持続可能性重視と株主価値最大化との両立へ - EYアドバイザリー株式会社

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持続可能性重視と
株主価値最大化との両立へ
地球環境の持続可能性は広く取り上げられている課題だが、
企業がこれにどう貢献しているのかを評価することは難しい。
本稿は、企業における持続可能性への取り組みと
株主価値管理の両立について検討する。
また、持続可能性に関する付加価値モデルを紹介し、
上記二つの概念の統合という難題に取り組みかつ相乗効果の道を探る。
持
続可能性は企業にとって
優先順位の高い課題であ
り、
フォーチュン500 社の
80%以上が持続可能性
の課題を自社サイトに掲載しているという
調査結果が出ても驚くにはあたらない。
し
かしながら、米国大手企業の90%が持続可
能性の課題に取り組むという決意を表明し
ているものの、そういった理念を貫いてい
ることを証明できる企業は35%にすぎない
2010年、p.131)。
(Parisi&Maraghini、
実績評価と持続可能性に関して言えば、両
者の隔たりは大きい。本稿は、持続可能性
に関して企業が有する基本原理を検討す
ることにより、その隔たりを埋めようと試み
るものである。また、企業は果たして持続
可能性重視の立場と株主価値管理(すなわ
ち株主価値の最大化)の立場を両立できる
のかについて議論する。
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企業における持続可能性への
取り組みの評価
著者
パーダーボルン大学(ドイツ)M.A.プロジェクトマネージャー
Christian Faupel
パーダーボルン大学(ドイツ)B.A.
Susanne Schwach
監訳者
アーンスト・アンド・ヤング・アドバイザリー株式会社
ディレクター 高見 陽一郎
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「持続可能性を測定する目的は、環境、社
会、経済の三つの側面を持つ持続可能性
に対する事業体(企業等)の貢献を評価す
ることである。」
(Figge & Hahn、2004年
a、p.176)
一般に、持続可能性に対する企業の取り組
みは、
「トリプルボトムライン」と呼ばれる手
法を使って評価される。この評価には、
フィ
ッゲとハーンが提唱する次の三つの側面
企業における持続可能性への
取り組みの評価
企 業における持 続 可 能 性 へ の 取り組 み
を 評 価 す る 場 合 に は 、一 般 的 に 、二 つ
の ア プ ロ ー チ が あ る 。一 つ は 、絶 対 的
な「 持 続 可 能 性 へ の 付 加 価 値( S VA :
Sustainable Value Added)」であり、も
う一つは相対的な「持続可能性への付加
価値( SVA )」である。前者は、次の式で表
が取り入れられている。
すことができる
(Figge & Hahn、2004年
• 環境面 ̶ 空気、水、土壌をはじめとす
a、p.177)。
る資源への影響や、廃棄物に関して測定
を行う
( Baumgartner&Ebner、2010
年、p.79)。
• 社会面 ̶ コーポレート・ガバナンス、モ
関わる。
み合わせの資源(資源セット)
を利用する費
用に焦点を合わせていたが、SVAの手法は
それと同じ資源セットを使用することによ
って獲得できるリターンに焦点を合わせて
いる( Figge 他、2006 年、p.17 )。相対的
SVA は、外的要因を除外し、むしろ持続可
能性への企業の貢献度について包括的な
視野を提供する、
という意味で特に有用な
概念である。この SVA は、評価を金銭的に
示すことができるため、持続可能性に対す
る企業の貢献がどの程度プラスだったの
か、あるいはマイナスだったのかを理解し
絶対的な「持続可能性への付加価値」=
付加価値 −外的環境費用および社会費用
+相対的な「持続可能性への付加価値」
チベーション、インセンティブ、安全衛
生、人材開発、人権、倫理的行動などに
ということである。従来の手法は、ある組
やすい。簡単に言うと、相対的 SVA は企業
による持続可能性への貢献を金額で表す
のである。
相対的 SVAは、次の四つの重要なステップ
どれだけの価値を生み出し
絶対的 SVAは、
たか、あるいは損なったかを示すにあたっ
• 経済面 ̶ 企業の成功の持続または向
て、企業が消費した経済的、環境的、社会的
上を評価する。例えば、イノベーション
資源をベンチマークと比較することにより
と技術、協働、ナレッジマネジメント、購
導出する。重要なことは、SVAという概念
買、プロセス、持続可能性報告などを言
は、企業における持続可能性への取り組み
う。
を価値ベースで評価した初めての手法だ
により算出される。
• 最初に、資源利用について前期からの
増減を特定する。
• 第二段階では、そういった資源消費の
増減に対する機会費用を、適切なベン
チマークを用いて算出する。
• 第三段階では、資源セットについて考
慮する。これは、各資源を個別に精査す
るのが通例である従来の手法とは異な
「持続可能性への付加価値という
概念は、企業における
持続可能性への取り組みを
価値ベースで評価した
初めての手法である」
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る。利用した全資源の機会費用の平均
値を得ることで、価値全体および機会
費用全体を考慮することになる。
• 最後に、全体的な機会費用を企業の経
済的成長と比較する。ここで、経済的成
長が機会費用を上まわることが、
「プラ
ス」の結果を導く。すなわち、企業は持
続可能性に対して「プラス」の貢献をし
たと言えるようになる。図1にその計算
のまとめを示す。
企業における持続可能性への
取り組みの評価
図1. SVA算出手順
前期と比較した資源利用の増減
資源消費の増減に係る機会費用
貢献は、価値スプレッドに資源の金額を掛
概念で、他の手法以上に多くのメリットを
けて算出する。ダブルカウントを避けるた
有している
( Kunz 他、2007 年)。1999 年
めに、全価値貢献を集計した後に、その数
に実施された米国の大手企業 186 社を対
値を考慮した資源の総額で割る。
象とした調査によれば、大多数の 87%がす
この計算は、企業の一期分の持続可能性
活動の価値を評価するものである。もっと
動的なプロセスに発展させるためには、二
全資源の機会費用の平均
期分の持続可能性活動の価値を算出する
必要がある。その結果、次のような式を導
くことができる。
平均および経済成長
計算結果:持続可能性への付加価値
出典:Figge&Hahn、2004年b、p.132
SVAi,t0 = EGi,t0 — (SVi,t1— SVi,t0)
でに価値ベースのマネジメントに精通して
いた。価値ベースの会計概念であるEVA
は、回答者の 94%が知っており、もっともよ
く知られている概念として群を抜いていた
(Ryan&Trahan、1999年、p.49)。
EVAは、運転資本の総額に対する全利息を
差し引いた後に得られる。別の言い方をす
れば、EVAとは、一定期間の利益からあら
ただし、
ゆる資本コストを差し引いたものである。
EGi,t0=期間t0における企業iの経済的成長
数値がプラスであれば、残余利益または超
期間 t1と期間 t0における企業 iの持続可能性
活動の価値の差分により、企業 i の資源利
過利潤があるということである。一般に、以
下の計算式で求める。
用の変化を求める。ここで検討対象として
E = NOPAT –(投下資本 × WACC)
は、本稿で検討を進めていく出発点となる
いるのは期間 t0なので、この数値が期間 t0
ため、もう少し詳しく紹介する( Ang&Van
ただし、
の経済成長から差し引かれる。こうして算
Passel、2010年、p.1)。
出した結果が、企業 iの期間 t0における相対
持 続 可 能 性 へ の 付 加 価 値を計 算 する式
1 R yi
SVi = ∑
R r xir
y
x
xr ir
ただし、
SVi = 企業iの持続可能性活動の価値
R = 考慮した資源の総額
yi =企業iの経済生産高
y = ベンチマークの経済生産高
xir = 企業iの資源
xr = ベンチマークの資源
的な SVA 、すなわち持続可能性への付加
価値であり、持続可能性活動の価値増大
NOPAT= 支払利息控除前税引後営業利益
(NetOperatingcashProfitsAfterTaxes
butbeforeanyinterestexpenditure)
に寄与した資源セット利用の変化を表して
投下資本 = 事業に投資された経済資本の
いる。
ことで、株主資本および負債を含むが、無
経済付加価値との連携
株主価値アプローチについて考えてみる
と、その主たる目的は、株主の富の長期的
な最大化である。これは特に、株主価値の
増大が企業の成功に欠かせないとされる
まず、具体的な資源 X ir の利用に対する企
中規模企業に当てはまる。株主価値アプ
業 iの経済生産高を決定する。次に、機会費
ローチを実務レベルで導入するための評
用を考慮するためにベンチマークと比較す
価指標はいくつかあるが、実践段階でも
る。ベンチマークの演算項目を企業の演算
っとも広く採用されている手法の一つは
項目から差し引いた計算結果が、価値スプ
経済付加価値( EVA: Economic Value
レッドとなる。企業 iが利用する資源の価値
Added)である。EVAは、広く普及している
利子の流動負債は含まれない。
1
WACC=加重平均資本コスト(
Weighted
AverageCostofCapital)
経済的利益とは、NOPATが資本コスト
(投
を上まわった分であり、す
下資本 x WACC)
なわち、企業に資本を「貸した」株主を満足
させるために企業が生み出さなければな
らないリターンを指す。実務上、EVA の真
のメリットは、計算しやすく、わかりやすいと
いう点である。価値創造のプロセスが、素
早く簡単に明らかになるのである。利益を
1
WACCの計算法についてはFaupelほか、2010年、p.57
を参照
13
「 EVAの真のメリットは、計算しやすく、
わかりやすいという点である。」
最大化する、投下資本を減らす、WACC を
EVA 指標は、絶対的 SVA のみならず、相対
Resources Owned)とを足して、TSVAを
下げるといった方向性は、いずれもEVAを
的 SVAとも統合できる大きな可能性を持
求める。
高める原動力となる。
っている。どちらの概念も過去のデータを
TSVA=RO+MSVA
見るものだが( SVA の従来の方法は、当期
このようにして、企業の持続可能性への貢
EVAの専門用語を使えば、投資家の期待は、
市 場 付 加 価 値( M VA : M a r ke t Va l u e
Added )という概念によって考慮すること
ができる。これは、企業の市場価値(時価総
額)から資本を差し引いたものである。
MVA = 市場価値 − 資本 = 将来の全EVAの
EVA
現在価値 = ∞
(1 + WACC)
献実績をすべて評価する方法が完結する。
ある)、明確な違いがある。前頁の SVA に
企業が業績を評価する際にEVA あるいは
関する計算式に示されたとおり、SVA の新
MVAに加えてSVAを採用したならば、従業
たな概念が動的プロセスを表すのに対し
員のモチベーションを高めるとともに、株
て、EVA 指標は、一定期間のみを評価する
主との対話を円滑に進めることが可能とな
もので、各期間の相互依存性は考慮に入れ
るだろう。
こうしたEVA の問題
ない。MVA の導入は、
された将来的な見込みを統合することによ
される。市場価値の増加を企業の事業資
産( BA: Business Assets )に加えること
により、企業価値( FV: Firm Value )を算
出することができる( Faupel ほか、2010
年、p.59)。
り、MVA 指標に類似したモデルを導き出す
ことができる。持続可能性への付加価値の
総量(TSVA: Total Sustainable Value
Added 、持続可能性の向上への企業の貢
献の総量)は、次のように算出することがで
きる。
(1 + WACR)
大化に合致した意思決定を促進し、それに
の主なメリットの一つは、透明性の向上で
ただし、
ある。これは、株主が事業について、また
MSVA=市場SVA=持続可能性向上への
えることもできる)
との相互作用について
SVA 、株主価値マネジメント、および EVA
といった概念が結びつくことにより、大き
な相乗効果を生む可能性が出てくる。一般
に認められた標準的な業績評価ツールは
通常、資本収益率( ROC )のみを考慮する
が、SVAという概念はその先を行くもので
ある。SVA は、機会費用を考慮するのみな
MSVA = MSV−資源 = 将来の全 SVAの
SVA
現在価値 = ∞
企業によるEVA の採用は、株主価値の最
事業と外部からの影響(外部コストととら
相乗効果の実現
らず、企業の持続可能性の三つの側面を
FV = BA + MVA より意思決定プロセスを支援する。EVA
ではなく、前期の SVAを評価するのが常で
を補おうとするものである。SVAにより示
このようにして、将来的な EVA 総額が推計
市場の貢献
導入しているため、非常にユニークな効果
を上げる。その結果、通常は標準的な財務
業績の評価に限定した見方が、拡大発展さ
れる。さらに、SVAという概念は、株主価値
マネジメントのパターンや、金融市場の業
績評価に依拠している。
SVAという概念の中心にあるのは、持続可
WACR = 加重平均資源コスト(Weighted
2
AverageCostofResources)1
と、その取り組みの強みと弱みを示すこと
て調整できるので、非常にフレキシブルな
将 来 期 待 さ れる S VA の 合 計 を 計 算し、
である。
指標である。
MSVA の増加分と企業の自己資源( RO:
理解を深められるということである。さら
に、EVA は、特定の要件に合わせて変換し
2
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WACRの計算は、WACCに類似した形で計算される。株
主資本は企業が所有する資源に等しく、負債は企業が借
りている資源に関するものである。
能性向上への企業の貢献を評価すること
企業における持続可能性への
取り組みの評価
「 SVAという概念の中心にあるのは、
持続可能性向上への企業の貢献を評価することと、
その取り組みの強みと弱みを示すことである。」
Win-Winの状況
この仮説を図解し
いると言えよう。図 2は、
たものである。
企業における持続可能性への取り組みの
目的は、直接的および間接的なステークホ
も満たされるのであれば、一つの側面(こ
ルダーのニーズを満たすことである。
「株
こでは経済面)の最大化は、株主価値の向
主価値アプローチ」の一番の目的は、株主
上という目的と併せて行われた場合、Win-
価値すなわち富を最大化することである。
Win の状況をもたらす。左側の矢印は、企
それゆえ、
この二つの概念を同時に用いた
業における持続可能性への取り組みに対
場合、双方にかなりの利益があるWin-Win
の状況が生み出される。従来から考慮され
ている経済的側面の目標は、
「 企業価値の
まとめ
他の二つの側面(環境面、社会面)の要件
TSVAは、持続可能性への取り組みを評価
しようという企業にとって、優れたモデルに
なり得る。
さらに 、E VA と S VA は 類 似 性 を 持 つ た
め、EVAの実用面での利点はSVAにも見ら
する外部からの影響を表す。右側の矢印の
れる。SVA は、誰にでもわかりやすいだけ
「…」は、人口、政治、気候の変動など、そ
でなく、透明性があり、計算も簡単なため、
のほかの影響要因を表している。あらゆる
持続可能性に向けた企業の目標設定や価
影響がこの部分に列挙できるため、
「 …」と
値ベース評価の導入に役立つであろう。
向上」であり、これは株主価値の最大化と
いう目標と複雑に絡み合っている。従って、
トリプルボトムラインの経済面の柱は、株
してある。
主価値アプローチと持続可能性重視とい
将来の展望に重点が置かれている、
という
う二つの不可欠な概念により構成されて
点ではどちらのアプローチも同じである。
図2. 株主価値アプローチと持続可能性重視とを結合する「経済面の柱」
持続可能な発展
マクロレベル
企業における持続可能性への取り組み
ミクロレベル
...
技術
...
社会
経済面
文化
株主価値
マネジメント
環境面
社会面
...
15