幾何学 II:14年11月26日 今日の講義の摘要: 前半では、円周 S 1 の基本群が無限巡回群 Z であることを証明する。その √ ために指数函数 x ∈ R → e2π −1x ∈ S 1 の被覆ホモトピー性質を示す。副産物として q ≥ 2 のとき S 1 の第 q ホモトピー群が 0 になる πq (S 1 ) = 0 ことがわかる。 弧状連結な位相空間 X の基本群 π1 (X, x0 ) の 群としての同型類は 基点 x0 ∈ X の取り方 によらない。後半では、このことを証明するために位相空間の基本亜群 ΠX というものを導入 する。弧状連結な位相空間 X について基本群の可換化が整係数第 1 ホモロジー群に一致する π1 (X, x0 )abel = H1 (X; Z) ことを証明する1 。基本群における「Mayer-Vietoris 完全列」は (Seifert) van Kampen の定理というものである。それを定式化するために、今回の最後の部分で、群の融 合積について述べる。被覆空間は、基本群と密接に関係しているが、この講義では学期末に扱う。 §9. 基本群の定義とその基本的な性質. (後半) これまでと同様、I = [0, 1] ⊂ R, ∂I = {0, 1} ⊂ I とする。位相空間 X とその上の点 x0 について、基本群 π1 (X, x0 ) がホモトピー集合 π1 (X, x0 ) := [(I, ∂I), (X, x0 )] として定義されることを思い出す。これは点つき空間の圏から群の圏への共変函手を定め るのであった。 指数函数の被覆ホモトピー性質 円周 S 1 の基本群 π1 (S 1 , 1) が無限巡回群 Z であることの証明をはじめる。以前もした ように S 1 = {z ∈ C; |z| = 1} ⊂ C とみなし、基点を 1 ∈ S 1 にとっている。指数函数 √ p : R → S 1 , x → exp(2π −1x) に着目する。もちろん p は連続全射である。p−1 (1) = Z に注意する。この p は被覆空間 というものの典型例である。 定理 9.9. (写像 p の被覆 homotopy 性質, covering homotopy property, CHP) 任意の 位相空間 X と連続写像 f : X → R および F : X × I → S 1 であって図式 X i0 X ×I f F /R p / S1 が可換であるとする。ここで i0 : X → X × I は x → (x, 0) によって与えられるとする。 (言い換えると、任意の x ∈ X について pf (x) = F (x, 0) をみたすとする。)このとき、連 続写像 F : X × I → R が存在して、p ◦ F = F : X × I → S 1 および F ◦ i0 = f : X → R をみたす。つまり、次の図式は可換になる f / v; R v F vvv p i0 v v vv F / S 1. X ×I X この事実を逆手にとって一般の群 G について可換化 Gabel = G/[G, G] を群 G の整係数第 1 ホ モロジー群 H1 (G; Z) とよぶ 1 1 幾何学 II 2 さらに、この連続写像 F : X × I → R は f と F に対し一意的である2 。 証明. 後半の 一意性 を先に証明する。この一意性の証明は任意の位相空間 X について 通用する。連続写像 F, F : X × I → R が pF = pF = F : X × I → S 1 および F i0 = F i0 = f : X → R をみたすとする。任意の x ∈ X について I の部分集合 Ax := {t ∈ I; F (x, t) = F (x, t)} が I に一致することを示せば、 F = F が得られる。 実数 R の特殊性を用いる。y, y ∈ R について p(y) = p(y ) かつ |y − y| 1 ならば y = y である。 p(y) = p(y ) は y − y ∈ Z と同値だからである。そこで、 Ax = {t ∈ I; F (x, t) − F (x, t) = 0} = {t ∈ I; |F (x, t) − F (x, t)| 1} となる。函数 t ∈ I → F (x, t) − F (x, t) ∈ R は連続だから Ax は中辺により I の閉集合で あり、右辺により I の開集合である。F (x, 0) = F (x, 0) = 0 より 0 ∈ Ax とくに Ax は空 でない。I の連結性により Ax = I となる。これが示すべきことであった。 存在. S 1 の開被覆 {U, V } を U := S 1 − {−1}, V := S 1 − {1} によって定義する。p の ] − 1/2, 1/2[ および ]0, 1[ への制限 p|]−1/2,1/2[ :] − 1/2, 1/2[→ U および p|]0,1[ :]0, 1[→ V は 上への同相である。 f : X → R および F : X × I → S 1 が pf = F i0 : X → S 1 をみたすとする。 −1 まず、任意の x0 ∈ X をとって固定する。compact 距離空間 {x0 }×I の開被覆 {F (U ), −1 F (V )} について Lebesgue 数 ρ > 0 をとり(補題 1.9)、自然数 N を 1/N < ρ となるよ −1 −1 うにとる。各 i, 1 ≤ i ≤ N , について {x0 } × [ i−1 , i ] は ⊂ F (U ) または ⊂ F (V ) をみ N N −1 たす。各 i について Wi = U または V を {x0 } × [ i−1 , i ] ⊂ F (Wi ) となるようにとる。 N N [ i−1 , i ] は compact だから、補題 1.13 により Oi := {x ∈ X; {x} × [ i−1 , i ] ⊂ Wi } は x0 N N N N ∩N の開近傍である。そこで Ox0 := i=1 Oi も x0 の開近傍である。 連続写像 ] [ i−1 i , →R Fx0 ,i : Ox0 × N N ( )−1 ( )−1 を、Wi にあわせて Fx0 ,i := p|]−1/2,1/2[ ◦ F によって定義する。明ら ◦ F または p|]0,1[ かに p ◦ Fx0 ,i = F である。Fx0 ,i たちを貼りあわせて Ox0 × I 上の連続写像 F : Ox0 × I → R , i] → R を を定義したい。そのために Fx0 ,i を調整する。連続写像 Fx0 ,i : Ox0 × [ i−1 N N (x, t) ∈ Ox0 × [ i−1 , i ] について N N ) i−1 ( ∑ k k Fx0 ,k+1 (x, ) − Fx0 ,k (x, ) − (Fx0 ,1 (x, 0) − f (x)) Fx0 ,i (x, t) := Fx0 ,i (x, t) − N N k=1 によって定義する。i = 1 のときは Fx0 ,1 (x, t) := Fx0 ,1 (x, t) − (Fx0 ,1 (x, 0) − f (x)) である。こ こで Fx0 ,i+1 (x, Ni ) = Fx0 ,i (x, Ni ) だから Fx0 ,i たちは貼りあって連続写像 Fx0 : Ox0 × I → R を定める。pFx0 = F : Ox0 × I → S 1 であり、任意の x ∈ Ox0 について Fx0 (x, 0) = Fx0 ,1 (x, 0) = f (x) である。 いま、 x0 , x1 ∈ X について Ox0 ∩ Ox1 に前半で示した F の一意性を適用すると Fx0 = Fx1 : (Ox0 ∩ Ox1 ) × I → R が成り立つ。実際、(Ox0 ∩ Ox1 ) × I において p ◦ Fx0 = F = p ◦ Fx1 であり、Ox0 ∩ Ox1 に おいて Fx0 ◦ i0 = f = Fx1 ◦ i0 だからである。 2 ふつう被覆ホモトピー性質というときには、一意性を仮定しない。 14 年 11 月 26 日 3 かくして Fx0 たちは貼りあって連続写像 F : X × I → R を定める。作り方から、この F は p ◦ F = F および F ◦ i0 = f をみたす。以上で F の存在が示された。これで定理の 証明が完成した。 注意. 一般に、E, B を位相空間とするとき、連続写像 π : E → B が位相空間 X に対し て被覆 homotopy 性質をもつとは、「任意の連続写像 f : X → E および F : X × I → B であって ∀x ∈ X, πf (x) = F (x, 0) をみたすものについて、連続写像 F : X × I → E が存 在して、πF = F : X × I → B および ∀x ∈ X, F (x, 0) = f (x) をみたす」ことをいう。 F を F の lift という。lift の一意性は仮定しない。 この定理 9.9 から π1 (S 1 , 1) = Z が証明されるが、その前に、定理 9.9 を使って S 1 の高 次のホモトピー群を計算する。因みに、点付き空間 (X, x0 ) の q 次元ホモトピー群 πq (X, x0 ) は πq (X, x0 ) := [(Dq , S q−1 ), (X, x0 )] によって定義される。 定理 9.10. q ≥ 2 のとき πq (S 1 , 1) = 0 である。つまり、任意の連続写像 f : (Dq , S q−1 ) → (S 1 , 1) は定値写像 c1 : (Dq , S q−1 ) → (S 1 , 1), x → 1, に homotopic である。 証明. 同相 (Dq , S q−1 ) ≈ (I q , ∂I q ) を用いる。ここで、 ∂I q = {(x1 , x2 , . . . , xq ) ∈ I q ; ある i について xi = 0 または 1} である。任意の連続写像 f : (I q , ∂I q ) → (S 1 , 1) を考える。I q = I q−1 × I とみなす。 f (I q−1 × {0}) = {1} だから、定値写像 c0 : I q−1 → R, x → 0, について図式 I q−1 i 0 c 0 −−− → R p f I q−1 × I −−−→ S 1 は可換である。そこで、定理 9.9 により連続写像 F : I q−1 × I → R で、pF = f : I q → S 1 および F (x , 0) = 0, ∀x ∈ I q−1 , をみたすものが存在する。 いま、 q ≥ 2 だから ∂I q ≈ S q−1 は弧状連結である。 また、F (∂I q ) ⊂ p−1 (1) = Z で ある。そこで、F (x , 0) = 0 とあわせて F (∂I q ) = {0} つまり、F : (I q , ∂I q ) → (R, 0) であ ることがわかる。連続写像 (I q , ∂I q ) × I → (S 1 , 1), (x, t) → p(tF (x)) によってホモトピー f c1 : (Dq , S q−1 ) → (S 1 , 1) が分かる。 loop ∈ (S 1 , 1)(I,∂I) の 回転数 τ ( ) ∈ Z を定義しよう。定理 9.9 により、任意の ∈ (S 1 , 1)(I,∂I) に対し、連続写像 : I → R であって (0) = 0, p ◦ = をみたすものがた だ一つ存在する。少しものものしく言うと、一点からなる位相空間 ∗ について、可換図式 i0 ∗ c 0 −−− → R p ∗ × I −−−→ S 1 に定理 9.9 を適用して一意的にえられる連続写像が ち上げ)という。lift の存在と一意性により写像 τ : (S 1 , 1)(I,∂I) → Z, : I → R である。 → τ ( ) := (1) を の lift (持 幾何学 II 4 が定義される。 (1) ∈ p−1 (1) = Z だからである。この整数 τ ( ) を の回転数とよぶ。 定理 9.11. 回転数 τ は 1 次元球面 S 1 の基本群と無限巡回群との同型を与える ∼ = τ : π1 (S 1 , 1) → Z, [ ] → τ ( ). √ さらに、連続写像 p : (I, ∂I) → (S 1 , 1), t → p(t) = exp(2π −1t), が π1 (S 1 , 1) の生成元と なる。 証明. 次の順序で証明する。 (1) τ が homotopy 不変であること、つまり : (I, ∂I) → (S 1 , 1) ならば τ ( ) = τ ( ) であること. (したがって写像 τ : π1 (S 1 , 1) → Z が well-defined となる。) (2) τ : π1 (S 1 , 1) → Z が準同型であること. (3) τ : π1 (S 1 , 1) → Z が単射であること. (4) 上述の p : (I, ∂I) → (S 1 , 1) について τ (p) = 1 であること.(したがって τ : π1 (S 1 , 1) → Z は全(単)射であり、[p] が生成元であることがわかる。) (1) τ の homotopy 不変性も定理 9.9 によってわかる。 : (I, ∂I) → (S 1 , 1) とす る。これらをつなぐ homotopy L : (I, ∂I) × I → (S 1 , 1) が存在する。任意の t ∈ I につい て L(t, 0) = (t), L(t, 1) = (t) であり、任意の s ∈ I について L(0, s) = L(1, s) = 1 であ る。L(0, s) = 1 = p(0) ということから、連続写像 i0 : I → I × I, s → (0, s), および定値 写像 c0 : I → R, t → 0, について可換図式 i0 I c 0 −−− → R p L I × I −−−→ S 1 がなりたつ。I × I の第一成分をホモトピ−の I と見て定理 9.9 を適用すると、連続写像 L : I × I → R であって p ◦ L = L : I × I → S 1 および L ◦ i0 = c0(つまり任意の s ∈ I に ついて L(0, s) = 0 )をみたすものがとれる。 いま、L(1, s) ∈ p−1 (1) = Z であるが、Z ⊂ R は離散位相をもち I は弧状連結だから L(1, s) は s ∈ I によらない定数である。とくに L(1, 0) = L(1, 1) である。他方、 および : I → R を (t) = L(t, 0), (t) = L(t, 1) によって定義する。 これらはそれぞれ およ び の lift である。したがって τ ( ) = (1) = L(1, 0) = L(1, 1) = (1) = τ ( ) となる。こ れで τ の homotopy 不変性が示された。したがって、回転数は π1 (S 1 ) の上の写像として well-defined である。 (2) 1 , 2 ∈ (S 1 , 1)(I,∂I) について、それぞれ lift 1 , 2 ∈ (R, 0)(I,0) をとる。このとき、連 続写像 : (I, 0, 1) → (R, 0, Z) を { if 0 ≤ t ≤ 1/2, 1 (2t), (t) := 1 (1) + 2 (2t − 1), if 1/2 ≤ t ≤ 1, によって定義すると、これは 2 · 1 の lift である。そこで、τ ( 2 · 1 ) = (1) = τ ( 1 ) + τ ( 2 ) を得る。つまり、回転数 τ は積を保つ。 1 (1)+ 2 (1) = 14 年 11 月 26 日 5 (3) (2) において τ が 準同型であることを証明したから、τ の核が自明であることを証明 すれば充分である。 ∈ (S 1 , 1)(I,∂I) について、τ ( 1 ) = 0 であるとする。lift ∈ (R, 0, Z)(I,0,1) をとると、 (1) = 0 である。そこで、連続写像 L : (I, ∂I) × I → (R, 0) を L(x, s) := s (x) によって定義することができる。連続写像 p ◦ L : (I, ∂I) × I → (S 1 , 1) は homotopy c1 : (I, ∂I) → (S 1 , 1) を与える。つまり [ ] = e ∈ π1 (S 1 , 1) であり、 τ : π1 (S 1 , 1) → Z の単射性が得られた。 (4) 連続写像 p : (I, 0, 1) → (R, 0, 1), t → p(t) := t, は、p の lift である。実際、明 らかに p ◦ p = p : (I, ∂I) → (S 1 , 1) および p(0) = 0 が成り立つからである。そこで、 τ (p) = p(1) = 1 となる。これが示すべきことであった。 以上で定理の証明が完成した。 loop : (I, ∂I) → (S 1 , 1) が C ∞ 曲線の場合、この同型 π1 (S 1 ) ∼ = Z は複素解析で現れ る回転数に他ならない。 命題 9.12. 任意の C ∞ 写像 : (I, ∂I) → (S 1 , 1) ⊂ (C \ {0}, 1) について次が成立つ ∫ 1 dz τ( ) = √ . z 2π −1 証明. 線積分 1 (t) := √ 2π −1 によって C であるから ∞ 写像 d (p dt ∫ t 0 (s) ds (s) : I → C が得られる。 (0) = 0 である。また p ◦ (t) = exp (∫ t 0 ) (s) ds (s) (t) ◦ (t)) = (p ◦ )(t) (t) となって ( ) ) d p ◦ (t) 1 ( = (p ◦ ) (t) (t) − (p ◦ )(t) (t) =0 dt (t) (t)2 がわかる。いま、 (p ◦ )(0)/ (0) = 1 だから (p ◦ )(t)/ (t) = 1 つまり (p ◦ )(t) = (t) ∈ S 1 が任意の t ∈ [0, 1] について成り立つ。ゆえに、 (t) ∈ R であって : (I, 0, 1) → (R, 0, Z) は の lift である。そこで、 ∫ 1 1 (s) τ ( ) = (1) = √ ds 2π −1 0 (s) が成り立つ。これが示すべきことであった。 基本群 π1 (S 1 , 1) の生成元を使って、簡単な連続写像のもとでの振るまいを計算する。 命題 9.13. n ∈ Z とする。 S 1 ⊂ C から自身への連続写像 ϕn : (S 1 , 1) → (S 1 , 1), は、基本群 π1 (S 1 , 1) 上に n 倍写像として働く z → zn √ 1 証明. 定理 9.11 の生成元 p : (I, ∂I) → (S , 1), p(t) := exp(2π −1t), について ϕn ∗ ([p]) = √ [ϕn ◦ p] であり、 (ϕn ◦ p)(t) = exp(2π −1nt) = p(nt) である。つまり、連続写像 t ∈ I → nt ∈ R が ϕn ◦ p の lift を与えるから、τ ϕn ∗ ([p]) = τ (ϕn ◦ p) = n = nτ ([p]) となる。 ϕn ∗ は生成元 [p] ∈ π1 (S 1 ) ∼ = Z について n 倍写像だから、 π1 (S 1 , 1) 全体のうえでも n 倍写像 である。 幾何学 II 6 基本亜群 弧状連結な位相空間 X の基本群 π1 (X, x0 ) の 群としての同型類は 基点 x0 ∈ X の 取り方によらない。このことを証明するために位相空間 X の 基本亜群3 (fundamental groupoid) ΠX というものを導入する。ΠX とは X 上の path の 基点を保つ homotopy 類の全体のつくる「群もどき4 」のことである。 位相空間 X の二点 x0 , x1 ∈ X について、x0 を x1 に結ぶ X 上の path の homotopy 類全体の集合を ΠX(x0 , x1 ) と表す。つまり ΠX(x0 , x1 ) := [(I, 0, 1), (X, x0 , x1 )] = (X, x0 , x1 )(I,0,1) / と定義する。ΠX(x0 , x1 ) = π1 (X, x0 , x1 ) などとも書く。(とくに二点が一致 x0 = x1 す るとき ΠX(x0 , x0 ) = π1 (X, x0 ) つまり、対 (X, x0 ) の基本群 π1 (X, x0 ) に他ならない。) 一般に (X, x0 , x1 )(I,0,1) の二元 0 , 1 について、[ 0 ] = [ 1 ] ∈ ΠX(x0 , x1 ) である、つまり 0 1 : (I, 0, 1) → (X, x0 , x1 ) であるとは ∃L : I × I → X 連続写像 s.t. ∀t ∈ I, L(t, 0) = 0 (t), L(t, 1) = 1 (t), ∀s ∈ I, L(0, s) = x0 , L(1, s) = x1 かつ ということであって、条件 (0) = x0 および (1) = x1 を保ったまま homotopy が存在するということである5 。このことを 0 1 0 と 1 をつなぐ rel ∂I とも書く6 。以下 0 1 と書くけれども、それは 0 1 : (I, 0, 1) → (X, x0 , x1 ) というこ とであると理解して下さい。L を 0 を 1 につなぐ基点を保つ homotopy とよぶのであっ た。path の homotopy 類 [ ] ∈ ΠX(x0 , x1 ) を、位相空間 X の基本亜群 ΠX に関する点 x0 ∈ X から x1 ∈ X への射などともよぶ。 射とよぶ以上は合成がなければならない。合成は基本群の場合と同様に行う。x0 , x1 , x2 ∈ X とする。二つの paths 1 ∈ (X, x1 , x2 )(I,0,1) および 0 ∈ (X, x0 , x1 )(I,0,1) について、その 積 1· 0:I →X を { if 0 ≤ t ≤ 1/2, 0 (2t), ( 1 · 0 )(t) := (9.7) if 1/2 ≤ t ≤ 1 1 (2t − 1), によって定義する。 1 · 0 は 0 (1) = x1 = 1 (0) より well-defined であり、貼り合わせの 補題(補題 1.5) により連続である。写像の合成に順番をあわせるため、基本群の場合と 同様に 積の順序は右から である。 1 · 0 ∈ (X, x0 , x2 )(I,0,1) である。この積は homotopy 類 の積 · : ΠX(x1 , x2 ) × ΠX(x0 , x1 ) → ΠX(x0 , x2 ), ([ 1 ], [ 0 ]) → [ 1 ] · [ 0 ] := [ 1 · 0] 対象の全体が集合となり(small)、すべての射が同型射である圏を亜群(groupoid)という。 二つの paths をつなげることによって積を定義したいのだが、一方の終点が他方の始点に一致 しなければ paths はつながらない。だから群ではなくて「群もどき」なのである。 5 条件「∀s ∈ I, L(0, s) = x0 , L(1, s) = x1 」を課さない homotopy 0 1 : I → X を考えると、 話がほとんど trivial になることに注意せよ。I は可縮だからである。 6 rel ∂I は relative to ∂I を意味する。 3 4 14 年 11 月 26 日 7 を定義する。この積は基本亜群 ΠX における射の合成ともよばれる。 well-defined であることの証明: 補題 9.3 と全く同様であるがしつこく繰り返しておく。 0 0 : (I, 0, 1) → (X, x0 , x1 ) および 1 : (I, 0, 1) → (X, x , x ) が成り立つとする。 L : I × I → X 1 2 0 1 (resp. L1 : I × I → X ) を、 0 を 0 に(resp. 1 を 1 に)つなぐ基点を保つ homotopy とする。 このとき (t, s) ∈ I × I について { L0 (2t, s), if 0 ≤ t ≤ 1/2, L(t, s) := L1 (2t − 1, s), if 1/2 ≤ t ≤ 1 によって定義される写像 L : I × I → X は well-defined な連続写像であり、 1 · 0 を 1 · 0 につな ぐ基点を保つ homotopy である。したがって、 1 · 0 1 · 0 : (I, 0, 1) → (X, x0 , x2 ) となり、積 · が ΠX のレベルでも well-defined であることが分かった。 各点 x0 ∈ X について定数写像 I → X, t → x0 , を cx0 ∈ (X, x0 , x0 )(I,0,1) と表し、その homotopy 類を単位射とよび ex0 := [cx0 ] ∈ ΠX(x0 , x0 ) = π1 (X, x0 ) と表す。また、 ∈ (X, x0 , x1 )(I,0,1) について、その逆(射) −1 (t) = (t) := (1 − t), −1 = ∈ (X, x1 , x0 )(I,0,1) を t∈I によって定義する。次の性質は基本的である。 補題 9.14. 任意の x0 , x1 , x2 , x3 ∈ X について次が成り立つ。 (1) 任意の [ 0 ] ∈ ΠX(x0 , x1 ), [ 1 ] ∈ ΠX(x1 , x2 ), [ 2 ] ∈ ΠX(x2 , x3 ) について ([ 2 ] · [ 1 ]) · [ 0 ] = [ 2 ] · ([ 1 ] · [ 0 ]) ∈ ΠX(x0 , x3 ) (2) 任意の [ ] ∈ ΠX(x0 , x1 ) について [ ] · ex0 = ex1 · [ ] = [ ] ∈ ΠX(x0 , x1 ) ∈ (X, x0 , x1 )(I,0,1) について (3) 任意の [ −1 ] · [ ] = ex0 ∈ ΠX(x0 , x0 ) および [ ] · [ −1 ] = ex1 ∈ ΠX(x1 , x1 ) 証明. (1) 写像 L : I × I → X を (t, s) ∈ I × I について ) ( s 4t if 0 ≤ t ≤ 2 − 4 , 0 2−s , s ≤ t ≤ 3 − s, L(t, s) := if 2 − 1 (4t − 2 + s) , 4 4 ( ) 4t − 3 + s , 3−s ≤t≤1 if 2 1+s 4 3−s s とおくことにより定義する。t = 2 − 4 のとき 0 (1) = x0 = 1 (0) であり、t = 4 のと き 1 (1) = x0 = 2 (0) であるから、L は well-defined かつ連続である。まず、t = 0, 1 のと き L(0, s) = x0 , L(1, s) = x3 である。s = 0 のとき if 0 ≤ t ≤ 21 , 0 (2t) , L(t, 0) := if 12 ≤ t ≤ 43 , 1 (4t − 2) , if 34 ≤ t ≤ 1 2 (4t − 3) , 幾何学 II 8 となるが、これは (( 2 · · である。他方、s = 1 のとき if 0 ≤ t ≤ 14 , 0 (4t) , L(t, 1) := if 14 ≤ t ≤ 21 , 1 (4t − 1) , if 12 ≤ t ≤ 1 2 (2t − 1) , 1) 0 )(t) は ( 2 · ( 1 · 0 ))(t) に等しい。ゆえに (( 2 · 1 ) · 0 ) ( 2 · ( 1 · 0 )) : (I, 0, 1) → (X, x0 , x2 ) となる。これが示すべきことであった。 (2) 補題 9.4 (2) の証明の写像 K および K : (I, 0, 1) → (I, 0, 1) をもちいる。合 成写像 ◦ K および ◦ K : (I, 0, 1) → (X, x0 , x1 ) は、それぞれ · cx0 および cx1 · : (I, 0, 1) → (X, x0 , x1 ) を与える。 (3) 補題 9.4 (2) の証明の写像 K : (I, ∂I) → (I, 0) をもちいる。合成写像 ◦ K は −1 · cx0 : (I, 0, 1) → (X, x0 , x0 ) を与える。いま x0 , x1 ∈ X は任意であって ( −1 )−1 = だから · −1 = ( −1 )−1 · −1 cx1 : (I, 0, 1) → (X, x1 , x1 ) が分かる。 以上で補題の証明が完成した。 この補題の (1) (2) により、ΠX は X を対象とする圏である。X は集合だから ΠX は小 圏(small category)である。 (3) により、ΠX は、すべての射が同型射であるような小圏、 すなわち亜群(groupoid)である。以下 ΠX の合成 · は略して書くことにする。つまり、 γ0 = [ 0 ] ∈ ΠX(x0 , x1 ) および γ1 = [ 1 ] ∈ ΠX(x1 , x2 ) について γ1 γ0 = [ 1 · 0 ] ∈ ΠX(x0 , x2 ) と表す。また、「結合則」 (1) により逆は一意的であって γ0 −1 = [ 0 −1 ] ∈ ΠX(x1 , x0 ) で ある。 連続写像との関係を見ておこう。Y も位相空間で、 f : X → Y を連続写像とする。こ のとき、任意の x0 , x1 ∈ X について Πf : ΠX(x0 , x1 ) → ΠY (f (x0 ), f (x1 )), [ ] → [f ◦ ] が定義できる。これは補題 9.2 によって well defined である。これらの写像 Πf たちは、 path の積と compatible である。実際、任意の合成可能な 0 , 1 について { (f ◦ 0 )(2t), if 0 ≤ t ≤ 1/2, (f ◦ ( 1 · 0 ))(t) = = ((f ◦ 1 ) · (f ◦ 0 ))(t) (f ◦ 1 )(2t − 1), if 1/2 ≤ t ≤ 1 (∀t ∈ I) がなりたつからである。したがって、任意の γ0 ∈ ΠX(x0 , x1 ) および γ1 ∈ ΠX(x1 , x2 ) について (Πf )(γ1 γ0 ) = (Πf )(γ1 )(Πf )(γ0 ) ∈ ΠY (f (x0 ), f (x2 )) (9.8) がなりたつ。また、明らかに、 Π1X = 1ΠX であり、連続写像 g : Y → Z と、任意の x0 , x1 ∈ X について次がなりたつ。 Π(g ◦ f ) = (Πg) ◦ (Πf ) : ΠX(x0 , x1 ) → ΠZ(gf (x0 ), gf (x1 )) 基本群の基点のとりかえ 以上の定義により点付き位相空間 (X, x0 ) について、積もこめて ΠX(x0 , x0 ) = π1 (X, x0 ) (9.9) 14 年 11 月 26 日 9 である。x0 , x1 ∈ X および射 α ∈ ΠX(x0 , x1 ) について群の準同型 α∗ : π1 (X, x0 ) → π1 (X, x1 ), γ → αγα−1 が定義できる。 ΠX が亜群であること(補題 9.14)から直ちに、 α ∈ ΠX(x0 , x1 ), β ∈ ΠX(x1 , x2 ) について次が成立つ。 β∗ α∗ = (βα)∗ ex0 ∗ = 1π1 (X,x0 ) (9.10) つまり、対応 x0 → π1 (X, x0 ) を亜群 ΠX から群の圏への共変函手とみることができる。 とくに、α∗ = [ ]∗ の逆写像として (α−1 )∗ = [ −1 ]∗ がとれるから、次が成り立つ。 補題 9.15. 任意の α ∈ ΠX(x0 , x1 ) について α∗ : π1 (X, x0 ) → π1 (X, x1 ) は同型である。と くに、 X が弧状連結ならば、群 π1 (X, x0 ) (の同型類)は、基点 x0 のとり方に依らない。 そこで、 X が弧状連結のとき、基点を落として、 π1 (X) と表し、 (弧状連結な)位相空間 7 X の基本群とよぶ 。 さて、位相空間 X が 単連結(simply connected)または 1-連結(1-connected)である とは、弧状連結かつ π1 (X) = 1 であることをいう。明らかに一点からなる位相空間 ∗ は単 連結であり、(∗, ∗) にホモトピー同値な点付き空間 (X, ∗) について X は単連結である。 補題 9.16. 弧状連結な位相空間 X について次の条件は互いに同値である。 (a) X は単連結である。 (a’) 任意の x0 ∈ X について π1 (X, x0 ) = 1. (a”) ある x0 ∈ X について π1 (X, x0 ) = 1. (b) 任意の x0 および x1 ∈ X について ΠX(x0 , x1 ) は一点からなる。 (b’) 任意の x0 , x1 ∈ X および , ∈ (X, x0 , x1 )(I,0,1) について : (I, 0, 1) → (X, x0 , x1 ). 証明. (a), (a’), (a”) の間の同値は補題 9.15 で示した。(b) と (b’) が同値であることは ΠX(x0 , x1 ) の定義から明らか。(b) ⇒ (a’) は x1 = x0 とおけばよい。 (a’) ⇒ (b’) を示す。任意の , ∈ (X, x0 , x1 )(I,0,1) をとる。 (a’) により [ ]−1 [ ] ∈ π1 (X, x0 ) = 1 だから [ ] = [ ][ ]−1 [ ] = [ ]ex0 = [ ] ∈ ΠX(x0 , x1 ) となる。(b’) が得られ た。 さて、補題 9.5 で示したように π1 は点付き位相空間の homotopy 圏から群の圏への 共変函手であった。とくに、f : (X, x0 ) → (Y, y0 ) が点付き空間のホモトピー同値ならば、 f∗ : π1 (X, x0 ) → π1 (Y, y0 ) は同型である。さらに次が成り立つ。 補題 9.17. X, Y を位相空間、f : X → Y をホモトピー同値とする。(基点は考えなくて よい。)このとき、任意の x0 ∈ X について f∗ : π1 (X, x0 ) → π1 (Y, f (x0 )) は同型である。 基本群の基点のとりかえにともなう同型は一通りに決まらない。したがって π1 (X) は位相空間 の圏から群の圏への函手にはならない。他方、補講でも解説するように、Tor や Ext については射 影分解の取り替えにともなう同型は一通りに決まる。Tor や Ext が函手になっているのはこのため である。 7 幾何学 II 10 証明. まず、 I × I = [0, 1] × [0, 1] の paths i : I → I × I, s → (s, ), および j : I → I × I, t → ( , t), を考える。これらは i0 j1 −1 · (i1 · j0 ) : (I, 0, 1) → (I × I, (0, 0), (1, 0)) をみたす。これは、(直接ホモトピーを作っても良いが、)補題 9.16 と π1 (I × I, (0, 0)) = π1 (∗, ∗) = 1 から直ちにわかる。ホモトピー (I × I, (0, 0)) × I → (I × I, (0, 0)), ((s, t), u) → (us, ut), により、点付き空間のホモトピー同値 ((I × I, (0, 0)) (∗, ∗) が成り立つことに 注意せよ。 g : Y → X を f のホモトピー逆とする。1X g ◦ f : X → X であるから、連続写像 F : X × I → X であって、任意の x ∈ X について F (x, 0) = x および F (x, 1) = g ◦ f (x) を充たすものが存在する。α ∈ ΠX(x0 , (g ◦ f )(x0 )) を連続写像 t ∈ I → F (x0 , t) ∈ X の homotopy 類とする。このとき、 g∗ f∗ = α∗ : π1 (X, x0 ) → π1 (X, gf (x0 )) (9.11) が成り立つ。実際、任意の [ ] ∈ π1 (X, x0 ) について、 = 1X ◦ = F ◦ ( × 1I ) ◦ i0 , g ◦ f ◦ = F ◦( ×1I )◦i1 さらに α = [F ◦( ×1I )◦j0 ] = [F ◦( ×1I )◦j1 ] であるから、 i0 j1 −1 ·(i1 ·j0 ) により [ ] = (ΠF ◦ ( × 1I ))[i0 ] = (ΠF ◦ ( × 1I ))([j1 ]−1 [i1 ][j0 ]) = α−1 ((g ◦ f )∗ [ ])α となる。 これは (9.11) である。 同じ議論を繰り返すと、ある β ∈ ΠY (f (x0 ), f gf (x0 )) が存在して、 f∗ g∗ = β∗ : π1 (Y, f (x0 )) → π1 (Y, f gf (x0 )) (9.12) となることがわかる。 まず、(9.12) において β∗ は同型だから、g∗ : π1 (Y, f (x0 )) → π1 (X, gf (x0 )) は単射 である。同じく (9.11) において α∗ は同型だから、この g∗ は全射、したがって、g∗ : π1 (Y, f (x0 )) → π1 (X, gf (x0 )) は同型である。そこでふたたび (9.11) と α∗ の同型性から f∗ = (g∗ )−1 α∗ : π1 (X, x0 ) → π1 (Y, f (x0 )) も同型であることがわかる。 系 9.18. 可縮な空間 X は単連結 π1 (X) = 1 である。 基本群のアーベル化 独り言: 「円周 S 1 以外に一つもまともな例を計算していないが、一般には基本群は非可換で むずかしい。言い訳すると、具体的な計算には van Kampen の定理や fiber 空間の homotopy 完 全列が必要である。アーベル化すれば、少しは何か分かるかも知れない。そこで「弧状連結な位 相空間 X の基本群のアーベル化 π1 (X)abel は、整係数第 1 ホモロジー群 H1 (X; Z) に自然 に同型である。」という定理を証明しよう。 「逆に、ホモロジー群の立場から考えてみる。与えられた位相空間のホモロジー群を計算する には各連結成分のホモロジー群を計算した上で、それらの直和をとればよい。そこで、ホモロジー 群の計算は弧状連結な位相空間について実行できれば充分である。そして、基本群についてある程 度計算できれば第 1 ホモロジー群は分かるわけである。 「複雑な空間のホモロジー群の計算をするときに、すぐ使える定理は、この定理とオイラー数 の計算(広く言えばリーマン・ロッホ型定理)くらいしかない。2次元以上のホモロジー群につい ては、或種の消滅定理を証明してオイラー数の計算と組み合わせたり、胞体分割して複体の境界写 像を丹念に調べたり、うまいスペクトル系列を見つけたり、、、といった深いアイディア and/or 泥 臭い努力が必要になるのである。」 14 年 11 月 26 日 11 ということで、まず 群のアーベル化 について復習しよう。 G を群とする。 x, y ∈ G の交換子 [x, y] ∈ G を [x, y] = xyx−1 y −1 ∈ G によって定義する8 。集合 {[x, y] ∈ G; x, y ∈ G} (これ自身は一般には部分群ではない)の 生成する G の部分群を [G, G] と書き G の交換子群とよぶ。これは G の正規部分群であ る。任意の x, y, z ∈ G について z[x, y]z −1 = zxz −1 zyz −1 zx−1 z −1 zy −1 z −1 = [zxz −1 , zyz −1 ] が成り立つからである。商群 G/[G, G] は可換である。xy = xyx−1 y −1 yx ≡ yx (mod [G, G]) だからである。これを Gabel と書き Gabel := G/[G, G] 群 G のアーベル化(abelianization, 可換化)と呼ぶ。アーベル化は次の性質を持つ。 G から Gabel への自然射影を p : G → Gabel = G/[G, G], x → x mod [G, G] によって表わす。 補題 9.19. (アーベル化の普遍性) 任意の可換群 A への準同型 f : G → A に対して準 同型 f : Gabel → A であって標準射影 p : G → Gabel について f = f ◦ p : G → A をみたす ものが唯一つ存在する。 証明. まず f の存在を示す。任意の x, y ∈ G について f ([x, y]) = f (xyx−1 y −1 ) = f (x) + f (y) − f (x) − f (y) = 0 ∈ A だから f ([G, G]) = 0 が成り立つ。これを用いると f : Gabel → A を f (x mod [G, G]) := f (x) ∈ A, x∈G によって定義することができる。 well-defined であること、つまり上式右辺が代表元 x の 取り方に依らないことは次のようにして分かる。 x mod [G, G] = x mod [G, G] ∈ Gabel とするとき x−1 x ∈ [G, G]. いま示したことから 0 = f (x−1 x ) = −f (x) + f (x ) ゆえに f (x ) = f (x) ∈ A となる。したがって f は well-defined である。 f が準同型であること、および f = f ◦ p が成り立つことは明らか。また f の一意性 は p の全射性から導かれる。(いずれも補題 5.1 の証明と同様である。) たとえば、n を 2 以上の整数とし、表示 生成元: 関係式: σi , 1 ≤ i ≤ n − 1, σi σj = σj σi , if |i − j| ≥ 2, σi σi+1 σi = σi+1 σi σi+1 , for 1 ≤ i ≤ n − 2, をもつ群 Bn (Artin braid 群)を考える。 Bn のアーベル化 Bn abel は上記の Bn の表示に 関係式 σi σj = σj σi , (∀i, ∀j) を付け加えた表示をもつから、演算を加法的に書くと Bn abel は、文字 σi (1 ≤ i ≤ n − 1) によって生成される可換群で、関係式 σi + σi+1 + σi = σi+1 + σi + σi+1 8 人によって交換子の定義が少しずつ異なるので文献を読むときは注意すること。 幾何学 II 12 つまり、 σi = σi+1 によって定義されるものである。これは、要するに σ1 の生成する無限 巡回群である Bn abel = Z. また、n 次対称群 Sn のアーベル化 Sn abel は Z/2 に同型であり、n ≥ 5 のとき、n 次交 代群 An のアーベル化 An abel は 0 である。 例 9.20. K を体とする。n ≥ 3 のとき、GL(n, K) のアーベル化は、行列式 det によって K の乗法群 K × に同型である ∼ = det : GL(n, K)abel → K × . λ 証明のあらすじ. λ ∈ K, 1 ≤ a = b ≤ n, について行列 Eab ∈ GL(n, K) を、対角成分は 1, (a, b) 成分は λ, 他の成分は 0 であるものと定義する。また、µ ∈ K × について、行列 Dµ ∈ GL(n, K) を (1, 1) 成分は µ, (1, 1) 成分以外の対角成分は 1, それ以外の成分は 0 で λ あるものと定義する。行列の基本変形にあらわれる行列はすべて Eab たちと Dµ たちの積 λ でかける。したがって、GL(n, K) は Eab たちと Dµ たちによって生成される。 他方、n ≥ 3 だから、c ∈ {1, 2, . . . , n} − {a, b} なる添字 c がとれる。直接計算によって λ 1 λ [Eac , Ecb ] = Eab λ がわかる。つまり、Eab ∈ [GL(n, K), GL(n, K)] である。したがって、GL(n, K) は Dµ abel たちによって生成される。言い換えると、全射 D : µ ∈ K × → Dµ ∈ GL(n, K) がとれる。 abel 明らかに det ◦D = 1K × だから D は単射、したがって同型で、 det : GL(n, K) → K× はその逆、とくに同型である。 abel 位相空間 X に戻る。基点 x0 ∈ X をとる。準同型 π1 (X, x0 ) → H1 (X; Z) を構成しよ う。もちろん H1 (X; Z) は可換群だからこれにより準同型 π1 (X, x0 )abel → H1 (X; Z) が誘 導される。 ∆1 = {(x0 , x1 ) ∈ R2 ; x0 + x1 = 1, x0 ≥ 0, x1 ≥ 0} を同相写像 t ∈ I → (1 − t, t) ∈ ∆1 (9.13) によって I = [0, 1] と同一視する。∆0 ≈ ∗ であるが、この同一視のもとで、 = 0, 1 に ついて d0 : ∆0 → ∆1 および ∈ I への写像 δ : ∗ → は d00 = δ1 および d01 = δ0 を みたす。(補題 5.12 および (5.8) 参照。)とくに、連続写像 : (I, 0, 1) → (X, x0 , x0 ) は ∂1 = (1) − (0) = x0 − x0 = 0 ∈ S0 (X) をみたすから 1-cycle ∈ Z1 (S∗ (X)) とみなすこと ができる。こうして写像 ϕ : (X, x0 )(I,∂I) → H1 (X; Z), →[ ] (9.14) が得られる。これから証明するのはつぎの定理である。 定理 9.21. X を 弧状連結な 位相空間、 x0 ∈ X とするとき、いま構成した写像 ϕ は、基 本群のアーベル化から整係数第 1 ホモロジー群の上への自然な同型を定める ∼ = ϕ : π1 (X, x0 )abel → H1 (X). 14 年 11 月 26 日 13 まず ϕ の自然性を先に確かめておく。(X, x0 )(I,∂I) のレベルで証明しておけばよい。 (Y, y0 ) をもうひとつの点付き空間、 f : (X, x0 ) → (Y, y0 ) を連続写像とする。このとき可 換図式 f∗ (X, x0 )(I,∂I) −−−→ (Y, y0 )(I,∂I) ϕ ϕ H1 (X) f∗ −−−→ H1 (Y ) が得られる。実際、任意の ∈ (X, x0 )(I,∂I) について ϕ ◦ f∗ ( ) = ϕ(f ◦ ) = [f ◦ ] = f∗ [ ] = f∗ ϕ( ) ∈ H1 (Y ) となるからである。 さて ϕ は定理 9.8 で述べた Hurewicz√準同型に他ならない。このことを確かめよう。連 続写像 p : (I, ∂I) → (S 1 , 1), t → exp(2π −1t), を考える。ϕ(p) = [p] ∈ H1 (S 1 ; Z) である。 ∼ = 補題 9.6 により同型 p∗ : [(S 1 , 1), (X, x0 )] → π1 (X, x0 ), [f ] → p∗ [f ] := [f ◦ p], が成立つ。定 義から ϕ(f ◦ p) = [f ◦ p] = f ∗ [p] = h[p] (f ) となる。かくして ϕ = h[p] ◦ (p∗ )−1 : π1 (X, x0 ) → [(S 1 , 1), (X, x0 )] → H1 (X) (9.15) となる。つまり ϕ は homotopy 不変で、定理 9.8 より準同型である。補題 9.19 により ϕ は準同型 ϕ : π1 (X, x0 )abel → H1 (X) を誘導する。 ここから X は弧状連結である とする。準同型 ϕ : π1 (X, x0 )abel → H1 (X) が同型とな ることを示そう。これこそが定理 9.21 に他ならない。 ϕ の逆写像となるべきものを構成する。 X は弧状連結だから、各 x ∈ X に対して x0 を X に結ぶ X 内の path がとれる。そこで写像 θ : x ∈ X → θ(x) ∈ X I を θ(x)(0) = x、 θ(x)(1) = x0 となるようにとることが出来る。 (このような写像の存在は 選択公理によって保証されている。)ただし θ(x0 ) は定数写像 θ(x0 )(t) = x0 , ∀t ∈ [0, 1] 0 1 (9.16) 0 となるようにしておく。同一視 X ∆ = X および X ∆ = X I により、写像 θ を X ∆ から 1 X ∆ への写像と見なすことが出来る。これらの生成する自由加群に移行して、準同型 θ : S0 (X) → S1 (X), x → θ(x) (9.17) が得られる。 さて、 ∈ X I について path の積 θ( (1)) · ( · θ( (0))−1 ) は x0 を基点とする loop で ある。そこで、写像 ψ : X I → π1 (X, x0 )abel , → θ( (1)) · · θ( (0))−1 1 を考えることができる。これは同一視 X I = X ∆ によって準同型 ψ : S1 (X) → π1 (X, x0 )abel を誘導する(補題 2.1)。以下の3つの段階を踏んで ψ が ϕ の逆 H1 (X) → π1 (X, x0 )abel を定め、 ϕ が同型となることを証明する。 幾何学 II 14 (1) ψ(∂2 (S2 (X))) = 0. これにより、準同型 ψ : S1 (X)/∂2 (S2 (X)) → π1 (X, x0 )abel が誘導される。ψ の H1 (X) への制限も ψ と書くことにする。(これが求める逆写像 である。) ϕ ψ (2) ψϕ = 1π1 (X,x0 )abel : π1 (X, x0 )abel → H1 (X) → π1 (X, x0 )abel . ψ ϕ (3) ϕψ = 1H1 (X) : H1 (X) → S1 (X)/∂2 (S2 (X)) → π1 (X, x0 )abel → H1 (X) ひとつひとつ証明していこう。 (1) 連続写像 d1i : I(= ∆1 ) → ∆2 , i = 0, 1, 2, について [d10 · d12 ] = [d11 ] ∈ Π∆2 ((1, 0, 0), (0, 0, 1)) が成り立つ。実際 ∆2 は可縮だから単連結であり Π∆2 ((1, 0, 0), (0, 0, 1)) は一点からなる集 合である。そこで任意の連続写像 σ : ∆2 → X について (σ ◦ d10 ) · (σ ◦ d12 ) (σ ◦ d11 ) : I → X rel∂ を得る。 z0 = σ(1, 0, 0), z1 = σ(0, 1, 0), z2 = σ(0, 0, 1) ∈ X とおいて、このホモトピーを 使うと ψ(∂2 σ) = ψ(σ ◦ d10 − σ ◦ d11 + σ ◦ d12 ) = (θ(z2 ) · (σ ◦ d10 ) · θ(z1 )−1 ) − (θ(z2 ) · (σ ◦ d11 ) · θ(z0 )−1 ) + (θ(z1 ) · (σ ◦ d12 ) · θ(z0 )−1 ) = (θ(z2 ) · (σ ◦ d10 ) · θ(z1 )−1 θ(z1 ) · (σ ◦ d12 ) · θ(z0 )−1 ) − (θ(z2 ) · (σ ◦ d11 ) · θ(z0 )−1 ) = (θ(z2 ) · (σ ◦ d10 ) · (σ ◦ d12 ) · θ(z0 )−1 ) − (θ(z2 ) · (σ ◦ d11 ) · θ(z0 )−1 ) = (θ(z2 ) · (σ ◦ d11 ) · θ(z0 )−1 ) − (θ(z2 ) · (σ ◦ d11 ) · θ(z0 )−1 ) = 0 が π1 (X, x0 )abel において成り立つ。(1) が示された。 (2) 任意の loop ∈ (X, x0 )(I,∂I) をとる。 (9.16) により θ(x0 ) は定数写像だから ψϕ[ ] = ψ[ ] = [θ(x0 ) · · θ(x0 )−1 ] = [ ] ∈ π1 (X, x0 )abel となる。つまり ψ ◦ ϕ = 1π1 (X,x0 )abel である。(2) が示された。 (3) まず、 θ を (9.17) の準同型とすると ϕ ◦ ψ = 1 − θ ∂1 : S1 (X) → S1 (X)/∂2 (S2 (X)) が成り立つ。実際、任意の連続写像 : [0, 1] → X について ϕ ◦ ψ( ) = ϕ(θ( (0)) · · θ( (1))−1 ) = θ( (0)) + − θ( (1)) = + θ ( (0) − (1)) = (1 − θ ∂1 )( ) となるからである。そこで ∀u ∈ Z1 (S∗ (X)) について ∂1 u = 0 より (ϕ ◦ ψ)[u] = [u − 0] = [u] ∈ H1 (X) となり ϕψ = 1H1 (X) が分かる。(3) が示された。 14 年 11 月 26 日 15 以上で ϕ と ψ が互いに逆であり、ϕ : π1 (X, x0 )abel → H1 (X) が同型であること、つまり 定理が証明された。 定理 9.11 により π1 (S 1 ) ∼ = Z であって連続写像 p : (I, ∂I) → (S 1 , 1) が生成元となって いる。S 1 に定理 9.21 を適用すると [p] ∈ H1 (S 1 ) が生成元であることがわかる。このこと は直接証明することもできる(問題 7.4)。 また、補題 9.B によって位相群 G の基本群は可換であった。そこで、弧状連結な位相 群 G について自然な同型 π1 (G, e) = H1 (G) = H1 (G; Z) がなりたつ。S 1 = SO2 だから、 このことからも π1 (S 1 , 1) = Z が証明できる。また、SO3 ≈ RP 3 の第一ホモロジー群は Z/2 だから π1 (SO3 , 1) = Z/2 となる。 §B. van Kampen の定理. (前半) (Seifert-)van Kampen の定理を定式化し証明する。van Kampen の定理は、位相空間 X とその開被覆 {U, V } であって、 U ∩ V が空でなく弧状連結であるときに、X の基本 群 π1 (X) を π1 (U ), π1 (V ) および π1 (U ∩ V ) によって表す方法を与える(Mayer-Vietoris 完全列と同系統の)定理である。 定式化のためには、群の自由積と(その拡張概念である)融合積というものが必要であ る。定理の証明そのものは、ホモロジー群の Mayer-Vietoris 完全列などと同様に、開被覆 の Lebesgue 数を用いる。 まず、最初に群の自由積と融合積について述べる。 群の融合積 融合積というのはファイバー積の双対概念である。融合積およびファイバー積は、それぞ れ自由積および直積の拡張概念である。まず(論理的には不要だが)、群のファイバー積 (fiber product)について復習しよう。 G, H および K を群とし、φ1 : G → K および φ2 : H → K を群の準同型とする。ファ イバー積 G ×K H は、直積群 G × H の部分群 G ×K H := {(g, h) ∈ G × H; φ1 (g) = φ2 (h)} として定義される。実際に部分群であることは、任意の (g, h), (g , h ) ∈ G ×K H に ついて φ1 (g −1 g ) = φ1 (g)−1 φ1 (g ) = φ2 (h)−1 φ2 (h ) = φ2 (h−1 h ) より (g, h)−1 (g , h ) = (g −1 g , h−1 h ) ∈ G ×K H となることから分かる。ここで射影の G ×K H への制限 p1 : G ×K H → G, (g, h) → g および p2 : G ×K H → H, (g, h) → h が大切である。ファイバー積 G ×K H の定義から明らかに図式 p2 G ×K H −−−→ H p1 φ 2 G φ1 −−−→ K は可換である。ファイバー積は次の意味での普遍性(universality)をもつ。 (B.1) 幾何学 II 16 補題 B.1. (ファイバー積の普遍性)群 L および準同型 q1 : L → G, q2 : L → H が図式 q2 L −−−→ H q1 φ (B.2) 2 φ1 G −−−→ K を可換にするとき、つまり、φ1 q1 = φ2 q2 : L → K を充たすとき、準同型 q : L → G ×K H であって、q1 = p1 ◦ q : L → G および q2 = p2 ◦ q : L → H を充たすものが唯一つ存在す る。つまり、図式 q2 / L III u: H q1 uu uu u u uu II qb II II I$ p2 G ×K H u uu uup1 u u u z u φ1 G は可換となり、そのような q は唯一つである。 φ2 /K 証明. ほとんど nonsense であるけれども、証明しておく。 1) q の存在。k ∈ L について q(k) := (q1 (k), q2 (k)) ∈ G × H と置く。(B.2) により φ1 q1 (k) = φ2 q2 (k) だから q(k) ∈ G ×K H である。ゆえに q : L → G ×K H とみなすことが出来る。q の作 り方から p1 q = q1 : L → G および p2 q = q2 : L → H は明らか。 2) q の一意性。もう一つ q があったとする。k ∈ L について q (k) := (q1 (k), q2 (k)) ∈ G×K H ⊂ G×H と表しておく。任意の k ∈ L について q1 (k) = p1 q (k) = q1 (k) および q2 (k) = p2 q (k) = q2 (k) が成り立つ。ゆえに、任意の k ∈ L について q (k) := (q1 (k), q2 (k)) = (q1 (k), q2 (k)) = q(k)、つま り q = q : L → G ×K H となる。 ファイバー積 G ×K H は普遍性つまり図式 (B.1) と補題 B.1 によって特徴付けられ る9 。もし、K が自明群 1 = {1} ならばファイバー積 G ×K H は直積 G × H そのもので ある。同様の方法で、集合のファイバー積や位相空間のファイバー積も定義できる。 我々が扱いたいのは、ファイバー積の矢印の向きを全部逆にしたもの である。 つまり、群 G, H および K と(ファイバー積の場合と矢印の向きを逆にした)準同型 ψ1 : K → G および ψ2 : K → H が与えられたとき、群 G ∗K H と準同型 l1 : G → G ∗K H および l2 : H → G ∗K H であって、図式 l G ∗K H ←−2−− H ψ2 l1 (B.3) ψ1 G ←−−− K を充たし、補題 B.1 の矢印の向きを全部逆にした次の性質を充たすものを作りたい。 普遍性 B.2. 群 L および準同型 q1 : G → L, q2 : H → L が図式 q2 L ←−−− H q1 ψ2 (B.4) ψ1 G ←−−− K この事実は使わないので証明は省略する。補題 B.3 で与える融合積の一意性の証明において、 そこに現れる矢印の向きをすべて逆にすれば、自動的に この事実の証明がえられる。 9 14 年 11 月 26 日 17 を可換にするとき、つまり、q1 ψ1 = q2 ψ2 : K → L を充たすとき、準同型 q : G ∗K H → L であって、q1 = q ◦ l1 : G → L および q2 = q ◦ l2 : H → L を充たすものが唯一つ存在する。 つまり、図式 q2 LO odHH HH HH H qb HH H vv O v vv vv vz v l2 G; ∗K H q1 ψ2 v l1 vvv v vv vv Go ψ1 K は可換となり、そのような q は唯一つである 。 10 このようなものは、これから証明するように、もし存在すれば 同型を除いて唯一つしかな い。そこでこの G ∗K H を群 G と H の K についての融合積(amalgamated product)と よぶ。ファイバー積の双対概念なので cofiber product と呼ぶこともある。 補題 B.3. 群 Γ と準同型 λ1 : G → Γ および λ2 : H → Γ が図式 λ 2 Γ ←−− − H ψ2 λ1 (B.5) ψ1 G ←−−− K を可換にし、普遍性 B.2 を充たすとする。このとき、Γ と G ∗K H は(唯一つの融合積の 構造を保つ同型によって)同型である。 証明. G ∗K H, l1 , l2 と同じ性質をもつ Γ, λ1 : G → Γ, λ2 : H → Γ があったとする。この とき、可換図式 (B.5) に G × H の普遍性 B.2 を適用して、準同型 α : G ∗K H → Γ であっ て、図式 ΓO odHHH λ2 H HH α HH l2 HH H / G ∗K H λ1 G l1 を可換にするものが唯一つ存在する。次に、可換図式 (B.3) に Γ の普遍性を適用して、準 同型 β : Γ → G ∗K H であって、 図式 o l2 G ∗KO H dH l1 G H HH β HH HH HH λ2 H /Γ λ1 を可換にするものが唯一つ存在する。さらに、βα : G ∗K H → G ∗K H と 1G∗K H は、どち らも、図式 l2 G ∗KO HfM o l1 MMM βα MMM 1G∗ H MMM K G l1 H l2 / G ∗K H 以上の主張は「自然な同型 Hom(G ∗K H, L) = Hom(G, L) ×Hom(K,L) Hom(H, L) が成り立つ。」 といいかえることもできる。ここで右辺は集合のファイバー積である。 10 幾何学 II 18 を可換にするから G ∗K H の普遍性 B.2 の一意性の部分から βα = 1G∗K H である。最後に (そろそろ飽きて来たけれど)αβ : Γ → Γ と 1Γ は、どちらも、図式 ΓO o`@@ λ2 H @@ αβ @@ λ2 λ1 1Γ @@ G λ /Γ 1 を可換にするから Γ の普遍性 B.2 の一意性の部分を適用して αβ = 1Γ を得る。かくして、 α と β は互いに逆であり、Γ と G ∗K H は(融合積の構造を保つただ一つの)同型 α お よび β によって同型となる。 融合積の構成 に取りかかろう。一意性が分かっても実際に存在しなければ話にならな い。構成方法は非常に原始的である。G の元と H の元を無理矢理ならべてしまったもの を適当な同値関係で同一視して群をつくるのである。まず、無理矢理ならべたものの集合 W := {1} n≥1 (G H)n をもってくる。ここで 1 は形式的な記号、 は disjoint 和(形式的に和をとったもの) n (G H) は集合 G と H を形式的に和をとったもの (G H) を n 回直積したもの n回 (G n H) := (G H) × (G H) × · · · × (G H) である。言い換えると、集合 W の元は 1 または (x1 , x2 , . . . , xn ), (n ≥ 1, 各 xi は G または H の元) という形をしている。自由積の感じを出すために (x1 , x2 , . . . , xn ) を x1 ∗ x2 ∗ · · · ∗ xn と表 すことにする。 W は横に並べるという安直なやり方によって単位半群(monoid)をなす。つまり、x1 ∗ x2 ∗ · · · ∗ xn および y1 ∗ y2 ∗ · · · ∗ ym ∈ W について、これらの積を (x1 ∗ x2 ∗ · · · ∗ xn )(y1 ∗ y2 ∗ · · · ∗ ym ) := x1 ∗ x2 ∗ · · · ∗ xn ∗ y1 ∗ y2 ∗ · · · ∗ ym によって定義する。1 については 11 = 1, 1(x1 ∗ x2 ∗ · · · ∗ xn ) = (x1 ∗ x2 ∗ · · · ∗ xn )1 = x1 ∗ x2 ∗ · · · ∗ xn と定義する。この積は明らかに結合則をみたし、1 を単位元にもつ。つ まり W は monoid である。1 は 0 個の xi たちの列だと考えることができるから、空語 (empty word)とも呼ばれる。 W を、適当な同値関係によって商をとり、群にしよう。W 上の同値関係 ∼ を、以下 の (1) から (5) までの操作で移りあうものを同値とする最小の同値関係とする。 (1) 隣りあう xi と xi+1 がともに G に属していれば、 x1 ∗ · · · ∗ xi ∗ xi+1 ∗ · · · ∗ xn ∼ x1 ∗ · · · ∗ xi xi+1 ∗ · · · ∗ xn とする。ここで xi xi+1 は G における積である。 (2) 隣りあう xi と xi+1 がともに H に属していれば、 x1 ∗ · · · ∗ xi ∗ xi+1 ∗ · · · ∗ xn ∼ x1 ∗ · · · ∗ xi xi+1 ∗ · · · ∗ xn とする。ここで xi xi+1 は H における積である。 14 年 11 月 26 日 19 (3) n ≥ 2 であって、xi が G または H の単位元 1G または 1H であれば、 x1 ∗ · · · ∗ xi−1 ∗ xi ∗ xi+1 ∗ · · · ∗ xn ∼ x1 ∗ · · · ∗ xi−1 ∗ xi+1 ∗ · · · ∗ xn . (4) 1 ∼ 1G ∼ 1H . (5) xi がある z ∈ K によって xi = ψ1 (z) または ψ2 (z) と表されていれば、それを ψ2 (z) または ψ1 (z) に置き換えることができる x1 ∗ · · · ∗ xi−1 ∗ ψ1 (z) ∗ xi+1 ∗ · · · ∗ xn ∼ x1 ∗ · · · ∗ xi−1 ∗ ψ2 (z) ∗ xi+1 ∗ · · · ∗ xn . 以上の (1) から (5) までの操作は monoid W の積を保つ。したがって、同値関係 ∼ は W の積を保ち、商集合 W/ ∼ は再び monoid となる。 さらに、 W/ ∼ は逆元をもち、群となる。実際、x1 ∗ x2 ∗ · · · ∗ xn の逆元は (x1 ∗ x2 ∗ · · · ∗ xn )−1 = xn −1 ∗ · · · ∗ x2 −1 ∗ x1 −1 で与えられる。上述の操作 (1) (2) および (3) を繰り返し用いることにより(正確には n についての帰納法で) = = = xn −1 ∗ · · · ∗ x2 −1 ∗ x1 −1 ∗ x1 ∗ x2 ∗ · · · ∗ xn xn −1 ∗ · · · ∗ x2 −1 ∗ x2 ∗ · · · ∗ xn ··· xn −1 ∗ xn = 1G または 1H となるが、これは (4) により 1 に等しいからである。明らかに 1 の逆元は 1 である。 こうして得られた群 W/ ∼ を G ∗K H と表し、G と H の K による融合積と呼ぶ。と くに混乱がなければ x1 ∗ x2 ∗ · · · ∗ xn mod ∼∈ G ∗K H を x1 x2 · · · xn と書いてしまうこと にする。 x ∈ G を (G H)1 ⊂ W の元とみなし、mod∼ をとって W/∼ = G ∗K H の元とし たものを l1 (x) := x mod ∼ ∈ G ∗K H と表す。こうして定まる写像 l1 : G → G ∗K H は、操作 (1) によって準同型である。同様に、準同型 l2 : H → G ∗K H を l2 (x) := x mod ∼ ∈ G ∗K H, x ∈ H, によって定義する。操作 (5) によって、任意の z ∈ K につい て l1 ψ1 (z) = ψ1 (z) mod ∼ = ψ2 (z) mod ∼ = l2 ψ2 (z) だから、図式 (B.3) は可換である。 ここで作った G ∗K H が普遍性 B.2 を充たすこと示そう。図式 (B.4) を可換にする群 L および準同型 q1 : G → L, q2 : H → L が与えられたとする。 1) q の存在。monoid W から L への写像 q : W → L を q(1) = 1, q(x1 ∗ x2 ∗ · · · ∗ xn ) := qa1 (x1 )qa2 (x2 ) · · · qan (xn ) ∈ L によって定義する。ここで ai = 1, 2 は xi が G の元か、H の元かによって決める。これ は明らかに W の積を L の積に写す。q は、同値関係 ∼ と適合している。実際、q1 およ び q2 は準同型だから、(1) から (4) までの操作によって q の値は変わらない。また、図式 (B.3) が可換である、つまり任意の z ∈ K について q1 ψ1 (z) = q2 ψ2 (z) ということから、 操作 (5) によって q の値は変わらない。 したがって、(W/∼ =) G∗K H の積を L の積に写す写像 q : G∗K H → L を q(x1 x2 · · · xn ) := q(x1 ∗ x2 ∗ · · · ∗ xn ) ∈ L によって定義することができる。作り方から明らかに q ◦ l1 = q1 : G → L, q ◦ l2 = q2 : H → L である。 幾何学 II 20 2) q の一意性。これは G ∗K H が部分集合 l1 (G) ∪ l2 (H) によって生成されることから 分かる。実際、もう一つ q : G ∗K H → L があったとする。このとき、 G ∗K H の任意の 元 x1 x2 · · · xn について、 ai = 1, 2 を上のようにとると、 q (x1 x2 · · · xn ) = q (x1 )q (x2 ) · · · q (xn ) = q la1 (x1 )q la2 (x2 ) · · · q lan (xn ) = qa1 (x1 )qa2 (x2 ) · · · qan (xn ) = q(x1 ∗ x2 ∗ · · · ∗ xn ) = q(x1 x2 · · · xn ) となるから、 q = q : G ∗K H → L である。 以上で融合積 G ∗K H の構成が終わった。K = {1} の場合の融合積 G ∗{1} H は自由積 (free product)と呼ばれ、G ∗ H と表される: G ∗{1} H = G ∗ H. 融合積をとる操作によって、群は非常に大きくなる。たとえば および Z/4 ∗Z/2 Z/6 ∼ = SL(2, Z) (B.6) Z/2 ∗ Z/3 ∼ = P SL(2, Z) (B.7) 11 などが古典的に知られている ( ) ( ) ( 。ここで、 ) (B.6) の Z/4, Z/6 および Z/2 はそれぞれ行列 0 −1 0 −1 −1 0 , および に対応している。(B.7) も同様である。 1 0 1 1 0 −1 作り方または普遍性から分かるように、三つの群 G1 , G2 および G3 について自由積の 「結合則」 (G1 ∗ G2 ) ∗ G3 = G1 ∗ (G2 ∗ G3 ) が成り立つ。そこで、これらを G1 ∗ G2 ∗ G3 と表す。同様に n 個の群 Gi , 1 ≤ i ≤ n, の自 由積 G1 ∗ G2 ∗ · · · ∗ Gn というものも考えることができる。n 個の無限巡回群 Z の自由積 を n 文字の自由群(free group of rank n)とよび、 n回 Fn := Z ∗ Z ∗ · · · ∗ Z と表す。複素平面 C から n 個の相異なる点を取り除いた空間の基本群は Fn に同型であ る。これはあとで示す van Kampen の定理から直ちに得られる。 一般に、群 G の部分群 G について、 G を含む G の最小の正規部分群 ∩ |G | := N G <N G を、G の G における正規閉包(normal closure) とよぶ。ここで、上式右辺の L は G の G を含む正規部分群の全体を走る。融合積に戻って、次の補題は G ∗K H の構成から明ら かである。 (普遍性を用いても証明できる。) 保型函数または Fuchs 群の教科書を参照。楕円曲線 = 平面三次曲線という事実を使った証明 もできる。J.-P. Serre, ‘Arbres, amalgames, SL2 ,’ Ast´erisque 46 (1977), pp. 20-21 を参照(英訳 あり)。 11 14 年 11 月 26 日 21 補題 B.4. H が自明群 1 = {1} のとき、 G∗K H は ψ1 (K) の G における正規閉包 |ψ1 (K)| による G の商群 G/|ψ1 (K)| に同型である G ∗K H = G/|ψ1 (K)|. とくに G = H = {1} のとき、商群 G ∗K H = G/|ψ1 (K)| は自明 = 1 である。 van Kampen の定理 を定式化しよう。 定理 B.5. (Seifert-van Kampen) X を位相空間、 U , V ⊂ X を部分集合で条件 o o U ∪V =X (B.8) を充たし、さらに U ∩ V は空でなく弧状連結であるとする。基点 x0 を U ∩ V にとる: x0 ∈ U ∩ V . このとき、包含準同型からなる可換図式 jV ∗ π1 (X, x0 ) ←−− − jU ∗ π1 (V, x0 ) iV ∗ iU ∗ π1 (U, x0 ) ←−− − π1 (U ∩ V, x0 ) の誘導する準同型 ∼ = ι : π1 (U, x0 ) ∗π1 (U ∩V,x0 ) π1 (V, x0 ) → π1 (X, x0 ) は同型である。 証明するまえに、これを使って n 次元球面 S n , n ≥ 2, の基本群を計算してみよう。 定理 B.6. n ≥ 2 のとき、球面 S n は単連結、つまり弧状連結かつ π1 (S n ) = 1 である。 証明. n ≥ 2 ≥ 1 より S n は弧状連結である。基本群を計算する。 ∑n §3 のホモロジー群の計算 のときと同様に n 次元球面 S n := {(x0 , x1 , . . . , xn ) ∈ Rn+1 ; i=0 xi 2 = 1} の開被覆 {U, V }, U := S n −{Q}, V := S n −{P } を考える。ここで P := (0, . . . , 0, 1), Q := (0, . . . , 0, −1) ∈ S n とする。補題 3.4 (2) と n ≥ 2 の仮定から U ∩ V S n−1 は弧状連結である。したがって、 van Kampen の定理(定理 B.5)が使えて π1 (S n ) = π1 (U ) ∗π1 (U ∩V ) π1 (V ) となる。ここで、補題 3.4 (1) で示したように U V ∗ だから π1 (U ) = π1 (V ) = 1、ゆ えに融合積は π1 (U ) ∗π1 (U ∩V ) π1 (V ) = 1 ∗π1 (U ∩V ) 1 = 1 となる。 van Kampen の定理の U ∩V が弧状連結であるという仮定は不可欠である。もし、 U ∩V の弧状連結性が要らないのならば、いまの計算が S 1 でも適用できて、 π1 (S 1 ) = 1 となっ てしまう!のである。 van Kampen の定理の証明は次回行う。 幾何学 II 22 : (I, ∂I) → 宿題レポート問題 8.(提出締切: 12月 3日.)次式で定義される連続写像 (SO(3), 1), t → (t), cos 2πt − sin 2πt 0 (t) := sin 2πt cos 2πt 0 0 0 1 について [ ]2 = 1 ∈ π1 (SO(3), 1) を与える homotopy を具体的に与えよ。 幾何学特別演習 II 14年11月26日 河澄 問題 8.1. 各 n ≥ 2 について n 次交代群 An のアーベル化 An abel を求めよ。 問題 8.2. 点付き位相空間 (X, x0 ) および (Y, y0 ) について自然な同型 π1 (X × Y, (x0 , y0 )) ∼ = π1 (X, x0 ) × π1 (Y, y0 ) が成り立つことを示せ。 問題 8.3. X を弧状連結な位相空間とし、 x0 ∈ X とする。基点の情報を忘れる写像 Φ : π1 (X, x0 ) = [(S 1 , ∗), (X, x0 )] → [S 1 , X] が全射であり、γ, δ ∈ π1 (X, x0 ) について Φ(γ) = Φ(δ) であるための必要充分条件は、ある ζ ∈ π1 (X, x0 ) が存在して、δ = ζγζ −1 となることであることを示せ。(したがって、Φ が 全単射であるためには π1 (X, x0 ) が可換であることが必要充分である。) 問題 8.4. 位相空間 X とその上の基点 x0 ∈ X および compact Hausdorff 空間 C とその 閉集合 A について、写像空間の同相 (X, x0 )(C,A) ≈ (X, x0 )(C/A,∗) を証明せよ。C/A は A を一点につぶした商空間、∗ = A/A ∈ C/A とする。ここで、上式 両辺にはそれぞれ X C および X C/A の compact 開位相の部分位相を入れる。 問題 8.5. x0 , x1 , x2 を 位相空間 X の三点とする。 compact 開位相の部分位相を入れた とき、path の合成 (X, x0 , x1 )(I,0,1) × (X, x1 , x2 )(I,0,1) → (X, x0 , x2 )(I,0,1) , ( 1, 2) → 2 · 1 が連続写像であることを示せ。 問題 8.6. 点つき空間 (X, x0 ) の loop 空間 ΩX = Ω(X, x0 ) が自然な H 空間の構造をもつ ことを示せ。ただし loop 空間の位相は compact 開位相を入れるものとする。したがって loop 空間の基本群(つまり第二 homotopy 群 π2 (X, x0 ))は可換である。
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