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金曜1限
生体ナノテクノロジー特論
(高分子合成論)
2014年12月12日
第8回:薬物の組織分布と薬物動態の扱い方
参考文献
『図解で学ぶDDS』(じほう)
最先端材料システムOne Point!
『総合製剤学』(南山堂)
『ドラッグデリバリーシステム』
(共立出版)
『分子薬物動態学』
(南山堂)
『生体内薬物送達学』 (基礎生体工学講座)
橋田 充, 高倉 喜信 (著) (産業図書, 1994年)
総説
Endocytosis at the nanoscale.
Irene Canton and Giuseppe Battaglia, Chemical Society Reviews 41 (2012) 2718–2739.
薬の体内分布:基本は血流を介した全身への分布
血中に投与/移行した後の運命
血流から
漏れ出る必要あり。
静脈注射
標的
組織
血液循環による全
身分布
肝臓・脾臓に存在する
細網内皮系(RES)/MPS
によるトラップ回避
腎臓からの糸球体ろ
過を回避
薬の入った
キャリア
前回までに、
-
血管の構造・血液成分
主要臓器
EPR効果*によってが
について学習した。
ん腫瘍へ集積
-
MPS
the review, a distinction is made between insoluble CDCs (particulate
CDCs), whichまず、立ちはだかる壁について理解しよう
possess a liquid–solid interface (e.g., liposomes [7],
nanoparticles [15], nanotubes [2]), and soluble CDCs (e.g., polymer
薬物/キャリアの旅路をたどる。
中枢神経系
- 循環は、体循環と肺循環!
tration of t
Once th
the left ve
pumped in
shared by t
(体循環) 左心室→大動脈→抹消臓器→
消化管
毛細血管→大静脈→右心房!
肺
3. Interacti
(肺循環) 右心室→肺動脈→肺→肺静脈
→左心房
脾臓
肺循環
心臓
動脈血: 約20%
腎臓
体循環
静脈血: 約80%
筋肉、皮膚、脂肪組織
Blood is
- 成人の血流量は、5-6 L/min!
and waste
- 全血量も5-6 L!
compartme
- そのうち、体循環に90%,
It consists
o
肺循環に10%
molecular w
for CDCs be
肝臓
ent blood c
静脈投与
3.1. Blood c
Blood ce
ume, as w
which toge
リンパ管
- リンパ管は、ほぼ静脈に接近したところに位置し、上皮・軟骨・眼球・中枢神経系・
脾臓を除く全身に分布。筋肉の収縮や身体の動きで流れ、胸管から静脈へ戻る。速度は
1-2 L/日と遅い。
- 末梢の組織間液中の代謝産物や細菌・死んだ細胞、がん細胞、免疫細胞などを運び、
標的部位としても重要。特に、樹状細胞のリンパ節への移行は免疫応答上重要。
- 分子量5000以上のものは毛細血管から漏出しにくく、主にリンパ管へ移行する。
すき間が
多い
胸管
弁
5
一次免疫反応と二次免疫反応
一次免疫反応: 生体がある特定の抗原について示す初めての抗原特異的免疫反応。
二次リンパ組織(脾臓、リンパ節など)が舞台。
始まりは、抗原特異的TCRを持つナイーブCD4+T細胞の抗原認識!
→ヘルパーT細胞へ分化! 司令官的
→ナイーブB細胞の抗体産生B細胞への分化、抗原特異的ナイーブ
CD8+T細胞のキラーT細胞(細胞傷害性T細胞)への分化誘導 攻撃部隊的
→一連の免疫反応には2週間程度を要する。
二次免疫反応:
一次免疫反応により分化・活性化したヘルパーT細胞、キラーT細
胞、抗体産生細胞の一部は免疫記憶細胞として長期間生き残る。こ
れら免疫記憶細胞による応答が、二次免疫反応。
→同一の抗原に対しては、より速やか、かつ、強力に応答。!
(ワクチンの原理)
抗原認識後、数∼十数時間で応答可能。!
抗原侵入部位での応答も可能。
リンパ節:樹状細胞が仕入れた情報を伝える基地
マクロファージ
樹状細胞
リンパ節
輸入リンパ管
輸出リンパ管
サイズに関するまとめ
サイズ以外にも、表面荷電や硬さ、形なども影響があることを忘れずに。
肺毛細血管
>10 µm
肝フェネストラ
>150 nm
>200 nm
脾洞
連続内皮の間隙
>20 nm
腎糸球体ろ過
>5 nm
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人工透析の中空糸膜
血液透析に使う膜では径0.2mm、膜厚み10-20μmの中空糸膜で、膜の細孔径は数nm、
分画分子量にして約2,000である。!
透析膜の素材としては再生セルロース、酢酸セルロース、ポリアクリロニトリルなどが
使われる。この中空糸を1万本束ねて膜モジュールとする。
透析液
血流
密
疎
(膜分離工学のページ)http://chemeng.in.coocan.jp/memb/m_mb1.html
透析液
血流
旭化成メディカルHPより
透析液
血流
イヌリン
10
イヌリン: 分子量5,000程度の多糖。完全に腎排泄されるので、腎機能の測定に用いられる。!
ヒトの消化管では消化されず、腸内細菌により消化されてガスの発生につながる。
臓器に移行後の薬物の分布
各組織移行後に、組織/細胞内に分布・吸収させる必要がある。
11
典型的な生体膜構造
Pflugers Arch - Eur J Physiol (2007) 454:345–359
動物細胞は、グリコカリックス(糖
衣)と呼ばれる糖鎖のネットワー
クに覆われている。
上皮細胞や内皮細胞では、特に
分厚く目立つらしい。
12
膜を透過する物質輸送機構
受動輸送
濃度勾配、電位差などを利用して物質が移
動(下り坂輸送)。エネルギー供給は不要だ
が、差がなくなると輸送は進行しない。
溶解拡散:単純だが脂溶性薬物、低分子量化
合物では最も重要。!
制限拡散・溶媒牽引:チャネルを介する移動
促進拡散:タンパク質などに薬物が吸着し、輸
送体やチャネルを介して行われる輸送。
能動輸送
ポンプ、ATPase
Na+, K+, H+!
など
エネルギー供給を要し、特定の輸送体を
介して起こる”上り坂”の物質移動。
一次性:ATPなどのエネルギーを直接利用。!
二次性:一次性能動輸送で作られたNa+やH+の
濃度勾配に基づく下り坂輸送と共役した上り
坂輸送。共役の方向により、共輸送、逆輸送。
膜電位に基づき引き寄せられるのが単輸送。
単純拡散:Fickの法則に従う
-
-
構造的に類似する物質が共存しても輸送に
影響がない。!
温度が低下しても輸送のfluxはあまり変化
しない。
溶媒の移動に伴う薬物の移動がある場合。
膜への薬物の溶解が起こりやすい/
起こりにくい、に応じて、fluxが
変わる。!
分配係数 K = Coutm/Cout = Cinm/Cin!
を用いた表式となる。
14
細胞取り込みを介する経路(膜動輸送)
生体膜の陥入や突出により形成される小胞を介した輸送。
食作用
液相
飲作用
吸着性/レセプター介在性
1. 細胞表面への接触。!
2. 小胞の形成と脱離(くび
れ切れる)。!
3. 小胞ごと目的地へ移動。
I. Canton, G. Battaglia, Chem. Soc. Rev. 41 (2012) 2718–2739.
→小胞に取り込まれた後に、必要に応じてエンドソームから脱出し、
細胞質に移行しなければならない。
クラスリン介在型エンドサイトーシス
通常、物体とレセ
プターの相互作用
を介する。
クラスリン
triskelionが小胞を被覆。
120 nm程度まで
が効率良いと言わ
れているが、細胞
種によってはもっ
と大きいものもあ
る(> 300 nm)。
カベオラ介在型エンドサイトーシス
直径50-80 nm程度の凹み。
脂質ラフト(飽和脂肪酸を含むスフィンゴ脂質あるいはスフィンゴ糖脂
質を主成分とする流動性が比較的低いドメイン)が、細胞質側のタンパ
ク質・カベオリンの作用で陥没し、フラスコ上になり、エンドサイトー
シスが起こる。くびれ部は20-40 nm。この部分がdynaminの作用で
首切りが行われるらしい。
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その他のクラスリン非依存性エンドサイトーシス
RhoA介在型
細胞内骨格であるアクチンの制御に関わるRhoAの関与する経路。詳細は明らかでない
部分が多いが、ある種のサイトカイン受容体の内在化に関連する。アクチンはエンドサ
イトーシスの機構に関わる重要な因子であるので、関連性は深いと思われる。
CDC42(cell division cycle42)介在型
幅は< 50 nmチューブ状200-600 nm(長さ)に陥入する。!
CDC42は、細胞の成長、分化、アポトーシスなどに関与し、アクチンや細胞ストレスの
制御因子であるため、関係が深いものと思われる。GTP結合性。
ARF6介在型
こちらもチューブ状に陥入する。発見から日が浅く、詳細は不明。ARF6は膜の曲率制
御に関連があるとも言われる。(GTPと結合して曲率が上がり、くびれる。)
Flotillin介在型
カベオリンと類似のコンフォメーションを持つタンパク質であるが、カベオラ型とは
独立してエンドサイトーシスを起こすらしい。
18
マクロピノサイトーシス
取り込む物質とは特に関連性なく、液体成分を取り込む小胞(0.5∼10
µm)。細胞内のアクチンが重合して、膜成分が飛び出して飲み込む。
Lamellipodialike
Circular
ruffle
Bleb
Lamellipodialike
Circular
ruffle
Bleb
緑: アクチン
19
ファゴサイトーシス(貪食)
マクロファージ/単核球、樹状細胞、マスト細胞、好中球などの免疫担当細胞により行わ
れるエンドサイトーシス。1 µm以上と言われるが、小さいものでも取り込まれる。
オプソニン化した物体の場合
(a) IgGの場合、Fc受容体によりファ
ゴサイトーシスが誘起される。
(b) C3bの場合、CR3(補体受容体
3)により誘起される。
(c) IgGでオプソニン化した赤血球の
取り込み。アクチンが蛍光タンパク
質で染色してある。
マクロファージによる取り込み
スカベンジャーレセプター
-
21
種類は多いが、アニオン性のものを認識すること多い。
???
???
22
M. Zhu, et al., Acc. Chem. Res. 46 (2013) 622–631. Fig. 3
particle were
e coated with
had a homogeneous hydrophilic ligand shell, whereas 34-66 OT
and 66-34 OT particles had a hydrophilic–hydrophobic striated
取り込みと表面構造
- 細胞表面は糖鎖の負電荷が目立つため、カチオン性のものがよく付着し、
our particles used in this study.
取り込みが上がる。一方で、細胞毒性も出やすくなる。
Thermogravimetric
⇣Potential §
Ligand shell morphology/
- ‡ カチオン表面は、体内のタンパク吸着も起こしやすいため、利用に注意が
analysis (%)
(mV)
chemical structures
必要。(凝集体形成、低い生体適合性)
O
Poly(N-vinyl
pyrrolidone) (PVP)
n
N
n
O
O
O–
Unstructured
31.1± 0.73
structured
A. Verma and F. Stellacci
O
=
random
O
HS
S
O – Na +
=
13
homogeneous
+
n
ace-
O
MUS
P
O
N+
O
HS
br-OT
表面構造制御
Structured
33.1± 0.64
O
=
15
HS
S
O – Na +
=
ynthetic
particle
interacrted the
ligands/
particle
ligand
surface
natural
oup has
ility of
d nanoze, zeta
y, and
–
=
15
Poly(ethylene
glycol) (PEG)
→異物認識されず、非特異的な取り込みは抑えられるが、代わりに
取り込みが悪くなる。
38.0±
5.30
Homogeneous
Poly(2-(methacryloyloxy)ethyl
phosphorylcholine)
O
PEGジレンマ
O Na
S
HS
O
PMPC: PEGよりも細胞取
Poly(2-methyloxazoline) MUS
n
り込みが良好との報告有り。
N
O
O
=
生体適合性ポリマー
MUS
O
HS
OT
A. Verma, et al., Nat. Mater. 2008, 7, 588.
to surface reconstruction
微粒子表面で注意すべき事柄
REVIEW ARTICLE
ATERIALS DOI: 10.1038/NMAT2442
Competitive binding
interactions depend
on protein concentration
and body fluid composition
Characteristic
protein on/off
rates depend on
material type
and protein
characteristics
Binding interactions release
surface free energy, leading
to surface reconstruction
e
Particle
Surface
composition
y
it
il
b
insta
Particle
Surface
composition
ity
instabil
Hydrophobicity
wettability
Hydrophobicity
wettability
Available surface
area, surface coverage
and angleHydrophilic
of curvature
determineoradsorption
hydrophobic
profiles interactions
Crystallinity
Electronic
states
Size
_
O.2
SH
SH
Protein conformational
changes cause loss of
enzyme activity
e
S
S
–
b
Steric hindrance
prevents binding
Steric hindrance
prevents binding
Surface
reconstruction
Electron–hole
pairs lead
to oxidative
damage
_
O.2
SH
SH
Protein conformational
changes cause loss of
enzyme activity
e
S
S
O2
Release of surface
free energy
e–
–
O2
Release of surface
free energy
e–
h+
Protein conformation,
functional changes
Impact on
protein
structure
and function
Protein
fibrillation
h+
Surface Protein conformation,
opsonization/
functional changes
liganding allows
interaction
with additional
Protein nano–bio interfaces
fibrillation
微粒子表面がタンパク質と
相互作用した結果起きうる
事象
Surface
Charge
Charge
Surface
reconstruction
Electron–hole
pairs lead
to oxidative
damage
Size
A. E. Nel, et al., Nat. Mater. 2009, 8, 543-557.
Charge (for example cationic binding)
b
and angle of curvature
determine adsorption
profiles
Charge (for example cationic binding)
+ + + + +
Hydrophilic
or hydrophobic
interactions
Available surface
Crystallinity
Electronic
微粒子表面上で起きうる事象
area, surface coverage
states
Protein binding
accelerates
dissolution of
some materials
–
Protein binding
accelerates
dissolution of
some materials
e–
+ + + + +
a
Characteristic
protein on/off
rates depend on
material type
and protein
characteristics
Impact on
protein
structure
and function
Amyloid
fibre
Exposure
to cryptic
epitopes
Protein
crowding,
layering,
nucleation
Immune
recognition
24
取り込みとサイズ依存性
➡Size-dependency
of interaction between antibody-functionalized gold
nanoparticles (GNPs) and cells: Different internalization and signaling.
2 nm GNPs
40 nm GNPs
70 nm GNPs
受容体
小胞
核
重ね合わせ
10 nm
40 nm
W. Jiang et al. Nat.
Nanotechnol. 2008, 3, 145.
25
取り込みと形の依存性
Nano-/micro-hydrogels with various
sizes and shapes were prepared, and
cellular uptake was examined.
20 µm
20 µm
20 µm
1 µm
into HeLa cells is
dependent on the size and aspect ratios.
20 µm
20 µm
1 µm
➡Internalization
20 µm
1 µm
1 µm
1 µm
J. M. DeSimone et al., PNAS, 2008, 105, 11613.
生理学的モデル
体内動態変化を定量的に理解するために、定式化(モデル化)を考える。
(ファーマコキネティクス)
静脈投与
分布する臓器・組織それ
ぞれを独立した コンパー
トメント と捉え、それが
血流を通じて連結されて
いると考える。
各コンパートメントに、
Kp: 組織-血漿間分配比
C: 各組織での薬物濃度
V: 各組織体積
と、
Q: それぞれの流速、
CL: クリアランス
を与えれば、モデル化可
能。
→複雑すぎる…。
27
コンパートメントモデル
生体を数個のコンパートメントのみに単純化したモデル。
1-コンパートメントモデル
静脈投与などで、薬物投与後、すべての臓器及び組織中の薬物濃度と血漿中の
薬物濃度が瞬時に平衡に達すると仮定。
X: 総薬物量!
V1 組織1
C1
血漿
Ci: 各組織での薬物濃度!
Kp, Cp, Vp
Ki: 組織-血漿間分配比 = Ci/Cp!
C4
組織4 V4
C3
V3 組織3
X
組織2 V2
C2
C
Vd
Vi: 各組織の実質容積!
(i = 1–4)
X = VpCp + ∑ViCi!
= VpCp + ∑ViKiCp!
= (Vp + ∑ViKi)Cp
血中循環能が高ければ小さい
Vd (分布容積) ≡ Vp + ∑ViKi = X/Cp
kel
消失速度が、コンパートメント内の薬物量に比例すると考えると、
dX/dt = –kelX (kel : 消失速度定数)
X = X0·exp(–kelt)
Cp = C0·exp(–kelt)
(X0 : 投与量)
(C0 : 投与直後の血漿中濃度)
C0 = X0/Vd
Cp = C0·exp(–kelt)
lnCp = lnC0 – kelt
半減期(t1/2): 血漿中濃度が
半分になる時間
t1/2 = ln2/kel
AUC(曲線下面積):
時刻0から無限大までの積分
クリアランス:消失速度が血中濃度に比例する、
と考えた時の比例係数と定義。
全身クリアランス(CLtot)
= (処理された薬物量/時間)/血中濃度
= 薬物消失速度/血中濃度
VddC/dt = –CLtot·C
時刻t = 0から∞で積分して、Vd(C∞ – C0) = –CLtot·AUC!
C∞は0、Vd·C0は投与量X0であることから、
X0 = CLtot·AUC!
AUC = X0/CLtot = C0/kel
29
吸収付き1-コンパートメントモデル 薬物を単回経口投与し、消化管における吸収
がある場合など。
Xa: 吸収部位での薬物量!
D
ka: 吸収速度定数!
消化管
F: 薬物の吸収率!
Xa
D: 投与量
F
ka
組織2 V2
C2
V1 組織1
C1
血漿
X
Kp, Cp, Vp
C4
組織4 V4
C3
V3 組織3
Cp
C
Cmax
Vd
kel
30
tmax
2-コンパートメントモデル
瞬時に血漿と平衡が達成されるコンパートメント(中心コンパートメント; 血流の早い
D
臓器)と、平衡に達するまでに時間がかかるコンパートメント(末梢コンパートメント;
血流の遅い臓器)の2つからなると考える。
単に分布相ということもある。
dX1/dt = –(kel + k12)X1 + k21X2!
dX2/dt = –k21X2 + k12X1!
ラプラス変換など用いて解くと、!
C1 = X1/V1 = A·exp(–αt) + B·exp(–βt)!
A = D(α–k21)/{V1(α–β)}!
B = D(k21–β)/{V1(α–β)}
→このような複数の指数項を含むことはよくある。
単に消失相ということもある。