豊かな鉱脈 - ピアソン・ジャパン

豊かな鉱脈
新しい教育方法(学)
は、
どのように深い学びを見いだせるか?
Michael Fullan
マイケル・
フーラン
著
Maria Langworthy
マリア・ラングワーシー
Wakio Oyanagi
小柳和喜雄
訳
著
豊かな鉱脈
Michael Fullan
マイケル・フーラン
著
Maria Langworthy
マリア・ラングワーシー
Wakio Oyanagi
小柳和喜雄
訳
著
新しい教育方法(学)
は、
どのように深い学びを見いだせるか?
Authorized translation from the English language edition entitled:
A RICH SEAM: HOW NEW PEDAGOGIES FIND DEEP LEARNING, 9780992422035,
by FULLAN, MICHAEL; LANGWORTHY, MARIA; Foreword by Sir Michael Barber;
published by Pearson. Copyright Pearson © 2014.
The contents and opinions expressed in this paper are those of the authors only.
Japanese translation published by arrangement with
Pearson Japan and Microsoft Japan.
Translation copyright © Pearson Japan K. K., Microsoft Japan
日本語版の著作権は、ピアソン・ジャパン株式会社と日本マイクロソフト株式会社に帰属いたします。
All rights reserved.
目次
日本語版刊行によせて
iv
まえがき Sir Michael Barber
v
はじめに
viii
全体の概要
1
1
教育における根本的変化
4
2
新しい教育方法(学)──学びのパートナーシップ
15
3
新しい教育方法(学)──深い学びのための課題
28
4
新しい教育方法(学)──デジタル・ツールとリソース
37
5
効果的、および非効果的な
の測定
新しい教育方法(学)
46
6
豊かな未来
55
参考文献
59
21世紀型スキルを学ぶための推薦文献
67
日本語版刊行によせて
有意義な会話に参加すること以上に,
教えることと学ぶことをより効果的にする方法はありません。この日
本語版『豊かな鉱脈』の刊行は,深い学び(Deep Learning)の実現に向けた新しい教育方法(学)
(New
Pedagogies)について,
日本の教育関係者や政府関係者が,
その世界的な会話へ参加するきかっけとなると
考えています。この会話は,深い学びのゴールをめざした,生徒と教師の間の新しい学びのパートナーシップ,
そしてそれらを可能とするデジタル・アクセスについて,この後,我々がお話しする,始まったばかりの成長しつ
つあるその取り組みを知ることによって始まるでしょう。
この会話は,2014年夏,東京と大阪の会合で始まりました。日本の教師,学校の管理職,そして大学の教
員や政府関係者の中で引き起こされた興味,
その熱い思い,
その場で得られた理解は,
日本が近い未来に教
育実践において劇的な変化を引き起こす,
まさにその先端にいることを明らかにしていました。我々は,
その動
きに関われたことを誇りに思います。
Michael Fullan
Maria Langworthy
v
豊かな鉱脈
まえがき
Sir Michael Barber
デジタル革命は,我々の仕事や組織,そして日常生活を変えている。運転手がいない車は,すでにアメリカ
合衆国の3つの州で合法になっている。ケニヤでの支払いの3分の1は携帯電話を通じて行われている。ウエ
ラブル・コンピューティングという言葉は,
この後あなたのジャケットが心拍をモニターする(あなたがそれを望
むなら)ことを意味することになるかもしれない。また,私は,3Dプリンターで作られた,美しく奏でるヴァイオ
リンを目にするに至っている。
この革命は,すでに発展途上国の家庭の中で,また先進国ではより一層進んできている。そこでは,子ども
や若者が遊ぶ方法,情報へアクセスする方法,そして互いにコミュニケーションする方法,また学ぶ方法も変
貌してきている。
しかしながら,
そのような状況下にありながら,
この革命は学校や教室での授業を変えてはこ
なかった。
例えば,学習の結果に及ぼすテクノロジーの影響を調査した研究知見は,失望に値すものであった。しか
し,
テクノロジー改革は,
教室でテクノロジーを用いる我々の願望を捨てさせるようなことはない。前面で知識
を伝達する教師と静かにそれを聞く生徒というような,我々がかつてそうしてきた方法で教えることへ逆戻り
することはできない。Rosalind PicardとMITメディアラボの彼女の同僚による脳の活動に関する研究は,生
徒の脳の活動が講義の間にほとんど行われておらず,
寝ているときよりも低かったことを示していた。講義は,
脳が
「その効力を失っている」状態に等しい。ハーバード大学の物理学の教授であるEric Mazurによれば,
生
徒たちは「ベッドにいるときよりも講義の間,より休止状態にある」という。
このような理由から,我々は新しい教育方法(学)を必要としている。
また別の理由もある。
20世紀の間,
我々は学校に人々を選別することを期待した。
大学へ進学する人とそう
でない人,専門職に就く人とそうでない人,そしていくらかのスキルを要する仕事に就く人とそうでない仕事に
就く人,のようにである。そこでは学校での最低限の学習を必要とされた。
21世紀においては,
これで十分よいというもの ─ 道徳的に十分よい,
社会的に十分よい,
経済的に十分
よいというものはないということに気づいている。機械は,人よりも,仕事の多くをよりよく行えるようになって
いる。我々はその事実を喜んで受け入れる一方で,その変容がとくに世界中の若者を中心に,何百万という人
を失業に導くという事実を目の当たりにし,
それを祝福することができない状況にある。よりよく教育された人
のみが,来るべき世界で生き残ることが可能となる。我々はすべての若者が,大学教育,職業,そして公民権を
得る準備となる学校から卒業できるようにする必要がある。
まえがき
vi
そして同時に,教室から省庁に至るまで,学校システムがすべてのレベルで互いに学び合い,成長する力や
その傾向性を持つことは,
巨大で潜在的なグローバリゼーション
(国際化)に対するその有益性を物語るもの
(指標)となる。1つには,
我々が世界中の幅広い場所で新しい教育方法(学)の到来を見ることを意味してい
る。もう1つは,教師やシステムのリーダーが,彼らがどこにいようとも,世界中の同僚から大変すばやく学ぶこ
とができるということを意味している。
もし我々が,
このような2つの挑戦すべき課題に挑み,
世界にそれを広げ国際的な動きにしていく上で,
新し
い教育方法(学)を発展させていくことができるなら ─ ここ10年のフラストレーションがたまるようなゆっ
くりとした進化に代わって─ 教育の成果の改善により大きな加速性を与えることになるだろう。さらに言え
ば,それが絶対必要とされるリテラシーやニューメラシーを含むだけでなく,より幅広い,問題解決,協働,創
造性,異なる方法での思考,そして効果的な関係づくりやチームづくりといったあまり明確に定義されていな
いものまでを含む,その学びの成果を見ることになるだろう。
我々は,
世界中の教育者が,
我々の時代の巨大な教育課題を理解し,
その解決に貢献していくことを支援し
ていくために,世界をリードしている教育の思考家による一連の論文集を,このPearson社に委託してきた。
Michael FullanとMaria Langworthyによるこの論文は,
そのシリーズの最初のものであり,将来の課題の
中心となる,新しい教育方法(学)の諸問題を取り扱っている。著者たちは,新しい教育方法(学)が,教師と
生徒の両者の内的動機づけに踏み込む,両者の間の学びのパートナーシップに基づくことを示している。こ
のような新しい展開は,大変魅力的であるので,それらは,さらなる学びに応じ,それを可能とするリーダーシ
ップによって,容易に広がり促進されることになる。重要なことは,このような新しい学びが,行為や問題解決
といった「現実世界」の中のことをベースとしていることである。そしてデジタル・テクノロジーの革新によって
それが可能となり,
かなり加速されていることである。
このような力は,
深い学びの課題や成果を生み出すこと
に集約されてきているのである。
もちろん,Fullanと Langworthyが述べていることの多くは,まったくすべて新しいわけではない。それは,
PiagetやVygotsky,
そして他の重要な理論家にさかのぼる伝統のもと,
形作られている。では,
我々は,
Fullan
と Langworthyが,新しい教育方法(学)で述べている主張を実際に受け入れることができるだろうか?
私は,次の2つの理由で,それができると信じている。
最初の理由は,彼らが説明していることは,実験室や大学ではなく,デンマーク,カナダ,イングランド,オー
ストラリア,コロンビア,そしてカリフォルニアのある教室で,実際に起こっている新しい教育方法(学)である
からである。それは,生徒の間にあった退屈やフラストレーションの危機や教師の間にあった職業上の幻滅
の危機と関わって,
展開されてきていることを,
彼らは論じている。彼らの事例は,
システム(制度や組織体制)
が,この新しい教育方法(学)を利用でき,それを自由自在にできるが,統制はできないことを示している。
vii
豊かな鉱脈
2つ目の理由は,こうした現場にあるテクノロジーが,最終的に,授業を変えるという約束を実現しうるよう
な方法で活用されているからである。この論文は,Fullanの重要な著書『Stratosphere(成層圏)
』をもとにし
ている。そこで論じられていたことは,システム(制度や組織体制)が変わるときのみ,知識や教育方法(学)
,
そしてテクノロジーが統合的な方法で考えられ,テクノロジーが成果に対して劇的な差異を作り出すことがで
きるということであった。また,
Fullanと 私の同僚のKatelyn Donnellyによる『Alive in the Swamp(湿地を
生きる)
』をもとにしている。それは,
『Stratosphere(成層圏)
』の三角形モデルを取り上げ,
学校とシステム(制
度や組織体制)の両レベルで教育者が成果を改善していくために,
知識,
教育方法(学)
,
テクノロジーをどの
ようにうまく統合できるか,実践的に示しているものである。手短に言えば,我々が,学習者の成果を変容する
ような方法で,最終的にテクノロジーを効果的に展開できるようになることである。
Fullanと Langworthyが論じているように,もし彼らが作り出している事例が受け入れられるとするなら,そ
れが意味をもつところは,
カリキュラムやアセスメント,
そして授業,
将来への戦略,
また学校やシステム(制度
や組織体制)レベルに対してである。例えば,
彼らは,
公的資金が世界的に圧縮される状況にある中で,
費用
対効果のある,システムが同じ費用で2倍の成果を生み出すことを,信頼性を保ちながら論じている。
彼らは,すべて答えを出すことやすべての問題を解決してきたことを主張しようとしているわけではない。し
かし,彼らは,新しい教育方法(学)をより良く定義することから始め,それが学校や教室レベルでどのようで
あるかを説明し,これらの持つ意味を探求することで,その論議を進めようとしてきたと私は思う。
『豊かな鉱脈』とこのシリーズに入る他の論文は,重要な対話を押し進めると,私は思う。―地球規模です
べての生徒に,21世紀に彼らが成功していくことを可能にする教育を保障するために,我々がしなければなら
ないことと,それをどのように早くすることができるか,についての対話である。
我々は,この書やこの後に続く一連の論文を読むことで,学びの成果を改善するためのディベート,コメン
ト,批評,そして実践的提案の提供を通じて,その対話にあなたも関わっていくことを期待している。このよう
にして,我々全員は,世界中の教育を変えていくために,我々がすべきことを,より深く,よりはやく集団的に学
ぶことができるようになるだろう。
まえがき
viii
はじめに
本書『豊かな鉱脈(原題A Rich Seam)
』は,
「テクノロジーと新たな学び,リーダーシップ,学校改革」な
どに関わって,世界的に多くの研究知見を提供しているMichael Fullan氏と「Innovative Teaching and
Learning(ITL)
」リサーチプロジェクト
(イノベーティブな教えと学びのリサーチプロジェクト)を推進してきた
Maria Langworthy氏によって,2014年1月に出されたレポートの日本語訳です。ただし全文の翻訳ではなく,
原著の副題『How New Pedagogies Find Deep Learning(新しい教育方法[学]はどのように深い学びを
見いだせるか)
』にも示されている2つのキーワード“New Pedagogies(新しい教育方法[学]
)
”と“Deep
Learning(深い学び)
”に目を向け,原著の1章から5章,そして8章を中心に翻訳しています。
原著は,
「New Pedagogies for Deep Learning: A Global Partnership(深い学びのための新しい教育
方法[学]:グローバル・パートナーシップ)
」という世界的な広がりをもつパートナーシップによる取り組み
(http://www.newpedagogies.info/)のレポートとして納められている白書の1つであり(1. A Rich Seam,
2. Towards a New End: Pedagogies for Deep Learning,
3. Education PLUS)
,
その要となるレポートと
いう位置づけにあります。そのため本書でも,
“New Pedagogies”と“Deep Learning”に焦点化して訳出し
ました。
一人目の著者Michael Fullan氏は,カナダのトロント大学の名誉教授で,
オンタリオ州の首相であるDalton
McGuinty氏のアドバイザーを務めてきました。彼は,カナダだけでなく,州や国レベルの教育システム全体の
改革に関わって,
様々な国々で研究とその協力に努め,
多くの国や大学から名誉博士号なども授与されていま
す。彼の研究成果や著書は,多くの国々で様々な言語で翻訳されています。最近の出版物としては,本書でも
その引用が出てくる『Stratosphere: Integrating Technology, Pedagogy, and Change Knowledge
(成層圏:テクノロジー,教育方法[学]
,知識の変容)
』,そして教育改革や学校改革の世界の動きなどから
教 員に 求 められる資 質 能 力につ いて 述 べた,Andy Hargreavesとの 共 著『Professional Capital:
Transforming Teaching in Every School
(教師の専門的な資本)
』, そして学校改革や教育改革の要とな
る管理職などリーダーシップについて述べた
『Motion Leadership in Action(行為の中での実働的なリーダ
ーシップ)
』や『The Principal: Three Keys to Maximizing Impact(校長:影響を最大限にする3つのキ
ー)
』などがあります。
もう一人の著者のMaria Langworthy氏は,ボストン大学で社会学の博士号を取得し,現在は「ITLリサー
チプロジェクト」と
「New Measures for the New Pedagogies for Deep Learning global partnership(深
い学びのための新しい教育方法[学]の評価方法に関するグローバル・パートナーシップ)
」のディレクター
を務め,本レポートのもととなる理論的枠組みや実践研究をリードしてきました。彼女が進めてきたITLリサ
ーチとは,21世紀の学びのデザインを考えるため,2009年,フィンランド,ロシア,インドネシア,セネガルの4
ix
豊かな鉱脈
か国をガバメントパートナシップ国としてスタートし,現在は,さらに英国,メキシコ,オーストラリア,ブルネイ
がガバメントパートナシップ国として参加している,グローバルコミュニティのことです。2010年にパイロット
調査,2011年にはその報告を行い,2012年からはPhaseⅡの調査に入っています(http://www.itlresearch.
com/home)
。また彼女は,115の国々が参加して行われているマイクロソフトの学びのためのパートナー
(Microsoft’
s Partners in Learning)のアドバイザー,
そしてまた国際プロジェクトのコンサルタントとして,
ピ
アソン(the Pearson Foundation)と協働しています。彼女の研究関心は,教育の未来の姿を考えることで
あり,それを伝える変化や変容の姿をとらえる調査や評価尺度の開発にあります。
このような新しい教育方法(学)
,新しい学び,新しい評価,
テクノロジー,
リーダーシップ,学校改革や制度
的な改革の広がりを持つ教育改革などに関わる専門的知見と国際的なプロジェクトをリードしてきている二
人によって書かれた最近のレポートの翻訳が本書です。本書に訳出されている内容は,実際に生じている世
界的な問題である
「若者の非雇用率が高くなっていること」
,
また「学校で子どもたちが授業に興味・関心を向
けていない状況が初等から中等教育へ進むにつれて高くなってきている」
「教員も自分の授業に納得できてい
ない状況」
「その授業の評価が従来の評価内容と方法に基づく標準化されたテストの結果で判断され,その
説明責任を求められる。そのため,
教員も既存の内容知識を再生産させることに関心を向けている実態」
など
取り上げ,それに挑んでいく取り組みとして,実際の公立学校の取り組み(カナダ,シンガポール,スペイン,米
国,フィンランド,そしてコロンビア)などを丹念に観察調査し,教育の実際の声をもとにまとめられています。
上記の課題を明らかにし,それに挑んでいく取り組みを分析し,またリードしていくために,著者たちは,生
じつつある教育の新しいモデルを取り上げています。それが新しい教育方法(学)
(New Pedagogy あるいは
New Pedagogies)と呼ばれています。それは,
1)教師と生徒が新しい学びのパートナーシップのもとで一緒
に活動をしていく,
2)問題を考えていくプロセスで知識を構築し,
その知識を用いて現実問題を解決していく
プロジェクトベースの学習を行う(そこで行われる学びを深い学びと呼び,そのための課題の設定を考える)
,
3)その活動でテクノロジーを創造的に活用していく,
4)その学びを通じて学習者の向上心に火をつけ,
自律
性を育て自己学習力や友達や他の人々と協力していくために評価情報を活用していく,そして5)
学校の境界
を越えて広く様々な人や組織と連携して取り組む,などを視点に,教育方法(学)を考えようとしています。
ここで興味深いのは,
従来の発想(カリキュラム上で定められている既存の内容知識の習得)のまま,
その
伝達のためにテクノロジーを用いるアプローチに対して,新しい教育方法(学)は,別の立場を取ろうとしてい
る点が上げられます。最近のMOOCSやカーンアカデミーの取り組みなどに関しても,
そこでのテクノロジーの
用い方は,新しい教育方法(学)で考えようとしている用い方と異なることを指摘しています。また,学習者中
心の学びに関わっても,
子どもに任せすぎる取り組み(教師が学びの促進者[Facilitator]として)などもその
教育効果の点から課題を指摘し,
学びのパートナーを築き,
そこでの教師の役割,
リーダーの役割,
学校の役
割を見つめる必要があることを強調しています。この点も興味深い指摘と考えられます。
さらに興味深いのは,この「深い学びの実現を目指す新しい教育方法(学)
」を「変化を引き起こすリーダ
ーシップ」と「システムの首尾一貫性;新しい学びの成果を測れる新しい評価方法や評価の道具を用いなが
はじめに
x
ら,その情報をもとにシステム(制度や組織体制)を変えていく」ことと関連づけ,より大きな枠組みから,捉
えようとしていることです。
以上のように,
本書は,
教育の情報化の動きと私たちの教育実践の関係をより広く捉えていく上で,
貴重な
情報が多く含まれています。本書が日本で今後の取り組みの一助になれば幸いです。
謝辞
本 日 本 語 版 は,Pearson JapanのAlan Malcolm氏 の 多 大 な 支 援,Michael Fullan氏 やMaria
Langworthy氏との出会いを築いてくれた日本マイクロソフトの植村理氏,そして本書編集で大変なご苦労
をいただいたIntegra Software Servicesの山田美紀氏のおかげで出版することができました。
この場を借り
て感謝申し上げます。
2014年11月 奈良教育大学大学院教授
小柳和喜雄
xi
豊かな鉱脈
全体の概要
このレポートは,学習の大いなる可能性を開くべく集結しつつある,3つの新たな力について述べたもので
ある。1つめの力は,新しい教育方法(new pedagogy)である。これは,デジタル機器とリソースが普及する
ことで,生徒間と教師間,そして生徒と教師の間に新しい学習のパートナーシップ(学習の関係構造)が生
じていることに由来している。
2つめの力は,新しい変化を引き起こすリーダーシップ(new change leadership)である。このリーダー
シップが,トップダウンとボトムアップのエネルギー,および横断的なエネルギーを合体させ,過去のどのよう
な教育改革でも見られなかったくらい早く,容易に変化を生み出している。
3つめの力は,新しいシステムの経済性(new system economics)である。この経済性ゆえに,2つの力
をより加速させる学習ツールとリソースが,より手頃な価格で手に入ることが可能となっている。
これら3つの力は生まれて間もないが,急速に拡大しているのを我々は目撃している。3つの力が1つにな
ることでポジティブな広がりを見せ,状況さえ整えば,もはや止めることができない奔流となるであろう。
こうした変化は,我々が今まさに必要としているものである。若い世代は厳しい事態に直面している。若者
の失業率は空前の高さである。多くの生徒は,学校での学習を退屈で役に立たないと感じており,学校教育
を通して望むような仕事や生活にはたどり着けないと感じている。このような憂鬱な状況の中で,我々の多く
は,教育上のイノベーションを広げていく方法を模索している。若者が抱える問題を直接解決し,そこから教
育システム全体を変えていくような方途を見つけようとしている。
このレポートが明らかにする豊かな鉱脈とは,教育システムがどのように変
化し始めているのか,またより大きなスケールで 深 い 学 び(Deep
Learning)を達成させることを目指した新しい教育方法(学)が,
どのよ
うに教室や学校,そしていくつかの教育システムを横断して実践されつ
つあるのか,その理解をもたらすものである。
「新しい教育方法(学)
」は,単に授業の戦略ではない。それらは教える
新しい教育方法(学)は,
生徒に新しい知識を
作り出すことを求め,
デジタル機器の
力を用いながら,
その知識を
世界へつなげていくことを
ことと学ぶことの新しいモデルであり,急速に普及しているデジタル機器・リ
求めている。
ソースによって可能になり,加速されるモデルである。そしてこれは,教育システムの
あらゆるレベルで,また深い学びを評価し,支える学習環境の中で生じるモデルである。本レポートで明らか
にする「深い学び」とは,若者が現在また将来にわたって成功する上で必要とされる気質,すなわち,学び,
創造し,行動を起こすという気質を培うものである。人間ならではの探究心,創造性,そして目的性といった
ユニークな力を前提として,新しい教育方法(学)は,生徒と教師のエネルギーや興奮を新しい学びのパート
ナーシップへと結実させようとする。それは,新しいパートナーシップを築くことで,我々全員の中にある深い
 全体の概要
1
学びへの潜在力を引き出し,活性化させる。なぜなら深い学びは,より自然な人間性に近いものであり,我々
の核にある動機により密接に結びついているからだ。それは,学びに直接的かつ深く関わりたい,生活や世
界をよりよいものにするために何かをしたいという動機である。もっともよい事例としては,教師と生徒が手
を組んで学びにより深く関わり,現実世界の問題解決にのめり込んでいる姿があげられる。
新しい点は,こうした傾向がよりしばしばごく普通の学校で見られることだ。イノベーションはもはや,特別
なリソースや人材を持つモデル校(lighthouse school)でなくても起こるのだ。必要なのは,すでに生じてい
る力を受け入れ,知的に育てていくことだ。デジタル機器やリソースへのアクセスは,教えることと学ぶことを
事前に準備されたカリキュラムからどんどん解放している。これらの力は,生徒と教師の役割や関係を変え,
教師間の役割を変え,学校の制度そのものを変えつつある。我々が本レポートの事例を通じて示しているよ
うに,このような要素が効果的に実行されると,それらは学びの結果を劇的に改善することができる。そし
て,本レポートではデジタル・アクセスを可能にする費用が,教育システムの年間予算の範囲内に収まりつつ
ある状況になってきていることも示している。半分の価格で2倍の学びといった,以前には夢物語でしかなか
った言葉も,今やより実現可能なものとなってきている。
しかしながら深い学びで真に得たいことへ,本当に至るのは容易なことではない。新しい教育方法(学)
が本来の効果を発揮するためには,専門的に教える方法を構築していかなくてはならない。この発展の中心
にあるのは,
教師と生徒が,
個人的にまた集団的にも優れた生涯学習者となることが求められる。このレポー
トの中で,我々は新しい教育方法(学)の効果的・非効果的特性を定義し,対等な学習のパートナーとして
の生徒の新しい役割を説明している。つまり,生徒が学びの過程を習得するのを支援し,その過程をより視
覚化させ,ピア・ティーチング(相互に教え合う)の力を活かし,その学びと生徒の興味や向上心を結び付
け,学びの進捗を継続的に分析・評価し,その分析に基づいて学びの戦略を選ばせる……これらすべては,
互いに,また生徒と共に,生徒から学びながら,教師の専門知識の核となるレパートリーの部分とならなけれ
ばならない。
教師と生徒が深い学びに従事するとき,より個々人に寄り添った透明な学習過程の中で,教師と生徒が
互いにパートナーなっていることを目にすることになるだろう。つまり高い目標値が相互にそこで決められ,深
い学びの課題への挑戦を通じてその達成を目指すといった姿をである。そこで目が向けられていることは,生
徒たちが学習の過程を習得することを確保することである。生徒が学習者としての自分自身について学ぶこ
とを支援し,また継続的にその進捗を評価し省察することを支援することは,このような学びの過程にとって
は本質的なことである。新しい教育方法(学)は,それについてすでに説明してきたように,学校を越えて問
題となっていることに対応していくためにデジタル機器の力を使いながら,生徒に新しい知識を創造させるだ
けでなく,それを世界とつなぐことを求める。生徒は,この知識を用いて,物事を「なしうる」ステップを通じ
て,知識ベースでテクノロジーを活用した社会の中で価値を作りだすことを必要とする経験や自信,あること
への奉仕,そしてまた何かを先取りする態度を獲得していくのである。
これまでの学校の授業で生徒と教師があることに一緒に取り組むことの壁となってきた,
「教え込む」とい
ったことと,デジタル・アクセスを通じて,その束縛を解く新しい教育方法(学)の「引き出す」といったこと
2
豊かな鉱脈
を組み合わせることを通じて,教育システムを幅広い規模で変容させていくことが可能となってきている。ま
た実際にそれは不可欠なこととなってきている。興味深いのは,このような発展が,今や教師と生徒によって,
牽引され持続されてきていることである。このような動きは,潜在的なそのエネルギーを耕している学校や地
区のリーダーによって支えられている。教えることと学ぶことが,我々の目の前の現実とうまく結びつくため
に,
このような勢いが広がっていくことは避けられないこととなっている。この深い学びの過程のパートナーと
なるリーダー,そして協働的に挑戦していく文化を促すリーダーは,新しい教育方法(学)を起動させ,その学
校やシステムに内的な変化を導きそれを拡張させていく。しかしながらシステム全体の変化は,いまだ多くの
場所で,ある壁に直面している。この壁は,第一に,教育の成功を,生徒のアセスメント,教師の勤務評価,
学校の説明責任といったもので,現在も決定づけているその体制の中にある。我々がその成功を定義し測
定する新しい方法を見つけるまで ─ 新しい教育方法(学)を採用する学校や深い学びの結果へ至る生
徒の達成度を測る方法を見つけるまで ─ 重要とされるこのシステムの要因(生徒のアセスメント,教師の
勤務評価,学校の説明責任など)は,革新的な動きと対立することとなるだろう。新しい測定方法を通じて,
深い学びが実践の中で実際意味していること,そしてそれが若者の将来に具体的かつ肯定的に影響を与え
ることを,生徒や教師や両親やリーダーに,明確な絵を持って示すことが必要である。
このように目の前に超えなくてはならない山はある。しかし成功の公算は劇的に増加してきている。我々は
答えをすべて持っているとは主張しない。だが本レポートで説明された知見は,実際に論議されていることに
基づき,生徒や教師やリーダーの観察を通じて得られたことに基づいていること,そして若者と大人を同様に
引き込んでいく深い学びを反映している。そのことから,我々が説明していることは実践の中で生じているこ
とであり,単に理論上のものではないと考えている。このレポートを通じて,我々が伝えたいと思っていること
は,深い学びのねらいに至るために,システム全体を通じて持続的な変化を促そうとするその願いの中で,
今何が起こり始めているかに目を向けることである。
我々のメッセージは,生徒と教師が,行動を起こすことで将来を作り出すこと,そしてすでにそうしていると
いうことである。我々は,このようなアイディアがどのようなものであるかを示し,生徒や親や教育者や政策決
定者が,個人的にまたは力を合わせてとることができる戦略的な行動を提供している。新しい教育方法(学)
や深い学びは,我々の想像よりもはるかに速やかに実現可能であると信じている。それも,非常に大きな規
模で。この見通しは現実的なものであり,今まさにそれを掘り進める時期にきている。
 全体の概要
3
1 教育における根本的変化
他のすべては加速してきたが学校はそうではなかった。その結果、学校はさらに取り残され
てしまった。学校と外の世界の間にある壁は,より通気性をよくすることが求められている。
Larry Rosenstock,米カリフォルニア州サンディエゴ High Tech 高校ネットワーク CEO へのインタビュー
イントロダクション
「過去こそ今」というモデルは,今日においても教育の分野では支配的である。
「新しい教育方法(学)
」
「新たな変化を引き起こすリーダーシップ」
「新しいシステムの経済性」といった,この報告で説明される3つ
の力が,変容を必要とされている教育の文脈に集結するにつれて,その支配的なモデルが急速に後退してい
る。本レポート『豊かな鉱脈』は,学びの世界におけるすべてのキープレーヤー(生徒,教師,テクノロジー,
学校文化,カリキュラム,そしてアセスメント)の関係変化について述べている。このレポートはまた,かつて
なかったほど有機的な変化が,なぜどのようにして生じているかについても述べている。諸条件が非常に詳
細に考察されるとき,
この豊かな鉱脈の発見が,大量の潜在的な情報を発見することへ,
つながることを示し
ている。
我々の社会は,かつてないほどの時間と金,そしてリソースを教育に費や
している1。歴史上のどんなときよりも,個々人が教育で得るものは,生活
における将来の成功にとって極めて重要となってきている。しかし我々
の主要な教育制度は,以前のマスプロの産業時代にデザインされた,
時代遅れのもののままである2。さまざまな研究を通して,またさまざま
なTEDのプレゼンテーションを通して 明らかになっているのは,昔なが
3
らの試験を通じて測定される表面的な内容知識に目を向ける強い圧力が
新しい教育方法(学)の
モデルで,教師の質の基盤と
なるのは,教師の教育力,
すなわち,授業戦略のレパー
トリーと学習の過程を学ぶ際
に生徒とパートナーシップを
形作るその能力である。
生徒と教師を学校の外へと追いやっていることである 。
4
1 OECD 2012
2 Mehta 2013a
3 www.youtube.com/watch?v=tS2IPfWZQM4 や www.youtube.com/watch?v=zDZFcDGpL4U など参照。
4このフラストレーションはラッパーの Suli Breaks が YouTube ビデオで訴えている。 “I will not let an exam result decide my fate” www.youtube.com/
watch?v=D-eVF_G_p-Y
4
豊かな鉱脈
同時に,学校外の世界では,デジタル・エンターテイメントの誘惑が蔓延し,将来の失業の不安から,不
適切なものとして受けとめられるその学習から,若者を引き離そうとしている。しかしアメリカにおける最近の
全米ギャラップ調査(世論調査)によれば,18歳から35歳の成人の59%が,現在の仕事で用いるスキルの
ほとんどを学校外で獲得してきたと回答していた5。他の若者に関するギャラップ調査では,5学年から12学
年のすべての生徒のうち43%がいつか自分で事業を始めることを希望していたが,それに必要な経験を積ん
でいると答えたのはほんの7%にすぎなかった6。
多くの国々の研究でも,
中等教育後期の生徒の40%以下しか学校で知的活動に従事していると回答して
いなかったことに驚きはないのかもしれない7。公教育の制度が,生徒の目には不適切に感じられている一方
で,学習経験を自分の興味や向上心とつなぐ機会がオンラインの中に急増している。
Will Richardsonはこのことと関わって,次のように我々に述べていた。
「テクノロジーとWebがおこした本
質的な変化とは,学ぶ自由を作り出していること。そして世界規模で学びへの貢献や参加の自由も作り出し
ている。10年前には想像もできなかった規模で」
このことが,まさに新しい教育方法(学)が広がり始めている文脈であるといえる。このような条件のもと,
より大規模の変化は容易に起こり,避けられないものとなってきている。
このレポートにおける我々のゴールは,教育の新しいモデルの明確なヴィジョンを築くことに貢献すること
であり,このヴィジョンがシステム全体を横断してどのように急速に現実となりうるのか,その洞察を提供す
ることである。この「新しい教育方法(学)
」に基づく教育モデルは,学習に関して異なるねらい(時代による
適切なねらい)に向けて動こうとするものである。我々,またほかの人々も,このような新しいゴールを「深い
学び(Deep Learning)
」と呼び始めてきた8。
深い学びのゴールは,生徒が創造的につながり,協働的に生涯にわたって問題解決を試みる人になるこ
と,また単に既存のものやことに貢献するだけでなく,今日の知識ベースの社会において創造的で相互依存
(互恵)的に共有できる産物を作り出すこと,そして健康で全体的な人間となるように,その準備となる能力
と態度を生徒に培うことである9。これらは我々にとって単なるスローガンではない。このレポートが明らかに
しているように,我々は,学校や教室でこの目的を達成していく,ますます具体的で実践的な事例を見出だし
ている。
この報告で我々が考えようとしている問いは,この深い学びによるゴールが,教育のモデルとなるかどうか
というものではない。むしろ,このような新しい教育方法(学)の本質的な要素は何であるのかという問いへ
目を向けることである。そして新しい教育方法(学)が深い学びをどのように効果的に発展させることができ
るか,また,新しい教育方法(学)が,昨今の挫折した改革の努力の後,なぜどのように突然広がり始めてき
たのか,それに目を向けることである。
5 Gallup 2013a
6 Gallup 2013b
7 Jenkins 2013; Willms et al 2009
8 National Research Council 2012; Hewlett Foundation 2012; ATC21s.org
9 Fullan and Langworthy 2013; Barber, Rizvi and Donnelly 2012
第 1 章 教育における根本的変化
5
新しい教育方法
(学)
は何が新しいのか
「新しい教育方法(学)
」は,手短に言えば,深い学びのゴールを目指し,普及性のあるデジタル・アクセス
で可能となる,生徒と教師による新しい学びのパートナーシップの1つのモデルとして定義される。しかし生
徒との能動的な学びのパートナーシップへの着目は新しいものの,新しい教育方法(学)の指導要素は,ま
ったく“新しい” 授業の戦略というわけではない。つまり,少なくとも100年は提唱されてきたDewey,Piaget,
Montessori,そしてVygotskyらの授業戦略が,いまようやく表舞台に出てきて、採用され始めているのだ。
以前は,このようなアイディアを採用し広げていく条件が整っていなかった。しかし,今日これが変化してき
ている。重要なのは,過去と比較して,この新しいアイディアが,潜在的に,精密さ,特殊性,明確性,とりわけ
大きな学習の力を持っている点である。このような力強い授業戦略が,通常の学校で,つまり伝統的な公教
育システムで取られ始めるにつれて,私たちは,肯定的な影響力の1つの形態がここに現れると見ている。そ
れは一方で生徒と教師による自然なやり取りの帰結として現れ,他方でデジタル・アクセスがそれを成長さ
せてきていると見ている。ここに見られるように,これらの発展がカリキュラム,学習デザイン,アセスメントに
深い意味を持っているといえる。
これまでの教育方法(学)では,教師の質は,まずある専門教科の内容を伝える能力(内容に関する知識
の有無)と関わって,その評価がなされてきた。大学でのその養成は国や文化によって多様であるが,教育力
(教育方法に関する力)は2番目に重要なものとされてきた。つまりたいていの場合,
「授業の戦略」は,圧倒的に直接教えることを意味していた。最近になって,
テクノロジーが内容の伝達と関わって位置づけられ,必要となるカリキュ
ラム内容を生徒が習得するのを支援するために用いられるにいたって
きた。
対照的に,新しい教育方法(学)のモデルでは,教師の質の基盤
となるのは,教師の教育力,すなわち,授業戦略のレパートリーと学
習の過程を学ぶ際に生徒とパートナーシップを形作るその能力であ
る。新しいモデルにおけるテクノロジーは当然のようにすでに浸透し,
内容知識を発見し習得するために用いられ,また世界の中で新しい知
識を作りだしそれを用いる深い学びのゴールを可能とするために活用されて
いる。
6
豊かな鉱脈
新しい教育方法(学)の
モデルで,教師の質の基盤
となるのは,教師の教育力,
すなわち,授業戦略の
レパートリーと,
生徒とのパートナーシップを
形作る能力である。
図1 新しい教育方法(学)はどのように異なるのか
テクノロジー
の活用
これまでの
教育内容
教育方法
(学)
学の力
教育方法(学)
内容知識
の習得
必要とされる内容の習得
ユビキタス
(遍在する)
テクノロジー
新しい
深い学び
内容に一緒に取り組み,
何かを発見し習得していく
教育方法(学)
教育方法
(学)
の力
世界の中で新たな知識を
作りだし,
それを用いる
上の図は,新しい教育方法(学)と深い学びが,過去長きにわたって支配的であった教育のモデルとどの
ように違うのか,この論議をまとめたものである。まず言えるのは,このモデルは次の点で新しいといえる。そ
れは創造性の発揮と関わり,またその新しい知識を現実世界で用いる深い学びのゴールを達成することを
ねらいとしていることである。第二に,このモデルは,学習過程において生徒と教師による相互発見,創造,
知識の活用に関心を向け,両者の間に生じる新しい学習のパートナーシップを明白に位置づけていることで
ある。そして第三に,このモデルは学校の内外におけるデジタル・アクセスに応じ,それによって可能となるこ
とを位置付けていることである。
デジタル時代の到来は,基本的な教育の観点を変える。それは,内容知識の第一次ソースとしての教師の
役割とテキストの伝統的な役割を変えることになる。また,それは,生徒が現実世界の中で早く,より手軽
に,本物の相手と知識を見つけ,創りだし,そしてそれを利用することを可能としながら,生徒が何をすること
が可能となるかを変えている。以前に,
「知識を応用する」という言葉で,たいていの
教育者が意味していたことは,概念の習得を示すために課題や問題を解くこ
とに従事するということであった。その解決という点では,テキスト,教室,
学校といった境界の中に留まっていた。しかし,デジタル・アクセスは,学
校という境界を越えて,本物の相手と現実の問題を解決するために生
徒が応用をすることを可能としている。これが,学習に影響を及ぼしてい
るテクノロジーの真の潜在力である ─ 知識の伝達や消費を促すので
なく,生徒が現実世界の中でその知識を用いることを可能とすることであ
る。第四に,これらの発展を急進的にしているのが,全システムを通じて起こ
これらの要因が
結びつくことで,
深い学びが大きな規模で
実現可能となる,
革新的な条件が構築されて
いくのである。
り始めているということである。
第 1 章 教育における根本的変化
7
デジタル時代は,組織をどのように機能させるか,その支配的なパラダイムを変えつつある。前世紀におい
て,支配的なモデルは,階層性の1つである,トップダウン・マネジメントであり,また大量の工業製品の標準
化であった。このモデルは,標準化された人間「製品」を生み出す小さな工場のように,学校組織に影響を
与えてきた10。しかし,今日,経済の仕組みは変わり,その新しいモデルは,学習とイノベーション,起業,クリエ
イティビティ,そして世界的協働のモデルになってきている。これらの要因が結びつくことで,深い学びが大き
な規模で実現可能となる,革新的な条件が構築されていくのである。
この活動の過去と未来
このレポートの中で説明されている新しい教育方法(学)は,世界の国々の同僚やパートナーと一緒に取
り組んでいる大きな仕事のある部分を紹介している。つまりそれは,
1)
「深い学び」が実践の中で何を意味し
ているか,それをより明確に提示すること,2)このタイプの学習を最も効果的に遂行する方法に関する実践
理論とその証拠を示すこと,3)大きな規模で,通常の公立学校で行うこと,この3点に関わって協働してい
ることである。手短に言えば,行為の中で新しい教育方法(学)を明確に示すことであり,急速に現れてきて
いる新しい事例を示し,そこから学ぶことを取り上げ支援することである。
本レポートはまた,Michael Fullanとその同僚による一連の関連した研究から形作られている。それは,教
育システム全体の改革(効果的な教育方法[学]であり,集団的な力を形成するシステムワイドのもの)にと
って最も効果的な動因は何かの分析から始まり11,教育的なパフォーマンスをベースに学習モデルの革新を
示す劇的な改善の潜在力を明らかにし続けている12。そして,より最近では,教育のテクノロジーの影響を評
価する新しいモデルを提供してきた13。
Michaelの著書である『Stratosphere(成層圏)
』の中で,彼は,互いに必要しているが,過去40年にわた
って独立してそれぞれ成長してきた次の3つの大きなアイディアを取り上げている。1つ目は教師というより
は,生徒による学習活動の部分で,その役割を果たしてきているテクノロジー,2つ目は,人はどのように学ぶ
14
かに関する科学の中で,1990年代から進められてきている教育方法(学)
,そして,3つ目は,1970年代か
ら1つの焦点とされてきた,システム全体の変化というアイディアである。
10 Mehta 2013a
11 Fullan 2010; Fullan 2011
12 Fullan 2013b
13 Fullan and Donnelly 2013
14 Bransford et al 2000.org
8
豊かな鉱脈
図2 成層圏へつながる3つの力
効果的な
教育方法
(学)
学習の加速装置としての
テクノロジー
知識の変換
論議になっていることは,この3つの力を結びつけ,学習を改革し,その約束を遂行するまさにそのときに
なったことである。Stratosphere(成層圏)は,教育方法(学)がその基盤を築き,テクノロジーが深い学び
を提供する支援者や道具となるとき,私たちは新しく力強い何かを達成できる。もし我々が一緒に活動して
いる多くの人の間で,その能力を形成していく方法として,
「知識を変える」ことを運用できるなら,システム全
体を通じてこの成果を拡張していくことができるだろう。
最終的な目的は,大多数のメンバーが深い学びといった新しいヴィジョンを達成する新しい統合的な方法
で,教育方法(学)とテクノロジーを用いて,教育システム全体を変えていくことである。このすべてが,政策
作成者の関心となり,より適切な学習結果が公的に合法性をもって示されるといった,ある方法でなされる
必要がある。Stratosphere(成層圏)は,このことに関して,教育のパフォーマンスにおいて劇的な改善を導
く潜在力を明らかにした。しかし,それはこの改善をもたらす方法を示してはいなかった。
同時に,教育の場面で偶然生じるイノベーションの爆発があった15。このテクロジーがどのようなインパク
トを持つか,そのガイドを提供する羅針盤はこれまで存在していなかった。Michaelは,Katelyn Donnellyと
共に,1)教育方法(学)
,2)遂行/システムの転換,3)テクノロジー,といった3つの次元に応じて,デジタル
の革新的な潜在力を人々に示していくための簡単なインデックスを開発した。我々は,このレポートを『Alive
in the Swamp(湿地を生きる)
』と呼んだ。
それは,教育のデジタル的な革新について,現在,混沌の中にいること,まだ湿地に留まっていることを意
味していた。それはあいまいで神秘的であるが,一方で明らかにそれは生存し急速に成長していることを示そ
うとしていた。そのインデックスは3つの次元の指標を提示し,一連のデジタル的な革新を評価するために用
いられていた。
しかし教育方法(学)そして遂行/システムの次元は,革新的な取り組みにおいて,まだ一貫して弱いこと
も明らかになった。つまりテクノロジーを請け負う人々は,教育方法(学)の考えを理解し,システム全体で遂
行していくことを支援するよりも,デジタル的な革新を開発することにより関心を向けていた。
15 Fullan and Donnelly 2013
第 1 章 教育における根本的変化
9
その後,MichaelとKatelynは,人々や教育者が3つのキーとなる次元に対して,その革新の部分を分析で
きる,さらなる道具を開発するにいたっている。
結果,深い学びのための新しい教育方法(学)に関するグローバルなパートナーシップを通じて,我々は,
白書『新たな目標に向けて:深い学びのための新しい教育方法(学)
』を書き表した16。10の国々の教育シス
テムとパートナーシップを組み,小学校と中学校を深い学びというゴールに向けて動かすためだ。このプロジ
ェクトは,新しい教育方法(学)によって可能となる,またテクノロジーによって加速される深い学びというゴ
ールを実践することに焦点を絞っている。
より明確なヴィジョン
こうして,我々は本レポートにたどり着いたのである。大きな変化がすでに教室や学校,そしてシステムに生
じてきている。そのいくつかは大変興味深いものであるが,我々は,その明確さの程度や全体としてどのよう
に機能するのか,などについて,まだ多くを知っていない。この教育方法(学)は教師と生徒の役割について
正確にどのようなものであるか? この新しい役割や実践が新しい学びの結果に至るのに作用しているか
を我々はどのように知るのか? それらが教育システム全体を通じて,なぜどのように拡張しているのか? 最終的に,全体でどれくらいコストがかかるのか? このレポートでは,このような質問の答えを探し,より効
果的な遂行や急速な拡張を導く考えを掘り下げていくことに目を向けている。
世界中の多くの教育者は,深い学びが我々の学校でどのように見出せるのか,その見込みを描き,探して
いる。我々のゴールは,すでに実践されている新しい教育方法(学)を調べることによって,より正確さと明確
さを,このようなゲスト(世界中の多くの教育者)にもたらすことである。開発のスタート時,試行錯誤,そして
さらなる開発の中で現れる,まだばらばらの革新的な取り組みが行われている最初のステージに,我々は立っ
ている。パイオニアは,新しいことに取り組み,価値を持っているように見られる様々な水脈を探している
─しばしばあまり期待できない,とらえがたい金を探すように。
本レポートは,教師や学校や教育システム全体で遂行されている核となる構成要素の事例を共有しなが
ら,新しい教育方法(学)をより明確に定義することを始めている。我々は,
この新しい発展に関わる,成長し
つつある文献群から,複数の報告,本,ビデオを調べた。しかしながら,我々がここで提示した詳細な概念は,
12の国々の生徒,教師,学校の管理職,教育システムの長,教育政策を決めている人々からのインタビュー
記録と観察記録を通じて明らかになってきたことである。
これらの人々は,その話,事例,ビデオ,そして学習指導案やアセスメント(評価情報の収集)の進め方と
いった学習の成果物を提供してくれた。我々は,新しい教育方法(学)のモデルの概念やアイディアを活き活
きと説明するビデオを集め作成も行った(このような紙で提供される報告とあわせて)
。この報告の中で,
我々はこのような証拠となるものすべてを,調査や理論が我々に伝えていることと統合し,望ましい学習の結
果と関連付けて,新しい教育方法(学)のより効果的なヴァージョンとそうでないものを調べている。新しい
16 Fullan and Langworthy 2013. www.newpedagogies.org 参照。
10
豊かな鉱脈
教育方法(学)の核となる要素をより明確にしていくことによって,深い学びのゴールの達成に向けて,それ
らがどのようにうまく統合され遂行されるのかを説明しながら,本レポートは,新しい教育方法(学)が深い
学びをどのように見出せるか,それを洞察するための豊かな鉱脈を提供しようとしている。
それが,このような教育方法(学)の核となる構成要素とすべての生徒に深い学びを導くシステム全体を
通じた効果的な遂行を統合していくことなのである。まとめるなら,教育の場面で現れる3つの大きな「新し
い現象」がそれである。
ⅰ. 新しい教育方法(学)
生徒と教師の間の新しい学びのパートナーシップを表している。これは,深
い学びの課題と広がりを持つデジタルリソースの活用を含んでいる。
ⅱ. 新たな変化を引き起こすリーダーシップ より有機的で,また正しい条件下での急速な広がりにも
応えられる本質的な変化に関わる新しい理論に基づいている。
ⅲ. 新しいシステムの経済性 費用に対して高い効果をもたらす方法で新しい結果を伝える。
図3 深い学びのための3つの力
新しいシステムの
経済性
新たな変化を
引き起こす
リーダーシップ
新しい教育方法
(学)
深い学び
第 1 章 教育における根本的変化
11
新しい教育方法
(学)
新しい教育方法(学)は,内容に関する情報や既存の知識を教科書や教室での対面授業で伝えるという
よりも,オンラインを通じて「伝達」する「反転学習」やMOOCs(Massive Open Online Courses)を意
味していると誤解してはならない。Will Richardson17が遠慮なくそれについて述べているように,
「伝統的な
カリキュラムに乗っかって,その上に高価な道具を単にそこに重ねるのは,今の学習者の学びのニーズに何ら
応えたものではない」
。新しい教育方法(学)は「反転学習」や他のその場限りの革新以上のものを意味して
いる。それは本質的にもっと複合的なものなのである。
・目的は,既存の内容知識の習得を越えた明らかに深い学びである。ここで,深い学び
は,世界の中で新しい知識を創りだし,それを用いることと定義される:テクノロジー
は学びを引き起こし,生徒が学校外の世界に知識を応用する潜在力を引き出す。新し
い教育方法(学)は,この公教育の中での学習過程すべてに影響を与えるものである。
・ここで教えることは,必要とされる内容すべてをカバーすることへ目を向けることか
ら,学習過程へ,つまり生徒が自分の学びを自分で導く能力の発達,その学びを通じ
て何かを行う能力を発達させることへ関心を変えている。教師は,探求し,つながり
を持ち,より幅広く現実世界の諸目的を意識して用いられる,深い学びの課題に,生
徒と一緒に取り組むパートナーとなっている。
・ここでの学習結果は,生徒の1)新しい知識を形作る能力と効果的に自分の学びを導
く能力,2)先読みをしていく(前向きな)態度や挑戦を通じてそれをやり抜く能力,
3)生涯学習者である市民として成長をしていく,といった姿と関わって,その成果が
測られる。
この教育方法(学)は,すべての生徒がこの学びに関与できる潜在力を持つものであって,教室の内外で
すでにかなり高い学びの動機を持っている生徒のみに目を向けたものではない。このような要請の中での教
師の役割は,異なる授業戦略,また生徒が学びを発展させていくことについて継続的な評価のレパートリー
を持ち,専門的な知識を求めながら,教育方法(学)の力を洗練化させることである。
これは,すべての人が新しい教育方法(学)の中で教師になり,また学習者になることを意味している。生
徒にはさらに多くの期待と要求が課されている。個人的なフィードバック情報や励ましから自信につなげ,自
身の持つ潜在力の意識を解き放ち,確かなものとしてそれを作り上げていくこと,それをまたいたるところで
目指す。
最終的には,このような教育方法(学)が,現実生活により関わり,そしてつながり,新しい種類の学びを
促すこと,また若い人々を今日の世界の生活や仕事にうまくその準備を提供していくことを考えようとしてい
る。
17 Richardson 2013
12
豊かな鉱脈
新しい変化を引き起こすリーダーシップ
新たな変化を引き起こすリーダーシップは,
この報告の後の章でも取り上げるが,
新しい「本質的に内在す
る変化」を導くモデルのことである。人を動かすモデルは,内在的に深い意味を持ち,また他の人々にとって
も価値ある結果にいたるために必要となる。簡単に言うならば,新しい教育方法(学)は,遂行する教師と生
徒とリーダーが,その経験や活力を共有し,このような学びの実践に関与しているすべての人と,その都度蓄
積されてきた影響の分析に向けて協働するときに広がっていく。
新たな変化を引き起こすリーダーシップは,1)方向付けを行うヴィジョンを与え,2)人々が新しいことをす
るように導き,3)学ばれていることの手綱を引く,といったもので構成されるダイナミックな過程を刺激し,そ
れに応じ,ガイドすることを支援するものである。この過程は,決して終わらないサイクルの中で新しいアイデ
ィアを生み出し確かめていくことになる。
新しい教育方法(学)が用いられるところで,リーダーは,すぐに学びのリーダーシップを共有する必要性
を認識してきた。その結果,変化が急速に広がることを可能にしてきている。つまり,このようなリーダーは,
その道を舗装し,生徒と教師がその主導権を発揮できるように条件を作ることに関心を向けている。そして
生徒が自分の学ぶ力を形成するように努め,教師はその教育方法の力を磨くために前に進んでいく,このよ
うな意思決定を育めるように,
リーダーは語り手になっている。
リーダーは,また誤りを認め,機能していなかったことから学ぶことを保障し,透明で協働的な振り返りを
牽引する。リーダーはリスクへのチャレンジも薦め,新しい方法でその進化を測ろうとする。そして新たな方向
を支援しない物事をすることをやめる。また他のリーダーの間だけでなく,生徒や教師や保護者,そしてより
幅広く責任を持つコミュニティの人々の間にも,すべての人が新しい学びの参加者になるように,社会的資本
やリーダーシップを耕そうとしている。
リーダーは,あらゆるこのような物事が可能となり加速するように,テクノロジーへの自由なアクセスを可
能とし,あらゆるデジタル的な戦略の前面に立って,その学びを保ち続けている。生徒や教師のそばに立ち,
何が機能しているか継続的に評価情報を収集している。多くの場合,
それは自然と生じているように見えるた
め,このような発展はより印象深いものとなる。しかし,実際に,我々は,そこでリーダーが文化を耕し,固有な
方法でその能力を形成しているのを目にすることになる。
新しい教育方法(学)が広がるために,最も大きな体制的な課題の1つは,
一貫した方法で,まだその成果が測られていないことである。不幸なこと
現在の標準的な
に,我々が簡単に眺めてきたたいていのシステムは,まだ新しい教育方
カリキュラムおよび,
法(学)や深い学びの成果を測る方法を持っていない。評価情報の
内容をそっくりそのまま
収集は,政策作成者,リーダー,教師,そして保護者にとって何よりも
再生できればよしとする
重要なことである。それは単に公的な説明責任が求められるからだ
標準的なアセスメントが,
けでなく,あらゆる人が,その新しいねらいを達成するために何が機
新しい教育方法(学)を広げて
能しているか知る必要があるからである。
我々のインタビューや手元の調査から明確になってきていることは,現
いくうえで最も大きな
障壁となっている
在の標準的なカリキュラムおよび,内容をそっくりそのまま再生できればよしと
第 1 章 教育における根本的変化
13
する標準的なアセスメントが,新しい教育方法(学)を広げていくうえで最も大きな障壁となっていることだ。
深い学びの成果を測る妥当な新しい方法に従って,深い学びの概念をより明確に正確に見ていくことは,シ
ステム全体を通じた新しい教育方法(学)の拡張にとって本質的なことであると言える。本レポートは,その
出発の場を提供している。
新しいシステムの経済性
新しい教育方法(学)は,また経済的にもうまく広げていくことができる。どんな新しいシステムでも,もし
ふさわしい結果を示すことなく出費がかさむと,教育の現在の認識を取り扱わないままでは,その維持をして
いくことはできない。後の章では,新しい教育方法(学)が,同じ投資のレベルで,潜在的に2倍の学習効果
を発揮できる方法を説明しながら,その優れた経済性を提示している。これはお金を貯めることについて述
べているのではなく,人々が自然に学ぶとき実際に費用はかからないことを認識したものである。人々は,自
分がしたくないことを人にさせないように説得するときに別に投資はしないのと同じである。
より重要なことは,投資と関わって成果を生むのは,ある目的を持った学習に,人々が自主的により時間を
費やすにつれて,それが劇的に増加することである。我々は,新しい教育方法(学)のモデルが,効果的に実
行されるとき,どのように学びの成果を劇的に示していくことができるか,その証拠について共有している。
我々は,これを達成していくために必要となる,経済的,また政策的な再編成を概観している。最終的には,
新しい教育方法(学)が,教育における社会の投資としてより高い価値を提供できるように広がっていくこと
を考えるとしている。新しい教育方法(学)は,若い人々が今日の世界の生活や仕事の旅に向かって確かな
一歩を得る必要のある,学習能力,創造的な経験,手続き的な知識を伸ばしていくことに関わっている。
以下に続く章で,我々は,この新しい学びのモデルについて,より明確にまた正確な情報を提供していく。
このようなヴィジョンは,通常の学校の中に隠れている活力を転換でき,あらゆるレベルの教育システムで変
化に向けたリーダーシップの努力を最適にしていく。手短に言えば,変化はすでに生じている。しかし起こって
いることは,まだ十分に認知されておらず,明確化されていない。その点で,我々の報告は,発生期にある深い
学びを見出す新しい教育方法(学)を劇的に拡張していく方法に目を向け,その豊かな鉱脈として今後に役
立つ意味を持つものといえるのである。
14
豊かな鉱脈
2 新しい教育方法(学)
─ 学びのパートナーシップ
テクノロジーは 1 つの道具です。それはパワフルな道具ではありますが,あくまで 1 つの道
具です。しかし人間同士の深いつながりは,それとは大きく異なります。それは道具でない。
ある目的の手段でもない。それは目的そのもの,意義深い人生の目的であり結果なのです。
Melinda Gates,慈善事業家,2013 年のデューク大学での卒業生に向けてのスピーチより
ほとんどの場合,教師の動機の中心にあるのは,他者に学びの火をともしたいという強い願いだ。好奇心
や創造性に火をつけ,人間の持つ潜在力に光を当てたいという願望だ(多くの教師が抑圧的な条件のもと
で活動してきたために,弱まっている願望ではあるのだが)
。
シンガポールのある学校の校長Tan Chen Keeへのインタビューの中で,彼女はこれに関して次のように
述べている。
「よき教師の中心にあるのは,生徒,生徒が学ぶべきことです。新しい教授方法や新しい道具が
生徒の関心を引きつけ,学ぶ意欲をかき立てられるのを見れば,彼らはこのような新しい教育方法(学)へ自
然と引き寄せられていくのです」
我々は数多く行った取材を通して,同じような言葉を繰り返し聞いた。以下説明される新しい教育方法
(学)の核となる構成要素は,このような教師の話や事例から引き出されたものである。この構成要素の観点
は,過去100年の教育理論や調査から来ている。つまり知識構築,現実世界の問題解決,フィードバック
(評価情報を学習者に戻す)
,メタ認知の戦略の重要性である18。
新しい教育方法(学)
,それが実践の中でどのように機能するかを調べるにつれて,次の3つの核となる構
成要素が明らかになってきた。それが統合されるとき深い学びの結果につながっていく。
1.生徒と教師の間の 新しい学びのパートナーシップ
2.知識創造とその目的のある利用に向けて学びの過程を再構築する
深い学びのための課題
3.深い学び(の過程)を可能にし,加速化するデジタル機器とリソース
次の図は新しい教育方法(学)の要素を示している。
18 Dumont et al 2010; Bransford et al 2000
第 2 章 新しい教育方法(学)─ 学びのパートナーシップ
15
図4 新しい教育方法(学)の核となる構成要素
新しい教育方法
(学)
新たな学びの
協力関係
深い学びの
ための課題
デジタル機器と
様々な情報
本章と続く3つの章は,次の2つの中心となる問いと関わって,この3つの構成要素について述べている。
問いの一つ目は,この構成要素は行為の中で,実際,正確にどのようなものといえるのか? 二つ目は,これ
らが学習に効果的な影響を持っているということをどのように知ることができるのか? そこで,この章は新
しい学びのパートナーシップについて取り上げる。第3章は,深い学びのための課題,第4章はデジタル機器
とそこで扱う情報の役割を取り上げる。そして第5章では,効果的な新しい教育方法(学)が学びの結果に
どのような影響があるかを取り上げている。
新しい学びのパートナーシップ
(協力関係)
これらすべての出発点は,生徒と教師の関係の中に,そして各役割がどのように変化しているか,の中にあ
る。我々のインタビューの中で,教師はしばしば今日の生徒の物の見方の説明から始めた。そして注意散漫
がしばしば語られていた。
「生徒は話を聞かない」
。
「最近の子どもが集中できるのは3秒である」
。しかし興味深いのは,彼らが生徒の注意散漫をどのように
述べていたか,その教師の説明であった。
最近の生徒は能動的にかかわることを求めています。自分で自分の学びの道を決め,学び
の旅を描こうとするのです。テクノロジーという道具は,彼らが周りの世界と相互作用する方
法を広げ,教室での彼らの姿を変えているのです。
Pauline Robert,5学年および 6 学年の教師,米ミシガン州
16
豊かな鉱脈
我々がインタビューした多くの教師は,他の誰かによって定義されたことを受動的に受け取る役割を,生徒
はもはや好んでいないことを述べていた。若者は,今や圧倒的な量の情報やアイディアと,デジタル機器を通
じてつながっている。このただ中で,生徒は,教師による伝統的な教授アプローチによる内容知識の伝達に
は懐疑的だ。とくに,彼らは基礎スキルを習得すると,もはや「その外側」に多くのことがあることを知り,あ
らかじめ決められた,抽象的な学習経験に興味を持たなくなる。
しかし,教師はそれに対応することができていない。そのため外側に離れて立ち,学習の目的があいまいな
まま,成功を示すことにも失敗しながら,授業を進めてしまっている。あまりにも方向付けたり,あまりにも受
け身的になったりしながらである。これらは,我々が見ようとしているように,新しい教育方法(学)の中でい
えば,
教えようとしているそのつながりが機能不全を起こしている姿である。しかし新しい教育方法(学)がう
まく作用するところでは,生徒と教師の間に,ある学びのパートナーシップが生じる。
効果的なパートナーシップは,平等で,透明性があり,相互に説明責任を持ち,相互に利益を持つことを原
理として成り立っている。新しい教育方法(学)が教師と生徒とともにどのように発展していくか,その話を聞
くと,あなたは,それらの中心にあるユニークな筋道を見つけるだろう。これらの話は,教師が生徒と学んでい
く中でパートナーとなるといった,教師と生徒の関係の説明によって,進められていく。したがって単に促進者
としての教師は,教育者としては乏しいということが強調される。我々がインタビューした教師は,たいてい生
徒が自分の考えや経験,専門知識を学びの過程に生かせる,生徒に沿った,先取りした学びの重要性を全
員が認めていたからである。
19
私も学習者の一人にすぎません。我々は皆,同じ立場で教室にいるのです。私が持ってい
ない専門知識を生徒たちは持っている。テクノロジーのおかげでそれが前面に出てきている
わけですが,それだけではありません。彼らは私が知らない知識を持っているのです…彼らが
知っていることすべてが私から教わったもの,というわけではないのです 19。
Neil Lyons,WG Davis 校 8 学年の教師,カナダ
このようなパートナーシップによって,教師は学習者になるだけでなく,生徒の視点から学びをとらえるよう
になる。これが「見えていること」は,教師が継続的に生徒を次のステップへ挑戦させていくときに,また教え
ることと学ぶことの戦略が意図されたゴールを達成するときに不可欠なものとなる20。
このような学びのパートナーシップは,新しい教育方法(学)のもっとも力強い戦略が生まれる関係的な
文脈でもある。このパートナーシップは,今日の世界の多くの教室で見出されているものとは異なる,教師と
生徒の両方の役割から生じている。表1は,このような役割の概略を示している。もっとも,新しい教育方法
(学)が現れて間もないことから,これらの役割は結論的な定義というよりも,さらに論議を深めるための最
初の枠組みととらえている。
19Neil をはじめとする教師が新しいパートナーシップについて語る様子はカナダ・オンタリオのWG Davis 校のビデオ参照。
Fullan 2014b, Motion Leadership Film Series www.michaelfullan.ca/ontario-wg-davis/
20 Hattie 2009
第 2 章 新しい教育方法(学)─ 学びのパートナーシップ
17
表1:深い学びのための新しい教育方法(学)において教師と生徒の中で現れてきている役割
教師(教育方法
[学]
の力)
生徒(深い学び)
生徒や同僚の教師と信頼関係を構築する,よきメンター
を求める
教師や友達と信頼関係を構築する,よきメンターを求め
る
生徒が深い学びのための課題を通じて興味や向上心を
見つけ形作っていくのを支援する
学びの到達目標や課題の中で自分の興味や向上心を探
究する
新しい知識の創造と利用に求められる,挑戦のための学
びの到達目標,課題,自分や生徒のための成功基準を要
求する
学びの到達目標,課題,成功基準,学びの過程でのパー
トナーとの在りかたを定義できる能力を伸ばす
授業戦略のレパートリーを増やす,学びを活性化する異
なる戦略を用いる
友達や教師から,そして一緒に,相互に教え学び合う
とくに生徒が学びに挑戦しているときに,質の高い評価
情報を返したり,励ましたりする
挑戦していく課題に直面していくときの省察力と忍耐力
を伸ばす,ほかの人に対して質の高い評価情報を返した
り,励ましたりする
生徒に与える様々な学びの戦略の影響を調べているほか
の教師やリーダーと協働する(探究サイクルアプローチ
を利用するなど)
自分の学びの中で活動していることについて教師や友達
に,情報を提供する,学習過程や学びの進捗を把握する
力をつける
新しい知識を作りだし,それを用いて行為する,学びに
向けた先取りした態度をモデル化する
新しい知識を作り出し,世界でそれを使って何かをする
知的・態度的志向性を伸ばす
デジタル機器やそこで扱う情報を次のことに生かすため
に,継続的に見つけ作り出していく
1) 新しい内容,概念,情報,アイディアを探究する
2) 生徒に新しい知識を作ることへチャレンジさせる
3) 教室を越えて,生徒,同僚,専門家をつなぐ
4)自分自身の学びの過程を操作できる生徒の能力を
加速させる
5)生徒の学ぶ力や態度に関する情報へアクセスし共
有する
新しい内容,概念,情報,そしてアイディアを探究する
ために,デジタルの学習の道具と情報を継続的に見つけ
作り出していく。新しい知識の創造や,世界の友達や専
門家とつなぎ,新しい知識を世界で用いるために,この
道具を用いる
このような役割は,この報告の後半で説明される事例で示される。我々は,新しい学びのパートナーシップ
で生じている4つの役割をまず説明することから始めたい。1)関係づくり,2)生徒の向上心,3)評価情報
の提供,4)学び方を学び,互いに教え合う。
18
豊かな鉱脈
図5 新しい学びのパートナーシップ
関係づくり
評価情報の提供
生徒の向上心
新たな学びの
パートナーシップ
学び方を学ぶ
関係づくり
教師‐生徒の関係に関する数十年の研究は,ミシガンで教師を務めるPauline Robertsが次のように簡
潔に述べていることに,現れている。
「もし子どもが人として自分自身をあなたが扱ってくれていることを知るな
ら,そこで違いが現れてくる」
。生徒は(理由をもって)教師に対して(そしてほかの生徒に対して)
,もし私から
学ぼうとしないなら,私もあなたから学ぶ気はない,という姿勢をとろうとする。新しい教育方法(学)では,
この人間関係が,学びの過程の中で,新しくより中心的な場を占めている。それらは,授業の前後2分に制限
されるものではない。新しい教育方法(学)では,学習経験全体がこのような関係に深く埋め込まれている。
それは,生徒と教師,生徒同士,生徒と家族,似た学びの興味や向上心を持つ人をつないだ学びのネットワ
ーク全体の中に存在する関係である。新しい教育方法(学)は,会話や相互の努力でより学びを築きながら,
学びの企画の部分として,このような関係すべてをうまく取り扱おうとしている。
21
子どもたちが責任を持つようになり始めた。彼らは,教師と理解を共有しながら自分でビデ
オを撮り,他の教師とこの振り返りを共有することを求めた。子どもと保護者は,ゴールの設
定に関わるようになった。
Valerie Karaitiana,Dallas Brooks コミュニティ・プライマリー・スクール校長,
オーストラリア・ビクトリア州 21
同僚のWill Richardsonは,この関係について次のように述べている22「
。教師は,子どもたちとともに学ぶ
者とならなくてはならない。答えのない問いを尋ね,この問いに対して答えを求める学びの過程をモデル化す
るのである。教師は優れた学び手であるべきだ」
。
このパートナーシップにおける教師の役割は,生徒に内容や教科に関する事柄の記述と説明を提供する
以上のことを果たす。この関係は,最初,信頼関係を構築するという基礎的な能力を持ってスタートする。
我々がインタビューした,困難な状況にある生徒の率が高いデンマークの教師は,学びの基礎として信頼関
係がどのように役立つかについて,彼女の見方を次のように語っている。
21 Dallas Brooksコミュニティ・プライマリー・スクールの生徒の声を集めたビデオ www.youtube.com/watch?v=j2HwGcOcpKM
22 Richardson 2013
第 2 章 新しい教育方法(学)─ 学びのパートナーシップ
19
信頼こそ,進むべき道です。生徒が一人の人として教師を信頼したとき,彼らは関わりを
持とうします。教師がいかに真の人間であるかがカギなのです。……彼らに深く関わり,人と
して接し,彼ら巻き込んでいくことで,教えていかなければならない。私が[教師である以
前に]生活を営む一人の人間であり,彼らが共感できる人間だと生徒たちが思う必要がある。
そうなって初めて、彼らにとって教師がリアルな人間になるのです。我々は彼らを信じ,彼ら
を引き入れるのです。
Mette Hauch,Hellerup 校教師,デンマーク
信頼関係の形成は,相互の努力によってなされる。教師の側からいえば,結果がすぐに出る認知レベル
(知っているかどうか)の成績を越えて,生徒の幸福に関心を向けることである。一方,生徒の側からいえば,
この信頼関係が,学びへのパートナーシップの扉を開くことになる。つまり学びのサイクルの部分として興味,
ニーズ,向上心を,責任を明確にして追及する。そしてより先取り的で創造的な立場で学びの過程に従事す
るといった学びの扉に対してである23。生徒がその意思決定で妥当な声をかけられるとき,そして効果的にそ
の声の用い方を学ぶとき,彼らは自分の学習のリーダーとなる道をスタートできる24。
生徒の向上心
Ken Robinsonは,生徒が自分の学びを進める要素を見つけるのを支援する,教師の重要な役割について
述べてきた25。Cal Newportは,人は自分が情熱を傾けるものを直接求めても見つからず,むしろスキルの発
達や経験を通じて見出せることを論じている26。これらを通じて,生徒はどのようにありたいかを見つけ,それ
に習熟していくようになる(このスキルの発達を以下,
「深い学びのための課題(Deep Learning Tasks)
」と
して説明していく)
。このように新しい教育方法(学)における教師の中核となる役割は,生徒の発見を支援
し,彼らにもっとも適切な経験を選び出すことである。言い換えれば,Robinsonが述べているように,教師の
キーとなる役割の1つは,生徒が自分の向上心に気づき,それに向けて動いていくことを支援するメンターと
して振る舞うことである。
学びと生徒の現実世界や向上心をつなぐことは,新しい教育方法(学)がしばしば生徒のために行ってい
こうとすることである。生徒との多くの論議の場面で,彼らは学校の「古い」方法での学びは,すべて過去を
学ぶものであったと述べていた。そして彼らが望んでいるのは,未来につながる方法で学ぶことであった。
23 意義深い生徒の声は右記参照。www.youtube.com/watch?v=XJd8PPZ2XHY&feature=youtu.be とwww.youtube.com/watch?v=j2HwGcOcpKM
24 生徒の声に関してはRuss Quaglia に感謝する。
25 Robinson 2009, 2013
26 Newport 2012
20
豊かな鉱脈
子どもは,情報の集中砲火に遭っています。彼らを学びに関与させるために,我々は彼らの
興味の手綱を引き,彼らが今どこにいるのかを知らなくてはなりません。そうでないと気が散
るばかりなのです。私は,
彼らのパートナーとならなくてはなりません。彼らがどのような人間
なのか、多角的な次元で知っている必要があります。何が彼らの心をとらえるのか ─ 彼らの
ことを本当の意味で知らなくてはならないのです。そのためにも,双方向の会話が重要です。
Pauline Roberts,5 学年および 6 学年教師,米ミシガン州
生徒は今日,どこにいても人や情報と幅広く深くつながっているため,その見方・考え方
は,つながりたいと思ったときにつながれる能力によって動かされています。したがって,彼
らにとっての世界は,よりフラットで,よりオープンなのです。それは彼らの学びに対する姿
勢にも影響を及ぼします。今日の生徒にとって,学びが自分自身との関連性,興味,ニーズと
つながっていなければ,学ぼうという姿勢はまず見られないでしょう。
Max Drummy,プロフェッショナル・ラーニング・リーダー,教育省,
オーストラリア・タスマニア州
この種のつながり,関連性を活かした学習活動の一つの好例を,アイルランドのクロンタスカートにある
田舎の小さなSt.Augustine小学校の校長Kate Murrayが説明してくれた。Kateが我々に話したことによれ
ば,生徒を深く学びに引き入れるには,
「学びの対象を彼ら自身のものにすることです。彼ら自身の背景,自分
の家族,自分の教会区と結びつけるのです」
。このような発想から,学校をあげてリングフォートに焦点を絞
った学習プロジェクトが立ち上がった27。リングフォートとは,青銅器時代に,家と同様に作られていた丸く土
をもった土塁であり,長く妖精の存在と関連づけられてきた。学校区には204のリングフォートがあり,生徒
の多くはそれに興味を持っていた。先祖を通じてそれらとのつながりを感じ,学習の中心としてそれを選んだ。
8歳から12歳の生徒はリングフォートの歴史について,祖先が生活していた時代,彼らは何を食べて何を着て
いたかなどを含めて,調べた。彼らは,考古学者と一緒にリングフォートを訪れ,数学のモデルを用いながら,
その砦を地図に現した。彼らは学校にリングフォートを自分たちでに再現し,
シナリオを書き,
映画を自分たち
で撮影し,演出した。そして国の遺産に関する会議に出席し,そこでプレゼンテーションを行った。リングフォ
ート学習は,多様なカリキュラムの学習ゴールの達成と関わる有意味な中心点となっていった。Kateの言葉
を借りるなら,
「彼らは学びが生き生きと感じられる方法で,ゴールを達成していた」のである。教師と生徒が
学びでつながるとき,彼らはもはや機械の歯車のようには感じなくなり,学びが,自然かつ刺激的で,彼らの
向上心と,彼らの世界に内在するものと感じるようになるのだ。
27 リングフォート・プロジェクトのブログ,ポッドキャスト,写真は下記参照。
http://clontuskert.scoilnet.ie/blog/2013/01/25/ringfort-project-celebrations/
第 2 章 新しい教育方法(学)─ 学びのパートナーシップ
21
フィードバック
新しい教育方法(学)の中心にある新しい学びのパートナーシップは,教師と生徒に学びの過程に関して
より効果的にフィードバック情報を与える強い基盤を提供することである。これを進めるために,教師と生徒
は,学びの過程がどのようなものか共通理解を発展させ,行っている活動をより良いものとする,その進捗の
評価に積極的に関与しなくてはならない。このようなモデルは,知識ベースの組織で働く実践の場で多く見
られることである。個々人あるいはチームが,最初の製品(産物)やプログラムを一緒に考え,テストとフィー
ドバック情報に基づいて,それらを磨き改善していくモデルである。確かに,フィードバックサイクルは,そこで
は一緒に進むことになる。
新しい教育方法(学)では,教師と生徒の間のフィードバックが,学習ゴール間の重要なつながりを示し,
以下に述べる深い学びのための課題と関わり,深い学びの結果を示すこととなる。教師また,学びの歩みの
中で互いに信頼し合っている生徒の仲間だけが,さらに高みへと生徒を押し上げていく挑戦的なフィードバッ
クを適切に提供できる。第4章で説明するが,学習のためのテクノロジーも,生徒に提示する内容や挑戦課
題をより適切なものにするために,生徒のパフォーマンスデータに基づいたフィードバック情報を返すのに利
用されている28。
フィードバック情報を支援する証拠やデータを用いることは本質的なことであり,学習ゴールと関わってよ
りはっきりと生徒が自分の課題を理解するのを支援することになる。中間フィードバックを通じて,学習コー
スにある生徒の戦略や戦術は,最終的な産物やパフォーマンスを改善していく上で適切になりうる。生徒は
仲間からの豊かなフィードバック情報を得ることができる。このような仲間からのフィードバックは年長の生
徒から提供されるだけでなく,7歳の生徒からも効果的な情報が与えられているのをこれまでも見ることがで
きた29。
正しいフィードバックを得ることは,学びの発展を促すことだけでなく,難しい問題に対処していく生徒の
本質的な能力の開発に寄与する。調査結果は,根性,不屈,辛抱強さといったアカデミックスキルとはいえな
いものが難しい課題を乗り越え,長期間に及ぶ成功を導く個々人の力と強い関連性があることを示して
いる。
Angela Duckworth30らは,持続的な努力や「根性」といった力は,各学年のIQやその後の人生における
成功と関わるIQよりも,より正確な指標となることを示し始めてきている31。その研究は,支援する学習の条
件を生かすことを指摘し,正しいフィードバックを得ることを指摘する最初の証拠を示しながら,このような
特性をもつスキルがどのように意図的に開発されうるかを,よりよく理解をしていくことについて,その途中経
過を示している。Carol Dweckの研究は「正しいフィードバック」は難しい課題へ取り組むことを勇気づけ,
その結果よりもその努力に目を向けていることを示していた。
28 Wiliam 2010; Wiliam and Black 2005
297歳児からのピア・フィードバックについてのビデオは下記参照。
http://resources.curriculum.org/secretariat/snapshots/primaryliteracy.html, “Writing Conference: Peers”までスクロール。
30 Duckworth TEDトークは右記参照。www.ted.com/talks/angela_lee_duckworth_the_key_to_success_grit.html
31 Tough 2012. 本テーマの全議論は右記参照。www.paultough.com/2013/02/true-grit-can-you-teach-children-character-2/
22
豊かな鉱脈
32
生徒が成功したとき,教師は生徒の賢さよりも,努力やその戦略を褒めるべきです(一般
の意見とは異なるが,生徒の賢さを褒めると,賢さについて自意識過剰となり,失敗を恐れる
ようになってしまう傾向があるからです)
。生徒が失敗したとき,教師は同じようにその努力
や戦略について,生徒が何を間違えたのか,今何ができるか,についてのフィードバックを与
えるべきでしょう。我々はこれが,その分野で秀でた存在になろうとする生徒を生み出すカギ
となる構成要素であることを示してきました。言い換えれば,教師は,生徒が努力の価値づけ
ができるように支援すべきなのです。多くの生徒は,努力は単に無能な者がするものと思って
います。けれど,卓越した結果を出すカギとなるのは,時間をかけた持続的な努力なのです。
Carol Dweck,心理学教授,米スタンフォード大学,2005 年取材 32
学習のための学びとピア・チュータリング
(相互に教え合うこと)
ここまで説明してきたこの種の学びのパートナーシップ,学びと生徒の向上心を結びつけ,強力なフィード
バックを与えるというパートナーシップは,学びの過程に対する生徒の意識を形成する。学習のための学び,
つまり生徒が自分や他の人の学びの過程におけるメタ認知的な観察者となることは,新しい教育方法(学)
が目指す基本的なゴールの1つである。
このゴールは,内容知識の習得だけに目を向けていない。学びの過程の習得にも目を向けている。学ぶこ
とを学ぶためには,生徒が自分の学習ゴールや成功の基準を設定する必要がある。そして,自らの学びを詳
細に観察し,その成果を批判的に検分し,仲間・教師・保護者,あるいは一般的な誰かからのフィードバック
を組み込み,これらすべてを利用して生徒自身が学びのプロセスでどのように機能しているかを自覚していく
必要がある。
生徒が学びの過程を習得していくに従って,教師の役割は学習課題を明確に組み立てることから次第に
離れ,フィードバック情報を与え,次のレベルの学びへチャレンジしていくことを促し,継続的に学習環境を
変えていくことになる。
学習パートナーは,構造と独立性の間に正しいバランスを見出す必要がある。しかもそのバランスは,各学
習の文脈にふさわしい唯一のものである必要がある(主題,課題の複雑性,内容と親和性のレベルなど)
。
生徒が仲間や教師と教え合うピア・チュータリングは,我々の見方では,生徒が学びの過程を意識しそれ
を習得していくことを支援する力強い装置である。ピア・チュータリングは,生徒が学びのゴールを定義し,ア
セスメントの規準を提供する,などの過程に関わっていくことを要求する。我々がインタビューした教師の1人
は,ピア・チュータリングが学びの過程の習得をどのように促すことができるのか,1つの大きな事例を説明し
てくれていた。デンマークにあるHellerup 校の教師 Mette Hauchは,
「生徒がほかの生徒に教えなくてはな
らないとき,生徒は最も深く学習に関わることを見かける」と述べていた。彼女の学習課題は,生徒に文学
32 Dweck 2005
第 2 章 新しい教育方法(学)─ 学びのパートナーシップ
23
作品を選ばせ,それを分析させ,独自の学習リソースや評価情報を開発させることだった。生徒は自分で作っ
たリソースを用いて互いに教え合い,相互の理解を評価していった。
生徒が互いに教え合うとき,彼らは学びを一歩深めているようです。さらなる一歩を踏み
出すのです。10 代の生徒たちは,厳しいグループだ。失敗すれば無傷ではいられません。ま
た,自ら手がけたことには強い責任感を持ちます。そして,うまくいったときには,彼らにと
って大きな自信となるのです。
Mette Hauch,Hellerup 校教師,デンマーク
このようなプロジェクトは,生徒がその活動の計画や発展に長く関わり,フィードバック情報に基づいてそ
の活動を改善する機会を持ち,成長が見える明確な学習ゴールや成功の基準を持たなければならない。以
下説明するように,新しい教育方法(学)で学びの過程を構造化する深い学びの課題は,
1〜 2時間の授業
で終わるものではない。むしろそれは,現実世界の複合的なプロジェクト同様に,数週間に及ぶものである。
Metteの生徒は,1時間だけ友達とピア・チュータリングしているのではない。それは学校のすべての授業で
共通に取り組まれている。生徒は,効果的に教えることと学ぶことについて,それが行われていることと行わ
れていないことを振り返りながら,また時間をかけて学びの過程で得たものを発展させながら,彼らが学んで
いることを他の文脈に応用している。スペイン出身のこの教師は,学校でのこのようなアプローチの影響力
を次のように述べている。
中等学校の生徒は,教師を導き,友達を教えています。そうしたときに生徒たちは,学校と
学びの一員であると感じるのです。彼らは教師と同じなのです。我が校の生徒たちは,学校
が自分たちの仕事場だと思っています。
Ovidio Barcelo Hernandez,Colegio Bilingue Julio Verne 校教師,スペイン・バレンシア
英国のSaltash.netコミュニティ・スクールを支援し,運営しているDan Buckleyは,ピア・チュータリング
の影響力について次のように述べている。
24
豊かな鉱脈
2000 年から 2005 年の間,私は,100 人以上の生徒に「教師となるトレーニング」をす
るプロジェクトを運営してきました。生徒たちは,講座ごとに 4 人一組でチームを組み,お互
いにカリキュラムを組み,教え合いました。結果,国のすべての試験で,各教科あたりの生徒
の成績は平均より 1.4 級高いという成績を上げたのです。このプロジェクトに参加したグルー
プは,全校生徒の 3 分の 1 ではあったにしても,彼らの成功は,学校全体を付加価値という
点で英国のトップ 20 に押し上げたのです。その学校は Eggbuckland コミュニティ・スクー
ルであり,そのプロジェクトは,すべて生徒によって行われる 1 人 1 台コンピュータを用いた
最初の取り組みでした。
Dan Buckley,Saltash.net コミュニティ・スクール副校長,イギリス・コーンウォール
ピア・チュータリングがその力を発揮したもう1つの事例として,メキシコの学習コミュニティプロジェクト
があげられる33。それは,国を挙げて農村の学校にピア・チュータリングを組み込んだものであった。そのプロ
グラムは,自分が得意な専門知識を磨いた教師役を務める生徒とともに,1つの地図としてカリキュラムを使
いながら,お互いに生徒が教え合うチューターリングネットワークを発展させたものであった34。これにはメキ
シコ全土から6000校がこのプロジェクトに参加した。参加した最初の4000校のデータによれば,国の
ENLACE試験において,
「優れている」
「卓越している」と言うレベルの比率が意味ある増加を示したことが
報告されている。
教育方法
(学)
の力が意味すること
パートナーの関係を導き,生徒の向上心と,正しいフィードバックや学び方を学ぶこととつなぐことは,新し
い教育方法(学)にとって本質的である。なぜなら,それらのことは,教師を,個々の生徒をより深く知る文脈
に置くからである。そしてそれを通じて,教えることと学ぶことの戦略が,個々の生徒の学習をどのように最適
に活性化するか,それを理解するために,教師が生徒の進捗状況を分析することへ導くからである。
これを関連付けて考えるなら,このような新しい教育方法(学)の戦略はー前に深い学びのための課題と
デジタル機器,そしてそれ上で扱える情報を絵で示してきたがー,それだけで教育実践にとって深い意味を持
っている。いくつかの国々では,
このような実践が生じつつあることが報告されている。しかしながら,
より多く
の国々では,悲観主義者(おそらく現実主義者)が,このような実践のスケールにまで持って行くには,数十
年に渡る集中的な努力が必要となると述べている。これが,我々の分かれ道である。多くの場合,生活や学校
で自然に発展してきている要素が,今,新しい教育方法(学)の出発を引き起こしてきている。そのことから目
をそらしてはならない。
33 メキシコ・マラビーヤの「学習するコミュニティ」についてはこちら。http://vimeo.com/70279241
34 Rincon-Gallardo and Elmore 2012
第 2 章 新しい教育方法(学)─ 学びのパートナーシップ
25
我々は,生徒と教師がこのような真実身のある学びに関与することで,彼らのエネルギーやスキルが解き
放たれていくのを見てきている。我々の仮説は,このような方向に向けて彼らの動きに活力を与え,デジタル・
アクセスを増加させる自然の帰結により,このような実践が採用されるスピードが加速化すると予想して
いる。
新しい教育方法(学)は,プロジェクトベースの学習から直接教授,そして探究ベースのモデルに至るま
で,教師が戦略のレパートリーを持つことを求めている。しかし,カギとなるのは,どの戦略が個々の生徒や
課題に作用するかを考えながら(どの戦略が最適に働くか分析しながら)
,教師が学びを前へ推し進め,高度
で先取り的な役割を果たすことである。新しい教育方法(学)において,このことは,学びについて生徒の思
考と問いをより視覚化できるように,生徒と相互作用を行っていくことを意味している。
ここでは,世界中の1000に渡る研究結果の分析を通じて,様々な授業の戦略
が生徒の学習に影響を与えたことを調べた,John Hattieの知見に目を向け
る35。このことはとても値打ちあることだからである。この研究は,
全体で2
億4000万人の生徒に対して行われた研究をカバーしている。個々の授業
の戦略の影響力は,生徒の学習に対する戦略の効果サイズを通じて測
定された(彼は0.4以下の効果は価値あるものとして取り上げていない)
。
彼は2つの戦略カテゴリーを取り上げ,
「促進者としての教師」に対するもの
カギとなるのは,
教師が学びを前へ推し進め,
高度で先取り的な役割を
果たすことである。
として「活性化させる人としての教師」をあげている。これらのカテゴリーは,新
しい教育方法(学)において可能な授業の戦略としてみなされるものである。
表2 授業戦略のカテゴリーに関する効果サイズの分析 Hattieの「学習の視覚化」
戦略のカテゴリー
効果率
活性化させる人としての教師(教師と生徒の関係づくり,互恵的な授業,フィードバック,
メタ認知,教師の明晰さ)
0.72
促進者としての教師(帰納的な授業,生徒が学習をコントロールする)
0.19
「活性化させる人としての教師」のカテゴリーが,
「促進者として教師」の効果の3倍以上を示している。しか
しこれは,新しい教育方法(学)の中で,教師はその役割が少なくなったと言うことを述べようとしているので
はない。むしろ教師は新しい役割を担い,以前よりも生徒や他の教師たちとより一緒に取り組んでいくこと
を意味している。
「側面支援(相手に寄り添ったガイド)
」というよく用いられる概念は,新しい教育方法(学)
では,実際あまり力強いものとみなされないかもしれない。
生徒とダイナミックに相互作用しながらその役割を果たす教師は,生徒自身が自分の学習のゴールを定義
し,これに向けて効果的に取り組むために生徒が学習の体力(学習の筋肉)を身につけてことを支援する。
そして教師は,彼らがどのようにこのゴール達成しつつあるかをモニターできるように支援し,生徒の学習に
35 Hattie 2009; Hattie 2012
26
豊かな鉱脈
強い影響力を持っている。このような教師は,生徒に「自分自身でただ学ばせ」ているのではない。むしろ難
しいが必要な学びの過程を習得させようとしている。このような教師は,高度に開発された教育方法(学)の
力量を持っていると言える。手短に言えば,新しい教育方法で明確に特徴付けられるパートナーシップは,深
い学びの豊かな鉱脈に向けて1つの入り口を示していると言える。
第 2 章 新しい教育方法(学)─ 学びのパートナーシップ
27
3 新しい教育方法(学)
─ 深い学びのための課題
36
難しいけれど,数学や科学といった教科の難しさとは違う。この種の活動をしている生徒
は,以前したことがない方法で考え,創造活動をしなくてはいけない。私はかつて経験したこ
とのない,まったく新しい姿勢で課題や問題に取り組まなくてはいけなかった。
Catherine Vlasov,トロント大学附属校 11 学年生徒,カナダ 36
新しい教育方法(学)の第2の核となる構成要素は,
「深い学びのための課題」と呼ばれるものである。こ
の課題は,生徒が既存の知識を発見,習得し,そして新しい知識を創造し,世界の中でそれを用いることを
通じて深い学びの過程を実践していくことを導くものである。そしてこのことへ生徒を従事させていくことによ
って,新しい学びのパートナーシップの力をそこに結びつけるものである。深い学びのための課題は,
「リーダ
ーシップを学ぶ」といった考えによって活性化される。その中で,生徒は,自分自身の学習のリーダーになるこ
とが期待され,デジタル・アクセスが可能な情報,道具,接続を用いて,自分自身の学習ゴールを定義し,追
求することが可能となる。
図6 深い学びのための課題
実践の学習過程
深い学びの
ための課題
新しい知識の創造
新しい知識の利用
カギとなる将来のためのスキル
先取りする態度
36 CatherineはMaximum Cityという都市デザインのすばらしいコースに参加。詳細はhttp://vimeo.com/73389759
28
豊かな鉱脈
深い学びのための課題は,学習活動を次のように再設計をする。
1.デジタル機器とリソースを利用することで可能となる,より挑戦的で没頭できる方
法で,生徒の学びのカリキュラムの内容(国のカリキュラムの目標や基準)を再構
成する。
2.教室の外の世界で新しい知識を作り出し,それを用いるといった,実際の経験を生
徒に与える37。
3.Michael が6Cと呼ぶ,将来の使える核となるスキルを伸ばし,評価する。
・人格教育(Character education)
誠実さ,自制心,責任感,ハードワーク,忍耐
力,他者の安全や利益に貢献する共感,自信,個々人の健康と幸福,キャリアとラ
イフスキル
・市民性(Citizenship)
グローバルな知識,他の文化を感じとることと尊敬の念,人
間や環境を持続可能にすることへの能動的な関与
・コミュニケーション(Communication)
効果的に話し言葉,書き言葉,様々なデジ
タル機器でコミュニケーションができ,聞き取るスキル
・分析的(批判的)思考と問題解決(Critical thinking and problem solving)
プロジ
ェクトのデザインや運営を分析的(批判的に)に考え,問題を解決し,様々なデジ
タル機器や情報を使って効果的に意思決定する
・協働(Collaboration)
チームで活動し,他の人から学びその学びに貢献する,社会
的なネットワークスキル,様々な人と活動する際の共感
・創造性と想像性(Creativity and imagination)
経済的・社会的起業精神,発見し
ていくアイディアの考慮と追求,行為へ向けたリーダーシップ38
37 38
学びの再構成
深い学びのための課題は,内容の習得に焦点化するというよりも,学び方を学び,学びを創り,前向きに
積極的に取り組む生徒の能力の開発へより目を向け,その再構造化を促すものである。効果的な事例の中
でよく見られた,深い学びのための課題は,次のようなものである。
1.適切にその挑戦を促す明確な学習ゴールによってガイドされている。それはカリキ
ュラム内容と生徒の関心,あるいは向上心の両方を理想的に組み込んだゴールであ
る。
2.ゴールにどのようにうまく到達できるか,教師や生徒に知らせ,そこには固有で明
確な成功基準を含んでいる。
3.フィードバックや形成的な評価サイクルを学習やその過程の遂行に組み込み,生徒
の自信や前向きに取り組む態度を形成することに寄与する。
37ここでいう「新しい」知識 とは生徒が自ら作り上げたものを指す。広い意味での既存の知識として新しいかどうかは問題としていない。学びと「知識」の関係
についての見解は,Guy Claxton著(2013)の『School as an Epistemic Apprenticeship(認識論上の徒弟制度としての学校)
』を参照。
38 Fullan 2013a
第 3 章 新しい教育方法(学)─ 深い学びのための課題
29
深い学びのための課題の中で,生徒は,課題の構造や過程をデザインしながら教師と一緒に取り組んで
いる。多くの人が論じているように,この課題でとても重要な要素は,生徒に,彼らが学んでいることや彼らが
どの課題をどのように実行するかに関わって,真実味のある選択をさせることである。米カリフォルニア州サ
ンディエゴでHigh Tech High NetworkのCEOを務める Larry Rosenstockは,我々のインタビューでこの
ようなアイディアを手短にまとめている。
「生徒に声と選択肢を与えることで機能する」
。つまり,このような課
題は,たとえとても若い年齢であっても,生徒が達成できることにより強く目を向けて定義されるのである39。
新しい教育方法(学)の中で,深い学びのための課題を通じて,生徒は,向上心を伸ばし,学びにおいて主
導権を握り,厳しい挑戦課題に忍耐強く取り組み,そして実際に知識を用いる経験を得る。手短に言えば,
このような課題は,学びと行為の実践的な橋渡しを行っているといえる。
新しい知識の創造と利用
我々が見てきた理論と実践事例の両方の中で言えば,深い学びのための課題は,知識構築と関わってい
る40。我々の専門用語でいう,
この知識構築は,
生徒が知識の再生や既知を応用するというよりも,
既知に対
して新しい知 識を生徒に創造させること意味している。米アラバマ州の10学 年の教 師である,Kelli
Etheredgeは,彼女がどのようにこれまで教えてきたかを次のように述べていた。
「私は,彼らに学ぶべきこと
を整えたパッケージを与えてきた。もし彼らがそれで理解できないなら,悪いのは生徒だった」
。このプロセス
は,標準の教科書を使って提供されるリソースや評価情報を用いながら,すべての教師が行ってきたことで
あると,彼女は述べていた。彼女の役割と生徒の役割は,既にある内容と関わる知識を再生することであっ
た。しかし深い学びのための課題では,そのゴールが,アイディア,情報,概念を伴う既存の知識を,新しい産
物,概念,解決策,あるいは内容へ統合することを通じて,新しい知識を開発していくことである。質のよい深
い学びのための課題は,生徒が知識を創造するだけでなく,さらにそれを利用して新たに得た知識を現実世
界の中で用いることになる。この意味で,深い学びのための課題は,新しい知識を現実の文脈に応用するこ
とを強調した,構造主義的な方向性を持っているといえる。
カナダ・トロントの郊外にある公立のWellesley校で7,8学年の数学と理科の教師を務めるRhonda
Hergottは,この種の知識創造を範例化した深い学びのための課題について述べていた。その課題は,チー
ムで活動している生徒たちが,一連の異なる数学の原理を用いて,測地によりドームの屋根をデザインするこ
とであった。そして学校の1学年の生徒に厚紙でドームを作って見せることであった41。生徒たちは,課題に関
してあらゆる観点から取り組み,考えたいことを質問としてあげながらデザインプロセスを明確にし,彼らが
必要としている厚紙の会社に連絡を取り,合い見積もりをとった。チームで取り組むコースの時間の間に,彼
らは正確なデータが必要であると判断し,1年生のすべての生徒の身長を測り,平均値,中央値,最頻値を算
39新しい教育方法(学)が何を可能にするかについては右記参照。www.youtube.com/watch?v=pGtJami4EGM&feature=youtu.be
ここで使われている用語はBruce Dixon に感謝する。
40 全米研究評議会 2012
41こ の 深 い 学 び の た め の 課 題 を 説 明 す るRhonda の Preziに つ い て は 右 記 参 照。 http://prezi.com/ojjpheqkm0vu/the-geodesic-dome-project/?utm_
campaign=share&utm_medium=copy.
Rhondaの生徒たちは自分たちの作品を記念したビデオを作成。http://mshergott.weebly.com/7a-geodesicdome-project.html
30
豊かな鉱脈
出し,正しいサイズのドームを作ることができた。この課題を通じて,毎週,学びの「点検」で,生徒が各週の
時間で教えられた概念をどのようにうまく理解しているか,その評価情報が収集された(例えば,プロジェク
トでそれを用いることが求められる前に,円周の計算の仕方がその週に教えられているか)
。6週にわたる課
題の半ばで,生徒は自分の概念理解をテストする,自身のアセスメントを行っていた。課題の終了段階では,
Rhondaの生徒は,学校で伝統的にテキストベースに学んできた同年齢のほかの2つのクラスと比べて,必
要とされるカリキュラムについてより多くの内容構成をカバーしていた。このプロジェクトは,新しい教育方法
(学)のスタイルで深い学びのための課題を実践するRhondaの最初の試みであった。彼女にその課題の影
響力について尋ねると,次のように答えた。
私にとってこの取り組みが与えてくれたのは,生徒がどのように学ぶかについてまったく新
しい洞察の目を開いてくれたたことです。生徒は完全に活動に没頭し,数学をやめて体育館
や校庭に出たいとも言いませんでした。昼休みでも,教室に留まり,数学を行うことを望んだ
のです。このプロジェクトは,ドームを仕上げればいいというだけではなく,自分のものとし
て責任を感じていたのです。これは彼らのプロジェクトだったのです。そのプロセスも自らを
導いていったのです。
Rhonda Hergott,Wellesley 校7・8学年の数学・理科教師,カナダ
この種の深い学びのための課題のもう1つの事例は,Kelli Etheredgeによるものである。
10学年の英語の授業で行われたプロジェクトで,環境について論文を書くというものであった。生徒たちは,
彼らが望む環境問題を選び,その選んだことに関する知識に沿って,ライティングとコミュニケーションのス
キルを示すことが求められた(アメリカ合衆国のCommon Core Curriculum Standardに沿って)
。論文が
完成すると,生徒は彼らが選んだ問題について,知識を現実の状況に応用しながら,実際に何かをすること
を求められた。
文学の授業を好んでいないと思われていた男子の1つのグループは,水質汚染について論文をまとめた。
彼らは,自分たちで話し合い,学校の近くを流れ,汚れているDog Riverを考える対象として選んだ。彼らは解
決策を考え,行動計画を立てた。そしてその問題の意識化を図るため,地方新聞社から広告として3400ドル
の寄付金を確保した。彼らは基金を増やすために特別なコーヒーブレンドを作るお店を開いた。学校を終えて
2週間がたつと――つまり,もう成績はついた後,彼らは,川の水をきれいにすることで地方のテレビ局と一
緒に活動し,このコミュニティで Dog Riverの将来にわたる水質保全のために必要なことを視聴者に説明し
ていた42。この事例は,我々に深い学びのための課題が,生徒に新しい知識の創造と,それを学校外で役立
てていくことを求めていることを示している。このような取り組みを通じて,生徒は学び,実践することに,より
「前向きな態度」を発展させていく43。
42 課題の全体像は右記参照。http://www.pil-network.com/Resources/LearningActivities/Details/e18d2903-9b2c-425d-8f89-5ad42a28d421
43とはいえ,この例は深い学びのための課題のあいまいさをも指摘するものである。課題の第一の学びのゴールは何だったのか? そのゴールは達成できたの
か? もしできたとしたら評価されたのか? 「能動的な性質」をどう測るのか? こうした質問は新しい教育方法(学)の効果を知るうえで重要であり,新し
い教育方法(学)を実践しようとしている教師にとって核となる問題である。こうした問題について,第5章で触れている。
第 3 章 新しい教育方法(学)─ 深い学びのための課題
31
キーとなる将来のためのスキル
6つのC,あるいはカギとなる将来のためのスキル(ISTEによる生徒のためのNETSスタンダードと似て
いる44)は,明白あるいは暗黙に深い学びのための課題を通じて培われる。課題がこれを担っていることへ目
を向けると,1つには,複合的な問題解決の過程があげられる。深い学びのための課題は,大変しばしば,生
徒が世界と関わり,影響力を持つ複合的な問題に生徒を従事させる(うまく内容を習得させるというゴール
を越えて)
。深い学びの課題は,Daniel Pinkが「目的」と呼んでいることと生徒を結びつける。
45
何かに秀でようと自律して活動している人は,大変高いレベルで成果を出します。しかし,
いくつかのより大きな目的に向けてそれを遂行している人は,さらに多くのことを達成しま
す。最も深く動機づけられている人は,最も生産性が高かったり,満足度の高い人はもとよ
り,自分自身よりも大きな大義に自らの願望を結びつけるのです 45。
この「目的」という観点は,多くの深い学びのための課題が,人を動かす理由であるともいえる。
Pauline Robertsは,アメリカ・ミシガン州で5・6学年を担当する数学と理科の教師である。2013年の春
学期を通じた彼女の生徒の学習目的は,H2O Heroesの10のミッション46を通じて大気中の水(蒸)気を研
究することであった。各ミッションは,水の異なる観点について生徒の知識を発展させていくために構造化さ
れていた。10番目のミッションと最後のミッションは,生徒にコミュニティに積極的な影響力を持つ方法で,
彼らが学んだことを応用することを生徒に求めるものであった。生徒は10番目のミッションについて,彼らの
wikiを用いてそこにそのプロジェクトの説明を記述している。
アメリカ中のパートナーチームと Skype でテレビ会議をした後で,コープ・プロジェクト
を支援することを決めました。コープ・プロジェクトは,ザンビアの地方の人々を支援するこ
とを目的としたものです。その地域の 30%しか安全な水を得られない状況で,人々は汚染さ
れた水にさらされて,通常予防できる病気から大きな被害を受けているのです。
Birmingham Student's Wiki,H2O Heros
このように彼らをどのように支援できるか,コープ・プロジェクトの設立者とSkypeで話した後,生徒たち
は,ザンビアの田舎の1つの村に環境に合うトイレを寄付する資金を集めることを決定した。学年末の最後
の3週間,彼らは,必要となる基金をどのように集めるか,アイディアを出し合った。そして大がかりなリサイク
ル運動を組織することにした。ユニークな椅子を作り,オンラインでオークションを行ったりした。そして彼ら
が集めたリサイクルされたギフトカードから,装飾品(Jewellery)を作ったり売ったりした。生徒たちはこのよ
44 生徒用のISTE NETSは右記参照。 www.iste.org/standards/nets-for-students
45 Pink 2009
46 10のミッションは右記参照。https://h2oheroes.wikispaces.com/Missions
32
豊かな鉱脈
うに,資金調達の計画を自分たちで話し合い,それらを実行し,トイレ基金のために必要な2500ドルを集め
た。下記のプロジェクト評価で,生徒たちのこの活動に対する振り返りからは,生徒たちが起業スキルを培っ
たことが明らかになった。
装飾品(Jewellery)
使えそうなカードを地元の企業から 2000 枚ほど集めた。けれどディスクカッターは1つ
しかなかったため,ブレスレットを切り出す作業にものすごく時間がかかった。実際にスプリ
ットリングのブレスレットを作るには時間がかかりすぎたため,通常のリングタイプに変更し
た。注文がたくさんあったので,昼休みもほとんど注文を作るのに使った。年度末の学校の最
終日も,まだブレスレットを作って配っていた! その後,バーミンガムのジュエリー店のバ
イヤーと会った。彼女は夏のストリートイベントで私たちにテーブルを貸してくれるという。
これはすごい。しかも,冬バージョンも考えてはどうかとのことで,9 月にもう一度会うこと
になった。そのときに彼女の店で買い取って扱うかどうか最終決定するという。またギターピ
ックの作り方も開発したので,ギター店に置いてもらえないかどうか,ひとつ試してもらって
いる。
生徒がこの学びのための課題に夢中になっているのは明らかだった。
47
ゴールを達成してワクワクした。でも,さらに興奮したのは,校長先生がプロジェクトに感
動して,私たちが支援していた村の経済を助けることになる 2 輪トラクターを購入するのに必
要な 1 万 2000 ドルの寄付集めに全校挙げて取り組むことを決めてくれたこと。校長先生は,
教師と生徒に村を訪問し,長期にわたる関係を築くことを望んでいる。おかげで私たちは,支
援の効果を長期間モニターできる。というわけで,我々の 10 番目の,そして最終ミッション
は成功とみなす! 我々は H2O ヒーローだ !!!
Stundent’s Wiki,H20 heroes47
プロジェクトを振り返ってPaulineが述べていたように,
「これらは10歳から12歳の子どもたちが行ったこと
でした。彼らはそれをすべて自分たちで行ったのです。次の3つの単語を行動に移したのです。
『Demonstrate
your learning(あなたの学びを示そう)
』
」
。生徒たちは,Common Core カリキュラムにおける数学と理科
の学習内容のゴールの習得を示しながら,一方で,創造性を発揮し,コミュニケーションを取り,根性を示し,
問題解決を行い,協働し,自己省察スキルを効果的に用いていた。
しかし深い学びのための課題が必ずしもグロ―バル(世界規模)な問題を取り扱わなくてもいいことを記
しておくことは重要である(これはグローバルな市民性を発達させていく本質的な要素であるけれども)
。重
要なことは,通常のカリキュラムで,それがローカルであろうがグローバルであろうが,生徒が現実のライフ
(生活)スキルを研究したり,取り扱ったりすることである。
47 生徒の自己評価は右記参照。http://h2oheroes.wikispaces.com/Our+Evaluation 新しいマーケティングビデオのリンクはページの一番下に。
第 3 章 新しい教育方法(学)─ 深い学びのための課題
33
次にもう1つ深い学びのための課題に共通する要素は,協働学習を通じて学びの社会的性質にしばしば
テコ入れを行うことである。学びにおける協働は,表面上考えることは容易である。しかし実際に遂行するの
はとても難しい。生徒や教師が遭遇するもっとも複合的な移行の1つは,個々人が自分の考えを示すことを
中心とする教育方法から,グループがその学びを示す教育方法へ移ることである。実際の職場では,その成
功はたいていの場合,一人一人の能力を,そして複合的な部分やアイディアを首尾一貫した生産,解決,政策,
プログラムに統合していく協業によると言われている。このことは,個々人がその仕事の最終目的について責
任を共有すること,本質的で交渉的な意思決定をすること,相互依存で仕事を進めること,を求めるもので
ある。
ここに,協働スキルが深い学びのための課題を通じてどのように開発されるかを示す事例がある。この課
題は,チームでの学びを構造化したものであった。プレーヤーがフィールドでボールを運ぶために,お互いボ
ールをパスするスポーツのようにである。我々は,この課題を,アメリカ・ワシントン州にあるBellevueインタ
ーナショナル・スクールでの7,8学年の人文科学の授業の中で見ることができた。すぐに気付くと思われる
が,
Common Core カリキュラムのスタンダードと6Cのいくつかの要素を両方用いる課題のデザインがなさ
れていた。
教室に満ちたエネルギーは明白であった。生徒は,内側の「話し手」と外側の「コーチ」と
同市円状に座っていた。内側の円の人は,
『蠅の王(Lord of the Flies)
』や現実世界と関係
づけてジョージ・オーウェルの『動物農場(Animal Farm)
』を熱く論じていた。その論議は
非常に活力に満ち,1 人が少し口ごもると,すかさず 4~5 人が,その声が聞こえなくなるほ
ど声を上げていた。それは教室というよりも高揚した英国国会答弁のようであった。彼らが
論議している文学上の問いは,生徒自身が作り出した問いの 1 つである「
『動物農場』で動物
を作り出している事柄(共産主義システム)は,人間よりも優れていると考えるか?」であっ
た。教師は机を離れ端に座り,静かに論議の中でのやり取りや,色々な生徒がそこにどのよう
に関与しているかについてノートを取っていた。
すべての生徒は本を開き,論議の流れに沿って,話の経過にすばやく応じていた。話し手
は,文章から証拠となる別の情報源を取り上げるとき,ページ番号を述べ,その論議の根拠
となっている文章を読み上げた。
「終了」という合図で,内側の円の話し手は,外側の円の人
と向き合えるために,椅子の向きを変えた。外側の円にいる各ピア・コーチは,彼らに,元気
づける良い点の指摘とよりキーポイントを引き立てていくためにどのように行ったらいいのか
飛躍のポイントを指摘していた。すべての生徒が自分の役割を認識し,お互いに支援をするこ
とを意図的に意識し焦点化して臨んでいた。生徒は単にテキスト深く理解し合うだけでなく,
オーウェルが論じたより大きな歴史的諸問題と,その理解を関連付ける能力を,その論議を通
じて明らかに示していた。
これは,完全に,生徒が自律的に行い,ピア・コーチングを行い,例外なく意見交換に没頭し,楽しみを示
すといった,生徒中心のソクラテス式問答法のセミナーであった。それを見ることは,高速で動くサッカーの
試合やバスケットボールの試合を見ているようであった。教師のKristinは「終了」と活動を止めるだけであっ
34
豊かな鉱脈
た。セッションの終わりには,彼女は全生徒を集めて,彼らが他の人のアイディアを貼り合わせ,よく「任せる
点」も持ち合わせていたこと,そして論議の間にお互いを支援していたことを第一に取り上げながら,口頭で,
例外なくすべての生徒が意見交換をしていたことを認めていた。生徒は自分たちが行った優れた点や優れた
コーチや支援に関して,お互い賛辞を言い合っていた。この深い学びのための課題の中で,説得的に熟達し
たコミュニケーションを十分発揮して,生徒は協働し,学習の仲間(peer learner)と互恵的に活動していた。
教師の役割は,促進者というものではなかった。彼女は,学習過程のモニターとして継続的に従事し,固有な
そして根拠を持ったフィードバックを生徒に提供するために論議からその証拠を用いようとしていた。
学びのゴール
上で述べてきた深い学びのための課題は,新しい教育方法(学)と関わる生徒が,十分な関与と学びでの
興奮を感じていることを明らかにした。彼らの学びでの興奮が,このような課題を通じて引き出されると,教
師と生徒は,驚くべきまた力強い結果に向かい,共通の目的を持って一緒に取り組むことになる。深い学びの
ための課題は,上で説明されてきた授業の戦略や学びのパートナーシップと統合されると,学びに影響を与
える力強い潜在力を持つこととなる。理想的には,深い学びのための課題は,教師の教育力と生徒の学習力
の両方を伸ばしていく。その課題が,教師に,様々な授業の戦略を設計,実行,モニター,その影響力を評価
する機会を与える。教師は生徒に,自分の学びを導きモニターする能力を次第に成長させ,新しい知識を創
造しそれを利用するといった,学ぶ過程を自ら実践する機会を与える。これをすべて効果的にするためには,
深い学びのための課題の構造や設計がとても重要となる。
第2章で論じてきたように,学ぶことを学ぶセクションでは,明確な学習ゴールとそれにあった固有な成功
規準が,教師と生徒の両方に,学習ゴールに向けてその成長を評 価する方法を提供していた。Robert
MarzanoからCharlotte Danielson,そしてJohn Hattieに至るまで,教育の専門家は,効果的な授業は明確
なゴールを必要としていることを強調している。
48
教師が学習のゴールをより明確にすれば,生徒はそのゴールを達成するために必要な活動
により深く関与することになる可能性が高い。また生徒が成功の規準をより意識化すればす
るほど,生徒はこのような規準に至るために必要とされることは何かを理解し,評価できるよ
うになる 48。
このように,深い学びのための課題は,明確なゴールを決めるべきであるが,それをバラバラに定義するだ
けでは十分ではない。学習ゴールに最適に挑むには,それが生徒の認知発達と近い範囲のものである必要
49
があり(例えば,学びの成長を適切に推し進める)
,教師と生徒で話し合われ,受け入れられるものである必
要がある。そして生徒の個人的な興味や向上心とある学習課題を統合することも可能とすることが求められ
48 Hattie 2012
49 Vygotskyの最近接発達領域への言及である。
第 3 章 新しい教育方法(学)─ 深い学びのための課題
35
る(Shechtmanほかの著作を参照50)
。さらに深い学びのための課題は,その伸びを測る,その課題に一致
した成功指標や方法を持っていなければならない。これらすべては,学びの過程を生徒が習得するのを支援
しながら,学習の伸びに大きな透明性(お互いに見通しを持って確認できる)をもたらすことになる。
このように新しく幅広い(教師や生徒の)発達を考えることは,深い学びのための課題と関わる学習ゴー
ルの焦点化や新しい教育方法(学)が,前世紀に支配的であった教育モデルからくる学習ゴールと異なるも
のであるのかという疑問を自然と取り上げることになる。もしその学習ゴールが異なるなら,どのような証拠
がその学習を示すために必要とされるのだろうか? 我々は根本的に異なる学習ゴールでの成功をどのよう
に測るのだろうか? 後の章では,学習の伸びや学びの成果を測るうえで,どのようなタイプの測定方法が求められるのかを述
べている。特に重要なのは,新しい評価情報の収集により,全システムレベルで新しい教育方法(学)が幅
広く影響力を持つことを,証拠を持って示せるかどうか,にある。しかしながら,測定の問いに移る前に,我々
はデジタル機器やそのうえで扱える情報が拡張してきていることを考える必要がある。
我々は深い学びと関連づけられ,予想できないテクノロジーによって加速化され,後で見るような,力動的
な変化の過程を評価し,またそこでスキルが磨かれる人によって導かれる,新しい学びのパートナーシップと
いった,我々をガイドするモデル全体を必要としている。しかしこの拡張は,その必要としている理由を明確
にするよりも,より混乱を引き起こす可能性もあるからである。
50 Shechtman et al 2013
36
豊かな鉱脈
4 新しい教育方法(学)
─ デジタル・ツールとリソース
新しい教育方法(学)の第三の核となる構成要素は,デジタル学習ツールとリソースに関するものである。
新しい教育方法(学)に関する我々の説明でテクノロジーについては,まだ明確に述べていなかった。ここで
はこれがまだ不足していることを述べていく。我々の最初の目的は,新しい教育方法(学)の核となる構成要
素の統合が,どのように力強い方法で学びに火をつけることができるか,光を当てることであったからである。
Michael Fullanと Katelyn Donnellyは,このことを『The Alive in the Swamp(湿地を生きる)
』レポート
の中で記し,力強い授業の戦略(そして深い学びの課題)がないままテクノロジーが用いられると,我々はそ
こに至ることができないことを述べていた51。
一方で,デジタル・ツールとリソースは,
『Stratosphere(成層圏)
』でその輪郭が示されているように,以前
にはイメージできなかった方法で,学びを可能にし,拡張し,加速化する潜在力を有している52。しかし他方で,
学校や教育システム(制度や組織体制)によってテクノロジーに投資された数億がその潜在力を活かすに
至っていない。教師が教え,生徒が学ぶ基本的な教育方法(学)のモデルが変わることなく,テクノロジーへ
の投資が行われると,それは,しばしばよく目にする表層的な,内容の伝達をおもしろくする取り組みや既存
の内容知識を再生産させることに関心を向けたものとなる。つまり伝統的な授業の戦略で基礎スキルを教え
る取組に終始してしまっている。
そのため,以下では,教育におけるデジタル・ツールとリソースの現在の状況把握を行っていく。テクノロジ
ーが学習の成果へ及ぼす影響のメタ分析によれば,今日に至るまで,テクノロジーの利用が,他の介入と比べ
て学習に平均的に低い影響しか持っていないことを示している。
53
メタ分析の中で見出された調査結果によれば,テクノロジーを用いた授業への介入は,他に調
査された介入など(ピア・チューターリング[相互の教え合い]や効果的なフィードバック情
報を学習者に与えること)と比べて,ほんのわずかな低いレベルの改善しか生み出していな
い傾向にあることを示している。この研究によって明らかにされた影響の範囲は,違いを作り
出すようにテクノロジーが用いられているのか(用いられないのか)ではなく,テクノロジー
がどのように教えることと学ぶことをうまく支援しているかを提案するというものであった。
それゆえ,そこで重要となるのは,教室でテクノロジーを利用する教育方法(学)であった。
「何を」よりも「どのように」へ目を向けたものであった。これが,調査から見出された重要
な教訓である 53。
51 Fullan and Donnelly 2013
52 Fullan 2013b
53 Higgins et al 2012
第 4 章 新しい教育方法(学)─ デジタル・ツールとリソース
37
John Hattieは,彼のメタ分析の中で,テクノロジーが学習に及ぼす平均影響力が低いものであることを明
らかにしていた54。Larry Cuban55は,テクノロジーが過去50年にわたって影響力をほとんど持っていなかっ
たことを記していた。これらのプロジェクトやMichaelの『Stratosphere』の中で,このような状況にある理由
が明らかにされている。教育におけるテクノロジーは,伝統的な教育方法(学)にまずその前提が置かれてき
たことである。
ペンシルベニア大学のOrrin MurrayとNicole Olceseは,Apple社のiTunes Uの中にある「教育」として
カテゴリー化されている3万のアプリケーションを分析した。その最終分析の中で,
「“教育”としてカテゴリーさ
れているアプリケーションのなかで,大半は消費以上のものは提供していなかった」と結論づけていた56。内
容の伝達やその消費のアプローチを越えるとされるものは,たいてい「ドリル&プラクティス」あるいは基礎
スキルの反復練習として説明されていた。このような特徴は,Appleの教育アプリに単に当てはまるというの
ではなく,過去数十年にわたる大多数の教育アプリに当てはまる。高く評価されているKhan Academyや,
頭角を現しつつあるMOOCSでさえ,伝統的な学習のゴールを支援する上で価値あるものとされ,我々が論
じているような新しい教育方法(学)と深い学びのためにテクノロジーを活用するにはいたっていない。
テクノロジーそれ自体が,伝統的な教育方法(学)を前提としているだけでなく,教師が生徒と一緒にテク
ノロジーを用いてきたその方法も,創造のためというよりも伝達に関わってより多く用いられてきた。そして学
校や教室の内外でテクノロジーを用いる現在の利用も,深い学びのためにデジタル・ツールやリソースを用
いることはまれであった。ポルトガルの公立校Freixo School ClusterのディレクターであるLuis Fernandes
が述べていたように,
「テクノロジ-は重要である。しかし,もし教師が力を発揮するような方法で用いないの
なら,テクノロジーに問題は解決できない」と述べていた。Innovative Teaching and Learning(ITL,イノベ
ーティブな教えと学び)のリサーチプロジェクトから示された次の図は,7つの国の教師が,生徒にICTをどの
ように用いているかを尋ねる方法で,明らかにされたそのレポート結果を示している。
54 Hattie 2009
55 Cuban 2013
56 Murray and Olcese 2011
38
豊かな鉱脈
図7 テクノロジー利用と知識創造
シミュレーションやアニメーションの開発
3%
学校外のクラスの他者との協働
5%
シミュレーションやアニメーションの利用開発
5%
マルチメディア・プレゼンテーションの作成
学習活動で仲間との協働
授業に関する情報やオンライン教材へのアクセス
6%
文章・レポート・小論文の入力や編集
15%
インターネットで情報を検索する
基礎的な
テクノロジーの利用
情報消費
12%
15%
決まった作業や手続きを行う
知識創造
9%
データや情報の分析
テストを受け,
宿題を提出する
ハイレベルの
テクノロジー利用
17%
26%
36%
2011年のこのデータが示しているように,テクノロジーは,協働や知識構築のためというよりも伝統的な
授業の方法に従って用いられている。さらに言えば,この図は,次の10年の新しい教育方法(学)と関わる
知識構築などの深い学びの利用はそこに含まれていないことを示している。
学習と教育方法(学)を第一に,その次にこの支援のためにテクノロジーを用いてきた学校の具体的な事
例を以下実際に見てみる。ここでは,カナダオンタリオ州のElmiraにある公立のPark Manor校(6,7,そし
て8学年)の取り組みを取り上げる57。
学校はまず生徒の学習のゴールに目を向けている。そして詳細な教育方法(学)を考え,その後で,テクノ
ロジーがハイレベルのスタンダードに向けて学びをどのように可能として加速化するかに関心を向けている。
教師は,生徒の学習ゴール,深い学びでのコンピテンシー,範例的な教育方法(学)
,テクノロジーを,どのよ
うにすべて一緒に機能させるかを地図的に示す「学習を加速化するフレームワーク」を,協働的にデザインし
ていた。彼らは,このフレームワークを用いて,意図や過程や課題,そして望ましい結果の姿を明確にしなが
ら,学校全体で実践を始めた。
彼らは,フレームワークの中にテクノロジーの効果的な利用を埋め込みながら,目標となる「専門的な学び
と実践」の戦略を開発した。その結果は以下の通りであった。学習成果がまず平均化されるに至り,その後,
彼らは劇的に年間のスタンダードの結果を改善するに至った。例えば,読解力は,3年間で72%から93%に
上昇し,書く力は,女子に対する男子のギャップを狭めることを含め,69%から87%に改善するに至った。
57 Park Manor校が説明した加速化する学びのフレームワークについては,動画シリーズ を参照。Fullan 2014b and Motion Leadership Film Series,
www.michaelfullan.ca/ontario-park-manor/
第 4 章 新しい教育方法(学)─ デジタル・ツールとリソース
39
Park Manorや他の学校にとって,テクノロジーは,新しい教育方法(学)の他の核となる構成要素の支援
装置また加速装置として用いられている。新しい教育方法(学)のモデルの中で,テクノロジーは,新しい学
びのパートナーシップを直接支援し,深い学びの課題の基盤となっている。手短に言えば,それが新しい種
類の授業全体を可能にしているといえる。
図8 デジタル・ツールとリソース
新しい教育方法
(学)
新しい学びの
パートナーシップ
深い学びの課題
新しい内 容の発 見 ,
ローカルとグ
ローバルの協働,
そして世界におけ
る新しい知識の創造とその利用
デジタル・ツールと
リソース
生徒が学習過程をコントロールで
きるような教師の力を強める
このように戦略的に,新しい教育方法(学)の他の核となる構成要素と統合されたテクノロジ-は,深い
学びを引き起こす。教育方法の力と深い学びの力が明確に定義され,開発されるとき,デジタル・ツールとリ
ソースは次のことを可能にする。1)新しい内容知識の発見と習得,2)協働的でつながりを持つ学び,3)新
しい知識を低コストで創り出し,それを繰り返す,4)
「現実」の目的に沿って本物の相手と新しい知識を活用
する,5)自律性を加速化しながら,学びの過程を生徒が自分でコントロールできるように,教師の指導力を
向上させていく58。
この章の後半でより詳細に述べられるように,新しい教育方法(学)の中で,学びのパートナーは,知識構
築のために,問題を調べ解決するために,互いにフィードバック情報を与えるために,教室や学校の授業日の
境界を越えて協働するために,そして世界中の友達,専門家,他の人々と話し合うためにテクノロジーを用い
ている。テクノロジーのこのような利用は,カリキュラムのゴールの上に,単に置かれるものではない。
むしろ,テクノロジーは,よく練られた成功の基準(ルーブリック)を伴う深い学びのゴールのもとに用いら
れている。その利用における「どのように」は,力動的で生徒と教師によって共同決定されている。これが生じ
るとき,公教育を通じて生じることが,世界が学校外で機能させている方法と真につながり始めるのである。
外との境界線は,単にその透過性がよくなるだけでなく,学びの意味において,それらは消えることとなる。
テクノロジーから始めてはなりません。教育方法(学)から始め,効果的な教えと学びのた
めに生徒たちがどうテクノロジーを取り込んでいくのか,見せてもらうといいでしょう。
Max Drummy,プロフェッショナル・ラーニング・リーダー,教育省,オーストラリア・タスマニア州
58 Peter Hill に感謝する。
40
豊かな鉱脈
私たちは,よくできたアプリケーションやテクノロジーに大変興奮しました。しかししばら
くすると,最も深いのは最もシンプルなテクノロジーだと気づき始めたのです。
Liz Anderson,Park Manor 校 6 学年教師,カナダ・オンタリオ州
新しい内容の発見
教育の歴史は今,きわめて重要な変曲点にあるといえる。
「ブレンディッド・ラーニング」
「反転学習」に対
する教師と生徒の興奮は,実際のところ,共通の苦痛に端を発している。世界の多くの学校システム(制度
や組織体制)の中で教師と生徒は,広範囲にわたるカリキュラム上指定されている内容をカバーする必要性
を課され,それと同時にその成果を公的基準で評価することに,長い間,制約を受けてきた。
しかしながら,デジタル・ツールとリソースへの自由自在なアクセスは,あらゆる内容知識を,すべての人が,
いつでも利用できるようにした。これは2つの意味がある。1つは,教師は,もはや内容知識の広い巻物を一
人で伝達する必要はないことである59。
もう1つは,生徒が生活で理論上必要とするかもしれない内容のすべてを,もはや学校で教える必要はな
い点である。生徒が幅広い内容知識を身につけることは重要だが,教師と学校はそれらすべてを教える必要
はない。
学習は,その学びの過程を生徒が習得できるように,またデジタル・ツールやリソースを用いて,自分で,新
しい内容知識を発見し習得できるように支援することに,より焦点化すべきである60。この計画でいけば,教
師が直接内容を伝達する必要性は減り,容易にアクセスできてわかりやすい,大変質の高いデジタル学習リ
ソースの必要性が増えることになる。それは,何が必要とされているかの視野を広げることになる。優れた学
習リソースは,単に必要とされるカリキュラムのためのものでなく,より大きな知識とアイディアのために必要
なのである。
59教師が自分の専門分野の深い知識をもつ必要がなくなったと言っているわけではない。生徒に発見や創造,生徒にとって新しい知識の使い方などを教えるうえ
で,こうした専門知識は必要だ。さらに,内容との新しい関係を築くことは,学びのための課題をより学際的なものとする。現実世界における問題解決には,異な
る情報や発想,視点の合成が必要となるように,深い学びのための課題はしばしば学際的である。
60こ の短編動画でSugtra Mitraは,コンテンツをうまくナビゲートする能力を生徒が身につける重要性を説いている。www.youtube.com/watch?v=qC_
T9ePzANg
第 4 章 新しい教育方法(学)─ デジタル・ツールとリソース
41
協働的でつながる学び
デジタル・ツールとリソースへのアクセスが普及すると,それは,生徒が教師や友達,他の人々と,アイディ
アの生成,フィードバック,専門知識や進捗の評価のためにつながっていく時間と空間を広げ,深い学びをよ
り可能としていく。これは,本質的に,学びの過程をより社会化し,人はどのように学ぶかといった現今の調
査研究や理論と学びの過程をつなぐことになる61。ある学習課題に友達と一緒に取り組むことにとって,授
業時間外にデジタル・ツールを用いて協働する能力は,個人の関心や向上心とつながる学びを探究する機
会を拡張する。公的な学びの過程の中で,
新しい教育方法(学)の他の核となる構成要素と統合されるとき,
オンラインの学習リソースは,やる気のある生徒による独立した学びを支援するだけのツールではなく,より
包括的で社会的につながれたあらゆる生徒の学びを可能にするツールとなるのである。
新しい知識の創造
我々は,第3章で,深い学びの課 題の中における本質的な知 識 構築の役 割について述べた。Will
Richardsonは,デジタル・ツールとリソースの利用を,創造に不可欠なものとして,つなげて捉える考えを明
確に示した。
「テクノロジーは,我々が知的に飛躍することを可能にし,真に美しいもの,意味,価値のあるも
のを創造することを可能にする。
(単に)生徒の学びの計画を話し合い,運用し,教室の時間と空間の制約を
62
越えて“伝達”学習をするためにテクノロジー用いることに対してである」
。知識ベース,価値創造指向,21世
紀の世界経済の中で求められる生産性は,新しい知識,新しい生産物,新しい解決法,新しい内容を創り出
す人を求める。
同様に,深い学びは,内容の習得以上のものを求めるーそれは世界における新しい知識の創造と利用を
求める。確かに,このような事柄の多くは,テクノロジーがなくても創り出せる。しかしながらデジタル・ツール
とリソースは,意味あることに低コストで,生徒にとって創造的な過程をより実現可能なものにする。それがビ
デオ,
マルチメディア・プレゼンテーション,量的分析の視覚的表現,あるいはよく調査された,世界のデータ
や専門知識を組み込んだ現今のレポート等,それが何であるにしても,生徒がデジタル・ツールやリソース
を,知識構築過程を実践するために用いるとき,生徒は将来に仕事で期待されている方法で実践をしている
ことになる。
世界における新しい知識の利用
深い学びの最後のステップは,生徒が作り出した知識を学校の外の世界で活用することである。このステ
ップを踏むことで,生徒は前向きに「行動を取る」性質を十分に発達させ形作っていく。例えば,Amanda
Henning(Dallas Brooksコミュニティ・スクール副校長,オーストラリア・ビクトリア州)は生徒の声を活か
すプロジェクトについて,
「私は,“行動を取る”ことが生徒の声を引き出す上で最も重要な局面であると考えて
61 Bransford et al 2000
62 Will Richardson, 著者との個人的な電子メールより。
42
豊かな鉱脈
います。それは,すべての生徒が自分たちでコントロールできる局面だから」と言う63。
新しい知識を生み出し,それを教師や他の生徒と共有することは,意味あることだ。だがその知識を,現
実世界で用いて問題を解決し,本当に必要としている人がそれを用い,現実の政策やプログラムに影響を及
ぼしていくのは,さらに意義深いことだ。
過去100年もの間,教育は,教室や学校の壁の中に閉じ込められてきた。そこを卒業する生徒は,他の
人々から定義された「学習で期待されること」の規準を満たすために,教えられたことを行いながら,多くのス
キルを獲得してきた。
しかし,今日,このような生徒が職場やより広い世界に入ると,突然,何ら教えられることなく大変複雑な
ことをするよう求められ,それに対応していかなくてはならない。このように,今日の学校は,未来に向けて若
者を十分に準備させることに失敗している。生徒がすべきこと,していいことの期
待値を変容させていくことを通じて,また世界の中で実践の機会を彼らに与
えることによってのみ,我々の学校は,もう一度,基本となる使命を果た
学校の基本的使命とは
すことが可能となるだろう。
すなわち,世界を変える
学校の基本的使命とはすなわち,世界を変えるような意義のある活
ような意義のある活動を
動を通して,生徒に心構えと自信を身につけさせることを意味してい
通して,生徒に心構えと
る。John Deweyは,学校は生きるための準備をする場所ではなく,む
自信を身につけさせることを
意味している
しろ人生そのものなのであると言った。しかし,そのとき,彼は想像だにし
なかっただろう。きわめて若い時期から,生徒が世界をよりよくする方法を学
ぶことで世界について学び,生涯を通じて優れた市民となるとは。
では,この学びの中において,テクノロジーの役割は何なのか? シンプルに言うなら,デジタル・ツール
やリソースは,今日世界で人々が何かをするとき,用いる最初の道具の1つとなってきた。若者はこのような道
具で仕事をする経験を必要としている。
しかし,彼らは,今後まれにしか仕事が与えられない世界に入っていくことになるだろう。その代わり,彼らは
世界で価値を創り出しそれを示すことが求められるだろう。デジタル・ツールとリソースは,このような価値創
造を可能にし,加速化する。
そのため,このようなリソースを学校にもたらす時期に来ていると言える。これによって生徒は何かをするた
めに,それらを用いることができるようになるからである。このように「何かをする」ことがそれほど簡単に可
能とならない状況に置かれるとき,それは必要とされるのである。
テクノロジーが学習過程の中でどのように用いられているかを眺めるこのような方法は,生徒に提供され
るデジタル・ツールやリソースを考えていく上で意味を持つ。ここでの強調点は,テクノロジーを通じて(本来
の目的が内容の習得である)
,個々人の学びを可能にするということではない。むしろ,このような見通しから
するなら,ここでの強調点は,新しい知識を発見し,創り出し,活用するために,デジタル・ツールやリソース
をすべての生徒に提供していくということである。
63 Dallas Brooksコミュニティ・スクールのdeforestACTIONなどのプロジェクトについては右記参照。 www.youtube.com/watch?v=j2HwGcOcpKM
第 4 章 新しい教育方法(学)─ デジタル・ツールとリソース
43
学習者の自律性を加速化させる
新しい教育方法(学)の中で,我々は,テクノロジーが,教師と生徒の間の新しい学びのパートナーシップ
を支援するために,また学びの過程を生徒がコントロールできるような教師の力を急ぎ伸ばしていくために,
どのように用いられるか,を見始めている。新しい教育方法(学)の目的は,生徒
がその学習過程を効果的に設計し運営できる自立した学習者となることで
ある。この目的を達成することは,簡単でもなければ容易でもない。生徒
の学習過程の習得を,時間を越えて伸ばしていく洗練した教育方法
(学)の力を必要としている。デジタル・ツールとリソースは,あらゆる教
育と関わる人に,学びの過程をより視覚化することで,その支援を申し
出ることができる。これを手短に言うならば,それらを生み出す,生徒と
教師による学びのパートナーシップと深い学びの課題は,デジタル・リソ
新しい教育方法(学)の
目的は,生徒がその学習過程
を効果的に設計し運営できる
自立した学習者と
なることである
ースがどのように用いられるかで左右されることになる。
本レポートで取り上げた学校で見られるように,テクノロジーは,新しい学びのパートナーシップを力強く支
援できる。
例えば,Park Manor校は,その教育方法(学)の基底として,学校を繁栄させていくことと関わって,学び
のパートナーシップを加速化していくために,明らかにテクノロジーを用いている。これは,必ずしもハイテク
の利用と関わるものではない。生徒のデータを目にするように職員室の壁に貼っていくような活用,また生
徒がどのように成長をしているかを捉えるために,“付箋”を活用することは,その学びの姿を見やすくしていく
ための,すばらしく単純で効果的な方法である64。他の学校は,テクノロジーをより直接的に用いている。
デンマークのHellerup 校は,生徒の活動の記録を集め,その軌跡を追うために電子ポートフォリオを用い
ている。生徒と学校で一緒に活動している教師全員は,学業に関する情報とそれ以外の情報の両方を取り
扱う,ポートフォリオを用いて,生徒の進捗について情報を提供している。生徒の活動はこの中に集められて
いる。
しかしより重要なのは,ある生徒にとって最もよく機能する学習戦略の説明を含む,このシステム(制度や
組織体制)を通じて,教師が,個々の生徒に対して多次元的な見方をしていくことに貢献しそれを発展させて
いることである。この情報は,はじめてその生徒に会う教師が生徒のニーズや関心を理解するのに必要な時
間を手短にできるように,教師によって評価され,さらに開発されていくことを可能にしている。生徒も自分自
身の記述に加わり,自分の学習の強い点や伸ばしていきたい領域を振りかえるために,自分のポートフォリオ
を同様に評価できる。この学校で我々が話を聞いた教師のMetteは,
「私たちは子どもについて,あらゆる角
度から見る必要がある」とその合理性を説明していた。
64 Park Manor校の教師たちがこのシステムをどう取り入れていったかは下記にて。
Fullan, 2014, Motion Leadership Film Series www.michaelfullan.ca/ontario-park-manor/
44
豊かな鉱脈
テクノロジーが新しい学びのパートナーシップをどのように支援できるか,そのもう1つの事例は,生徒の実
際の活動,学びの進捗,その継続的な関与と関わって,生徒の向上心や学びのゴールを把握するデジタル・
ツールの利用例である。電子ポートフォリオを向上心とその関与と結びつけると,生徒,教師,保護者,他の
学びのパートナーにより効果的なフィードバック情報を提供でき,生徒の学びの進捗をよりはっきりと見せる
ことができる。
このタイプのデジタル・ツールの数少ない例の1つとして,NPOのThe Quaglia Institute for Student
Aspirationsによって開発された,
「私の向上心アクションプラン(My Aspiration Action Plan[MAAP]
)
」
がある。この道具は,生徒が,自分のゴールに対する進捗を追え,紙やビデオや制作物といった実際に学習
活動で作成したものを共有することと関わって,自分自身の学びのゴールを定義するオンライン・プラットフ
ォームを提供している。このシステム(制度や組織体制)は,教師や学びのパートナーが,アクセスし,継続的
に生徒の学びをモニターし支援する,学びの過程を開くものである。これは,教師自身がすべての生徒をより
よく知ることを助け,これを通じて,生徒の学びの能力形成を支援する。
この行為すべて(そして苦役)は,学ばれていることを評価する方法について,主要な問いを掲げることに
なる。つまり伝統的なテストの基本的な弱点をさらすことや,新しい評価情報の収集について人を悩ませる質
問を課すことなどである。これが問題として投じられるとき,新しい時代に何が学ばれ何が測られるのか,そし
てこの諸問題を語ることがどのような反響を引き起こし,新しい教育方法(学)をどのようによりうまく定義
することができるか,それらに焦点化する新しい機会を作ることになる。今,我々は,学びのパートナーシップ,
深い学びを有し,等しくデジタル革新を進めてきた。さて,我々は,この寄せ集められた機会をどのように評価
していくのか?
第 4 章 新しい教育方法(学)─ デジタル・ツールとリソース
45
5 効果的,および非効果的な
新しい教育方法(学)の測定
前章で,我々は,生徒と教師が新しい学びからくるその活力とやる気を解放していくための,新しい教育方
法(学)の核となる潜在力(新しい学びのパートナーシップ,深い学びの課題,デジタル・ツールとリソースへ
の自由自在なアクセス)の話をしてきた。ここでは,それらの構成要素すべてが合わさったとき,この時代によ
りふさわしい深い学びに至る教育の新しいモデルを形作っていくことについて考えていく。しかし,その絵の
重要な部分について,まだ説明されていないものがある。それは,この教育方法(学)がその学びのゴールに
至ったことをどのように我々は知りうるのか? 新しい教育方法(学)の効果的なバージョンの良し悪しをど
のように評価するのか? ということである。この章では,新しい教育方法(学)の効果的なヴァージョンの
良し悪しを測る初期モデルを提示する。
現在の風景
教師および管理職(スクールリーダー)への新しい教育方法(学)に関する我々のインタビューの中で,生
徒の学びの成果や教師の(授業内容の)品質,そして学校のパフォーマンスを測るには,現在のシステム(制
度や組織体制)ではその弱さがあることが語られていた。我々が話してきた多くの教育者の間で,アセスメン
ト(評価情報の収集)の取り組みとシステム(制度や組織体制)は変わらなければならないと全員が述べて
いた。そして,教師たちは,新しい教育方法(学)が促進する深い学びの種類が伝統的で標準化された試験
で評価されることはできないことを述べていた。
65
私はアセスメントも変わらなければならないと考えています。今のアセスメントは,生徒た
ちがインターネット上でも見つけられる知識に対してのものです。何を記憶できるか,ではな
く,これからは生徒たちが見せてくれるものの質を評価すべきだと思うのです。問題をどのよ
うに解決し,物事を作り出し,協働できるか? Dianne Fitzpatrick,
インストラクショナル・テクノロジーのクロスカリキュラム長,Central Peel 校,カナダ 65
65 Central Peel校の旅路は右記参照。Fullan 2014, Motion Leadership Film Series, www.michaelfullan.ca/ontario-central-peel/
46
豊かな鉱脈
我々が観察した学校やシステム(制度や組織体制)について,多くの場合,説明責任の目的のために利用
できる生徒の学びの成果測定は,教科内容の習得を測ることのみであった。
古い教育方法(学)の中では,内容の習得のみを測っています。我々が内容の習得のみを
測りつづける限り,生徒はその学びの姿勢のままいることになります。しかし生徒たちはその
内容を自由に広げられるべきだし,広げるための新しい方法を見いだすよう促されるべきなの
です。
Erika Twani, CEO, Learning 1 to 1 財団
現在のアセスメントの風景(全体像)は,次の図に示されている。このように,各円の大きさが既存のアセ
スメントの利用可能性を表している。
新しい教育方法(学)は,内容の習得から深い学びの成果への生徒の関与まで,多数の表に現れてくるこ
とにおいて,その成果の改善を目指している。我々は,共通かつ統合された測定のシステム(制度や組織体
制)の中で,このような要素のすべてを測ることができる必要がある。我々は,このような結合された測り方
によって,Michael Barberがしばしば言及している伝統的な学びと深い学びの誤った二律背反が乗り越え
られるのではないかと考えている。我々は,Guy Claxtonが明らかにしている次のような立場に全面的に賛成
している。
図9 生徒の評価情報の利用可能性
測定の
道具が多い
カリキュラムの内容
Content
生徒の関与
測定の道具が
ほとんどない
深い学び
第 5 章 効果的,および非効果的な新しい教育方法(学)の測定
47
……世界的な傾向として,教育の基本的な目的は有益で,応用可能で,文化的にも適切な「特
性を強めていくこと(character strength)
」や「思考習慣(habits of mind)
」を育ててい
くことだととらえる動きがある。このことは,
「チームで取り組んだり力を合わせる」ことよ
りも,
「モラルの育成」
「学び方を学ぶ」といったことを述べる追加コースよりも,
「通常の授
業」の方法論を再考する傾向を促す。しかし「人格の教育(Character Education)
」や「キ
ー・コンピテンシー(Key Competencies)
」を強調するあまり,難しい教科やプロジェクト
を避けたりしてはいけない。
,むしろこうした困難な課題に立ち向かう大きな理由は、困難に
立ち向かうスキルと自信を築くためだと明確に認識すべきであろう。
Guy Claxton,第 32 回講座 Vernon Wall Lecture,
“School as an Epistemic Apprenticeship: The Case of Building Learning Power
(認識論上の徒弟制度としての学校:学びの力を構築するケース)”
理論的に言えば,新しい教育方法(学)による学びの経験を終える頃に,生徒は教科内容の習得を測る
標準テストをまずさっと済ませる。そして,より重要なこととして,次に幅広く深い学びと関わる能力等が測ら
れることになる。例えば,1)新しい内容を習得する能力を含む学びの過程の習得力,2)よりハイレベルの
価値の創造に必要となる協働スキルとコミュニケーションスキルを用いて,新しい知識を創りだしていく能力
を含む,将来のキー・スキル,3)挑戦することに直面したときの前向き(先取り的)な態度と我慢強さ,4)生
徒の活動の結果の産物が意図された相手や問題に対する効果,である。テクノロジーは,理論的にこのよう
なタイプの測定すべてを支援するように利用される。しかし,このようなことが生じている事例を,まだほとん
ど我々は見ることができないでいる。
新たな成果を新たに測る
前の章の深い学びの課題で見てきたように,深い学びの全体的な新しいアセスメントモデルの代わりに,
多くの教師は,すでにいくつかの将来に役立つキー・スキルや深い学びの成果を評価するための独自な方
法を開発してきた。我々が実際に行われているのを見てきた深い学びの課題は,多くの場合,その学びのゴ
ールや成功基準が,その成功レベルを明確に記したルーブリックを用いて,課題遂行を推進していく中で定
義されていた。このようなルーブリックは,生徒と教師によってしばしば一緒に作られ,あるいは生徒によって
デザインされ,そして教師のガイダンスでレビューされ,洗練化されるにいたっている。Pauline Robertの生
徒がミシガンで実際に行った,水圏「ミッション」プロジェクトでは,各ミッションが,ルーブリックで定義され
た明確な成功基準によってガイドされていた。例えば,ミッション6のルーブリックの1つのセクションは次の
ように記されていた。
48
豊かな鉱脈
表3 生徒の評価情報収集のためのルーブリック(H2O Heroes Mission #6)
改善が必要(0-1)
満足(2-3)
卓越(4-4)
点数
最終的な成果(生産物)
内容
・いくつかの内容は正確でない
・内容のほとんどが正確である
チームはミッションの要件すべ
てに正確に応えている
・ミッションの要件のうち,1
つあるいは2つのみが含まれ
ている
・水が地球の表面下にどのよう
して存在しているか説明でき
る
・水が地球の表面下にどのよう
して存在しているか,視角的
に,また飽和地帯,地下水面
などの言葉を使って,説明で
きる。
・地下水はどのように流れてお
り,それはどのように補給さ
れているか,説明できる
・地 下 水 はど の ように 流 れ て
おり,それはどのように補給
さ れ て い る か ,説 明 で き る
(穴,透過性,帯水層といっ
た言葉を含んで)
・地下水がどのように汚染され
ているか2,3の事例を含め
ている
・地下水がどのように汚染され
ているか,少なくとも4,5
件の事例を含めている
・異 なる国の利用事例を2,3
件挙げている
・地 下水の汚染を少なくし,き
れいにしていく4,5つの方
法を提示できている
・土地の利用が汚染を導くこと
をモニターしているが,固有
な事例は提供できていない
・我々が地下水を大切にするべ
き理由を4つ,5つ明らかに
している
・地 下水の汚染を少なくし,き
れいにしていく2,3の方法
を提示できている
・我々が地下水を大切にするべ
き理由を2つ,3つ明らかに
している
創造性
成果
成果
成果
・予想できるようになった
・いくつか興味い特徴が語られ
ていた
・人の興味や目を引くものが含
まれていた
・たいていの文章は含んでいた
・関 心を引くことがらは含まれ
ていた
・読み手の関心をとらえていた
・興味を引く特徴の記載そこに
ほとんど含まれていなかった
・何枚かの写真やグラフなどが
そこに含まれていた
・読み手に考えさせていた
・読み手の関心をつかめていな
かった
・写真やグラフが含まれていた
第 5 章 効果的,および非効果的な新しい教育方法(学)の測定
49
このように「創造性」のキー・スキルの獲得に関する成功指標に従いながらも,内容知識の正確な利用
がなされているかどうかが,このルーブリックではその最初の評価次元とされている。このアプローチは,深い
学びの課題の固有な文脈に沿いながら,そこに埋め込むアセスメントの枠組みを提供している。
この種のルーブリックベースのアセスメントは,他のものと比べて,生徒が深い学びの課題として作りだす
成果物の品質やその厳格さを分析し,またこれらを生み出す学びの過程を評価する。
教師が果たすべき基本的な役割は,子どもたちが創り出す成果物の中にあります。どのよ
うな種類の成果物を作り出すのか,その質はどうなのか,そして生徒たちが使っているコミュ
ニケーションスキルや,その他様々な側面が,生徒の年齢や学年にふさわしいものになって
いるか,といったことへの目配りです。
Hazel Mason,Peel 学校区教育長,カナダ・オンタリオ
我々がインタビューした他の教師や学校のリーダーも,新しい教育方法(学)の影響を評価する事例やア
プローチを多く説明してくれた。例えば,Rhonda Hergottの生徒は,その全評価プロセスとして,毎週,適切
な数学の概念が習得されているかを確かめる小テストを受けながら,もう一方で,彼らが創り出したジオデシ
ック・ドーム(球面に内接する線を利用した軽量ドーム)が機能的かどうか最終的な評価に評価者として参
加していた。
Kristin Leongのソクラティック・セミナーで,生徒は,互いの貢献を評価する全責任を担っていた。デンマ
ークのMette Hauchの生徒は,職員のメンバーに対して,文学と数学でのその学びをプレゼンテーションし,
生徒同士がさらに思考するために対話の時間を確保していた。ラテンアメリカやアメリカのFontan 校では,
生徒がその学びの進捗を評価し,彼らが学んできたことを生徒自身の生活や文脈とつなげていくために,教
育関係者と協働している。
米カリフォルニア州サンディエゴのLarry Rosenstockの High Tech 高校では,生徒の活動により生み出
された成果物を公的に展示することが,学校の伝統となってきている。彼は次のように述べていた。
「活動を
一般に後悔していかなくてはいけません。それには一般展示が絶対的に重要なのです。一定の基準に基づく
点数による評価は,現実世界ではなされませんから」
。同校には,毎年,
その展示会に何千という人が集まって
くる66。
このような新しい教育方法(学)で用いられているアセスメントの事例は,内容知識の習得を単に取り上
げているだけでなく,学校を越えた生活に生徒を準備していくことも取り扱っている。
しかしながら,生徒の活動へのアセスメントに対する,このように埋め込まれた,また真実味のあるアプロ
ーチは,教師の側のアセスメント能力に関して高いレベルを必要とすることになる。このような能力は,とく
に多くの教師が,カリキュラム作成者や教科書提供者など外側から開発されたアセスメントに対して,信頼を
持つように養成されてきた場合,その開発は容易ではない。深い学びへのアセスメントアプローチは,異なる
66“深い学びへの評価”として,High Tech 高校の生徒たちは次のような実績を残している。これまでに64タイトルの書籍を刊行。取得した特許権は2つ。2012年
のクリスマスシーズンに,アマゾンで最もよく売れたおもちゃのクリエイターは同校の卒業生だった。
50
豊かな鉱脈
課題のタイプ,教科,学校,そしてシステム(制度や組織体制)を横断して,比較できるようになる必要があ
る。
67
変容的なアセスメントの開発者にとって,最も困難な課題の 1 つは,新しく,厳格で,包括
的,かつ公的に受け入れられるような,生徒の活動を点数化する手段をデザインすることで
ある 67。
このような深い学びを新たにアセスメントするに値する比較力が欠如している場合,このような尺度は,学
校またシステム(制度や組織体制)のリーダーから求められる説明責任を果たす尺度として,個々のプロジェ
クトや教室を越えて用いられることがほとんどないことを意味している。いくつかの国では,学校自体が生徒
の関与や学校の環境を測り始めている。そしてMy Voice システムやThe Tripod 調査といった,今利用でき
る妥当な道具やそれを運用するシステム(制度や組織体制)を備えてきている。しかしこのような測定は,教
育システム全体で一貫して用いられてこなかった。またそれは,政策立案者によって用いられる説明責任の尺
度では,まだない状況にある。
このような尺度は,教育実践や生徒の関与,そして深い学びの結果を測定する,全体的な測定尺度システ
ムに,一貫して統合されてこなかった68。しかしアセスメントをより内在的に形成的に行うことは,その出発点
になる。つまりそのことは,パフォーマンスが学校外の文脈ではどのようであるかを測るといった,より多くの
方法を用いることで,そのフィードバックを組み込み,生徒の能力を伸ばしていくことを可能とするからであ
る。
我々は,
深い学びの結果と,
それを支援する新しい教育方法(学)と学習環境の両方を測る尺度を開発す
る必要がある。新しい尺度を用いるシステム全体は,学びの過程や環境の様々な要素を測ることと関わるこ
とになるだろう。例えば,役割と関係,学校の環境条件,学習課題の設計,形成的なフィードバックの頻度と
その検知,教師と生徒の関与,教師の専門的な学び,固有な学習の目的に向けた生徒の進捗の早さ,スクー
ル・リーダーシップ,システムのリソース(資源)と政策上の配置,そして究極的には,学習過程自体の生徒
の学び,などである。
インプットとアウトプット,そしてその成果を測るということが,深い学びを支援できる尺度の全体的で連携
したシステムの部分となるべきである。その結果,あるシステム(制度や組織体制)また政策の展望から,こ
のような新しい尺度のシステムは,非常に重要なものとされることになる。
67 Redecker and Oystein Johannessen 2013, Ripley 2009
68 Conley and Darling-Hammond 2013
第 5 章 効果的,および非効果的な新しい教育方法(学)の測定
51
効果的な新しい教育方法と非効果的なもの
このような新しい尺度を用いるシステムは,新しい教育方法(学)の異なるヴァリエーションやその遂行の
効果を考えるうえで,その機会を与えるきっかけとなる。我々が見出した新しい教育方法(学)について,そこ
で現れてくる自発的な事例の多くによって,我々が印象づけられるにしたがって,そこに含まれるべきことにつ
いて多くのあいまいさが見えてきている ─ 本レポートはまさにその点を明らかにしてきたわけだが。遂行上
の卓越性により目を向け,そこでの達成感や失敗に容易に夢中になってしまうことがある。
しかし,我々は,このレポートの中で,進められてきた新しい教育方法(学)の分析に基づいて,実践の中
で新しい教育方法(学)の効果を分析する1つの初期モデルの次元を明らかにしてきた。そこで,我々は,新し
い教育方法(学)が現在の実践のモデルを形作ってきたことを認識しながら,
その効果を連続的に見る視点
として,次のような単位次元を提示する。
図10 新しい教育方法の効果の関連
発展段階
初期段階
教育方法
教師が統制
パートナーシップ
学習者の自律性
内容の習得
新しい知識の創造
学び方の習得
内容の伝達
協働
学びの過程の視覚化支援
内容の消費
知識創造の道具
世界で本当のことをする
手段学びの過程の視覚化
課題と評価
教師による
テクノロジー利用
生徒による
テクノロジー利用
この連続的に見る視点は,その中間段階が発展上重要なステージであるけれども,より効果的な新しい
教育方法(学)が,右側のより高次なステージであるとして特徴づけられることを示している。ここで,教師は
生徒と学びのパートナーになり,生徒の学びの道(learning paths)に沿って,さらにその背中を押すことを
ダイナミックに行い,自分の学びのゴールをより明確に考えることを支援し,それへと至るにはどのようにうま
く振る舞うべきかを支援している。これは学習者の自律性を導くものであるが,その道に沿って進む上で,教
52
豊かな鉱脈
師は必要なパートナーとして位置付けられている。学習課題の項目は,内容の習得から,現実世界に影響を
与える方法で新しい知識を創りだしそれを運用することへの移行を示している。技術(テクノロジー)の項目
は,教師が生徒の学びの進捗を見ることを支援するものとして用いられることと,そして,技術(テクノロジ
ー)が,目的を持って知識を創造しそれを運用する経験を可能にするものとして用いられることを示している。
まとめるなら,次の表がこれらを考える視点を提供している。
表4 効果的な教育方法(学)と非効果的な教育方法(学)
効果的な新しい教育方法(学)
非効果的な教育方法(学)
・生徒と教師が,協働学習者としての関係を構築してい
る
・生徒の自律性に任せ切っている
・その課題は,ある程度長い時間を要する深い学びの
課題;クロスカリキュラム;複合的で相互依存的な課
題,である
・その課題は,1つの単元や1つの授業内での課題とい
った短期的なものであり,学際的なものでもない
・深い学びの課題が明確な学習ゴールを持ち,成功を測
る尺度も明確である
・成功を測る明確な学習ゴールや方法がない
・学びの過程をコントロールする生徒の力を次第に形成
しながら,彼らのレベルに応じてそのコントロールや
選択権を与えている
・生徒が自分の学びを効果的に組み立てていくスキルを
獲得する前に,あまりにも多くのコントロール権や選
択権を生徒に与えすぎている
・継続的で効果的なフィードバックを行っている;学び
のゴールに向けた形成的な評価
・非効果的なフィードバックや課題の終わりに総括的な
評価だけがされている
・深い学びの課題への取り組みを支援し,生徒がその学
習過程を習得するのを助けるための,デジタル・ツー
ルとリソースを明らかにし,それを活用している。教
えることと学ぶことの戦略を改善していくために進捗
状況を分析している
・内容で伝達や進捗の軌跡を追うためにのみデジタル・
ツールやリソースが用いられている。教えることと学
ぶことの戦略を改善していくためそれらが用いられて
はいない
表の中で効果的として示されていることは,新しい教育方法(学)が,カリキュラム上の学習ゴールの習得
と同様に,次のことを支援しているためである。つまり自分の学習ゴールやその向上心を効果的にデザイン
し,探究し,達成に至ることができる独立した自律的な学習者として,時間を越えて生徒が成長していくこと
を支援することである。
しかし,
そのことは自然とできるわけではない。教師にとっての究極の目的は,John Hattieが述べていたよ
69
うに,
「生徒が自分自身の教師になるように支援することである」
。新しい教育方法(学)を実践しようとして
いる学校で,我々は,通常の実践の部分として現れてきているその様子を見ている。
イングランドのStaltash.net校のDan Buckley副校長は,このような事例の1つを説明していた。例えば,
Staltash.netコミュニティ・スクールは,数年前から生徒主導の評価システムを実践してきた。毎年,生徒は,
自分のアセスメントの評点を集め,友達や教師にインタビューを行い,自分の活動や進捗を振り返ることを
通じて,自分のデータを集めるために,2日間を与えられていた。その後,生徒は自分の進捗の様子を保護者
や教師を含む人々に,彼らが得意なこと,
その年の彼らの学びのゴールや期待は何であったか,この目的にど
69 Hattie 2012
第 5 章 効果的,および非効果的な新しい教育方法(学)の測定
53
のように至ったのかを説明しながら,また次に何をなすべきかその概要を述べながら,発表を行った。その結
果は,Danが指摘していたように,
「私や私が知っていた教師がかつてそうであったことよりも、生徒は自分自
身に向けて高い期待を設定している」
。新しい教育方法(学)を中心とした,このような実践は,学習のため
により高い期待を引き起こしている。その高い期待が,学びのパートナーシップを通じて開発された,より高
いレベルの自尊感情によって支持されるとき,必然的により良い成功を生む学びとなることが,10年以上前
にSir Michael Barberによって提案されていた。
70
図11 期待と自尊感情70
自尊感情
期待
低い
高い
高い
自尊感情
成功
低い
失敗
自己満足
まとめるなら,新しい教育方法(学)は,このような成果を導く実践をすることと同時に,新しい学びの成
果を評価する新しい道具を開発しなければならない。現今の授業実践から分離して21世紀の学びのスキル
といわれるものを評価する試みは,限られたものである。アセスメントは,我々がこのレポートで提案してきた
新しい教育方法(学)の最も弱い部分である。我々はこの点がさらに改善されることを期待し,次の3つのこ
とがこの活動にとって中心となることを推薦したい。
1つ目は深い学びの成果を測る新しいアセスメント,2つ目は,このような新しい成果を最もうまく生み出す
教育方法(学)のパートナーシップにおける特性を明らかにし,そのアセスメントを行うこと,そして3つ目は,
どのような政策や戦略が,新しい教育方法(学)におけるパートナーシップを問いとして生み出していく上で
必要となるか,である。我々自身は,新しい教育方法(学)を実践している1000校※の学校で,深い学びを固
有にはかる試みを実際に調査し,開発し,そして応用しようとしている*。概して,2,
3の新しい方向性が牽引
となりはじめるときは,新しい尺度を用いたシステム(制度や組織体制)全体が,たとえ不十分であっても,こ
の活動を知らせていく必要がある。
根底にあるのは,新しいアセスメントの諸問題が開発のまさにまだ最初のステージにあり,近い未来によ
り主要なチャレンジ課題となるという状況である。この意味で,評価の仕方を明確にすることよりも新しい教
育方法(学)の事例を生み出すことがより容易となっている。この2つのこと ─ 教育方法(学)的革新と学
びのアセスメント ─ が,密接な関係を伴って進む必要がある。このように,次の局面は,深い学びの成果
とそれを生み出す教育方法(学)の評価尺度を明らかにし,また開発することによって特徴づけられることに
なるだろう。
70 Barber 1997
※ www.newpedagogies.org
54
豊かな鉱脈
6 豊かな未来
多くの国で若者の失業率が14%から高いところでは50%を超え,貧富の格差が広がっている今,豊かな
未来をじっくり考えるなど,ほとんど不条理に思えるかもしれない。しかし,そんな今だからこそ,考えるべき
なのだ。本レポートで示してきたように,新しい学びが,世界が抱える問題の解決策を提示しようとしているの
だから。
我々の教育システム(制度や組織体制)のモデルと実践は,世界中で変化しつつある。これらの変化がど
のくらいの速度で起こるのか,その変化が生徒と社会と社会の繁栄により適した学びの成果を生み出す本
質的な改善につながるのか,その答えは今はまだわからない。このレポートは,教育の新しいヴィジョンやモ
デルを明確にしようとしてきた。それは,新しいモデルの核となる要素がどのようなものであるか,それらはシ
ステム(制度や組織体制)全体を通じてどのように効果的に遂行されるのかについて,我々は洞察を加えて
きた。我々がここで提示した初期の頃の姿(証拠)は,それ自体このヴィジョンの遂行に関与してきた生徒,
教師,すべての人々が,それへ強い関心を明白に示してきたものである。その中に深い学びを見出す新しい教
育方法(学)がもつ,そのとてつもなく大きな潜在力が示されている。
教師と生徒の間の新しい学びのパートナーシップは,効果的な新しい教育方法(学)の本質的な基底で
ある。このパートナーシップは,デジタル・アクセスが内容知識についてより広くより可変的な情報源へ扉を
開くにつれて自然に現れ始めている。学びに飽きている生徒や疎んじられている教師は未経験の野外を求め
ているので,新しい学びは自然と魅力的に感じられている。生徒は,その学びを自分の関心や向上心につな
げ,より能動的な観察者になり,学びのゴールを定義することに参加者しはじめ,自分や友達の学びや発展
をガイドしている。また深い学びの課題は,新しい学びのパートナーシップの基底を形成している。その課題
は生徒に知識構築へ挑戦させ,そのアイディアを現実世界の中で用いるように促す。その過程の中で,彼ら
はキー・スキルや「知的活動」を行う経験を伸ばし,そのような方法の中で,力強さや粘り強さや繁栄した未
来への道を歩む前向きな(先取りする)態度を発展させていくのである。
このような教育方法(学)を,測定可能な影響力を持ち,より持続的で幅広い実践に拡張するために,
我々は,これが実践の中で,また教師や生徒,管理職,政策作成者の役割にどのような意味を持つのか,そ
の洞察をさらに発展させ明確にしていくために一緒に取り組まなければならない。様々な構成要素が現状と
合わなくなっていることが深刻になるとき,またおそらく最初独立に行っているが,次第に収束がはじまると
き,劇的な展開が生まれる。このように我々は改革の次のステージに着手するまさにその場にたっている。
1800年代に公立学校が誕生して以来,我々が見てきた急進的と思われることへ挑む,まさにその瞬間であ
る。特別な言葉で言えば,未来の市民は,複合的な世界で生産的に機能する人,知っていて行為できる人とし
て定義できる。そのような1つの学びの改革の最初のステージに,我々は立っているのである。
第 6 章 豊かな未来
55
そのために人々は自分が今すべきことを明確にして進むことが求められる。
ここで我々は各役割についてい
くつか出発点となるアクション・リストを提示する。
生徒
・友達や教師,コミュニティの間で,学習のパートナーやメンターとなる人を見つける。そしてその人々があな
たの向上心や興味を知っているかを確かめる。
・自分の学びの進捗を振り返り,信頼できる学びのパートナーにフィードバック情報を求め,また彼らにもフ
ィードバックを与える。あなたの友達と教え合い,学び合うことに関わる。
・自分の学びを自分の向上心や興味とつなげ,自身の学びのゴールを明確にするように努め,このゴールの
達成へ挑む。
・深い学びの追求において,教師を後押しし,一緒に取り組んでいる学びのパートナーについていく。
教師
・生徒から学び,生徒ともに学ぶ,パートナー・アプローチを実践し始める。
・学校や幅広くコミュニティで起こっている深い学びの課題を明らかにする。
・知識構築,問題解決,現実世界でのその遂行の機会となるように,またその課題が生徒の向上心と結び
つくように,生徒のために,また生徒とともに学習課題を洗練させる。
・生徒の学びに関わりそれを発展させるために何が機能するか,他の教師や関係者と協働する。
・深い学びと結びつく新しい教育方法(学)の方向に,同僚や管理職の関心も向けさせてく。
スクールリーダー
(学校管理職)
・教師から学び,教師ともに学ぶ,パートナー・アプローチを実践し始める
・自分の学校における深い学びの課題例を明らかにする;この課題に他の教師たちと生徒はどのように関
与し,その結果はどうであるのかに焦点化しながら,情報の共有と分析を行う。
・生徒,教師,保護者,他の学校の管理職と,深い学びのゴールの達成に向けて定義,開発,遂行に焦点化
しながら,協働していく継続的リズムを作り上げていく
・深い学びのゴールや新しい教育方法(学)の遂行を進めている生徒,教師,学校の成功を評価できる新し
い方法を見出し,発展させる。
・新しい教育方法(学)や深い学びを,システム(制度や組織体制)的な広がりを持つ取組に向けていくた
めに,他の学校や地区や地域とパートナーになる。
56
豊かな鉱脈
政策立案者
・すべての政策や優先事項の中心に,教師の教育方法(学)の力の形成を据える。
・深い学びのゴールや新しい教育方法(学)の遂行を進めている生徒,教師,学校の成功を評価できる新し
い方法を見出し,発展させる;この新しい測定のシステム(制度や組織体制)はあらゆるレベルで学びの
進捗を第一に支援するために用いられる。
・深い学びと新しい教育方法(学)を牽引するものとして,全体的なデジタル・アクセス・プログラムを開発
し,支援する。
・深い学びと結びつく新しい教育方法(学)と関わる力の形成のために,消極的な説明責任は少なくしてい
く。
上記のような出発点は,継続的な調査や遂行の中から得られたものから追跡調査されるべきである。我々
は,新しい学びのパートナーシップが,あらゆるレベルで,それが起こるのを待ちわびている潜在的で本来的
な変化をどのように促すことができるのか,それを考え研究しなければならない。我々は,そのねらいに向けて
異なる方向付けを持つ教育システム(制度や組織体制)の成功事例を定義し測定する全体的な新しい方法
を開発しなければならない。このような測定は,深い学びのキーとなる要素を測ることへアセスメント(評価
情報の収集)の関心を移させることになる。我々がすでに説明してきた,学習過程の習得,知識構築,前向き
(先取りする)に「行為する」態度の測定に,である。我々は,生徒と言うよりもシステム(制度や組織体制)に
役立つ試験に向けての準備,そして認可されたカリキュラムをカバーすることのみに関心を向ける学びのとら
え方を立ち止まって考えてみなければならない。
また我々の教育システム(制度や組織体制)の政策や経済性は,再配置される必要がある。効果的で深
い学びの成果へ導く新しい教育方法(学)を実践する,教師の教育方法(学)の力を形作っていくには,教
育政策において新しい焦点化が求められる。この力は,新しいモデルの効果を決める要(かなめ)である。つ
まり,我々が見てきたように,物理的な制約は,学校で自由自在に使えるテクノロジーの利用を遅滞させる主
な原因ではもはやなくなってきている。むしろ浸透しつつあるデジタル・ツールやリソースは,現在の基金の
範囲でまかなえるようになってきている。そのため,これは,経済性と言うよりも政策的な意思の問題である
と言える。
歴史は,我々がイメージできること,我々が実現できることを,我々に示している。このレポートで説明され
たこの種の学びのモデルを効果的に持続的に遂行するために,また,一緒に学ぶために,我々は全システム
(制度や組織体制)を動かす持続的な協働の努力が必要となる。3つの力―新しい教育方法(学)
,新しい
変化を導くリーダーシップ,新しいシステム(制度や組織体制)の経済性―は,幅広く社会,経済,技術,組織
の文脈で,その変容を起こす最も適切な条件を提示する方法で集約しつつある。時代はまさに,この機会を
利用するところへ到ってきている。システム(制度や組織体制)全体の変化が以前には決して達成できなか
ったことにである。
最終的な目標は,デジタル・アクセスが開く驚くべき情報,アイディア,創造,つながりの世界を真に作って
第 6 章 豊かな未来
57
いく,その能力や態度や経験を持つ独立した学習者である。若者や成人は,学び,創り出す自然の本能を同
様に保持している。これこそが,新しい教育方法(学)が解き放つことができることである。しかし,この解き
放ちは,無構造のままであるべきではないことはすでに述べたとおりである。我々の学校や教育方法(学)
は,すべての生徒が独立した学習者になれ,世界で目的を持った行為ができ,学びの基礎だけでなく,自分自
身や社会の価値ある未来を創造する実践的な経験や技術的なスキルも持つ,そのようになることを刺激し,
それを確保する必要がある。
新しい教育方法(学)のモデルは,学ぶものが多くあるとき,学校で今信じることができないほどの無駄と
なってしまっている生徒と教師の退屈さや疎外感をなくすことを約束するものである。次の10年は,150年前
の工場モデルの学校誕生以来,最も大きな変容のときとなるだろう。生徒と教師が学びに到ることを待てな
いでいる未来を想像してみよう。彼らはいつも学んでいるので,学校は彼らを実際に放っておきはしないだろ
う。我々は,その方向付けるとなるヴィジョンを見ている。現実の中で,その要素を探している。そして,その可
能性を味わうことができる。その実現を可能とするのは明らかに未来である。そこでは,多くの人の学びの才
能を開くだろう。それが開く価値のある,まさに豊かな鉱脈なのである。
58
豊かな鉱脈
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66
豊かな鉱脈
21世紀型スキルを学ぶための推薦文献
ここでは,本書で取り上げている「新しい教育方法(学)」および「深い学び」に関わる21世紀型スキルについて,本
書の中で引用参考されている文献以外に,これまでの経過や関連研究成果などを広く学んでいきたい読者に向け
て,2014年11月現在で重要と考えられる10の文献を紹介します。
日本語で読めるもの
1. 勝野頼彦 著(2013)
. 『教育課程の編成に関する基礎研究 報告書5.社会の変化に対応する資質や能
力を育成する教育課程編成の基本原理』
http://www.nier.go.jp/kaihatsu/pdf/Houkokusho-5.pdf
コンピテンシーに基づく教育改革の世界的潮流を調べ,21世紀型スキルに関わっても,
このような様々な動きの
関連の中でその位置づけを述べている。
2. グリフィン,パトリック〈Griffin, Patrick〉/マクゴー,バリー〈Mcgaw, Barry〉/ケア,エスター〈Care,
Esther〉編.
『21世紀型スキル学びと評価の新たなかたち』
三宅 なほみ【監訳】 益川 弘如 望月 俊男【編訳】
(2014)
. 京都:北大路書房.
http://atc21s.org/ 文献9の最初の報告(The first volume, 2012)の部分翻訳。21世紀型スキルの考え方やその評価をどのよう
に考えていくか,
などを学ぶことができる。
3. 「21st Century Learning Design(21世紀の学習活動をデザインするための学習活動ルーブリック、
略称 21CLD)」の日本語版
http://www.microsoft.com/ja-jp/education/21cld.aspx
本報告の中でも取り上げられていた,ITLリサーチの成果を翻訳したもの。学習活動をデザインするためのルーブ
リックのイメージを持つことができる。
英語で読めるもの
4. Trilling, B.& Fadel, C.(2009). 21st Century Skills : Learning for Life in Our Times. San
Francisco: Jossey-Bass Inc Pub.
http://www.p21.org/
米国で2002年ころより検討が始まった21st Century Skillsという考え方(フレームワーク),
またPartnership
for 21st Century Skillsによる研究成果について理解できる。
21 世紀型スキルを学ぶための推薦文献
67
5. Bellanca,J. and Brandt,R.(EDT).(2010). 21st Century Skills: Rethinking How Students Learn
(Leading Edge) . Indiana :Solution Tree Press.
The Partnership for 21st Century Skills の会長であったKen Kayの序文,
そして『知的な未来をつくる「五つ
の心」』で知られるHoward Gardnerをはじめとする20人の著名な研究者が,21世紀の世界で何が求められるか
をつづった論文集。広く様々な考え方を学べる。
6. Greenstein L. (2012). Assessing 21st Century Skills. A Guide to Evaluating Mastery and
Authentic Learning. California: Corwin.
21世紀型スキルとして語られている能力をどのように評価していくか,
その考え方と実際を示している。ルーブリ
ックの指標の作成など,評価についてのアイディアを得ることができる。
7. Mayrath, M.C., Clarke-Midura, J., Robinson, D.H., and Schraw.G.(2012). Technology-based
Assessments for 21st Century Skills. Theoretical and Practical Implications from Modern
Research. Charlotte,NC :Information age publishing.
テクノロジーを用いた評価の研究の経過や,
テクノロジーを用いて行われる21世紀型スキルの評価方法やある
アプリケーションを用いた実際の評価事例などについて学ぶことができる。
8. PISA 2015 DRAFT COLLABORATIVE PROBLEM SOLVING FRAMEWORK. 2013.3
http://www.oecd.org/callsfortenders/Annex%20ID_PISA%202015%20Collaborative%20Problem%20
Solving%20Framework%20.pdf
21世紀型スキルで問われている,協働的問題解決,
テクノロジーを用いた評価方法についての考え方を理解す
ることができる。
9. Griffin, P.& Care, E. (EDT).(2014). Assessment and Teaching of 21st Century Skills :
Methods and Approach (Educational Assessment in an Information Age) . Netherlands:
Springer Verlag.
文献2の後継として(The second volume of papers from the ATC21STM project)出版されたもの。今後,
世界的に取り組むべき課題などについても記載されている。文献2を読んでから,本原典を読むとより深く,最近
までの動向を学ぶことができる。
10.Stanley, T.(2014).Performance-Based Assessment for 21st Century Skills. Waco, Texas.
Prufrock Press.
21世紀型スキルをパフォーマンス評価に焦点化して,
どのように実際に評価するかを述べたもの。広くパフォー
マンス評価の考え方を学びながら,21世紀型スキルの評価を考えることができる。
68
豊かな鉱脈
著者紹介
Michael Fullan
マイケル・フーラン
カナダのトロント大学の名誉教授。
カナダだけでなく,州や国レベルの教育システム全体の改革に関わって,様々な国々で研究とその協力に努め,多く
の国や大学から名誉博士号なども授与されている。著作物としては、本書でもその引用が出てくる『Stratosphere:
Integrating technology, pedagogy, and change knowledge』 (Pearson, 2012), 『Professional Capital:
Transforming Teaching in Every School』(Andy Hargreavesとの共著,Teachers College Press,2013),
『Motion Leadership in Action』(Corwin, 2013), 『The Principal: Three Keys for Maximizing Impact』
(Jossey-Bass, 2014)ほか多数。
Maria Langworthy
マリア・ラングワーシー
Langworthy Research LLC代表、Michael Fullan氏の研究グループFullan Enterprisesのチーフリサーチオフィサー。
ボストン大学にて政策心理学博士号、国際関係論博士号を取得。研究の主な領域は新しい教育の形と、どのよう
にして研究や測定がよい変化を起こす手助けになるのかで、これまでマイクロソフト社が行う40カ国を超える国にお
ける学校教育調査の責任者(ITL Research)、Pearson社の北米その他地域における教員研修開発など,多彩な
国際プロジェクトに従事。最近の著作物としては,本書でもその引用が出てくるMichael Fullanとの共著『Towards
a New End: New Pedagogies for Deep Learning』 (CI, 2013)ほか多数。
訳者紹介
Wakio Oyanagi
小柳和喜雄
奈良教育大学大学院教育学研究科教授。
広島大学大学院教育学研究科で教育学の博士号を取得.主な研究関心は,教育の情報化と教師教育の関係を考
えることであり,日本教育工学会(理事),日本教育方法学会(理事),日本教師教育学会(理事),日本教育メディ
ア学会(理事)を務めている。最近の出版物としては,
『教師の情報活用能力育成政策に関する研究』
(風間書房,
2010),
『教師を目指す人のための教育方法・技術論』
(学芸図書, 2012),
『教育工学選書5 教育工学における
教育実践研究』
(ミネルヴァ書房, 2012),
『新教師論 - 学校の現代的課題に挑む教師力とは何か』
(ミネルヴァ書
房, 2014)などがある。
企画編集・協力
日本マイクロソフト 植村 理
21世紀の教育を考えるインテル・ピアソン・MS共同プロジェクト:21CSアライアンス http://www.microsoft.com/ja-jp/education/21cld_sa.aspx
豊かな鉱脈 ーー新しい教育方法(学)は、どのように深い学びを見いだせるか?
2014年12月6日 初版 第一刷発行
著 者
マイケル・フーラン、
マリア・ラングワーシー
訳 者
小柳和喜雄
企画・発行協力
日本マイクロソフト株式会社
発行人
アラン・マルコム
発行所
ピアソン・ジャパン株式会社
〒106-6021 東京都港区六本木1-6-1 泉ガーデンタワー21階
TEL: 03-5549-8625(販売部)
http://www.pearson.co.jp
装丁・デザイン
桜田玲子
組 版
株式会社メディアアート
制 作
Integra Software Services
▶本書の内容を無断で複写・複製することを禁じます。
Printed in Japan