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Title
ニホンツキノワグマ (Ursus thibetanus japonicus) による林木
剥皮害に関する研究( 内容の要旨 )
Author(s)
吉田, 洋
Report No.(Doctoral
Degree)
博士(農学) 甲第247号
Issue Date
2002-03-13
Type
博士論文
Version
URL
http://repository.lib.gifu-u.ac.jp/handle/123456789/2588
※この資料の著作権は、各資料の著者・学協会・出版社等に帰属します。
吉
名(本個)籍)
氏
洋
田
学
位
の
種
類
博士(農学)
学
位
記
番
号
農博甲第247号
日
平成14年3月13日
学位授与年月
(新潟県)
学位授与の要件
学位規則第4条第1項該当
研究科及び専攻
連合農学研究科
生物生産科学専攻
岐阜大学
研究指導を受けた大学
学
位
論
文
題
目
ニホンツキノワグマ(払打β班蕗eね刀びβ毒血血剥こ
よる林木剥皮害に関する研究
審
査
委
員
会
論
文
進
主査
岐阜大学
教
授
林
副査
岐阜大学
教
授
吉
崎
範
夫
副査
静岡大学
教
授
小
鴨
睦
雄
副査
信州大学
教
授
小
池
正
雄
副査
教
鵬大学齢矩珊究科
授
坪
田
敏
夫
の
内
容
の
要
旨
1.本論文の研究目的
ニホンツキノワグマ(以下クマ)による造林木の樹幹表面部摂食により、林木の樹皮が
はがされ.(以下クマハギ被害)、林業経営に大きな被害を与える現象が目立っている。こ
れに対応する被害防除策として、有害獣駆除の名目でクマの個体数調整のための射殺が行
われ、クマの絶滅を鱒く危険性が生じている。この現実に鑑み、本論文ではクマハギ被害
の発生プロセスを明らかにし、生息環境である森林管理技術の開発により、被害の軽減策
を幕じ、クマの絶滅を救い、林業との共存をはかる方策を堤起することを目的としている。
野生動物の保護管理の重要性が認識され、行政的な対応策が整備されつつある現状に照応
した、有意義な研究課題の設定が行われている。
2.本論文で明らかにされていること
(1)クマによる樹幹表面部摂食に関しては、その事実関係の有無について諸説紛々であ
ったが、本論文では糞分析の結果を踏まえ、クマが明らかに樹幹部を摂食している事実卓
証明し、学会における論争に決着をつけた。
(2)クマによる林木剥皮害には年次変動があることを発見し、その要因が栄養価の高い
主要な食物種の豊凶変動に連動していることを実証した○また、その食物種の豊凶変動が
クマの栄養状態を大きく規定することを、血液中のヘモグロビン濃度の測定に妄り解明し
√た。
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(3)クマの栄養状態の水準と主要食物現存量との相関関係により、クマハギ被害の発生
度合いが規定されることを実証し、この両因子の組み合わせの結果により、林木剥皮害の
年次変動が発生する機構を明らかにした。
(4)クマの生息弄境である森林地帯の植生の違いが、クマの食物現存量を規定している
ことを明らかにし、研究フィールドである岐阜県根尾村の森林環境に対する豊かさの評価
を行った。その結果、陽性樹種で液果類の生息を伴う林地が、食物環境の豊かさを示して
いることを推計学的に明らかにした。
以上の実証成果により、食物環境と栄養環境の両因子間の相関関係のもとで、クマハギ
被害の発生並びにその量的規定がなされることを実証した。そしてその結果を踏まえ、こ
の両国子をコントロールする森林環境管理技術を開発すれば、クマハギ被害をある程度以
下の水準で防止できる可能性を示した。具体的には、小面積区画伐採、孔状皆伐などの森
林作業種が提示されており、実現可能性の高い提案となり得ている。
本論文は、我が国において未発達な分野である野生動物管理学の領域に対して、森林環
境計画の視点からアプローチしたもので、有害獣駆除にかわるクマの個体群保全に有効な
対策を提起する実証論理を構築している。
審
査
結
果
の
要
旨
1.審査に当たっての重点課題
吉田洋の論文に対する審査の重点課題は、ツキノワグマの食性研究、血液学的分析によ
る栄養状態解析、食物環境の評価という生息環境要因に関わる研究成果と、林業への被害
として社会問題化しているクマハギ被害の実態把握とその対策可能性の提起とを、どう論
理的並びに実証的に結び付け、体系化されているかにおかれた。なぜなら、このような手
法並びに成果は、未だ我が国における林学および野生動物学領域において、前人未踏のも
のであったからである。
2.審査結果
(1)前述した重点課題に込められた研究手法は、きわめて独創的かつ野心的であるとと
もに研究の総合性を確保しており、社会的に大きなインパクトを与えうると高く評価され
る。ともすれば個別の事象にとらわれがちなフィールド科学分野において、これだけのス
ケールでの研究スタイルを追究することは、今後の斯学の発展にとって大きな一歩をなす
ものである。
(2)ツキノワグマの食性と生息環境である森林地帯の食物供給力の判定とを連動させる
試みは、従来岐阜大学農学部環境計画学研究室(旧森林経営学研究室)においてニホンカ
モシカを対象にとられたのが、本邦初であった。吉田洋はこの手法をさらに成熟させ、両
者の相関性を実証した。これは、総合的な森林環境管理学の発展にとって、きわめて重要
な成果である。
(3)吉田洋の研究は、岐阜大学農学部獣医学科坪田研究室との共同研究を基軸に進めら
れた。この結果、血液学的知見に伴うクマの栄養度判定と行動生態とを関連づける理論が
導かれた。これは学際的研究スタイルのみが生み出しうる成果であり、研究のスケールを
伺わせるに十分な成果である。連合大学院所属の学徒としてとられたこの研究スタイルは、
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研究指導システム編成に関わる我々指導教官自体に、深い教訓を与えたと評価する。
(4)学術研究が必ずしも社会的な要望に即応しないのは、ある場合にはやむを得ないも
のではあろう。しかし、研究対象とした事象が、社会的な解決緊要性を持つならば、研究
成果はまさに社会の要請に対応できる内容と水準とを確保されねばならないのも事実であ
る。吉田洋の研究は、クマハギ被害防除への森林管理技術面からの解決方策を提示するも
のであり、社会と緊張関係のもとで研究を進めるというスタイルを見事に確保し得ている。
ツキノワグマの個体群保全と森林産業との共生を目指す上で、この研究成果は重要な契機
となりうる。
以上の審査結果を踏まえ、審査委貞全員本論文が吉田洋に対する岐阜大学大学院連合農
学研究科の学位論文として十分価値あるものと認めた。
基礎となる学術論文
1.吉田洋・林進ほか:ニホンツキノワグマ(仇〟∫娩加加〟∫ノ甲0乃ね〟∫)による林木剥皮
と林床植生の関係、日本林学会誌、83(2)101-106,2001.
2.吉田洋・林進ほか:ニホンツキノワグマ(仇〟∫鋸占e加〟∫ノ甲0〝血∫)によるクマハギ
の発生原因の検討、日本ほ乳類学会誌(審査終了、印刷中、2002年).
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