国内外都市の総合評価手法の開発 その 2 アジア新興 ... - ResearchGate

国内外都市の総合評価手法の開発
その 2 アジア新興国の都市を対象とした現在・未来の総合評価
Development of Comprehensive Assessment Tool for Inside and Outside Cities
Part 2 A Time-Series Comprehensive Assessment of Asian Rising Nations
○田中良篤*1)、伊香賀俊治 1)、村上周三 2)、川久保俊 3)、宇城拓平 1)、瀧上柾 1)
Yoshiatsu Tanaka, Toshiharu Ikaga, Shuzo Murakami, Shun Kawakubo, Takuhei Ushiro, Masaki Takigami
1) 慶應義塾大学, 2) 建築環境・省エネルギー機構, 3) 法政大学
* [email protected]
1. はじめに
3. 結果
その 1 では日本の自治体評価ツール
「CASBEE 都市」
表 SI.1 に示すデータを開発した評価体系に入力し、
の評価内容を、世界各国の自治体にも適用可能なよう
各都市の評価を実施した結果を図 2 に示す。Q は世界
に概念の拡張を図り、試行評価を行った。
平均前後に評価が分かれ、L は世界平均を上回る結果
本報告では、今後都市環境が急変すると想定されて
となった。Q、L の小項目のスコアを表 1 に示す。
を対象として、その 1 で開発したツールによる評価を
実施した。日本の自治体評価ツールにより暫定評価
1)
Good
いるアジア新興国の A 市、B 市、C 市、D 市の 4 都市
BEE(Q / L) 3.0
100
が行われているマレーシア A 市については、開発した
1.5
Sustainable
ツールによる再評価を行った。これにより、本ツール
1’
Score for Q
の実用性を確認し、各都市の現状の明確化および施策
立案の一助に資することを目的とする。
2. 研究方法
50
1
1’
マレーシアの A 市、B 市、C 市とインドネシアの D
1
1’
ネシアの D 市はジャワ島北西岸に位置している。
Poor
市を評価対象としとして選定した。マレーシアの A 市
る。C 市はマレー半島最南端に位置している。インド
2025
1
2.1 評価対象都市
と B 市はマレー半島の西岸のほぼ中央部に位置してい
1.0
2025
2011
1’
1
2011
0.5
スケール拡張前
スケール拡張後
0
0
50
100
Good
Score for L
Poor
図 1 スケール拡張前後の A 市の評価結果の比較
2.2 研究方法の概要
に、各都市の統計データを入力することで、都市の総
合環境性能評価を実施した。まず、国の統計データベ
Good
その 1 で開発した国内外都市の評価ツールの各指標
BEE(Q / L) 3.0
100
S
1.5
A
1.0
B+
Sustainable
ースや市が WEB サイト等で公表している報告書 等
2)
B-
いては、市の行政職員との協議により A 市の施策を踏
まえた未来評価注 1)を行った。協議により、確定した評
価指標値を表 SI.1 に示す。また、A 市の環境配慮施策
とその原文をそれぞれ SI.2 、SI.3 に示す。
Score for Q
から統計情報を収集し、現状評価を行った。A 市につ
1’
2025
50
1 A市
2 B市
2.3 A 市の再評価の実施
より、A 市は世界平均と比べて Q、L 共に上回ってい
ることが明らかになった。
4 D市
Poor
を基準とした相対的なものであった。本報の再評価に
0.5
2 3
2011 2011
4
2011
3 C市
図 1 に評価スケール拡張前後の A 市の評価結果を示
す。
従来の評価結果は日本の全国 1750 都市の市区町村
1
2012
Unsustainable
C
0
0
50
100
Good
Score for L
Poor
図 2 新興国の各都市の評価結果
表 1 Q、L の小項目のスコア
L
Q
Q1
A 市(2012)
A 市(2025)
B市
C市
D市
76.80
54.13
64.31
68.94
47.88
56.95
65.49
42.11
41.18
36.28
2.83
2.92
1.97
2.05
1.39
Q2
Q1.1
3.62
3.62
1.77
1.92
1.06
Q1.2
3.77
4.33
2.97
2.93
2.15
Q1.3
2.49
2.49
1.28
3.1 環境品質・活動度 Q
Q1.4
1.44
1.23
1.17
1.31
1.06
3.79
4.42
2.70
2.83
2.73
Q3
Q2.1
4.35
4.64
3.25
2.71
3.37
Q2.2
4.02
3.65
3.07
3.47
2.79
Q2.3
3.00
4.97
1.79
2.31
2.04
3.21
3.52
3.38
3.06
3.23
Q3.1
3.57
4.17
4.22
3.26
2.72
Q3.2
3.08
3.39
2.91
2.91
3.98
Q3.3
3.00
3.00
3.00
3.00
3.00
Q3 の経済面では、全都市において世界平均をやや上
Q1 の環境面では、自然的土地比率(Q1.1)に大きな
回る結果となった。A 市では 2025 年までに産業力
差が見られた。A 市が高評価である一方、D 市は低評
(Q3.1)と財政基盤力(Q3.2)の向上が見込まれてい
価である。A 市では都市緑化や植樹を積極的に推進し
る。産業力の向上は、人口増加に伴う社会経済活動の
ており大きな森林面積が確保されていることに起因し
活発化により一人当たり GDP の増加が見込まれるこ
ていると考えられる。D 市は急激な都市化に伴う森林
とに起因している。
伐採に起因していると考えられる。廃棄物計画収集量
3.2 環境負荷 L
(Q1.3)と森林による CO2 吸収源対策(Q1.4)は全都
環境負荷 L は A 市が最も大きく、D 市が最も小さい
市において低評価である。人口増加に対応した効率的
結果となった。A 市では近年の社会・経済活動の活発
な廃棄物管理システムの導入や 3R の推進等を積極的
化に伴い環境負荷が増大していることが明らかになっ
に推進していく必要性が示唆された。また、各都市の
た。一方、D 市は人口密度が高く、エネルギー消費が
人口密度が高いため、一人当たりの森林による CO2 吸
戸建住宅よりも小さい集合住宅に居住している者が多
収量は全都市において低評価である。
いことや、単位輸送エネルギーが小さい交通機関が整
A 市では 2025 年にかけて環境質(Q1.2)の向上が見
備されているために環境負荷 L が小さいと推察される。
込まれている。自動車利用の削減や歩いて暮らせるま
A 市では 2025 年までに環境負荷 L の大幅な改善が
ちづくりを積極的に推進していくという目標から、大
見込まれている。オフィスのサステナブルビルディン
気質の改善が予想されているためである。一方、森林
グ化等の環境配慮施策の効果が明確化されている。
による CO2 吸収源対策(Q1.4)の低下が見込まれてい
4. まとめ
る。都市緑化や植樹を積極的に推進している一方、人
その 1 で開発した国内外の都市評価ツールを用いて
口密度が増加することにより、一人当たりの森林によ
アジア新興国 4 都市を対象としてケーススタディを実
る CO2 吸収量は低下すると見込まれる。
施した。現地での協議を通じたデータ収集で評価ツー
Q2 の社会面では、生活環境(Q2.1)
、社会サービス
ルの実用性を確認するとともに各都市の解決すべき課
(Q2.2)
、社会活力(Q2.3)の各項目について、A 市は
題を明らかにした。さらに、未来評価を行い A 市の施
他の都市と比較して高評価であった。B 市から A 市へ
策の効果を明確化した。施策の効果の可視化により効
の首都機能移転計画を受けて、交通安全性や教育サー
果的な施策の選定が可能になると期待される。
ビス充実度等、全体的な生活環境が向上していること
注釈
が明らかになった。一方、B 市の社会活力(Q2.3)は
1) 予測値や目標値を用いた未来の状態の見える化
他都市に比べて低評価であり、これは首都機能移転に
謝辞
伴う人口流出によるものと考えられる。C 市は社会サ
マレーシア工科大学 HO, Chin Siong 教授、プトラジ
ービス(Q2.2)で高評価である。教育や医療等のサー
ャヤ開発公社のWang Tze Wee様、
Azhar Bin Othman様、
ビス業を重視した開発の効果が明確化されている。
国立環境研究所の藤野純一先生、芦名秀一様、亀井未
A 市では 2012 年から 2025 年にかけて社会サービス
穂様、須田真衣子様、京都大学の松岡譲教授、五味馨
(Q2.2)の低下が見込まれている。首都機能移転に伴
様をはじめ、関係者各位に心より謝意を表する。
い医療施設が多く整備され、医師数が増加するため医
引用文献
療サービス充実度が向上する一方、教育サービス充実
1) 瀧上柾, 伊香賀俊治, 藤野純一, 村上周三, 川久保
度の低下が顕著であるためである。A 市では人口増加
俊, 宇城拓平 : 日本建築学会学術講演梗概集,
に伴い生徒数の急増が予想されるが、教員数が生徒数
に対応できないと見込まれており、将来的に生徒数に
見合う教員数の確保の必要性が示唆された。
(2013), pp.739-740
2) Universiti Teknologi Malaysia et al.: Putrajaya Green
City 2025, (2012)
Supporting Information
表 SI.1
A 市入力データ(2012 年、2025 年)注 1,2,3,4,5)
大項目・中項目・小項目および対応指標
Q環境品質・活動度の総合スコア(100点スケール)
Q環境品質・活動度のスコア(5点スケール)
Q1環境
Q1.1自然保全
Q1.1.1自然的土地比率 (%)
Q1.2環境質
重み
係数
1/3
1/4
1
1/4
3
Q1.2.1大気質 (ug/m )
1/2
Q1.2.2水質 (%)
1/2
Q1.3資源循環
1/4
Q1.3.1廃棄物計画収集量 (t / 十万人)
Q1.4 CO2吸収源対策
Q1.4.1森林によるCO2吸収源対策 (t-CO2/人)
Q2社会
Q2.1生活環境
1
1/4
1
1/3
1/3
Q2.1.1交通安全性 (件/十万人)
1/3
Q2.1.2防犯性 (件/十万人)
1/3
Q2.1.3災害対応度 (床/十万人)
1/3
Q2.2社会サービス
1/3
Q2.2.1教育サービス充実度 (人/人)
1/5
Q2.2.2文化サービス充実度 (人/百人)
1/5
Q2.2.3医療サービス充実度 (人/千人)
1/5
Q2.2.4保育サービス充実度 (人/十人)
1/5
Q2.2.5高齢者サービス充実度 (人/千人)
1/5
Q2.3社会活力
1/3
Q2.3.1人口自然増減率 (%)
1/2
Q2.3.2人口社会増減率 (%)
1/2
Q3経済
Q3.1産業力
1/3
1/3
Q3.1.1一人あたりGDP (ドル/人)
Q3.2財政基盤力
1
1/3
Q3.2.1一人あたり歳入 (ドル/人)
1/2
Q3.2.2一人あたり政府債務残高 (ドル/人)
1/2
Q3.3 CO2取引力
Q3.3.1他地域でのCO2排出抑制支援 (-)
1/3
1
A市(現在)
2012年
56.95
3.28
2.83
3.62
38.91
3.62
3.77
34
2.55
100
5.00
2.49
33.3
2.49
1.44
0.07
1.44
3.79
4.35
8.82
4.08
0.00
4.96
4.29
3.99
4.02
11.61
4.24
56.30
4.12
5.47
4.93
1.88
2.52
7.46
4.31
3.00
3.79
5.00
-3.15
1.00
3.21
3.57
7,783
3.57
3.08
79
1.17
0
4.98
3.00
無し
3.00
76.80
14.29
A市(未来)
2025年
65.49
3.62
2.92
3.62
38.91
3.62
4.33
21
3.66
100
5.00
2.49
33.3
2.49
1.23
0.02
1.23
4.42
4.64
0.00
4.98
0.00
4.96
4.29
3.99
3.65
23.44
2.46
56.30
4.12
4.71
4.83
1.88
2.52
7.45
4.31
4.97
6.88
5.00
4.58
4.93
3.52
4.17
18,723
4.17
3.39
240
1.80
0
4.98
3.00
無し
3.00
54.13
5.22
B市
2011年
42.11
2.68
1.97
1.77
7.27
1.77
2.97
49
1.93
100
4.02
1.17
0.00
1.17
2.70
3.25
23.03
1.65
1.49
4.02
4.51
4.08
3.07
30.45
1.92
56.30
4.12
1.29
2.95
3.14
3.27
3.35
3.10
1.79
1.15
2.59
-4.21
1.00
3.38
4.22
19,336
4.22
2.91
1,990
3.35
2,762
2.48
3.00
無し
3.00
64.31
7.65
C市
2011年
41.18
2.65
2.05
1.92
9.19
1.92
2.93
52
1.84
100
4.02
1.31
0.04
1.31
2.83
2.71
24.27
1.49
1.57
3.95
1.88
2.68
3.47
13.69
3.86
56.30
4.12
1.29
2.95
3.19
3.32
3.35
3.10
2.31
1.65
3.50
-1.00
1.11
3.06
3.26
5,866
3.26
2.91
1,990
3.35
2,762
2.48
3.00
無し
3.00
68.94
9.41
D市
2011年
36.28
2.45
1.39
1.06
0
1.06
2.15
43
2.14
84
2.16
1.28
4.0
1.28
1.06
0.00
1.06
2.73
3.37
17.69
2.65
0.66
4.76
1.88
2.68
2.79
0.05
5.00
10.92
2.18
0.29
2.11
0.91
1.82
2.04
2.85
2.04
1.44
3.08
-11.75
1.00
3.23
2.72
3,397
2.72
3.98
9,702
4.37
911
3.59
3.00
無し
3.00
47.88
4.29
L環境負荷の総合スコア(100点スケール)
L1.1温室効果ガス排出量(t-CO2/人)
注 1:点線を挟んで上段は指標値、下段はスコア
注 2:Q の場合(L の場合), 100 点(0 点)が最良、50 点が全国平均、0(100)点が最悪
注 3:5 点が最良、3 点が世界平均、1 点が最悪の水準
注 4:都市単位のデータの得られない項目については州や国の値から推計した
注 5:データの欠損によりスコアが得られない小項目については重みを 0 とし、その分の重みを同一中項目内の他の小項目へ均等に割
り振る。
表 SI.2
No.
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
歩いて暮らせる都市計画
低炭素交通システムの導入
サステナブルビルディングの導入
低炭素ライフスタイルの推進
再生可能エネルギーの利用推進
植樹計画とオープンスペースの確保
都市計画によるヒートアイランドの緩和
人と地域によるヒートアイランド緩和
廃棄物の削減
3R の推進
廃棄物マネジメントシステムの導入
インセンティブ導入と環境教育の推進
表 SI.3
No.
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
A 市で立案されている環境配慮施策
環境配慮施策
A Dozen Actions Towards Green City
Name of Actions
Integrated City Planning & Management
Low-carbon Transportation
Cutting-Edge Sustainable Buildings
Low-carbon Lifestyle
More and More Renewable Energy
The green Lung of City A
Cooler Urban Structures and Buildings
Community and Individual Action to Reduce Urban Temperature
Use Less Consume Less
Think Before You Throw
Integrated Waste Management
Green Incentive and Capacity Building