学校の教育目標 「拓く」 凌霜の心で拓く高鷲中 平成23年3月1日 発行 第11号 郡上市立高鷲中学校 TEL72-5017 FAX72-5020 「情けは人のためならず」 校長 片桐 一男 第10号で『わたしは就職します』という文章を紹介しました。M子さんのその後のエピソードをもう一つ紹介 します。 朝の会の前,班での自主的な勉強会のとき,M子は突然泣きくずれた。 「みんなが一生懸命に教えてくれるの に,私は数学が全然わかりません。 」 彼女は,高校進学をあきらめ,就職という道を選び取っていた。学級でただ一人の就職。きっとさびしい思 いも強かっただろう。しかし,一度就職と決めてからの姿は立派だった。会社訪問で, 「社会に出たら挨拶が大 切です。 」と言われ,毎朝教室の入り口に立って,学級の生徒たちと握手して挨拶をする活動を始めるM子。学 級の生徒たちも,恥ずかしそうにもじもじしているM子に,自分たちから手を差し出した。 (これがみんなと勉 強する最後の機会だから) , (社会に出たとき,高校卒業の人たちにも負けないように)という思いで,M子は 授業でも積極的に手をあげて参加しようとがんばり始めていた。 そういうM子の姿に,同じ班の生徒たちも学級の仲間たちも教えられることが多かった。彼女の班では,M 子を中心として自主的な勉強会が始まった。また,M子が,就職する生徒のための激励会で代表として挨拶す ることが決まると,給食の準備の時間に彼女と班長のK子の姿が見えなくなることがたびたびあった。不思議 に思い,K子に聞いてみると, 「M子さんの挨拶の練習に,体育館に行っていました。 」と言う。M子の挨拶の 原稿を見ると、赤ペンで話し方の注意点などがびっしりと書き込んである。K子が書き込んだものだった。が んばっているM子の姿を見て,何とかM子にやりとげた満足感や自信をもってほしいと考えたのだろう。 だからこそ,彼女は悔しくてたまらなかったのだ。いくら教えてもらっても,自分で一生懸命に努力しても, 数学がわからないことに。M子の心のさけびだった。それほど彼女は真剣だったのだ。 卒業式の日,今まで学級のリーダーとしてみんなのためにがんばり続けてくれた学級委員のN男に,学級全 員から花束を渡そうと計画していた。予定通りに彼に花束を渡すと,N男は予想外の行動をとった。彼は, 「ぼ くたちが卒業までがんばってこられたのは,M子さんのおかげです。M子さんの一生懸命な姿を見ていると, 自分たちもいいかげんではいられませんでした。M子さんを助けるつもりでやっていたのに,実はぼくたちの 方こそM子さんに教えてもらっていたのだと思います。自分の進路を決めること,これからの人生を決めると いうことの大切さや,卒業までの時間のかけがえのなさを教えてもらったのは,ぼくたちの方です。この花束 は,M子さんに受け取ってほしい。 」そう言って,M子に花束を手渡した。 そのときの,本当にうれしそうなM子の笑顔は,今でも忘れられない。 岐阜市で3年生の学級担任をしていたときの記憶をたどって書きました。かなり前のことなの に,M子さんの笑顔は,今でもはっきりと思い出せます。私が『情けは人のためならず』の大切さ を学んだのも,やはりM子さんからなのです。生徒の皆さん,このことわざの意味がわかりました か。私は,このことわざの意味が実感できることが,本当の意味での「卒業」や「進級」だと考え ています。
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