ウールとポリ乳酸の複合材料の特性 - 京都工芸繊維大学創造連携センター

ウ−ルとポリ乳酸の複合材料の特性
京都工芸繊維大学
西村太良,木村照夫,山田勝俊
㈱トーア紡コーポレーション
田中充成
Characteristics of Composite Material of Wool and Poly(lactic acid)
NISHIMURA Taro*, KIMURA Teruo*, YAMADA Katsutoshi and TANAKA Mitsunari**
*Kyoto Institute of Technology, **TOABO MATERIAL CO., LTD
1.はじめに
現在、国内で発生する繊維廃棄物は 1 年間で約 130 万トンと言われており、繊維廃材には繊維
製造現場、縫製、アパレルから排出される裁断屑などの産業廃棄物、一般家庭から排出される一般
廃棄物、古着、布団などがある。空隙の多い繊維材料は、断熱・吸湿・透湿・吸水などの材料特性
を持つ。このような特徴生かし,さらに熱可塑性プラスチックとの複合材料とすることにより力学
的性能を付与すれば建築材料としての利用が可能であると考えられる.
くず繊維やぼろ繊維のリサイクルを進めるにあたっては,これまで以上に付加価値の高い新製
品の開発や新たな需要の拡大が求められている.1997 年にはスーツからの再生ウールの新用途開
発を目指してウールエコサイクルプロジェクトが展開された.ウールはその構造特性の独自のクリ
ンプを有していることから,含気率が大きく,保温性の良い繊維である.また,限界酸素指数や発
火温度が他繊維に比べて高く,着火しても火源を取り除けば燃焼し続けることがないことなどから,
住宅用断熱材として再生品の用途拡大が期待される.
本研究では,環境への付加を考慮して,生分解であるウ−ルとポリ乳酸(Poly Lactic Acid,以下
PLA と略す)との複合材料を作成してその素材の吸湿特性,透湿特性,及び,熱伝導率特性を測定
し、さらに曲げ試験による力学的な測定も行い,建築材料などの板材への適用性検討の一助とした。
2.
試料および実験方法
試料はポリ乳酸繊維とウ−ルの重量比が 100 対 0,90 対 10,70 対 30,及び,50 対 50 に混繊
したフェルトを 20cm 角に切り出し、温度 175℃で 50 分間加熱圧縮し厚さ 18mm に成形加工し作
成した。
2.1 吸湿測定
加熱圧縮成形加工した試料を 10cm 角に切り出し、温度 40℃,湿度 90%R.H.に調整された恒
温恒湿槽中
(ヤマト科学株式会社製 IG−43M)
に放置し,
1時間毎に電子天秤(A&D 社製 GX-200)
で重量変化の時間経過を測定した.
2.2 透湿測定
測定は JIS 規格に沿って,あらかじめ約 40℃に温めた喪失カップに吸湿剤(塩化カルシウム)を 33g
入れ,カップに振動を与え均一にした後,薬さじで表面を平らにならし,吸湿剤と試験片の下面との距離を
3mmになるように調整した.試料の直径は 8cm の円形で,恒温恒湿槽(40℃,90%R.H.)中に放置
し,1 時間おきに吸湿剤の重量を測定した.
2.3 熱伝導率測定
20cm 角の試料を熱伝導率測定装置 HC-074(英弘精機株式会社)で測定した。熱伝導率には試料
の水分率が影響すると考えられるので,あらかじめ17℃・35%R.H.,と40℃で70%,80%,90%R.H.で
24時間調整した4種類を用いた.
2.4 曲げ試験
ガラス繊維強化プラスチックの曲げ試験方法(JIS K 7055)にしたがって3点曲げ試験法で測定した.
試料長は200mm,幅 30mm とした.それぞれ試験本数は5本とした.
3.実験結果および考察
3.1 吸湿挙動
図1に PLA/ウ−ル複合材料の吸湿率の時間変化を示す.吸水率は時間経過ともに変化は小さ
くなり,ウール含有率の大きい 50/50 で約 200 時間でほぼ平衡に達した.含有率が小さくなるにつ
れて平衡に達する時間は短くなっている.又,ウ−ルの含有率が高い 50%試料で平衡吸水率は約
4%であった.ウール含有率が小さくなるにつれて平衡水分率は小さくなり,ほぼ,ウール含有率
に比例していた.これは 65%R.H.でのウ−ルの水分率が約 16%に対し、ポリ乳酸の水分率が約
0.5%と低いためであると考えられる.
5
吸湿率(%)
4
P/W50/50
P/W70/30
P/W90/10
P/W100/0
3
2
1
0
0
100
200
300
時間(h)
400
500
図1. PLA/ウ−ル複合材料の吸湿率の時間変化
3.2 透湿挙動
図2に透湿量の時間変化を示す.ウォール含有率が高いほど透湿量は大きくなっている.この
透湿量変化の傾きがそれぞれの試料の透湿度となる.
14
12
透湿量(g)
10
8
P/W50/50
P/W70/30
P/W90/10
P/W100/0
6
4
2
0
0
100
200
300
400
時間(h)
図2 PLA/ウール複合材料の透湿測定
図3にウール含有率に対する透湿度の変化を示す.ウール含有率が増すほど透湿度は増す.含
有率がさらに増すと透湿度が平衡に達するような傾向も見られている.これはウールの含有率と空
隙率の増加の割合が影響していると感がえられる.
透湿度の算出には次の式を用いた
PA1 = 10 × (a1 ⋅ a2 ) / S A1
ここに,
PA1 :透湿度 ( g / m 2 ⋅ h)
a1 ⋅ a 2 :試験体の 1 時間当たりの質量変化量 (mg / h)
S A1 :透湿面積 (cm 2 )
透湿度〔g/(m 2・h)〕
0.60
0.50
0.40
0.30
0.20
0.10
0.00
P/W100/0
P/W90/10
P/W70/30
P/W50/50
図3.PLA/ウール複合材料の透湿度
3.3 熱伝導挙動
絶乾状態では、熱伝導率は低い値を示す。しかし湿度を上げていくに従って熱伝導率も上昇して
いく。空気よりも水の熱伝導率が高いため、ウ−ルに水蒸気が入り込み湿度を上げるに従って、高
い値を示したと考えられる。
0.06
熱伝導率(W/mK)
0.05
P/W50/50
P/W70/30
P/W90/10
P/W100/0
0.04
0.03
《試料調整》
A:絶乾状態
B:17℃.湿度35%
C:40℃.湿度50%
D:40℃.湿度70%
E:40℃.湿度80%
F:40℃.湿度90%
0.02
0.01
0
A
B
C
D
E
図4 熱伝導率測定
熱伝導率λは次式より求まる.
λ = (Qh + Qc) / 2 ⋅ L / ∆T
ここで
Qh :高温側熱流量
Qc :低温側熱流量
L :試料厚さ
F
∆T :高温側試料表面温度と低温側試料表面温度の差
曲げ破壊強さ(MPa){kgf/mm 2 }
3.4 力学的性質
図5にウ−ルの含有率が曲げ破壊強力に及ぼす影響を示す.ウール含有率が 0%の場合は PLA 繊
維が溶解した後に固化したということで強度は大きいが,ウールが入るとその強度は極端に小さく
なる.これは,ウールが多くなればなるほど PLA 自身が強度に寄与するのでなく,ウール繊維同
士を接着する役割を果たしているためと考えられる.
14
A:PLA/ウール100/0
B:PLA/ウール90/10
C:PLA/ウール70/30
D:PLA/ウール50/50
12
10
8
6
4
2
0
A
B
図5
5.
C
D
ウール含有率と曲げ強度
おわりに
1973 年と 1979 年の 2 年にわたり石油ショックを経験した我が国では、翌年の 80 年に住宅に
おける「省エネルギ−基準」が策定され、92 年に「新省セネルギ−基準」
、99 年の 3 月には「次世
代エネルギ−基準」が公表、さらに一部改訂された。住宅の断熱化や気密化はますます強化され、
新築だけでなく既設のものにも適用していかねばならない今日、優れた断熱材が量、質ともに求め
られている。
こうしたなかで、今回ウ−ルとポリ乳酸複合材料は熱伝導率がグラスウ−ルや発泡ポリスチレ
ンなどの建築用断熱材と同等の値を示した。吸湿性や透湿性も優れており、湿気の多い夏は水蒸気
を吸収し、乾燥した冬には水分を放出してくれると考えられる。力学的試験により曲げ強度はウ−
ルが多くなるにつれ低い値を示すが、断熱材として使用することを考えれば許容範囲であると考え
られる。
現在一般外装の断熱材として発泡ウレタンは優れた性能をもっている。そのため材は薄く、デ
ッドスペ−スは小さくて済むが、一方でフロンガスや火災のシアンガス発生などが問題とされてい
る。グラスウ−ルやロックウ−ルは不燃材であるが、長期間には材が縮小して空隙ができ、吸湿す
れば性能も落ちるので注意が必要といわれている。このような懸念が指摘される中で、繊維を利用
した断熱材そその特徴を生かして建築資材として推進していくためには、防露性、施工性、耐久性、
防火性、経済性などの点においても強化されなければならない。