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生体分子有機化学
2014年11月27日分
第8回:生体内の化学反応
今回の目標
-
代謝のイメージをつかむ。!
-
生体内反応の形式を知る
(酵素反応の役割を再認識)!
代謝を円滑に進めるための分子の存在を知る。!
(高エネルギー化合物、ビタミンなど。)
-
担当:岸村 顕広
生体内の化学反応
生体内の化学反応は酵素が司るが、!
どんな場面で活躍しているか?
- シグナル伝達(生体内分子の反応)!
代謝
栄養分の吸収と生体分子の化学合成"
- 栄養分の吸収と生体分子の化学合成
(生体外部から得た物質に基づく反応)
物質を分解してエネルギーを取り出す。"
異化 ··· 物質を分解してエネルギーを取り出す。
色々な物質を、共通の単純な化合物へと分解する。
同化 ··· 物質を分解して得られた単純な構成単位から生体
分子を合成する。
生き物の種類によらず、原理はほぼ共通している!!
化学合成
光エネルギー
化学!
エネルギー
光合成
代謝により
エネルギー
獲得
A + B + エネルギー! C
仕事
熱
消化→その後は···?
運動・機械的な仕事
運動・機械的な仕事
体温の維持・周囲への損失
典型的な細胞の代謝マップ
糖質
補酵素
その他の糖質
アミノ酸
核酸
脂質・コレス
テロール
アミノ酸
ヘム類
一つ一つの反応を酵素が担っている。!
複雑だが、いくつもの共通する分子を
活用する、精巧な反応系。!
代謝異常→病気の原因に。!
例) 糖尿病
異化代謝の流れ(略)
食物
消化: 胃、小腸などで小さな
分子へ分解
第9,10回
解糖
アセチルCoAの産生: 糖、ア
ミノ酸、脂質などが共通し
た小分子へと分解。
クエン酸サイクル: アセチル
CoAが酸化され、還元型補
に伝達されたエネルギーにも
とづき、ATPが合成される。
還元型補酵素??!
第11-13回
酵素が生産される。
酸化的リン酸化: 還元型補酵素
アセチルCoA?!
クエン酸
サイクル
酸化的
リン酸化
ATP???
代謝はどこで行われるか?
消化: 胃、小腸などで小さな
各臓器で分解。
分子へ分解
第14回
吸収された後、血中を回る。
細胞内へ運ばれる。
アセチルCoAの産生: 糖、ア
ミノ酸、脂質などが共通し
た小分子へと分解。
細胞内の特定の場所(オルガネラ)
で起こる。
クエン酸サイクル: アセチル
サイトゾル: 解糖、ペントースリン酸経路など。!
CoAが酸化され、還元型補
ミトコンドリア: クエン酸サイクル、酸化的リン酸
酵素が生産される。
化、アミノ酸分解、脂肪酸酸化など。!
酸化的リン酸化: 還元型補酵素
に伝達されたエネルギーにも
とづき、ATPが合成される。
リソソーム:細胞の成分、摂取した物質の分解。!
核: DNAの複製・転写など。!
葉緑体: 光合成(植物など)。
オルガネラ間でのやりとりも重要:トランスポーターなど。
代謝はどこで行われるか?
種々のオルガネラとその機能
サイトゾル
ミトコンドリア
異化代謝の舞台
Newton別冊『細胞のしくみ ビジュアル図解』より
酵素反応 (再考)
酵素反応の分類(復習)
分類
番号
反応の型
酸化還元酵素 EC 1
転移酵素
EC 2
加水分解酵素 EC 3
リアーゼ
異性化酵素
リガーゼ
酸化還元反応
例
リンゴ酸デヒドロゲナーゼ(脱水素;
クエン酸回路)、ペルオキシダーゼ
一方の基質から他方の基質へと官
ヘキソキナーゼ(リン酸化)、クエ
能基を移動させる反応
ン酸シンターゼ(クエン酸回路)
加水分解反応を触媒。消化やシグ プロテアーゼ、エステラーゼ、
ATPアーゼ
ナル伝達に関与。
EC 4
デカルボキシラーゼ(脱炭酸)、 !フ マ
ラ ー ゼ ( ク エ ン 酸 回 路 ) 、 アル ド
-付加反応により二重結合に置換基 ラーゼ(解糖系)
EC 5
を導入
異性化や分子内での官能基の移動
などの分子内反応を触媒。
EC 6
-脱離反応により二重結合を生成
イソメラーゼ、ムターゼ
ATPなど高エネルギー化合物の加水 DNAリガーゼ、スクシニルCoAシン
分解を伴う結合生成反応
ターゼ(クエン酸回路)
(1) 転移反応!
代謝を考える上
での分類
(2) 酸化還元反応!
(3) 脱離/異性化/分子内転位!
(4) C-C結合の生成と切断
基本反応機構(有機化学のおさらい)
共有結合の開裂
C−H結合の場合
ホモ開裂
ホモ開裂
ラジカル反応(珍しい)
→1電子による酸化・還元など
ヘテロ開裂
極性反応
→2電子(電子対)の移動による反応
反応性が高いので、特殊なケースで
のみ利用される。(NAD+が関与する
反応など; 後述)
分子内転位反応などに関与。
生体内の酸と塩基
生体内でよく登場する酸の相対強度
強酸
アミノ酸の側鎖がよく利用される。
生体内でよく登場する塩基の相対強度
強塩基
弱塩基
弱酸
プロトン源として活躍!
(電子対を受け取る)
B:として活躍!
(電子対を与える/!
プロトンを受け取る)
生体内の求核剤・求電子剤
求核剤
塩基性のある官能基
求電子剤
δ+
(Mg2+など)
O
δ–
R
O
R'
R
R'
生体内の転移反応
リン酸基、アシル基、グリコシル基などの転移が知られている。
基本は求核置換反応
グルコース 6-リン酸の生成(ヘキソキナーゼによる転移反応)
EC 2.7.1.1
来週出てくる
リ
アシル基転移(求核付加-脱離)
生体内の酸化還元反応
NAD+/NADHなどを介して、ヒドリドのやりとりを介することが多い。
NAD+ /NADP+(酸化型)
NADH/NADPH(還元型)
ニコチン!
アミド
電子対(2電子)をやりとりする。
アデノ
シン
ここが水素だとNAD+、!
リン酸だとNADP+
乳酸脱水素酵素(LDH)
(乳酸発酵)
NADH, H +
O
H 3C
COO –
ピルビン酸
NAD +, –H +
LDH
HO
H 3C
H
COO –
乳酸
第3回
FAD/FADH·/FADH2
アデノシン
リボフラビン
(ビタミンの一種)
FAD
1電子ずつ、2電子まで受け入れ可能。
FADH·
FADH2
生体内の脱離/異性化/分子内転位反応
脱水反応の例
H+
B:
:
:
:B (塩基触媒)
A (酸触媒: H+など)
プロトン脱離でなく、ヒドリド
転位が起きることもある。
生体内のC-C結合の生成と切断反応
基本はカルボアニオンとカルボニルの反応
C
+
O
C
C
OH
求電子剤
アルドラーゼなど
来週出てくる
EC 4.1.2.14(解糖系)
求電子剤
O
–OOC
C
H2
オキサロ酢酸
B:
COO –
クエン酸
シンターゼ
O
+
求核剤
H 3C
S-CoA
アセチルCoA
H 2O
–OOC
H2
C
C
HO
H2
C
COO –
COO –
クエン酸
どうやって化学反応を推進するか?
例えば、グルコースを燃焼すると、
C6H12O6 + 6O2→ 6CO2 + 6H2O
ΔG = -2850 kJ/mol (-686 kcal/mol)
体内でどうやってこのエネルギーを
取り出すか?
共通した”高エネルギー中間体”
を使う!!
補 ATP! ···リン酸結合
酵 アセチルCoA!···チオエステル結合
素 NADH/FADH2 ···還元力
小分けして貯金できる。"
『エネルギー通貨』
有利な反応
発エルゴン!
反応
生合成
分解
還元力
燃料
不利な反応
酸化された物質
吸エルゴン!
反応
実際には、可逆反応(特に近平衡反応)、
不可逆反応を巧みに配置し、反応の方向
を制御している。
補酵素(coenzyme)とビタミン
補因子:酵素反応に必要なタンパク質以外の成分
- 金属イオン: Cu2+, Fe3+, Zn3+!
- 有機小分子(補酵素)
補酵素とビタミン: 水溶性ビタミンは補酵素の前駆体
ビタミン:動物に必要だが、
自前で合成できない有機化合物。
細胞培養液の組成に見る栄養成分
MEM1 (minimum essential medium 1)
1L
!
!
pH
!
!
!
!
!
!
CO2
!
!
PDGF)
EGF
FGF
9.5 g
mg
ATPと高エネルギー結合
ATP(アデノシン三リン酸)は、リン酸無水物結合にエネルギーを蓄えている。
ATP + H 2O
ADP + P i
ATP + H 2O
AMP + PP i
高エネルギーの由来は、!
- 共鳴効果!
- 静電反発!
- 水和
(PPi(ピロリン酸): P2O74–)
ATPは、生体内では適当な酵素がない限り安定。
ATPと高エネルギー結合
共鳴効果
静電反発
無水結合が開裂することで、共鳴安定化。
無水結合が開裂することで、!
静電反発が解消。
水和効果: リン酸無水物は、加水分解物より水和エネルギーが小さい。
ATPは、加水分解産物の方がエネルギー的に安定であり、"
分解に際して大きなエネルギーを放出する。
アセチルCoA(アセチル補酵素A)
“~”は高エネルギー結合の意味
全ての食物が分解されてなるアセチル基を運ぶ中間体。
(長い炭化水素鎖も2炭素ずつ酸化され、アセチル
CoAを生み出す。)!
アセチル基
-
チオエステル結合にエネルギーを貯めこむ。!
-
加水分解により、–31.5 kJ/molのエネルギー放出。
(ATPより約1 kJ/mol大きい。S原子が大きく、CとS
との電子の重なりが小さいため、より共鳴効果の寄与
が小さい。)置換反応に対する活性が高い。
パント
テン酸
残基
構造の共通性に注目
ATP
ATPと高エネルギー結合
グルコース 6-リン酸の生成(ヘキソキナーゼによる転移反応)
直接リン酸化は自由エネルギー的には不利だが…
酵素が、ATPの加水分解を触媒し、”共役”
させることで、目的の反応を進める。
- よりエネルギーの高いリン酸化合物によ
り、ADPをATPに再生可能。!
- ATPは生体内では常に再生されている。!
(生体内には数秒分のATPしか貯蔵されて
おらず、常に消費・再生を繰り返している。
ヒトで約1.5 kg/h)
酵素は必要な生成物を得るために必須
グルコース、水、ATPの3者が存在する反応を考える。
ATP + グルコース → ADP + グルコース-6-リン酸
ATP + 水 → ADP + Pi
の2反応が起きうるが、酵素存在下では下図のオレンジの経路が進む。
酵素があると、ATP加水分解より!
グルコース-6-リン酸の生成が有利。
酵素無しで、直接グルコース-6-リン酸
が生じることはない。
酵素-基質複合体
酵素-生成物複合体