ブロック玩具の教育利用 「化学反応式のブロック玩具による翻訳」

年次活動報告書 2012
ブロック玩具の教育利用
「化学反応式のブロック玩具による翻訳」
所属
京都大学大学院工学研究科
名前
堀越
亮
使って作り分けられている。ここでは、ジ
ルコノセン触媒とプロピレンのブロックモ
デルを使って、立体制御されたポリプロピ
レンのモデルが組みあがる様子を解説した。
ブロック玩具で遊ぶとき、たくさんのブ
ロックを使って建物や動物を組み立てるの
も楽しいが、動く部品を組み込んで自動車
や飛行機を組み立てて、それらを動かせば、
楽しさはさらに増していく。これまでにも、
ブロック玩具は化学教育の現場に登場して
きたが、主に分子模型の代替品として化学
の「静」の部分、分子構造や集積構造を説
明するのに利用されてきた。本研究では、
ブロック玩具の動く部品とマグネットを組
み合わせたブロックモデルを使って化学の
「動」の部分である化学反応(特に触媒反
応)を説明する方法を開発することを目的
とした。近年の日本人化学者のノーベル化
学賞受賞により、触媒化学に興味を持って
講義に臨む学部学生が多いが、その複雑さ
ゆえ講義内容を難しいと感じ、徐々に興味
を減じている者もいるようだ。学部学生の
触媒化学への興味を繋ぎ止め、高校生が触
媒化学を学ぶためのはじめの一歩を提供す
る、そういった楽しめて分かりやすい教材
の開発を目指した。
ブロック玩具を用いて、下記の触媒反応
の分かりやすい説明方法を開発した。
メタロセン触媒の形状と
ポリプロピレンの立体規則性との相関
(左)化学式で描いたもの
(右)ブロック玩具で表現したもの
―ルテニウムーカルベン錯体によるオレ
フィンメタセシス反応
一般に原子間の結合の数が増えれば、そ
の結合強度が増し切断することが困難にな
るが、いくつかのルテニウム―カルベン錯
体は、炭素-炭素間の二重結合を選択的に
切断・再結合することができる(オレフィ
ンメタセシス反応)。ルテニウム―カルベン
錯体を使って環状オレフィン(二重結合を
持つ輪状の化学種)を連結し高分子を得る
手法は ROMP と呼ばれる。ここでは、ル
テニウム―カルベン系触媒の一つ、グラブ
ス触媒を用いたシクロペンテンの開環重合
のモデルを作製した。
―メタロセン触媒の形状とポリプロピレ
ンの立体規則性との相関
ポリプロピレンはその立体構造から三種
類に分類されており、私たちが普段の生活
で目にするポリプロピレンは iPP と呼ば
れ、高分子鎖の一方の側にメチル基(とげ)
が張り出す構造を持つ。残りの二つは、sPP、
aPP と呼ばれ高分子鎖に対して、それぞれ
メチル基が互い違い、ランダムに張り出す
構造を持つ。この三種類のポリプロピレン
は、ガス状のプロピレンを原料として、異
なる形状を持つ三種類のメタロセン触媒を
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年次活動報告書 2012
―パラジウム触媒を用いたクロスカップ
リング反応
パラジウム触媒やニッケル触媒を用いて
炭素-炭素結合を生み出す、クロスカップ
リング反応を利用して化石燃料から多くの
有用な製品が生み出されている。2010 年に
当該分野がノーベル化学賞を受けたことも
あり、化学系学生のみならず高校生や一般
からの関心も非常に高い。ここでは、根岸
クロスカップリング、Stille クロスカップ
リング、そして、薗頭―萩原クロスカップ
リング反応を表現できるモデルを作製した。
ROMP による高分子鎖の伸長の様子
(左)化学式で描いたもの
(右)ブロック玩具で表現したもの
―BINAP―ルテニウム錯体による触媒的
不斉水素化反応
香料や医薬品として利用される分子のい
くつかは鏡像異性体を持ち、一方の異性体
が香味や薬効を持つことが知られているが、
通常の有機合成では鏡像異性体が1:1の
割合で含まれるラセミ体が得られてしまう。
古くは植物などから有用な一方の異性体の
みを抽出していたが、触媒的不斉水素化反
応の開発と発達とともに、有用な異性体を
大量生産することが可能となった。ここで
は、BINAP–ルテニウム錯体を用いた β-ケ
トエステルの不斉水素化による β-ヒドロ
キシエステルの合成のモデルを作製した。
ケトエステルが配位した
BINAP-ルテニウム錯体の模式図
(左)化学式で描いたもの
(右)ブロック玩具で表現したもの
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根岸クロスカップリングの例
(左)化学式で描いたもの
(右)ブロック玩具で表現したもの
まとめ
ここで紹介したブロック玩具による教材
だけでは、触媒化学を深く理解することは
難しいが、教科書の記述や教員の解説と組
み合わせれば、楽しく分かりやすい授業が
構成できる。
本研究によ
り得られた成
果のいくつか
は、化学教育
誌に投稿中で
あり、大学の
セミナーや高
高等学校での講義の様子
等学校での出
張授業などで紹介してきた。将来的には、
オープンコースウェアや YouTube を使っ
て、ブロックの動きを収めた映像を世界へ
配信していく。