薬物治療学Ⅵ

薬物治療学Ⅵ
応用問題
2014 年度
【注意事項】
●調べるための適切な手段を選択できるようになること。
~医薬品に関する情報は必ず医薬品添付文書で調べよ。
(出版社が発刊した書籍では、情報が不十分であるし、
記載された情報を正しく読めない学生が多い!)
●自身で考える習慣を身につけること。
●考えたことをまとめて、説明ができるようになること。
●臨床では、知識があることも大事だが、それを活用でき
ないと問題解決につなげられない。
◆12 月 17 日、1 月 5 日(2 コマ)の授業で解説を行う。
◆問題番号1から必ず予習をしておくこと。
◆もちろん、試験範囲である!
薬物治療学Ⅵ 2014 年度(鈴木)【応用問題】
1.逆流性食道炎
大規模震災の被災地に設けられた仮設病院で、58 歳、男性の患者が胸焼けなどを訴えた。薬剤師は、その患者が
逆流性食道炎の治療のためラベプラゾールナトリウム 10 mg を 1 回1 錠、1 日1 回で服用していたことを、お薬手帳から
把握したが、仮設病院には同剤がなかった。なお患者は以前、冠動脈疾患治療のため、経皮的冠動脈形成術を受け、
現在、治療のためにクロピドグレル硫酸塩を服用していることもお薬手帳から把握できた。
問 1 逆流性食道炎の危険因子として、適切でないのはどれか。1 つ選べ。
1
2
3
4
5
唾液分泌の障害
下部食道括約筋の弛緩
胃内圧の低下
食道裂孔ヘルニア
喫煙
問 2 医師に代替薬として提案する場合、最も適切な薬剤はどれか。1 つ選べ。
1
2
3
4
5
テプレノンカプセル
ピレンゼピン塩酸塩水和物
ファモチジン錠
スクラルファート水和物細粒
オメプラゾール錠
2.食道癌
68歳、男性。食道癌治療のため入院中である。腫瘍は外科的切除が不可能のため、フルオロウラシルとシスプラチン
による化学療法(FP 療法)が施行されている。
問 食道癌とその治療に関する記述のうち、誤っているのはどれか。2 つ選べ。
1
2
3
4
5
わが国では腺癌が多数を占めており、好発部位は胸部中部食道である。
自覚症状として、嚥下困難や嗄声、咳嗽などがある。
癌の浸潤が固有筋層に留まるものは、表在食道癌に分類される。
FP 療法施行中は、輸液による水分補給と、利尿薬による尿量の確保が必要である。
FP 療法による副作用として、口内炎や聴力障害などに注意が必要である。
1
薬物治療学Ⅵ 2014 年度(鈴木)【応用問題】
3.消化性潰瘍
45 歳、男性(身長180 cm、体重85 kg)。元来胃が痛くなることがしばしばあった。ここ1週間ほどは仕事(予備校講師)
が忙しく、睡眠時間も短く、疲労を感じていた。12 月 1 日、黒色便がみられた。12 月 2 日、20 時頃に嘔気があり、トイレ
に駆け込んだ後、間もなくコップ 1/3 杯程度の吐血があった。容体が落ち着いてから救急に電話をし、救急車で県立病
院を受診した。消化管出血にて緊急入院となり、上部消化管内視鏡検査(GIF)の結果、出血性胃潰瘍と診断された。
入院時所見
主 訴:吐血
既往歴:19 歳 虫垂炎(Ope)
家族歴:母 糖尿病
生活歴:飲酒 ビール、日本酒(週 1 回) 量不明
食事内容 2 食/日(和食)
喫煙 18 歳から 30~40 本/日
薬 歴:OTC 薬 サクロン 頓用(時々、1 日 1 回程度)、バファリン(頭痛時、直近は 4 週間前に服用)
アレルギー歴 なし
身体所見:12 月 2 日
血圧 105/70 mmHg、心拍数 99/min、体温 36.9℃
顔色 蒼白、チアノーゼ (±)、嘔気・嘔吐(-)、冷汗(-)
胸部:心音正常、心雑音(-)
腹部:腹痛(+)、圧痛(-)、腸音正常
四肢:下肢浮腫(-)
意識:鮮明
結膜:貧血
血液・生化学検査(緊急入院時)
Na
136 mEq/L
K
4.0 mEq/L
102 mEq/L
Cl
0.82 mg/dL
クレアチニン
7.0 g/dL
総タンパク
4.3 g/dL
アルブミン
BUN
37.3 mg/dL
AST
22 IU/L
ALT
51 IU/L
入院時経過
12 月 2 日
γ-GTP
Glucose (FBS) (12/4 検査)
HbA1C(12/4 検査)
CRP
RBC
WBC
Hb
Ht
PLT
29 IU/L
156 mg/dL
5.1 %
0.2 mg/dL
3.70×106/L
15,100/L
12.4 g/dL
37.2%
341×103/L
・救急外来において胃洗浄、GIF を施行。出血部位を確認。
・エタノール局注後、トロンビン液噴霧 〔2 万単位〕
・濃厚赤血球 4 単位点滴投与 絶食
注射 1)オメプラゾール(オメプラール®注) 40 mg (div)
2)カルバゾクロム(アドナ®注 静脈用) 100 mg(div)
3)トラネキサム酸(トランサミン®注 10%) 1000 mg(div)
内服 1)トロンビン(経口用トロンビン細粒®) 1 回 1 万単位 1 日 4 回
2)アルギン酸ナトリウム(アルロイド G®内用液 5%) 1 回 30 mL 1 日 4 回
3)水酸化 Al ゲル・水酸化 Mg(マーロックス®懸濁用配合顆粒) 1 回 1.4 g 1 日 4 回
12 月 3 日
・GIF 施行:胃潰瘍 A1 stage、胃角部に直径 15 mm の潰瘍を確認。
・露出血管(+)、出血(-)、胃粘膜の委縮(+)、迅速ウレアーゼ試験(+)
・胃痛なし
2
薬物治療学Ⅵ 2014 年度(鈴木)【応用問題】
問1 12 月 2 日に救急外来で胃洗浄後に施行されたトロンビン液噴霧の ①目的、②使用時の注意点 を説明せよ。
問 2 12 月 2 日に施行された注射薬及び内服薬の各薬剤について、期待される効果を述べよ。
問 3 この患者において、疾患の発症原因として最も関係のあるものはどれか。
1
2
3
4
5
薬剤性潰瘍
アニサキス
ストレス性潰瘍
喫煙
ヘリコバクター・ピロリ菌
問 4 出血が止まった後、この患者に対してどのような治療を行うべきか、提案せよ。
4.炎症性腸疾患
18 歳、男性。下痢と粘血便を主訴に来院した。3 か月前から下痢と左下腹部痛、7 日前から粘血便を認めた。海外渡
航歴はない。身長 163 cm、体重 50 kg。体温 37℃。脈拍 84/分、整。血圧 118/60 mmHg。眼瞼結膜に貧血を認める。血
液検査では、CEA、CA19-9 は陰性であった。腹部全体に圧痛を認め、筋性防御を認めない。大腸内視鏡検査では以
下の所見が認められた。
【大腸内視鏡検査における画像診断】
粘膜はやや浮腫状で混濁、びらんや地図状の発赤斑が散在。
出血斑がみられ、粘液、膿の付着が肛門側にみられる。
問 この症例に関する記述のうち、正しいのはどれか。2 つ選べ。
1
2
3
4
5
各所見から、進行性の大腸癌である可能性が高い。
多くが男性でみられる疾患である。
排便回数や血便の性状、全身症状の有無などにより重症度を見極めることができる。
本疾患の中等症以上の例には、副腎皮質ステロイド性薬を投与する。
貧血がみられるため、抗炎症薬であるメサラジンの投与は控える必要がある。
3
薬物治療学Ⅵ 2014 年度(鈴木)【応用問題】
5.便通異常
43 歳、男性。便通異常により、消化器内科を受診したところ、以下が処方され治療が開始された。
[処方]
1) ポリカルボフィルカルシウム錠 500 mg
ビフィズス菌錠 12 mg
エチゾラム錠 0.5 mg
タンドスピロンクエン酸塩錠 10 mg
1 日 3 回 毎食後
1 回1 錠
1 回1 錠
1 回1 錠
1 回1 錠
14 日分
2) ラモセトロン塩酸塩錠 5 μg
1 日 1 回 朝食後
1 回 1 錠 (1 日 1 錠)
14 日分
(1 日 3 錠)
(1 日 3 錠)
(1 日 3 錠)
(1 日 3 錠)
問 薬局の窓口で、症状の改善があまりみられないと患者から相談を受けた。処方を追加する薬剤として、医師に提案
できるものをすべて選べ。
1
2
3
4
5
ロペラミド塩酸塩カプセル
酸化マグネシウム錠
センノシド錠
ピコスルファートナトリウム水和物錠
メペンゾラート臭化物錠
4
薬物治療学Ⅵ 2014 年度(鈴木)【応用問題】
6.消化器癌
68歳、男性(身長165 cm、体重50 kg)が、下記の処方にて癌化学療法を受けることとなった。
処方
(1) グラニセトロン塩酸塩注射液(3 mg/3 mL)
デキサメタゾンナトリウムリン酸塩注射液(8 mg/2 mL)
生理食塩液
主管より点滴静注(15分で注入)
(2) レボホリナートカルシウム注射液(25 mg/バイアル)
ブドウ糖注射液5%
主管より点滴静注(2時間で注入)
(3) オキサリプラチン注射液(100 mg/バイアル)
ブドウ糖注射液5%
側管より(2時間で注入)
(4) フルオロウラシル注射液(250 mg/5 mL)
生理食塩液
主管より点滴静注(30分以内で注入)
(5) フルオロウラシル注射液(250 mg/5 mL)
生理食塩液
静脈内持続注入(46時間)
3 mg
8 mg
100 mL
225 mg
250 mL
95 mg
250 mL
450 mg
50 mL
2700 mg
176 mL
問 1 上記処方に関する説明について、a~d の記述の適/不適を答えよ。
a
b
c
d
結腸・直腸癌に対する化学療法である。
オキサリプラチンは、上皮成長因子受容体チロシンキナーゼ阻害薬である。
グラニセトロン塩酸塩とデキサメタゾンナトリウムリン酸塩の併用目的は、抗癌剤投与に伴うショックの予防である。
レボホリナートカルシウムとフルオロウラシルの併用は、フルオロウラシルの細胞毒性を増強する。
問 2 本処方施行時の記述について、a~e の記述の適/不適を答えよ。
a テガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム配合剤が、本処方による化学療法施行の 7 日以内に投与されていな
いか薬剤使用歴を調べた。
b オキサリプラチンは塩化物含有溶液との混合により分解するため、希釈液にブドウ糖注射液が処方されている。
c 処方 (2)、(3) は、いずれも 5%ブドウ糖液に希釈して同時に投与することから、レボホリナートカルシウム注射液と
オキサリプラチン注射液を混合し、ブドウ糖液で希釈して投与することが可能である。
d この化学療法は隔日に行うことを患者に伝えた。
e レボホリナート・フルオロウラシル併用療法の投与量規制因子には下痢がある。
問 3 この処方の薬剤調製と投与に関する記述について、a~e の正誤を答えよ。
a
b
c
d
e
薬剤調製はすべてクリーンベンチ内で行う。
オキサリプララチン注射液は冷所で保存し、薬液の採取時にはバイアル内を陰圧に保って操作する必要がある。
処方 (1) は、1 mL を 15 滴で注入する点滴セットを用いた場合、点滴速度は 1 分間あたり 105 滴になる。
処方 (5) の持続注入速度は 1 時間あたり 4 mL である。
オキサリプララチン注射液は細胞毒性を有するため、調製時に皮膚に薬液が付着した場合には、直ちに消毒薬
で拭き取ることが推奨される。
5
薬物治療学Ⅵ 2014 年度(鈴木)【応用問題】
7.C 型肝炎
56 歳、男性(身長 170 cm、体重 65 kg)。C 型慢性肝炎と診断され、以下の処方で治療中である。
[処方]
1) ペグインターフェロンアルファ-2b 100 μg/0.5 mL/バイアル
1 回 1 バイアル 週 1 回(火曜日) 皮下注射
2) リバビリンカプセル 200 mg
1 日 2 回 朝夕食後
4 バイアル
1 回 2 カプセル(1 日 4 カプセル)
28 日分
問 C 型肝炎及び本患者への治療に関する記述のうち、正しいのはどれか。
C 型肝炎は多くの場合は劇症化するため、劇症化に対する早期の予防が必須である。
C 型肝炎ウイルス感染の予防には、国内では C 型肝炎ワクチン接種が有効である。
治療中に発熱、乾性咳、呼吸困難などが現れることがあるので、「使用上の注意」に十分留意する。
併用治療中は定期的に血液学的検査を行い、好中球数の著しい減少がみられた場合は、いずれかの薬剤の投与
を減量するか、両剤の投与を中止する。
5 本併用療法で十分な効果がみられない場合は、リバビリンカプセルを他の抗ウイルス剤であるテラプレビル錠へ
変更した併用療法が適用となる。
1
2
3
4
8.肝硬変(1)
65 歳、女性。身長 160 cm、体重 50 kg。てんかんの既往があり、現在フェニトイン 100 mg 錠を 1 回 1 錠、1 日 2 回
朝夕食後に服用している。34 歳時に子宮筋腫の手術を受け、輸血された。55 歳から C 型慢性肝炎による代償期肝硬変
の診断で近医に通院していた。今回、以下の薬剤が追加となった。
[処方]
1) アミノレバン EN 配合散※ 50 g/包
1 日 3 回 朝昼夕 粉末を溶解して服用
1 回 1 包 (1 日 3 包)
7 日分
※
アミノレバン EN 配合散:アミノ酸、糖質、ビタミン、微量元素を含んだ肝不全用経口栄養剤の商品名
問 1 この処方に関する記述のうち、正しいのはどれか。
1
2
3
4
5
完全に溶解して服用するため、80℃以上の湯を用いて溶解する。
用法は、通常、朝昼夕の食後服用が推奨される。
溶解後の浸透圧が高いため、服用に際しては下痢に注意が必要である。
主成分は芳香族アミノ酸であり、Fischer 比を高めた製剤である。
治療に有効とされる本剤の投与量は、一日に必要とされる熱量に相当する量である。
問 2 患者には治療中にフェニトインの副作用発現が疑われたため、血漿中フェニトイン濃度を測定したところ、トラフ値
が 15 g/mL であった。この測定結果を踏まえて、この患者のフェニトイン投与量を設定したい。投与量の設定に当たり
考慮することとしてもっとも適切な内容はどれか。
1
2
3
4
5
代謝酵素が遺伝的に欠損している。
肝初回通過効果によって代謝が低下している。
血漿タンパク結合率が低下している。
消化管からの吸収率が低下している。
腎クリアランスが低下している。
6
薬物治療学Ⅵ 2014 年度(鈴木)【応用問題】
9.肝硬変(2)
53 歳、女性。18 年前に出産時に輸血歴あり。8 年前の検診時に肝機能異常を指摘された。その後半年ほど近医で治
療したが肝機能異常が改善せず、精査の結果、HCV 陽性と診断された。その後大学病院に紹介され、慢性 C 型肝炎
に対してインターフェロンアルファ-2b の投与を受けたが、血小板減少の副作用が強く治療の継続はできなかった。そ
れ以降、しばしばトランスアミナーゼの値が上昇していた。4 年前には超音波および CT による検査にて ①肝硬変と診
断された。通院中、2種類の薬剤が処方され、服薬コンプライアンスは良好であった。現在は1 か月に1 回、定期的に大
学病院を受診している。
1 週間前から (A)腹部膨満感(腹水貯留)が増強し、 ②黄疸も出現した。時折、 (B)嘔気・嘔吐を繰り返すこともあっ
た。2 日前からは (C)意識混濁も現れたため、家族に連れられて病院を受診し、本日緊急入院となった。
(Ⅰ)通院中の処方
1) ウルソデオキシコール酸錠 100 mg
2) スピロノラクトン錠 25 mg
1 回1 錠
1 回2 錠
血液・生化学検査(入院時)
Na
131 mEq/L
K
3.8 mEq/L
0.53 mg/dL
クレアチニン
2.2 mg/dL
総ビリルビン
2.0 g/dL
アルブミン
98 μg/dL
アンモニア
(Ⅱ)入院時処方
1) ウルソデオキシコール酸錠 100mg
2) スピロノラクトン錠 25 mg
3) フロセミド錠 40 mg
4) 肝不全用経口栄養剤※
5) ラクツロ-スシロップ
6) トリアゾラム錠 0.125 mg
1 日3 回
1 日2 回
毎食後
朝・昼食後
AST
ALT
γ-GTP
トリグリセリド
コリンエステラーゼ
プロトロンビン時間
1 回1 錠
1 回2 錠
1 回2 錠
1 回 50 g
1 回 20 mL
1 回1 錠
1 日3 回
1 日2 回
1 日1 回
1 日3 回
1 日2 回
1 日1 回
555 IU/L
47 IU/L
98 IU/L
212 mg/dL
73 IU/L
18.8 秒
毎食後
朝・昼食後
朝食後
朝昼夕
朝・夕食後
就寝前
※
処方 4) 商品名: アミノレバン EN 配合散
問 1 下線部①、②に関する以下の問について、それぞれ答えよ。
①肝硬変に関する記述のうち、正しいものをすべて選べ。
a
b
c
d
e
f
血液検査では、ALT>AST となることが多い。
感染に対する抵抗力の低下などが起こる。
初期症状として振戦が多く、歩行障害、動作緩慢などの症状がこれに次ぐ。
肝硬変による 3 大死因は、食道静脈瘤出血、肝不全、肝がんである。
プロトロンビン時間が延長し、出血傾向が強くなる。
重症化すると、肝臓での尿素合成が亢進して高アンモニア血症を引き起こす。
②黄疸に関する説明のうち、正しいものをすべて選べ。
a
b
c
d
黄疸の発症は、腹水貯留と密接な関係がある。
眼球結膜の黄染が見られることがある。
成人の肝障害時のみに特異的に見られる症状である。
高ビリルビン血症と関係が深く、体内で生成されるビリルビンの多くは、寿命が来て分解された老化赤血球に由
来する。
e 皮膚掻痒感を伴うことが多いが、この症状は通常、短時間で消失する。
7
薬物治療学Ⅵ 2014 年度(鈴木)【応用問題】
問 2 波線部 (A)~(C)の症状に関する説明について、a~g の記述の適/不適を答えよ。
a
b
c
d
e
f
このような症状は、重症肝炎や肝硬変末期(重篤肝障害時)に見られる。
肝障害時には、血中の芳香族アミノ酸(AAA)濃度は減少し、分岐鎖アミノ酸(BCAA)濃度は増加する。
肝細胞自身の障害があると肝での解毒処理機能が低下し、昏睡が起こる。
腹部膨満感(腹水貯留)は、血中アルブミンの低下や門脈圧の亢進によるものである。
肝硬変ではレニン-アンジオテンシン-アルドステロン系が活性化されているため、高 K 血症になりやすい。
腸管内で発生したアンモニアやアミン類が血液を介して直接脳に作用すると、意識混濁などの症状が起こりや
すくなる。
g 症状の悪化に伴い傾眠や羽ばたき振戦が見られることがあり、このような症状を肝性脳症(肝性昏睡)という。
問 3 入院後の患者状態および (Ⅱ)入院時処方 から考察される事柄について、a~h の記述の適/不適を答えよ。
a 腹水貯留に対してはフロセミドを追加投与して治療を行うが、この投与によって血中 Na 濃度が上昇することがあ
るので注意する。
b 入院時の臨床検査で血中アルブミンが正常値よりも低いので、アルブミンの静脈内投与も考える。
c ラクツロースは小腸でほとんど消化・吸収されずに大腸に達し、腸内の微生物により分解される。
d この患者の高アンモニア血症を改善するには、ラクツロースの投与量が不十分なので、増量すべきである。
e アンモニア産生にかかわる腸内細菌の作用を抑制する薬剤として、難吸収性抗生物質(カナマイシン、硫酸ポリ
ミキシン B)を用いることがある。
f トリアゾラムは、肝代謝型の薬剤であるため、本患者には禁忌である。
g 肝不全用アミノ酸栄養剤(アミノレバン EN®配合散)は、肝性脳症に対しては効果を有さない。
h 嘔気・嘔吐症状があるので、利尿剤(フロセミド、スピロノラクトン)の併用にあたっては脱水に注意を要する。
8
薬物治療学Ⅵ 2014 年度(鈴木)【応用問題】
10.甲状腺疾患
41 歳、女性。6 年前にバセドウ病を発症。4 年前に甲状腺クリーゼにて大学病院・内科(内分泌グループ)に入院。退
院後は外来に通院をしていた。今年8 月初旬頃から自己判断にて服薬を中止することが多くなり、約1 か月で 6 kg の体
重減少を認め、9 月中旬から食欲不振、また 9 月末頃からは嘔気、全身倦怠感が強くなったが放置していた。症状が改
善しないため 10 月 1 日に大学病院へ入院となった。
入院時所見
主 訴 : 食欲低下、全身倦怠感、体重減少
診 断 : 甲状腺クリーゼ
既往歴: バセドウ病(6 年前)
家族歴: 父は胃癌で死亡
身 長 : 163.5 cm
体 重 : 46 kg (1か月で -6 kg)
副作用・アレルギー歴: なし
検査データ: CRP 0.3 mg/dL、クレアチニン 0.6 mg/dL、Na 151 mEq/L、K 4.2 mEq/L、Cl 109 mEq/L、Ca 8.8 mEq/L、
AST 29 IU/L、ALT 27 IU/L、ALP 250 IU/L、LDH 166 IU/L、グルコース 102 mg/dL、HbA1C 5.4%
身体所見: 血圧 121/95 (収縮期/拡張期)mmHg、脈拍 72/分 不整、体温 36.8℃、意識:清明、結膜:貧血なし、
頸部:リンパ節を触知せず、甲状腺:著明に肥大。
入院2 日目: 発熱(38.5℃)、頻脈(脈拍 140/分)、手指振戦、不穏がみられ、甲状腺クリーゼと判断されて ICU に入室
となった。以下の処方 A~D が下表に示す投薬日に処方され、治療が行われた。
処方 A
1)チウラジール®錠 50 mg
1 日 3 回 毎食後
2) 内服用ルゴール液
1 日 3 回 毎食後
1 回5 錠
7 日分
1 回 10 滴
2 日分
処方 B
1) ソル・コーテフ®静注用 100 mg/V
ブドウ糖注射液 5%
1 日 3 回 静注
2)インデラル®注射液 2 mg/A
ブドウ糖注射液 5%
1 日 1 回 ゆっくり静注
1
50
2 日分
2
10
2 日分
処方 C
1)チウラジール錠® 50 mg
1 日 3 回 毎食後
1 回4 錠
10 日分
処方 D
1)チウラジール錠® 50 mg
1 日 3 回 毎食後
1 回3 錠
7 日分
ICU 入室後の投薬記録と甲状腺機能データ
投薬日
1 日目
→
処 方
A、 B
11.65
FT3(遊離 T3: pg/mL)
9.42
FT4(遊離 T4: ng/dL)
TSH(μU/mL)
0.1 未満
V
mL
A
mL
8 日目
C
8.47
6.60
9
→
18 日目
D
5.62
3.47
0.1 未満
薬物治療学Ⅵ 2014 年度(鈴木)【応用問題】
問 1 処方 A-1) チウラジール錠 について、①この患者に対する処方目的、②投与量より推察されるこの患者の病態
を、それぞれ説明せよ。(②については、理由も併せて述べること)
問 2 処方 A-2) 内服用ルゴール液 について、この患者に対する処方目的を説明せよ。
問 3 処方 B-1) ソル・コーテフ静注用+5%ブドウ糖注射液 について、①この患者に対する処方目的、②薬剤使用時
の注意事項を、それぞれ説明せよ。
問 4 処方 B-2) インデラル注射液+5%ブドウ糖注射液 について、①この患者に対する処方目的、②薬剤使用時の
注意事項を、それぞれ説明せよ。
問 5 抗甲状腺薬の副作用として無顆粒球症が知られている。この副作用の初期症状として該当するものはどれか。す
べて選べ。
a
b
c
d
e
f
出血しやすくなる
咽頭痛が出現する
皮膚や白目が黄色くなる
紅斑とともに痒みが出現する
呼吸が苦しくなる
突然に高熱が出現する
11.内分泌疾患
2 か月前から通院している患者に昨日、以下の薬剤が処方された。
[処方] 小児科 1 歳 9 か月 男児
1) コートリル®錠 10 mg
1 日 1 回 朝食後
2) チラーヂン S®錠 25 μg
1 日 1 回 朝食後
3) デスモプレシン・スプレー®2.5 協和
1 日 2 回 朝・夕 (1 回に 1 噴霧)
4) ジェノトロピン®ゴークイック注用 12 mg
週に 2 回 就寝前 1 回に 0.8 mg 筋肉注射
5) マイクロファインプラス®
Rp4 とともに使用
1 回 1 mg (粉末化)
30 日分
1 回 40 μg (粉末化)
30 日分
2 瓶
1 カートリッジ
16 本
問 処方 1)~4) の各薬剤の効能・効果、用法・用量などに基づいて、本患者の病態を考察せよ。
10
薬物治療学Ⅵ 2014 年度(鈴木)【応用問題】
12.緑内障
43 歳、男性。身長 160 cm、体重 61 kg。会社に事務職員として勤務している。2 年前、人間ドックの検査で右眼の高眼
圧を指摘され、近医を紹介受診した。自覚症状は特になかった。
現症
視力:右 0.9、左 0.9
眼圧:右 29 mmHg、左 16 mmHg
前眼部:前房は深い 隅角:正常開放隅角
眼底:視神経乳頭陥凹の拡大と網膜神経線維層の欠損が見られる。
視野:ハンフリー視野所見として、特に右眼中心部に視野欠損が認められる。
診断:開放隅角緑内障
治療経過
①受診 1 回目:
眼圧の目標値を 15 mmHg 以下として、右眼に対して (A)点眼剤が処方された。
②受診 2 回目(①の 1 週間後):
眼圧は 右 20 mmHg、左 15 mmHg であったため、右眼に対して (B)ラタノプロスト点眼液が追加された。その他、
特記すべき事項なし。
③受診 3 回目(②の 5 日後):
眼圧 右 15 mmHg、左 14 mmHg 視力 右 0.9、左 0.9
上記点眼薬 2 種類を継続使用し、経過を観察することとなった。
家族歴: 父 高血圧、 母 糖尿病
既往歴: 気管支喘息
生活歴: 飲酒(ほぼ毎日:缶ビール 500mL 1 本)
他院からの処方: Rp) フルチカゾンプロピオン酸エステルドライパウダーインヘラー 1回100 μg、 1日2回 吸入
問 1 下線 (A) の処方薬(点眼剤)として、もっとも適切なものを下記から選べ。
a
b
c
d
e
f
チモロールマレイン酸塩点眼液 0.5%
カルテオロール塩酸塩点眼液 2%
ドルゾラミド塩酸塩点眼液 1%
ピロカルピン塩酸塩点眼液 2%
ジスチグミン臭化物点眼液 1%
ドルゾラミド塩酸塩(1%)/チモロールマレイン酸塩(0.5%)配合点眼液
問 2 下線 (B) の用法・用量、および作用機序について述べよ。
問 3 下線 (B) を使用する際の副作用として、該当するものをすべて選べ。
a
b
c
d
e
f
角膜上皮障害
眼瞼部多毛
虹彩色素沈着
結膜充血
霧視
しみる等の眼刺激
問 4 緑内障の診断に行われる検査を 4 つ挙げよ。
問 5 視力を急速に喪失する恐れがある緑内障がある。それについて説明せよ。
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薬物治療学Ⅵ 2014 年度(鈴木)【応用問題】
13.白内障
眼科に通院中の患者(女性、78歳、身長151 cm、体重48 kg)は、3年前より右眼にピレノキシン点眼液0.005%を使用
している(1 日 5 回 点眼)。最近、霧視の自覚が強くなったため、超音波水晶体乳化吸引術を受けることとなった。
手術前日に入院し、入院直後に下記の処方A~D が発行された。なお、入院期間は 4 日間であることから、入院1 週
間前に事前に血液生化学検査が行われた。結果は以下の通りであった。
Na
K
Cl
Ca
142 mEq/L
4.3 mEq/L
107 mEq/L
8.7 mEq/L
クレアチニン
尿素窒素
AST
ALT
1.25 mg/dL
27 mg/dL
19 IU/L
12 IU/L
CK
アルブミン
総ビリルビン
総コレステロール
55 IU/L
3.7 g/dL
0.4 mg/dL
198 mg/dL
入院日に発行された処方
1 本
処方 A 1) ジクロフェナクナトリウム点眼液 0.1% 5 mL
右眼 手術前 (3 時間前、2 時間前、1時間前、30 分前)
2) ロキソプロフェンナトリウム水和物錠 60 mg
1 回1 錠
手術後の疼痛時(1 日 2 錠まで)
3 回分
処方 B
1) 注射用セファゾリンナトリウム水和物
生理食塩液
1 日 1 回 点滴静注 (手術翌日:午前 7 時)
処方 C
1) レボフロキサシン水和物点眼液 0.5% 5 mL
ジクロフェナクナトリウム点眼液 0.1% 5 mL
ベタメタゾンリン酸エステルナトリウム点眼液 0.1% 5 mL
1 日 4 回 右眼 (手術翌日から)
処方 D
1) セフカペンピボキシル塩酸塩水和物錠 100 mg
1 日 3 回 毎食後 (手術 2 日後から)
1 g
100 mL
1 本
1 本
1 本
1 回1 錠
3 日分
問 1 処方 A~D の各医薬品に関する a~e の記述について、適切なものをすべて選べ。
a ロキソプロフェンナトリウム水和物はプロドラッグであり、消化管から吸収されたのち活性代謝物に変換されて作用
する。
b セファゾリンナトリウム水和物とセフカペンピボキシル塩酸塩水和物は、いずれも腎排泄型の薬剤であるため、本
患者に対しては投与量の再検討が推奨される。
c レボフロキサシン水和物は、幅広い抗菌スペクトルを持つ抗菌剤であり、手術部位の感染化を予防するために使
用される。
d ジクロフェナクナトリウムはシクロオキシゲナーゼ-1(COX-1)を選択的に阻害して強力な鎮痛作用を示すことから、
その点眼剤は手術部位の局所の鎮痛を目的に使用される。
e ベタメタゾンリン酸エステルナトリウムは副腎皮質ホルモン剤であり、その点眼剤は手術部位の局所の炎症を改善
する目的で使用される。
問 2 処方 C に記載された 3 種類の点眼剤の使用方法に関する記述について、もっとも適切なものを一つ選べ。
a 複数の点眼剤を点眼する際、一剤目を点眼した後は、まばたきを繰り返して眼内全体に速やかに薬液を浸潤させ
ると十分な効果が得られやすい。
b レボフロキサシン水和物点眼液は油性点眼剤であるため、必ず他の点眼剤を先に点眼し、点眼の間隔をそれぞれ 5
分以上あける。
c フェニル酢酸系非ステロイド性消炎鎮痛剤とニューキノロン系抗菌剤との併用は注意が必要であるため、いずれ
かの点眼剤を他剤へ変更することが推奨される。
d ベタメタゾンリン酸エステルナトリウム点眼液を連用する場合には、眼圧亢進に注意をする。
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