モルガン・スタンレー・インベストメント・マネジメント株式会社 エマージング 株式運用チームからの便り 2014 年 12 月 本書はモルガン・スタンレー・インベストメント・マネジメントのエマージング株式運用チームが作成したレポートを邦訳したものです。 ポーランドの時代がやってきた! 10 日間にわたるポーランド訪問を通じて、我々はこれま 1980 年後半に共産主義が崩壊した後に起業しています。 で見てきた同国の首都の状況とは少し違ったポーランド 当時のポーランドは、EU 加盟のため相変わらずインフレ を発見しました。首都のワルシャワは、第 2 次世界大戦 対策と債務削減に追われていました。前述の企業は、小 でドイツ軍の爆撃により壊滅したのち、極機能的な街並 売りやファッション・メーカー、安売り家具製造、債権 みに生まれ変わりました。一方、第 2 の都市であるクラ 回収業等のサービス業を経営してきました。これらの経 クフやグダニスク等は古くからの中央ヨーロッパの魅力 営者たちは、いずれも、自分たちの起業は、一生懸命働 的な街並みを今なお残しています。そして、これまで以 いたものが報われる本物のアメリカン・ストーリーであ 上に国際的な雰囲気を醸し出しています。投資家にとっ ることを語っていました。 ての首都ワルシャワは、さえないけれど信頼できる存在 である一方、第 2 の都市群は、驚きとたくさんの起業家 達で活気に満ちた街へと変貌しています。これらの起業 家達は、十年ほど前にポーランドが EU に加盟する以前か ら事業を起こし、現在では西側諸国へ事業を拡大するほ どにまで成長しています。 こうした徹底したアメリカン・スタイル的起業家精神は、 アメリカに対していろいろな意味で懐疑的な大陸欧州で は、これまで聞いたことがありませんでした。欧州の他 の地域と違って、経済低迷から脱するべく努力を重ね、 その結果、アメリカン・スタイルの新規上場が盛んにな りました。過去 10 年間の前半は、ポーランドの上場企業 これは、新たなる時代の流れでありポーランドに限った 数はさえず、より経済的に大きく、また、非資源国であ ことではありません。過去における東欧諸国の位置づけ るトルコやメキシコ等の他のエマージング諸国や、周辺 は、西側企業にとって生産コスト削減の場所、あるいは、 国であるオーストリア、チェコ、ハンガリーにさえも劣 未開拓の消費市場でした。これまでほとんどの人は、ポー 後してきました(図 1 参照)。しかし、その後は上場企 ランド、チェコ、ハンガリー等の企業が、彼らより規模 業数が大幅に伸び、現在では 10 年前の 4 倍の規模となる の大きい西側諸国の市場で直接競争できるとは考えてい 約 900 社となりました1。 ませんでした。しかし、ポーランドの起業家たちは、そ れが可能であると考え始めました。我々は今回の同国訪 問で、ポーランドの人々が、2010 年のユーロ圏の金融危 機によってやや疲弊した西側諸国で、自分たちが勝負す べき機が熟したことを語るのを初めて耳にしました。 この中には、我々が訪問した企業が多数含まれています。 共産主義崩壊後の数年間は、多くのドイツ企業が、ポー ランドにその生産工場を作りました。一方、ほとんどの ポーランド企業が、西側諸国に進出することはありませ んでした。そして、数少ない進出した企業のほとんどは 今回我々は、ワルシャワ、クラクワ、グダニスクを訪れ うまくいきませんでした。しかし、現在のポーランド企 ました。これらの地は、共産主義に対してポーランドの 業の経営方針は、かなり違っています。彼らは、経験も 民主化運動「連帯」が生まれた町です。そうして小規模 あり、規模と体制も整い、成功に向けた自信にあふれて から中堅の企業数社からほぼ同じ話を聞きました。それ います。欧州全体で、仕事を見つけるのが大変な環境の は、これらのほとんどの企業が依然創業者によって経営 中で、スタイリッシュと優雅さで知られる大陸欧州は、 が行われており、また、株主もきちんと管理しているこ お得さを見分ける目を持った市場へと変わってきていま とでした。こうした創業者(すべてが男性ですが)達は、 1 出所:World Federation of Exchanges 2014年9月30日現在 1 す。そうしてコスト意識の高いポーランド人にとって、 起業家が海外市場に打って出るとき、しばしば、それは 開かれた市場となっています。西側企業である大手の洋 自国での事業への自信がないことの表れであると評され 服&家具のディスカウント・チェーンが景気の低迷する ます。近年、インドや南アフリカの企業は、海外向け事 ドイツで急速に成長しています。しかし、ポーランドの 業への投資が盛んである一方、国内での事業拡大に向け 企業は、自分たちの地元において、これらの企業と十分 た投資はそうでもありません。その理由として、官僚主 に競合できています。であれば、欧州の他の地域でも十 義やわいろの横行によって国内市場でのビジネス機会が 分やっていけるはずです。 行き詰っていることが良く聞かれます。 上場企業数 表1:起業家の増加はポーランドにおいて顕著 ハンガリー チェコ ポーランド オーストリア メキシコ インドネシア トルコ 南アフリカ 出所:World Federation of Exchanges 2014年9月末現在 しかしながら、ポーランドの状況は違っています。過去 2 明は自動的に切れます。その CFO は、自社の時価総額が 年間、他のエマージング市場が低迷する中、ポーランド 同国の電話会社より大きいことを強調します。80 年代か では事業への投資が増加してきました。そして、ポーラ ら 90 年代にかけて大手と言われた小売りチェーンが最近 ンドは、欧州において雇用が増えている数少ない国と 倒産し、店舗の持ち主が、盛んにテナントを探している 2 なっています(年率 1%の増加) 。ポーランドの起業家 達は、同国の状況に対して不平を言うどころか比較的軽 いタッチで称賛するでしょう。ポーランド企業による海 外への進出は、自国をあきらめたというより、海外でさ らなるビジネス・チャンスを獲得するためです。 ドイツを、この経営陣はくすんだ市場と呼んでいます。 このファッション・メーカーは、さまざまな年齢層を対 象にしたエッジの効いた 5 種類のブランドを用意し準備 万端です。倉庫階では、中国やバングラディッシュで作 られた衣類をドイツ製、オランダ製の産業用ロボットが、 同国のあるファッション・メーカーの CFO は、駅で投資 中東欧・欧州向け販売用にリパッケージしています。ド 家を迎え、貧乏人のアウディと呼ばれるワーゲン・パサー イツ国境への道のりは、ワルシャワへ行くのとそう変わ トを運転して、その会社を起業した場所である古びた倉 らず、同社は、今後 1 年以内にドイツ国内に 10 数店舗を 庫へ投資家を案内します。しかし、その建物の中は、現 オープンさせる予定です。 代的な欧州仕様になっています。部屋から人が出ると照 ポーランドの新興債権回収会社がドイツ国内に支店を出 したことほど、ポーランド企業にとって象徴的なことは 2 出所:Bank Zachodni Instant Comment 2014年11月19日 2 ないと思われます。同社のポーランド人の CEO はこう語 ランドでは、その経済基盤が多数の都市に分散している ります。「金融危機を受けて多くの不良債権を抱えた金 ことが大きな特徴となっています。他の諸国の主要都市 融機関が、穏便に債権問題を解決してくれる信頼できる の人口は、これらポーランドの都市より少数であり、チェ パートナーを探しています。ビジネスとしての債権回収 コ共和国のみ、ポーランドと同様にドイツと長距離の国 業務に対する理解は、西欧においてはまだまだ発展途上 境で接しています。 にあります。そして、自社は、この一見耳障りなビジネ スに対して、ソフトなタッチでアプローチしています。 こうしたアプローチによりさまざまな地域でのビジネス の拡大が可能であると考えています。」この会社では、 現在、ドイツにオフィスを開設する一方、ワルシャワで は、電話による債権回収を行うためドイツ語が話せる ポーランド人の採用を進めています。 また、ポーランドは、東欧でのビジネスチャンスをより 限定的にしつつ、西側へのビジネス拡大を進めています。 ポーランドは、これまでドイツと長期にわたって協調的 関係を保ってきました。しかし現在、それ以上に、新た なるロシアの侵出による問題の増加や、ウクライナのよ うなロシアからの悪影響を受ける国とのビジネスに対す る警戒心の広がりを強く感じるようになっています。 西側諸国へのビジネス拡大は、これまでドイツに集中し ポーランド企業にとって、ロシアは輸出先市場として重 ていました。そして、それが今オーストリアとスイスの 要です。しかし、ロシアにおいては、これまでと同様の ドイツ語圏地域にまで広がっています。これらの市場は、 ビジネス手法による成長がより困難になってきていると ポーランドに近く、ドイツの経済規模は 3 兆ドルと、ポー 感じています。一方ドイツでは、はるかに可能性の高い ランドの 6 倍の規模であり、ポーランド企業にとっての ビジネスチャンスが存在しているため、西側ビジネスへ ビジネスチャンスとしては申し分ないと言えます。ポー の拡大はなおさらです。ポーランドの素晴らしい未来の ランドの最も活気に満ちた第 2 の都市群はドイツに面し 皮肉な点は、かつてポーランドに侵攻した国が、そのポー たポーランドの西側に点在しています。また、これらの ランドの欧州全体への経済発展の足掛かりを作っている 町には、古くは 12 世紀に創立された地元の大学を卒業し ことではないでしょうか。 た優秀な人材であふれています。他の中東欧諸国では、 経済の中心が 1 つか 2 つの都市に集中している一方、ポー 3 当資料の複製、公衆への提示・引用および販売用資料への利用はご遠慮ください。当資料はモルガン・スタン レー・インベストメント・マネジメントが、2014 年 12 月 2 日付けで海外で発行したレポート(以下、原書)を邦訳したも ので、すべてのデータはモルガン・スタンレー・インベストメント・マネジメントのエマージング株式運用チームから入 手したものです。邦訳に際してその解釈や表現に細心の注意を払っておりますが、邦訳による解釈や表現の違い が生じる場合は英文が優先し、当社は一切の責任を負いません。当資料に含まれる情報等の著作権その他のあら ゆる知的財産権は当社に帰属します。当社からの事前の書面による承諾なしに、当該情報を商業目的に利用する ことを禁止します。 当資料の予想や見解は、必ずしもモルガン・スタンレー・インベストメント・マネジメントの会社としての予想や見解 ではありません。また予想や見解が実際に実現するとは限らず、将来のパフォーマンスを示唆するものではないこ とにご留意ください。当資料の情報はモルガン・スタンレーの金融商品にかかわるものではなく、また商品を推奨す るものでもありません。当資料で表明された見解は原書執筆時点の筆者の見解であり、市場や経済、その他の状 況による変化を免れません。これらの見解は推奨意見ではなく、広範な経済テーマの説明としてご理解ください。 当資料は情報提供のみを目的としたものであり、金融商品取引法、投資信託及び投資法人に関する法律に基づく 開示資料ではありません。また、商品の売買の助言もしくは勧誘または当社が提供するサービスに関する勧誘を意 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