No.24 [B-1] 小型・軽量SAAMジャッキによる高荷重アンカーのリフトオフ試験事例

全地連「技術フォーラム2014」秋田
【24】
小型・軽量 SAAM ジャッキによる高荷重アンカーのリフトオフ試験事例
(株)相
1. はじめに
愛
○市橋
義治
弘田
明志
常川
善弘
ジャッキを用いた。
グラウンドアンカー(以下、アンカーと言う)は,主に地
くさび定着方式のより線アンカーの頭部は,全体的に
すべり抑止工や切土・盛土斜面対策工及び山留工等に用
①防錆材が充填②発錆は軽微③余長が標準長で,一部で
いられ,1957年の初施工以来、既に50年以上が経過してい
①くさびのくい込み②より線の引き込まれ等が認められ
る。この間,様々な技術的変遷を経てきたが,最も特徴的
た。また、頭部コンクリート内にアルミキャップが被せ
なのは1988年の地盤工学会(土質工学会)基準の改訂にお
られており,支圧板背面からの遊離石灰・湧水等の変状は
ける二重防食規定であった。この改訂後に発刊された「グ
生じていなかった。
表-2 SAAM ジャッキ諸元
ラウンドアンカー設計・施工基準,同解説」1)を設計基準
とするアンカーは「新タイプ」,以前のアンカーは「旧タ
イプ」と定義2)され,防食仕様が大きく異なる。
本稿では,打設後30年が経過し地すべり変動に伴う荷
重増減履歴を有する旧タイプアンカーに対して、小型・
軽量なリフトオフ試験専用ジャッキを用いた健全性調査
(2) リフトオフ試験
試験アンカー:ΣN=12本のリフトオフ荷重はいずれも
について報告する。
2. 調査地概要とアンカーの課題
明瞭で,交点法3)により求まる残存引張り力:Pe(kN)を設
計アンカー力比:Rtd(%)として分布図に示す(図-1)。
本調査地一帯は,湛水
地すべり対策として多
N
くの斜面にアンカー打
設されており,斜面動態
観測結果から孔内傾斜
計の孔曲がりや受圧構
造物のクラック等が報
告されていた。
写真-1 調査地全景
既往リフトオフ試験結果にも,高荷重~低荷重までの荷
S=1:1,400
重変動が捉えられる等、アンカー残存引張り力の経年変
化の把握が喫緊の課題となっていた。
3. 頭部外観露出調査とリフトオフ試験
今回、斜面変動が継続
表-1 アンカー諸元
図-1 設計荷重比分布図 Rtd(%)
これより,70%以上の高
荷重領域と40%以下の低
しているアンカー法面
荷重領域の分布が明瞭
に対して,①すべり面側
に 表 れ て お り ,12-1 ~
部の特定②破断アンカ
12-5アンカーの荷重コ
ー周辺の荷重分布の把
ンター沿いがすべり面
握を主たる目的として,
側部と推定される。ま
健全性調査を行った。
た,破断アンカー(図-1
(1) 頭部外観露出調査
中央の上部)周辺では残
写真-3 リフトオフ試験状況
アンカー工の諸元を,
存引張り力が大きく増
表-1に示す。施工年より
減しており,地すべり挙
旧タイプアンカーと見
動に伴いアンカー荷重
られ,設計アンカー力:
分担力が不均衡となっ
Td=1,300kN と高荷重で,
ていることが判る。
過緊張の場合は許容引
4. 荷重-変位量曲線の評価
写真-4 2,000kN ジャッキ
張り力:0.9Tys=1,685kN
図-2に,リフトオフ後の伸び率(=tanθ)が設計 tanθよ
であることから,2,000kN
り相対的に大きい,即ち後勾配3)が急な例(1)を示す。この
写真-2 アンカー頭部
アンカーは,逆算自由長が設計自由長より短く,テンドン
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の伸びを阻害する要因,
表-3にリフトオフ試験結果一覧表を,図-4に「残存引張
例えば自由長部の曲が
り力とアンカー健全度の目安」2)に基づく健全度評価区分
りやアンカー軸線(=緊
図を,図-5に試験配置図を示す。
張方向)の変位等の地す
5. 後付け荷重計設置
既設アンカー2箇所へ
べり挙動由来の現象が
推定される。
図-3に,除荷曲線より
図-2 荷重-変位量曲線(1)
断・引抜き後の更新アン
カー2箇所には緊張・定
部分破断が推定される
例(2)を示す。このアン
リフトオフ試験後に,破
着後に,後付け荷重計
図-2 荷重-変位量曲線(1)
カーでは,くさびのくい
(SAAM-L)を設置して,荷
込みも発生しており,過
重計の簡易検定が行え
緊張の可能性がある
るシステムとした。
(Pe=1,066kN)。
図-3 荷重-変位量曲線(2)
写真-5 後付け荷重計設置
6. まとめ
以上の試験結果より,試験アンカー12本のうち6本に関
今回、荷重変動履歴を有するくさび定着方式の高荷重
して、①逆算自由長が短い②より線・くさびの引き込ま
な旧タイプアンカーに対するリフトオフ試験を,2,000kN
れ③部分破断の可能性等の劣化・損傷が確認された。
型 SAAM ジャッキで実施した。
本アンカー法面の場合,経年劣化と地すべり変動に伴
得られた知見としては,①現在のすべり面側部を推定
う荷重増減履歴が,健全性調査手法によって定量的に把
②高荷重分布範囲を抽出③PC 鋼より線の引き込まれや
握できた。
逆算自由長が短い等の地すべり履歴に伴う劣化・損傷の
把握が挙げられる。
表-3 リフトオフ試験結果一覧表
2,000kN ジャッキの汎用性としては,リフトオフ試験の
実施日当たり作業量3本(仮設・はつりを含む)の実績と,
残存引張り力速報値を現場で確認しながら試験箇所を選
定していく機動的作業に対応できたことが挙げられる。
0m
40 .0
山 A)
de p=
1( 森
5m
BVc43.5
EL=2
0m
山A)
30 .0
9(森
de p=
0m
25.0
EL=2
35m)
影4.
(投
BV -3
0
M3
5
dt
D
M2
Kcm
Ch dt
新設アンカー工2(旧18-5)
設計アンカー力 Td=1300kN/本
L=29.5m,定着長La=8.0m
打設角度 30°
打設方向 -15°
CH-CM
10
M3
Gr
CL
dt
15
CM
M3
80
N
Ktf
Gr Sl
20
0
dt
Km
Gr
Kbrdt
5
Gr
25
M3
L=2
Sl
CL Ktf
30
CM
dt
Km
Ktf
Gr Sl
30°
M3
10
m
9.5
1.5
L=3
M1
m
5m
3 1.
L=
Kbrdt
15
dt
35
5m
1.
L=3
CM-CH
M1
Gr
Ktf
20
M3
40
1.
L =3
5m
8
000
VSL E5-12相当品
定着長 La=8.0m
Gr
Kbr
dt
Ktf
M2
25
30
既設アンカー工
M1
Ktf
既設対策工ブロック
M1
新設アンカー工1(旧17-1)
S=1:1,600
S=1:1,400
A部
CL
00
設計アンカー力 Td=1300kN/本
L=31.5m,定着長La=8.0m
打設角度 30°
打設方向 -15°
図-6 アンカー配置断面図
図-4 健全度評価区分図
N
最後に,業務遂行にあたり御指導・御協力をいただいた
関係各位に対して,記して謝意を表します。
《引用・参考文献》
1) (社)地盤工学会編:グラウンドアンカー設計・施工基
準,同解説,p.10,1990.2.
2) (独)土木研究所(社)日本アンカー協会共編:グラウンド
アンカー維持管理マニュアル,p.8,2008.7.
S=1:1,400
図-5 リフトオフ試験・荷重計配置図(設計荷重比分布)
3)酒井俊典著編:SAAM ジャッキを用いた既設アンカー
のり面の面的調査マニュアル(案),p.5,2010.3.