市場環境レポート 2015年2月

モルガン・スタンレー・インベストメント・マネジメント株式会社
市場環境レポート
2015 年 2 月
本書はモルガン・スタンレー・インベストメント・マネジメントのグローバル・マルチ・アセット・グループが作成したレポートを邦訳したものです
無一文から大金持ちに-また無一文に
逆戻り?
現在大きな影響力を持つ新興国も、領土内に油田が開発
されるまでは相対的に貧しく、また大きな挫折を経験し
てきた国が多い。サウジアラビア、ロシア、ベネズエラ、
ナイジェリアその他多くの国は、多様ながらも長年にわ
たって石油輸出による膨大な収入で潤ってきた。重大な
転換点が訪れたのは、石油輸出国機構(OPEC)の加盟国
が国際大手石油会社(メジャー)から原油の価格統制権
を奪った1970年代のことで、1973年に原油価格は4倍に
跳ね上がった1。
OPECに対するこの認識は、2014年11月27日、打ち砕かれ
た。OPECは、歯止めなく下落する(図表1を参照)「原
油価格を安定化」すべく原油生産量を削減するどころか、
生産量を維持したのだ。追って発表された「協力の正当
性は従来になく高まっている(原題:Case for
Cooperation Never Stronger)」と題する公表資料から、
OPECの立場は明らかだ。同資料によれば、OPEC加盟国は
生産量を安定的に維持しているが、非OPEC加盟国の生産
量は2014年にすでに日量172万バレル増加し、2015年に
はさらに日量136万バレル増加することが予測されてい
る。同資料のコメントは、「このシナリオを踏まえて考
えた場合、原油価格の下落を止めるために生産量を削減
OPECが実施した原油の価格統制は、主に世界経済の成長
すべきなのは誰だろうか」と問いかけている。産油量を
に応じて徐々に変化していったが、OPECが「原油市場」
削減すべきは非OPEC加盟国であって、OPEC加盟国ではな
の安定化という使命を果たす能力を疑う者はほとんど
いということを暗に示唆している5。
2
いなかった 。2014年12月にOPECが原油総生産量に占め
るOPEC加盟国の生産量は33%に留まると発表しても、
(OPECの影響力を)疑うものはいなかった3。だが実際
図表1:原油価格は急落
(米ドル / 1バレル)
は、非OPEC加盟国の原油生産量は増加の一途を辿り、IMF
は2014年12月の報告書で「世界の原油生産量の着実な増
加は、『吠えない犬』と見られる可能性がある」と述べ
ている。つまり、原油生産量が増加したのにもかかわら
ず、原油価格は高止まりしていたが、それは、原油トレ
ーダーが「OPECが誘導する(原油の)下値(フロアプラ
イス)(中略)を意識していた4」からである。
ブレント原油
1
米国務省歴史課「重要な出来事(Milestones):1969年~1976年、原油輸出禁止措置(Oil
Embargo) 1973年~1974年:
https://history.state.gov/milestones/1969-1976/oil-embargo
2
石油輸出国機構ミッションステートメント「石油輸出国機構(OPEC)の使命は、その
規定に基づき、OPEC加盟国の石油政策の調整と統一を図り、原油市場の安定化を確保
することで石油を効率的、経済的、定期的に消費者に供給し、石油生産国に安定した
収入を確保し、石油業界への投資資金に適正な収益をもたらすことである」。OPECの
ウェブサイトを参照のこと。
http://www.opec.org/opec_web/en/about_us/23.htm
3
石油輸出国機構ウェブサイトに掲載された2014年12月時点の市場指標によれば、2014
年第3四半期のOPEC加盟国の原油生産量は日量30.3百万バレルで、あらゆる原油供給
源からの供給量の総計は日量92.3百万バレルである。以下のウェブサイトをご参照くだ
さい。
http://www.opec.org/opec_web/static_files_project/media/downloads/data_graphs/MI1
22014.pdf
4
iMFダイレクト・ブログホームページ IMFの世界経済フォーラム「最近の原油価格低迷
をめぐる7つの疑問」ラバ・アレズキ、オリビエ・ブランチャード2014年12月22日
http://blog-imfdirect.imf.org/2014/12/22/seven-questions-about-the-recent-oil-price-slu
mp/
出所:データストリーム
2015年1月22日現在
残念ながら、産油国の輸出収入を見るかぎり、非OPEC
加盟国が原油生産量を削減しようとする様子はほとん
ど見られない。生産量が削減されるとしたら、生産コス
トの高い生産者が、原油価格のあまりの低さに生産設備
に投資できないという事情によるものだろう。実際に、
5
石油輸出国機構ウェブサイト 2014年コメント「協調の正当性はかつてなく高まってい
る(Case for cooperation never stronger)」
http://www.opec.org/opec_web/en/press_room/2940.htm
1
原油価格が生産の限界費用をすでに下回っている場合
受するだろうが、その恩恵も、世界経済の減速が予想さ
もあるだろう。言い換えれば、今後、原油価格はOPEC
れることからくる「投資縮小などのマイナス要因によっ
ではなく市場原理で決まる可能性があるということだ。
て打ち消されそれ以上の影響を受けるであろう」と結論
この状況は、世界の需要が急増しないかぎり、当面は原
づけている。
油価格が1バレル100ドル以上に戻ることはないことを
しかし、IMFは、自らの予想に対するアップサイドリス
示唆している。IMFの試算によれば、高コストの原油生
ク、つまり「原油安による恩恵」が予想以上に大きくな
産手法でも限界費用はせいぜい1バレル74ドル程度であ
る可能性も認めている。原油安のプラスの影響を楽観視
6
るという 。したがって、市場原理が働いているのであ
している投資家は、ユーロ圏や日本などの主なエネルギ
れば、原油価格が最も高い限界費用を上回るはずはなく、
ー消費国に傾斜した投資をするだろう。ユーロ圏と日本
100ドルを下回るはずだ。
は、主なエネルギー消費国であるばかりか、貿易条件の
実際、エネルギー生産国から大量の資本が流出する可能
性がある。例えば、IMFが2015年1月に発表した世界経済
見通しの改訂版では、主要な石油輸出国の成長予測が下
方修正され、引き下げ幅はサウジアラビアが1.6%、ロシ
アが3.5%、ナイジェリアが2.5%であった。石油輸出収入
の減少が、こうした石油輸出国の成長見通しの下方修正
の最大の要因(他にも要因はあるが)である。
原油価格下落の影響は産油国にとどまらない。2015年2
月6日、金融調査会社のファクトセットは、米エネルギ
ーセクターの2014年第4半期の収益は前年比21.5%減で
大幅な改善と極めて景気刺激的な金融政策の恩恵も受
けられる立場にある。米国はこの点ではユーロ圏と日本
ほど魅力的ではない。米国はエネルギー消費国であると
同時に、大規模なエネルギーセクターを抱えるエネルギ
ー生産国でもあるからだ。さらに、米国の金融政策は間
もなく金融緩和をより縮小するだろう。
エネルギー生産国は長年にわたって原油から莫大な利
益を享受してきた。しかし、無一文から大金持ちへと成
功した彼らの物語が、大金持ちから無一文に逆戻りする
ことのないように注意すべきである。
あったと発表した。これは、S&P500を構成する10セクタ
ーの中でも最大の下げ幅であった。
経済成長にとって良くない兆しとして、エネルギー大手
米国
経済
各社は投資を縮小してエネルギー価格の下落に対処し
ている。例えば、ロイヤルダッチシェルは、今後3年間
1月半ばに開催された米連邦公開市場委員会(FOMC)は
かけて設備投資を150億米ドル削減する計画だ。BPは、
金融政策を維持し、フェデラルファンド金利の誘導目標
2015年度の設備投資を200億米ドルと見込んでいるが、
を0.00%~0.25%に据え置いた。保有しているエージェン
これはすでに同社が発表していた240億~260億米ドル
シー債とエージェンシー・モーゲージ債(MBS)の償還
を大きく下回っている。
金の再投資を継続し、償還を迎える米国債の入札による
再投資も実施する。FOMCは、「経済と雇用市場の見通し
これは、2014年第4四半期の米国の非住宅投資の大幅な
減少が、エネルギー関連会社の設備投資削減と大いに関
係があった可能性を意味している。米商務省経済分析局
(BEA)が1月末に発表した速報値では、非住宅投資は
2014年第3四半期の8.9%増から第4四半期は1.9%増に縮
に対するリスクはほぼ均衡していると引き続き見てい
る」。「労働市場が一段と改善し、エネルギー価格の低
下とその他の要因による一過性の影響がなくなれば」、
インフレ率は中期的にFRBが目標とする2%に戻ると予想
される。
小した。
1月下旬に米商務省経済分析局(BEA)が発表した2014
要するに、原油価格の急落は良い方にも悪い方にも影響
するということである。エネルギー消費者とエネルギー
消費国は大きな恩恵を享受するであろうが、世界経済全
体としてはそうとも限らない。IMFは1月の世界経済見通
しの改訂版で、世界の経済成長は「原油安の恩恵」を享
年第4四半期の米GDP成長率の速報値は、前期比年率2.6%
増となった。BEAは2014年第3四半期のGDP成長率は前期
比年率5.0%増であったと発表していた。景気は幅広いベ
ースで拡大している。BEAは、足元の景気減速の理由と
して、連邦政府の支出削減、投資の減速、輸入の増加を
挙げている。2月初めに米サプライマネジメント協会
6
iMFダイレクト・ブログホームページ IMFの世界経済フォーラム「最近の原油価格低迷
をめぐる7つの疑問」ラバ・アレズキ、オリビエ・ブランチャード2014年12月22日
http://blog-imfdirect.imf.org/2014/12/22/seven-questions-about-the-recent-oil-price-slu
mp/
(ISM)が発表した1月の米製造業購買担当者指数(PMI)
は、12月の55.5%から53.5%へもう一段低下し、
(堅調な)
2
成長に引き続き陰りが見られることを示した。米国勢調
経済指標の多くはユーロ圏の景気が全般的に改善して
査局が発表した昨年12月の小売売上高は4,429億米ドル
いることを示している。マークイット社が発表した1月
(季節調整済み)で、前月比0.9%減、前年同月比では4.1%
の総合PMI(製造業とサービス業の両方が対象)は、12
増であった。米労働省労働統計局(BLS)が発表した12
月の51.4から52.6に上昇した。製造業とサービス業の両
月の非農業部門雇用者数は25万2,000人増加し、失業率
方で生産活動が拡大した。しかし、小幅の改善にとどま
は5.6%に低下した。「専門職および一般ビジネス向けサ
った要因はサービス業にある。同社の発表によると、ド
ービス、建設業、飲食業、ヘルスケア、製造業で雇用者
イツでは成長が上向き、イタリアは拡大に転じたが、フ
数が増加した」。BLSは消費者物価指数(CPI)も発表し、
ランスでは経済全般が9カ月連続で後退した。EU統計局
12月のインフレ率は年率0.8%(季節調整前)であった。
が発表した11月の鉱工業生産指数は、ユーロ圏内で(お
食料品とエネルギー価格を除くと1.6%であった。
よび欧州連合全体でも)前月比0.2%上昇し、前年同月比
株式
1月のMSCI米国株式インデックスは2.92%下落した。経済
指標は、幅広い経済成長と適度なインフレ圧力が続いて
いることを示している。過去1年間、3年間、5年間で見
では0.4%低下した。EU統計局が発表した12月のユーロ圏
年間インフレ率は、11月のプラス0.3%からマイナス0.2%
に低下した。年間インフレ率はEU加盟国28カ国中16カ国
でマイナスであった。
て、米国株式市場はその他の先進国の株式市場を米ド
イングランド銀行(BOE)は1月初めの会合で、バンクレ
ル・ベースでアウトパフォームしている。
ートを0.50%に、資産買い取りプログラムの購入枠を
債券
3,750億ポンドにそれぞれ据え置いた。前月までと違っ
て、この決定は全会一致であった。前月までバンクレー
先進国の経済成長の見通しやインフレ予想が下方修正
トの25bps引き上げを主張していた金融政策委員会のイ
される中、ECBの資産購入プログラムに国債が含まれる
アン・マカファーティ氏とマーティン・ウィール氏は、
ことが確認され、すべての先進国で国債は好調だった。
今回の決定は「見事にバランスがとれている」との見解
とりわけ5年超の年限が好調であった。1月は、米国債の
を示した。彼らは、直近のインフレ率がBOEの目標であ
5年債と10年債の指標銘柄利回りが約50bpsも低下した。
る2%を下回る水準まで低下したのは「主に一時的要因」
投資適格のクレジット債(政府債以外の債券)は、ほと
によるものだと見ている。しかし、「一時的要因が示唆
んどのクラスでスプレッドが拡大した。
する以上に低インフレが長く続く」リスクも認識したう
えで、バンクレートを引き上げればそのリスクが悪化す
欧州
経済
るとの見解を示した。
英国では、全般的に経済と業況の回復が続いている。マ
ークイット社と英公認購買部協会(CIPS)が2月初めに
グローバル市場で今月最も注目すべきは、1月22日に欧
発表した1月の製造業PMIは、12月の52.7から53.0に上昇
州中央銀行(ECB)が資産購入プログラムの大幅な拡大
し、成長の加速を示した。またマークイット社とCIPS
を発表したことだろう。ECBは、資産担保証券とカバー
は、サービス業の勢いは失われているものの、力強い拡
ドボンドを引き続き購入する。さらに、ユーロ圏の政府
大が続いているとの見解を示した。英国家統計局(ONS)
債、政府機関債、欧州機関債も購入する予定だ。これで、
は11月の鉱工業生産指数が前年同月比1.1%上昇したと
買い入れ総額は月額600億ユーロとなる。資産購入プロ
発表した。また、1月終わりにONSが発表した2014年第4
グラムの拡大は、「物価の安定という(ECBの)使命を
四半期の英GDP成長率の速報値によれば、英国経済は前
果たすことを目的としている」。資産購入プログラムは
期比0.5%成長(2014年第3四半期は同0.7%増)し、前年
少なくとも2016年9月まで実施される。ECBは、「ユーロ
同月比では2.7%成長した。ONSが1月半ばに発表した労働
圏の実際および予想インフレ率の指標の大半が過去最
市場調査によれば、11月末までの3カ月間の失業率は
低を記録する中、今回の決断を下した。賃金と物価への
5.8%で、8月末までの3カ月間の6.0%から低下した。ONS
2次的波及リスクが中期的な物価動向に悪影響を及ぼす
は、12月のCPIインフレ率(年率)が11月の1.0%から0.5%
恐れがあったため、強力な金融政策で対応する必要に迫
に低下したと発表した。
られていた」。
3
株式
マークイット社とJMMA(日本資材管理協会)が2月初め
1月のMSCI欧州株式インデックスは米ドル・ベースで
に発表した1月の製造業PMIは12月の52.0から52.2に上
0.07%の下落、MSCI欧州株式インデックス(除く英国)
昇した。PMIは、8カ月連続してポジティブな領域(50.0
は同0.42%の上昇となった。どちらのインデックスも現
以上)を推移している。生産、新規受注、雇用者数の拡
地通貨建てでは大幅に上昇しており、(大幅な)通貨安
大が続いている。総務省統計局によれば、2014年通年の
を相殺する形となった。ほとんどのセクターで株価は上
CPIインフレ率は前年比2.7%の上昇となった。統計局が
昇した。投資家は、ECBの資産購入プログラム大幅拡大
発表した12月の1世帯あたり消費支出の平均は332,363
の発表を歓迎した。
円で、名目ベースでは前年同月比0.6%減、実質ベースで
債券
は同3.4%減となった。経済産業省(METI)が発表した12
月の鉱工業生産指数(季節調整済み)は、前月比で1.0%
ECBの資産購入プログラムの拡大を受け、またインフレ
圧力がごくわずかな状況が続いていることを示すデー
タが新たに発表されたこともあり、ユーロ圏内の国債は
1月も引き続き好調であった。ドイツ国債は10年債利回
りが6bps、30年債利回りは24bps低下した。今月もまた
ギリシャは最大の例外であった。ギリシャの急進左派連
合が今後の選挙でも勝利を収めるのではないかとの懸
念が投資家の間に広まり、ギリシャ国債の利回りは急上
昇した。つまり、緊縮財政の拒絶やユーロ圏離脱を招く
可能性があると見られた。ユーロ建てのハイイールド・
クレジットはアウトパフォームした。
上昇し、前年同月比では0.3%上昇した。
株式
経済指標が景気減速とデフレ圧力の緩和を引き続き示
し、1月の日本株は円ベースではレンジ内の取引となっ
た。日銀は銀行貸出の促進を目的とする複数のスキーム
(成長基盤を強化するための資金供給)の期限を1年間
延長し、1つのファシリティについてはその規模を拡大
した。しかし、資産購入プログラム(日本国債のポート
フォリオを毎年およそ80兆円積み上げることを目標と
している)の規模を拡大しなかったことが円高を招き、
1月に最も上昇した主要通貨となった。1月のMSCI日本株
英国では、インフレ圧力の欠如とイングランド銀行金融
政策委員会の直近の会合におけるハト派的なコメント
に投資家の関心が集まった。その結果、英国債利回りは
イールドカーブ全体で低下し、5年超では30~40bps低下
した。
日本
経済
10月に資産買い入れ枠を大幅に拡大した日銀は、1月も
金融政策を据え置いた。日銀は、毎年およそ80兆円のペ
ースで保有残高が増加するように長期国債を買い入れ
る。買入れ国債の平均残存期間は7年~10年になるよう
にする。また、上場投資信託(ETF)と不動産投資信託
(J-REIT)の保有残高が、それぞれ年間約3兆円と約900
億円に相当するペースで増加するように買い入れを行
う。コマーシャルペーパー(CP)と事業債の保有残高は
それぞれ2兆2,000億円と3兆2,000億円で維持する。また、
銀行の貸出促進を目的とした4つのプログラムの期限を
1年間延長した。これらのプログラムは近い将来に終了
する予定であった。
式インデックスは2.33%上昇した。
債券
デフレ懸念が高まり、日本国債(JGB)のイールドカー
ブは下方へシフトし、10年債で5bps低下した。
アジア太平洋地域(日本を除く)
経済
HSBCが発表した中国の1月の製造業PMIは12月の49.6か
ら49.7にわずかに上昇した。生産高もわずかながら昨年
10月以来の増加となった。中国の製造業が全般的に後退
していることが、アジア太平洋地域全体に影を落として
いる。一方で、HSBCが発表したインドの1月の製造業PMI
は52.9で(2年ぶりの高水準となった12月の54.5からは
わずかに低下)、底堅い成長を引き続き示している。食
料品価格のインフレ率が上昇したため、インドの12月の
CPIインフレ率は年率ベースで11月の4.38%から5.00%に
上昇したが、インフレ率の長期トレンドは低下傾向にあ
る。中国の12月のCPIインフレ率は年率ベースで11月の
1.4%から1.5%にわずかに上昇した。
株式
1月、アジアの新興国市場は相対的にアウトパフォーム
した。1月のMSCIエマージング・マーケット・アジア株
4
式インデックスは2.37%上昇した。同地域の大半の株式
市場が米ドル・ベースで上昇した。例外は中国A株で、
ここ数カ月の急上昇で獲得した上昇分の一部を失った。
中国国家統計局(NBS)が発表した2014年の中国のGDP
成長率は7.4%で、1990年以来の低成長となった。インド
では、インフレ圧力が後退し、政権も企業に好意的であ
ると見られ、同国に対する好ましいセンチメントにより
MSCIインド株式インデックスは7.91%上昇した。
東欧、中東およびアフリカ
経済
中欧および東欧の政府と企業にとって、経済の全般的な
減速は依然として問題である。しかし、チェコおよびポ
ーランドでは製造業の業況が改善している。サウジアラ
ビア、アラブ首長国連邦(UAE)、カタールなどの湾岸
協力会議(GCC)の加盟国では堅調な経済成長が続いて
いる。これは、依然として歴史的な高水準にある原油価
ラテンアメリカ
格と、原油生産への依存から脱却し、経済の多様化を図
ろうとする政府主導の戦略の恩恵を受けているためだ。
経済
ブラジル経済は依然として大きく弱含んでいるが製造
業の活動は引き続き加速している。HSBCが発表したブラ
ジルの1月の製造業部門PMIは12月の50.2から50.7に上
昇した。同調査への回答者は、生産は増加しているが、
おそらく最近のレアル安で投入原価が上昇していると
回答した。HSBCが発表した同国の12月の製造業PMIは11
月の48.7から50.2に上昇した。メキシコの輸出企業は、
足元でペソ安が対ドルで進んだこともあり、新規受注と
生産の恩恵を引き続き享受している。
株式
ここ数カ月で急落したMSCIロシア株式インデックスは、
この1カ月でルーブル安がさらに進んだにもかかわらず
(1米ドル=59ルーブルから1米ドル=69ルーブル)、米
ドル・ベースで0.77%の下落にとどまり、落ち着きを取
り戻した。1月末、ロシアの中央銀行は政策金利を17.00%
から15.00%に引き下げ、多くの市場関係者を驚かせた。
今回の利下げで、ロシアの政策立案者たちが通貨防衛や
インフレとの戦いよりも景気の浮揚を重視しているこ
とが明らかになった。1月、MSCIトルコ株式インデック
株式
スは0.78%下落した。トルコでは、インフレ圧力が弱ま
為替の変動、エネルギー価格と鉱物価格の下落が経済に
ったことから、中央銀行は今月の会合で1週間のレポ金
与える影響への懸念、ブラジルの事業環境が引き続き課
利を8.25%から7.75%に引き下げることができた。下げ止
題を抱えていることから、1月はラテンアメリカの投資
まらない原油価格はサウジアラビアとアラブ首長国連
家にとって厳しい月となった。MSCIエマージング・マー
邦(UAE)の重荷となり、両国のMSCI株式インデックス
ケット・ラテンアメリカ株式インデックスは、米ドル・
は、サウジアラビアで4.92%、UAEで5.67%下落した。ギ
ベースで6.31%下落した。下落幅が最も大きかった例が
リシャでは急進左派連合率いる連立政権が選挙で勝利
コロンビアで、MSCIインデックスでは9.34%下落した。
したことに対する懸念が続いており、(ユーロ安と相ま
下落幅が最も小さかったのはチリで、MSCIインデックス
って)MSCIギリシャ株式インデックスは米ドル・ベース
では4.11%下落した。
で29.47%も急落した。一方、エジプトと南アフリカの
MSCI株式インデックスは、それぞれ6.07%、4.48%上昇し
た。
5
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