国際的コンセンサス標準化と敵対的企業間統合の関連性の - 立教大学

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(様式1)
立教SFR-個人-報告
立教大学学術推進特別重点資金(立教SFR)
個人研究費
2009年度研究成果報告書
所属・職名
研究代表者
研究課題
経済学部
経済政策学科
氏 名
助教
荒井
将志
印
国際的コンセンサス標準化と敵対的企業間統合の関連性の分析と企業戦略に
関する研究
研究期間
2009
研究経費
500
年度
千円
研究の概要(200~300字で記入、図・グラフは使用しないこと)
本研究は、国際経営論と経営戦略論の視点から、国際的コンセンサス標準化に注目しながら業界の競争環境下における企業の戦略的行
動について分析を行い、その論理を明らかにすることを目的としている。本研究の仮説では、コンセンサス標準化後の競争環境下では、
競合する企業間で差別化が十分に図れず、その結果、企業は規模の経済性の追求により低コスト化による競争優位性を獲得しようと戦略
的に重視するため、敵対的企業間で統合を図り、市場の寡占化を狙ってより大きな規模の経済性を追求しようとする、と考えている。こ
のような諸点を解明するべく、上述の関連性を実証的分析し、イノベーション理論の再検討と、企業の競争行動について理論的な再検討
と再構築を試みるものである。
キーワード(研究内容をよく表しているものを3項目以内で記入。)
〔
国際経営戦略
〕
〔
特許権管理
〕
〔
グローバル業界標準化
〕
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(様式2-1)
立教SFR-個人-報告
研究成果の概要(図・グラフ等は使用しないこと。)
本研究では、国際的コンセンサス標準化に注目しながら業界の競争環境下における企業の戦略的行動について分析
を行い、その論理を明らかにすることを目的とした。なかでも特に、製造業の中でもハイテク産業のモジュール製品
を中心としたいくつかの業界(例えば、半導体や HDD 業界等)において、本来敵対的関係である企業同士の統合の事
例はいくつも観察されているが、その要因として製品または技術的規格のコンセンサス標準化が非常に大きな意味を
持っているのではないかと注目した。
そこで、先端技術産業の半導体の中でももっとも代表的で業界の歴史も長い DRAM 業界を取り上げ、分析を行った。
まず初めに、着手したことは、様々な業界が存在するが、業界の技術ライフサイクルの段階によって企業の標準化戦
略は変化するのではないかということである。
先端技術産業では、イノベーションのペースが早く、次々と新技術を開発し続けてゆかなければすぐに陳腐化して
しまう。ゴーイング・コンサーンである企業が永続して発展してゆくためには、差別化を図るための製品技術であれ
低コスト化を図るための工程技術であれ、イノベーションは重大な経営課題である。しかしながら、先端技術産業に
おいて代表的な半導体の DRAM 業界に注目してみると、活発にイノベーションを行っているのにもかかわらず 、DRAM
が誕生してから今日に至るまでに数多くの企業が多くの入退出や統廃合が行われており、永続している企業はほとん
どないといえる。ただし、そうした企業の多くは企業間統合や事業のスピンアウトによって企業の形を変えながら業
界で競争を続けている場合も見られる。これらのことは、単にイノベーションを行っているだけでは企業の技術戦略
として不十分であり、何かしら業界に起こる変化に適合した技術管理が必要であることを示唆していると考えられる。
本研究では、このような業界のダイナミックな変化における企業の技術開発や技術管理と企業(事業)統廃合につい
て考察することを解明するべく、次のような視角から検討を行った。
第一に、イノベーションには発展段階やパターンが存在することはすでに先行研究によって明らかにされている。
したがって、企業が活動する技術環境は静態的ではなく動態的なはずであるので、どのような環境の変化が起こるの
かを確認する。第二に、企業にとってイノベーションの主たる目的は、他社よりも競争上の優位に立つためであるが、
企業の技術優位性と競争優位性は必ずしも合致せず、従来よりも優れている新技術であろうとも業界の標準から外れ
ている技術ではユーザーから評価されない場合がある。したがって、企業はビジネスとしてのイノベーションを行っ
ている以上、技術の新規性や性能の優劣だけに注目するのではなく、業界標準が企業の競争優位性に大きな影響を与
えていると考えられるため、業界標準化についても検討してゆかなければならないであろう。第三に、技術環境は動
態的に変化し、かつ業界標準が企業のイノベーション活動の重要な決定要因となるのであれば、技術の将来的な「不
確実性」が企業の戦略的行動に大きな影響を与えていると考えられる。すなわち、企業は、他社が開発していない新
技術の迅速な研究開発と、それがビジネス上利益につながるか、という二つの将来的な不確実性を抱えていると考え
られる。しかし、それらは、初期よりは後期の方が不確実性は低いと推察されるし、また業界標準決定前と業界標準
後では後者の方が不確実性は低いと推察される。
実証分析では、新聞・雑誌記事および各社ホームページから DRAM の世代ごとの競合する標準技術の多様性と市場シ
ェア、および産業ライフサイクルのデータを踏まえて、業界の隆盛から衰退へ向かって技術競争環境と企業間競争に
どのような関係があるのかを確認しようと試みた。そして、明らかとなったことは次のようなことであった。
まず、業界を長期的な視点で観察すると、その環境は動態的であり、各期で業界標準技術が決まっていた。ただし、
創世記・発展期では、生まれて間もない DRAM 技術である MOS を業界標準として数社が次第に業界に参入し、その技術
を漸進的に改良する競争が行われていた。それは、規格内競争に近く、参入企業を増やしながら、業界標準技術を普
及させるようでもあった。次に、成長期・普及期に至ると、それまでの業界標準からさらに一歩進んだ FPM、EDO が開
発され、これらは前期の MOS と互換性を有していたため容易に代替された。ここでは前期に比べ参入企業はある程度
固定化し、各社のシェアにも偏りが見られないため、各社が一定量の FPM や EDO を生産しており、ここでも規格内競
争の色合いが強い。そして、差別期・成熟期では、互換性のない技術が複数登場するようになり、次の業界標準がど
れになるのかをめぐる規格間競争が起こる。特に、各社は複数の規格の DRAM を生産しているが、各社のシェアには特
別大きな偏りがないため、業界標準を決めるために推進者・団体によってその期における標準を決めようと活動して
いた。最後に衰退期・回復期では、前期の業界標準となった JEDEC コンソーシアムの DDR がその後も長い期間業界標
準として位置している。DDR2、DDR3 と発展はしているものの、各企業はこの JEDEC の業界標準を生産しており、まさ
に規格内競争となっている。また、この期から業界は数社によって大きなシェアを握られている寡占状態になってゆ
く。その原因は、業界の企業間による事業統合や企業買収、および撤退が原因である。この傾向はその後も続き 2009
年には 4 社によって 96.4%を占めるほどになったのである。
※
この(様式2)に記入の、成果の公表を見合わせる必要がある場合は、その理由及び差し控え期間
等を記入した調書(A4縦型横書き1枚・自由様式)を添付すること。
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(様式2-2)
立教SFR-個人-報告
研究成果の概要(つづき)
以上から考察しうることは、第一に、先行研究においても述べられていたように、業界の技術環境は動態的で、い
わば誕生、普及、多様化、収束というような発展段階があり、各期において業界標準が確定している。しかし、あら
ためて長期的な視点からこれらを見直すと、技術の将来的な不確実性が次第に低下してゆくと考えられる。すなわち、
企業は他社が開発していない新技術の迅速な研究開発と、新技術がビジネス上利益に結びつき投資が回収できるか、
という二つの将来的な不確実性を抱えていると考えられるが、技術が誕生して間もない時期において企業は互換性の
ない多様性を生み出すことには、イノベーション面からもビジネス面からも不確実性が高くリスクが大きいと考えら
れる。その後、普及期を経て、ある程度技術の発展や性能において将来の不確実性が低下してくると、イノベーショ
ン面の不確実性が低下してゆく。第二に、企業は技術的に多様な製品を生み出し、差別化を図りながらビジネス面で
利益につながる業界標準を積極的に獲得しようという誘因が差別期・成熟期では働く。業界標準を獲得するために、
企業間の提携や団体協力が行われる。ところが、業界標準をめぐる規格間競争を経ると、競争に負けた企業は大きく
競争力を失い、一方、競争に勝った企業は提携・協力相手企業との規格内競争に陥る。ただし、規格内競争では、差
別化の余地が小さいため、技術的な点で差異を生み出しにくい。そうして至るのが衰退期・回復期である。第三に、
イノベーション面でもビジネス面でも不確実性が低下してくると、企業は他社との競争において新技術開発や業界標
準の獲得から利益をあげることのリスクが高くなってくる。まさに、イノベーション面でもビジネス面でも「標準的」
なものになってしまう。
先行研究の理論では、タッシュマン・オーライリー三世やクリステンセンらが指摘する代替技術が登場するサイク
ルの論理は、業界の技術発展に不確実性が高い段階では企業の積極的なイノベーション行動や標準化活動の誘因とし
て説明されうるが、それは次第に失われてゆく。そして、業界の競争は、規格内競争における大量生産開始までのリ
ードタイム短縮や規模の経済性による低コスト化などの要素に焦点が移ると考えられる。したがって、DRAM 業界で見
られるようにイノベーション活動を活発に行いながらも企業が永続せず統廃合が行われている理由の一つには、業界
の技術が成熟化してゆき、不確実性が低下してゆくことで見られる技術環境の変化への適応行動であると考察される
のである。
このような調査を踏まえて、次に注目したことは、業界に属する企業はいくつも存在するが、それらが所有する特
許権の管理についてであった。
近年のグローバル経営環境では、国際的な標準化の達成こそが低コスト化と差別化のために重要となり、企業が国
際的活動において追求する大きな要因であることを見てきた。しかし、近年の特許権を巡る国際環境を見てみると、
第一に、1980 年以降、国際的に積極的に特許権が取られるようになったこと。第二に、1995 年以降では標準技術支持
が国際的に推奨されていること。第三に、無形資産である技術の所有が明確化される要求が高まったこと。第四に、
企業間で特許権を持ち寄って市場の標準を決定しようとする活動は、独占禁止法において競争促進効果として理解さ
れていること。最後に、そうした結果、特許権は業界全体からみると標準化のみならず製品化においても非効率を生
みだす原因となってしまったこと。
実際にデータを確認すると、近年の国際経営における技術管理の環境は、従来の理論の背景となった時代と比較し
て大きく変わっていることがわかった。企業による技術の所有は、特に 1985 年のプロパテント政策以降大きく進み、
各国企業に技術が帰属している状況である。それは、同業界に属する各国の企業がこぞって特定技術に関する特許を
取得していた。グローバル業界では特許を保有する企業の国籍は特別問題にはならないが、活動する企業は各国企業
によって開発される技術に対し常に抵触しないように注意しながら、技術開発と製品化を推し進めなければならない。
このようなことから、ポーターや竹田が指摘するグローバル業界における企業の国際的行動として、標準化による国
際的な合理化と技術管理について再考してみるならば、今日の国際競争環境では、企業は一社で独占的に技術を体系
的に独占し支配することが困難となっているため、1 社が技術戦略的に「意思通りになる部分」が限定され、
「意思通
りにならない部分」が増大し優先されるようになっていると考察される。グローバル業界で活動する企業にとって製
品標準化による圧倒的な規模の経済性と効率性による製品差別化と低コスト化は多くの企業が追求するべき目標であ
る。本来、企業は主体的に製品差別化か低コスト化を各社の戦略的決定に依拠し実行できるはずであるが、技術を迅
速に「事業化」する段階で特許権が大きな障害として自社の意思通りにならず進まないのである。したがって、各社
が開発した技術を事業化し市場で競争にまで持ってゆくために、過剰に取得され各社に分散した技術の所有権を業界
内の競合他社と協調的に歩み寄ることが行われていると考えられる。
(これらの成果は、論文として『多国籍企業研究』第三号、および『アジア経営研究』第 16 号に掲載される。
)
※
この(様式2)に記入の、成果の公表を見合わせる必要がある場合は、その理由及び差し控え期間
等を記入した調書(A4縦型横書き1枚・自由様式)を添付すること。