倒を
見たことが無いアイズにもそういう経験を積んで欲しい、とは言って
いたが、間違いなく目が笑っていた︶﹂
無事に済むといいのだが、他人事のようにリヴェリアはそんなこと
を考えていた。
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