境界面温度による発生圧力の分子気体潤滑(MGL)解析 (DSMC 解析との比較) Molecular Gas-film Lubrication (MGL) Analyses of Pressure Caused by Boundary Temperature (Comparison with DSMC Analyses) 鳥取大・院(非)*若林 諒 鳥取大・工(正) 松岡 広成 鳥取大・院(非)北川 直哉 鳥取大・工(正)福井 茂寿 松江高専(正)山根 清美 Ryo Wakabayashi*, Naoya Kitagawa*, Kiyomi Yamane**, Hiroshige Matsuoka*, Shigehisa Fukui* * Tottori University, ** Matsue College of Technology 1. はじめに コンピュータ用のハードディスク装置では,超微小す きまの気体潤滑作用によりナノメータオーダーの浮上が 達成されているが,さらなる高記録密度化のため熱アシ スト磁気記録(HAMR)の検討 (1) やスライダ加熱方式 (TFC)の実用化が行われ(2),浮上特性の解析が進められ ている(3)-(6).本研究では,平行平板間や傾斜平面間に局所 的な矩形の温度分布がある場合の分子気体潤滑特性を, 境界面温度を考慮した分子気体潤滑(MGL)方程式を用 いて解析を行った.さらに,平衡状態からのずれ量が小 さい場合に有効な改良モンテカルロ直接シミュレーショ ン(DPMC)法を用いた解析(7) (8)との比較を行い,有効性 を確認した. 2. 分子気体潤滑方程式 2.1 境界面温度を考慮した分子気体潤滑(MGL)方程式 境界面温度を考慮した定常状態の分子気体潤滑(Molecular Gas-film Lubrication : MGL)方程式は,次式である(3) (4). d ⎧⎪ PH 3 dP P2 H 3 dτW PH ⎫⎪ − QT ( D) −Λ ⎨QP ( D) ⎬ = 0 (1) 2 1 + τW dX 1 + τW ⎪ dX ⎪ (1 + τW ) dX ⎩ ⎭ ここで,P (= p/pa, pa:大気圧) は無次元圧力,H(= h/h0)は無 次元すきま量,τW (= TW /T0-1)は無次元境界面温度,Λ(= 6μUl / pah02) はベアリング数,X (= x/l)は無次元座標,Q( (= QP P D) /QPcon), Q( (= QT /QPcon),QPcon はそれぞれ圧力流れ,熱 T D) ほふく流,連続流の圧力流れの流量係数比,D は逆クヌッ セン数である. なお, QT を含む項は熱ほふく流による 流量を示し,気体の粒子性を表すパラメータであるクヌ ッセン数 Kn(= λ /h = π ( 2D ) , λ :分子平均自由行程)が 無視できなく,かつ境界面に温度勾配が存在する場合に, 低温部から高温部に向かって生ずる分子気体力学に特有 な流れ(9)-(11)による流量である. 2.2 解析対象と解析手法 図1に示す局所的な矩形の温度分布を考える.無次元境界面 温度τW は,温度印加部の温度をτWCとして,式(2)で表される. ( Region I : 0 ≤ X ≤ X 1 ) II : X 1 ≤ X ≤ X 2 ) ( III : X 2 ≤ X ≤ 1) ( ⎧ 0, ⎪ τ W = ⎨ τ WC , (2) ⎪ 0, ⎩ 図 1 の温度分布を対象にする際,温度ステップ部(X = X1 および X = X2)を含め有限体積法により数値解析を行った. この時,熱ほふく流の原因となる境界面温度勾配を考慮し Z Slider h1 h0 Disk τW τWC 0 X U II Region I X1 III X2 1 X Fig. 1 Molecular gas-film lubrication with local boundary temperature distribution ないため,式(3)を扱うことになる. d ⎧ PH 3 dP PH ⎫ −Λ ⎨QP ( D ) ⎬=0 1 + τ W dX 1 + τW ⎭ dX ⎩ (3) 式(3)を対象に,i)2 つの近似解の導出および ii)任意の大 きさのτW に対して有限体積法を用いた数値解析を行った (分割数 1000).なお,流量係数比 Q P ( D ) は,データベー スを用いた(9). 3. 2 つの近似解 3.1 境界面温度τWC が微小な場合の線形近似解 式(3)において,下面が走行している平行平板(H≡1) を考える.温度上昇τ WC が微小な場合(τWC <<1)の線形 解は,次式のように表せる. 領域 I( 0 ≤ X ≤ X 1 ) τ q P ( X ) = 1 + WC 0 e Λ X − 1 2 Λ ( ) (4) 領域 II( X 1 ≤ X ≤ X 2 ) τ ⎡ q ⎤ Λ X − X P ( X ) = 1 + WC ⎢ 0 e Λ X − 1 − 2 e ( 1 ) − 1 ⎥ 2 ⎣ Λ ⎦ ( ) { 領域 III( X 2 ≤ X ≤ 1 ) τ q Λ X −1 P ( X ) = 1 + WC 0 e ( ) − 1 2 Λ ( ) } (5) (6) ここで, Λ = Λ Q P 0 は修正ベアリング数であり,QP 0 は 基準のすきまおよび圧力における圧力流れの流量係数で ある.このΛ は分子気体潤滑効果を考慮したベアリング 数であり,圧力発生の指標となることが知られている(12). また, q0 は流量に対応し以下の通りである. q0 = 2Λ e Λ ( X 2 − X1 ) eΛ X 2 − e −1 Λ ( X 2 −1) (7) 3.2 ベアリング数無限大(Λ →∞)の近似解 式(1)あるいは式(3)において,ベアリング数が無限大の近 似解は,特に図 1 に示すような形状については,次式となる. H P Λ →∞ = 1 (1 + τ W ) H1 : 流入端すきま (8) H 4. 解析結果 4.1 平行平板間の発生圧力(MGL 解析) 図 2 は,作動気体を空気,基準温度 T0 = 293 K(20 ℃), すきま量 h0 = 100 nm,下面走行速度 U = 1 m/s,スライダ 長さ l = 1 mm として,境界面温度τWC を変化させた場合の 圧力分布である.境界面温度τWC が微小な場合には数値解 と線形解の両者はよく一致し,境界面温度τWC を増加させ ると発生圧力が増加し差異が生ずる. 4.2 傾斜平面間の発生圧力(MGL 解析) 図 3 は,作動気体をアルゴン, 基準温度 T0 = 273 K(0 ℃), 下面走行速度 U = 50 m/s,スライダ長さ l = 5 μm,傾き h1/h0 = 2,温度分布の範囲を 0.89 ≤ X ≤ 0.91 ,すきま量 h0 を変 化させた場合の圧力分布(数値解)である.すきま量 h0 が Heat spot Slider h0 h1 Disk τWC Region I (3) (4) X1 0 (4) (5) (6) (7) (8) (9) (10) (11) (12) (13) (14) (T0 : 293 K) X2 1 X h0 = 100 nm –6 μ = 22.3 ×10 Pa⋅s l = 1 mm U = 1 m/s ∼ (Λ = 15) 1 0 τWC = 2 1 0.5 0.1 0.01 (X1, X2) = (0.875, 0.925) 0.5 X1 X2 1 Nondimensional Position, X Fig. 2 Comparison of numerical results with linearized solutions (MGL) Z Slider h1 h0 Disk τW τWC 3 τWC = TWC /T0 –1 X U II Region I X1 0 III = 1.46 TWC : 673 K T0 : 273 K X X2 1 Gas : Ar h0 ∼= 50 nm (Λ = 9.4) h0 = 5 nm τWC = 1.46 ∼ (Λ = 68) Approx. sol. ( Λ→∞) 2 (X1, X2) = (0.89, 0.91) U = 50 m/s l = 5 μm –6 μ = 21.0 ×10 Pa⋅s h1/h0 = 2 τWC = 0 Heat spot 1 0 X1 X2 1 0.5 Nondimensional Position, X Peng, W., Hsia, Y., Sendur, K., McDaniel, T., Tribology International, Vol. 38, (2005), pp.588-593. Kurita, M. et al., IEEE Trans. Mag, Vol.41, No.5, (2005), pp. 3007-3009. Fukui, S., Yamane, K. and Matsuoka, H., IEEE Trans. Mag, Vol. 37, No. 4, (2001), pp. 1845-1848. Fukui, S. and Kaneko, R., ASME J. Tribol., Vol. 110, (1988), pp. 253-262. Myo, K., Zhou, W., Yu, S., Hua, W., Microsyst Technol, Vol. 17, (2011), pp. 903-909. 北川直哉,松岡広成,福井茂寿,日本機械学会 2011 年度年 次大会,東京工業大学,(2011), S165014. Yamane, K. and Fukui, S., ITC Hiroshima 2011, (2011). 山根清美,錦織周平,井戸原広樹,松岡広成,福井茂寿,日 本機械学会 2012 年度年次大会,金沢大学,(2012) , S162016 福井茂寿,勝原大輔,山根清美, 松岡広成,トライボロジー 会議予稿集,宇都宮,(2001), pp. 57-58. 福井茂寿,“MEMS への空気軸受の適用”,トライボロジス ト,第 49 巻第 2 号, (2004), pp. 134-140. 曽根良夫・青木一生,分子気体力学,朝倉書店,(1994) Fukui, S. , Matsuda, R. and Kaneko, R. Trans. ASME, Vol. 118, (1996), pp. 364-369. 山根清美,福井茂寿,日本機械学会論文集 (C 編) 67 巻, 653 号, pp.246-253 (2001) 山根清美,福井茂寿,日本機械学会論文集 (C 編) 67 巻, 663 号, pp.3618-3626 (2001) Fig. 3 Pressure distributions for different spacings (MGL) l = 5 μm Nondimensional Pressure, P (2) (3) τWC = TWC /T0 –1 III Numerical results Linearized solution 1.5 文献 (1) II Gas:Air 5. 増加し,これに伴い発生圧力が増加し,ベアリング 数無限大の近似解に近づく. 傾斜平面間の発生圧力は,等温時のくさび効果によ る圧力に加えて,温度分布が存在する範囲での急激 な圧力上昇が生じる. 下面走行する傾斜平面間に局所的な矩形の温度分布 がある場合の DPMC 解析と MGL 解析による発生圧 力を比較し,両者がよく一致することを示した. X U τW Nondimensional Pressure, P まとめ 超微小すきまを介して対向する平行平板間や傾斜平面 間の境界面に温度分布が存在する場合の分子気体潤滑 (MGL)の基本特性を明らかにした.特に,局所的な矩 形の温度分布を有する場合を対象に,境界面温度τW が微 小な場合の線形近似解,ベアリング数無限大の近似解を 求め,任意の境界面温度の場合の数値解析結果と比較し た.さらに,改良モンテカルロ直接シミュレーション (DPMC)法を用いた解析との比較を行った. (1) 有限体積法を用いた数値解析と線形近似解(τWC <<1) とを比較することにより,数値解析結果の妥当性を 確認した. (2) すきま量 h0 を減少させると,修正ベアリング数 Λ が Z 2 Nondimensional Pressure, P 減少するほど発生圧力は増加し,温度分布が存在する範 囲で急激に発生圧力は増加する.また,数値解はベアリ ング数 Λ → ∞ の解である式(8)に近づく. 4.3 DSMC 解析との比較 これまで気体潤滑問題への DSMC 解析の適用が進めら れているが(13) (14),気体潤滑問題では扱う速度が比較的小さ いことから,平衡状態を得るのに多大な計算時間を要して いた.このため,平衡状態からの偏差のみを扱う改良モンテ カルロ直接シミュレーション法(DPMC : Deviational Particle Monte Carlo 法)が提案され,それを用いた解析が試みられ ている(7) (8). 図 4 は,DSMC 解析と MGL 解析において,図 3 の条件 を用いて 2 つのすきま量 h0 = 50, 6.25 nm の場合の圧力分 布を比較したものである.図 3 の場合と同様に,等温時 のくさび効果による圧力および温度印加による圧力発生 は,すきま量 h0 の減少に伴い著しくなり,ベアリング数 無限大の解に近づいている.また,MGL 解析と DSMC 解 析は互いによく一致している. μMGL = 21.0 ×10 Pa⋅s –6 U = 50 m/s 3 DSMC (Upper) MGL (Numerical results) τWC = 1.46 Gas:Ar τWC = TWC /T0 –1 h1/h0 = 2 (X1, X2) = (0.89, 0.91) Approx. sol. ( Λ→∞) Z Slider 2 h1 h0 Disk 0 h0 =∼6.25 nm (Λ = 57) X U τW τWC = 1.46 TWC : 673 K T0 : 273 K II Region I X1 III X2 1 h0 ∼= 50 nm (Λ = 9.4) X Heat spot 1 0 0.5 X1 X2 1 Nondimensional Position, X Fig. 4 Comparison of DSMC (Upper) with MGL analyses
© Copyright 2024 ExpyDoc