俺が主人公じゃなくなった話をする ID:71171

俺が主人公じゃなくなった話をする
優狐
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小説の作者、
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じます。
︻あらすじ︼
愛する人達を次々に失い、最弱の赤龍帝は強さを求め、やがて最強
と呼ばれるようになる。
しかし、幾ら強くなっても失われた命は戻らない。
そんなある日、赤龍帝は油断して深手を負う。
もしも、やり直す事が出来るなら⋮⋮そう強く願い、赤龍帝は息を
引き取る。
再び目を覚ました赤龍帝こと兵藤一誠は懐かしい我が家に居た。
││やり直しは出来た。
しかし、兵藤一誠は赤龍帝じゃなかった。更に主人公として身に起
きる全てが他人に降り懸かるのを見て把握する。
││主人公じゃなくなった俺に何が出来るのだろうか。
考え、考えて、かつての主人公は現在の主人公を手助けする事を決
意する。
まさかの主役交代。
凡人の兵藤一誠が贈る新たな物語が今、幕を開ける。
俺が主人公じゃなくなった日 │││││││││││││││
目 次 決意をする │││││││││││││││││││││││
1
転入とやり直しの真実 ││││││││││││││││││
双覇一刀龍 │││││││││││││││││││││││
愛しき君との出会いを思ふ ││││││││││││││││
愛すべき俺の嫁︵禁︶ ││││││││││││││││││
7
13
19
23
28
俺が主人公じゃなくなった日
もしも、人生をやり直す事が出来るなら⋮⋮
年
月
日。それが最強の赤龍帝が遺した最後の言葉
彼女達を救わせてくれ⋮⋮
││平成
だった。
││◆││
×
旦那様。朝で││パチン
もぞもぞ⋮⋮
﹁ふわぁ⋮⋮朝か﹂
何だ、このデジャヴュ﹂
?
有難う神様ッ
﹂
夕麻ちゃんが来ないな
﹂
?
しかし、今回の俺は違う。何が起きるか知っているから、逆に仕掛
俺。
期待に胸、否⋮⋮股間にテントを張って待っていただろう前回の
て、死ぬ前に良い思いはさせてくれる。
ある堕天使が来ない。クソ女だが、ミジンコ程度の優しさは持ってい
⋮⋮ところが、約束の時間になっても見た目美少女の中身クソ女で
﹁⋮⋮あれ
それがやり直す前の出来事。今から起きる転機を忘れはしない。
れ、リアス・グレモリーに拾われて悪魔人生を始める。
今日は天野夕麻とのデート日。そして夕暮れの公園で一誠は殺さ
そう意気込み、身支度を済ませて家を後にする。
これで、皆を救える
てる
﹁戻ってる⋮⋮俺が赤龍帝として目覚めるきっかけになった日に戻っ
平成○○年○月○日。
を呑んだ。
何気なくカレンダーを見た一誠は目をこれでもかと大きく開き、息
﹁⋮⋮ん
を止めて布団からのそのそと這い出る少年。名を兵藤一誠と言う。
悪友に無理矢理渡された萌えボイス目覚まし時計︵メイドVer︶
!
旦那様。朝でございます。
××
?
1
×
!
!
!
けてやるつもりだ。
さあ、早く来い。天野夕麻⋮⋮仕事そっちのけでエクスタシーを味
﹂
あわせてやるからよ。
⋮⋮昼過ぎ。
﹁来ねえ⋮⋮何でだ
る。
﹂
﹂
﹁天野夕麻とデートを約束してたのは俺だ
んじゃねえ
﹁え、あ⋮⋮その⋮⋮うぅ⋮⋮﹂
勝手に人の彼女奪って
慌てて二人の前に立ち塞がり、気弱な男の子に人差し指を突き付け
﹁ち、ちょっと待て
目の前を天野夕麻と知らない気弱な男の子が通過していった。
﹁う、うん⋮⋮﹂
﹁緊張しなくてもエスコートしてあげるから、気楽にしてよ。武君﹂
苛立ちを隠せず、電柱に蹴りを浴びせる。そんな時だった⋮⋮
!?
!
何言ってんだよ
﹂
俺だよ、兵藤一誠だよ
﹁⋮⋮ごめんなさい。誰ですか、貴方
﹁は、なっ
﹂
!
いた。
﹁ハァ
何で私が理由なく殺す必要があるのよ。あんた、私の本性
申し訳なさそうに謝ると夕麻は俺の耳元で信じられない言葉を呟
﹁あの⋮⋮何が言いたいか分かりません﹂
動揺し、余計な事まで喋ってしまう。夕麻は⋮⋮
険だからデートした後に殺すんだろ
!
?
!?
神器が危
きたか。こんなガキが夕麻とデートしようなんて百億年早ぇ。
じわり、と男の子の目が潤む。華奢でナヨナヨした見た目に弱虫と
!
殺すのは規約違反よ。とっとと失せなさい﹂
⋮⋮言葉を失った。
神器を持たない凡人
俺、赤龍帝の篭手を持っていないのか
?
?
2
!
!?
を知ってるみたいだから言っておくけど⋮⋮神器を持たない凡人を
?
何だよ、それ⋮⋮
それじゃあ、護れないじゃないか⋮⋮
﹁ほらほら、武君。泣いてちゃ駄目。せっかくのデートなんだから、ね
﹂
﹂
そう言う事なのか
﹁⋮⋮なのか
茫然としている俺の脇をすり抜けて二人が立ち去る。
﹁ぐすっ⋮⋮うん⋮⋮﹂
?
立ち去った。
││◆││
﹁やり直した意味ねえな⋮⋮神使えねえ﹂
何それ美味しいの
もうどうでもよくなり、公園で黄昏れる。
神様に様付けはしないのか
?
テメエは駄目だ。
ハッ⋮⋮虚しいだけだな。やれやれだぜ。
﹁││ねえ、武君。一つお願い事があるんだけど聞いてくれるかな
﹂
?
うが、大丈夫だろう。
良かったな。テメエの人生、桃色パラダイス確定だ。時折血飛沫舞
たんだな⋮⋮
ああ、俺が経験する筈だった人生の転機。武とか言うテメエに移っ
﹁な、何かな
﹂
トイレットペーパーには様付けして紙様と呼ぶが、役立たずの神。
⋮⋮役立たずに様付けする程おひとよしじゃねえよ。
?
乾いた笑い声をあげ、俺は夢遊病患者のようにふらふらとその場を
﹁は、ははっ⋮⋮﹂
何 も 出 来 な い 。
自問自答をするまでもない。
⋮⋮赤龍帝を宿していない凡人に何が出来る
た
何かの本で読んだものと同様に、俺は主人公じゃなくなってしまっ
?
?
?
3
?
?
ふん、頑張れよ。
││主人公。
﹂
﹁貴方と過ごした日々。楽しかったわ。でも⋮⋮さようなら﹂
﹁っ
光り輝く槍が投擲され、真っ直ぐに主人公の心臓へ向かっていく。
主人公は驚き、泣きそうな顔をして⋮⋮俺を見た。
おい、何だよ⋮⋮そんな助けを求めるような目をすんなよ。
﹂
槍が到達するまで、残り一メートル。
﹁た、助けてぇ
﹁っ﹂
﹂
ああああああ、くそがっ
﹁だらっしゃああぁ
ズシャアァ
﹂
﹂
!?
何だろうな、何かスゲー、スカッとした。
鼻が潰れてみっともなく鼻血を垂れ流すクソ女。
﹁あ、がっ、ごっ⋮⋮﹂
⋮⋮予想外の身体能力に俺自身ビックリだ。
瞬時に距離を詰め、クソ女の顔面に拳を突き刺す。
﹁うるせえよ
﹁あ、あんた⋮⋮よくも邪魔││ッ
ペシンッ、と小気味よい音がした。
無意識に手の甲で涙を拭い、無事な方の手で軽く頭を叩く。
⋮⋮﹂
﹁ったく、男がみっともない醜態さらして助けを求めてんじゃねえよ
つまり、そういう事。
じゃない。
肉を焼くと良い匂いをさせるが、人が焼ける臭いはたまったもん
熱していたらしく、手の皮が焼け、鼻をつんざく臭いが漂う。
あれだけの勢いがついた槍を掴み取って無傷で済む訳がない。発
﹁っ、てえぇ⋮⋮﹂
槍が到達するまで、残り数センチの所で俺は槍を掴み取っていた。
!
!
!
!
!
4
!
ああ、そういえば俺はクソ女に殺されるわ、男心弄ばれるわ、護り
たい人をぶち殺されるわ、恋する事にトラウマ植え付けられるわで
散々だったな。
理解した。要するに知らず知らずの内にクソ女に対して殺意を抱
いてたんだな。
﹁てなわけで、クソ女。テメエは此処で││ぶっ殺す﹂
﹂
こんなクソ女に拳は勿体ない。手頃な石で殴殺してやるか。
﹁な、何で私が⋮⋮あんたは武君と関係ないでしょ
かったものの⋮⋮何考えてやがる。
﹂
﹂
﹁ゆ、夕麻ちゃんを見逃してあげて
﹁
﹁あ
﹂
そうじゃな
殺したらつまらないから手加減したおかげで﹃痛い﹄で済んだから良
しかし、あろうことか助けたガキが身代わりになっていた。一撃で
﹁⋮⋮何してんだテメエ﹂
﹁ったああぁ⋮⋮﹂
ガッ
それなりに大きい石を逆手に持ち、振り下ろす。
んだよ。まあ、そういう事だ﹂
﹁ハッ、関係なんてもんはな⋮⋮助けを求められ、助けた時点で出来て
!?
﹁ゆ、夕麻ちゃんだって何か理由があったんだと思う
何をほざいてるんだ、このガキは。
!
でノロマだけど、夕麻ちゃんは││﹂
惚気てんじゃねえよ⋮⋮ったく。
延々と続く夕麻ちゃんは良い人アピールに毒気を抜かれた俺は石
を噴水に投げ込むと⋮⋮
﹁⋮⋮良かったなヒロイン。主人公が救うと決めた以上、俺は何も出
来ねえ。せいぜい、主人公に相応しいヒロインになるんだな﹂
あの時のお返しとばかりに耳元で呟き、すっかり暗くなった公園か
ら静かに立ち去る。
5
!
かったら⋮⋮あんなに楽しそうにデートはしないもん⋮⋮僕は愚図
!
?
!
主人公でもない俺が主人公の決意を無下にする事なんざ、出来ねえ
よ。
全く⋮⋮﹃助けて﹄は俺にとって呪いの言葉だな。勝手に身体が動
いて助けちまう。
ハァ⋮⋮願わくば、あのガキが俺が救いたいヒロイン達を救ってく
れる事を祈るだけだな。
ま、こういう前座ってのも悪くないかな。
6
決意をする
⋮⋮呪いの言葉でつい、助けちまったが⋮⋮どうすっかな。
主人公が死んでリアスの世話になる事からルートは分岐するんだ
が⋮⋮死んでないからそれはない訳で。
﹂
﹁マジ、どうすっかな⋮⋮つーか、夕麻が改心したとするとアーシアが
死ぬ事もないのか
﹁殴り込みに行くよおぉ
﹁武君を止めて
﹂
あの子、私が上司に逆らえないと言ったら上司に
普通に声を掛けれるとか⋮⋮肝据わってんなぁ⋮⋮
安堵したような顔してんじゃねえよ。つーか、殺されかけた相手に
﹁⋮⋮あ、あんた、まだ近くに居たのね⋮⋮良かった﹂
!?
!
分からないし⋮⋮っておぉい
殴り込みに行くって、何があった
あのガキがどういう行動をとるか││
?
﹂
?
ああもう
こういう分岐とかアリかよ
武の行動が新たなルートを開きやがった
⋮⋮くそがっ
ちっ、確かに関係が出来てる。
にゃろお⋮⋮さっきの仕返しか。
された者⋮⋮つまり、そういう事よ﹂
!
よ
という
ざまあみろ。テメエが俺を巻き込むなら、俺だって巻き込んでやん
るめて俺の救いたい人達を救わせてやる。
⋮⋮ちっ、巻き込まれるだけじゃ割に合わねえ。あのガキを言いく
!
!?
﹁か、関係はあるわ あんたは私の仕事を邪魔した。邪魔した者と
﹁嫌だね。そんなの俺に関係ねえだろ
あのガキ、武と言うのか。見た目に似合わない名前だな。
殴り込みに行くといって飛び出しちゃって⋮⋮﹂
!
!
かそれに巻き込まれてる俺って⋮⋮
!
﹁い、言われなくても案内するわよ⋮⋮﹂
7
!
﹁⋮⋮案内しろ﹂
!
俺が声を掛けたら夕麻がビクッと身体を震わせ、呟いた。
やれやれ、俺に声を掛ける時、勇気を振り絞ってたのかねぇ
ハッ、この心配ぶり。相思相愛ってか
﹂
リ ア 充 爆 ぜ ろ 。
││◆││
﹁邪魔だああぁ
?
﹁あ、あんた⋮⋮何で﹂
に動揺を隠せないみたいだなぁ
背中から丸みを帯びた黒い翼を生やした堕天使の男共。俺の強さ
﹁何て奴だ⋮⋮﹂
﹁こ、こいつ⋮⋮﹂
面白いくらいに宙を舞う。
夕麻の上司が居ると言う本部に乗り込み、拳を奮う。殴る度に人が
?
﹂
何 で や ね ん 。
﹁こいつ、何て弱さだ
﹂
﹁拳を奮う度に宙を舞うぞ
﹁これは面白い
面白いじゃねえぇ
何で俺が宙を舞ってんだ
││◆││
﹂
﹁⋮⋮やれやれ騒がしい事だ。そう思わないか
?
オッサンが何かを言うも、傷心の武は泣きじゃくるだけ。
?
ぺろり、と涙を舐めとるオッサン。武の白い肌に鳥肌が立ち、硬直
﹁ふう⋮⋮そんなに泣いてたら綺麗な顔が台なしじゃないか、うん
﹂
本部の最奥部。そこに居たのは全裸のオッサンと同じく全裸の武。
﹁⋮⋮うぐっ、ひぐっ﹂
﹂
⋮⋮それから俺は堕天使共に弄ばれ、ボロ雑巾と化した。
!
ふっふっふ。夕麻が⋮⋮﹃軽蔑﹄の眼差しを向けてるなぁ⋮⋮
?
あ、ちょ、見捨てるなああぁ⋮⋮HELPUUUU
﹁⋮⋮先行くわ﹂
!
!?
!
!
8
!
!
した。
﹂
﹁││ペネトレイトォ
﹁ぬうっ
﹂
!
﹂
き飛ばす。
﹁武君
した。
﹁の、殺⋮⋮
﹂
﹁レイナーレ。少々おイタが過ぎ││うおぉあ
﹂
泣き腫らした目で夕麻を見つめる武。それを見た瞬間、夕麻は決意
﹁ひぐっ⋮⋮ゆ、夕麻ちゃん
﹂
壁を突き破り、憤怒に身を包んだ夕麻がオッサンを光り輝く槍で吹
!?
消えなさい
﹂
死に体を曝しなさい 人の恋人に毒を齎す害虫は
﹂
﹁ぶっ、ふっ、ごっ、ちょ、何でこんなに強っ、かぺっ
!
する夕麻。
て振り下ろす。
﹁ゆ、夕麻ちゃん
駄目だっ
﹂
!
﹂
﹁く、ふふふ⋮⋮倍返しだ。レイナーレ
││ズドンッ
﹃ズドンッ
﹄﹂
!
﹁離れたまえ﹂
ピアス。
夕麻の心臓を貫いたモノ、それは軍用魔術の一つ⋮⋮ライトニング
﹁っかは⋮⋮ら、ライトニングピアス⋮⋮ッ﹂
!
!
僅かな隙。しかし、それは戦場では命取りになり⋮⋮
﹁た、武君
﹃人を殺す﹄禁忌を恐れた武が夕麻を羽交い締めにし、隙を作らせた。
!
トドメとばかりに片手で持っていた槍を両手で掴み、全体重を乗せ
﹁あああぁ
﹂
マウントポジションをとり、容赦なくオッサン︵上司︶を串刺しに
!
﹁死になさい
麻に詰めより、高速で突かれる槍の餌食になる。
デスクを壊して吹っ飛んでいたオッサンがキリッとした表情で夕
!?
!
!
!
!
!?
9
?
!
身体から力が抜けた夕麻を蹴り飛ばすオッサン。羽交い締めして
いた武も一緒に吹っ飛ぶ。
﹁やれやれ⋮⋮戯れに配下に加えたのだが、やはり﹃女﹄は駄目だな。
夕麻ちゃん
﹂
その点、﹃男﹄は良い。そもそも││﹂
﹁夕麻ちゃん
う
﹂
﹁嬉しくない
夕麻ちゃんを返せ
このホモ野郎ッ
﹂
!
﹁っ
﹂
出し⋮⋮
助けて
﹂
!
と叫ぶのは簡単。しかし、武は先程の一誠の言葉を思い
﹁た、たたた⋮⋮﹂
だ。私のマグナムをくらうといい
﹁⋮⋮ふう、視姦だけで済まそうと思ったが、生意気な子にはお仕置き
涙目でも怒りを剥き出しにして睨みつける。
!
﹁││となってだな、君ももうすぐ私の配下となるんだ。嬉しいだろ
うとする。動揺していて止血と言う考えに至らないようだ。
心臓を貫かれ、身動き一つしない夕麻を揺さぶり、意識を取り戻そ
い。
オッサンが何かベラベラと喋っているが、武はそれどころじゃな
!
﹂
?
﹂
!
を叫んだ。
││◆││
!
が再生した。
!
唖然としていた堕天使共に鉄拳が飛び交う。先程と同じパターン
﹁ああ、成る程ね⋮⋮そういう事か、よっ
﹂
ボロ雑巾と化していた一誠の身体が光り輝き、傷やボロボロの衣服
﹁っ、またあの言葉か
﹂
身の毛をよだつ悪寒には耐えれなかったようだ。武は呪いの言葉
﹁た、助けてえぇ
ニヤニヤと下卑た笑みを浮かべて舌なめずりをするオッサン。
﹁良い度胸だなぁ
言葉を呑み、睨みを強くする事に留まる。
!
10
!
!
?
!
だが、宙を舞うのは堕天使共だ。
﹂
そのままの勢いで助けを求めた武の元へ急行。
﹂
﹁だらっしゃあああ
﹁ぷげっ
!
ていたオッサンを鉄拳制裁。
﹁きめぇ﹂
ゆ、夕麻ちゃんを助けて
更に言葉で口撃も忘れない。
﹁あ、あの
!
麻から離れる。
?
﹁夕麻ぢゃあ゛ぁ゛ん
﹂
もう、大丈夫だ。と安心させる言葉を忘れない。
ている上着を武に掛け、頭を撫でる。
夕麻が息を吹き返したのを確認した一誠は笑みを浮かべ、自分の着
﹁蘇生完了っと﹂
﹁っかは⋮⋮﹂
手の平から微弱な電撃を放ち、電気ショックを与える。
﹁﹃雷精よ・紫雷以て・撃ち倒せ﹄﹂
合していく。
ぼやきながらも懐から針と糸を取り出し、破損した心臓を高速で縫
﹁⋮⋮堕天使としての姿になれば防げたんじゃないのか
﹂
切羽詰まった状況に自然と目つきが鋭くなる。武は怯えながら夕
﹁⋮⋮傷を見せろ﹂
﹂
夕麻が開けた穴から飛び込み、今正にマグナムを突き立てようとし
!
まあ、それでも﹃お願い﹄を言っても良いよな
という事で、俺は武に事情を説明した。
?
同時に、言葉がないと俺はボロ雑巾になるしかない⋮⋮
言葉を聞いてから強くなった。
そう。夕麻をぶん殴った時も、今回の時も、俺は武の﹃助けて﹄の
力を発揮出来ないみたいだしな⋮⋮﹂
﹁気にすんな。どうも、俺はこいつの﹃助けて﹄と言う言葉がないと実
﹁武君は本当に泣き虫ねぇ⋮⋮あ、あんた⋮⋮その、有難う﹂
!
11
!
﹁成る程⋮⋮予言者ね。てっきり頭のおかしい人かと思っていたわ﹂
﹂
﹁否定はしねえ。確かに最初が最初だしな⋮⋮まあ、それはおいとい
て⋮⋮引き受けてくれるか
︶だな。
武の力を借りて今度こそ救ってやる。
先行き順調︵
﹁ぼ、僕に出来るか分からないけど⋮⋮恩人の頼みは断れないよ﹂
?
ああ、後⋮⋮ホモオッサンはゲイバーにぶちこんどいた。
12
?
愛すべき俺の嫁︵禁︶
翌日。リアス・グレモリーの眷属になる為に行動を開始する。
眷属になる=悪魔になるのだが、武はその事を承諾しているからそ
の点は問題ない。
問題なのは⋮⋮
﹁神器が武君に宿っているのは間違いないのだけど⋮⋮何か鎖のよう
なモノでがんじがらめにされてるのよね⋮⋮ご丁寧に南京錠まで付
いてるのが見えたわ﹂
武が学園に行って授業を受けている時、俺は夕麻からそう聞かされ
た。
どうやらこの夕麻、見えないモノを見る魔眼を持っているようで、
武の中に神器があるのを確認したと言う。
前回も所持してたかもしれないが、リアスに消し飛ばされてたか
13
ら、確認のしようがない。
⋮⋮眠そうな目で内股を擦り合わせて難しい表情をしていたので
俺は二人に赤飯を贈ろうと決意した。
まあ、それはおいといて⋮⋮
﹁って事は現状だとリアス・グレモリーが武を眷属に迎え入れる事は
ない訳だ。メリットが無い﹂
﹁そうなるわね。ところであんたが予言者の件。⋮⋮半信半疑だった
けど、信じるわ﹂
││堕天使共が裏切り者になったテメエに制裁を加えにやってく
る。一人になっても警戒を怠るな。
それが昨夜別れ際に夕麻へ伝えた予言︵普通に考えれば分かる事+
根回ししたのは俺︶。そして、それは的中し⋮⋮夕麻は九死に一生を
得たのだった。
﹂
そういえば、レイナーレ︵夕麻︶以外の堕天使を見てないな。あい
つも居なかったし⋮⋮
﹁⋮⋮なあ、トルテって堕天使じゃないのか
?
﹁トルテ
﹂
キョトン、とする夕麻。こういう顔は珍しい⋮⋮と思いながら﹃堕
天使にミッテルトはいないのか﹄と再度尋ねる。
﹁⋮⋮ああ、ミッテルトね。トルテなんて聞いた事ない名前だったか
﹂
ら⋮⋮ってそれはおいといて、上司のセクハラに反発してリストラさ
れたわよ。どうかした
彼女はそんな事は一言も⋮⋮﹂
空を見上げ、噴水に腰掛けていたのは水を吸って若干膨らんだゴス
﹁⋮⋮トルテ﹂
そして、そこに彼女は居た。
濡れる事はお構いないなしに俺は公園に向かった。
﹁⋮⋮そういえば、あの時もこんな雨降りだったな⋮⋮﹂
るのを覚悟して走るしかない。
帰路に着く途中、雨が降ってきた。傘など持って来てない俺は濡れ
﹁⋮⋮うわっ、降ってきやがった﹂
光線を発射する奴がいる。武に後程戦ってもらうつもりだ。
そう言って見覚えのある建物付近から離れる。建物の中には某、乳
﹁分かったわ﹂
い。放課後、此処に集合だ﹂
﹁ま、まあいい。それより武が神器を発現させない事には話にならな
⋮⋮地味に傷つくわー。
リアクションを期待していたが、スルーされた。
﹁⋮⋮﹂
えている方が異常だ﹂
﹁それは仕方ない。だって星が生まれる前に交わした約束だから。覚
新鮮だなぁ。
うろたえる夕麻。
﹁ちょっと待って⋮⋮嫁
く浣腸ぶっ刺しとくべきだった⋮⋮人の嫁に何してやがる﹂
﹁あのホモ野郎⋮⋮ゲイバーに放り込むだけじゃなく、ケツにいちじ
?
?
ロリを着た金髪ツインテールの少女だった。
14
?
﹁⋮⋮隣、良いか
﹂
近づき、声をかける。少女は無言で頷いた。
﹁⋮⋮よく降るな。五月雨って奴だな﹂
﹁⋮⋮そっすね﹂
ちらっと俺を見た後、再び空を見上げる。
﹁湿っぽいから⋮⋮一つ予言をしようか。実は俺、予言者なんだ﹂
﹁⋮⋮そっすか﹂
﹁ミッテルトと言う女の子は運命的な出会いをし、やがて幸せになる
でしょう。そして運命の相手もまた、一日千秋の思いを経て巡り会
い、誰もが羨む夫婦としていつまでも幸せに暮らすでしょう﹂
﹁⋮⋮そっすか﹂
全く信じていない、と言う訳ではなく⋮⋮ほんの少しだけ、予言通
りになれば良いな、と少女ことミッテルトは思った。
﹁予言は外れねえよ。俺の予言は百発百中。実を言うとな⋮⋮嬢ちゃ
﹂
んが此処に居るのも、居る理由も予言で知ったんだ﹂
﹁マジっすか⋮⋮
少しだけ声に元気が戻ってきたトルテが聞き返す。
﹂
﹁ああ。嬢ちゃんが此処に居るのは上司からセクハラされて反発し、
リストラされて行く当てもなくさ迷って辿り着いた。違うか
﹁当たってるっす﹂
﹁凄いっす。驚きっす。ガチの予言者なんすね
が見えなくて途方に暮れていたから。そうだろ
﹂
﹁で、そんな死んだ魚のような目をしているのは行く当てもなく、未来
同じように会ったからだし。
まあ、夕麻から聞いた事だけどな。公園に居ると思ったのは前回も
?
﹂
好物を前にして大人しくしていられない程、俺は飢えている、と言
も後悔した訳で⋮⋮
くっ、トルテは俺にとって﹃特別﹄な訳で⋮⋮護れなかった事を最
興奮して息がかかる距離まで近づいてきてる。
近い近い。顔が近い。
!? ?
15
?
?
えば分かるよな。
﹂
﹁もう一つ予言をしよう。ミッテルトの処女は予言者と出会ってから
すぐに野外で頂かれるでしょう﹂
﹁そ、それって⋮⋮﹂
何かを察したトルテが顔を赤くする。
﹁ミッテルト⋮⋮いや、トルテ。俺と家族にならないか
﹁⋮⋮不思議っすね。出会って間もないのに嫌じゃなくて⋮⋮寧ろ、
ウチからもお願いしたいと思ってるっす。まるで、そうなる事が当た
り前とでも言ってる感じっすね⋮⋮﹂
そう言うとトルテは俺に抱き着いてきた。
雨で互いに濡れているのに、抱き合った身体は火傷してしまいそう
に熱く感じた。
トルテは一度﹃火﹄が点くと積極的になる事を俺は身をもって知っ
ている。
﹁んっ、ちゅっ、ウチのファーストキスっすよ。ちゅぴっ、ふっ、ふ
あっ﹂
貪るように俺の唇に自らの唇を合わせるトルテ。それだけに留ま
らず、舌を絡ませて淫らな水音を奏でる。
﹁ちゅっ、ぴちゃっ、それは光栄だ。はむっ、ちゅぷっ﹂
負けじと応戦し、俺も舌を絡める。酸欠覚悟で互いに行為に没頭す
る。
⋮⋮とは言え、Dキスで死亡とか笑えないし、序盤で終わるのも惜
しい。まだまだこれからだし、俺達はもっと愛し合うんだ。
俺とトルテは目だけで以心伝心を果たし、名残惜しげに唇を離す。
銀色の糸が伸び、雨によって洗い流された。
││このトルテは俺が愛したトルテと違うと分かっていても、長年
付き添って会得したアイコンタクトを軽々と熟してしまう辺り、どう
しようもなく﹃懐かしく﹄なる。
でも、それは駄目だ。俺が護れなかった前回のトルテにも、護りた
いと思う今のトルテにも、失礼だ。
だから、俺は失った辛さを忘れず、二度と失わないと決意して﹃今﹄
16
?
のトルテを愛するんだ。
﹂
雨で体温が奪われるのを理解した上で俺とトルテは互いに服を脱
がし合い、裸を曝す。
﹁長引くと風邪を引くからな⋮⋮行くぞ
﹁大丈夫っす﹂
トルテが噴水の縁にしがみつき、顔を向けて頷く。それを確認した
俺は歳不相応に膨張した息子を秘部に差し込む。
﹁うっ、くっ⋮⋮マジヤバっす。外見にそぐわぬ強者っす⋮⋮﹂
まだ先端しか入ってないのだが⋮⋮
というか、この頃の俺の息子はこんなに強くないんだが⋮⋮何つー
か、戦闘力は低いくせに他の経験値だけは引き継いだ感じ。
例えるなら、強くてニューゲーム。
ただし引き継げるのは戦闘力に関係ないステイタス、図鑑、レシピ。
引き継げないのは戦闘力に関係あるステイタス、装備、CG集。
つまり、俺のステイタスはこんな所か
攻撃・1
防御・1
素早さ・1
魔力・1
精力・∞
家事・∞
交渉力・∞
演技力・∞
そうこうしている内に雨音が強くなり、これ以上はヤバイと判断し
た俺とトルテは行為を中断し、濡れた衣類を簡単に着る。
簡単=補導されないギリギリのラインで着崩す。パンツに至って
は穿いてない。
ト ル テ ⋮⋮ ゴ ス ロ リ の み。俺 ⋮⋮ ジ ャ ケ ッ ト に ズ ボ ン の み。互 い
に下着は身につけていない。
17
?
?
そしてトルテの手を引いて自宅に駆け込んだ。
余談だが、俺の両親は海外旅行に行っていたと両親からの電話で
知った。
﹄
⋮⋮武の影響か知らないが、所々俺の知らない状況が相次いでい
る。
﹃くしゅん
また、互いに風邪をひき⋮⋮武の神器発現は後日となった上に某、
乳光線を発射する奴は討伐されたと言う。
や っ ち ま っ た 。
18
!
愛しき君との出会いを思ふ
風邪を引いて寝込むと人は弱気になってしまう。
口が悪い俺も例外ではなく⋮⋮
弱気になった事で昔を思い返してしまっていた。
││◆││
グッバイ、俺の初恋。
そう言って天野夕麻への恋心を断ち切ろうとした俺。でも、初恋を
忘れる事は容易ではなく⋮⋮
アーシアが悪魔になる事で蘇った事は嬉しかった。でも、その一方
で夕麻の死を歎く俺が居て⋮⋮
リアス・グレモリーに忠誠を誓う俺
と
リアス・グレモリーに殺意を抱くスレた俺
る相手に認められてもらえると言っていた。あいつは優しさのカケ
ラもない自分勝手な奴だ。
19
が生まれていた。所謂二重人格と言うやつだ。
部長と言って甘えたり、セクハラを働く俺が居た。しかし、ふとし
た時に天野夕麻を殺したリアスに殺意を向けている俺も居た。
││天野夕麻は俺を殺した。リアスは俺を助けてくれた。
でも、交渉の余地は有ったんじゃないか
俺が夕麻の﹃助けて﹄を拒絶したのに交渉の余地は有ったのか
夕麻はアーシアの神器を奪って殺した。リアスは恩人だ。だから
て消されるのを恐れた俺は彼女の命をリアスに売ったんだ。
あの時拒絶したのはリアスが恐ろしかったからだ。下手に逆らっ
?
?
でもアーシアはレイナーレの行為に戸惑ってい
夕麻は死んで当然だ。
本当にそうか
俺とアーシアを殺したんじゃないか
?
それはない。だってレイナーレはアーシアの神器を使って心酔す
?
た。つまりそういう事だろう やむを得ない事情があって夕麻は
?
それが全て演技だとしたら
としたら
性は皆無に等しく⋮⋮
﹁⋮⋮最後は此処か﹂
今の俺達みたいに二重人格だった
それにしては傘も差さずに何をしているんだ
?
俺にとって思い入れの深い公園に足を踏み入れる。
﹁⋮⋮先客か
﹂
とは言え、リアスや眷属に滅ぼされた堕天使の生き残りが居る可能
生き残りを捜し始めた。
最終的に真実を知ると言う結論に行き着き、雨が降る中、堕天使の
何だか変な感じだ⋮⋮
鏡 を 使 っ て 互 い の 意 見 を 交 わ し て い た 忠 誠 を 誓 う 俺 と ス レ た 俺。
い。
天野夕麻、或はレイナーレの知人に会い真実を明るみにすればい
⋮⋮確かに一理ある。なら、どうする。
?
ただ、空を見上げていた。
﹁⋮⋮君、天野夕麻かレイナーレについて何か知らないか
?
﹁⋮⋮後者なら知ってるっすよ。今更、何を聞きたいんすか
﹂
﹂
降り続ける雨。噴水の縁に腰掛けた彼女はずぶ濡れになりながら、
?
⋮⋮﹂
﹁⋮⋮ や っ ぱ り 夕 麻 ち ゃ ん は 良 い 人 だ っ た ん だ な ⋮⋮ そ れ を 俺 は
前に私が殺す。大丈夫、機会を見計らって蘇生するから﹄と⋮⋮﹂
もアーシアも戦いに身を投じて欲しくない。だから、力を利用される
び水となって望まなくても戦いに身を投じる事になる。でも、一誠君
﹁先輩は言ってたっす。﹃力ある者は戦いを避けられない。それは呼
﹁⋮⋮﹂
力を利用されないために⋮⋮﹂
﹁⋮⋮全部、先輩が一人で行った事っす。お前とアーシアが身に宿す
実を知りたいと告げた。
空を見上げたまま、彼女は尋ねてきた。だから俺は事情を伝え、真
?
20
?
﹁⋮⋮後悔するよりもお前にはやる事があるっす。何か分かるっすか
﹂
﹂
此処にきて初めて俺と目を合わせた女の子。強気な目つきで俺を
真っ直ぐ見てくる。
﹁⋮⋮利用されないように自分をしっかり持つ、か
もあった。
││◆││
﹁んがっ⋮⋮﹂
﹁⋮⋮おはようっす﹂
﹁⋮⋮おう﹂
﹁ふふっ﹂
微 笑 む 俺 の 嫁。や っ ぱ り 可 愛 い な ぁ ⋮⋮ っ て あ れ
よな、俺達。
﹁吸い取った⋮⋮
﹂
熱はウチが吸い取ったっす﹂
寝 込 ん で た
﹁バリバリ全快っすよ。堕天使様々っすねぇ。あ、ちなみに御主人の
?
同時に、俺の二重人格がリアスに殺意を抱く者に固定された瞬間で
││それが、トルテとのファーストコンタクトだった。
す。それが、先輩亡き今、ウチに出来る事﹂
るっす。お前は演じる。苦しくて辛くなったらウチが癒してやるっ
﹁そ っ す。で も、そ れ は と て も 苦 し く て 辛 い。だ か ら 役 割 分 担 を す
?
スロリメイド服を着せて一緒に来てもらおう。
さて、そろそろ武の様子を見に行くか。トルテは⋮⋮髪を染めてゴ
どうりで頭が熱い=陽射しが強いと思ったよ⋮⋮
﹁⋮⋮まあ、直せば良いから気にするな﹂
﹁でも、放出先がまずかったっすね⋮⋮御主人の家半壊したっす﹂
⋮⋮やだ、俺の嫁。マジカッケエ︵笑︶
ねぇ⋮⋮﹂
砲﹄っす。先輩からは魔弾の射手とか大層な名前を付けられてたっす
﹁ウチの能力は熱を吸収し、波動エネルギーに変換して撃ち出す﹃魔
?
21
?
また、目を離して失いたくないしな。
││◆││
﹂
﹁あ、勇者様﹂
﹁何故に勇者
﹂
良くってよ
?
﹂
か
﹂
﹁はいっ。何か僕が頼んだら﹃ショトゥア最高
言って⋮⋮ショトゥアって何でしょうかね
!
そんなモノ聞いた事ないぞ
⋮⋮夕麻が言っていた南京錠を外すには鍵が必要なのか。しかし、
﹁⋮⋮確かに未知だな﹂
なる人の魂が宿って初めて使える未知のモノみたい⋮⋮﹂
﹁うーん⋮⋮リア姉ちゃんも言ってたけど、何か僕の神器って﹃鍵﹄と
すれば良い。後、神器を使えるようになる事だな﹂
﹁それは気にしない方が良いぜ。今後だが⋮⋮リアスに従って行動を
⋮⋮リアスはショタコンだったのか。
﹄とか
﹁僕にとっては勇者様だから、かな。後⋮⋮次はどうしたら良いです
奴。
待ち合わせ場所に行くと、武が居た。討伐相手は居ないのに律儀な
?
⋮⋮もしかしてリアスの眷属になれたのか
﹁次
?
武の模擬戦が今、始まる。
フを取り出し、逆手に構える。
トルテが一誠の指示で太ももに付けたナイフホルスターからナイ
﹁まあいい。だったら今から模擬戦をして地力を鍛えるぞ﹂
ちょ、リアス⋮⋮主従逆転してんじゃねえか。
護ってくれるから心配はないんだけどね﹂
﹁まあ、リア姉ちゃんは何故か僕が怪我しそうになったら身を挺して
?
22
?
!
?
双覇一刀龍
模擬戦が始まり、武は考えが甘かった事を思い知らされた。
それに加え、油断していた。相手はメイド。メイドとは奉仕する存
在。
武は﹃戦える﹄メイドの存在を知らなかった。故に﹃戦えない﹄と
思い込み、逃げ続けてスタミナ切れによる降参を狙っていたのだが
⋮⋮
﹂
﹁とりゃあっす﹂
﹁わあああぁ
何 で あ ん な に ヒ ラ ヒ ラ し た 服 で こ ん な に も 速 く 動 け る ん だ ろ う
⋮⋮そんな事を思いながら武はトルテの繰り出した技﹃魔焔拳・双打﹄
をマトモにくらい、吹っ飛んだ。
﹁⋮⋮﹂
そして、二人の様子を見ていた俺はトルテが打撃戦を挑んだ事に軽
く驚いた。前回は槍を巧みに使っていたし⋮⋮
同時に何の抵抗もなく吹っ飛んだ武に軽く失望も覚えた。
││主人公は大きく分けて三つのパターンがある。
この世に生誕した際に特別な力を持つパターン。
生誕した際は弱いが、追い詰められて覚醒するパターン。
生誕した際も、追い詰められても何も変わらないパターン。
しかし、何れも最終的には世界を救ってたりする。その理由は力・
知恵・勇気・特殊能力諸々が良い方向に働いたからだ。
だが、武は違う。何かあるかもしれないが⋮⋮一向にそれが見られ
ない。
トルテが容赦なくボコるが、一般人と同じ、否、それ以下。される
がままにボコられ、主人公補正が全く働いていない。
﹂
﹁学習系・蓄積系・反撃系⋮⋮どれも違う。もしかして武は主人公じゃ
ないのか
23
!
そんな事思いたくないが⋮⋮可能性としては有り得る。﹃主人公に
?
は主人公にしかない力がある﹄と言うのが王道だ。実際、俺が主人公
だった頃は主人公だけの力が有ったからな。
それは言わずと知れた赤龍帝の篭手。あれが主人公の証だと俺は
思う。
﹁弱すぎっす﹂
やれやれと肩を竦めて俺の方に歩いてくるトルテ。それに対して
武は仰向けに倒れたまま身動き一つしない。胸が上下しているので
生きてはいるようだが⋮⋮
﹁お疲れ。紅茶を煎れといたから﹃冷えきった﹄身体を暖めな﹂
いつの間に用意したのか、長机が置かれており、更にティーポット
とティーカップも置いてあった。
ティーポットからティーカップに手慣れた動作で紅茶を注ぐと色
素が抜け落ち、真っ白になっていたトルテに手渡す。
24
﹁有難うっす。でも御主人、これでは立場が逆っす﹂
頬 を 膨 ら ま せ て 抗 議 す る ト ル テ。テ ィ ー カ ッ プ を 持 っ た 手 か ら
徐々にだが、色素が戻っている。
トルテは熱を吸収して放出する能力を持つ。それを利用する事で
使う技は体温︵熱︶を消耗する。その代わり、炎属性の特徴である﹃攻
撃に特化﹄した一撃をお見舞い出来る。
﹂
ただし、やり過ぎると体温が無くなって冬眠する。現在の真っ白い
姿はその一歩手前を表す。
﹁で、トルテから見て武はどんな感じだ
こえ、ステイタスが倍加した。武の﹃Dragon﹄もその類だとし
赤龍帝の篭手を使った際、
﹃BOOST﹄と言う音声が10秒毎に聞
そう返しながら、俺は一つの可能性を考えていた。
﹁確かに怖いな﹂
Dragonと呪詛のように聞こえたのが怖いっす﹂
けて焦げないのは凄いっすね。後⋮⋮攻撃受けた際にDragon、
﹁そっすね⋮⋮一言でいえば﹃弱い﹄っす。でも、ウチの魔焔を浴び続
自分の紅茶を煎れ、冷ましながら一口飲み、尋ねる。
?
たら
ダメージを攻撃力に換算する神器だろうか
もないが⋮⋮
聞いた事も見た事
﹁悩んでいても仕方ねえ。武、今日は此処までだ。早く立て﹂
起き上がるように催促するが、指がピクリと反応しただけで起き上
がる事はない。
﹁やり過ぎたっすかね⋮⋮﹂
﹁少々な﹂
バツが悪そうな顔をしたトルテに言葉を返し、起き上がらない武に
手を差し延べる。
バチィッ
た。
トルテ、何か言ったか
││Noble
﹁ん
﹂
﹁何も言ってないっす。何か聞こえたっすか
﹁ああ、Noble││﹂
││Dragon
││CrossDrive
?
?
いた。
﹁わわっ、御主人
﹂
倒れる一誠の身体を慌てて抱き留めるトルテ。
ウチみたいに冷たいっす
!?
﹄
蒼い刀が飛来し、トルテの額に刺さった。
﹃待て待て
そしてナイフを自分の心臓に突き立てようとした時││
﹁ご、御主人が死んだならウチも⋮⋮﹂
のショックで治ったばかりの血の気が引いていった。
慌てて一誠の額や手の平に触るが、まるで死人のように冷たく、そ
!?
!?
﹁⋮⋮御主人の身体が冷たいっす
﹂
﹃CrossDrive﹄と言う言葉が聞こえた途端、俺の意識が遠退
﹁って⋮⋮﹂
﹂
触れた指先から全身に激しい電流が駆け巡り、思わず顔をしかめ
!
!
25
?
?
?
﹁ぎゃおっす
﹂
﹃斬新な悲鳴だな。取り敢えず分かった事を言っておくぜ。俺の魂が
本体を離れて武の腰に現れた刀に吸い込まれてたんだよ⋮⋮だから
魂を失った本体は死人みたいにな⋮⋮﹄
そう言って浮遊する刀からは確かに一誠の声がしていた。ポカン
とするトルテだったが、理由を知ってホッと胸を撫で下ろした。
⋮⋮トルテにとって一誠はナニモノにも換えられないものとなっ
ており、死んだら後を追うのは確実である。
﹃⋮⋮恐らく、これが武の神器だろうな。聞いた事も見た事もないが
⋮⋮多分こういう事だ﹄
刀が床にゴリゴリと字を書いていく。
そこには次のような事が書かれていた。
・武がダメージを受ける毎に﹃Dragon﹄の音声が聞こえる。そ
れが神器にエネルギーを蓄積してる事を表す。
・武と親密な関係になったものが触れた時、神器にエネルギーが溜
まっていた場合、相手を表す名称が音声として聞こえ、双方認識の元、
神器が発動する。
・神器が発動すると、相手の魂は本体を離れて具現化した神器に吸
い込まれる。本体は魂を失った事で死人になるが、魂があれば蘇生は
可能。
・以上の事から俺は武の神器を﹃双覇一刀龍﹄と名付ける。
・由来は
﹃双覇﹄やがて覇道を歩む双方。
﹃一刀﹄具現化された神器が一振りの刀。
﹃龍﹄武から聞こえる音声が﹃Dragon=龍﹄。
・最後に、あくまで推測である事を忘れないように。また、親密な
関係っていうのも誤解しないように。
・俺↓手の掛かる弟みたいなもの。
武↓尊敬する勇者様
26
!
これも一つの親密な関係になると思われる。故に神器が発動した。
﹃何故、Nobleなのかは分からねえがな⋮⋮﹄
﹁そっすね﹂
27
転入とやり直しの真実
双覇一刀龍を発動させると傷の治りも早くなるようだ。
瀕死状態だった武は何事も無かったかのように学園に向かい、今は
HRを受けている。
その一方で俺は武に頼まれたのもあるが、今の所神器の発動条件を
転校生は男と女だ
﹂
満たしたのが俺だけと言う意味で近くに居た方が良いと判断した。
つまり、そういう事だ。
喜べクズ共
!
││◆││
﹁転入生を紹介する
!
﹄と言う声と共に放たれたチョークに撃ち抜かれて静まり
﹂
!
スなやり取りに肩を竦めていた。
俺が居た世界とまるで違うぞ
?
か﹃やり直し﹄ではなく﹃パラレルワールド﹄に迷い込んだのか
⋮⋮というか、何だこれ
まさ
教室の外で待機していた転入生二人は室内で繰り広げられるカオ
﹁言ってやるな⋮⋮﹂
﹁⋮⋮何すかね、このカオス﹂
どうやら、ロクでなしと何かあったようだ。
あのロクでなしめ、今度会ったらシメる
﹁全く⋮⋮何で私がこんなクズ共の教師をしないといけないんだ⋮⋮
この口調に容姿⋮⋮彼女はリズリザ。﹃あのリズリザ﹄である。
お分かりだろうか
返ると言う出来事があった。
れクズ共
その直後、男子生徒と女子生徒が歓喜の叫び声をあげ、教師の﹃黙
を合わせながら言った。
子供にしか見えない金髪の教師が浮遊魔術を使って生徒達と目線
!
?
入生二人は室内に足を踏み入れた。
人知れず危惧していると室内から﹃入れ﹄と言う言葉が聞こえ、転
が難しくなるかもしんねえ。
だとしたら⋮⋮やべえ。何が起きてもおかしくないから、
﹃護る﹄事
?
?
28
!
││◆││
﹁訳あって駒王学園へ転入する事になった兵藤一誠だ。まあ、宜しく﹂
﹂
﹁同じく。ウチはトルテっす。野良メイドだった所を御主人、一誠に
スカウトされてメイドになったっす。主人ともども宜しくっす
事前に打ち合わせた通りに自己紹介をする。
さりげなく室内を見渡すと一人だけペロキャンを舐めるのに夢中
!
つーか、何か目つきキツくね
な白髪の女の子と﹃猫耳にしか見えない白髪﹄をした女の子と目が
合った。
一人は分かるが、もう一人は誰だ
何もしてないのに睨まれてる気がして嫌な感じだ。
?
自己紹介を終え、俺は白髪女子二人に挟まれる形で空席に座り、ト
ルテは﹃金髪ドリル﹄の隣の空席に座った。
図にすると
黒板
教壇
席 席 席 席
席 席 ドリル トルテ
席 白猫① 俺 白猫②
﹂
と言いたい所だが、クズ共はクズを気にして
席 席 席 席
と言った感じだ。
﹁早速授業を始める
るみたいだから質問時間とする
小生意気な幼女って感じがして寧ろ微笑ましい。
さて、予想通りの質問責めが始まるぞ。ククク、受けて立つ
││◆││
キーン⋮⋮
が終わりを迎えた。
チャイムが壊れているのか⋮⋮金的効果音と共に地獄の質問責め
!
クズ、クズと酷い教師が居たものだ。まあ、見た目が見た目だから
!
!
29
?
﹁し、死ぬ⋮⋮何だ、あのモンスターガール共は⋮⋮っ﹂
前回の俺はエロ三昧で嫌われてたが、それをやめた結果、こうなっ
た。
つまり、俺の見た目は良いらしい。だが、エロかったから前回は嫌
われていたと言う話。
聞いた話では﹃エロくなかったら付き合っても良い﹄と言っていた
女子が半数くらい居たと言う。
ちなみに情報源はクラスに溶け込んだアーシア・白音・レイヴェル
だ。
﹁⋮⋮どうぞ﹂
﹁あ、ああ⋮⋮さんきゅ﹂
シュワード﹄と書かれた飴玉を手渡してきた。お礼を言っ
ペロキャン︵五本目︶を舐めながら白猫その①こと塔城小猫が﹃疲
れに効く
てズボンのポケットにしまう。
ちなみに本名は白音。名前が変わってると言う事は、前回と同じ過
去を歩んでいるのだろう。こればかりは仕方ない。
俺が目を覚ましたのは夕麻とのデート当日。それよりも前に白音
は不幸な目に遭っている。
もしも、その場面に立ち会えたなら⋮⋮死力を尽くして助けていた
さ。
もう一度言う。こればかりは仕方ない。
﹁はぁ⋮⋮リズリザ先生はあの駄目教師と違って立派だわ。教え方も
巧い、魔術実戦も巧い、それにあの容姿。最高だわ﹂
白猫その②ことシスティーナが感極まった感じに呟き、
﹃鼻血﹄を垂
らしていた。⋮⋮俺は見なかった事にした。
関 わ る と や ば い 。
││◆││
昼休み。俺は屋上で黄昏れていた。
幸い、授業レベルは俺が居た世界と変わらなかった。遅れはとらな
くて助かった。
30
!
ただ一部を除いては。
魔術教科って何だよ⋮⋮魔力が皆無に等しい﹃今﹄の俺がマトモに
魔術を使えると思っているのか
無理に決まってんだろ
!
楽しくて女の衣類を粉砕してたのやら⋮⋮
だってよ、
﹃親密な関係になれば﹄頼むだけで見せてくれるんだぜ
あったな。
・主人公より脇役が目立つ。
・主人公を上回るハーレム。
・主人公覚醒の踏み台
・大抵死ぬ
⋮⋮補正が働いたりして死にたくねえなぁ。
ガチャ。
屋上に続く扉が開かれ、トルテ+三名が現れた。
﹁御主人。皆もお昼ご一緒したいそうっすよ∼﹂
﹁⋮⋮くよくよすんなよー﹂
﹂
﹁わ、私も魔術教科は散々でしたの。だから心情お察ししますの
﹁最初は皆躓くものよ。私もそうだったから﹂
﹁お、おお⋮⋮さんきゅ。慰めてくれてるんだよな
⋮⋮これ、脇役補正か
﹂
まだ出会って間もないのに女子三人が俺に気を遣うとか⋮⋮つー
?
!
そ う い え ば ⋮⋮ 主 人 公 補 正 以 外 に も 脇 役 補 正 っ て の も 物 語 に は
良いだろ
わざわざ嫌われるような事するより双方嫌な気分にならない方が
?
まあ、もう使わないけど。何つーか⋮⋮冷めた。あの頃の俺は何が
衣技だからなぁ。
あれか。ドレスブレイクの経験が生かされたからか。あれは﹃脱﹄
ただ、どういう訳か﹃脱﹄がつく魔術は普通に使えるんだよな。
赤龍帝必殺のドラゴンショットも米粒規模だったのに⋮⋮
!
?
31
?
か、白音。テメエ、そんな口調だったか
トクンッ⋮⋮
少しときめいちまった。
小猫︵白音︶
好感度+
レイヴェル
好感度+
システィーナ
好感度+
トルテ
好感度MAX
と言った所か
?
レ イ ヴ ェ ル が 既 に 駒 王 学 園 に 居 る 事 と か、気 に す る の は や め た。
色々と違い過ぎてツッコミきれねぇ⋮⋮
32
?