幾何学 XA = 位相幾何学:14年 5月 2日 今日の講義の摘要: 前半では、底空間が paracompact であるファイバー束が Hurewicz fibration であるという Hurewicz の定理を証明する。応用として球面上の主 G 束を分類する。後半では Hurewicz fibration の(位相的な)平行移動を考える。次回、その定式化のために基本亜群を導入 する。 §4. 写像のリフトと被覆ホモトピー性質.(後半) この講義を通して、I によって単位区間 [0, 1] := {t ∈ R; 0 ≤ t ≤ 1} ⊂ R を表す I = [0, 1]. 前回は離散的なファイバーをもつファイバー束を考えたが、今日は、一般のファイバー 束を考える。底空間が paracompact1 であるファイバー束は Hurewicz fibration になると いう W. Hurewicz の定理を最初に証明する。 以下ではとくに断らない限り、位相空間 Z について i0 : Z → Z × I によって写像 z → (z, 0) を表す。また ev0 : Z I → Z によって t = 0 における evaluation map → (0) を表す。これは連続写像である。 Hurewicz の定理を証明するために、Hurewicz fibration の定義の条件を言い換える。そ のために、位相空間の間の連続写像 f : X → Y について Nf := X ×Y Y I = {(x, ) ∈ X × Y I ; (0) = f (x)} ⊂ X × Y I とおく。これには mapping path space という呼称がある。連続写像 kf : X I → Nf , ˜ → ( ˜(0), f ◦ ˜), を考えることができる。 第一成分への射影 : Nf → X, (x, ) → x, は homotopy 同値である。実際、y ∈ Y への 定数写像を cy : I → Y , ∀t → y, と表すことにすると、連続写像 ι : X → Nf , x → (x, cf (x) ), は homotopy 逆である。明らかに ◦ ι = 1X である。また I は局所 compact だから連続 写像 Nf × I → Nf , ((x, ), s) → (x, t → (st)), を考えることができる。これは s = 0 のと き ι ◦ であり、s = 1 のとき恒等写像 1Nf である。かくして と ι は互いに homotopy 逆である。 それでは mapping path space を使って Hurewicz fibration の定義の条件を言い換える ことにする。 補題 4.7. 位相空間の間の連続写像 π : E → B について次の三つの条件は互いに同値で ある。 (a) π : E → B は Hurewicz fibration である。つまり、任意の位相空間 Z と任意の連 続写像 f : Z → E および F : Z × I → B が F ◦ i0 = π ◦ f : Z → B をみたすとき、連続 写像 G : Z × I → E が存在して π ◦ G = F : Z × I → B および G ◦ i0 = f : Z → E をみ たす。下図参照。 f Z i0 w Z ×I Gw w F w / w; E π / B. (b) 任意の位相空間 Z と連続写像 F : Z → B I および f : Z → E について π ◦ f = ev0 ◦ F : Z → B I をみたすとする。このとき、連続写像 G : Z → E I であって 1 この講義では、paracompact 性に Hausdorff 性を含めて考える。 1 幾何学 XA = 位相幾何学 2 π∗ ◦ G = F : Z → B I および ev0 ◦ G = f : Z → E をみたすものが存在する。下図参照。 E I `A π∗ ev0 A Gb A A Z } Fb }}} } } ~}} ev0 BI /E ? f π /B (c) 連続写像 s : Nπ (= E ×B B I ) → E I であって kπ ◦ s = 1Nπ をみたすものが存在す る2 。 証明. (a) ⇔ (b). I が局所 compact であることから、補題 3.8 により、連続写像 F : Z × I → B と連続写像 F : Z → B I , z → F (z, ·), とは一対一対応している。連続写像 G : Z × I → E と連続写像 G : Z → E I についても同様である。このとき ev0 ◦ F = F ◦ i0 , ev0 ◦ G = G ◦ i0 に注意すると (a) と (b) が全く同じことを主張していることがわかる。 (b) ⇒ (c). (b) を仮定する。Z = Nπ , f : Nπ → E, (x, ) → x, F : Nπ → B I , (x, ) → , に (b) を適用してえられる連続写像を s : Nπ → E I とすると、任意の (x, ) ∈ Nπ につい て (kπ ◦ s)(x, ) = (s(x, )(0), π ◦ s(x, )) = (x, ) となる。つまり s が望む連続写像である。 (c) ⇒ (b). (c) を仮定する。(b) の Z, F , f が与えられたとする。このとき連続写像 g : Z → Nπ = E ×B B I , z → (f (z), F (z)), が定義される。π ◦ f (z) = ev0 ◦ F (z) だからで ある。G := s ◦ g : Z → E I とおけば ev0 ◦ G = f , π∗ ◦ G = F が成立つ。 次は Hurewicz の定理の証明で少しだけ使うのであるが、compact 開位相の簡単な演習 問題である。 補題 4.8. X を compact 空間とする。このとき、最小値をとる写像 min : RX → R, f → min f (X), は連続である。 証明. a, b ∈ R, a < b, について min−1 (]a, b[) が開集合であることを示せばよい。f ∈ min−1 (]a, b[) とする。ある x0 ∈ X において f (x0 ) = min f (X) ∈]a, b[ である。V := O(X; ]a, +∞[) ∩ O({x0 }; ] − ∞, b[) とおく。これは f の開近傍である。V ⊂ min−1 (]a, b[) を 示せばよい。g ∈ V とする。g(X) ⊂]a, +∞[ により a < min g(X) である。また min g(X) ≤ g(x0 ) < b である。ゆえに V ⊂ min−1 (]a, b[) である。これが示すべきことであった。 定理 4.9. (W. Hurewicz) 位相空間の間の連続写像 π : E → B について、底空間 B が paracompact Hausdorff 空間であり、B の開被覆 U が存在して、各 U ∈ U につい て π|π−1 (U ) : π −1 (U ) → U が(Hurewicz の意味での)fibration であるとする。このとき π : E → B は(Hurewicz の意味での)fibration である。 証明. ここでの目標は kπ ◦ s = 1 をみたす連続写像 s : Fπ := E ×B B I → E I を構成する ことである。そのために、位相空間 B I の局所有限開被覆を構成するのが証明の多くの部 分を占めている。 B は paracompact Hausdorff 空間だから U に従う 1 の分割が存在する。つまり、集合 Λ と、それによって添字づけられた連続函数の族 ψλ : B → I = [0, 1], λ ∈ Λ, が存在して 次をみたす。Uλ := ψλ −1 (]0, 1]) とおく。 2 この補題の連続写像 G, G および s については、一般に一意性は成立たないことに注意する。 14 年 5 月 2 日 3 (i) 各 Uλ は、ある U ∈ U に含まれる。したがって π|π−1 (Uλ ) : π −1 (Uλ ) → Uλ は fibration である。( fibration の制限は再び fibration である。このことは補題 4.3 (2) によっても分 かる。) (ii) {Uλ }λ∈Λ は局所有限である。つまり、任意の b ∈ B について b の開近傍 O がとれ て {λ ∈ Λ; Uλ ∩ O = ∅} ∑∞ をみたす。 (iii) 各 b ∈ B について λ∈Λ ψλ (b) = 1 が成立つ。とくに {Uλ }λ∈Λ は開被覆である。 ∞ この ψλ たちを用いて B I の局所有限開被覆を構成する。Λ := n=1 Λn とおく。つまり Λ の元からなる列 (λ1 , λ2 , . . . , λn ) 全体の集合を Λ と表す。 T = (λ1 , λ2 , . . . , λn ) ∈ Λ とする。その長さを c(T ) := n とおく。函数 ψT : B I → I を ∈ B I について ( ) ψT ( ) := min min ψλi ◦ |[ i−1 , i ] 1≤i≤n n n とおいて定義する。補題 4.8 により 最小値をとる函数 min : I I → I, f → min f , は連続だ から ψT は連続である。 [ ] ∩n i−1 i −1 WT := ψT ]0, 1] = O( , ; Uλi ) i=1 n n とおく。Lebesgue 数を用いた議論によって {WT }T ∈Λb は B I の開被覆である。しかし {WT } は局所有限ではない。たとえば a ≥ 1 について、各 λi を a 個づつならべたもの T a := (λ1 , . . . , λ1 , λ2 , . . . , λ2 , . . . . . . , λn , . . . , λn ) を考えると WT = WT a となるからである。 一方 {WT ; c(T ) ≤ n} は被覆ではないが局所有限である。実際、任意の ∈ B I について compact 集合 (I) の開近傍 O が存在して Λ := {λ ∈ Λ; Uλ ∩O = ∅} は有限集合である。 このとき O(I; O ) は の開近傍であるが、T ∈ Λ が c(T ) ≤ n および WT ∩ O(I; O ) = ∅ n をみたせば T は有限集合 i=1 (Λ )i に含まれる。 T ∈ Λ, c(T ) = n について連続函数 γT : B I → I を { } ∑ γT ( ) := max 0, ψT ( ) − n ψS ( ) c(S) n によって定義することができる。{WS ; c(S) n} は局所有限だからである。 VT := γT −1 ]0, 1] ⊂ WT とおくと、{VT }T ∈Λb は B I の局所有限開被覆である。 実際、まず、開被覆であることは、任意の ∈ B I について ∈ WT なる T のうち c(T ) が最小であるものを T とすると γT ( ) = ψT ( ) 0 つまり ∈ VT となることか 1 なる n をと らわかる。局所有限性を示す。 ∈ WT なる T ∈ Λ をとる。ψT ( ) n −1 1 −1 1 る。ψT ] n , 1] は の開近傍である。いま ∈ ψT ] n , 1] とすると c(T ) n なる任意 の T ∈ Λ について γT ( ) = 0 である。c(T )ψT ( ) 1 ≥ ψT ( ) となるからである。そ −1 1 こで VT ∩ ψT ] n , 1] = ∅ ならば c(T ) ≤ n である。{WT ; c(T ) ≤ n} は局所有限だから {VT ∩ ψT −1 ] n1 , 1]} も局所有限である。かくして {VT }T ∈Λb は局所有限である。 以上で、B I の局所有限開被覆 {VT }T ∈Λb が得られた。これをもとに連続写像 s : Nπ → E I ∑ I を構成しよう。被覆 {VT }T ∈Λb は局所有限だから S∈Λb γS は B の連続函数であって ]0, +∞[ ∑ に値をもつ。そこで、T ∈ Λ について連続函数 δT := γT / S∈Λb γS : B I → I を定義するこ とができる。 λ ∈ Λ および 0 ≤ a ≤ b ≤ 1 について Ξλ,a,b := {(e, ) ∈ π −1 (Uλ ) × B I ; π(e) = (a), ([a, b]) ⊂ Uλ } 幾何学 XA = 位相幾何学 4 とおく。π|π−1 (Uλ ) : π −1 (Uλ ) → Uλ は Hurewicz fibration だから連続写像 σλ,a,b : Ξλ,a,b → E [a,b] であって、任意の (e, λ) ∈ Ξλ,a,b について σλ,a,b (e, )(a) = e および π◦σλ,a,b (e, ) = |[a,b] をみたすものが存在する。 T = (λ1 , λ2 , . . . , λn ) ∈ Λ, c(T ) = n, とする。 FT := {(e, , a, b) ∈ E × VT × I × I; π(e) = (a), a ≤ b} とおき、連続写像 sT : FT → E I を次のように定義する。直角二等辺三角形 A := {(a, b) ∈ I × I; a ≤ b} を有限閉被覆 {Aj,k }1≤j≤k≤n , ただし Aj,k := A ∩ ([ j−1 , nj ] × [ k−1 , nk ]), によっ n n て覆う。任意の元 (e, , a, b) ∈ FT について、(a, b) ∈ Aj,k ならば連続写像の列 ce |[0,a] , σλj ,a, j (e, ), σλj+1 , j , j+1 (ej , ), . . . , n n n ..., σλν+1 , ν , ν+1 (eν , ), . . . , n n σλk , k−1 ,b (ek−1 , ), cσ n λk , k−1 n ,b (ek−1 , )(b) |[b,1] は貼りあって E I の元を定める。ただし eν := σλν−1 , ν−1 , ν (eν−1 , )( nν ) ∈ π −1 ( ( nν )) である。 n n これを sT (e, , a, b) と表す。貼りあわせの補題とくに系 3.13 によって sT : FT → E I は連 続である。 集合 Λ に全順序を入れる。(e, ) ∈ Fπ = E ×B B I とする。 ∈ VT なる T ∈ Λ を、こ の順序にしたがって T1 , T2 , . . . , Tm とする。連続写像の列 sTi (ei−1 , , ui−1 , ui )|[ui−1 ,ui ] , 1≤i≤m ∑i を貼りあわせて連続写像 s(e, ) ∈ E I がえられる。ただし u0 = 0, ui = j=1 δTj ( ), um = 1 とし、e0 = e, ei−1 = sTi−1 (ei−2 , , ui−2 , ui−1 )(ui−1 ) とする。作り方から s(e, )(0) = e, π ◦ s(e, ) = である。{VT }T ∈Λb は局所有限だから s : Fπ → E I は連続である。つまり、 任意の ∈ B I について開近傍 W が存在して W ∩ VT = ∅ なる T ∈ Λ は有限個しか ない。それを全順序にしたがって S1 , S2 , . . . , SN とする。これらについて上と同じ構成を 繰り返せば結果として同じものがえられるが、これは貼りあわせの補題によって W 上で 連続である。したがって s が E ×B W 全体の上で連続であることがわかる。以上により π : E → B が Hurewicz fibration であることが示された。 つぎは定理 4.9 の系であるが、非常に大切なことなので系ではなく定理と呼ぶことに する。 定理 4.10. π : E → B を底空間 B が paracompact であるファイバー束とする。このと き π : E → B は Hurewicz fibration である。 open ≈ 証明. 各点 b ∈ B は開近傍 U ⊂ B と局所自明化 Φ : U × π −1 (b) →→ π −1 (U ) をもつ。積束 U × π −1 (b) → U は補題 4.3 (1) により Hurewicz fibration である。したがって Hurewicz の定理(定理 4.9)により定理がえられる。 ここからは一般の位相群 G について主 G 束を調べることにする。主 G 束について次 の定理は基本的である。 定理 4.11. π : E → B を主 G 束とし、X を paracompact 空間とする。f0 f1 : X → B を互いに homotopic な連続写像とする。このとき X 上の主 G 束の同型 f0 ∗ E ∼ = X f1 ∗ E が 成立つ。 これを証明するために準備を行う。π : E → B を主 G 束とする。E ×B E := {(e1 , e2 ) ∈ E × E; π(e1 ) = π(e2 )} とおく。主 G 束の定義により、任意の (e1 , e2 ) ∈ E ×B E につ 14 年 5 月 2 日 5 いて e1 = e2 g をみたす g ∈ G がただ一つ存在する。この g を δ(e1 , e2 ) と書くことに すると、写像 δ : E ×B E → G が定義できる。これは連続である。実際、各 b ∈ B に ついて b の開近傍 U と主 G 束の局所自明化 Φ : U × G → π −1 (U ) をとる。Φ ×U Φ : U × G × G → (E ×B E) ∩ (π −1 (U ) × π −1 (U )), (b , g1 , g2 ) → (Φ(b , g1 ), Φ(b , g2 )) は同相で あり δ ◦ (Φ ×U Φ)(b , g1 , g2 ) = g2 −1 g1 となる。したがって δ は連続である。 つぎに π : E → B および π : E → B を同じ底空間 B をもつ主 G 束とする。E×B E := {(e, e ) ∈ E × E ; π(e) = π (e )} とおく。π ×B π : E ×B E → B, (e, e ) → π(e) = π (e ), は 主 G×G 束である。実際、各 b ∈ B について b の開近傍 U と E および E の主 G 束として の局所自明化 Φ および Φ をとる。Φ ×U Φ : U × G × G → (E ×B E ) ∩ (π −1 (U ) × π −1 (U )), (b , g, g ) → (Φ(b , g), Φ (b , g )) は局所自明化となっている。 (e, e ) ∈ E ×B E , g ∈ G, について (e, e )g := (eg, e g) とおいて G を E ×B E に連続 に右作用させ、商空間を Iso(E, E ) := (E ×B E )/G とおく。(e, e ) ∈ E×B E の同値類を [e, e ] ∈ Iso(E, E ) と表すことにする。π : Iso(E, E ) → B, [e, e ] → π(e) = π (e), は G を fiber とする fiber bundle である。(群 G が非可換 ならば主 G 束ではない。)実際、上述の局所自明化 Φ および Φ を用いて局所自明化 U × G → Iso(E, E ), (b , g) → [Φ(b , 1), Φ (b , g)], がえられる。 さて、E ×B Iso(E, E ) := {(e1 , [e2 , e ]) ∈ E × Iso(E, E ); π(e1 ) = π(e2 ) = π (e )} とお く。写像 α : E ×B Iso(E, E ) → E , (e1 , [e2 , e ]) → e δ(e1 , e2 ) は well-defined かつ連続で G 同変である。実際、e gδ(e1 , e2 g) = e gg −1 δ(e1 , e2 ) = e δ(e1 , e2 ) であるから well-defined である。また局所自明化 U ×G×G → E ×B Iso(E, E ), (b , g, g ) → (Φ(b , g), [Φ(b , 1), Φ (b , g )]) についてこの写像は U × G × G → E , (b , g, g ) → Φ (b , g )g = Φ (b , gg ) と表されるから連続である。さらに α(e1 g, [e2 , e ]) = e δ(e1 g, e2 ) = e δ(e1 , e2 )g = α(e1 , [e2 , e ])g となるから α は G-同変である。 いま ISOB (E, E ) によって B 上の主 G 束の同型 ψ : E → E 全体の集合を表すこと にする。勿論これは空集合であってもかまわない。このとき自然な全単射 ISOB (E, E ) = Γ(B; Iso(E, E )) (4.3) が成立つ。 (4.3) の証明. 同型 ψ ∈ ISOB (E, E ) について連続写像 s˜ψ : E → Iso(E, E ), e → [e, ψ(e)], を考える。任意の g ∈ G について [eg, ψ(eg)] = [eg, ψ(e)g] = [e, ψ(e)] だから、連続写像 sψ : B = E/G → Iso(E, E ) が誘導される。これは明らかに Γ(B; Iso(E, E )) の元である。 逆に、切断 s ∈ Γ(B; Iso(E, E )) について連続写像 ψs : E → E , e → α(e, sπ(e)), は G-同 変であって π ◦ ψs = π をみたす。ゆえに補題 5.1 により B 上の主 G 束の同型である。 これらの対応 ψ → sψ と s → ψs とが互いに逆であることを証明する。 まず sψs = s を示す。任意の e ∈ E をとる。s(π(e)) = [e, e ] であるとする。このとき sψs (π(e)) = s˜ψs (e) = [e, ψs (e)] = [e, α(e, sπ(e))] = [e, α(e, [e, e ])] = [e, e δ(e, e)] = [e, e ] = s(π(e)) である。つまり sψs = s である。 つぎに ψsψ = ψ を示す。任意の e ∈ E をとる。ψsψ (e) = α(e, sψ (π(e))) = α(e, s˜ψ (e)) = α(e, [e, ψ(e)]) = ψ(e)δ(e, e) = ψ(e) となる。したがって ψ = ψsψ である。以上で (14.1) が 証明された。 それでは定理 14.11 を証明しよう。 幾何学 XA = 位相幾何学 6 定理 4.11 の証明. 包含写像 i0 : X → X ×I, x → (x, 0), および i1 : X → X ×I, x → (x, 1), をとる。F : X × I → B を f0 を f1 につなぐ homotopy とすると f0 = F ◦ i0 , f1 = F ◦ i1 である。π := F ∗ π, E := F ∗ E とおく。π : E → X × I は主 G 束である。示すべき同型 は E |X×{0} = i0 ∗ E ∼ =X i1 ∗ E = E |X×{1} である。 連続写像 j0 : X × I → X × I, (x, t) → (x, 0), による E のひきもどしを E0 := j0 ∗ E = (E |X×{0} ) × I とおく。明らかに同型 E0 |X×{0} = E |X×{0} が成立つから G を fiber とする fiber bundle Iso(E0 , E ) → X × I は X × {0} 上の切断 s0 : X × {0} → Iso(E0 , E ) をもつ。 可換図式 s0 X −−− → Iso(E0 , E ) i 0 X ×I X ×I が成立つ。いま I は compact Hausdorff 空間であって、仮定から X は paracompact 空 間である。そこで X × I は paracompact 空間である。したがって Hurewicz の定理(定 理 4.10)により π : Iso(E0 , E ) → X × I は Hurewicz fibration である。とくに連続写像 s : X × I → Iso(E0 , E ) であって π ◦ s = 1X×I をみたすものが存在する。これは (4.3) に より X × I 上の主 G 束の同型 ψ : E0 → E が存在するということ E ∼ =X×I j0 ∗ E に他な らない。j0 ◦ i1 = i0 に注意するとこれは X 上の主 G 束の同型 i1 ∗ E ∼ =X i1 ∗ j0 ∗ E = i0 ∗ E を意味する。これが示すべきことであった。 §2 では、この講義だけの記号として位相空間 X 上の主 G 束の同型類全体の集合を H(X; G) と表した H(X; G) := {π : E → X; 主 G 束 }/ ∼ =X . 定理 4.11 は、この反変函手 H( · ; G) : (paracompact Hausdorff 空間) → (点つき集合) が homotopy 函手であると言っている。とくに、つぎがなりたつ。ここで位相空間が可縮 (contractible)であるとは、一点集合 ∗ とホモトピー同値であることを言う。 系 4.12. 任意の位相群 G について、可縮かつ paracompact な底空間上の主 G 束は、す べて(位相的に)自明である。 ベクトル束および compact Hausdorff 空間をファイバーとするファイバー束は、それ ぞれ補題 1.12 と (3.12) によって、必ずある主束の随伴束となる。したがって可縮かつ paracompact な底空間上のベクトル束および compact Hausdorff 空間をファイバーとする ファイバー束は、すべて(位相的に)自明である。 なお、点つき主 G 束の同型類 H(X, x0 ; G) についても、あとで証明するように、たと えば X が CW 複体ならば同様のホモトピー不変性がなりたつ。 点つき主 G 束についての Mayer-Vietoris 性質(定理 2.6)と全く同様に、函手 H(·; G) についても、次の Mayer-Vietoris 性質がなりたつ。つまり、X を位相空間、{U, V } を X の開被覆とするとき、点つき集合の完全列 j G(U ∩V ) → H(X; G) → H(U ; G) ×U ∩V H(V ; G) → ∗ (exact) δ がなりたつ。写像 δ : G(U ∩V ) → H(X; G) は、連続写像 γ : U ∩ V → G によって二つの 積束 U × G と V × G を貼り合わせて X 上の主 G 束 (U × G) ∪ψγ (V × G) → X の同 型類 δ(γ) := [(U × G) ∪ψγ (V × G)] をつくる写像である。ここで、ψγ : (U × G)|U ∩V = ∼ = (U ∩ V ) × G → (U × G)|U ∩V = (U ∩ V ) × G は ψγ (x, g) := (x, γ(x)g), (x, g) ∈ (U ∩ V ) × G, によって定義されている。いま、二つの連続写像のホモトピー γ0 γ1 : U ∩ V → G が 14 年 5 月 2 日 7 なりたてば、これらをつなぐ連続写像 Γ : (U ∩ V ) × I → G を使って X × I 上の主 G 束 (U ×I ×G)∪ψΓ (V ×I ×G) → X ×I が得られる。これに定理 4.11 を適用すると、X 上の主 G 束の同型 (U ×G)∪ψγ0 (V ×G) ∼ =X (U ×G)∪ψγ1 (V ×G) が得られる。つまり、δ(γ0 ) = δ(γ1 ) である。以上により、写像 δ : G(U ∩V ) → H(X; G) は、写像 δ : [U ∩ V, G] → H(X; G) を 誘導する。以上により、つぎの点つき集合の完全列がえられた δ j [U ∩ V ; G] → H(X; G) → H(U ; G) ×U ∩V H(V ; G) → ∗. (exact) (4.4) 球面上の主 G 束 ここでも G を位相群とする。定理 4.11 とくに完全列 (4.4) を使って、球面 ∑n S n := {(x0 , x1 , . . . , xn ) ∈ Rn+1 ; xi 2 = 1} ⊂ Rn+1 i=0 の上の主 G 束を分類する。n = 0 のとき S 0 は離散位相をもつ二点集合だから、S 0 上の 主 G 束はすべて自明である。以下 n ≥ 1 とする。 いま、位相群 G の単位元を含む弧状連結成分を G0 とすると、これは正規部分群であ る。実際、h ∈ G0 とすると、連続写像 : I → G であって (0) = 1 および (1) = h をみたすものが存在するが、任意の g ∈ G について連続写像 t ∈ I → g (t)g −1 ∈ G は 1 を ghg −1 につないでいるから ghg −1 ∈ G0 となる。したがって、G の弧状連結成分全 体の集合 π0 (G) = G/G0 は G から誘導される well-defined な演算によって群となってい る。これを弧状連結成分群という。群 π0 (G) はそれ自身に共役で作用する。つまり g お よび h ∈ π0 (G) について g は h に ghg −1 ∈ π0 (G) によって作用する。この共役作用によ る商集合を [π0 (G)] と書くことにする。[π0 (G)] の各元は G の元の共役類とよばれる。ま た、位相空間 X について、ホモトピー集合 [X, G0 ] には位相群 G が作用している。つま り、連続写像 f : X → G0 に元 g ∈ G が g · f : X → G0 , x → gf (x)g −1 , によって作用し ている。この作用は G の [X, G0 ] への作用を定めるが、さらに π0 (G) の作用となってい る。連続写像 : I → G について連続写像 X × I → G0 , (x, t) → (t)f (x) (t)−1 , によって (0) · f (1) · f : X → G0 となるからである。この作用による商集合を [X, G0 ]/π0 (G) と 表すことにする。これらの商集合によって、集合 H(S n ; G) は記述される。 まず、n = 1 つまり円周 S 1 上の主 G 束を分類する。(n ≥ 2 の場合と同時に扱う ことも出来るが、そうすると却って複雑になるので、これだけ独立に扱う。)連続写像 p : I = [0, 1] → S 1 , p(t) := (cos(2πt), sin(2πt)), は [0, 1] が compact で S 1 が Hausdorff な ので等化写像である。g ∈ G について、(1, x) ∼g (0, gx), x ∈ G, の生成する I × G 上の同 値関係 ∼g による商を Eg := (I × G)/∼g と定義する。π : Eg → S 1 , (t, x) mod ∼g → p(t), は well-defined な連続写像であるが、さらにこれは主 G 束である。実際、 h ∈ G の (t, x) mod ∼g への作用を ((t, x) mod ∼g )h := (t, xh) mod ∼g で定義すると、これは welldefined な右作用で、その軌道は π のファイバーに等しい。あとは、作用の連続性と π の 局所自明性を証明すればよい。 S 1 \ {(1, 0)} = p(]0, 1[) への Eg の制限は G の作用も込め て ]0, 1[×G に同相であるから、p(0) = p(1) = (1, 0) の近傍での局所自明性と G 作用の様 子をみれば充分である。{p(]1/2, 1]), p([0, 21 [)} は S 1 \ {(−1, 0)} の有限閉被覆である。この とき、貼り合わせの補題により二つの同相写像 π −1 (p(]1/2, 1])) π −1 (p([0, 1/2[)) ∼ = p(]1/2, 1]) × G, ∼ = p([0, 1/2[) × G, (t, x) mod ∼g → (p(t), gx), (t, x) mod ∼g → (p(t), x), および は貼り合って、G 同変同相写像 π −1 (S 1 \ {(−1, 0)}) ∼ = (S 1 \ {(−1, 0)}) × G を作る。とく に G の作用は連続である。これの逆写像が S 1 \ {(−1, 0)} 上の局所自明化を与える。 幾何学 XA = 位相幾何学 8 命題 4.13. 写像 g ∈ G → [Eg ] ∈ H(S 1 ; G) は次の全単射を誘導する [π0 (G)] ∼ = H(S 1 ; G), [g] → [Eg ]. 証明. 3 次を順番に証明する。 (i) 与えられた写像 G → H(S 1 ; G) は全射である。 (ii) 与えられた写像が π0 (G) を径由する。 (iii) 与えられた写像が [π0 (G)] を径由する。 (iv) 誘導された写像 [π0 (G)] → H(S 1 ; G) が単射である。 まず、(i) を示す。π : E → S 1 を任意の主 G 束とする。上述の連続写像 p : I → S 1 による引き戻し π p : p∗ E → I は可縮な paracompact 空間 I 上の主 G 束であるから、系 ∼ = 4.12 により自明である。同型写像 ψ : I × G → p∗ E = I ×S 1 E がえられる。第二成分へ の射影 I ×S 1 E → E を合成したものを ψ2 : I × G → E とする。これは G-同変写像であ る。ψ2 (0, 1) と ψ2 (1, 1) は同じファイバー π −1 ((1, 0)) に属するからただ一つ g ∈ G が存在 して ψ2 (1, 1) = ψ2 (0, 1)g となる。このとき ψ2 の G-同変性により、任意の x ∈ G につい て ψ2 (1, x) = ψ2 (1, 1)x = ψ2 (0, 1)gx = ψ2 (0, gx) である。そこで、ψ2 は G-同変連続写像 ψ¯ : Eg → E を定める。補題 1.8 により S 1 上の主 G 束の同型 Eg ∼ =S 1 E を与える。(i) が 示された。 (ii) 連続写像 : I → G について I × I × G 上の同値関係 ∼ を、任意の t ∈ I および x ∈ G について (0, t, x) ∼ (1, t, (t)x) をみたす最小の同値関係とする。Eg と同様の議論 により、商空間 E := (I × I × G)/∼ は S 1 × I 上の主 G 束である。定理 4.11 を適用し て E (0) ∼ =S 1 E (1) が分かる。これで (ii) が得られた。 (iii) 任意の g, h ∈ G について Eg ∼ =S 1 Ehgh−1 を示せばよい。G-同変同相 ϕh : I × G → I × G, (t, x) → (t, hx), を考える。任意の x ∈ G について ϕh (1, x) = (1, hx) かつ ϕh (0, gx) = (0, hgx) = (0, (hgh−1 )(hx)) だから、ϕh は G-同変同相 ϕ¯h : Eg → Ehgh−1 を誘 導する。補題 1.8 により ϕ ¯h は主 G 束の同型 Eg ∼ =S 1 Ehgh−1 を与える。(iii) が示された。 ∗ ∼ (iv) まず、主 G 束の同型 I × G =S 1 p Eg , (t, x) → (t, (t, x) mod ∼g ), がなりたつこと ∼ = に注意する。g0 と g1 ∈ G が Eg ∼ =S 1 Eg であるとする。主 G 束の同型写像 ψ : Eg → Eg 0 1 0 1 を p によって引き戻してえられる同型写像を ψ p : I × G → I × G とする。これは G-同変写 像である。そこで、連続写像 a : I → G を ψ p (t, 1) = (t, a(t)), t ∈ I, によって定義すると、 任意の (t, x) ∈ I × G について ψ p (t, x) = ψ p (t, 1)x = (t, a(t))x = (t, a(t)x) となる。そこで ψ p (0, g0 x) ∼g1 ψ p (1, x) を書き下すと、(0, a(0)g0 x) ∼g1 (1, a(1)x) となって g1 a(1) = a(0)g0 がえられる。いま、G における path g1 a(t)a(0)−1 , t ∈ I, を考えると [π0 (G)] において [g0 ] = [a(0)g0 a(0)−1 ] = [g1 a(1)a(0)−1 ] = [g1 a(0)a(0)−1 ] = [g1 ] となる。(iv) が示された。 以上で命題が証明された。 逆対応 H(S 1 ; G) ∼ = [π0 (G)], [Eg ] → [g]. (4.5) はモノドロミー(monodromy)の一番簡単な例である。 なお、対応して S 1 上の K-ベクトル束の同型類全体の集合は [π0 (GLn (K))] によって記 述される。また、F が compact Hausdorff 空間のとき、S 1 上の F -束の同型類全体の集合は F の写像類群(mapping class group) π0 (Homeo(F )) の共役類全体の集合 [π0 (Homeo(F ))] によって記述される。 つぎに n ≥ 2 の場合の球面 S n 上の主 G 束を分類する。P± := (0, . . . , 0, ±1) ∈ S n と おき、U+ := S n \ {P− } および U− := S n \ {P+ } とする。{U+ , U− } は S n の開被覆であ 3 この命題は、以下の記述を読まずに、自分で証明をつけた方がよい。 14 年 5 月 2 日 9 る。この開被覆について完全列 (4.4) を考える。立体射影により同相 U+ ≈ U− ≈ Rn がな りたち Rn は可縮である。ゆえに、系 4.12 により H(U± ; G) = ∗ である。したがって、完 全列 (4.4) により、写像 δ : [U+ ∩ U− , G] → H(S n ; G) は全射である。 命題 4.14. n ≥ 2 のとき、全射 δ はつぎの全単射を誘導する H(S n ; G) ∼ = [S n−1 , G0 ]/π0 (G). √ ≈ 証明. 同相写像 S n−1 ×] − 1, +1[→ U+ ∩ U− , (x, t) → (x/ 1 − t2 , t) により U+ ∩ U− は S n−1 とホモトピー同値である。そこで、π0 (G) の作用を保つホモトピー集合の同型 [U+ ∩U− , G0 ] = [S n−1 , G0 ] がなりたつ。また、n ≥ 2 の仮定により S n−1 U+ ∩ U− は弧状連結である。次 を順番に証明する。 (i) 写像 δ の G0 への制限 [U+ ∩ U− , G0 ] → H(S n ; G) は全射である。 (ii) (i) の写像が [U+ ∩ U− , G0 ]/π0 (G) を径由する。 (iii) 誘導された写像 [U+ ∩ U− , G0 ]/π0 (G) → H(S n ; G) が単射である。 (i) と (ii) は同様に証明される。h1 , h2 ∈ G および γ ∈ GU+ ∩U− について h1 γh2 ∈ GU+ ∩U− を x ∈ U+ ∩U− に h1 γ(x)h2 ∈ G を対応させる連続写像とする。このとき δ(h1 γh2 ) = δ(γ) ∈ H(S n ; G) であることを示す。主 G 束の自己同型 ϕ± : U± ×G → U± ×G を、(x, g) ∈ U+ ×G について ϕ+ (x, g) := (x, h2 g) とおき、(x, g) ∈ U− × G について ϕ− (x, g) := (x, h1 −1 g) と おいて定義する。このとき、任意の (x, g) ∈ (U+ ∩ U− ) × G について ϕ− −1 ψγ ϕ+ (x, g) = ϕ− −1 ψγ (x, h2 g) = ϕ− −1 (x, γ(x)h2 g) = (x, h1 γ(x)h2 g) = ψh1 γh2 (x, g) である。したがって、 ∼ = ϕ± は S n 上の主 G 束の同型 ϕ : (U+ × G) ∪ψγ (U− × G) → (U+ × G) ∪ψh1 γh2 (U− × G) を 誘導する。したがって δ(h1 γh2 ) = δ(γ) である。 (i) この事実を使って (i) を証明する。U+ ∩ U− は弧状連結だから γ(U+ ∩ U− ) は G のある弧状連結成分に含まれる。その弧状連結成分に属する元 h0 ∈ G を一つとる。こ のとき γh0 −1 (U+ ∩ U− ) ⊂ G0 である。いま示したことから δ(γ) = δ(γh0 −1 ) であって、 [γh0 −1 ] ∈ [U+ ∩ U− , G0 ] である。(i) が示された。 (ii) h ∈ G および γ ∈ G0 U+ ∩U− について、いま示したことから δ(γ) = δ(hγh−1 ) であ る。これは (ii) に他ならない。 (iii) γ0 および γ1 ∈ G0 (U+ ∩U− ) について δ(γ0 ) = δ(γ1 ) であるとする。主 G 束の同型 ∼ = ϕ : (U+ ×G)∪ψγ0 (U− ×G) → (U+ ×G)∪ψγ1 (U− ×G) がとれる。これを U± ×G に制限してえら れる主 G 束の同型を ϕ± : U± ×G → U± ×G とする。連続写像 α± : U± → G を ϕ± (x, α± (x)), x ∈ U± , によって定義する。同型 ϕ が well-defined であることから、ϕ− ◦ ψγ0 = ψγ1 ◦ ϕ+ : (U+ ×G)|(U+ ∩U− ) → (U= ×G)|(U+ ∩U− ) である。任意の x ∈ U+ ∩U− について ϕ− ◦ψγ0 (x, 1) = ϕ− (x, γ0 (x)) = (x, α− (x)γ0 (x)) および ψγ1 ◦ ϕ+ (x, 1) = ψγ1 (x, α+ (x)) = (x, γ1 (x)α+ (x)) で ≈ あるから、α− (x)γ0 (x) = γ1 (x)α+ (x) がなりたつ。同相 h± : Rn → U± を一つとる。連続写 像 (U+ ∩ U− ) × I → G, (x, t) → α− (h− (th− −1 (x)))γ0 (x)α+ (h+ (th+ −1 (x)))−1 はホモトピー α− (h− (0))γ0 α+ (h+ (0))−1 γ1 : U+ ∩ U− → G を与える。いま γ0 および γ1 は G0 に値を もつから、π0 (G) に移行して [α− (h− (0))][α+ (h+ (0))]−1 = 1 ∈ π0 (G) となる。したがって [U+ ∩ U− , G0 ]/π0 (G) において [γ1 ] = [α− (h− (0))γ0 α+ (h+ (0))−1 ] = [γ0 ] が得られる。(iii) が 示された。 以上で命題が示された。 あとで示すように位相群 G について、基点を忘れる写像 πn−1 (G0 , 1) → [S n−1 , G] は 全単射である。したがって、n ≥ 2 かつ G が弧状連結な位相群のとき、同型 H(S n , G) = πn−1 (G, 1) となる。このように位相群のホモトピー群は球面上の主 G 束という幾何学的な 意味をもっている。 幾何学 XA = 位相幾何学 10 §5. 位相的平行移動と基本亜群.(前半) 本論に入る前に、初等的な事実を準備する。n ≥ 1 とする。部分空間 Jn ⊂ I n を Jn := {(t1 , · · · , tn−1 , tn ) ∈ I n ; tn = 1 または (t1 , · · · , tn−1 ) ∈ ∂I n−1 } = I n−1 × {1} ∪ (∂I n−1 ) × I ⊂ ∂I n とおく。(n = 1 のときは J1 = {1} ⊂ {0, 1} = ∂I と理解する。) Jn は可縮である。実際、 可縮な部分空間 I n−1 × {1} を変位レトラクトにもつからである。この講義を通して次の補 題はしばしば用いられる。 補題 5.1. 次の同相がなりたつ (I n , Jn ) ≈ (I n−1 × I, I n−1 × {0}). 証明. n = 1 のとき J1 = {1} ⊂ I から明らか。n ≥ 2 とする。丸めて天地をひっくり返す同相 (I n , Jn , I n−1 ×{1}) ≈ (Dn−1 ×I, Dn−1 ×{1}∪(∂Dn−1 )×I, Dn−1 ×{1}) ≈ (Dn−1 ×I, Dn−1 × {0} ∪ (∂Dn−1 ) × I, Dn−1 × {0}) に着目する。同相写像 ϕ : I 2 → I 2 を任意の h ∈ I について ϕ(0, h) = (0, h) をみたし、ϕ(I×{0}∪{1}×I) = I×{0}, ϕ(I×{1}) = {1}×I∪I×{1} をみた すようにとる。これは例えば I 2 を (0, 21 ) を頂点とする I ×{0}∪{1}×I ∪I ×{1}(≈ I) の cone とみなせば具体的に構成できる。ϕ(r, h) = (ρ(r, h), η(r, h)) と表す。同相写像 Dn−1 × I → Dn−1 × I, (x, h) → (ρ( x , h) xx , η( x , h)) は Dn−1 × {0} ∪ (∂Dn−1 ) × I を Dn−1 × {0} にうつす。これは同相 (Dn−1 × I, Dn−1 × {0} ∪ (∂Dn−1 ) × I) ≈ (Dn−1 × I, Dn−1 × {0}) を 与える。補題が示された。 それでは本論に入る。 Hurewicz fibration π : E → B を考える。B 上の path つまり 単位区間 I から B への連続写像に沿う平行移動(parallel transport, parallel translation) を考えたい。b0 , b1 ∈ B, ∈ (B, b0 , b1 )(I,0,1) とする。包含写像 π −1 (b0 ) → E と連続写 像 π −1 (b0 ) × I → B, (e, t) → (t), に homotopy 持ち上げ性質 HLP を適用して、連 続写像 G : π −1 (b0 ) × I → E であって、任意の e ∈ π −1 (b0 ) および t ∈ I について π ◦ G (e, t) = (t), G (e, 0) = e をみたすものがとれる。lift G は一意的とは限らないか ら、連続写像 G (·, 1) : π −1 (b0 ) → π −1 (b1 ), e → G (e, 1), は に対して一意的とは限らな い。しかし連続写像 G (·, 1) の homotopy 類を ∗ と表すならば、これは = [ ]∗ := [G (·, 1)] ∈ [π −1 (b0 ), π −1 (b1 )] ∈ (B, b0 , b1 )(I,0,1) の homotopy 類だけで一意的にきまる。つまり 補題 5.2. 0 1 : (I, 0, 1) → (B, b0 , b1 ) ならば、それぞれの任意のリフト G 0 および G 1 について homotopy G 0 (·, 1) G 1 (·, 1) : π −1 (b0 ) → π −1 (b1 ) がなりたつ。したがって、 −1 −1 ∗ = [ ]∗ は well-defined であって 0∗ = 1∗ ∈ [π (b0 ), π (b1 )] がなりたつ。 証明. 0 を 1 につなぐ homotopy L : (I × I, {0} × I, {1} × I) → (B, b0 , b1 ) をとり、連 続写像 F : π −1 (b0 ) × I × I → B を F (e, t, s) := L(t, s), (e, t, s) ∈ π −1 (b0 ) × I × I, に よって定義する。また、連続写像 f : π −1 (b0 ) × (I × {0} ∪ {0} × I ∪ I × {1}) → E を π −1 (b0 ) × I × {0} 上 G 0 , π −1 (b0 ) × {0} × I 上 (e, 0, s) → e, π −1 (b0 ) × I × {1} 上 G 1 に よって定義する。同相 (I 2 , I × {0} ∪ {0} × I ∪ I × {1}) ≈ (I 2 , J2 ) が成り立つから、補題 5.1 によって f と F に homotopy 持ち上げ性質 HLP を適用することができて、連続写像 G : π −1 (b0 )×I×I → E であって f の拡張かつ F の lift であるものをとることができる。連続 写像 G(·, 1, ·) : π −1 (b0 ) × I → π −1 (b1 ) は homotopy G 0 (·, 1) G 1 (·, 1) : π −1 (b0 ) → π −1 (b1 ) を与える。これが示すべきことであった。 14 年 5 月 2 日 11 こうして対応 [(I, 0, 1), (B, b0 , b1 )] → [π −1 (b0 ), π −1 (b1 )], [ ]→ (5.1) ∗ がえられた。これを位相的な平行移動とよぶ。定数写像 cb0 : I → B, ∀t → cb0 (t) := b0 , に ついては lift Gcb0 を Gcb0 (e, t) := e ととることができるから cb0 ∗ = [1π−1 (b0 ) ] である。通常 eb0 := [cb0 ] ∈ [(I, 0, 1), (B, b0 , b0 )] と書いて、eb0 を単位元(unit)または恒等射(identity)とよぶ。 次に、二つの paths 0 と 1 : I → B が合成可能(composable)つまり であるとする。このとき、path の積 1 · 0 : I → B を { if t ∈ [0, 1/2], 0 (2t), ( 1 · 0 )(t) := 1 (2t − 1), if t ∈ [1/2, 1], によって定義する4 。条件 0 (1) = 題 3.2)により連続である。 1 (0) (5.2) 0 (1) = 1 (0) (5.3) により well-defined であり、貼り合わせの補題(補 補題 5.3. 一般の位相空間 B について (5.1) のように path の積を定義するとこの積はホ モトピー集合に積を定める。 証明. 0 0 : (I, 0, 1) → (B, b0 , b1 ) および 1 1 : (I, 0, 1) → (B, b1 , b2 ) であるとする。 L0 : (I × I, ∂I × I) → (B, b0 , b1 ) および L1 : (I × I, ∂I × I) → (B, b1 , b2 ) を、それぞれ 0 を 0 に、および 1 を 1 につなぐ(基点を保つ) homotopy とする。このとき (t, s) ∈ I × I について { L0 (2t, s), if 0 ≤ t ≤ 1/2, L(t, s) := L1 (2t − 1, s), if 1/2 ≤ t ≤ 1 によって定義される写像 L : I × I → X は well-defined な連続写像(貼り合わせの補題 = 補題 3.2)(I × I, ∂I × I) → (X, x0 ) であり 1 · 0 を 1 · 0 につなぐ(基点を保つ)homotopy である。ゆえに [ 1 · 0 ] = [ 1 · 0 ] ∈ [(I, 0, 1), (B, b0 .b2 )] がわかる。 これにより、合成(composite) · : [(I, 0, 1), (B, b0 , b1 )] × [(I, 0, 1), (B, b1 , b2 )] → [(I, 0, 1), (B, b0 , b2 )], ([ 0 ], [ 1 ]) → [ 1 ] · [ 0 ] := [ 1 · 0 ] が定義できた。 再び、Hurewicz fibration に戻って、合成可能な二つの paths 0 と 1 : I → B を考え る。それぞれ lifts G 0 および G 1 をとる。lift G 1 · 0 を { G 0 (e, 2t), if t ∈ [0, 1/2], G 1 · 0 (e, t) := G 1 (G 0 (e, 1), 2t − 1), if t ∈ [1/2, 1], によって定義することができる。これは [ 1 · 0 ]∗ = [ 1 ]∗ ◦ [ 0 ]∗ を意味する。つまり、対応 (5.1) は path の積をホモトピー圏における合成に写している。 この講義での path の積は右から読むことに注意せよ。これから説明するように平行移動を、基 本亜群からの共変函手とするためである。他の文献では path の積を左から読むことも多い。 4 幾何学 XA = 位相幾何学 12 ホモトピー類 ∗ ∈ [π −1 (b0 ), π −1 (b1 )] はホモトピー同値である。これは path の逆を使 うと証明できる。一般に、path : (I, 0, 1) → (B, b0 , b1 ) の逆 : (I, 0, 1) → (B, b1 , b0 ) を (t) := (1 − t), t∈I (5.4) によって定義する。 補題 5.4. [ ] · [ ] = eb0 ∈ [(I, 0, 1), (B, b0 , b0 )] および [ ] · [ ] = eb1 ∈ [(I, 0, 1), (B, b1 , b1 )] が なりたつ。 証明. 連続写像 H : (I × I, ∂I × I) → (I, 0) を 2t, H(t, s) := 1 − s, 2 − 2t, s if 0 ≤ t ≤ 1 − 2 , s 1+s if 1 − 2 ≤t≤ 2 , s if 1 + 2 ≤t≤1 (5.5) によって定義する。任意の ∈ (B, b0 , b1 )(I,0,1) について ◦ H : (I × I, {0, 1} × I) → (B, b0 ) は homotopy · cx0 : (I, 0, 1) → (B, b0 , b0 ) を与える。ゆえに [ ] · [ ] = eb0 である。ま た、 ◦ H によって [ ] · [ ] = eb1 である。 Hurewicz fibration π : E → B にもどると、次の系がえられる。 系 5.5. (1) 任意の path つまり連続写像 : (I, 0, 1) → (B, b0 , b1 ) について、 ∗ ∈ −1 −1 [π (b0 ), π (b1 )] はホモトピー同値である。 (2) 底空間 B が弧状連結ならば、fiber π −1 (b) の homotopy 型は b ∈ B のとり方によら ない。 証明. (1) 以上の議論により の逆 について ∗ ◦ ∗ ◦ ∗ = [ · ]∗ = [cb1 ]∗ = 1π −1 (b1 ) である。つまり とくに ∗ はホモトピー同値である。 (2) (1) から明らか。 ∗ ∗ = [ · ]∗ = [cb0 ]∗ = 1π−1 (b0 ) であり、 は ∗ のホモトピー逆を与えている。 基本亜群 ΠB を既に知っている人にとっては、ここまでの議論はワザとらしかったと 思う。要するに、Hurewicz fibration π : E → B は共変函手 ΠB → (位相空間の homotopy 圏) b → π −1 (b) [ ] → ∗ ∈ [π −1 ( (0)), π −1 ( (1))] を誘導する、と一言いえば済む話を勿体を付けて議論して来た。次回は、まず基本亜群を 定義し、主 G 束および離散的なファイバーをもつファイバー束のホロノミー準同型を考 える。
© Copyright 2024 ExpyDoc