充填層型反応器による UT-3サイクル 鉄系反応の繰り返し反応試験

水素エネルギーシステム
Vo1
.18,No.2,1993
研究論文
充填層型反応器による UT-3サイクル
鉄系反応の繰り返し反応試験
※今川健一,染谷公洋,山本協子,亀山秀雄
東京農工大学工学部
〒184 東京都小金井市中町 2-24-16
Cycle tests on the UT-3 hydrogen production process on iron
related reactions in a packed bed reactor
Ken-iti IMAGAWA,Kimihiro SOMEYA,Kyoko YAMAMOTO,Hideo KAMEYAMA
Cycle reactions of the UT-3 between bromination of magnetite and
hydrolysis of ferrous bromide in the reaction pellet were studied
with packed bed reactor. (
1
) 1n the early stage of the bromination,
some delaying was observed in the production of Br2・ The delay was
shortened as the number of the cycle proceeded. (
2
) H2 and HBr were
produced steadily and stoichiometrically in the hydrolysis・ (
3
)
About 50% of produced Brz was shown to be trapped in the bed during
the bromination, and the trapped Br2 was released by purge with N2・
A new type reactor was proposed,
which enables to separate Br2 and
,effectively.
HBr using trapped Br2
1.緒言
本研究が扱う UT-3サイクルは以下の反応式で、示すように、鉄およびカルシ
ウム化合物の臭素化・加水分解反応を組み合わせて 700t以下の温度で水の熱化
学分解を行い、水素を製造するプロセスである1)。このサイクルの特徴は輸送を
要する物質が気体のみで国体反応物を動かす必要がないため物質分離の問題が回
避できる点にある。当研究室ではこの UT-3サイクルの鉄系の反応 (
3
),(
4
)に
ついて安定した反応性を示す反応国体の調製法的、反応速度 4)、プロセスシミュ
レーション 2)について研究を行なってきた。しかし、充填層における繰り返しが
生成物生成速度に与える影響については未だ検討がされていない。そこで本研究
では充填層において一定条件下での繰り返し反応を行い、層内で進行する反応の
解析を行うことを目的にしている。
7
0
0't
CaBr2(
s
) + H2
0(
g
) 軍司+
CaO (
s
) + 2HBr(
g
)
(
1
)
6
0
0't
(
2
)
CaBr2(
s
) +1/202(
g
)
s
) + Br2(
g
)
CaO (
2
2
0't
(
3
)
3FeBr2(
s
) + 4H2
0(
g
)+Br2(
g
)
Fe304(
s
) +8HBr(
g
)
5
6
0't
(
4
)
Fe304(
s
) + 6HBr(
g
)+ H2(
g
)
3FeBr2(
s
) +4H2
0(
g
)
ー
l
砂
一ー暑
一一争
-44-
水素エネルギーシステム
Vol
.18,No.2,1993
研究論文
2
.実験方法
2
. 1 反応国体の調製
粉末(モル比で、 1:
r
Oz
4
.2
:4
.2
)
使川したベレットは Fe30
4粉末、シリカゾル、 Z
を原料とし、アミルらによって報告された方法 3)によって調製した。これに
40wt略のグラファイトを加え湿式混合した後、炭酸アンモニウムを加えてゲノレ化
した。これを直径 4mmの球状ベレットに成形した。ベレットは常温で 24日寺間乾燥
0
0
0
させ、 400Cで 1
時間、 800Cで 1
時間、 1180Cで6時間焼成を行った。焼成によっ
て Fe304はF
e
Z03となるのでまず反応 (
5
)を行し、臭素化し、これを加水分解すること
、
でF
e
3
0
4とした。このサイクルを 0サイクルとして、 1サイクル以後は反応 (3λ(4)
の繰り返しにより試験を行った。
FeZ03(
s
) +6HBr(
g
) → 2FeBrz(
s
) + 3
Hz
O(
g
)+Brz(
g
)
(
5
)
2
.2 実験方法
装置の概略を F
i
g
.1に示す。内径
22mm、長さ lOOOmmの石英ガラス製 J
2
2
2
3
%
)
の反応管に層高 10cm(34.4g)となる 日高
ようにべレットを充填した。臭素
3
)で、は HBr(d=l
.47,
HBr
化反応 (
47wt覧)O.5ml/minをN2(500ml/min)
0
で希釈し、 220Cで反応を行った。
N21
0
0m
l
/
m
i
n
加水分解反応 (
4
)では同様に O
.5
で、希釈し、
ml/minのHzO(
Ii
q
)をN
z
1
. E、
'
a
p
o
r
a
t
o
r
rz:陀a
c
t
o
r(
L
D22mm,
H1
0
O
O
m
m
)
2
.Qua
560Cで反応を行った。昇温及び峰
3
.F
u
m
a
c
e
ガスを流通した。反応に
z
fig.1Experimental Apparatus
温中は N
よって生成する B
r
z
'HBrは吸収瓶で、
サンプリングした。臭素化時には生成する Brzと未反応の HBrを、加水分解時には
、 Brzは吸光光度法、 HBrは臭素イオン電極、 H
発生する HBr・H2を
zは水素メータ
ーによって測定した。
0
3
.結果・考察
3
.
0
3
.1
臭素化反応
ーペテー 1
s
t c
y
c
l
e
Fig.2は臭素化反応における s
r
z生 ‘
ト
-召・2
nd c
y
c
l
e
成パターンのサイクルによる変化を 国
ー 令 -3
r
dc
y
c
l
e
.
0
-)
(-4
t
hc
y
c
l
e
示している。横軸は反応開始からの 。弓 2
-・+・咽 5
t
hc
y
c
l
e
ミ
時間、縦軸は発生した Brz
の生成速度 s
向。
圃富
で、める。これより以下の現象が観察 田
。マ
された。 B
r
2は反応開始後すぐに発生 望。1.0
するのではなく、立遅れがあった。
て2
。
サイクルの繰り返しに伴し市 r2の発生 晶
までに要する時間が短くなり、問時
0
にBr2の発生量が減少した。
o 20 40 60 80 100 120
Time (
m
i
n
]
これらの現象については以下のよ
Fig.2 Effect of cyclc history on the
うに考察している。
』
匂 圃 回
=.
~~
』
production ratc of Br2 at bromination
FhU
A吐
水素エネルギーシステム
研究論文
Vol
.18,No.2,1993
a.Br2発 生 の 立 ち 後 れ
これまでに反応 (
3
)と並行して進む反応として臭素吸収反応と呼ばれる反応
(
6
),(
5
)が報告されている 2)。
3Fe304 + Br2
→
FeBrz + 4Fe203
(
6
)
Fe203 + 6HBr
→ 2FeBr2 + 3H2
0 + Br2
(
5
)
充 填 層 の 入 口 部 分 で 発 生 し た Br2が充填層後部に存在する未反応の Fe304と反応
(
6
)を行うため、反応初期には反応器出口のガスに Br2の発生が見られない。その
後反応 (
5
)により Br2が生成するために反応管出口で、は Br2の発生が遅れるものと
考えられる。
b
.臭素発生速度および発生量のサイクルによる変化
FeBr の 昇 華 ・ 凝 集 に よ る 反 応 面
2
.
0
2
e
a
c
t
e
dHBr
図 r
積の変化、昇華による反応成分の減 ー
少が原因として挙げられる。加水分
g1.5
0
主
解 反 応 温 度 の 560Cでは FeBr2は昇華
しやすく、また昇華した FeBr2が加
.0
と 1
ヨ
水 分 解 に よ っ て Fe304となる際に微
細粒子化したり、この微細粒子が凝
…
)。また、
集するという報告がある 4
昇華による鉄化合物の減少を確認す
0
るために臭素化時に反応した HBrの
hd
3吋
4
t
h
仙
1
s
t
i
g
.3~ こ
量のサイクルによる変化をF
Cycle
I
B
r
示 し た 。 図 の よ う に サ イ ク ル 毎 に 反 Fig.3EffectofcyclehistoryonreactionofI
応量は減少し、 5サイクル後には 1サイクルで反応した HBrの量の半分程度にな
る。このように反応物が昇華@凝集した結果、反応面積の増加、反応量の減少と
いった現象が起こり、サイクノレごとに Br2の発生までに要する時間が短くなり、
同時に発生量も減少するものと思われる。
3M
z
ーイデー.1s
t
c
y
c
l
e
一司・ 2nd c
y
c
l
e
ー 令 -3
rd c
y
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e
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e
-・+・-5
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抗鉄
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-46-
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向・
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事すかを一こタミ生得でがか述点
、刀﹄始度がるパ応発庁と間減もの
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日ノ応成速成発ぽ素結する量ろ、
MM舵 羽 生 生 生 伽 持 水 い か 県 あ の に ぬ
ドヌフ l の 発 こ H i 。相 VJで r t i
則 的 軸 k の印刷の値、同繰定胞のえ
一いレ沼横 H r 史 こ 常 パ も を 一 る 化 考
即われ引。に m 幻 。 定 恥 マ 応 ト す 素 と
厚f Tた 軸 ら け た る こ し 反 引 い 生 臭 め
州か却し縦か回れれ釦おた即発はた
k ここ示、図、さら制にまれ、れる
恥
川を摘。り認見刊ン。釘りこす
g (引 時 た な 確 こ 、 一 た
;日応変例しにがソハ同タれゆくた減
3反のら示定と一付。ハら間短しが
4
.
0
水素エネ lレギーシステム
Vo1
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研究論文
3.3 臭素の残留
140
F
i
g
.5に各サイクルごとの Brz
,HBr, 刊
H2
の発生量と反応した HBrから推算さ
れる各生成物の理論的発生量との比を E g o o
示す。この図から加水分解反応 (
4
)で・2
占80
は量論比(100%で示される)とほぼ
致した H2
,HBrが測定されたが、臭素化 g
g
時に発生した Br2は量論比の半分以下 三一'
r
2が何らかの形で
2
0
となった。これは B
充填層内に留まっていることを示して
0
1
s
t
hd
z
いる。
C
y
c
l
e
悶 Br
問 問r
一定時間 HBrを 流 し て 反 応 を 行
った後、反応温度で、 N2のみを流した場 Fig.5Mass balances
図司
合の Br2発生速度の変化を Fig.6に示した。図に示されるように N2のみに切り替え
ると反応管出口から Br2
の流出が観察され、 Br2
はべレツト中に何らかの形で残留
していたものと考えられる。
6
)によって発生に立ち後
このように臭素化反応で発生する Br2は臭素吸収反応 (
れが見られること、および B
r
2がベレット中に残留することによって量論通ちに
生成しにくいことがわかった。しかし、 Fig.6で示されるように HBrの供給を止め
ると B
r
2がでてくる現象を利用して、 F
i
g
.7のような反応器を組むことで臭素と臭
化水素の分離を行うことが可能になる。この反応器は短い反応器を組合わせて随
時臭素追い出しを行うことで、臭素の安定な供給を可能にすると考えられる。
3…
2
3
6
0
川
回
I
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Br
BrィHI,
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註
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m
i
n
l
e
l
500
600
Fig.6 Rates ofHBr outflow and B
r
2 production
with time at bromination
-47-
F
i
g
.7Advantageous take out of
remaining ofB
r
2
A newreactor design
水素エネルギーシステム
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.1
8,No.2,1993
研究論文
4
. 結論
鉄系反応固体について充填層型反応器で繰り返し反応を行ったところ以下のこ
とが判った。
臭素化反応では
・臭素吸収反応によって s
r
2の発生時間に立ち後れが見られ、繰り返し反応に
r2の発生までに要する時間が短縮された
よって B
・ベレット中にB
r2が残留していることが確認された
加水分解反応では
・反応は平衡になっており、安定に H
A
r,H2を発生した
また、臭素の残留を利用した H
Br-B
r2の分離を行う反応器を新たに提案した。
[参考文献]
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3
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崎ら :
U
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3熱化学水素製造プロセスの F
e系反応固体におけるサイクノレ使用に
4
)椎 l
19
9
3
)
.
伴う反応速度と構造の変化、化学工学論文集, (印刷中). (
-48