(26)博物館学芸員専門講座 講義レジュメ 講 師 遠藤 秀紀 期 日 平成 26

(26)博物館学芸員専門講座
講義レジュメ
講
師
遠藤 秀紀
期
日
平成 26 年 12 月 11 日(木)
内容・テーマ
資料の魅せ方について
~資料の魅力を地域に伝えるための工夫~
博物館は表現者でなければならない。博物館は、それを創っている人とモノと哲学の混
沌が、まったく新しい爆発を起こしているときにもっとも魅力的な姿を示す。人間が森羅
万象を片っ端から学に理に換えようとしたとき、新しい考え方が世の人々のそして社会の
眼を見開かせたとき、博物館は輝く。博物館は、たとえたった一人の来館者であっても、
彼が館の出口から出ていくときに、ほんの少しでもその心の有り様を揺さぶっていたとす
るなら、もう成功への端緒に立っている。
昨今の社会のおぞましい成り行きに、教育を創造を人間を命を市場原理に従属させると
いうものがある。人類が文明をもって 5000 年、学を美術を文化を暮らしを、ルールやシス
テムを用いて経済原理より下位に置こうとした試みほど、愚かな行為はないだろう。高く
売れる絵画、効率よく人を殺す戦争の技術、多くの人に買われる文学、命を金に換える医
療・・・。その手のものは陳腐この上なく氾濫している。博物館をその程度の集客性、換
金性、拝金性、合理性に委ねて淘汰するつもりなら、初めから物質的幸福と市場経済的エ
ンターテインメントだけが世の中に存在すればよいことになる。行政改革の表現型が力任
せの経営的成功を指す場合があることを悪用し、博物館や美術館や文化や教育を一儲けの
場にしたがる経営者は必ず現れる。だが、思慮する人間が愚昧な獣の仲間ではないことを
証明するために、今日はモノを魅せることの理念と闘いを論議しておくのがよいだろう。
表現者として生きる博物館の一つのヒントとして、「人間」にスポットを当てることが
できる。博物館は、常日頃から世の中にもっとも新しい理論や考え方をもたらしているが、
それが可能となるのは、博物館では年齢も職業も生活も思いもバラバラに異なった人々が
とある床の上に集まり、一緒に空気を吸うからである。ミュージアムを牽引する「人間」
こそが、館をそしてモノを魅力的に表現できるかどうかの鍵である。「人間」の活躍する
ところには、今流行のコンプライアンスやアカウンタビリティやゼロリスクや拝金主義と
はおよそ対極の、面白すぎるほどの人間臭さがしっかりと居座っているのだ。
参考資料:「東大夢教授」(リトルモア)
遠藤秀紀著