® 2016 年 1月号 医療の最新情報をピンポイントで伝える 2016 年度診療報酬改定の 基本方針が決定 2016 年度診療報酬改定の議論が、いよいよラストスパー トの段階に入りました。社会保障審議会 (社保審) 医療部会・ 医療保険部会による「基本方針」が中央社会保険医療協議 そのポイントを 読み解く 会(中医協)に示され、改定率はネットでマイナス0.84%、 本体はプラス0.49%で決着しました。これから諮問、答申、 Q&A の公表と続きますが、これまでの議論のなかで示さ れた方向性について、確認しておきましょう。 POINT 1 改定の基本方針 の取り組み等を通じた医療従事者の 負担軽減・人材確保、③地域包括ケ アシステム推進のための取り組みの 月 7日に社保審医療部会・医 を実現する視点、▽重点的な対応が 強化、④質の高い在宅医療・訪問看 療保険部会で取りまとめられ 求められる医療分野を充実する視 護の確保、⑤医療保険制度改革法も た「2016 年度診療報酬改定の基本方 点、▽効率化・適正を通じて制度の 踏まえた外来の機能分化――を挙げ 針」 が、9日に中医協に示されました。 持続可能性を高める視点――の 4 つ ています。 重点課題として「地域包括ケアシス の視点を挙げています。 改定率については、主に財務省サ テムの推進と医療機能の分化・強化、 重点課題ではさらに、具体的な方 イドからの「マイナス改定」圧力が強 連携に関する視点」を掲げたほか、 向性の例として、①医療機能に応じ かったものの、何とか本体プラスは ▽患者にとって安心・安全で納得で た入院医療の評価、②チーム医療の 維持した格好です。 きる効果的・効率的で質が高い医療 推進、勤務環境の改善、業務効率化 POINT 2 入院医療のポイント ● 7 対 1入院基本料 認知症患者への対応として、 「多職 種で構成されたチームによる、認知 症症状の悪化予防や身体拘束廃止、 となる重症患者割合を22%から28% 早期からの退院支援などの取り組み 10 月号で紹介した一般病棟 7 対 1 とした場合の、 届け出病床数のシミュ を支援」 することを評価する方向性も 入院基本料における「重症度、医療・ レーションを中医協に提示していま 示しています。 看護必要度」については、その後の す。25%を軸として議論が進んでい 中医協の議論のなかで、さらに変化 ます。 しています。 また、7 対 1についてはこのほか、 ● DPC/PDPS DPC/PDPS(診断群分類別包括支 A 項目、B 項目に加え、 「手術等の 平均在院日数の短縮や、在宅復帰率 払い方式)の改定については、中医 医学的状況」を評価するM 項目を新 の計算式の見直しなども提案されて 協の診療報酬調査専門組織である たに設け、重症者の定義を 「A 得点が います。7 対 1から10 対 1に移行する DPC 評価分科会での議論を経て、基 2 点以上かつ B 得点が 3 点以上」 「A 得 場合に、経過措置として病棟単位で 本問題小委員会、さらに総会で議論 点が 3 点以上」 「M 得点が 1 点以上」の の入院基本料の届け出を認める方針 されてきました。主なポイントは、 いずれかを満たす患者と例示しまし も示されています。 ①基礎係数(医療機関群に関連する た(表 1) 。そのうえで、要件で基準 1 身体疾患の治療のために入院する 事項)の見直し、②機能評価係数 I・ ® 2016年 1月号 表 1 一般病棟における重症度、医療・看護必要度の見直しの考え方 A モニタリング及び処置等 1 創傷処置 (①創傷の処置(褥瘡の処置を除く)、②褥瘡の処置) 2 呼吸ケア (喀痰吸引の場合を除く) 0点 1点 なし あり なし あり 3 点滴ライン同時 3 本以上の管理 なし あり 4 心電図モニターの管理 なし あり 5 シリンジポンプの管理 なし あり 6 輸血や血液製剤の管理 なし あり 1 寝返り ②抗悪性腫瘍剤の内服の管理 ③麻薬の使用(注射剤のみ) ④麻薬の内服・貼付、坐剤の管理 なし あり ⑥免疫抑制剤の管理 ⑦昇圧剤の使用(注射剤のみ) ⑨抗血栓塞栓薬の持続点滴の使用 ⑩ドレナージの管理 ⑪無菌治療室での治療 2点 できない ない はい いいえ ある できる 見守り・一部 介助が必要 できない 5 口腔清潔 できる できない 6 食事摂取 介助なし 一部介助 全介助 7 衣服の着脱 介助なし 一部介助 全介助 M 手術等の医学的状況 ① 開胸・開頭の手術 (術当日より5〜7日間程度) ② 開腹・骨の観血的手術 (術当日より3〜5日間程度) ③ 胸腔鏡・腹腔鏡手術 (術当日より2〜3日間程度) ④ その他の全身麻酔の手術 (術当日より1〜3日間程度) 0点 1点 なし あり 重症者の定義 ⑧抗不整脈剤の使用(注射剤のみ) 8 救急搬送(搬送日より1 〜 2 日間程度) 1点 何かにつかまればできる 3 診療・療養上の指示が通じる ①抗悪性腫瘍剤の使用(注射剤のみ) 0点 できる 2 危険行動 4 移乗 7 専門的な治療・処置 ⑤放射線治療 B 患者の状況等 2点 なし あり なし あり A得点が2点以上 かつ B得点が3点以上の患者 又は A得点が 3点以上の 患者 又は M得点が 1点 以上の患者 出典:厚生労働省「中央社会保険医療協議会総会(第 318 回) 」資料 II の見直し、③算定ルール等の見直 し、④退院患者調査の見直し、⑤診 断群分類の見直し――の 5 項目。 「病院情報の公表」を評価することも 検討することを提案しています。 機能評価係数Ⅱを構成する各係数の 配分(重みづけ)については、各係数 さらにカバー率指数については、 の分散の度合いが均等になるよう調 ①の基礎係数に関しては、DPCⅡ 専門病院・専門診療機能に一定の配 群病院の「実績要件 3」の「高度な医療 慮を残したうえで、機能がより反映 臨床研究中核病院を機能評価係数 技術」に、 「特定内科診療(2014 年度 されるよう調整を求めています。地 Ⅱで評価すべきかについては、厚労 版) 」所収の 25 疾患の診療実績を加え 域がん登録については、法律で義務 省は「臨床研究中核病院としての承 る。これまで、外科系については外 化されるため評価の廃止を求めてい 認を受けることを、 『高度・先進的な 科系学会社会保険連合による「外保 ます。このほか、▽後発医薬品指数 医療の提供機能 (高度・先進性) 』 とい 連試案」を用いて評価してきました。 の評価上限を、使用割合 60%から う観点から評価する」 と提案しました これに、内科系の技術の評価を加え 70%にする、▽診断群分類では十分 が、診療側が強く反発しています。 るということになります。一方、基 評価されない重症度の高い患者の入 また、MDC01 (脳梗塞) 、MDC04 (肺 礎係数の見直しについては、16 年度 院を評価する新たな係数を設ける― 炎) 、MDC10(糖尿病)への重症度を 改定では見送りとなりました。 などがほぼ固まっています (表 2) 。 考慮した評価手法(CCP マトリック 機能評価係数Ⅱの見直しでは、▽ 診療密度や高度医療の実施などⅡ群 の実績要件 4 項目のうち一定の項目 で大学病院本院より機能が高い分院 こうした各論を踏まえたうえで、 整する (係数標準化) としています。 ス) の試行的導入を予定しています。 表 2 機能評価係数Ⅱの見直しの概要 現行 2016年改定 係数標準化 ① 保険診療指数 →見直し ① 保険診療指数 × ② 効率性指数 現行通り ② 効率性指数 ○ ③ 複雑性指数 現行通り ③ 複雑性指数 ○ ④ カバー率指数 →見直し ④ カバー率指数 × ⑤ 救急医療指数 現行通り ⑤ 救急医療指数 × ついて、機能評価係数Ⅱの保険診療 ⑥ 地域医療指数 →見直し ⑥ 地域医療指数 × 指数を減算する方向性を示しまし ⑦ 後発医薬品指数 →見直し ⑦ 後発医薬品指数 ○ ⑧ 重症度指数 △ を持つ本院、▽Ⅱ群の選定要件決定 の際に外れ値に該当した本院、▽精 神病床、医療保護入院の有無―の 3 つのいずれかに該当する医療機関に た。また、2017 年度より機能評価係 数Ⅱにおける保険診療指数の中で 新設 ※重症度指数の標準化を行うかは今後、実際に改定に用いるデータで検討 出典:厚生労働省「中央社会保険医療協議会総会(第 320 回) 」資料 2 ® POINT 外 2016年 1月号 ました。 3 外来診療と在宅医療 そこで厚労省は、 「同一日」を基準と 来診療における主治医機能の る療養上の指導を含め、継続的かつ 評 価については、2014 年度 改 全人的な医療を実施するとともに、多 定で、地域包括診療料や地域包括診 剤投与などの薬剤の投与を適正化し 療加算が新設されました。しかし、特 つつ適切な服薬管理を行う場合につい に地域包括診療料に関して届け出てい ては、主治医機能として評価」すること る医療機関が93 施設 (15 年 7月) と少な を提案しています。 く、要件の見直しなどの議論が進めら れてきました。 するのではなく、例えば、 「1 人」 「2〜9 人」 「10 人以上」 というように同一建物で 訪問診療を行っている人数を基準に報 酬を設定する提案をしています (図) 。 また、幅広い診療実態があるとし て、患者の重症度を在宅医療の報酬 に反映することも提案しています。 在宅医療に関しては、 「大きな枠組 例として、長期にわたって医学管理 みの転換」が予想されています。 1 つは、認知症への対応をより幅広く ポイントは、 「居住場所」と 「患者像」 考えるということです。認知症施策推 です。2014 年度改定で、同一建物へ 進総合戦略(新オレンジプラン)では、 の同一日の訪問について、特定施設 かかりつけ医の役割について「日常的 入居時等医学総合管理料(特医総管) な生活管理や必要な介護サービスを家 や在宅時医学総合管理料(在総管)の 族とともに検討し実現すること」 も重要と 報酬が大きく減額されました。その影 指摘。 こうしたことに対応し、 「高血圧症、 響からか、 「同一日」を避けるために訪 糖尿病、高脂血症以外の疾患を有す 問日調整を行い、高い点数を請求して る認知症患者に対して、介護に関連す いる「非効率」が広く行われるようになり の必要性が高い疾病・処置等として 「週 4 回以上の在宅患者訪問診療料算 定を認める疾病(診療報酬点数表に おける別表 7) 」や「退院時共同指導料 の特別管理加算算定を認める状態 (同別表 8) 」などが、評価すべき状態 として挙げられます。 これらを取り入れることにより、訪問 人数と重症度でクロス評価されて診療 報酬が決まることになります。 図 患者の状態及び居住場所に応じた評価の考え方 〜在宅時医学総合管理料(在総管) ・特定施設入居時等医学総合管理料(特医総管) ・在宅患者訪問診療料〜 【現行】 【イメージ】 在総管・特医総管 在総管・特医総管 同一建物居住者以外の場合 集合住宅内の診療患者数 同一建物居住者の場合 診 察 人 数によって細 分 化 [ 対象施設 ] 在総管:戸建て住宅・アパート・団地等及び特定施設等以外の高齢者 向け集合住宅 特医総管:特定施設等 重症患者 (月2回以上訪問) その他 (月2回以上訪問) その他 (1回訪問) [ 対象施設 ] 在総管:戸建て住宅・アパート・団地等 特医総管:特定施設等及び特 定 施 設 等 以 外の高 齢 者 向け集 合 住 宅 【現行】 【イメージ】 在宅患者訪問診療料 在宅患者訪問診療料 訪問診療料1(同一建物以外) 訪問診療料1(同一建物以外) 訪問診療料2(特定施設等) 訪問診療料2(同一建物) 訪問診療料3(上記以外の同一建物) 出典:厚生労働省「中央社会保険医療協議会総会(第 312 回) 」資料 まとめ 2016 年度診療報酬改定は、介護報 であるはずです。 改定の点数に一喜一憂するのでは 18 年改定に比べれば「小振り」な改定 なく、18 年度改定からさらに 2025 年 酬との同時改定である18 年度改定の であることは間違いないでしょう。 までを見据えて対応することが求め 「前哨戦」とも位置づけることができ しかし、今次 16 年度改定の内容は、 られるでしょう。 ます。大胆な変革が行われるはずの そのまま18 年度改定につながるもの 3 はテルモ株式会社の商標です。TERUNET、テルネットはテルモ株式会社の登録商標です。Ⓒテルモ株式会社 2016 年 1 月 15MI 039 はテルモ株式会社の商標です。TerumoMedicalPranex、 テルモメディカルプラネックスはテルモ株式会社の登録商標です。 © テルモ株式会社 2015 年 1 月 4
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